JP3607742B2 - 高力ボルト摩擦接合用鋼材 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、高力ボルト摩擦接合用鋼材に関するもので、建築、橋梁などにおける鋼構造物の摩擦接合部に利用できる。
【0002】
【従来の技術】
高力ボルト摩擦接合において、日本建築学会の設計施工指針で、接合耐力上重要となる摩擦面は、黒皮除去された良好な赤錆面で、すべり係数が0.45を上回る処理を施し、また、すべり係数はすべり耐力試験により確認する必要があるとされている。通常、良好な赤錆状態であれば、すべり係数は0.45を上回ることが知られており、すべり耐力試験は省略される場合が多い。
【0003】
赤錆状態のすべり係数は0.6程度の値が得られることもあるが、環境因子や鋼材組成などにより錆生成状態が異なるためバラツキが大きく、すべり係数は0.45として設計されているようである。
摩擦接合面のすべり係数は接合耐力上高いほど好ましいことは明らかであり、特開昭51−52628号公報では接合面に施工前に凹凸を付けたり、特開平1−206104号公報では接合面に耐食性金属を溶射して高い摩擦抵抗を発生させている。しかし、摩擦接合面のすべり係数は鋼材表面の粗さの増大に伴って高くなる傾向にあるが、表面粗さを増してもある値以上にはならないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、摩擦接合面に凹凸を有し、かつ表面が硬いことにより、安定して高いすべり係数を発現する高力ボルト摩擦接合用鋼材を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
鋼材組成が重量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.05〜0.60%、Mn:1.0〜2.5%、Al:0.060%以下、Ti:0.005〜0.030%、B:0.0005〜0.0030%、N:0.0060%以下を含有し、さらにCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下の範囲で1種または2種以上の任意の組合せで含有し、かつTi−3.4N>0を満足する鋼材の摩擦接合面に、高低差:0.2〜1.0mmの凹凸を有し、かつ、焼入れあるいはレーザー加工、放電加工によって表面から0.5mm以上がヴィッカース硬さ250以上であることを特徴とする高力ボルト摩擦接合用鋼材。
【0006】
【作用】
鋼材のすべり係数を高めるためには、ショットブラストあるいはグリッドブラストなどにより摩擦接合面の表面粗さを増す方法がとられている。しかし、ブラスト処理などでは表面粗さ、すなわち表面凹凸の高低差は、鋼種やショット粒などにもよるが、高々150μm程度であり、これによるすべり係数の増加には自ずと限界がある。また、本発明者らの研究によれば、同一の表面粗さですべり係数を高めるためには、摩擦接合面の硬さ(表面硬さ)を高めることが必要である。すなわち、本発明は、摩擦接合面に適切な凹凸を施し、かつ表面硬さを高めることにより、すべり係数を顕著に向上できるという新たな知見に基づきなされたものである。
【0007】
以下、本発明について説明する。
すべり係数の観点からは、摩擦接合面の粗度が大きく、硬さは高いほどよい。まず、摩擦接合面の凹凸の付け方は、凹凸の付いたロールによる転写、機械加工、レーザー加工、放電加工、あるいは化学的方法などがあり、どのような方法によってもよい。このときの凹凸の高低差は、積極的にすべり係数を高めるためにブラスト処理などにより、より容易に付け得る高低差以上にする必要性から、0.2mm以上に限定した。しかし、この高低差が1.0mmを超えると、すべり係数の顕著な向上が認められないため、上限を1.0mmとした。なお、凹凸の形状は図1に示すような角錐形(図1(a))、山形(図1(b))など先端が鋭い方が好ましい。
【0008】
上記のように摩擦接合面に凹凸を付けて表面粗度を増しただけではすべり係数を顕著に向上させることはできず、これに加えて表面硬さを増す必要がある。
表面硬さを増す方法は、一般的には焼入れ処理が最も簡単であるが、表面の凹凸をレーザー加工、放電加工などによって付ける場合には、加工時の局部的な入熱とその後の冷却によって表面のみに焼きが入り、焼入れ処理が不要となる場合もある。表面凹凸は焼入れ処理前後のいずれの状態で付けてもよいが、機械加工による場合には焼入れ処理前が容易であることは自明である。
【0009】
ロール転写によって表面に凹凸加工を施す場合には、鋼材圧延ライン上の圧延最終パスで熱間で加工するのが最も効率がよく、圧延後直ちに冷却(焼入れ)することで表面を硬化させることが可能であり、安価でかつ大量生産のためには最も好ましい。
すべり係数を顕著に改善するためには表面硬さは高いほどよく、ヴィッカース硬さ250以上に限定した。上限は特に規定しないが、後述する組成の限定範囲により自ずと制限を受けるものである。また、この硬さは鋼材全断面にわたる必要はなく、摩擦接合面表面から最低0.5mmの深さがあればよい。
【0010】
焼入れ処理によって上記硬さを得るためには、鋼材組成をも限定し、焼入れ性を高める必要がある。
Cは焼入れ性を高める上で最も有効な元素である。ヴィッカース硬さ250以上を容易に得る上で、0.10%以上の添加が必要である。しかし、C量を多くして必要以上に硬さを高くしても、すべり係数の改善効果は鈍化するため、上限を0.25%に限定した。
【0011】
Siは鋼の脱酸上必要な元素で0.05%以上添加する必要がある。しかし、多く添加すると鋼の靱性を劣化させ、表面の凹凸が潜在亀裂となって割れが生ずるおそれがあるため、上限を0.60%に限定した。
Mnは焼入れ性を増大させ、母材の靱性を確保する上で不可欠な元素であり、その下限は1.0%である。しかし、あまり多く添加しても添加量に対する硬さ上昇の効果は鈍化するため、上限を2.5%とした。
【0012】
Alは鋼の脱酸上必要な元素であるが、他にも脱酸元素は含まれるため、必ずしも必要ではなく、下限は限定しない。一方、過剰な添加は鋼の靱性を劣化させ、表面の凹凸が潜在亀裂となって割れが生ずるおそれがあるため、0.060%を上限とした。
TiはNを固定し、焼入れ性を顕著に高めるBを有効に作用させるために添加するもので、次式のTi、Nを鋼中に含まれるTi、N量としたとき、
Ti−3.4N>0
を満足する必要がある。この式の意味するところは、化学量論的にTiがNを完全に固定するのに足る以上(過剰)に添加することを意味する。しかし、上式を満足させるためにあまり過剰に添加すると、高価なばかりでなく、TiCが析出してCをも固定してしまうため、上限を0.030%に限定した。一方、下限値は後述するように製鋼上Nは必ず含まれるため、0.005%とした。
【0013】
BはCと同様、焼入れ性を顕著に増大させる元素で、0.0005%以上の添加で硬さ増大に顕著に寄与する。しかし、0.0030%を超えると添加量に対してその効果が小さくなるため、上限を0.0030%とした。
Nは本発明においては不純物元素であり、少ないほどよいが、鋼の溶製上含有されるものである。ただし、多過ぎるとこれを完全に固定するためのTi含有量を増やす必要があり、コスト上昇につながるため、上限のみ0.0060%に限定した。
【0014】
上記成分に加え、さらに含有するCu、Ni、Cr、Mo、Nb、Vは、何れも焼入れ硬化能を増大させるために添加するものである。何れも多く添加するほど焼入れ性が増大し、焼入れ時の冷却速度が比較的遅い場合でも容易にヴィッカース硬さ250以上の表面硬さを得ることができる。添加量の上限は、本発明鋼材はその性質上溶接されるものではないため、一般的な鋼材のように溶接性によって制限されるものではなく、単に硬化性に対する効果はもちろん、合金コスト上規制したもので、Cu、Ni、Cr、Moでは0.5%、Nb、Vでは0.05%とした。これらの選択元素は、単独添加はもちろんのこと、焼入れ性に対して加算性を有するため、2種以上任意の組合せをとることができる。
【0015】
その他、鋼に不可避的に存在する不純物(P、Sなど)については特に限定しない。
【0016】
【実施例】
表1、表2(表1のつづき−1)、表3(表1のつづき−2)、表4(表1のつづき−3)は、本発明の有用性を例示するために用いた鋼の成分を示したもので、鋼A〜AEは本発明成分、鋼R1〜R4は比較成分である。これらの鋼を板厚12mmに熱間圧延し、本発明に規定される表面凹凸および表層硬度を付与した鋼材を図2に示すような試験体を用いてすべり係数を測定した。測定に当たっては、被接合母材1、治具プレート4はSM490A鋼、ボルト3はF15Tを用い、スプライスプレート2が本発明鋼材である。
【0017】
表5、表6(表5のつづき)は、スプライスプレートの摩擦接合面の凹凸の高低差および形状、250Hv以上となる表面からの深さ、すべり係数、凹凸加工法、表層硬化法を示したものである。
【0018】
【表1】
Figure 0003607742
【0019】
【表2】
Figure 0003607742
【0020】
【表3】
Figure 0003607742
【0021】
【表4】
Figure 0003607742
【0022】
【表5】
Figure 0003607742
【0023】
【表6】
Figure 0003607742
【0024】
表5、表6中、実施例1〜31は、何れも本発明で規定する成分、摩擦接合面の凹凸、表面硬さなどを有するため、0.9以上の高いすべり係数を発現している。表層硬化はとして凹凸加工後のオフライン焼入れ、または熱間圧延工程における最終パスでのロールによる凹凸転写後直接焼入れとしたが、一部レーザーによる表面凹凸加工のままで行った。これはレーザーの出力を適正に調節することにより表面から所要硬化深さ(0.5mm以上)を得ることができる例を示すものである。
【0025】
これに対して比較実施例32〜37では、鋼成分、表面硬さ、硬化深さ、摩擦接合面の凹凸のいずれか一つまたは複数が本発明の範囲を逸脱しているために、すべり係数が概して低い。
なお、鋼R2、R3による比較実施例33、34は、それぞれSi、Alが過剰に添加されており、鋼材製造、凹凸加工時には大きな問題にはならなかったが、焼入れ処理を施す場合には、焼入れ後の靱性が低く、摩擦接合面の凹凸が潜在亀裂として生じて、摩擦接合部の信頼性を損ねるおそれがある。
【0026】
【発明の効果】
本発明により、安定して高いすべり係数(0.9以上)を容易に得ることが可能になった。この結果、建築、橋梁分野などにおいて、高力ボルト摩擦接合部の信頼性を高める構造部材として提供することができ、その工業的価値は大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の最も好ましい摩擦接合面の凹凸形状を示す模式図である。
【図2】すべり係数測定のための試験体を示す図である。
【符号の説明】
1 被接合母材
2 スプライスプレート(本発明鋼)
3 ボルト
4 治具プレート

Claims (1)

  1. 鋼材組成が重量%で、
    C:0.10〜0.25%、
    Si:0.05〜0.60%、
    Mn:1.0〜2.5%、
    Al:0.060%以下、
    Ti:0.005〜0.030%、
    B:0.0005〜0.0030%、
    N:0.0060%以下
    を含有し、さらに
    Cu:0.5%以下、
    Ni:0.5%以下、
    Cr:0.5%以下、
    Mo:0.5%以下、
    Nb:0.05%以下、
    V:0.05%以下
    の範囲で1種または2種以上の任意の組合せで含有し、かつ
    Ti−3.4N>0
    を満足する鋼材の摩擦接合面に、
    高低差:0.2〜1.0mm
    の凹凸を有し、かつ、焼入れあるいはレーザー加工、放電加工によって表面から0.5mm以上がヴィッカース硬さ250以上であることを特徴とする高力ボルト摩擦接合用鋼材。
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