JP3610990B2 - 接着性に優れたポリアリーレンスルフィド - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は接着性に優れたポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)及びそれを含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
PASは耐熱性、成形加工性に優れ、更には良好な耐薬品性、難燃性、寸法安定性等を有するため、電気・電子部品あるいは機械部品等に広く使用されている。しかし、PASは他の樹脂との接着性、特にエポキシ樹脂との接着性が比較的悪い。そのため、例えばエポキシ系接着剤によるPAS同士の接合、PASと他の材料との接合、あるいはエポキシ樹脂による電気・電子部品の封止等の際に、PASとエポキシ樹脂との接着性の悪さが問題となっていた。
【0003】
かかる問題に鑑みて、PASとエポキシ樹脂との接着性を改良する種々の試みがなされている。例えば、特開平2‐272063号公報にはカルナバワックスを含むポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂組成物、特開平4‐275368号公報には繊維状及び/又は非繊維状充填剤とポリアルキレンエーテル化合物を配合してなるPPS樹脂組成物、特開平5‐171041号公報には橋かけポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂を含むPPS樹脂組成物、特開平6‐57136号公報には芳香族スルホン化合物、及び繊維状及び/又は非繊維状充填剤を配合してなるPPS樹脂組成物、特開平6‐107946号公報には脂肪族ポリエステル、及び繊維状及び/又は非繊維状充填剤を配合してなるPPS樹脂組成物、また、特開平6‐166816号公報にはポリ(エチレンシクロヘキサンジメチレンテレフタレート)共重合体を配合してなるPPS樹脂組成物が夫々開示されている。しかし、上記のいずれにおいても、PPSより耐熱性の低い物質を添加するため、樹脂組成物の耐熱性が低下し、更には機械的強度が著しく低下する樹脂組成物もあった。
【0004】
また、特開平4‐198267号公報には、カルボキシル基含有PASを含むPAS樹脂組成物、また特開平5‐25388号公報には、アミノ基含有PASを含むPAS樹脂組成物が開示されている。しかし、これらは例えばカルボキシル基又はアミノ基を有するジクロルベンゼンを共重合させて製造するが、反応系にこれらのジクロルベンゼンが残存するという製造上の問題があると共に、得られたPASの接着強度も十分なものではなかった。
【0005】
特開平1‐126334号公報には、パラフェニレンスルフィド単位とメタフェニレンスルフィド単位から成る共重合体の製造方法が開示されている。しかし、該方法は、上記各単位から成るブロック共重合体を製造するものであり、接着強度の改善に向けられたものでもない。また、特開昭50‐83500号公報には、m‐ジハロベンゼン、p‐ジハロベンゼン及びアルカリ金属スルフィドの反応において、該m‐ジハロベンゼンをジハロベンゼンの全モル数の35〜90モル%の量で使用してPPSを製造する方法が開示されている。しかし、製造されたPPSは、高分子量でなく、融点が低く、非結晶性であり、かつ耐熱性も低く実用性に問題があった。該方法は、可溶性のPPSを作ることを目的としており、接着強度の改善に向けられていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のPASの持つ高い耐熱性と機械的強度に加えて、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等との接着性に優れたPASを提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位を含むポリアリーレンスルフィドであって、メタアリーレンスルフィド単位をパラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位の全量に対して0.5〜10モル%含み、かつ溶融粘度Vが50〜3000ポイズであり、更にエポキシ樹脂との接着強度が60kgf/cm以上である実質的に線状のポリアリーレンスルフィドである。
【0008】
本発明のPASは、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位を含み、好ましくはランダム共重合体である。これにより、PASの接着強度を高めることができる。該PASにおいて、メタアリーレンスルフィド単位の含有量は、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位の全量に対して、下限が0.5モル%、好ましくは1.0モル%であり、上限が10モル%、好ましくは5.0モル%である。該含有量が、上記下限未満ではPASの接着性が劣り、上記上限を超えてはPASの融点が著しく低下して、PAS本来の性質である耐熱性が損なわれ、実用性に問題が生じ好ましくない。更に、該PAS中には、下記に示すPAS製造の際に添加される、例えば1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,2,4‐トリクロロベンゼン等のポリハロ化合物に起因する単位を含むこともできる。該単位は、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位の全量に対して、好ましくは5.0モル%以下である。
【0009】
本発明のPASの溶融粘度Vは、上限が3000ポイズ、好ましくは1500ポイズ、特に好ましくは1000ポイズであり、下限が50ポイズ、好ましくは100ポイズ、特に好ましくは150ポイズである。上記上限を超えては、成形性が悪くなり、上記下限未満では、接着強度が低下すると共に、耐熱性や機械的強度も低下して好ましくない。溶融粘度Vは、フローテスターを用い、300℃、荷重20kgf/cm、L/D=10で6分間保持した後に測定した粘度(ポイズ)である。
【0010】
本発明のPASのエポキシ樹脂との接着強度は、60kgf/cm以上、好ましくは65kgf/cm以上である。上記下限未満では、エポキシ樹脂との良好な接着性が得られないため好ましくない。エポキシ樹脂との接着強度は、下記のようにして測定した値である。PAS40重量部にガラスファイバー(チョップドストランド、繊維径10μm、繊維長3mm、集束剤としてウレタン系樹脂を用い、アミノシラン系表面処理剤で表面処理したもの)30重量部及び炭酸カルシウム(平均粒子径3.0μm、比表面積13000cm/g)30重量部を混合した後、二軸異方向回転押出機を用い320℃で混練して、ペレットを作成する。得られたペレットから、シリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定した射出成形機により、JIS K6850に従う試験片を作成する。次いで、JIS K6850に準拠し、得られた試験片をエポキシ樹脂系接着剤 [主剤(ノボラック型エポキシ樹脂)/硬化剤(アミノ系硬化剤)=100重量部/33.3重量部]を用いて90℃、30分の硬化条件で接着した後、引張速度5mm/分、チャック間距離130mmで引張試験を行い、接着強度を測定する。
【0011】
また、本発明のPASは、実質的に線状である。架橋構造を持つPASでは、接着強度が低く、かつ耐衝撃性等の機械的強度も不十分である。
【0012】
上記本発明のPASは、好ましくは下記の方法で製造することができる。
【0013】
即ち、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物、及び反応系内のパラジハロ芳香族化合物の反応率が0乃至80%未満の時点で仕込ジハロ芳香族化合物の全量に対して0.5〜10モル%のメタジハロ芳香族化合物を反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることにより得たポリアリーレンスルフィド(イ)のスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄する方法である。
【0014】
上記のポリアリーレンスルフィド(イ)の製造に際して、添加するメタジハロ芳香族化合物の量の下限は仕込ジハロ芳香族化合物の全量に対して0.5モル%、好ましくは1モル%であり、上限は10モル%、好ましくは5.0モル%である。上記範囲未満では、PAS中のメタアリーレンスルフィド単位が上記本発明の下限未満となり、上記範囲を超えては、メタアリーレンスルフィド単位が上記本発明の上限を越えるため好ましくない。
【0015】
メタジハロ芳香族化合物は、反応系内のパラジハロ芳香族化合物の反応率が0乃至80%未満の時点で添加される。パラジハロ芳香族化合物の反応率が80%以上では、製造されたPASの接着性が劣り、また粘度低下を引起こし、かつメタジハロ芳香族化合物が反応系に未反応のまま残存するため好ましくない。好ましくはパラ及びメタジハロ芳香族化合物は、反応系に同時的に添加される。このように両者を同時的に添加することにより、PASの接着性を更に良好にすることができる。重合反応系に添加するパラ及びメタジハロ芳香族化合物の合計量は、アルカリ金属硫化物1モルに対して、好ましくは0.9〜1.1モル、特に好ましくは0.96〜1.05モルである。該範囲内で使用することにより、高分子量のPASを得ることができる。該添加量が上記範囲未満では、著しく低分子量のPASしか得られず、またパラ及びメタジハロ芳香族化合物の反応率が低下し、経済的にも不利である。上記範囲を超えては、解重合を起こすので好ましくない。メタジハロ芳香族化合物を反応途中に装入する場合には、例えばメタジハロ芳香族化合物をそのまま、あるいは有機アミド系溶媒として使用するN‐メチルピロリドン等に溶解して、加圧注入ポンプを用いて反応缶内に圧入することにより行うことができる。
【0016】
上記ポリアリーレンスルフィド(イ)の製造に用いられるパラ及びメタジハロ芳香族化合物は公知である。例えば、特公昭45‐3368号公報、特開平2‐103232号公報又は特公平4‐64618号公報記載のものから選ぶことができる。
【0017】
パラジハロ芳香族化合物としては、例えばp‐ジクロルベンゼン、p‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐4‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,5‐ジクロルトルエン、2,5‐ジクロルキシレン、1‐エチル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐エチル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐5‐クロロベンゼン、1,3,4,6‐テトラメチル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐ベンジル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,5‐ジクロルベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちp‐ジクロルベンゼンが特に好ましい。また、これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0018】
メタジハロ芳香族化合物としては、例えばm‐ジクロルベンゼン、m‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐3‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,4‐ジクロルトルエン、2,4‐ジクロルキシレン、1‐エチル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐4‐クロロベンゼン、1,2,4,6‐テトラメチル‐3,5‐ジクロルベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐ベンジル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,4‐ジクロルベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちm‐ジクロルベンゼンが特に好ましい。これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0019】
PAS(イ)の製造において、反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめる方法としては、特開平5‐222196号公報に記載の方法を使用することができる。
【0020】
還流される液体は、水とアミド系溶媒の蒸気圧差の故に、液相バルクに比較して水含有率が高い。この水含有率の高い還流液は、反応溶液上部に水含有率の高い層を形成する。その結果、残存のアルカリ金属硫化物(例えばNaS)、ハロゲン化アルカリ金属(例えばNaCl)、オリゴマー等が、その層に多く含有されるようになる。従来法においては230℃以上の高温下で、生成したPASとNaS等の原料及び副生成物とが均一に混じりあった状態では、高分子量のPASが得られないばかりでなく、せっかく生成したPASの解重合も生じ、チオフェノールの副生成が認められる。しかし、本発明では、反応缶の気相部分を積極的に冷却して、水分に富む還流液を多量に液相上部に戻してやることによって上記の不都合な現象が回避でき、反応を阻害するような因子を真に効率良く除外でき、高分子量PASを得ることができるものと思われる。但し、本発明は上記現象による効果のみにより限定されるものではなく、気相部分を冷却することによって生じる種々の影響によって、高分子量のPASが得られるのである。
【0021】
該方法においては、従来法のように反応の途中で水を添加することを要しない。しかし、水を添加することを全く排除するものではない。但し、水を添加する操作を行えば、本発明の利点のいくつかは失われる。従って、好ましくは、重合反応系内の全水分量は反応の間中一定である。
【0022】
反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が考えられるが、結果的に缶内の還流量を増大させる効果があるものならば、いずれの方法を用いても良い。外気温度が比較的低いなら(たとえば常温)、反応缶上部に従来備えられている保温材を取外すことによって、適切な冷却を行うことも可能である。外部冷却の場合、反応缶壁面で凝縮した水/アミド系溶媒混合物は反応缶壁を伝わって液相中に入る。従って、該水分に富む混合物は、液相上部に溜り、そこの水分量を比較的高く保つ。内部冷却の場合には、冷却面で凝縮した混合物が同様に冷却装置表面又は反応缶壁を伝わって液相中に入る。
【0023】
一方、液相バルクの温度は、所定の一定温度に保たれ、あるいは所定の温度プロフィールに従ってコントロールされる。一定温度とする場合、 230〜275 ℃の温度で 0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。より好ましくは、 240〜265 ℃の温度で1〜6時間である。より高い分子量のPASを得るには、2段階以上の反応温度プロフィールを用いることが好ましい。この2段階操作を行う場合、第1段階は 195〜240 ℃の温度で行うことが好ましい。温度が低いと反応速度が小さすぎ、実用的ではない。 240℃より高いと反応速度が速すぎて、十分に高分子量なPASが得られないのみならず、副反応速度が著しく増大する。第1段階の終了は、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が1モル%〜40モル%、且つ分子量が 3,000〜20,000の範囲内の時点で行うことが好ましい。より好ましくは、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が2モル%〜15モル%、且つ分子量が 5,000〜15,000の範囲である。残存率が40モル%を越えると、第2段階の反応で解重合など副反応が生じやすく、一方、1モル%未満では、最終的に高分子量PASを得難い。その後昇温して、最終段階の反応は、反応温度 240〜270 ℃の範囲で、1時間〜10時間行うことが好ましい。温度が低いと十分に高分子量化したPASを得ることができず、また 270℃より高い温度では解重合等の副反応が生じやすくなり、安定的に高分子量物を得難くなる。
【0024】
実際の操作としては、先ず不活性ガス雰囲気下で、アミド系溶媒中のアルカリ金属硫化物中の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。水分量は、好ましくは、アルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.5モル、特に0.8〜1.2モルとする。2.5モルを超えては、反応速度が小さくなり、しかも反応終了後の濾液中にフェノール等の副生成物量が増大し、重合度も上がらない。0.5モル未満では、反応速度が速すぎ、十分な高分子量の物を得ることができないと共に、副反応等の好ましくない反応が生ずる。
【0025】
反応時の気相部分の冷却は、一定温度での1段反応の場合では、反応開始時から行うことが望ましいが、少なくとも 250℃以下の昇温途中から行わなければならない。多段階反応では、第1段階の反応から冷却を行うことが望ましいが、遅くとも第1段階反応の終了後の昇温途中から行うことが好ましい。冷却効果の度合いは、通常反応缶内圧力が最も適した指標である。圧力の絶対値については、反応缶の特性、攪拌状態、系内水分量、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とのモル比等によって異なる。しかし、同一反応条件下で冷却しない場合に比べて、反応缶圧力が低下すれば、還流液量が増加して、反応溶液気液界面における温度が低下していることを意味しており、その相対的な低下の度合いが水分含有量の多い層と、そうでない層との分離の度合いを示していると考えられる。そこで、冷却は反応缶内圧が、冷却をしない場合と比較して低くなる程度に行うのが好ましい。冷却の程度は、都度の使用する装置、運転条件などに応じて、当業者が適宜設定できる。
【0026】
上記の反応条件を種々選択することにより、所望の粘度を持つPASを製造することができる。
【0027】
ここで使用する有機アミド系溶媒は、PAS重合のために知られており、たとえばN‐メチルピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルカプロラクタム等、及びこれらの混合物を使用でき、NMPが好ましい。これらは全て、水よりも低い蒸気圧を持つ。
【0028】
本発明で用いられるアルカリ金属硫化物も公知であり、たとえば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物である。これらの水和物及び水溶液であっても良い。又、これらにそれぞれ対応する水硫化物及び水和物を、それぞれに対応する水酸化物で中和して用いることができる。安価な硫化ナトリウムが好ましい。
【0029】
PASの分子量をより大きくするために、例えば1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,2,4‐トリクロロベンゼン等のポリハロ化合物を、パラ及びメタジハロ芳香族化合物の合計量に対して好ましくは5モル%以下の濃度で使用することもできる。
【0030】
また、他の少量添加物として、末端停止剤、修飾剤としてのモノハロ化物を併用することもできる。
【0031】
本発明のPASを製造するには、上記工程で得られたPAS(イ)のスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄を施す。
【0032】
上記のようにして得られたPAS(イ)のスラリーを濾過し、溶媒を含むPASケーキを得る。次いで、該PASケーキは、例えばヘリウム、アルゴン、水素、窒素等の非酸化性ガス気流中、好ましくは窒素ガス気流中、150〜250℃、好ましくは180〜230℃の温度で、好ましくは0.5〜20時間、特に好ましくは1〜10時間加熱される。該加熱は、好ましくは常圧〜3気圧、特に好ましくは常圧下で行われる。上記の加熱による溶媒除去を行うことにより、PASの接着強度を高めることができると共に、従来の水洗浄により溶媒を除去する方法に比べて、水洗浄等の工程を簡略化でき、かつ溶媒の回収率を著しく向上せしめることができるため、生産性が高くコスト的に有利である。
【0033】
水洗浄は、公知の方法に従って行うことができる。好ましくは上記加熱後の濾過ケーキを水に分散させることにより行われる。例えば、上記のようにして得られた加熱後のPASケーキを、重量で好ましくは1〜5倍の水中に投入して、好ましくは常温〜90℃で、好ましくは5分間〜10時間攪拌混合した後、濾過する。該攪拌混合及び濾過操作を好ましくは2〜10回繰り返すことにより、PASに付着した溶媒及び副生塩の除去を行って水洗浄を終了する。上記のようにして水洗浄を行うことにより、フィルターケーキに水を注ぐ洗浄方法に比べて少ない水量で効率的な洗浄が可能となる。
【0034】
また、本発明は、
(A)上記本発明のPAS 100重量部、
(B)充填剤 0.01〜400重量部
を含むPAS樹脂組成物である。
【0035】
本発明の樹脂組成物において、成分(A)100重量部に対して、成分(B)は、その上限が400重量部、好ましくは250重量部であり、下限が0.01重量部、好ましくは10重量部である。成分(B)が上記上限を越えては、エポキシ樹脂との接着強度が低下し、かつ樹脂組成物の成形性も悪化する。成分(B)が上記下限未満では成形物の機械的強度が低い。
【0036】
本発明の成分(B)充填剤は、慣用のものを使用することができる。例えば、繊維状充填剤として、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、ウィスカー、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト繊維、炭化ケイ素繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維、金属繊維等が挙げられ、粒子状充填剤として、マイカ、タルク等のケイ酸塩や炭酸塩、硫酸塩、金属酸化物、ガラスビーズ、シリカ等が挙げられる。これらの充填材は、夫々単独で、あるいは二種以上組合わせて用いることができる。また、これらの充填材は、必要に応じてシランカップリング剤やチタネートカップリング剤で処理されたものであってもよい。
【0037】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記本発明のPAS以外のPASを配合することができる。その配合量は、成分(A)100重量部に対して、好ましくは0〜2000重量部、特に好ましくは1〜400重量部である。これにより、優れた接着性を保持したまま、上記本発明のPASの使用量を低減することができる。該PASとしては、例えば、メタジハロ芳香族化合物を共重合していない線状PAS、あるいはそれを熱酸化架橋したPAS等が挙げられる。
【0038】
更に、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、着色剤等の添加剤を配合することもできる。
【0039】
以上のような各成分を混合する方法は、特に限定されるものではない。一般に広く使用されている方法、例えば各成分をヘンシェルミキサー等の混合機で混合する等の方法を用いることができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物は通常押出機で溶融混練してペレット化した後、例えば射出成形あるいは圧縮成形して所望の形状に成形される。
【0041】
本発明のPAS樹脂組成物は、急激な結晶化が進行しないので、成形収縮等によるクラック発生等を抑制することができ、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等と高い接着性を有する。従って、電気・電子部品の封止等の分野において有用である。
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0043】
【実施例】
実施例中の各特性値は下記の如く測定した。
<溶融粘度V
島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて測定した。
<接着強度>
ガラスファイバーとしては、日東紡績株式会社製のCS 3J‐961S(商標)を用い、炭酸カルシウムとしては、竹原化学工業株式会社製のSL‐1000(商標)を用いた。エポキシ樹脂系接着剤については、主剤として長瀬チバ株式会社製のXNR3101(商標)を用い、硬化剤として長瀬チバ株式会社製のXNH3101(商標)を用いた。
<ナトリウム含有量>
PAS粉末を700℃マッフル炉で燃焼し、その残渣を塩酸で溶解し、原子吸光分析計(島津製作所製、AA‐670)で測定して求めた値である。
<結晶化温度T及び融点T
DSCにより測定した。装置としては、セイコー電子製示差走査熱量計SSC/5200を用い、以下のようにして測定した。試料10mgを窒素気流中、昇温速度20℃/分で室温から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持して溶融した。次いで10℃/分の速度で冷却した。このときの発熱ピーク温度を結晶化温度Tとした。再び室温から320℃まで10℃/分の速度で昇温した時の吸熱ピーク温度を融点Tとした。
【0044】
【実施例1】
150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.4重量%NaS)19.381kgと、N‐メチル‐2‐ピロリドン(以下ではNMPと略すことがある)45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.640kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.12モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロルベンゼン(以下ではp‐DCBと略すことがある)22.185kg、メタジクロルベンゼン(以下ではm‐DCBと略すことがある)0.453kg(全DCBに対して2.0モル%)及びNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cmGに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、8.52kg/cmGであった。
【0045】
得られたスラリーを濾過して溶媒を除去し、次に含溶媒濾過ケーキを窒素気流中、220℃で約6時間加熱し溶媒を除去した。次に、得られたPPS粉末に常法により水洗浄、濾過を7回繰り返した後、120℃で約8時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のポリマー(P‐1)を得た。
【0046】
p‐DCBの反応率は98.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0047】
【実施例2】
p‐DCBを22.525kg、m‐DCBを0.113kg(全DCBに対して0.5モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐2)を得、各特性値を測定した。
【0048】
p‐DCBの反応率は98.4%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0049】
【実施例3】
p‐DCBを21.506kg、m‐DCBを1.132kg(全DCBに対して5.0モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐3)を得、各特性値を測定した。
【0050】
p‐DCBの反応率は98.2%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0051】
【実施例4】
p‐DCBを20.827kg、m‐DCBを1.811kg(全DCBに対して8.0モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐4)を得、各特性値を測定した。
【0052】
p‐DCBの反応率は98.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0053】
【実施例5】
p‐DCBを21.609kg、m‐DCBを0.441kg(全DCBに対して2.0モル%)とし、かつ反応を液温220℃で5時間、その後昇温して液温260℃で5時間行った以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐5)を得、各特性値を測定した。
【0054】
p‐DCBの反応率は99.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0055】
【比較例1】
m‐DCBは添加せず、p‐DCBを22.638kgとした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐C1)を得、各特性値を測定した。
【0056】
p‐DCBの反応率は98.4%であった。
【0057】
【比較例2】
p‐DCBを22.593kg、m‐DCBを0.045kg(全DCBに対して0.2モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐C2)を得、各特性値を測定した。
【0058】
p‐DCBの反応率は98.5%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0059】
【比較例3】
p‐DCBを19.921kg、m‐DCBを2.717kg(全DCBに対して12モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐C3)を得、各特性値を測定した。
【0060】
p‐DCBの反応率は98.2%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0061】
【比較例4】
オートクレーブ上部を冷却しなかった以外は、実施例5と同一の条件でポリマー(P‐C4)を得た。該ポリマーについて、各特性値を測定した。反応中の最高圧力は、10.31kg/cmGであった。
【0062】
p‐DCBの反応率は99.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0063】
【比較例5】
含溶媒濾過ケーキの窒素気流中での加熱処理しなかった以外は、実施例1と同一の条件でポリマー(P‐C5)を得、各特性値を測定した。
【0064】
実施例1〜5及び比較例1〜5において、p‐DCB及びm‐DCBの反応率は、ガスクロマトグラフィーによる測定結果から算出した。ここで、各反応率は下記式により求めた。
【0065】
【数1】
p‐DCBの反応率(%)=
(1−残存p‐DCB重量/仕込p‐DCB重量)×100
【0066】
【数2】
m‐DCBの反応率(%)=
(1−残存m‐DCB重量/仕込m‐DCB重量)×100
以上の結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
Figure 0003610990
実施例1〜4は、m‐DCBの添加量を変えて製造した本発明のPPSであり、メタフェニレンスルフィド単位の含有量が夫々異なるものである。メタフェニレンスルフィド単位の含有量が増加すると、エポキシ樹脂との接着強度は増加する傾向にある。実施例5は、PPS製造工程における反応を二段階としたものである。実施例1に比べて、溶融粘度Vのより大きいPPSが得られ、また、エポキシ樹脂との接着強度が、実施例1と比べて高い。
【0068】
一方、比較例1は、実施例1と同一条件下、m‐DCBを添加せずに製造したPPSである。該PPSは、メタフェニレンスルフィド単位を含まず、かつエポキシ樹脂との接着強度も低い。比較例2は、実施例1と同一条件下、m‐DCBの添加量を0.2モル%として製造したPPSである。メタフェニレンスルフィド単位の含有量は本発明の範囲未満であり、エポキシ樹脂との接着強度も低い。比較例3のPPSは、実施例1と同一条件下、12モル%のm‐DCB添加量で製造したものである。メタフェニレンスルフィド単位が本発明の範囲を越え、V、T及びTが著しく低く、PPS本来の耐熱性が損なわれており、実用性のないものであった。比較例4は、実施例5と同一条件下、オートクレーブ上部を冷却せずして製造したPPSである。溶融粘度Vが小さく、またエポキシ樹脂との接着強度も著しく低い。比較例5は、実施例1と同一条件下、含溶媒濾過ケーキを窒素気流中で加熱処理せずして製造したPPSである。エポキシ樹脂との接着強度が著しく低い。
【0069】
【実施例6〜8及び比較例6、7】
上記の実施例1及び比較例1で製造したPPS(P‐1及びP‐C1)を用いて、表2に示す配合量(重量部)の樹脂組成物を調製して各試験片を作成し、シリコーン樹脂との接着強度を測定した。
【0070】
シリコーン樹脂との接着強度は以下のようにして測定した。PAS、ガラスファイバー(CS 3J‐961S、商標、日東紡績株式会社製)及び炭酸カルシウム(SL‐1000、商標、竹原化学工業株式会社製)を所定の配合比(表2)で混合した後、エポキシ樹脂との接着強度の測定と同一にして、JIS K6850に従う試験片を作成した。次いで、JIS K6850に準拠し、得られた試験片をシリコーン系接着剤(信越シリコーンKE1833、商標、信越化学工業株式会社製)を用いて100℃、1時間の硬化条件で接着した後、引張速度5mm/分、チャック間距離130mmで引張試験を行い、接着強度を測定した。
【0071】
以上の結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
Figure 0003610990
実施例6及び7は、夫々比較例6及び7と比べて、いずれもシリコーン樹脂との接着強度が優れていた。また、実施例8は、本発明以外のPAS(P‐C1)を含めたものである。接着強度は多少低下するものの、本発明の効果を損なうものではなかった。
【0073】
【発明の効果】
本発明は、従来のPASの持つ高い耐熱性と機械的強度に加えて、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等との接着性に優れたPAS樹脂組成物を提供する。

Claims (2)

  1. パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位を含むポリアリーレンスルフィドであって、メタアリーレンスルフィド単位をパラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位の全量に対して0.5〜10モル%含み、かつ溶融粘度Vが50〜3000ポイズであり、更にエポキシ樹脂との接着強度が60kgf/cm以上である実質的に線状のポリアリーレンスルフィド。
  2. (A)請求項1記載のポリアリーレンスルフィド 100重量部及び
    (B)充填剤 0.01〜400重量部
    を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
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