JP3721567B2 - ポリアリーレンスルフィド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)に関し、更に詳しくは管状押出成形物の製造に適したPAS及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PASの基本的な製造法としては、特公昭45‐3368号公報に有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてPASを製造する方法が記載されている。しかし、該方法では高分子量のPASを製造することができなかった。従って、上記のような低分子量PASを熱酸化処理して架橋し、高分子量PASを製造することが行われていた。しかし、このようにして製造した架橋PASは殊に、耐衝撃性、引張破断伸度等の機械的強度が不十分であると共に、耐熱性に劣り、かつ熱水により比較的高い溶出性を示すものであった。更に、該PASは結晶化速度が大きく、押出し成形加工時に急速に硬化するので、パイプとしてのサイジングが困難である等の加工上の問題もあった。
【0003】
特開昭61‐7332号公報には、反応を二段階で行い、二段階で水を添加することを特徴とする、高分子量PASを得る方法が開示されている。また、特公昭52‐12240号公報には、従来の反応系に重合助剤として、アルカリ金属カルボン酸塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸リチウムを用いて高分子量PASを得る方法が開示されている。上記の各方法で製造した高分子量PASは、管状押出成形物、例えばパイプに成形加工することができる。しかし、押出し成形する際にパイプに割れを生じない程に高い靭性を得るべく、PASを高分子量化すると、PASの溶融粘度が高くなり過ぎ、パイプへの成形加工が難しいという問題を生じる。更には、溶融粘度が高くなり過ぎるとパイプ内面の粗度が大きくなり、溶出性が高くなり、超純水用には使用できない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、管状押出成形物例えばパイプの成形加工に適した溶融粘度及び非ニュートン指数を持ち成形性に優れており、かつ成形加工時に割れを生じない優れた靭性を持つ高分子量PAS及びその製造法、更には該PASから製造した管状押出成形物を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、下記所定の比率で、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位と多官能アリーレンスルフィド単位を含み、かつ所定の溶融粘度V6及び非ニュートン指数Nを持つPASを用いれば、上記課題の全てを解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)パラアリーレンスルフィド単位、メタアリーレンスルフィド単位及び多官能アリーレンスルフィド単位を含むポリアリーレンスルフィドにおいて、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位と多官能アリーレンスルフィド単位のモル比が0.992〜0.944/0.005〜0.05/0.003〜0.006であり、溶融粘度V6が5000〜60000ポイズであり、かつ非ニュートン指数Nが1.2〜1.6であることを特徴とするポリアリーレンスルフィドである。
【0007】
好ましい態様として、
(2)管状押出成形物用の上記(1)記載のポリアリーレンスルフィド、
(3)有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とパラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを0.992〜0.944/0.005〜0.05/0.003〜0.006のモル比で反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のポリアリーレンスルフィドの製造法、
(4)上記(1)記載のポリアリーレンスルフィドにより製造された管状押出成形物
を挙げることができる。
【0008】
特開平2‐103232号公報には、パラアリーレンスルフィド単位、メタアリーレンスルフィド単位及び任意成分としての多官能アリーレンスルフィド単位を所定量で含むPAS及びその製造法が記載されている。しかし、本願発明のPASは、該公報に開示されていない。即ち、本願発明のPASは、上記各アリーレンスルフィド単位を上記の所定量で含み、かつ所定の溶融粘度V6及び非ニュートン指数Nを併せ持つものである。このような特定のPAS故に、管状押出成形物例えばパイプの成形に好適で、かつ押出成形する際にパイプに割れを生じないという効果を奏するのである。該公報記載のPASでは、該効果を十分に達成し得ない。更には、上記公報の方法では、アルカリ金属カルボン酸塩等の触媒を用いるので、PASの製造コストが増大して、工業化を図るためには大変不利である。また、上記触媒を無公害に製品から分離、回収処理を行うには、多大な付帯設備と技術と費用が必要であり、この面からも著しく不利である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のポリアリーレンスルフィドは、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位と多官能アリーレンスルフィド単位を含み、これらのモル比が0.992〜0.994/0.005〜0.05/0.003〜0.006である。メタアリーレンスルフィド単位が上記下限未満では靭性が小さく、上記上限を超えては耐熱性の低下を生ずる。また、多官能アリーレンスルフィド単位が上記下限未満では、管状押出成形物の成形に適した溶融粘度V6及び非ニュートン指数Nが得られず、上記上限を超えてはPASの熱安定性が低く増粘を生じ易くなり、管状押出成形物への成形が困難となる。ここで、パラアリーレンスルフィド単位とは、下記のパラジハロ芳香族化合物から生ずるものであり、好ましくは下記式(I)で示されるパラフェニレンスルフィド単位である。メタアリーレンスルフィド単位とは、下記のメタジハロ芳香族化合物から生ずるものであり、好ましくは下記式(II)で示されるメタフェニレンスルフィド単位である。また、多官能アリーレンスルフィド単位とは、3官能以上のアリーレンスルフィド結合を有するもので下記のポリハロ芳香族化合物から生ずるものであり、好ましくは下記式(III)で示される3官能フェニルスルフィド単位が挙げられる。
【0010】
【化1】
本発明のPASの溶融粘度V6は、その上限が60000ポイズであり、好ましくは50000ポイズ、特に好ましくは45000ポイズであり、下限が5000ポイズであり、好ましくは10000ポイズ、特に好ましくは15000ポイズである。溶融粘度V6が上記下限未満では靭性が低く、また成形加工性も悪い。上記上限を超えては流動性が低下し成形加工性が悪化するため好ましくない。ここで、溶融粘度V6は、フローテスターを用いて300℃、荷重20kgf/cm2、L/D=10で6分間保持した後に測定した粘度(ポイズ)である。
【0011】
また、本発明のPASの非ニュートン指数Nは、その上限が1.6、好ましくは1.55、特に好ましくは1.5であり、下限が1.2、好ましくは1.25、特に好ましくは1.3である。非ニュートン指数Nが上記下限未満では管状押出成形物、例えばパイプへの成形性が悪く、上記上限を超えては熱安定性が低下するため好ましくない。ここで、上記非ニュートン指数Nは、キャピログラフを用いて300℃、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式(IV)を用いて算出した値である。N値が1であればニュートン流体であり、N値が1を超えれば非ニュートン流体であることを示す。
【0012】
[数1]
SR=K・SSN (IV)
[ここで、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm2)、そしてKは定数を示す。]
【0013】
上記の本発明のPASは、好ましくは下記の方法により製造することができる。
【0014】
即ち、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とパラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを0.997〜0.89/0.001〜0.10/0.002〜0.01のモル比で反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることを特徴とする方法である。
【0015】
上記製造方法において、パラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とのモル比は0.992〜0.944/0.005〜0.05/0.003〜0.006である。メタジハロ芳香族化合物が上記下限未満では製造したPASの靭性が小さく、上記上限を超えてはPASの耐熱性の低下を生ずる。また、ポリハロ芳香族化合物が上記下限未満では、管状押出成形物の成形に適した溶融粘度V6及び非ニュートン指数Nを持つPASが得られず、上記上限を超えてはPASの熱安定性が低く増粘を生じ易くなり、管状押出成形物への成形性が悪くなるため好ましくない。
【0016】
本発明の方法において用いられるパラ及びメタジハロ芳香族化合物は公知である。例えば、特公昭45‐3368号公報、特開平2‐103232号公報又は特公平4‐64618号公報記載のものから選ぶことができる。
【0017】
パラジハロ芳香族化合物としては、例えばp‐ジクロロベンゼン、p‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐4‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,5‐ジクロロトルエン、2,5‐ジクロロキシレン、1‐エチル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐エチル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐5‐クロロベンゼン、1,3,4,6‐テトラメチル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐ベンジル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジクロロベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,5‐ジクロロベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちp‐ジクロロベンゼンが特に好ましい。また、これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0018】
メタジハロ芳香族化合物としては、例えばm‐ジクロロベンゼン、m‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐3‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,4‐ジクロロトルエン、2,4‐ジクロロキシレン、1‐エチル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐4‐クロロベンゼン、1,2,4,6‐テトラメチル‐3,5‐ジクロロベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,4‐ジクロロベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジクロロベンゼン、1‐ベンジル‐2,4‐ジクロロベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジクロロベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,4‐ジクロロベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちm‐ジクロロベンゼンが特に好ましい。これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0019】
ポリハロ芳香族化合物は、1分子に3個以上のハロゲン置換基を有する化合物であり、例えば1,2,3‐トリクロロベンゼン、1,2,4‐トリクロロベンゼン、1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,3‐ジクロロ‐5‐ブロモベンゼン、2,4,6‐トリクロロトルエン、1,2,3,5‐テトラブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,3,5‐トリクロロ‐2,4,6‐トリメチルベンゼン、2,2´,4,4´‐テトラクロロビフェニル、2,2´,6,6´‐テトラブロモ‐3,3´,5,5´‐テトラメチルビフェニル、1,4,6‐トリクロロナフタレン、1,2,3,4‐テトラクロロナフタレン、1,2,4‐トリブロモ‐6‐メチルナフタレン等及びそれらの混合物が挙げられ、1,2,4‐トリクロロベンゼン、1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,2,3‐トリクロロベンゼンが好ましい。
【0020】
メタジハロ芳香族化合物及びポリハロ芳香族化合物の重合反応系内への添加方法は、特に限定されるものではない。例えばアルカリ金属硫化物及びパラジハロ芳香族化合物と同時に添加してもよいし、あるいは反応途中の任意の時点で、メタジハロ芳香族化合物及び/又はポリハロ芳香族化合物を有機溶媒例えばN‐メチルピロリドンに溶解させて、高圧ポンプで反応缶内に圧入してもよい。
【0021】
反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめてPASを製造する方法としては、特開平5‐222196号公報に記載の方法を使用することができる。
【0022】
還流される液体は、水とアミド系溶媒の蒸気圧差の故に、液相バルクに比較して水含有率が高い。この水含有率の高い還流液は、反応溶液上部に水含有率の高い層を形成する。その結果、残存のアルカリ金属硫化物(例えばNa2S)、ハロゲン化アルカリ金属(例えばNaCl)、オリゴマー等が、その層に多く含有されるようになる。従来法においては230℃以上の高温下で、生成したPASとNa2S等の原料及び副生成物とが均一に混じりあった状態では、高分子量のPASが得られないばかりでなく、せっかく生成したPASの解重合も生じ、チオフェノールの副生成が認められる。しかし、本発明では、反応缶の気相部分を積極的に冷却して、水分に富む還流液を多量に液相上部に戻してやることによって上記の不都合な現象が回避でき、反応を阻害するような因子を真に効率良く除外でき、高分子量PASを得ることができるものと思われる。但し、本発明は上記現象による効果のみにより限定されるものではなく、気相部分を冷却することによって生じる種々の影響によって、高分子量のPASが得られるのである。
【0023】
この方法においては、従来法のように反応の途中で水を添加することを要しない。しかし、水を添加することを全く排除するものではない。但し、水を添加する操作を行えば、本発明の利点のいくつかは失われる。従って、好ましくは、重合反応系内の全水分量は反応の間中一定である。
【0024】
反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が考えられるが、結果的に缶内の還流量を増大させる効果があるものならば、いずれの方法を用いても良い。外気温度が比較的低いなら(たとえば常温)、反応缶上部に従来備えられている保温材を取外すことによって、適切な冷却を行うことも可能である。外部冷却の場合、反応缶壁面で凝縮した水/アミド系溶媒混合物は反応缶壁を伝わって液相中に入る。従って、該水分に富む混合物は、液相上部に溜り、そこの水分量を比較的高く保つ。内部冷却の場合には、冷却面で凝縮した混合物が同様に冷却装置表面又は反応缶壁を伝わって液相中に入る。
【0025】
一方、液相バルクの温度は、所定の一定温度に保たれ、あるいは所定の温度プロフィールに従ってコントロールされる。一定温度とする場合、 230〜275 ℃の温度で 0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。より好ましくは、 240〜265 ℃の温度で1〜6時間である。より高い分子量のPASを得るには、2段階以上の反応温度プロフィールを用いることが好ましい。この2段階操作を行う場合、第1段階は 195〜240 ℃の温度で行うことが好ましい。温度が低いと反応速度が小さすぎ、実用的ではない。 240℃より高いと反応速度が速すぎて、十分に高分子量なPASが得られないのみならず、副反応速度が著しく増大する。第1段階の終了は、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が1モル%〜40モル%、且つ分子量が 3,000〜20,000の範囲内の時点で行うことが好ましい。より好ましくは、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が2モル%〜15モル%、且つ分子量が 5,000〜15,000の範囲である。残存率が40モル%を越えると、第2段階の反応で解重合など副反応が生じやすく、一方、1モル%未満では、最終的に高分子量PASを得難い。その後昇温して、最終段階の反応は、反応温度 240〜270 ℃の範囲で、1時間〜10時間行うことが好ましい。温度が低いと十分に高分子量化したPASを得ることができず、また 270℃より高い温度では解重合等の副反応が生じやすくなり、安定的に高分子量物を得難くなる。
【0026】
実際の操作としては、先ず不活性ガス雰囲気下で、アミド系溶媒中のアルカリ金属硫化物中の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。水分量は、好ましくは、アルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.5モル、特に0.8〜1.2モルとする。2.5モルを超えては、反応速度が小さくなり、しかも反応終了後の濾液中にフェノール等の副生成物量が増大し、重合度も上がらない。0.5モル未満では、反応速度が速すぎ、十分な高分子量の物を得ることができないと共に、副反応等の好ましくない反応が生ずる。
【0027】
反応時の気相部分の冷却は、一定温度での1段反応の場合では、反応開始時から行うことが望ましいが、少なくとも 250℃以下の昇温途中から行わなければならない。多段階反応では、第1段階の反応から冷却を行うことが望ましいが、遅くとも第1段階反応の終了後の昇温途中から行うことが好ましい。冷却効果の度合いは、通常反応缶内圧力が最も適した指標である。圧力の絶対値については、反応缶の特性、攪拌状態、系内水分量、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とのモル比等によって異なる。しかし、同一反応条件下で冷却しない場合に比べて、反応缶圧力が低下すれば、還流液量が増加して、反応溶液気液界面における温度が低下していることを意味しており、その相対的な低下の度合いが水分含有量の多い層と、そうでない層との分離の度合いを示していると考えられる。そこで、冷却は反応缶内圧が、冷却をしない場合と比較して低くなる程度に行うのが好ましい。冷却の程度は、都度の使用する装置、運転条件などに応じて、当業者が適宜設定できる。
【0028】
ここで使用する有機アミド系溶媒は、PAS重合のために知られており、たとえばN‐メチルピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルカプロラクタム等、及びこれらの混合物を使用でき、NMPが好ましい。これらは全て、水よりも低い蒸気圧を持つ。
【0029】
アルカリ金属硫化物も公知であり、たとえば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物である。これらの水和物及び水溶液であっても良い。又、これらにそれぞれ対応する水硫化物及び水和物を、それぞれに対応する水酸化物で中和して用いることができる。安価な硫化ナトリウムが好ましい。
【0030】
また、他の少量添加物として、末端停止剤、修飾剤としてのモノハロ化物を併用することもできる。
【0031】
こうして得られた高分子量PASは、当業者にとって公知の後処理法によって副生物から分離することができる。
【0032】
PASの後処理として行われる水洗浄として、好ましくは、下記の方法を使用することができる。
【0033】
即ち、水洗浄は、PAS製造工程で生成した重合スラリーを濾過した後、濾過ケーキを水に分散させることにより行われる。例えば、上記のようにして得られたPASの重合スラリーを濾過し、溶媒を少ししか含まないPASケーキを得る。該PASケーキを、重量で好ましくは1〜5倍の水中に投入して、好ましくは常温〜90℃で、好ましくは5分間〜10時間攪拌混合した後、濾過する。該攪拌混合及び濾過操作を好ましくは2〜10回繰り返すことにより、PASに付着した溶媒及び副生塩の除去を行って水洗浄を終了する。
【0034】
また、分離後のPASに酸処理を施すことが好ましい。該酸処理は、好ましくは100℃以下の温度、特に好ましくは常温〜80℃の温度で実施される。該温度が上記上限を超えると、酸処理後のPAS分子量が低下するため好ましくない。該酸処理に使用する酸溶液のpHは、好ましくは3.5〜6.0、特に好ましくは4.0〜5.5である。該pHを採用することにより、被処理物であるPAS中の‐SX(Xはアルカリ金属を示す)末端の大部分を‐SH末端に転化することができる。pHが上記範囲未満では、酸の使用量が多くコスト高となり、上記範囲を超えては、PAS中のアルカリ金属末端の除去が不十分となる。該酸処理に要する時間は、上記酸処理温度及び酸溶液の濃度に依存するが、好ましくは5分間以上、特に好ましくは10分間以上である。上記未満では、PAS中の‐SX末端を‐SH末端に十分に転化できず好ましくない。上記酸処理には、例えば酢酸、ギ酸、シュウ酸、フタル酸、塩酸、リン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、ホウ酸、ケイ酸、炭酸、プロピオン酸等が使用され、酢酸が特に好ましい。該処理を施すことにより、PAS中の不純物であるアルカリ金属、例えばナトリウムを低減でき、PASの接着強度を増加せしめることができる。
【0035】
また、上記の後処理法に代えて下記の後処理法を使用することもできる。
【0036】
即ち、上記重合工程で得られたPASスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄を施す方法である。
【0037】
例えば、上記のようにして得られたPASスラリーを濾過し、溶媒を含むPASケーキを得る。次いで、該PASケーキは、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素等の非酸化性ガス気流中、好ましくは窒素ガス気流中、150〜250℃、好ましくは180〜230℃の温度で、好ましくは0.5〜20時間、特に好ましくは1〜10時間加熱される。該加熱は、好ましくは常圧〜3気圧、特に好ましくは常圧下で行われる。上記の加熱による溶媒除去を行うことにより、PASの接着強度を高めることができると共に、従来の水洗浄により溶媒を除去する方法に比べて、水洗浄等の工程を簡略化でき、かつ溶媒の回収率を著しく向上せしめることができるため、生産性が高くコスト的に有利である。
【0038】
次いで行われる水洗浄は、公知の方法に従って行うことができる。好ましくは上記の水洗浄法が使用される。いずれにしても、水洗浄を簡略化することができる。
【0039】
更に、該水洗浄後のPASに、上記と同様の方法で酸処理を施すこともできる。
【0040】
このようにして得られた本発明のPASは管状押出成形物、例えば、医療用、化学プラント及び食品用配管、熱水配管、熱交換器、スチーム配管等の用途に使用できる。また、難燃性が要求される電線用の配管、強酸、強アルカリ、有機溶剤等の雰囲気下で使用するパイプやチューブ等としても使用できる。更に、本発明のPASは、金属との接着性に優れるため、金属製パイプの内面に密着して用いられる、パイプ状に成形したいわゆる二層パイプの内筒として有用である。
【0041】
該管状押出成形物の成形に際しては、PASには、慣用の添加剤を配合することができる。例えば、無機充填材としてのシリカ、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカアルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、窒化ケイ素、ガラス、ハイドロタルサイト、酸化ジルコニウム等の粒状、粉末状あるいは鱗片状のもの、又はガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維、マイカセラミック繊維等の繊維状のものを配合することができる。これら無機充填材は、夫々単独で、あるいは二種以上組合わせて用いることができる。また、これらの無機充填材は、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤で処理したものであってもよい。充填材の配合割合は、溶融加工性の観点等から、管状押出成形物中に30重量%以下が好ましい
【0042】
更に、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、着色剤等の添加剤を配合することもできる。
【0043】
管状押出成形物への成形方法は、特に限定されるものではない。例えば、上記の各成分を一般に広く使用されている方法、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で混合した後、加熱溶融してリング状開口部を有するダイスから押出し、所定寸法にサイジングし、引取り及び切断することにより製造される。
【0044】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0045】
[実施例]
実施例において、溶融粘度V6は、島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて測定した。
【0046】
非ニュートン指数Nの測定に用いたキャピログラフは、東洋精機製作所製キャピログラフ1B P‐Cである。
【0047】
DSCにより融点Tmを測定した。装置としては、セイコー電子製示差走査熱量計SSC/5200を用い、以下のようにして測定した。試料10mgを窒素気流中、昇温速度20℃/分で室温から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持して溶融した。次いで10℃/分の速度で冷却した。再び室温から320℃まで10℃/分の速度で昇温した時の吸熱ピーク温度を融点Tmとした。
【0048】
パイプ成形性は、以下のようにして評価した。まず、得られたPPSを二軸押出機を用いて320℃の温度で溶融混練して、ペレットを作成した。更に、得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した35mmφの小型単軸押出機に供給し、その後サイジング装置を通し、冷却することにより、内径20.0mm、肉厚2.8mmのパイプを毎分0.8mの速度で連続して製造した。表1中、○印はパイプ成形可能を示し、×印はパイプ成形不能を示す。
【0049】
アイゾット衝撃強度は、該パイプから60×12.7×3mmのたんざく型のテストピースを切り出し試験片とし、ASTM D256に従い、1/8インチバーノッチなしで測定したものである。
【0050】
パラジクロロベンゼン(以下、p‐DCBと略すことがある)、メタジクロロベンゼン(以下、m‐DCBと略すことがある)及び1,2,4‐トリクロロベンゼン(以下、1,2,4‐TCBと略すことがある)の反応率は、ガスクロマトグラフィーによる測定結果から算出した。夫々の反応率は下記式により求めた。
【0051】
[数2]
p‐DCBの反応率(%)=
(1−残存p‐DCB重量/仕込p‐DCB重量)×100
【0052】
[数3]
m‐DCBの反応率(%)=
(1−残存m‐DCB重量/仕込m‐DCB重量)×100
【0053】
[数4]
1,2,4‐TCBの反応率(%)=
(1−残存1,2,4‐TCB重量/仕込1,2,4‐TCB重量)×100
【0054】
【実施例1】
150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.4重量%Na2S)19.381kgと、N‐メチル‐2‐ピロリドン(以下ではNMPと略すことがある)45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.780kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.06モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p‐DCB21.939kg、m‐DCB0.222kg、1,2,4‐TCB0.109kg及びNMP18.0kgを仕込んだ。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.986/0.01/0.004であった。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cm2Gに加圧して昇温を開始した。液温220℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。その後昇温して、液温260℃で3時間攪拌し、次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、8.52kg/cm2Gであった。
【0055】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.3%、100%及び100%であった。
【0056】
得られたスラリーに、常法により濾過、温水洗を繰り返した。次いで、120℃で約8時間熱風循環乾燥機中で乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。
【0057】
【実施例2】
1,2,4‐TCBを0.122kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.9856/0.01/0.0044であった。
【0058】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.3%、100%及び100%であった。
【0059】
【実施例3】
1,2,4‐TCBを0.131kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.9852/0.01/0.0048であった。
【0060】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.4%、100%及び100%であった。
【0061】
【実施例4】
p‐DCBを21.717kg、m‐DCBを0.443kg及び1,2,4‐TCBを0.117kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.9759/0.0199/0.0042であった。
【0062】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.4%、100%及び100%であった。
【0063】
【比較例1】
m‐DCBを添加せず、p‐DCBを22.160kg及び1,2,4‐TCBを0.095kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.9966/0/0.0034であった。
【0064】
反応終了後、p‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.3%及び100%であった。
【0065】
【比較例2】
m‐DCBを添加せず、p‐DCBを22.160kg及び1,2,4‐TCBを0.128kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.9953/0/0.0047であった。
【0066】
反応終了後、p‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.3%及び100%であった。
【0067】
【比較例3】
p‐DCBを19.722kg、m‐DCBを2.438kg及び1,2,4‐TCBを0.136kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.8856/0.1094/0.0050であった。
【0068】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.4%、100%及び100%であった。
【0069】
【比較例4】
1,2,4‐TCBを添加せず、p‐DCBを21.739kg及びm‐DCBを0.222kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.970/0.010/0であった。
【0070】
反応終了後、p‐DCB及びm‐DCBの反応率は、夫々99.5%及び100%であった。
【0071】
【比較例5】
p‐DCBを20.609kg、m‐DCBを1.551kg及び1,2,4‐TCBを0.299kg使用した以外は、実施例1と同一の条件で実施した。この際、p‐DCB/m‐DCB/1,2,4‐TCB(モル比)=0.92/0.0692/0.0108であった。
【0072】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.4%、100%及び100%であった。
【0073】
【比較例6】
オートクレーブ上部の冷却を実施しなかった以外は、実施例1と同一の条件で実施した。反応中の最高圧力は、9.63kg/cm2Gであった。
【0074】
反応終了後、p‐DCB、m‐DCB及び1,2,4‐TCBの反応率は、夫々99.4%、100%及び100%であった。
【0075】
以上の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
実施例1〜3は、本発明のPASにおいて、多官能アリーレンスルフィド単位のモル比を本発明の範囲内で順次増加させたものである。それに伴い溶融粘度V6及び非ニュートン指数Nも本発明の範囲内で増加した。いずれもパイプ成形性は良好であり、高い衝撃強度値を示した。実施例4は、実施例1に比べて、パラアリーレンスルフィド単位のモル比を本発明の範囲内で低下させ、メタ及び多官能アリーレンスルフィド単位のモル比を増加させたものである。パイプ成形性及び衝撃強度共に良好であった。
【0077】
一方、比較例1は、メタアリーレンスルフィド単位を含まないものである。パイプ成形性は良好であったが、衝撃強度は著しく低かった。比較例2は、メタアリーレンスルフィド単位を含まず、比較例1より多官能アリーレンスルフィド単位のモル比が増加したものである。溶融粘度V6が著しく高く、パイプの成形ができなかった。比較例3は、メタアリーレンスルフィド単位のモル比が本発明の範囲を超えたものである。パイプ成形性及び衝撃強度共にほぼ満足すべきものであったが、融点Tmが著しく低く、耐熱性が悪かった。比較例4は、多官能アリーレンスルフィド単位を含まないものである。溶融粘度V6が著しく低く、かつ非ニュートン指数Nも低くなり、パイプの成形ができなかった。比較例5は、多官能アリーレンスルフィド単位のモル比が本発明の範囲を超えたものである。溶融粘度V6が著しく高く、パイプの成形ができなかった。また、比較例6は、各単位のモル比は実施例1と同一であるが、溶融粘度V6が本発明の範囲未満のものである。即ち、PAS製造の際に、オートクレーブの上部を冷却しなかったものである。溶融粘度V6が低すぎ、パイプの成形ができなかった。
【0078】
【発明の効果】
本発明は、管状押出成形物例えばパイプの成形加工に適した溶融粘度及び非ニュートン指数を持ち成形性に優れており、かつ成形加工時に割れを生じない優れた靭性を持つ高分子量PAS及びその製造法、更には該PASから製造した管状押出成形物を提供する。
Claims (4)
- パラアリーレンスルフィド単位、メタアリーレンスルフィド単位及び多官能アリーレンスルフィド単位を含むポリアリーレンスルフィドにおいて、パラアリーレンスルフィド単位とメタアリーレンスルフィド単位と多官能アリーレンスルフィド単位のモル比が0.992〜0.944/0.005〜0.05/0.003〜0.006であり、溶融粘度V6が5000〜60000ポイズであり、かつ非ニュートン指数Nが1.2〜1.6であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド。
- 管状押出成形物用の請求項1記載のポリアリーレンスルフィド。
- 有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とパラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物とメタジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを0.992〜0.944/0.005〜0.05/0.003〜0.006のモル比で反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることを特徴とする請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィドの製造法。
- 請求項1記載のポリアリーレンスルフィドにより製造された管状押出成形物。
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