JP4616523B2 - 高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法 - Google Patents

高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、橋梁などにおける構造の摩擦接合に利用される高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートに関するものである。本発明のスプライスプレートは、安価でしかも安定して高い滑り係数の摩擦接合を得ることができ、これを用いることにより接合効率が向上し、ボルト締結本数を低減したり、鋼構造物の安定性を高めることができる。
【0002】
【従来の技術】
建築用鋼材などを直列に接合する際は、被接合鋼材を突き合わせて、その両側にスプライスプレートを添えてボルトで締め付けて接合する、いわゆる、高力ボルト摩擦接合が一般的に採用されている。高力ボルト摩擦接合において、日本建築学会の設計施工指針では、接合耐力上重要となる摩擦面は、黒皮の除去された良好な赤錆面で、すべり係数が0.45を上回る処理を施すこと、また、すべり係数はすべり耐力試験により確認する必要があるとしている。通常、良好な赤錆状態であれば、すべり係数は0.45を上回ることが知られているが、錆生成状態が環境等の原因で異なるとばらつきが発生し、未達となる可能性がある。
【0003】
このため、鋼材表面に赤錆を発生させる方法の他に、特開平11−247831号公報にあるように、接合面に転造等の加工法で凹凸を付ける方法などが提案されている。このときの凹凸部は、その本来の目的である摩擦力を向上させるため高周波加熱法などで表面処理がなされていた。しかし、これらの表面処理方法では凹凸部全面処理するため、高硬度が必要な凸部以外の凹部も硬化することはさけられなかった。このため、スプライスプレート部に引っ張り、曲げ、剪断成分が加わる場合、凹部より亀裂進展しスプライスプレートが割れる等の問題があった。また、スプライスプレート全面にわたって硬化に充分な熱を入れるために、冷却時に変形しスプライスプレートの必要項目である全てのボルト回りでの押しつけが不充分となり、ひいては隙間の発生等で、充分な摩擦接合が得られないという問題もあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高速で安価なレーザ熱処理を加え、耐久性があり、且つ安定なすべり係数を持つ凹凸付きのスプライスプレートを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために硬度の必要な部分の焼き入れのみを行うことで、安定なすべり係数と耐久性を得るものであって、その要旨とするところは、以下の通りである。
)ボルト孔と同心円状、又はボルト孔近傍に直線状に連続した山形の凹凸を持つ鋼板からなるスプライスプレートに、レーザビームを該スプライスプレートの表面の直角方向から矩形または線状に集光・走査して、前記凹凸の凸部を前記鋼板のマルテンサイト変態点よりも高温に加熱してから冷却してレーザ焼き入れし、前記凸部の硬さが凹部の底部近傍の硬さよりも硬くすることを特徴とする高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法。
)炭酸ガスレーザからのレーザビームを用い、前記スプライスプレートの表面にレーザ吸収率を向上させるためのカーボン系の吸収剤を塗布することを特徴とする前記()に記載の高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明に関わるスプライスプレートは切削、または転造により製作された凹凸が図1に示すように、ボルト孔1の回りにボルト径の略3倍の領域d1及びd2に連続した同心円状、または直線状の凹凸2が付与されている。このため凸部頂点は母材から突き出しており、ボルトの締め付けにより被接合鋼材に食い込み滑り係数を増加させる構造になっている。そのスプライスプレートの凸部のみが熱処理により母材に比べ硬くなっていることで、食い込み効果がより顕著なものになっている。図1(c)の凹凸2における斜線部が焼き入れ部を示している。これに対し、凹部底部近傍、および凹凸部以外の部分の硬度は焼き入れ前の硬度と略同一となっている。このため、スプライスプレート自体の引張強度、疲労強度等の機械特性は熱処理により変化せず、設計値通りの特性を安定に得ることができるものである。
【0007】
このスプライスプレートの製造法は、レーザビームを矩形または線状に集光し表面を走査させることにより熱処理を行い凸部のみを急速加熱し高硬度化するものである。図2は本発明の一実施例として、レーザ処理を行った後のスプライスプレート凸部(図1中の2a)より、凹部底(図2中の2b)まで、凸部頂点より鉛直線方向に採取した硬度データを示すものである。硬度の測定点は、該凸部の頂点先端から凸部高さの3/4が処理前母材の表面硬さよりも2倍程度硬くなっている。しかし、該凹部近傍は処理前と略同じ硬さとなっている。
【0008】
この焼き入れのメカニズムについては、図3に示すレーザ焼き入れ時の昇温シミュレーション結果を基に説明する。このシミュレーションで用いた条件は、レーザパワーが10kW、被加工材上でのビーム形状は70mm×2mmの矩形形状で、短辺と平行な方向に2m/min の速度で走査したものである。被加工材は、炭素量が0.35%の機械構造用炭素鋼であり、凸部より凹部までの高さが2mmであり、頂角60°である突起を持つスプライスプレートである。シミュレーション結果は、その部分の達する最高温度が等高線上に表示されている。被加工材の凸部は左右の斜面よりのレーザ入熱が加算されるにことにより、容易に加熱され硬化に必要な変態点となる。この例では、変態点は850℃である。これに対して、凹部はレーザビーム4による入熱が伝熱により拡散され易く、温度上昇が変態点以下に抑えられるため硬化しない。
【0009】
ここで、レーザ焼き入れにおいては冷却速度は一般に、他の高周波焼き入れ等と違い、充分速いため変態点に達した部分はすべてマルテンサイトとなり硬化することはよく知られている。このシミュレーションにおいても、変態点からの変態終了点であるMs点(約450℃)までの冷却速度は約0.3秒で焼き入れに必要な速度は充分であった。また、焼き入れによって得られるマルテンサイト組織は一般の鋼板製造時の組織であるパーライト組織に比べ、2倍以上の硬度を有することもよく知られている。このため、上記の切削、転造等で作られた凹凸を持つスプライスプレートにおいて凸部のみ高硬度化することが可能となった。
【0010】
【実施例】
図4に示す通り、全長500mm、全幅200mm、板厚15mmである鋼板上に、60mm径の転造加工された同心円状突起2が8ヶ所で、凸部より凹部までの高さが2mmであり、頂角60°である転造突起を持つスプライスプレート3に対し、レーザ出力が10kWである炭酸ガスレーザを用い、照射位置に於けるレーザビームが長辺70mm、短辺2mmの矩形状に集光したビームを用いてスプライスプレート表面に直角方向から照射し、短辺と平行方向に走査して焼き入れ処理を、4ヶずつ2列に分けて行った。被加工材は、表面にレーザ吸収率を向上させるためにカーボン系の吸収剤を塗布した、カーボン量が0.35%の機械構造用炭素鋼を用いた。スキャン速度を、2m/min としたときの硬化の分布が図2となり、凸部の頂点先端から凸部高さの約70%が処理前母材の表面硬さであるHv200に対して2倍以上のHv500となっている。また、冷却後のスプライスプレートは反り等の変形は皆無であった。また、このスプライスプレートを曲げ試験を行った結果は、熱処理前の疲労特性と同等で、凹部よりの亀裂伸展等は皆無であった。
【0011】
ここで用いた、レーザの照射位置に於けるビーム形状は矩形であったが、長楕円等の長手方向に均一なパワー密度を持つ形状のビームでも処理は可能である。
また、突起形状、サイズが変化した場合にも、用いるレーザのパワーと、集光ビーム形状、走査速度を変化させることにより、同様のメカニズムで突起部のみを硬化させることは可能である。
【0012】
【発明の効果】
ボルト孔と同心円状、又はボルト孔近傍に直線状に連続した山形の凹凸を持つ本発明の高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートにおいて、前記山形の凹凸部が焼き入れされ、凸部の硬さが凹部の底部近傍の表面硬さよりも硬くしたことで、反り等の変形や疲労強度の低下なしに、高い滑り係数を安定に得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるスプライスプレートのボルト孔付近の形状説明図である。
【図2】レーザ熱処理により硬化したスプライスプレートの凸部頂点より、凹部底までを硬度測定した結果。
【図3】本発明によるスプライスプレートの処理時に於ける昇温シミュレーションの結果。
【図4】本発明によりレーザ熱処理したスプライスプレートの全体略図。
【符号の説明】
1 ボルト孔
2 凹凸
3 スプライスプレート
4 レーザ光

Claims (2)

  1. ボルト孔と同心円状、又はボルト孔近傍に直線状に連続した山形の凹凸を持つ鋼板からなるスプライスプレートに、レーザビームを該スプライスプレートの表面の直角方向から矩形または線状に集光・走査して、
    前記凹凸の凸部を前記鋼板のマルテンサイト変態点よりも高温に加熱してから冷却してレーザ焼き入れし、
    前記凸部の硬さが凹部の底部近傍の硬さよりも硬くすることを特徴とする高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法。
  2. 炭酸ガスレーザからのレーザビームを用い、前記スプライスプレートの表面にレーザ吸収率を向上させるためのカーボン系の吸収剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法。
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