JP3828666B2 - 引張り強度が490N平方mm以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はトンネル工事における支保に用いられる高強度H形鋼およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トンネルの支保のパターンとしては地質の状況に応じて種々のものが実用化されており、詳細はトンネル標準示方書(山岳編)などに述べられている。ロックボルトを地中に打ち込む方法は共通であるが、トンネルの内壁を支保するものとしてはコンクリートを吹き付けるもの、鋼製の支保工をアーチ型に曲げ加工して用いるものが主なものである。鋼製の支保工として、従来は曲げ加工性の良い400N/mm2 級の高張力の形鋼が用いられてきた。
【0003】
しかしながら、近年のトンネルの大断面化により、トンネルの断面形状が従来の円形から偏平になり、荷重形態も軸力のみが主たる外力であったものから、軸力と曲げ力が組合わさったものに変化してきた。そのため、従来の400N/mm2 級の鋼製の支保工を用いると、断面積と断面係数の大きなものが必要となり、施工工期が長くなり、且つ施工コストは大幅に増加するという問題点があった。
【0004】
しかしながら、トンネル支保用には強度のみならず耐溶接割れ性が良好なこと、水素性欠陥がないこと、靭性が良好なこと、更に良好な曲げ加工性を有することなど多くの要求を伴うことから、トンネル支保用に400N/mm2 級を超える支保工が用いることは難しかった。これらの要求の内、特に高強度と曲げ加工性をともに満足させることは困難であった。なぜならば、通常の方法で製造されたH型鋼は断面全域にわたり同様の組織を有し、強度も断面全域でほぼ同様であることから、強度上昇がそのまま曲げ加工性の劣化をもたらし、曲げ加工時に割れやすく、スプリングバック量も大きいなど、実際の加工が難しいという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、曲げ加工性が良好で耐溶接割れ性、耐水素性欠陥及び靭性を兼ね備えた引張強度490N/mm2 以上のトンネル支保工用H形鋼とその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記のような従来のトンネル支保工用H形鋼の欠点を有利に排除しうる、曲げ加工性が良好で耐溶接割れ性、耐水素性欠陥及び靭性を兼ね備えた引張強度490N/mm2 以上のトンネル支保工用H形鋼とその製造方法であり、その要旨とする所は次の通りである。
(1)重量%で、
C :0.04〜0.13%、 Si:0.05〜0.40%、
Mn:0.3〜1.5%、 Al:0.005〜0.10%、
不純物として
S :0.010%以下、 P :0.020%以下、
H :2.5ppm 以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フランジ部における金属組織の面積率の85%以上がフェライトとパーライトの混合組織であり、かつウェブ部における金属組織の面積率の60%以上がベイナイトまたはマルテンサイトもしくはこれらの混合組織であり、フランジとウェブの厚みが6mm以上25mm以下であことをことを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。
【0007】
また、本発明は上記(1)記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分として、以下の(2)乃至(7)の各項に記載した成分を各項記載毎に、あるいは各項を組合わせてさらに含有させることができる。
(2)重量%で、
Ti:0.002〜0.10%、 Nb:0.005〜0.10%
の1種または2種以上を含有すること。
(3)重量%で、V:0.005〜0.1%を含有すること。
(4)重量%で、
Cu:0.05〜0.5%、 Ni:0.05〜0.5%、
Cr:0.05〜0.5%、 Mo:0.05〜0.5%、
Co:0.05〜0.5%、 W :0.05〜0.5%
の1種または2種以上を含有すること。
(5)重量%で、B:0.0002〜0.0025%を含有すること。
(6)重量%で、
Rem:0.002〜0.10%、
Ca:0.0003〜0.0030%
の1種または2種以上を含有すること。
(7)重量%で、Mg:0.0003〜0.01%を含有すること。
【0008】
(8)さらに本発明は上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の成分を含有する鋼片または鋳片を1100℃以上に加熱した後に、800℃以上の温度域でフランジ厚6mm以上25mm以下、ウエブ厚さ6mm以上25mm以下の範囲としたH形鋼への圧延を終了し、圧延後ウェブ部のみを2℃/s以上35℃/s以下の冷却速度で650℃以下まで冷却し、フランジ部は2℃/s以下の冷却速度で冷却または放冷することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の根幹をなす技術思想は以下の通りである。
大断面のトンネルに従来の400N/mm2 級の鋼製の支保工を用いると、断面積と断面係数の大きなものが必要となり、施工工期が長くなり、且つ施工コストは大幅に増加してしまう。従来のサイズで大断面のトンネルに耐え得る断面係数を有するためには、H形鋼の強度は490N/mm2 以上必要である。
【0010】
一般に、鋼を高強度化する方法としては固溶強化、析出効果、変態強化、加工硬化などの機構が用いられる。H形鋼のように部位によって厚みが異なり、よって熱間圧延後に変態する際の冷却速度も異なる場合は、強化機構が冷却速度に比較的依存しない固溶強化、加工硬化を用いることが好ましい。しかし過度の固溶強化は溶接性を損ない、且つ製造コストを著しく上昇させる。またH形鋼を冷間加工で製造することは加工装置に多大なパワーが要求されるため不可能に近く、よって加工硬化による高強度化も期待できない。析出効果、変態強化は変態時の冷却速度依存性が非常に大きいため、断面内での強度のばらつきを広げることになりかねず、H形鋼の高強度化機構としては不適であった。
【0011】
しかしながら本発明者らは、所定の成分系の鋼を用いて、所定のサイズのH形鋼に圧延し、さらに圧延後にウェブのみを所定の冷却速度で冷却すれば、フランジの金属組織の85%以上がフェライトとパーライトの混合組織となり、ウェブの60%以上がベイナイト、マルテンサイトまたはそれらの混合組織となり、これにより断面平均で490N/mm2 以上の任意の強度が安定して得られることを見出した。
【0012】
また、トンネル支保工には強度のみならず、耐溶接割れ性が良好なこと、水素性欠陥がないこと、靭性、延性が良好なことなど、多くの要求が伴い、従来の高強度鋼でこれらの要求を満足することは難しかったが、本発明のように比較的少ない合金添加量で均一なフェライトとパーライトの混合組織とすれば、耐溶接割れ性、靭性、延性ともに良好な特性が得られることも見出した。また、水素性欠陥の防止は鋼中の水素量を制限することにより達成可能である。
【0013】
以下に製造方法の限定理由を詳細に説明する。
まず本発明における出発材の成分の限定理由について述べる。
Cは、鋼を強化するのに有効な元素であり、0.04%未満では十分な強度が得られない。一方、その含有量が0.13%を超えると硬化しすぎて割れやすくなる。
【0014】
Siは脱酸元素として、また鋼の強化元素として有効であるが、0.05%未満の含有量ではその効果がない。一方、0.4%を超えると、溶接部の靭性を損なう。
Mnは鋼の強化に有効な元素であり、0.3%未満では十分な効果が得られない。一方、その含有量が1.5%を超えると鋼の加工性を劣化させる。
【0015】
Alは脱酸元素として添加される。0.005%未満の含有量ではその効果がなく、0.1%を超えると、鋼の表面性状を損なう。
SはMnSを生成し、超音波探傷時の不合格の原因となるため、含有量を0.01%以下に制限する。
【0016】
Pは靭性を劣化するため、含有量を0.02%以下に制限する。
Hは水素性欠陥の原因となる。すなわち、水素は圧延前の鋼片または鋳片内にあるポロシティー内に集まり、圧延によりそのポロシティーが圧着するのを阻害するため、含有量を2.5ppm 以下に制限する。
【0017】
さらに本発明では以下の成分を必要に応じて添加する。
NbとTiは何れも微量の添加で結晶粒の微細化と析出硬化の面で有効に機能するが、過度に添加すると析出脆化をおこす。このためその添加量の上限を0.10%とする。添加量が少なすぎると効果がないため、Tiの添加量の下限を0.002%、Nbの添加量の下限を0.005%とする。
【0018】
Vは微量の添加で析出強化をもたらすが、過度に添加すると析出脆化をおこす。このためその添加量の上限を0.10%とする。添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を0.005%とする。
【0019】
Cu,Ni,Cr,Mo,Co,Wは何れも鋼の焼入れ性を向上させる元素である。本発明における場合、その添加により鋼の強度を高めることができるが、過度の量の添加は鋼を硬化させ割れやすくするため、何れの元素とも0.5%以下に限定する。また添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を何れの元素とも0.05%とする。
【0020】
Bは鋼の焼入れ性を向上させる元素である。本発明における場合、その添加により鋼の強度を高めることができるが、過度の添加はBの析出物を増加させて鋼の靭性を損なうため、その含有量の上限を0.0025%とする。また添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を0.0002%とする。
【0021】
RemとCaはSの無害化に有効であるが、添加量が少ないとSが有害のまま残り、過度の添加は靭性を損なうため、Rem:0.002〜0.10%、Ca:0.0003〜0.0030%の範囲で添加する。
【0022】
Mgは微細な酸化物となり鋼の組織を微細化し靭性を向上させる。0.0003%未満ではその効果がなく、0.01%を超えると酸化物を起点とした割れが生じやすくなるため、含有量を0.0003〜0.01%の範囲とする。
【0023】
次に本発明におけるH形鋼のサイズの条件について述べる。
フランジ厚さ、ウェブ厚さともに6mm以上25mm以下の範囲に制限し、圧延後にウェブのみを所定の冷却速度で冷却することにより、本発明鋼の成分範囲でフランジのフェライトとパーライト組織の分率を85%以上、かつウェブのベイナイト、マルテンサイトまたはこれらの混合組織の分率を60%とすることができる。
【0024】
フランジのフェライト+パーライト組織分率が85%未満では、フランジの強度が過大で曲げ加工時の抵抗が大きく、割れを生じたり、スプリングバック量が大きく加工精度が劣化するなどの問題が起こる。フェライトの形状は粒状、針状何れでも構わない。また、ウェブのベイナイト、マルテンサイトまたはこれらの混合組織の分率を60%未満であると断面全体で見た場合の強度が不足し、引張強度が490N/mm2 に満たなくなる。引張り強度が490N/mm2 であれば、この厚みの範囲で十分な断面係数と支保力を有することができる。
【0025】
次に本発明におけるH形鋼の製造条件について述べる。
本発明鋼で十分な強度・延性を得るためには、フェライト−パーライト組織主体のフランジの金属組織をを出切るだけ細粒にする必要がある。圧延温度が低下し過ぎて変態温度以下でフェライトが圧延されると延性・靭性が損なわれるため、圧延前の加熱工程と圧延終了温度の下限を設定する必要がある。そのため加熱温度の下限を1100℃とする。それ以下では圧延終了温度を変態点以上に確保できない場合がある。
さらに圧延終了温度が800℃を切ると部分的に圧延中にフェライトが生成してしまうため、その下限を800℃とする。
【0026】
この様な条件で加熱・圧延した後の冷却速度が遅いとフェライト−パーライト主体の組織、速いとベイナイトまたはマルテンサイト組織が生ずる。本発明においてはフランジを前者、ウェブを後者とするためにフランジの冷却速度を2℃/s以下、ウェブを2℃/s以上30℃/s以下の冷却速度とし、650℃以下まで冷却する。これにより、比較的微細なフェライトとパーライトの混合組織の分率が85%以上のフランジと、ベイナイトまたはマルテンサイトまたはその混合組織が60%以上となるウェブが得られる。フランジは2℃/s以下の冷却速度であれば良く、圧延後放冷してもかまわない。
【0027】
このような組織からなるH形鋼は断面全体で所定の強度を有し、さらに靭性も良好である。ウェブの冷却速度が2℃/s未満では所定の量のベイナイトやマルテンサイトが得られず、30℃/sを超えるとマルテンサイ組織の分率が高くなり過ぎて硬度が上昇し、加工中割れを生ずる。また冷却停止温度が650℃超では、やはり所定の量のベイナイトやマルテンサイトが得られない。
【0028】
【実施例】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
まず表1に示す化学成分の鋼を表2に示す製造条件で、表2中に示すサイズのH形鋼とした。このH形鋼の各位置での金属組織、強度、伸び、靭性さらには最高硬さ試験における最高硬度、溶接部のUST欠陥判定結果、曲げ加工試験時の割れ発生率、スプリングバック量は表3(表3−1、表3−2)に示す。
【0029】
表3において、フェライト−パーライト組織率は、200倍の光学顕微鏡写真によりポイントカウンティング法で測定した。引張試験片はJIS 1A号、衝撃試験片はJIS 4号(板厚中心部から採取)又はそれに相似形のもの(板厚が10mm以下の場合)を用いた。最高硬さ試験は590N/mm2 級の強度の溶接棒を用いて、170KJ/cm の入熱量でビードを置いたものの板表面下2mmの硬度をビッカース硬度計(10kg)で測定した。
超音波探傷(UST)はJISに従って測定した。溶接部はH形鋼の長手方向に垂直な断面に板を合わせ、H形鋼の断面形状に沿って隅肉溶接したものである。曲げ加工後のずれ量は図1に示すXの距離を測定して判定した。H形鋼の長さはいずれも12mである。曲げ半径はワ、カ、ソが4.1m、それ以外が2.6mである。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【発明の効果】
表3によると、本発明のH形鋼は何れもフランジはフェライト・パーライト主体の組織を有し、かつウェブはベイナイトやマルテンサイト主体の組織を有し、引張強度はフランジ部では490N/mm2 以上、ウェブ部では590N/mm2 以上を有し、かつ伸び、衝撃値共に従来鋼に比べて良好である。さらに曲げ加工時のわれ発生もなく、スプリングバック量も小さい。
さらに最高硬さ試験における最高硬度は軒並み280程度と従来鋼のそれに比べて格段に低く、十分な耐溶接割れ性を有することがわかる。さらに溶接部のUST欠陥判定結果から不合格材は皆無であった。このように本発明鋼および発明法を適用することにより、大断面トンネルの支保工として使用するに十分な特性を有する引張強度490N/mm2 以上のH形鋼が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】H形鋼における曲げ加工後の先端部ずれ量の測定基準を示す図。
Claims (8)
- 重量%で、
C :0.04〜0.13%、
Si:0.05〜0.40%、
Mn:0.3〜1.5%、
Al:0.005〜0.10%、
不純物として
S :0.010%以下、
P :0.020%以下、
H :2.5ppm 以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フランジ部における金属組織の面積率の85%以上がフェライトとパーライトの混合組織であり、かつウェブ部における金属組織の面積率の60%以上がベイナイトまたはマルテンサイトもしくはこれらの混合組織であり、フランジとウェブの厚みが6mm以上25mm以下であことをことを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
Ti:0.002〜0.10%、
Nb:0.005〜0.10%
の1種または2種を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1あるいは2に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
V:0.005〜0.1%
を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1乃至3の何れか1項に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
Cu:0.05〜0.5%、 Ni:0.05〜0.5%、
Cr:0.05〜0.5%、 Mo:0.05〜0.5%、
Co:0.05〜0.5%、 W :0.05〜0.5%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1乃至4の何れか1項に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
B :0.0002〜0.0025%
を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1乃至5の何れか1項に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
Rem:0.002〜0.10%、
Ca :0.0003〜0.0030%
の1種または2種を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1乃至6の何れか1項に記載のトンネル支保工用H形鋼において、鋼成分としてさらに重量%で、
Mg:0.0003〜0.01%
を含有することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼。 - 請求項1乃至7の何れか1項に記載の成分を有する鋼片または鋳片を1100℃以上に加熱した後に、800℃以上の温度域でフランジ厚6mm以上25mm以下、ウエブ厚さ6mm以上25mm以下の範囲としたH形鋼への圧延を終了し、圧延後ウェブ部のみを2℃/s以上35℃/s以下の冷却速度で650℃以下まで冷却し、フランジ部は2℃/s以下の冷却速度で冷却または放冷することを特徴とする引張り強度が490N/mm2 以上の曲げ加工性の良いトンネル支保工用H形鋼の製造方法。
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