JP5052120B2 - 封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法 - Google Patents

封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法 Download PDF

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Description

本発明は封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法に関する。この装置および方法は、特にエポキシ樹脂系封孔処理剤および該処理剤により処理されて得られる溶射被膜被覆部材を有する軸受を製造するために用いられる。
軸受の内外輪の両方もしくは何れか一方の他部材と接する部位にセラミック溶射被膜を形成し、その後何らかの封孔処理を施して被膜の環境遮断性を高める封孔処理を行ない、軸受を絶縁させる絶縁軸受が知られている。
セラミック溶射被膜への封孔処理剤の一般的な処理方法としては、セラミック溶射被膜へ封孔処理剤を塗布する方法(特許文献1)、減圧浸透による方法(特許文献2)、減圧と加圧とを繰り返す方法(特許文献3)等が知られている。
また、円筒形外周部に特化した封孔処理方法としては、浸漬、掃き取りおよびスプレーを組合せた方法(特許文献4)が知られている。
しかし、特許文献1に記載の方法では、以下に述べる(イ)〜(ニ)の問題がある。(イ)封孔剤を塗布し乾燥工程を終了するまでのワークの保持が困難である。(ロ)未乾燥で未硬化の封孔処理剤がワーク以外の部位に付着しないように、ワークの非処理部位を保持できるような特殊形状の治具の設計が必要となる。(ハ)封孔剤処理部位をどうしてもワーク保持に使わなければならない場合、「未乾燥で未硬化の封孔処理剤がワークから持ち去られず、封孔処理剤の乾燥工程に耐え得る耐熱性もあり、かつ封孔処理剤と非粘着性がある」という保持材の材質選定が必要であり、一般にこのような材質は高価な樹脂であるため、製造コストの高騰を招きやすい。(ニ)耐熱性や耐薬品性が要求される用途で一般的なエポキシ樹脂系の封孔処理剤を選定する場合、封孔処理剤自体が高粘度のため、セラミック溶射膜深部の残留空気と封孔処理剤の置換が充分になされず、結果的に処理したい部位のみに充分な浸透を図ることは困難である。
また、特許文献2および特許文献3に記載の方法では、以下に述べる(ホ)〜(ヘ)の問題がある。(ホ)真空吸引装置が必要となる。(ヘ)真空吸引は封孔処理剤塗布後に行なう必要があるため、産機用絶縁軸受のような大きな製品を処理する場合、封孔処理装置全体が大掛かりなものとなり、生産性に懸念が生じる。また製造コストの高騰も招くという問題がある。
特許文献4に記載の方法では、以下に述べる(ト)〜(ヌ)の問題がある。(ト)弾性体による掻き取り治具がセラミック溶射被膜との摺動によって摩耗するため、一定期間ごとのメンテナンスが不可欠となる。(チ)軸受のような多表面を同時に封孔処理する場合、掻き取り治具や吹き付けスプレーの位置決めの構造や動作は非常に複雑となり、装置の段取り換えが困難である。(リ)封孔処理剤自体は常温下でも調製後次第に硬化あるいは劣化してゆくため、処理数が増大すると一定の頻度でマスキング治具やスプレーの清掃などが必要となるが、当装置は非常に部品点数が多く、メンテナンスが困難である。(ヌ)スプレー機構を併用しているため安定した封孔処理を行なうためにはある程度の封孔処理剤の条件出しの時間が必要であり、また不必要な部位に飛散するため、全体的に封孔処理剤量の歩留まりが悪くなる。
上記個々の問題に加えて、セラミック溶射被膜へ封孔処理剤を封孔処理する場合、一般に以下に述べる(ル)〜(ワ)の問題がある。(ル)塗布の方法、使用塗布用具などの条件次第で処理剤量にバラツキが生じやすく、処理剤量が過少な場合は封孔ムラが生じ、処理剤量が過大な場合は研摩工程における砥石寿命の低下や加工時間の長期化などの悪影響が生じ、製品機能への悪影響や生産性の低下が懸念される。(オ)セラミック溶射軸受外輪のように封孔処理剤の付着が許容される部位とされない部位が複雑に共存する形状を有するワークへ処理する場合、不必要な部位に封孔処理剤が付着しないようマスキング治具を工夫するか、もしくは慎重な封孔剤塗布作業が要求される。(ワ)アクリル樹脂系や樹脂ワニス系のような低粘度封孔処理剤は、塗布によって溶射膜内へのある程度の浸透性は確保されるが、耐熱性不足の問題が残る。また、溶剤の揮発に伴う溶射膜内の空隙の発生による封孔ミスの懸念もある。また溶剤の揮発で生じた空隙を補うために、重ね塗りを何度か繰り返さなければならない。
一方、浸透性に優れ溶射被膜内への充填性にも優れた封孔処理剤として、(i)エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびキシレン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の合成樹脂、(ii)シクロヘキセン、スチレン、酢酸ビニル、フェニルビニルエーテル、メチルビニルケトン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、ジシクロペンタジエン、およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性有機溶剤、並びに(iii)フッ素系界面活性剤およびパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する封孔処理剤、およびこの封孔処理剤を溶射被膜の気孔に浸透させ、次いで封孔処理剤に含まれている重合性有機溶剤を重合させる溶射被膜の封孔処理方法が知られている(特許文献5)。
しかし、特許文献5に記載の方法では、以下に述べる(カ)〜(ヨ)の問題がある。(カ)重合性有機溶剤の単純な加熱のみでは、溶液中の溶存酸素などが重合を阻害するため、実際に溶剤部分を硬化させることが困難である。特に、重合性有機溶剤の代表例であるスチレンモノマーを重合性溶剤とした場合、エポキシ樹脂の硬化温度では重合反応は充分に行なわれず、エポキシ樹脂中に未反応の重合性溶剤が残存し、硬化後封孔樹脂の長期的な安定性に劣る場合がある。(ヨ)重合性溶剤の重合反応を促進する目的でラジカル重合開始剤を配合したり、一方で、封孔処理剤の系に溶存する酸素を高度に除去したりすることが必要となる。しかし、高温型ラジカル重合開始剤は一般的に反応性が高く爆発などの危険性が高い有機過酸化物からなるため、取扱上の注意が必要である。一方で低温型重合開始剤を選択すればかかる懸念事項は緩和されるが、低温においても重合開始剤の分解反応が進行するため、未硬化封孔処理剤のポットライフに留意する必要が生じる。また、溶存酸素量の観点からも、保存安定性を高めるために細い注意事項の遵守が常に要求される。
また、溶射膜深部への浸透性と封孔性を確保する手法として、封孔処理の最初に封孔性は劣るが浸透性に優れる低粘度の封孔処理剤で封孔し、その後浸透性は劣るが封孔性に優れる封孔処理剤で処理を行なう技術が知られている(特許文献6)。
しかし、この方法は、最初の処理に用いる低粘度封孔処理剤組成とその後の処理に用いる高粘度封孔処理剤組成が一般的に異種のものであるため、未硬化処理剤同士が接触すると、両者が相互で拡散し合い、硬化が十分でなくなる場合があり、硬化物としての効果が発揮されにくい場合がある。硬化が十分に行なうため、前者の処理と後者の処理の中間で硬化反応を挿入すればかかる懸念は回避されるが、工数の増大を招くという問題がある。
以上説明したように、従来からある封孔処理剤、封孔処理方法、またはそれらを組合せた場合であっても、セラミック溶射軸受のような内径部に溝を有する円筒形ワークなどの複雑な封孔処理を要求される製品の生産においては、適切な部位に適切な量の封孔処理剤を、簡便な方法で、安定的に処理することは、処理方法の技術面および封孔処理剤の技術面からも困難であった。
特開昭64−062453号公報 特開平01−263259号公報 特開平03−161071号公報 特開平06−057398号公報 特許第3598401号公報 特許第3009516号公報
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、内径部に溝を有する円筒形ワークの外周面の不必要な部位に封孔処理剤を付着させないで、かつセラミック溶射被膜内の空隙を確実に、生産性に優れた簡便な方法で充填することができる封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法の提供を目的とする。
本発明は、軸受の必要な箇所のみに浸透させることができる装置を用い、封孔処理剤、特に浸透性と空隙充填性に優れたエポキシ系封孔処理剤で封孔処理することにより、不必要な部位に封孔処理剤を付着させず、また重ね塗りやスプレー装置の併用を必要とせず、疵や異物付着などの無用なダメージを製品に加えることなく、溶射皮膜内の空隙を確実に充填することができる。すなわち、特にエポキシ系封孔処理剤を用いて、この処理剤の特性に見合った処理方法と組み合わせることにより、従来の封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法と比較して、より飛躍的に性能向上と生産向上が果たせることができるとの知見に基づくものである。
本発明の封孔処理剤塗布装置(以下、封孔処理装置ともいう)は、内径部に溝を有する円筒形ワークの外周面に形成されたセラミック溶射被膜を液状の封孔処理剤を用いて封孔処理するための封孔処理剤塗布装置であって、上記円筒形ワークの内径面を少なくとも1個以上の回転ローラで回転支持して上記円筒形ワークを回転させる手段と、上記回転ローラで回転支持された状態で上記セラミック溶射被膜部分を加熱する手段と、上記円筒形ワークに対して上下方向に移動可能な封孔処理剤収容容器を上記円筒形ワーク下部に配置することを特徴とする。
また、上記セラミック溶射被膜部分を加熱する手段は、該溶射被膜部分の温度が 60℃〜90℃にできる手段であり、上記封孔処理剤収容容器内の封孔処理剤の温度は 10℃〜40℃であることを特徴とする。
また、上記円筒形ワークを回転させる手段は、ローラ外周面に弾性体を配した上記回転ローラと、上記円筒形ワークの内径面に接して従動する少なくとも1個以上のガイドローラとにより上記円筒形ワークを支持し、上記回転ローラおよび上記ガイドローラの少なくとも1つのローラが円筒形ワークの前記溝内面に接し、この溝内面に接する部位に弾性体を配したローラ構造であることを特徴とする。
また、上記封孔処理剤がエポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まず、上記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、上記硬化剤を除く、上記エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10 重量%〜80 重量%配合された封孔処理剤であることを特徴とする。
本発明の封孔処理方法は、上記封孔処理装置を用いて内径部に溝を有する円筒形ワークの外周面に形成されたセラミック溶射被膜を封孔処理する方法であって、上記円筒形ワークの外周部分を上記封孔処理剤に浸漬した状態で上記回転ローラを回転させることで円筒形ワークの外周部分に封孔処理剤を塗布・浸透させることを特徴とする。
本発明の封孔処理剤塗布装置は、未硬化封孔処理剤とワークとの浸漬による接触を分離した後で、ワーク単独を回転したまま 60℃以上で被処理表面を加熱する手段を導入したことで、浸漬により溶射被膜面上に付着する封孔処理剤を直ちに低粘度化することができ、溶射被膜面の深部に効果的に浸透させることができる。また、局部加熱構造は塗布済みの未硬化封孔処理剤にのみ熱量を加えることができるため、封孔処理装置の下方に存在する大部分の未硬化封孔処理剤の硬化の進行を最小限に食い止めることができる。このため、一度封孔処理を行なった後でも封孔処理剤の交換なしに、複数回の連続処理が可能となる。また、一般的な恒温槽による加熱方式に比較して、簡便な装置構造を取ることができるため、装置設計の自由度も高くなる。
本発明の封孔処理剤塗布装置は、円筒形ワークの内径面を少なくとも1個以上の回転ローラで回転支持し、上記円筒形ワークに対して上下方向に移動可能な封孔処理剤収容容器を円筒形ワーク下部に配置するので、封孔処理剤は、円筒形ワークの封孔処理を行ないたい部位(以下、被処理面ともいう)に接するのみで、円筒形ワークの被処理面以外の部位に接することなく、任意の速度で円筒形ワークを精度よく回転させることができる。また、封孔処理剤として上記所定の封孔処理剤を使用するので、セラミック溶射被膜面への浸透性に優れる結果、被処理面以外の部位に未硬化の封孔処理剤が流出することなく、被処理面のみに封孔処理できる。ここで被処理面となる円筒形ワークの外周面は、ワーク外径面およびワーク両側端面である。
また、封孔処理剤塗布装置が回転ローラと、円筒形ワークの内径面に接して従動する少なくとも1個以上のガイドローラとにより円筒形ワークを支持し、回転ローラおよびガイドローラの少なくとも1つのローラが円筒形ワークの溝内面に接するので、内径部に溝を有する円筒形ワーク、例えば軸受外輪のような内径部に転走面が形成されているような円筒形ワークを回転させる場合、ワーク内径部の転走面(例えば、深溝玉軸受用の円弧溝、円筒ころ軸受用の矩形溝)に直接回転ローラを接触させることが可能であり、任意の速度で封孔処理時の外輪の回転精度を高めることができ、封孔処理剤の液面レベルに対するワークの浸漬深さを一定にできる。
また、円筒形ワークの溝内面に接する部位にウレタン樹脂やシリコーン樹脂などの軟質材からなる弾性体を配したローラ構造であるので、溶射時に飛散したセラミック粉末や、バリの脱落粉などの硬い異物を容易に弾性体内部に埋没させることができる。
さらに、本発明の封孔処理剤塗布装置で用いる封孔処理剤は、上記所定の配合としたので、配合成分が実質的に全て重合反応して硬化物を形成し、重合性ビニル基含有溶剤などの添加を行う必要なしに封孔処理剤を低粘度化でき、かつ、硬化後の封孔処理剤から揮発物や未重合有機溶剤の溶出を防いだことで、効果的に溶射膜内へ浸透をさせることができる。ここでいう「実質的に全て」とは、封孔処理剤の重合反応時にガスや水などの副生成物を生成し系外に揮発蒸散し、硬化物の体積が減少する現象が見られないことを示し、具体的には、封孔処理剤の加熱前後での重量減少が1%以内である場合のことをいう。
更に加熱手段を追加することで、封孔処理時間を飛躍的に短縮させることができ、厚膜セラミック品への適切な封孔処理を確実に実施することができる。
本発明の封孔処理方法は、上記封孔処理装置を用いて円筒形ワークの外周部分を封孔処理剤に浸漬した状態で回転ローラを回転させることで円筒形ワークの外周部分に封孔処理剤を塗布・浸透させる方法であるので、セラミック溶射被膜内の空隙を確実に、簡便な方法で封孔処理剤により充填することができる。
また、このようにして空隙内を確実に充填処理されたセラミック溶射被膜を有するので、本発明の封孔処理剤塗布装置および封孔処理方法は、長期間にわたって確実な封孔性能を維持させることができる軸受に好適に適用できる。
本発明の封孔処理装置を図1に示す。図1(a)は円筒形ワークの側面から見た図であり、図1(b)は装置の正面から円筒形ワークの断面を見た図である。
図1において、円筒形ワーク1はセラミック溶射被膜を外周面に有する深溝玉軸受の外輪である。円筒形ワーク1は回転ローラ2と、2個のガイドローラ3とにより回転支持され、外周面1aが上面に開口部を有し、円筒形ワークの下部に配置された封孔処理剤収容容器5に収容された封孔処理剤4の液面4aに接触している。封孔処理剤収容容器5は円筒形ワーク1に対して上下方向に移動可能な昇降台などの筐体8a上に固定され、円筒形ワーク1の径の大きさや封孔処理剤のワークへの浸透度合い、設定する液面レベルの変化などに応じて封孔処理剤4の液面を任意に設定できる構造となっている。この液面4aは、円筒形ワーク1に必要とされる封孔処理剤の処理面に応じて調節できる。そのため、不必要な部位への封孔処理剤の付着を防止できる。深溝玉軸受の外輪の場合、外輪外径のみならず両端面も均一な封孔処理剤の処理面を一度で形成できる。
円筒形ワーク1を支持する回転ローラ2は、円筒形ワークの溝内面1b、すなわち、深溝玉軸受用の円弧溝、円筒ころ軸受用の矩形溝等に接している。回転ローラ2のローラは溝内面1bに接する部位にウレタンゴムなどの弾性体を配したローラ構造となっている。回転ローラ2は回転ローラ用軸受6で軸支され、減速機を内蔵した駆動モータ7により回転駆動されて円筒形ワーク1を回転させる。軸受6および駆動モータ7は筐体8b上に載置されている。
円筒形ワーク1を支持する2個のガイドローラ3は、円筒形ワーク1の内径面1cに接して従動する。ガイドローラ3の軸3aは筐体8b内に設けられた昇降機構により昇降することで内径面1cに接触し、円筒形ワーク1を支持する。なお、筐体8aおよび8bは筐体8上に配設される。
図1において、円筒形ワーク1を支持する回転ローラ2およびガイドローラ3は、回転ローラ2が円筒形ワークの溝内面1bに、ガイドローラ3が内径面1cに配置されているが、回転ローラ2を円筒形ワーク1の内径面1cに配置し、ガイドローラ3の少なくとも1つを溝内面1bに配置してもよい。好ましくは、回転ローラ2は円筒形ワークの溝内面1bに配置される。溝内面1bに配置することにより、例えばガイドローラ3がない場合であっても安定して円筒形ワーク1の回転を維持できる。
本発明の封孔処理装置は、回転ローラで回転支持された状態でセラミック溶射被膜部分を加熱する加熱手段9を備える。
加熱手段9は、封孔処理剤が塗布されるセラミック溶射被膜部分と非接触のまま局部加熱することが可能な方式であれば特に限定されない。加熱手段9としては、温風照射方式、高周波誘導加熱方式、電熱コイル加熱方式などが挙げられる。装置自体の簡便さや、多品種製品への応用の簡便さ、局部加熱条件の設定自由度の多様性などを総合的に勘案した場合、上記加熱手段の中で温風照射による加熱方式が最も優れた局部加熱方式である。
温風照射による加熱方式の場合、ワーク1表面(未硬化封孔処理剤塗布面)と温風発生装置の法線距離は、10〜300 mm 程度に設定すると、ワークの温度設定が容易で、かつ追加の防御設備なしに未硬化封孔処理剤へ与える熱影響も防ぐことができるため好ましい。またワーク基材の設定温度は局部加熱装置の出力を調整することで、60〜90℃の間に設定することが望ましい。60℃より下回ると未硬化封孔処理剤の粘度低減効果が充分に得られず、特に溶射皮膜が厚膜化した場合の深部浸透性に懸念が残り、90℃以上の温度では、粘度低減効果に留まらず、溶射被膜の最表層部の未硬化封孔処理剤の硬化反応が局部的に進行し、低温時と同様、深部浸透性に懸念が残るため好ましくない。
ワーク1表面の温度を 60〜90℃の範囲に加熱する場合、封孔処理剤の温度は常温である 10〜40℃、好ましくは 20〜30℃の範囲に設定することが好ましい。
本発明においては、さらに封孔処理剤として含浸性に優れる以下に説明する封孔処理剤と本発明の封孔処理装置とを組み合わせることによって、製品機能上に問題となる転走面のキズや異物付着をすることなく、装置の自動化を図ることができる。
本発明の封孔処理装置とを組み合わせることができる封孔処理剤は、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まず、上記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、上記硬化剤を除くエポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10〜80 重量%配合された封孔処理剤である。
ポリグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物はその分子内にオキシラン環が解裂して形成される繰り返し単位を含まない化合物である。これらの混合物は硬化剤と反応して硬化物を形成する。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物としては、トリグリシジルエーテル化合物、テトラグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。
ポリグリシジルエーテル化合物の例としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルを挙げることができる。
これらの中で、封孔処理剤の粘度を下げる観点から、トリグリシジルエーテル化合物が好ましく、特にトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを挙げることができる。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個の環状脂肪族ジエポキシ化合物は、脂環式化合物の環を形成する炭素原子において、隣接する2つの炭素原子がオキシラン環を形成している、いわゆる脂環式エポキシ化合物であって、オキシラン環を2つ含む脂環式ジエポキシ化合物、例えば、1,2,8,9−ジエポキシリモネンが挙げられる。封孔処理剤の粘度を低下させつつ処理物の物性の低下を効果的に防止する好ましい化合物である。
また、水素添加ビスフェノールA、テトラヒドロフタル酸のジグリシジルエーテルなどの脂環式化合物のジグリシジルエーテルも使用することができる。
本発明に使用できる封孔処理剤は、取り扱い性の向上や、溶射被膜材への更なる浸透性向上の目的で、1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物を配合することができる。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物としては、ブチルグリシジルエーテルなどのアルキルモノグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル等、公知のモノグリシジルエーテル化合物を挙げることができる。
トリグリシジルエーテル化合物は、溶射被膜と金属基材との間の接着力を飛躍的に高める封孔処理剤成分として使用できる。同時に該化合物自体の粘度が低いために、後述するジグリシジルエーテル化合物等と混合することによって、キシレン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤や、重合性ビニル基含有溶剤などの添加を必要とせず、封孔剤に対し、充分な浸透性を付与できる。
また、樹脂中に含む塩素イオン量を 0.5 重量%以下とすることで、湿潤雰囲気下における絶縁抵抗などの電気特性の低下や、基材の腐食性などが抑えられる。
トリグリシジルエーテル化合物の 25℃における粘度は 500 mPa・s 以下であることが好ましい。500 mPa・s を超えると浸透性に劣る。
本発明に用いる混合物全体に対して、トリグリシジルエーテル化合物の配合割合は 10〜80 重量%であり、好ましくは 20〜50 重量%である。10 重量%未満のときは、封孔液自体の粘度を低く設定できるため、硬化物の浸透性は高まるものの、一方ではトリグリシジルエーテル化合物の接着性向上効果が得られにくくなるため、基材との接着力は減少する。また、トリグリシジルエーテル化合物の配合割合が 80 重量%を超えるときは封孔処理剤の粘度が高くなるため浸透性に劣る。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物は、それ自体が低粘度のエポキシ化合物であるため、ポリグリシジルエーテルへの添加によって封孔剤の粘度を低下させることができるため好ましい。また、1,2,8,9−ジエポキシリモネンに示されるような環状脂肪族ジエポキシ化合物の添加も好ましい。これら化合物は、硬化反応時にエポキシ分子と共重合することで一体化するため、配合による硬化物の物性低下や、硬化時の体積減少を防ぐことができるため好ましい。
アルキレンジグリシジルエーテル化合物の 25℃における粘度は 30 mPa・s 以下であることが好ましい。30 mPa・s を超えると封孔剤の粘度が上昇するため浸透性が劣る。
本発明に用いる混合物全体に対して、アルキレンジグリシジルエーテル化合物の配合割合が 10〜80 重量%であることが好ましく、より好ましくは 50〜80 重量%である。10 重量%未満のときは封孔剤の粘度低減効果が小さくなり、封孔剤の浸透性を高めることができない。また、80 重量%を超えると、封孔剤の浸透性は高まるが、相対的に硬化時に高密度の架橋構造を形成する役割を持つトリグリシジルエーテル化合物の配合割合が減少するため、硬化後のエポキシ樹脂の物性は低下する。
アルキレンジグリシジルエーテル化合物は、上記トリグリシジルエーテル化合物と所定量混合することで、トリグリシジルエーテル化合物単体の持つ基材密着力や、分子の架橋密度、樹脂硬度を大幅に低下させることなく、封孔処理剤の浸透度を確保することで溶射被膜用の封孔処理剤として充分な機能が発現させることができる。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物は単官能基を介して樹脂の一部と結合することができる。また、それ自身が低粘度のエポキシ化合物であるため封孔処理剤の粘度を低下させることができ、一方で、硬化後の樹脂内部の残留応力の低減や、硬化速度の調整効果を与えることができる。
モノグリシジルエーテル化合物の配合量は、混合物全体に対して、0〜50 重量%とすることが好ましい。
モノグリシジルエーテル化合物の添加量が 50 重量%を超えると、揮発量が増加したり、トリグリシジルエーテル化合物の量が相対的に減少し、硬化後樹脂の架橋密度が不足し、物性が大きく低下したり硬化物が形成しにくくなる。またポリグリシジルエーテル化合物の配合量も減少するため、溶射被膜と基材間の密着力が小さくなる。
上記グリシジルエーテル化合物の混合物に対して硬化剤が配合される。硬化剤としては、酸無水物類および脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、芳香族アミン化合物などのアミン化合物類、イミダゾール類などの公知のエポキシ樹脂用硬化剤を単体あるいは組合せて使用することができる。
酸無水物類としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物およびその誘導体等を挙げることができる。
アミン化合物類としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの脂肪芳香族アミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミンなどの芳香族アミンおよびその誘導体等を挙げることができる。
これらの中で 25℃における粘度が 50 mPa・s 以下の酸無水物硬化剤や、25℃における粘度が 10 mPa・s 以下の脂肪族アミン系硬化剤は、添加によって封孔処理剤系全体の粘度を顕著に低下できるため、好適な硬化剤となる。
特に封孔処理剤のポットライフを長くすることができ、また硬化時の収縮率が小さい酸無水物硬化剤が好ましい。
酸無水物硬化剤の配合量は、エポキシ基1当量に対して 0.80〜0.95 当量とすることが好ましい。
本発明に使用できる封孔処理剤には、その他材料として界面活性剤を添加できる。特に効果のある界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤が挙げられ、特に公知のフッ素系界面活性剤の使用が好ましい。本発明において、公知のアニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性の界面活性剤を使用できる。本発明において封孔処理剤に、フッ素系界面活性剤を配合する場合は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、シリコーンオイルなど界面活性効果や浸透効果を高める添加剤であれば、発明の特徴を妨げない範囲で使用できる。
アニオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル等を使用できる。カチオン性界面活性剤としては、第四級アンモニウム塩、アミノハロゲン塩等を使用できる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンエステル型、ポリオキシエチレンエーテル型、ソルビタンエステル型等を使用できる。両性界面活性剤としては、イミダゾリン型、ベタイン型等を使用できる。
本発明の封孔処理装置とを組み合わせることができる封孔処理剤の粘度は、封孔処理剤調製後 25℃で 1 時間放置した時点での粘度が 30 mPa・s 以上のものであることが好ましい。特に 30 mPa・s〜 200 mPa・s であることが好ましい。30 mPa・s よりも低い粘度であれば、封孔処理装置の回転数を早くした場合の試験軸受への付着量が減少し、セラミック溶射膜を厚膜化した場合の深部への封孔性が確保できないおそれがある。また、200 mPa・s を超えると浸透性に劣る。
(1)軸受試験片の作製
円筒形ワーク1として、清澄な6316軸受外輪(以下、軸受試験片10という)を準備し、外輪外径および両幅面の膜厚が一定となるように大気プラズマ溶射法でアルミナセラミックを溶射した。溶射膜厚は、400μm および 600μm の計2水準を採用した。
(2)封孔処理剤の作製
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例8で使用した封孔処理剤を調整した。特定の原料組成を可変し3種類の封孔処理剤を調製した。調製に用いた材料を以下に示す。下記成分を表1に示す組成で室温で充分に撹拌混合し、混合樹脂中の気泡を抜くため 30 分間静置し封孔処理剤を得た。
(a)ポリグリシジルエーテル化合物
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル:ナガセケムテックス社製、デナコールEX−321L、粘度; 500 mPa・s (25℃)
(b)アルキレンジグリシジルエーテル化合物
ジャパンエポキシレジン社製、YED216M、粘度; 15 mPa・s (25℃)
(c)アルキレンモノグリシジルエーテル化合物
ジャパンエポキシレジン社製、YED111E、粘度; 7 mPa・s (25℃)
(d)重合性ビニル基含有有機溶剤
和光純薬社製、スチレンモノマー(試薬)
(e)酸無水物系硬化剤
大日本インキ化学工業社製、エピクロンB−570、粘度; 40 mPa・s (25℃)
(f)イミダゾール系硬化促進剤
四国化成工業社製、OR−2E4MZ
Figure 0005052120
上記封孔処理剤Aは、封孔処理剤の組成が1分子中に含まれるエポキシ基の数を3個以上のポリグリシジルエーテル化合物と、エポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物を含む混合物である。
また、封孔処理剤Bは、封孔処理剤の組成が1分子中に含まれるエポキシ基の数を3個以上のポリグリシジルエーテル化合物と、エポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物と、1個のモノグリシジルエーテル化合物を含む混合物である。
上記封孔処理装置と併用することで、封孔処理剤Aおよび封孔処理剤Bはスチレンモノマーを含まないので、硬化後の封孔処理剤から揮発物や未重合有機溶剤の溶出を防いだことで、効果的に溶射膜内へ浸透させかつ硬化後の新たな空隙の発生も防ぐことができる。また、長期間に渡って確実な封孔性能を維持させることができる。さらにはエポキシ樹脂を用いることで長期耐熱性も確保できるため、今回の製造方法に好適な封孔処理剤とすることができる。
(3)封孔処理工程
上記封孔処理剤を用いて、図1に示す封孔処理装置に上記軸受試験片10をセットし、上記封孔処理剤を用いて封孔処理を行なった。
各実施例毎の封孔処理条件は以下の通りである。なお、実施例1〜6および比較例1〜8の軸受試験片10の製作条件の共通事項は下記に示すa〜hの通りである。
a 使用装置:図1に示す封孔処理剤塗布装置
b ローラの構成(案内部):回転ローラ(軸受試験片10溝底)、ガイドローラ(回転ローラとは別に軸受試験片10の内径部を2ヶ所保持)
c ローラの材質:回転ローラ、ガイドローラともにシリコンゴム製
d 封孔処理剤の液面:軸受試験片10の端面の被処理面のほぼ全面が浸漬するレベル
e 回転封孔時の雰囲気および封孔処理剤温度: 25℃
f 軸受試験片10総回転数:1回転
g 軸受試験片10の局部加熱条件:温度安定時の軸受試験片10のレース面部温度で 70℃
h 局部加熱時の軸受試験片10回転数および回転時間:1min/rev.で 10 分間
上記封孔処理で製作した軸受試験片10の中央部に、試験片懸垂用のSUS管(φ12 mm×500 mm )を挿入し、軸受試験片10を恒温槽内に吊るして投入した。その後、80℃×1 時間予備焼成した後に 120℃×2 時間焼成を行ない、封孔処理剤を硬化させた。
(4)封孔処理の評価
得られた軸受試験片を外観評価および絶縁抵抗測定試験により評価した。
(4−1)外観評価
封孔剤硬化後の軸受試験片10について封孔処理後皮膜の外観判定を行なった。結果を表2に示す。なお、外観判定基準は以下の通りである。
○:溶射被膜表面全体が露出する。肉眼で樹脂の被膜が見られない。
△:溶射被膜表面に一様に光沢が見られるが、液溜まり部、タレ部の硬化が見られない。
×:液溜まり部、タレ部が突起状に硬化している。
硬化後の封孔処理剤の存在形態は、セラミック溶射膜内の空隙部を確実に充填し、かつセラミック溶射膜以外の場所、特に溶射面の表面には付着がない状態が望ましい。硬化後封孔処理剤が溶射面の表面に付着すると、後工程の研摩時に砥石の砥粒の間に樹脂が埋没し、研削加工の加工性が低下する原因となる。このため、外観判定基準を上記に設定した。
(4−2)絶縁抵抗測定試験
封孔処理されたアルミナセラミック溶射被膜10aを有する軸受試験片10に対する絶縁抵抗試験の概略を図2に示す。軸受試験片10を 80℃の温水に 1 時間浸漬後乾燥布で拭取り、常温まで放冷後、締め代 20μm となるようなハウジング11に圧入し、幅面固定蓋12をボルト止めして固定する。配線13に取り付けた 1000 V DC絶縁抵抗計14を用いて、軸受試験片10とハウジング11間の絶縁抵抗を測定した。結果を表2に示す。判定基準は、2000 MΩ以上の抵抗率を示す場合は「可(○)」、2000 MΩより下回る抵抗率の場合は「不可(×)」と判定した。
Figure 0005052120
実施例1〜実施例6の結果より、硬化後の未硬化成分の溶出がなく、硬化後も溶射膜内の空隙部を確実に充填することのできる、上記エポキシ系の組成を持った封孔処理剤を軸受試験片10の局部加熱装置を具備した封孔処理装置にて封孔処理を行なうと、絶縁特性、外観ともに良好な結果となった。これら構造を組込むことで、封孔処理装置の自動化を図ることができ、かつ封孔処理時間も大幅に短縮できるため、製品の生産性が大幅に向上する。
これに対して、比較例1および比較例2は、回転速度を従来から実績のある 30 min/rev. よりも早くしたにもかかわらず軸受試験片10の局部加熱を実施しなかったため、封孔処理皮膜表面に硬化した過剰量の封孔処理剤が存在した。これは後工程での研摩作業時に砥石の目詰まりを引き起こし、生産性を大幅に低下させる危険性があるため、不可と判断される。
比較例3、比較例4、比較例7および比較例8は、いずれも封孔処理剤が硬化後に揮発物や未重合有機溶剤の溶出の発生が懸念される組成であり、それが原因となって温水浸漬後の絶縁抵抗値の規格外れを引き起こしたと考えられる。
比較例5および比較例6はいずれも、回転封孔装置での封孔処理剤の塗布後に軸受試験片10の局部加熱を実施しなかったため、溶射膜厚が 600μm の厚膜品では、深部まで封孔処理剤が浸透できなかったと考えられる。そのため、封孔処理皮膜表面に硬化した過剰量の封孔処理剤が存在し、研削後の試験軸受の温水浸漬後の絶縁特性も規格外れを引き起こしたものと考えられる。
本発明の封孔処理剤塗布装置は、円筒形ワークの外周面に形成されたセラミック溶射被膜内の空隙を確実に、生産性に優れた簡便な方法で封孔処理剤により充填することができる。このため、絶縁軸受などに好適に用いることができる。
封孔処理装置である。 絶縁抵抗試験の概略を示す図である。
符号の説明
1 円筒形ワーク
2 回転ローラ
3 ガイドローラ
4 封孔処理剤
5 封孔処理剤収容容器
6 軸受
7 駆動モータ
8 筐体
9 加熱手段
10 軸受試験片
11 ハウジング
12 幅面固定蓋
13 配線
14 絶縁抵抗計

Claims (6)

  1. 内径部に溝を有する円筒形ワークの外周面に形成されたセラミック溶射被膜を液状の封孔処理剤を用いて封孔処理するための封孔処理剤塗布装置であって、
    前記円筒形ワークの内径面を少なくとも1個以上の回転ローラで回転支持して前記円筒形ワークを回転させる手段と、前記回転ローラで回転支持された状態で前記セラミック溶射被膜部分を加熱する手段と、前記円筒形ワークに対して上下方向に移動可能な封孔処理剤収容容器とを有し、前記封孔処理剤収容容器を前記円筒形ワーク下部に配置することを特徴とする封孔処理剤塗布装置。
  2. 前記セラミック溶射被膜部分を加熱する手段は、該溶射被膜部分の温度が 60℃〜90℃にできる手段であり、前記封孔処理剤収容容器内の封孔処理剤の温度は 10℃〜40℃であることを特徴とする請求項1記載の封孔処理剤塗布装置。
  3. 前記円筒形ワークを回転させる手段は、ローラ外周面に弾性体を配した前記回転ローラと、前記円筒形ワークの内径面に接して従動する少なくとも1個以上のガイドローラとにより前記円筒形ワークを支持し、前記回転ローラおよび前記ガイドローラの少なくとも1つのローラが円筒形ワークの前記溝内面に接し、この溝内面に接する部位に弾性体を配したローラ構造であることを特徴とする請求項1記載の封孔処理剤塗布装置。
  4. 前記封孔処理剤は、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まず、前記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、前記硬化剤を除く、前記エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10〜80 重量%配合された封孔処理剤であることを特徴とする請求項1記載の封孔処理剤塗布装置。
  5. 前記円筒形ワークが、前記溝内面を転走面とする軸受外輪であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の封孔処理剤塗布装置。
  6. 内径部に溝を有する円筒形ワークの外周面に形成されたセラミック溶射被膜を請求項1ないし請求項のいずれか1項記載の封孔処理剤塗布装置を用いて封孔処理する方法であって、
    前記円筒形ワークの外周部分を前記封孔処理剤に浸漬した状態で前記回転ローラを回転させることで円筒形ワークの外周部分に封孔処理剤を塗布・浸透させることを特徴とする封孔処理方法。
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