JP3615315B2 - 香油含有食品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、香油を含有する食品およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、100℃以上の高温に加熱した後に食品中に添加した香油の香りが失われておらず、香油に由来する良好な風味と良好な食感を有する食品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、食生活の即席化、洋風化などにより、常温で長期間保存が可能であって、しかも食したいときに調理を行わずにそのまま喫食したりまたは単に温めるだけで喫食できる、レトルトパックなどの容器に入った食品が色々開発、販売されている。そしてそのような容器入り食品が普及するにつれて、風味、食感などに一層優れる高級感のある製品や、従来にないような新らしい風味や食感を有する製品が消費者に強く求められるようになっている。また、レトルト食品以外の食品においても、風味、香り、食感などに優れる食品が求められている。
特に、スパゲッティなどのパスタ類は若者世代を中心に人気のある食品の一つであり、それに伴ってパスタソースの需要が近年大幅に伸びていて、風味や食感などに一層優れる製品が強く求められている。
【0003】
【発明の内容】
上記のような状況下に、本発明者らは、風味や食感に優れ、しかも従来にないような風味などを有するパスタソースの開発を目的として研究を行ってきた。そして、バージンオリーブ油がイタリア料理にマッチする特有の良好な香りを有しているところから、バージンオリーブ油の香りのするパスタソースを製造することに想到して実験を行った。ところが、通常のパスタソースの製法に準じてバージンオリーブ油を添加してパスタソースをつくったところ、それにより得られるパスタソースではバージンオリーブ油の香りが殆ど失われており、バージンオリーブ油の香りを有するパスタソースを得ることができなかった。また、バージンオリーブ油の香りの失われたそのようなパスタソースを容器に充填して加熱殺菌処理して得られた容器入りパスタソースにおいてもバージンオリーブ油の香りが殆ど失われていた。
【0004】
そこで、バージンオリーブ油の香りが失われずにそのまま良好に保たれていて風味に優れるパスタソースを得ることを目的として、種々の観点から色々検討を重ねた。その結果、パスタソースにバージンオリーブ油を添加してパスタソースを製造するに当たって、特定の澱粉、すなわち親油性澱粉、および糊化後に高温で加熱処理するとその粘性を大幅に低減する特定の澱粉の少なくとも1種を用いて、該澱粉の糊化前または糊化後にバージンオリーブ油を添加して100℃以上の温度に加熱してパスタソースを製造すると、100℃以上の温度に加熱する直前の加熱調理済みのパスタソースではバージンオリーブ油の香りが殆ど失われているにも拘わらず、それを100℃以上の温度で加熱したものでは、予想外にもバージンオリーブ油の香りが再度良好に発現して、バージンオリーブ油に由来する芳香を有する風味に優れるパスタソースが得られることを見出した。
そして、本発明者らは、バージンオリーブ油以外のゴマ油や落花生油などの香油を添加した食品についても同様の試験を行ったところ、それらの香油を用いる食品の場合にも、上記した特定の澱粉を用いることによって、100℃以上の温度で加熱した後の食品に香油の良好な香りがし、風味に優れる食品が得られることが判明し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、香油を含有する容器入り食品の製造方法であって、親油性澱粉(A)および下記の澱粉(B)から選ばれる少なくとも1種の澱粉を食品の全重量に基づいて0.6〜6.0重量%の割合で食品中に含有させ、次いで澱粉の糊化前または糊化後に食品中に香油を食品の全重量に基づいて0.1〜10.0重量%の割合で添加した後、100℃以上の温度で加熱することを特徴とする香油の香気が保持された容器入り香油含有食品の製造方法である。
・澱粉(B):
下記の特性(i)および特性( ii );すなわち、
(i) 濃度が5〜15重量%の澱粉水溶液または澱粉水分散液の状態にして70〜90℃の温度で糊化したときの70℃における粘度が1500〜40000cpであるという特性;および
( ii ) 上記(i)で糊化した液を121℃の温度で30分間加熱処理を行い70℃に冷却したときの粘度が200cp以下であるという特性;
を有する澱粉。
但し、上記本発明において、澱粉および香油の添加量(含有量)のベースとなる「食品の全重量」とは、100℃以上の温度で加熱する直前の食品の全重量を意味する。
【0006】
そして、本発明は、上記の方法により製造される香油を含有する食品を包含する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では、香油の種類は特に制限されず、香ばしい香りを有していて食品に良好な風味を付与し得る油脂類であればいずれでもよい。本発明で用い得る香油としては、バージンオリーブ油、ゴマ油、落花生油などを挙げることができ、そのうちでもバージンオリーブ油、ゴマ油が好ましく用いられ、バージンオリーブ油がより好ましく用いられる。
【0008】
また、本発明の食品では、食品の種類は特に制限されず、上記したような香油の使用によって風味が一層向上し、食感的にも一層引き立ったものとなる食品であればいずれでもよい。例えば、バージンオリーブ油を含有させる食品としては、洋風食品、エスニック風食品;ゴマ油を用いる食品としては中華風食品、和風食品;落花生油を用いる食品としては和風食品、中華風食品などを挙げることができる。
そのうちでも、本発明はパスタソース類、シチュー類、スープ類、汁物などのような液状、ペースト状などの食品の製造に適しており、特にパスタソース類の製造に適している。
そして、本発明では、上記で挙げたような食品を容器に充填し加熱殺菌処理して容器入り食品の形態にしておくと、その良好な風味、香気、食感を充分に保ちつつ長期保存が可能な食品にすることができるので好ましい。
【0009】
オリーブ油は、一般に、粗砕したオリーブ果実を、例えば簡単な回転ふるいやスーパーデカンターなどを用いて、果肉ペースト、果汁、油層に分離した時に得られる高品質のバージン油(油層)(エキストラバージンオリーブ油);果肉ペーストを圧搾して得られる初期の段階での圧搾油(バージンオリーブ油);圧搾の後段での油や圧搾後の果肉をヘキサンなどで溶剤抽出して得た油をアルカリ脱酸、活性白土などで脱色、脱臭などの精製処理を施して得られる精製オリーブ油に分類される。そして前記したオリーブ油のうちで、エキストラバージンオリーブ油およびバージンオリーブ油はいずれも芳香を有し、本発明における香油として有効に使用できる。本発明では、エキストラバージンオリーブ油およびバージンオリーブ油をそれぞれ単独で使用しても、または両者を併用してもよい。
【0010】
食品への香油の添加量(含有量)は、食品の全重量(100℃以上の温度で加熱する直前の食品の全重量)に基づいて0.1〜10.0重量%である。前記量にすると、香油の香りが適度にして風味に優れる食品が円滑に得られる。香油の添加量(含有量)は0.2〜8.0重量%であるのが好ましい。特に、バージンオリーブ油を含有するパスタソース類を製造する場合は、パスタソースの全重量に基づいて、バージンオリーブ油の含有量を0.4〜6.0重量%にすると、バージンオリーブ油の香りが充分に活かされ、しかも食感の点でも良好なパスタソースを得ることができる。
【0011】
また、食品への香油の添加は、調理時の最終段階で添加するのが香油の香りを活かした容器入り食品を円滑に得ることができる点から好ましく、特に食品に親油性澱粉(A)および/または澱粉(B)を添加した後、該澱粉を加熱α化して食品の粘度を高めた状態で香油を添加し、それを100℃以上の温度に加熱すると、香油の香りの一層高い容器入り食品を得ることができるので望ましい。また、例えば香油の一部を用いて原材料を炒め、残りの香油を上記したような調理の後段で添加するようにしてもよい。
【0012】
そして本発明では、上記した香油の香りのする風味に優れる食品を得るために、親油性澱粉(A)および澱粉(B)の少なくとも1種を用いることが必要である。
親油性澱粉(A)としては、親油性の基(疎水性の基)を有するように変性されている澱粉であって、食品中に添加した香油を100℃以上の温度で加熱処理する前までの段階において食品中に均一に分散させ得る澱粉であればいずれも使用可能であるが、特に下記の一般式(I)および/または一般式(II);
【0013】
【化2】
(式中、R1およびR2は炭素数5以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアラルケニル、Xは水素原子またはカルボキシル基と塩を形成する陽イオンを示す)で表される基で変性されている親油性澱粉が好ましく用いられる。
【0014】
そのうちでも、親油性澱粉(A)としては、R1がアルケニル基である上記の一般式(I)で示される基で変性された親油性澱粉、すなわちアルケニルコハク酸またはその無水物で半エステル状に変性されている、下記の式(III);
【0015】
【化 3】
で表される澱粉(すなわちアルケニルコハク酸半エステル澱粉)が特に好ましく用いられる。
【0016】
また、上記の一般式(I)、一般式(II)および式(III)において、そのカルボキシル基におけるXとしては、水素原子;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムなどの陽イオンを挙げることができ、そのうちでも、Xがナトリウムイオンであるものが好ましく用いられる。
【0017】
上記の一般式(I)および/または一般式(II)で表される基で変性された澱粉では、それらの基による変性割合によってその親油性の程度が種々異なり得るが、一般的には、変性する前の澱粉の重量に基づいて、上記の一般式(I)および/または一般式(II)で表される変性基の含有量[一般式(I)および一般式(II)の両方を含有する場合はその合計含有量)が4重量%以下(絶乾重量に基づく)であるものが好ましく用いられ、2〜4重量%のものがより好ましく用いられる。
そのような親油性澱粉、特にアルケニルコハク酸半エステル澱粉は既に市販されており、本発明では親油性澱粉(A)として市販のものを購入して用いることができる。
【0018】
また、本発明で使用する澱粉(B)は、上記したように、
(i) 濃度が5〜15重量%の澱粉水溶液または澱粉水分散液の状態にして70〜90℃の温度で糊化したときの70℃における粘度が1500〜40000cpであるという特性;および
( ii ) 上記(i)で糊化した液を121℃の温度で30分間加熱処理を行い70℃に冷却したときの粘度が200cp以下であるという特性;
を有する澱粉である。
【0019】
ここで、澱粉(B)における上記の特性(i)は、澱粉を内割で(すなわち水と澱粉の合計重量に基づいて)5〜15重量%の割合で含む澱粉水溶液または澱粉水分散液を調製し、それを70〜90℃の範囲の温度に加熱して澱粉を糊化したときの澱粉糊化液の粘度が1500〜40000cp(測定時温度70℃)になることをいう。そして、この特性(i)としては、前記の粘度が3000〜20000cp(測定時温度70℃)であるのがより好ましい。
また、澱粉(B)における上記の特性( ii )は、上記(i)の澱粉糊化液を121℃の温度にまで加熱し、該温度に30分間保った後に70℃まで冷却し該70℃の温度で測定したときの粘度が200cp以下であることを意味する。そしてこの特性( ii )としては、粘度が100cp以下(測定温度70℃)であるのがより好ましい。
なお、本発明における澱粉(B)の特性(i)および特性( ii )における粘度の値(cp)は、いずれもB型粘度計を用いて上記した所定の温度で測定したときの値をいう。
【0020】
上記の特性(i)および特性( ii )を有する澱粉(B)は、澱粉(B)の水溶液または水分散液をその糊化温度またはそれよりやや高めの温度(通常約70〜90℃の範囲の温度)に加熱したときには高い粘度を有し、一方前記温度で糊化した澱粉溶液を加熱殺菌処理が行われるような90℃を超える温度、特に100℃以上の温度に加熱したときには粘度が急激に低下するという特徴を有している。
【0021】
本発明では、澱粉(B)として、上記の特性(i)および特性( ii )を有する澱粉のいずれもが使用できるが、架橋処理、エーテル化処理および酸化処理のうちの少なくとも一つの処理が施されている澱粉であって且つ上記した特性(i)および特性( ii )を有する澱粉が好ましく用いられ、特に架橋処理、エーテル化処理および酸化処理のうちの少なくとも一つの処理が施されていて且つ上記した特性(i)および特性( ii )を有するワキシーコーンスターチがより好ましく用いられる。
【0022】
親油性澱粉(A)および/または澱粉(B)の使用量(含有量)は、食品の全重量に基づいて0.6〜6.0重量%である。前記の割合で用いると、容器に充填する際の食品の粘度を充填に適する粘度にすることができて良好な作業性で均一充填が可能であり、しかも食品に添加した香油の香りを充分に出現させることができ、且つ食品の食感を良好なものにすることができるので好ましく、食品の全重量に基づいて約1.0〜5.0重量%の割合で用いるのがより好ましい。
【0023】
食品への親油性澱粉(A)および/または澱粉(B)の添加時期は、食品の調製(調理)を円滑に行うようにするために、調理の後段であるのが好ましい。特に容器入りの食品の場合は、上記したように、食品の調製の後段で食品中に親油性澱粉(A)および/または澱粉(B)を添加し、加熱した澱粉をα化して食品の粘度を高めた後に、香油を添加し、必要に応じて更に加熱してから、それを容器に充填するようにすると、容器への充填が円滑に行われる。
【0024】
本発明では、食品の種類、それに用いる原材料、食品の調理方法などは特に制限されず、食品の種類などに応じて適宜選択すればよい。本発明で製造される食品としては、例えば、各種のパスタソース類、シチュー類、スープ類、カレー類、野菜のうま煮、タレ類などを挙げることができる。
また、本発明で用い得る食品用原材料としては、食品の種類に応じて、例えば、各種の野菜類、穀類、肉をはじめとする畜産物、水産物、それらの加工品、食塩、砂糖、調味料、香辛料、水、スープ、アルコール類などのうちから適当なものを使用すればよい。
そして、調理法もそれぞれの食品に適した方法を採用すれば、例えば炒めたり、煮たり、炒めてから煮たりしてもよく、また容器に充填する前には煮ず、100℃以上の温度に加熱処理する際に同時にその高温で煮るようにしてもよい。
【0025】
また、食品の粘度も食品の種類などに応じて調節できる。
特に容器入り食品の場合は、一般的には、1,000〜20,000cp程度にしておくのが、容器への均一充填性に優れ、しかも充填時の作業性が良好になるなどの点から好ましい。容器入り食品では、容器への充填方法は特に制限されず、食品の種類や粘度などに応じて選択することができ、例えば公知のロータリー式自動充填包装機、ピストン式定量自動充填包装機などを使用して行うことができる。その際に充填する容器の種類は特に限定されず、安全性、衛生性、密封性などに優れていて加熱殺菌に耐えることのできる食品用容器であればいずれも使用でき、例えばプラスチックフイルムやシート、プラスチックと金属箔や紙などとの複合材料からなるレトルトパウチ、ガラスやプラスチック製のビン、金属缶などを挙げることができる。
【0026】
そして、上記のようにして調製した香油含有食品を100℃以上の温度に加熱することによって、食品中に添加した香油の香気を再度良好に発現させることができる。その際の加熱処理温度は100℃以上の温度で且つ食品の風味や食感などが損なわれないような温度であればいずれでもよい。
特に、香油含有食品が容器入り食品の場合は、食品を容器に充填した後、容器を密封する前または密封した後に100℃以上、好ましくは102〜140℃、より好ましくは110〜130℃の温度に加熱して殺菌処理を行うと、加熱殺菌処理および香油の香気の出現の両方を同時に達成することができる。
100℃以上の温度での加熱処理時間としては、一般に5〜120分間、好ましくは10〜60分間が採用される。また、前記の加熱処理はレトルト釜などを利用して行うのが便利である。そしてそのような加熱処理によって、特に容器入り食品では、常温でも長期保存が可能で、しかも食品中に添加した香油の香りが失われずに良好に発現されている容器入り食品を得ることができる。
【0027】
本発明により得られる食品において、親油性澱粉(A)および/または澱粉(B)を用いることによって、バージンオリーブ油などの香油の香りが加熱殺菌処理後の食品に良好に発現している理由は明確ではないが、次のように推定される。すなわち、親油性澱粉(A)を用いた食品では、100℃以上の温度に加熱する前および加熱した後(容器入り食品では容器に充填する前また充填した後で加熱殺菌処理する前)のいずれの段階においても香油が食品中に均一に分散された状態になっている。そして、親油性澱粉(A)を添加しそれを加熱糊化して得られる食品中に香油を添加して更に加熱調理したものでは添加した香油の香りが大幅に低減しているが、それを100℃以上の温度に加熱したもの(容器入り食品では加熱殺菌処理したもの)では、食品中に添加した香油の香りが再度強く現れていて、食品に添加する前の香油とほぼ同じような芳香を有している。したがって、それらの点から親油性澱粉(A)を用いた場合には、食品中に添加した香油中に含まれる香りの成分が100℃以上の温度に加熱する前の調理時の加熱処理によっては親油性澱粉(A)によって覆われてその芳香の発散が一時的に遮られているが、100℃以上の高温に加熱することによって、親油性澱粉(A)による香り成分の被覆が何らかの形態になって外れて、香りを再度発散するようになるものと推定される。
【0028】
また、澱粉(B)を用いた食品では、100℃以上の温度に加熱する前(容器入り食品では容器に充填する前)は香油が食品中に均一に分散した状態になっておりそこでは香油の香りが大幅に低減したものとなっているが、それを100℃以上の温度に加熱した食品(容器入り食品では加熱殺菌処理したもの)では、澱粉(B)の粘度が大幅に低減することによって香油が食品から分離して油滴や油膜を形成しており、それと併せて香油の香りが再度強く現れている。したがってこのことから、澱粉(B)を用いた場合には、食品中に添加した香油が、100℃以上の温度に加熱する前には澱粉(B)の作用などによって食品中に取り込まれていてその芳香を発散し得ない状態になっているのが、100℃以上の高温での加熱処理によって香油が油滴や油膜の状態で分離・露出してくることによって、香油の芳香が再度発現するものと推定される。
【0029】
【実施例】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが本発明はそれにより何ら限定されない。以下の例において、特に断らない限りは、%は重量%を示す。
【0030】
《試験例1》
(1) 澱粉として、下記の;
(a)架橋・エーテル化・酸化処理を施されているワキシーコーンスターチ(松谷化学工業株式会社製「グルメスター」);
(b)オクテニルコハク酸無水物で変性されたワキシーコーンスターチ(松谷化学工業株式会社製「エマルスター#1」);
(c)オクテニルコハク酸無水物で変性した後に酸により低粘度化したワキシーコーンスターチ(松谷化学工業株式会社製「エマルスター#30A」);および、
(d)無処理ワキシーコーンスターチ(日本食品化工株式会社製「ワキシーコーンスターチY」);
の1種または2種を用いて、澱粉水溶液(澱粉水分散液)をそれぞれ調製した。
(2) 次いで85℃の温度に1分間加熱して澱粉糊化液を調製し、該澱粉糊化液の温度を70℃にして、そのときの粘度をB型粘度計(東京計器株式会社製「BL」)を用いて測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0031】
(3) 上記(2)で調製した澱粉糊化液に、70℃の温度でバージンオリーブ油(カルボネール社製「エクストラバージンオリーブ油」)を添加して、下記の表2に示すバージンオリーブ油濃度および澱粉濃度を有する、バージンオリーブ油を含有する澱粉糊化液を調製した後(なお表2におけるバージンオリーブ油濃度および澱粉濃度はバージンオリーブ油、澱粉および水の合計重量に基づく)、85℃の温度に5分間加熱した。このときのバージンオリーブ油を含有する澱粉糊化液の香りを下記の表1に示す評価基準にしたがって5名のパネラーに評価してもらいその平均値を採ったところ、下記の表2に示すとおりであった。
(4) 次に、上記(3)で調製したバージンオリーブ油を含有する澱粉糊化液のそれぞれを容器(東洋製缶株式会社製レトルトパック)に100g/袋の割合で充填した後密封して、加熱殺菌処理(121℃で30分間)を行い、ついで温度を70℃まで低下させ、そのときのバージンオリーブ油を含有する澱粉糊化液の粘度を上記(1)におけるのと同じ粘度計を用いて測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(5) そして、上記(4)で得られたバージンオリーブ油を含有する澱粉糊化液(温度85℃)の香りを下記の表1に示す評価基準にしたがって5名のパネラーに評価してもらい、その平均値を採ったところ、表2に示すとおりであった。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
上記の表2の結果から、上記の特性(i)および特性( ii )を有する澱粉(B)(「グルメスター」)の澱粉糊化液中にバージンオリーブ油を添加した実験番号1、並びに親油性澱粉(A)(「エマルスター#1」および「エマルスター#30A」)の澱粉糊化液中にバージンオリーブ油を添加した実験番号3の場合には、レトルトパックに充填する前の加熱した澱粉糊化液ではバージンオリーブ油の香りが大幅に低減されているが、加熱殺菌処理後にはバージンオリーブ油の香りが再度現れていて、良好な香りを有すること、そのため親油性澱粉(A)および澱粉(B)は香油用香気保持のために有効に用い得ることがわかる。
それに対して、親油性澱粉(A)および澱粉(B)以外の澱粉(「ワキシーコーンスターチY])を用いている実験番号2および実験番号4の澱粉糊化液の場合には、レトルトパックに充填する前の加熱した澱粉糊化液においてバージンオリーブ油の香りが大幅に低減されており、しかも加熱殺菌処理後もバージンオリーブ油の香りが弱いままであり、良好な香りを有していないことがわかる。
【0035】
《実施例1》
(1) 試験例1で用いたのと同じバージンオリーブ油89gを熱して、ニンニクみじん切り30gをよく炒めた後、セロリみじん切り5g、椎茸みじん切り100g、ニンジン細片20g、および牛肉100gを入れてよく炒めた。
(2) 次に、トマトペースト250g、食塩20g、上白糖10g、香辛料3gおよび水150gを加えて85℃で5分間煮込んだ後、試験例で用いたのと同じオクテニルコハク酸無水物で変性されたワキシーコーンスターチ(「エマルスター#1」)を27gおよびオクテニルコハク酸無水物で変性されたワキシーコーンスターチ(「エマルスター#30A」)38gを水150gに分散させて添加して、85℃まで加熱した。
(3) 次いで、赤ワイン10g、試験例1で用いたのと同じバージンオリーブ油100gを添加して、70℃で1分間加熱してパスタソースを製造した。この段階で得られたパスタソース(温度85℃)について、5名のパネラーによりその風味を下記の表3に示す評価基準によって点数評価してもらってその平均値を採ったところ下記の表4に示すとおりであった。また、同じパネラー5名にその食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって点数評価してもらい平均値を採ったところ下記の4に示すとおりであった。
(4) さらに、上記(3)で得られたパスタソースを、温度70℃(パスタソースの粘度9,000cp)で容器(東洋製缶株式会社製レトルトパック)に105g/袋の割合で充填して、温度125℃、圧力2.3kg/cm2の条件下に30分間加熱殺菌処理して、レトルトパック入りのパスタソースを製造した。
(5) 上記(4)で得られたレトルトパック入りのパスタソースを室温下に1カ月保存した後、電子レンジ(出力200W)で1.5分間加熱して、その内容物の風味および食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーにより点数評価してもらいその平均値を採ったところ下記の表4に示すとおりであった。
【0036】
《比較例1》
(1) 澱粉として、オクテニルコハク酸無水物で変性されたワキシーコーンスターチ(「エマルスター#1」27gおよび「エマルスター#30A」38g)を用いる代わりに、試験例1で用いたのと同じ無処理ワキシーコーンスターチ(「ワキシーコーンスターチY」)65gを用いた以外は、実施例1と全く同様にしてパスタソースを製造した。この段階で得られたレトルトパックに充填する前のパスタソースについて、5名のパネラーによりその風味および食感を表3に示す評価基準にしたがった点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたパスタソースを、実施例1の(4)と同様にしてレトルトパックに充填し加熱殺菌処理してレトルトパック入りのパスタソースを製造し、室温で1カ月保存後に内容物の風味および食感を表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーにより点数評価してもらってその平均値を採ったところ下記の表4に示すとおりであった。
【0037】
《実施例2》
(1) しめじ100g、赤ピーマン10g、脱脂粉乳150g、フィチン酸0.4g、食塩20g、上白糖5g、香辛料2g、ガーリック30gおよび水500gを加えて80℃で2分間煮込んだ。
(2) 次いで、温度を75℃まで下げ後、試験例1で用いたのと同じ架橋・エーテル化・酸化処理したワキシーコーンスターチ(「グルメスター」)53gを水100gで溶いたものを添加した。
(3) 次に、75℃の加熱下に試験例で使用したのと同じバージンオリーブ油30gを添加した後、温度を65℃まで下げて、この段階で得られたパスタソースについて、5名のパネラーによりその風味および食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーに点数評価してもらいその平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0038】
(4) 上記(3)で得られたパスタソースを容器(東洋製缶株式会社製レトルトパック)に83g/袋の割合で充填して、温度130℃、圧力2.3kg/cm2の条件下に30分間加熱殺菌処理して、レトルトパック入りのパスタソースを製造した。
(5) 上記(4)で得られたレトルトパスタソース入りのパスタソースを室温下に1カ月保存した後、電子レンジ(出力200W)で1.5分間加熱して、その内容物の風味および食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0039】
《比較例2》
(1) 澱粉として、架橋・エーテル化・酸化処理したワキシーコーンスターチ(「グルメスター」)53gを用いる代わりに、試験例1で用いたのと同じ無処理ワキシーコーンスターチ(「ワキシーコーンスターチY」)53gを用いた以外は実施例2と全く同様にしてパスタソースを製造した。この段階で得られたレトルトパックに充填する前のパスタソースについて、その風味および食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたパスタソースを、実施例2の(4)と同様にしてレトルトパックに充填し加熱殺菌処理してレトルトパック入りのパスタソースを製造し、室温で1カ月保存後に内容物の風味および食感を下記の表3に示す評価基準にしたがって5名のパネラーにより点数評価してもらいその平均値を採ったところ下記の表4に示すとおりであった。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
上記の表4の結果から、澱粉として親油性澱粉(A)(「エマルスター#1」および「エマルスター#30A」)、または上記の特性(i)および特性( ii )を有する澱粉(B)(「グルメスター」」)を用いて、バージンオリーブ油を含有するパスタソースを製造している実施例2および実施例3による場合は、レトルトパックに充填する前のパスタソースではバージンオリーブ油の香りが大幅に弱くなっているにも拘わらず、加熱殺菌処理後にはバージンオリーブ油の香りが再度強く現れていて他の成分の香りと相俟って良好な風味を有し、しかも食感にも優れるパスタソースが得られることがわかる。
それに対して、親油性澱粉(A)および澱粉(B)以外の澱粉(無処理ワキシーコーンスターチ)を用いている比較例1および比較例2の場合には、レトルトパックに充填する前のパスタソースにおいてバージンオリーブ油の香りが大幅に弱まっており、そして加熱殺菌処理後もバージンオリーブ油の香りが弱く、風味の点で劣っていることがわかる。
【0043】
【発明の効果】
本発明による場合は、香油に由来する良好な風味と良好な食感を有する食品、そのうちでも常温で長期保存が可能な容器入り食品を円滑に製造することができる。
本発明において、特に香油としたバージンオリーブ油を用いてパスタソースを製造した場合には、バージンオリーブ油の香りがパスタソースで充分に活かされていて、従来にないような、新鮮で良好な風味および食感を有するパスタソースを得ることができる。
Claims (10)
- 香油を含有する容器入り食品の製造方法であって、親油性澱粉(A)および下記の澱粉(B)から選ばれる少なくとも1種の澱粉を食品の全重量に基づいて0.6〜6.0重量%の割合で食品中に含有させ、次いで澱粉の糊化前または糊化後に食品中に香油を食品の全重量に基づいて0.1〜10.0重量%の割合で添加した後、100℃以上の温度で加熱することを特徴とする香油の香気が保持された容器入り香油含有食品の製造方法。
・澱粉(B):
下記の特性(i)および特性( ii );すなわち、
(i) 濃度が5〜15重量%の澱粉水溶液または澱粉水分散液の状態にして70〜90℃の温度で糊化したときの70℃における粘度が1500〜40000cpであるという特性;および
( ii ) 上記(i)で糊化した液を121℃の温度で30分間加熱処理を行い70℃に冷却したときの粘度が200cp以下であるという特性;
を有する澱粉。 - 食品中に香油を添加した後に容器に充填して、100℃以上の温度で加熱して殺菌処理することからなる請求項1の製造方法。
- 親油性澱粉(A)が、アルケニルコハク酸またはその無水物で半エステル状に変性された、アルケニルコハク酸半エステル澱粉である請求項3の製造方法。
- 親油性澱粉(A)が、オクテニルコハク酸またはその無水物で変性された、オクテニルコハク酸半エステル澱粉である請求項4の製造方法。
- 澱粉(B)が架橋処理、エーテル化処理および酸化処理のうちの少なくとも一つの処理が施されている澱粉である請求項1または2の製造方法。
- 澱粉(B)がワキシーコーンスターチである請求項6の製造方法。
- 香油が、バージンオリーブ油、ゴマ油または落花生油である請求項1〜7のいずれか1項の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項の方法により製造される香油を含有する食品。
- パスタソースである請求項9の食品。
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