JP3598401B2 - 封孔処理剤、封孔処理方法及び封孔処理を施した溶射皮膜被覆部材 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、溶射皮膜を封孔する封孔処理剤、該封孔処理剤を用いる封孔処理方法及び該方法により得られる溶射皮膜被覆部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼等の素地基材の表面に金属またはセラミックスを溶射し、耐熱性、耐摩耗性、または耐食性を高める技術が広く用いられている。一般に溶射皮膜はその皮膜形成原理上、気孔(間隙)を有しており、気孔は種々の特性を皮膜自体に付与している。このうちあるものはいわゆる貫通気孔の様態を呈し、皮膜表層が接している環境と皮膜が被覆されている基材を連絡する。しかしながら、溶射皮膜が有する気孔の構造によっては、気体や液体が皮膜が被覆されている部材素地まで浸透、拡散したりする。その結果、溶射材自身が腐食劣化したり、素地基材が炭素鋼などの場合は、皮膜と基材の接触界面で、基材が選択的に腐食劣化して、溶射皮膜の基材に対する接合性が損なわれ剥離したりすることがある。
【0003】
そこで、溶射皮膜を形成した後、何らかの封孔処理を行い、皮膜の環境遮断性を高めることがしばしば行なわれる。
【0004】
従来から広く知られかつ実用されている一般的な封孔処理方法として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂を有機溶剤に溶解させた封孔処理剤を溶射皮膜に塗布する方法がある。しかし、この方法では、合成樹脂は溶射皮膜表面に塗布されるだけで細孔の底部までは浸透しない。従って、形状(寸法)精度を保つために、封孔処理後に溶射皮膜表面を研削あるいは研磨などで除去した場合、溶射皮膜に対する封孔処理効果はほとんど期待できないことがある。また、使用している過程で摩耗により合成樹脂の塗膜がすり減ってしまい、封孔処理の効果が持続しない場合もある。
【0005】
これらを改善する方法として、例えば、可視光線により硬化する光硬化性樹脂を封孔処理剤として利用するもの(特開平5−106014号公報)、電着塗料を用いて、塗料粒子の電気泳動現象で溶射皮膜の細孔中に析出・充填させようとするもの(特開平6−212391号公報など)、溶射材料中にガラス質物質を形成するB2O3を添加して皮膜を形成し、その後の加熱処理で溶融B2O3が気孔充填作用をおこなうもの(特開平10−259469号公報)などが提案されている。しかし、これら方法は、加圧又は減圧が必要であるなど、いずれも特殊な装置を必要としたり、工程が煩雑であるなど、工業的生産方法に適していない。
【0006】
また、含フッ素化合物をアルコール類,ケトン類,芳香族系,フッ素系有機溶剤で希釈して封孔処理を行う方法が提案されているが(特開平10−68086号公報)、溶剤の揮発により封孔処理剤内部に微細な空隙を残すことから、この方法では溶射皮膜内部の細孔を効率よく充填することができない。このため、低pH水溶液環境下、例えば酸水溶液の接触があるような雰囲気下では、炭素鋼基材などに対する防食性が十分でないとの欠点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、浸透性向上のための加圧または減圧雰囲気など特殊な環境を必要とせず、比較的手軽に処理できる封孔処理剤および封孔処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
溶射皮膜に代表されるいわゆるラビリンス構造(迷宮構造)を有した積層体に、封孔処理剤のような比較的低粘度の流体を侵入させ、その結果、皮膜内部に存在する間隙、粒子境界を充填する試みは古くから多くの提案がある。大きな課題は浸透性と充填性の両立をいかに図るかという点であった。よく知られているように、浸透性を重視すると封孔処理剤は皮膜内部まで浸透はするものの、充填性が不充分で外部から水や酸素が侵入する空隙部が残る。これに対し充填性を考慮すれば、主として皮膜表層部分は封孔効果が期待できるが、形状精度を付与するために行われる研削・研磨加工あるいは、使用中に被る摩擦・摩耗履歴によって、封孔部分が除去、消滅するのでその効果がしばしば早期に減退する。本発明者は、浸透性と充填性の両立を図るために、種々の方法を検討した。
【0009】
ラビリンス構造(迷宮構造)を有した積層体の間隙、粒子境界の充填を図るには、間隙に侵入しやすい配合物が必要である。そのためには溶液粘度が低く、かつ間隙に浸透する際の分子内ストレスが少ない低重合度のオリゴマーを主成分とする合成樹脂溶液が有効であることに着目した。
【0010】
一方、封孔処理剤の粘度低下に用いる希釈溶剤は、揮発によって封孔処理剤内部にミクロ的な空隙を残す。このミクロな空隙が溶射膜底部まで達している場合が多いため、封孔処理を施したにも関わらず長期間経過後に溶射基材の腐食が発生する場合が多かった。本発明では、希釈溶剤として重合性有機溶剤を使用することにより、封孔処理剤における溶剤の揮発による空隙の発生を抑制し、また反応後に揮発分が消滅した後も自らの収縮による容積減を低下させることに成功した。
【0011】
さらに、重合性有機溶剤で希釈した低重合度の合成樹脂溶液に、フッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物の少なくとも1種を配合することにより、封孔処理剤の表面張力が減少し、ラビリンス構造(迷宮構造)の細間隙への進入がより容易になることを見出した。
【0012】
即ち、本発明者は、フッ素系界面活性剤およびパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに重合性有機溶剤で希釈した低重合度の合成樹脂を含有する封孔処理剤が、溶射皮膜の気孔(間隙)に対する浸透性および充填性に優れ、封孔処理後に溶射皮膜表層部分を研削あるいは研磨除去した場合でも封孔処理剤の浸透・充填層が十分存在し、その結果皮膜の基材保護性を大幅に向上させ、さらに機械的強度、耐摩耗性、体積抵抗率、耐電破壊特性などの物性をも向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の各項に示す発明に係る。
項1 (i)合成樹脂、
(ii)重合性有機溶剤、並びに
(iii)フッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
を含有する封孔処理剤。
項2 合成樹脂の数平均分子量が、100〜10,000である項1に記載の封孔処理剤。
項3 重合性有機溶剤が、重合性ビニル基含有モノマーである項1に記載の封孔処理剤。
項4 フッ素系界面活性剤が、パーフルオロ基を含有するフッ素系界面活性剤である項1に記載の封孔処理剤。
項5 パーフルオロ基含有有機ケイ素化合物が、シラン化合物及びシラザン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の封孔処理剤。
項6 溶射皮膜の気孔に項1〜5のいずれかに記載の封孔処理剤を浸透させ、次いで重合性有機溶剤を重合させることを特徴とする溶射皮膜の封孔処理方法。
項7 溶射皮膜が、金属、合金、酸化物セラミックスまたは炭化物サーメットからなる皮膜であることを特徴とする項6に記載の方法。
項8 基材表面に溶射皮膜を形成し、得られた溶射皮膜の気孔に項1〜5のいずれかに記載の封孔処理剤を浸透させ、次いで重合性有機溶剤を重合させて溶射皮膜の封孔処理を行うことを特徴とする溶射皮膜被覆部材の製造方法。
項9 溶射皮膜の封孔処理を行った後、該溶射皮膜の表面に存在する封孔処理剤により形成された層を、研削乃至研磨により除去することを特徴とする項8に記載の製造方法。
項10 項8又は9に記載の方法により得られる溶射皮膜被覆部材。
項11 項8又は9に記載の方法により得られ、溶射皮膜の気孔が合成樹脂及び重合性有機溶剤の重合物で実質的に全て充填されている溶射皮膜被覆部材。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
(i) 合成樹脂
合成樹脂としては、溶射皮膜の気孔に侵入できるような流動性のある液状樹脂であればよく、2個以上の繰返し単位を有しているものであればよい。合成樹脂の数平均分子量としては、100〜10,000程度が好ましく、150〜5,000程度がより好ましい。なお、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。また、合成樹脂は、粘度が、1〜5,000mPa・s(cP)程度のものが好ましく、1〜3,000mPa・s(cP)程度のものがより好ましい。
【0016】
合成樹脂は、エポキシ基のように官能基を有していてもよいし、官能基を有していないようなものであってもよい。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂など公知の合成樹脂を用いることができる。これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
本発明で用いる合成樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、キシレン樹脂が好ましく、低分子量の樹脂を得やすいという点から、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。エポキシ樹脂では、繰返し単位が2〜10個程度、或いは数平均分子量が300〜5000程度のものを好ましく用いることができる。これらエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、100〜1000程度が好ましい。アクリル樹脂としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等を単独又は2種以上組み合わせた重合体が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0018】
(ii) 重合性有機溶剤
重合性有機溶剤としては、それ自身で重合することができ、封孔処理剤に含まれる合成樹脂を溶解できるようなものであればよく、合成樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、重合性有機溶剤としては、シクロヘキセン、スチレン、酢酸ビニル、フェニルビニルエーテル、メチルビニルケトン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、ジシクロペンタジエン、又はこれらの誘導体など公知の重合可能なビニル基含有モノマーを用いることができる。合成樹脂がエポキシ樹脂である場合、グリシジルエチルエーテルなどのグリシジルエーテルなどを組み合わせることができる。合成樹脂としてフッ素系樹脂を用いる場合、重合性有機溶剤として、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等を用いることが好ましい。
【0019】
また、これら重合性有機溶剤は、それ自身が重合可能であればよく、必ずしも合成樹脂と反応する必要はない。
【0020】
例えば、エポキシ樹脂を溶解する有機溶剤として、スチレン、(メタ)アクリレート等のエポキシ樹脂とは反応しない重合性有機溶剤を用いた場合、重合性有機溶剤はそれ自身を繰り返し単位とする重合体を形成させ、テトラヒドロメチル無水フタル酸等の酸無水物、ジエチレントリアミンなどのアミン類等の硬化剤を配合してこれによりエポキシ樹脂を硬化させることも可能である。この場合の酸無水物の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に応じて適宜設定することができる。
【0021】
重合性有機溶剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
重合性有機溶剤の使用量は、合成樹脂の種類に応じて、封孔処理剤の粘度が1〜1500mPa・s(cP)程度、好ましくは30〜1000mPa・s(cP)程度になるように設定することができ、通常、合成樹脂100重量部に対して、1〜100重量部程度とすることが好ましく、5〜50重量部程度とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の封孔処理剤には、重合性有機溶剤としてスチレンなどのビニル基含有モノマーを用いた場合等、必要に応じて適量の重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル)等の反応触媒を使用してもよい。
【0024】
本発明の封孔処理剤は、重合性有機溶剤に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の有機溶剤を含有していてもよい。本発明ではフッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機珪素化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素化合物を必須成分としているため、かかる有機溶剤としては、含フッ素化合物の溶解性の良い有機溶剤を適宜選択して用いることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ベンゾトリフロリド、メタ(又はパラ)キシレンヘキサフルオリド等のフッ素系溶剤を使用できる。これら重合性有機溶剤以外の溶剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
通常の有機溶剤を用いる場合の配合量は適宜設定することができるが、封孔処理剤全重量に対して10質量%以下程度が好ましい。有機溶剤を配合する場合の配合量の下限は特に限定されるものではないが、通常1質量%程度である。
【0026】
(iii) フッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物
本発明の封孔処理剤は、フッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「含フッ素化合物」という場合がある)を含有している。
【0027】
フッ素系界面活性剤
フッ素系界面活性剤としては、公知のアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のフッ素系界面活性剤を使用できる。本発明の封孔処理剤において、フッ素系界面活性剤を配合する場合は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル等を使用できる。カチオン性界面活性剤としては、アミノハロゲン塩、第四級アンモニウム塩等を使用できる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンエーテル型、ポリオキシエチレンエステル型、ソルビタンエステル型等を使用できる。両性フッ素系界面活性剤としては、ベタイン型、イミダゾリン型等を使用できる。
【0029】
本発明で用いるフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ基を含有する界面活性剤が好ましく、パーフルオロ基を含有するノニオン性のフッ素系界面活性剤がより好ましく、その中でもポリオキシエチレンエーテル型が特に好ましい。
【0030】
具体例として、以下のパーフルオロ基を含有する界面活性剤を使用できる。以下の一般式中、Rfはパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を示し、これらの炭素数としては、1〜30程度が好ましく、1〜20程度が好ましい。Mは一価の金属、例えばアルカリ金属(具体的には、Na,K等)を示す。また、下記に例示される界面活性剤において、nは好ましくは1〜30の整数を示し、より好ましくは1〜20の整数を示し、mは好ましくは1〜30の整数を示し、より好ましくは1〜20の整数を示す。Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子または非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1〜10、より好ましくは炭素原子数1〜6の非置換または置換の一価炭化水素基である。Rで示される非置換もしくは置換の一価炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;これらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子(例えば、Cl, Brなど)で置換されたハロゲン化炭化水素基等である。
【0031】
[アニオン性フッ素系界面活性剤]
RfCOOH,
RfCOOM,
Rf(CH2CF2)nCH2COOH,
Rf(CH2)nCOONa,
RfCH=CH(CH2)nCOONa,
RfO(CH2)COOH,
RfCH2CH2OCH2CH2COOH,
RfOC6H4COONa,
RfCH2CH2SCH2CH2COONa,
RfCONH(CH2)5COONa,
RfSO2NH(CH2)3N(CH2COONa)2,
RfSO3H CnF2n+1SO3N(C2H5)4,
CnF2n+1CH2CH2SO3NH4,
CnF2n+1(CH2)mSO3Na,
CnF2n+1C6H4SO3H,
CnF2n+1OC6H4SO3H,
(CnF2n+1)3OC(CH2)3SO3K,
(CF3)2C=C(CF3)OC6H4SO3Na,
C3nF6n−1OC6H4SO3K,
RfCONR(CH2)SO3Na,
RfCH2OSO3Na,
CF3(CF2)nCH2CH2OP(O)(OH)2,
C6F13CH=C(CF3)OPO(OH)2,
F−(CF(CF3)CFO)n−CF(CF3)CH2CH2CH2SO3H
【0032】
[カチオン性フッ素系界面活性剤]
CnF2n+1CH2CH2N+(CH3)2C2H5Cl−,
CnF2n+1CH2NH(CH2)2N+(CH3)3Cl−,
(CF3)2CF(CF2)6CH2CH(OH)CH2N+(CH3)3Cl−,RfCONH(CH2)3N+(CH3)Cl−,
RfSO2NH(CH2)3N+(CH3)3Cl−,
CnF2n+1SO2O(CH2)N+(CH3)3Cl−,
CnF2n+1(CH2)mN+(CH3)3Br−
【0033】
[ノニオン性フッ素系界面活性剤]
CF3(CF2)nCH2O(CH2CH2O)mH,
RfCOOCH2C(CH2OH)3,
CF3CF2(CF2CF2)mCH2CH2O(CH2CH2O)nH,
(CF3)2CFO(CH2)6O(CH2CH2O)nH,
CF3CHFCF2CH2O(CH(CH3)CH2O)mH,
CnF2n+1CH2CH(OH)CH2OC2H5,
CnF2n+1C2H4SO2NH(CH2CH(CH2OH)O)nH,
C6F5(OCH2CH2)10OH,
CnF2n+1CONH(CH2CH2O)mH,
CnF2n+1CONH(CH2)3N(CH2CH2OH)2,
CnF2n+1CON[(CH2CH2O)mH]2
CnF2n+1CH2CH2SO2N(CH3)CH2CH2OH
【0034】
[両性フッ素系界面活性剤]
RfOC6H4CH2N+(CH3)2/CH2COO−
RfCH2CH(OCOCH3)CH2N+(CH3)2CH2COO−
これらの中でも、本発明の封孔処理剤に配合するフッ素系界面活性剤としては、ノニオン性のフッ素系界面活性剤が好ましくポリオキシエチレンエーテル型がより好ましい。
【0035】
パーフルオロ基含有有機ケイ素化合物
パーフルオロ基含有有機ケイ素化合物としては、公知の含フッ素シラザン化合物または含フッ素シラン化合物を使用できる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。本発明の封孔処理剤において用いることができる含フッ素シラザン化合物及び含フッ素シラン化合物としては、下記のものが例示できる。
【0036】
[含フッ素シラザン化合物]
含フッ素シラザン化合物としては下記一般式(I)で表されるパーフルオロ基を含有するシラザン化合物を使用できる。
[(RfQ)aSi(R1)b(NR2)2−0.5a−0.5b]n (I)
一般式(I)において、R1は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子または非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1〜10、より好ましくは炭素原子数1〜6の非置換または置換の一価炭化水素基である。R1で示される非置換もしくは置換の一価炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;これらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子(例えば、Cl, Brなど)で置換されたハロゲン化炭化水素基等である。
【0037】
一般式(I)において、R2は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子またはアルキル基であり、好ましくは水素原子である。R2で示される該当するアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基である。
【0038】
一般式(I)において、Rfは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜20のパーフルオロアルキル基または炭素原子数5〜32のパーフルオロアルキルエーテル基である。Rfは、例えばCiF2i+1−で表されるパーフルオロアルキル基;F−(CF(CF3)CF2O)j−CF(CF3)−で表されるパーフルオロエーテル基である。iは1〜20の整数、jは1〜10の整数である。
【0039】
一般式(I)において、Qは、−CmH2m−または−SO2N(R3)ClH2l−で表される二価の有機基である。mは2〜4の整数、lは1〜4の整数、R3は炭素原子数1〜4のアルキル基である。
【0040】
Qに該当する二価の有機基は、例えば、−CH2CH2−基、−CH2CH2CH2−基等のアルキレン基;−SO2N(C3H7)CH2CH2CH2−基である。
【0041】
一般式(I)において、aは1〜3の整数であり、bは0〜2の整数であり、かつ、a+bは1〜3の整数である。nは1以上の整数、通常は2〜100の整数である。
【0042】
一般式(I)で表される含フッ素シラザン化合物の具体的な例としては、[CF3CH2CH2Si(CH3)2]2NH,[RfCH2CH2Si(H)NH]n, [RfSO2NHCH2CH2Si(H)NH]nなどが挙げられる。
【0043】
一般式(I)で表される含フッ素シラザン化合物は、特公平3−19276号公報や特開平3−290437号公報に示されるように、シラン化合物とアンモニアまたは第一アミンとを反応させる方法によって製造することができる。
【0044】
〔含フッ素シラン化合物〕
含フッ素シラン化合物としては、下記一般式(II)で表される,パーフルオロ基を含有するシラン化合物を使用できる。
(RfQ)aSi(R4)4−a (II)
一般式(II)において、R4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、−H、−CH3、−OCH3、−OC2H5、−Clのいずれかである。Rfは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素原子数5〜32のパーフルオロアルキルエーテル基である。Rfは、例えば、CiF2i+1−で表されるパーフルオロアルキル基;F−(CF(CF3)CF2O)j−CF(CF3)−で表されるパーフルオロエーテル基である。ここで、iは1〜20の整数、jは1〜10の整数である。
【0045】
一般式(II)において、Qは、−CmH2m−または−SO2N(R3)ClH2l−で表される二価の有機基である。mは2〜4の整数、lは1〜4の整数、R3は炭素原子数1〜4のアルキル基である。Qに該当する二価の有機基は、例えば、−CH2CH2−基、−CH2CH2CH2−基等のアルキレン基;−SO2N(C3H7)CH2CH2CH2−基である。aは1〜3の整数である。一般式(II)で表される含フッ素シラン化合物の具体的な例としては、以下の含フッ素シラン化合物が例示される。
n−C6F13CH2CH2Si(OCH3)3
CF3CF2CF2C(CF3)2CH2CH2CH2Si(CH3)2Cl
n−C8F17−SO2N(C3H7)CH2CH2CH2Si(OCH3)3
F−(CF(CF3)CF2O)2−CF(CF3)CH2CH2Si(C2H5)Cl2
【0046】
クロロシラン系の含フッ素シラン化合物を封孔処理剤に配合する場合には、塗布作業時および塗布後の自然乾燥時にクロロシラン系の含フッ素化合物が水分等と反応して塩化水素を発生するため、塩化水素の発生が好ましくない場合には、アルコキシシラン系の含フッ素化合物を用いることにより、塩化水素の発生を防止することができる。
【0047】
本発明の封孔処理剤中のフッ素系界面活性剤およびパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種(含フッ素化合物)の配合量は、基地金属や溶射材の種類、溶射方法、溶射皮膜の膜厚、気孔率等の諸条件により異なるが、通常、封孔処理剤全重量に対して、0.01〜30質量%程度、好ましくは0.05〜10質量%程度である。0.01質量%以上であると、フッ素化合物による浸透性向上作用が発揮されやすく、30質量%以下であると量に比例した浸透性の向上作用を得ることができるので好ましい。
【0048】
合成樹脂、含フッ素化合物及び必要に応じて他の成分を、重合性有機溶剤に溶解乃至懸濁させることにより、溶射皮膜中の気孔への浸透性が良好な封孔処理剤を調製することができる。
【0049】
かくして得られた封孔処理剤は、鋼などの素地基材に、常法に従って形成された溶射皮膜の封孔処理に用いることができる。本発明の封孔処理剤は、公知の浸透・含浸方法、例えば、スプレーガンによる吹き付け、はけ塗り、浸漬すること等により、封孔処理剤を溶射皮膜に浸透させることができる。封孔処理剤の使用量は、溶射皮膜の気孔率などに応じて適宜設定することができる。封孔処理剤を浸透させた後は、重合性有機溶剤が反応できるような条件で反応させればよく、例えば、110〜130℃にて1.5〜2.5時間程度加熱することにより封孔処理を施すことができる。
【0050】
この場合、少なくとも重合性有機溶剤が重合すればよく、合成樹脂は必ずしも反応していなくてもよい。例えば、不飽和ポリエステル樹脂のように分子中に二重結合を有していれば、それら合成樹脂同士で、或いは合成樹脂と重合性有機溶剤とが重合してもよい。また、エポキシ樹脂のように、それ自身で架橋できる樹脂(自己架橋性樹脂)であれば、重合性有機溶剤が重合するのと同時に硬化してもよい。また、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などを合成樹脂として用い、硬化剤を配合している場合には、重合性有機溶剤が重合するのと同時に、これら樹脂が硬化剤により硬化してもよい。
【0051】
溶射皮膜は、一般の安定した金属と異なり、ある粒径分布を有した多数の粒子が積層して形成された皮膜である。粒子境界が不可避に存在するので、皮膜形成の直後から水分の侵入など、大気中の環境条件の影響を受けることが多い。従って、溶射皮膜の封孔処理を溶射後できる限り早く行うことにより、封孔効率の低下を抑制できる。よって、本発明の封孔処理剤を用いて封孔処理を行う場合も、溶射後、速やかに封孔処理を行うことが望ましい。
【0052】
本発明の封孔処理剤は、鋼等の基地金属の表面、溶射材として金属(Al, Zn, Cr, Ni等)、合金(ステンレス鋼等)、酸化物セラミックス(アルミナ、ジルコニア、チタニア等)、炭化物サーメット(クロム炭化物、タングステン炭化物等)等を用い、公知の溶射方法、例えばプラズマ溶射法、高速ガス炎溶射法等により得られた溶射皮膜の気孔を封孔処理することができる。溶射皮膜の膜厚は、溶射材料の種類や得られる溶射皮膜被覆部材の用途に応じて適宜設定することができるが、通常、炭素鋼を基材として、溶射材をアルミナとした場合、20〜3000μm程度、好ましくは40〜2500μm程度であり、炭素鋼を基材として、溶射材をWCサーメットとした場合、20〜400μm程度、好ましくは40〜250μm程度である。
【0053】
封孔処理剤の浸透・充填性は、処理される溶射皮膜において溶射皮膜を形成している粒子積層構造の影響をうけるので、溶射皮膜の粒子積層構造に最適な封孔処理剤を選択するのが望ましい。
【0054】
例えば、本発明の封孔処理剤は、プラズマ溶射、高速ガス炎溶射法によって形成した気孔率が10%以下の金属、合金、酸化物セラミックス皮膜の封孔処理に好ましく用いることができる。また、本発明の封孔処理剤は、プラズマ溶射、高速ガス炎溶射法によって形成した気孔率5%以下の炭化物サーメット皮膜の封孔処理に好ましく用いることができる。本発明の封孔処理剤を用いてこれら溶射皮膜の封孔処理を行った場合、非常に優れた封孔効果を示し、表層を、例えば200μm程度、研削除去しても封孔効果の存在が認められる。
【0055】
このように、本発明の封孔処理剤によれば、溶射皮膜の気孔(間隙)が合成樹脂及び重合性有機溶剤の重合物で実質的に全て充填されている溶射皮膜被覆部材を得ることができる。
【0056】
本発明の封孔処理剤により封孔処理を行うと、溶射皮膜層の上に封孔処理剤による塗膜上の薄い層(封孔処理剤に含まれる合成樹脂、合成樹脂の硬化物、重合性有機溶剤の重合体などを含む)が形成される。かかる被覆部材はそのまま使用することもできるが、被覆部材の寸法精度を保つためには、研削砥石、研磨紙、不織布バフなどを用いて溶射皮膜の表面を研削・研磨してかかる層を除去することができる。
【0057】
本明細書において、溶射皮膜の気孔(間隙)が「実質的に全て充填されている」とは、溶射皮膜表面に塗膜形態で存在している封孔処理剤により形成された層(封孔処理剤に含まれる合成樹脂、合成樹脂の硬化物、重合性有機溶剤の重合体などからなる)を含めた溶射皮膜の最外層部分(例えば、表面から厚さ0.5mm程度)を研削・研磨して除去した後、JIS Z 2343に基づく染色浸透試験において、着色が見られないことを意味する。
【0058】
従来の封孔処理方法では、溶射皮膜の気孔が全ては充填されていないため、寸法精度を保つために表面を研削又は研磨などした場合、溶射皮膜の最外層部分から封孔処理剤が除去されると、封孔処理の効果が充分に発揮されない、或いは効果が無くなっていたが、本発明の封孔処理剤を用いると、溶射積層粒子の間隙が確実に埋めらるれので、かかる場合にも封孔処理の効果が失われず十分発揮される。また、従来は使用する過程での摩耗により、封孔処理による効果が失われていたが、本発明の封孔処理剤によれば、溶射皮膜表面が使用の過程において摩耗しても効果が持続する。さらに、封孔処理剤が溶射皮膜底部まで浸透し充填性が向上することにより、溶射積層粒子の間隙が確実に埋められたことで粒子間の個々の結合力が増大するために、溶射皮膜の機械的強度が向上する。溶射積層粒子の間隙が全て埋められると、大気中における環境水分の侵入が防止され、酸化物セラミックス溶射皮膜の固有の値を低減させることなく、絶縁抵抗値及び絶縁破壊値の低下が抑制される。
【0059】
従って、本発明の封孔処理剤を用いて溶射皮膜の気孔を充填する方法は、溶射皮膜の機械的強度を高める手段、絶縁抵抗値及び絶縁破壊値の低下抑制手段などとして利用できるものである。
【0060】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、%および部は、特記しない限り重量基準である。
【0061】
実施例1
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量約180;数平均分子量約370)100重量部とノニオン性のフッ素系界面活性剤(株式会社ネオス製「FTX−218」)0.3重量部を、スチレンモノマー30重量部で希釈して、封孔処理剤溶液(A1)を調製した。
【0062】
SS400鋼板(100×50×5mm)を基材として、Al2O3−3%TiO2の大気プラズマ溶射を行い、皮膜厚さ700μmの溶射皮膜を得た。該溶射皮膜に対して、封孔処理剤溶液(A1)100重量部とテトラヒドロメチル無水フタル酸55重量部の混合物を、はけ塗りで塗布し浸透させ、120℃で2時間焼成することにより、グレーアルミナ溶射被覆鋼板を得た。
【0063】
実施例2
実施例1において、合成樹脂として、エポキシ樹脂の代わりにキシレン樹脂(重量平均分子量約600)を使用し、テトラヒドロメチル無水フタル酸を使用しない以外は、実施例1と同様にして、封孔処理剤溶液(A2)を調製した。
【0064】
その後、実施例1と同様の処理を行いグレーアルミナ溶射被覆鋼板を得た。
【0065】
実施例3
ノニオン性のフッ素系界面活性剤に変えて含フッ素シラザン(信越化学工業株式会社製「KP−801M」)を使用した以外は実施例1と同様にして封孔処理剤溶液(A3)を調製した。その後、該封孔処理剤溶液を用いて実施例1と同様の処理を行いグレーアルミナ溶射被覆鋼板を作製した。
【0066】
比較例1
封孔処理を行なわない以外は実施例1と同様の処理を行い、グレーアルミナ溶射被覆鋼板を得た。
【0067】
比較例2
実施例1において、重合性溶剤であるスチレンモノマーに変えてキシレンを使用し、ノニオン性のフッ素系界面活性剤を使用しない以外は、実施例1と同様にして、封孔処理剤溶液(B1)を調製した。その後、実施例1と同様の処理を行いグレーアルミナ溶射被覆鋼板を作製した。
【0068】
比較例3
重合性溶剤であるスチレンモノマーに変えてキシレンを使用した以外は、実施例1と同様にして封孔処理剤溶液(B2)を調製した。その後、実施例1と同様の処理を行いグレーアルミナ溶射被覆鋼板を作製した。
【0069】
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた試験片に対して、砥石研削による表層部の強制除去加工をおこない、封孔処理剤の処理効果を調べた。処理効果は、封孔処理剤の浸透深さと、浸透により溶射積層構造の間隙が充填されることによるバリア性の向上を中心に観察した。試験方法を以下に述べる。
【0070】
<溶射皮膜の基材保護性>
実施例1〜2および比較例1〜2をそれぞれ6試料準備し、研削除去のないもの、表層からそれぞれ50、100、200、300、500μm研削除去したものを作製した。35℃、5%酢酸水溶液中に試料を浸漬し、基材の腐食、溶射皮膜のふくれ、剥離などの挙動を観察した。結果を表1に示す。
【0071】
<浸透性>
封孔処理剤の浸透挙動を可視化するため、封孔処理をおこなった皮膜面に対し、JIS Z 2343に基づく染色浸透液の浸透指示模様の発現挙動を調べた(着色することは隙間があり、染色浸透液が浸透したことを示す。)。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
また、封孔処理を施した溶射皮膜の機械的強度向上を確認するため、以下の試験を行なった。
【0074】
<摩耗減量>
実施例1および比較例1〜2の表層部分を100μm研削除去した試験片に対し、WA#60アルミナグリットを3kg/cm2圧縮空気を搬送体として吹き付け、単位時間あたりのエロージョン減量を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、本発明の封孔処理剤によれば、本発明の封孔処理を施した試験片の摩耗減量は比較例1と比べて80%程度にとどまった。このことは、本発明の封孔処理剤により溶射皮膜の気孔(間隙)を充填することにより、溶射積層粒子の個々の結合力が増加していることを示す。
【0077】
<絶縁抵抗値・耐電圧特性>
50mm角、厚さ5mmのSS400鋼の表面に、実施例1および比較例1と同様にして溶射皮膜を形成して試験片を得た。これら試験片を80℃の温水に1時間浸漬後、1000V DC絶縁抵抗計を用いて、溶射皮膜表面と鋼基材間の絶縁抵抗を測定した。実施例1の絶縁抵抗値は2000MΩであり、比較例1の試験片は0.02MΩであった。皮膜内への水分の侵入によると考えられる導通現象を、封孔処理により防止することによってアルミナ本来の絶縁抵抗値の低下は抑制された。
【0078】
また、同様の試験片を用いて、溶射皮膜と鋼基材の間にDC5kVの電圧をかけて耐電圧特性を評価した。実施例1の試験片は10分間安定して絶縁性が維持されたが、比較例1の試験片は、電圧印加の直後に火花放電が生じ、絶縁破壊を起こした。
【0079】
これら試験結果は、本発明の封孔処理剤により溶射皮膜の気孔(間隙)を充填することによって大気中で環境水分の侵入を防止して、酸化物セラミックス溶射皮膜の固有の値を低減させることなく、絶縁抵抗値及び耐電圧特性の低下を抑制できることを示している。
【0080】
次に、本封孔処理剤の浸透・充填特性および本発明の封孔処理剤により封孔処理した溶射皮膜の表層部分を研削除去したのちの封孔処理剤の充填状況を詳細に検討した。
【0081】
実施例 4
SS400鋼基材にプラズマ溶射および高速ガス炎溶射により、表3に示す材料の溶射皮膜を形成した。溶射材料の条件とで決定された皮膜断面の気孔率は表3のとおりであった。これらに実施例1で調製した封孔処理剤(A1)で封孔処理を施し、表層部分を除去しないもの、50μm研削除去したもの、200μm研削除去したものの3種類の試料を得た。
【0082】
酸化物セラミックス溶射皮膜、炭化物サーメット溶射皮膜、一部の合金溶射皮膜に対しては、人造ダイヤモンド砥石を、その他の合金溶射皮膜に対しては炭化珪素と粒砥石、アルミナと粒砥石を用いて研削を行った。
【0083】
比較例 4
実施例4と同様にして成膜させた溶射皮膜に、比較例2で調製した封孔処理剤(B2)で封孔処理を施した。その後、実施例4と同様の研削除去処理を行った。
【0084】
<SS400鋼基材保護性>
実施例4および比較例4について、JIS Z 2371に基づく塩水噴霧試験をおこない、封孔処理の程度と相関性を有するSS400鋼基材保護性を評価した。表3に結果を示す。
【0085】
【表3】
【0086】
表3中、「溶射材料(μm)」は、粉末形態の溶射材料の粒度範囲を示す。
【0087】
表3において、基材保護性が不充分で、SS400鋼基材の腐食による赤錆が暴露時間400hまでに被覆層表面に露呈したものは×、そうでないものは○で表示した。
【0088】
【発明の効果】
本発明の封孔処理剤によれば、溶射皮膜内、特に特定の気孔率特性を有するプラズマ溶射皮膜、高速ガス炎溶射皮膜内に存在する気孔を充填して環境遮断性を高め、溶射皮膜の耐食性,基材保護性および機械的強度を向上させることが可能となる。本発明の封孔処理剤を用いた封孔処理方法によれば、浸透性向上のための加圧または減圧雰囲気など特殊な環境を必要とせず、比較的手軽に封孔処理を行うことができる。
【0089】
また、本発明の封孔処理剤により封孔処理を行うと、溶射皮膜に対する浸透性に優れ、封孔処理後に溶射皮膜表面を研削・研磨加工したり、あるいは表面が擦過履歴をうけてその表層部分が取り除かれた場合でも、皮膜内になお存在する封孔処理剤が溶射皮膜自体の環境遮断性を維持するとともに、基材保護性を大幅に向上させ、さらに機械的強度、耐摩耗性、体積抵抗率、耐電圧特性などを向上させることが可能となる。
Claims (10)
- (i)エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びキシレン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の合成樹脂、
(ii)シクロヘキセン、スチレン、酢酸ビニル、フェニルビニルエーテル、メチルビニルケトン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、ジシクロペンタジエン、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性有機溶剤、並びに
(iii)フッ素系界面活性剤及びパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
を含有する封孔処理剤。 - 合成樹脂の数平均分子量が、100〜10,000である請求項1に記載の封孔処理剤。
- フッ素系界面活性剤が、パーフルオロ基を含有するフッ素系界面活性剤である請求項1に記載の封孔処理剤。
- パーフルオロ基含有有機ケイ素化合物が、シラン化合物及びシラザン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の封孔処理剤。
- 溶射皮膜の気孔に請求項1〜4のいずれかに記載の封孔処理剤を浸透させ、次いで重合性有機溶剤を重合させることを特徴とする溶射皮膜の封孔処理方法。
- 溶射皮膜が、金属、合金、酸化物セラミックスまたは炭化物サーメットからなる皮膜であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
- 基材表面に溶射皮膜を形成し、得られた溶射皮膜の気孔に請求項1〜4のいずれかに記載の封孔処理剤を浸透させ、次いで重合性有機溶剤を重合させて溶射皮膜の封孔処理を行うことを特徴とする溶射皮膜被覆部材の製造方法。
- 溶射皮膜の封孔処理を行った後、該溶射皮膜の表面に存在する封孔処理剤により形成された層を、研削乃至研磨により除去することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
- 請求項7又は8に記載の方法により得られる溶射皮膜被覆部材。
- 請求項7又は8に記載の方法により得られ、溶射皮膜の気孔が合成樹脂及び重合性有機溶剤の重合物で実質的に全て充填されている溶射皮膜被覆部材。
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