JP3597707B2 - ブラシ軸用線材と該線材を用いてなる歯間ブラシ製品 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、操作性及び耐久性を高め得る歯間ブラシ用のブラシ軸用線材(以下単にブラシ軸用線材又は線材ということがある)と、該線材を用いてなる歯間ブラシ製品に関する。
【002】
【従来の技術】
従来から金属線材を撚り合わせ軸線としたブラシ製品は製造容易で安価であり、また使用時の操作性等の点から好適し、各種化学備品類や金属製品などの洗浄用,清掃用を中心としてさまざまな大きさのものが開発され使用されてきた。
【003】
また近年では、健康維持の為の衛生用品として、従来の歯磨きだけでは除去できないような狭い歯間に付着した歯垢を除去する為の歯間ブラシ製品も開発され、飛躍的な普及を見ている。
【004】
このようなブラシ製品は、例えば図1に示すように、2つに折り曲げた金属軸線A間に、ブラシ用の合成繊維や化学繊維などの毛材Bを前記金属軸線Aと直交する方向に配してはさみながら撚り加工し、この撚り加工によって毛材Bをしっかりと挟持させる方法が採用されている。
【005】
そして、ここに用いられる軸線Aの為の線材としては、このような撚り加工やあるいはブラッシング時等での必要に応じて行う曲げ変形等の為に軟質仕上げ状態であることが必要であるものの、これまでのブラシ製品は比較的大きなもので、その軸線も例えば1mm以上のように太い線材であったことから、例えばSUS304系ステンレス鋼軟質線などの一般線材でも問題なく使用されてきた。
【006】
一方、前記歯間ブラシ製品にあっては、狭い歯間に挿入可能な大きさとする必要からそれに使用される線材は例えば0.3mm程度の金属細線となるものの、前記従来の一般線材をこのような細い状態で用いた場合にあっては剛性が小さくなって、座屈や変形を誘発しやすくブラッシング性能の低下となる。
【007】
こうした問題を解決するものとして、例えば特開平7−227315号公報では、Co30〜60重量%含むCo合金線を用いた軸線が好適することを示し、また特開平5−317123号公報では引張り強さの大きいワイヤーの採用により破断や座屈を防ぐ一方、さらに低融点樹脂材料を被覆しさらに固化させることでラセン巻加工後のスプリングバック発生を防ぎ、合わせて毛材の脱落を防止することを開示している。
【008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、ブラシ用の軸線はブラシ製品の品質や機能,操作性,寿命などの製品特性に直接的な影響を及ぼすことから、軸線自体の品質の優劣がブラシ製品の普及にまで及ぶとまで言われており、例えば前記歯間ブラシ製品などでは、使用上の制約からより細い軸線としながらも苛酷な使用に耐え得る十分な強度と耐食性とを備え、さらに加工容易な特性を持ったものの開発が急がれているものの、前記公報には未だ解決されるべき問題も残っている。
【009】
すなわち、前記従来技術の中で前者公報が開示する歯間ブラシは、その軸線として30〜60重量%のCoを含むCo合金(例えばCo−Cr−Ni系合金,Co−Cr−Mo系合金,Co−Cr−W−Ni系合金などその他)の線材を使用することを基本としているが、この合金はまた他の元素成分との関係もあって、その軟質状態でも引張強さや弾性係数,剛性などの機械的特性が大きい傾向があり、この為、ブラシ製造時にはスプリングバックや折損発生率が、また使用時においても、ブラッシングなどでの繰り返し曲げ疲労に伴う折損発生率が高くなって、製造歩留まりや寿命を低下させる一因となっている。
【010】
この点に関し本発明者らは、この線材に捻り試験と繰返し曲げ試験とを行ない、その結果、この高Co入りのステンレス鋼線では他の通常ステンレス鋼線(例えばSUS304など)の場合に比べて、▲1▼捻り特性が低く、少ない捻り回数で折損しやすいこと、▲2▼捻り回数を変えた軸材にさらに繰返し曲げを付加して折損発生するまでの曲げ回数を調べた結果、より多くの捻り回数を与えた軸線では、その後に付加される繰返し曲げで折損発生するまでの曲げ回数が急激に減少することが判明し、この点から見てもCo入り材料の脆性は大きいことが伺えた。
【011】
したがって、このように耐捻り特性に劣り、かつ弾性強度の大きく前記スプリングバックが起こりやすい前記材料では、例えば撚り加工でのブラシ毛材の挟持が不確実となってその脱落を起こしやすくなり、一方、それを防止するために大きな撚り加工を与える場合にはかえって折損を誘発するなど、撚り加工条件の調整に困難をきたしている。
【012】
しかも、このようなCo入り線材の伸線加工性も前記脆性が大きいことに起因して極めて低く、線材製造段階では頻繁に熱処理を行う必要があり、まして数100μm程度の細線にまで細径化する工程での製造歩留まりは、通常のステンレス鋼線などの場合と比べ1/2〜1/3以下と大幅に低下していることから、製品コストアップの一因にもなっている。
【013】
一方、前記後者の公報が開示する歯間ブラシについても、ワイヤーは引張り強さ150Kg/mm 2 以上というような硬質ステンレス鋼線を用いるものであって、このような硬質線ではブラシ製造時の困難性が予想され、さらに例えば樹脂被覆工程や被覆樹脂の熔融固化作業が新たに必要になる他、ワイヤー径自体が増加して歯間への挿入性に弊害をもたらすという欠点がある。
【014】
このような軸線としてはさらにその他材料、例えば通常のSUS304あるいは316系ステンレス鋼軟質線材等の使用も想定されるが、このような線材の軟質線では強度が不十分で腰が弱く、座屈しやすいという問題もあることから、到底前記用途のような特殊ブラシ用としては適さないものである。
【015】
本発明者らはこのような欠点を解決し、特により細い軸線を対象として製造容易で品質特性にすぐれた好適材料を見出すべく鋭意研究し本発明を完成するに至った。
【016】
【課題を解決する為の手段】
すなわち本発明の請求項1の発明は、重量で、C:0.01〜0.08%、Si:0.50%以下、Mn:5.0〜7.0%,Ni:9.0〜11.0%、Cr:19.0〜23.0%、Mo:1.0〜3.0%、N:0.35%以上,残部実質的にFeからなるステンレス鋼の線材であって、
固溶化熱処理、又は該熱処理に引続くスキンパス伸線加工により仕上げられ、かつ該線材のJISG0551に基づくオーステナイト結晶粒度を8以上とする細粒オーステナイト構造とするとともに、線径0.1〜0.4mmに仕上げたことを特徴とする歯間ブラシ用のブラシ軸用線材である。
【017】
また請求項2の発明は、前記線材はNを0.40〜0.50%を含み、かつ前記結晶粒度を10以上としたブラシ軸用線材であり、請求項3の発明では、前記線材は、絞り75%以上でかつ0.2%耐力を500N/mm 2 以上(以下mm 2 をmm2と記載することがある)の特性とし、線径0.1〜0.4mmに仕上げてなるブラシ軸用線材としている。
【018】
さらに請求項4の発明では、前記線材を軸線としてその複数本を螺旋巻するとともに、該軸線間でブラシ毛材を挟持して構成した歯間ブラシ製品である。
【019】
このように請求項1の発明によれば、ステンレス鋼の中でも特に高MnでかつMo−Nを含有し所定組成に調整した前記ステンレス鋼では伸び特性や絞り特性が大きくでき靭性を高めた特性を有することから、その特性によって細線製造を安定化させるとともに、ブラシ製品として捻りや繰返し曲げにも順応性を高めることができる。
【020】
そしてまたこの発明では、このような加工性の良い材料特性を犠牲にすることなくさらに強度特性の向上を図る為に、固溶化熱処理または熱処理後のスキンパス伸線加工によって、その結晶粒度を8以上の微細なオーステナイト組織にすることとしており、こうした特性のバランスによって該線材自体が有する靭性と強度とを合わせ持つものとし、加工性に優れ、腰が強く座屈を防いで操作性の高いブラシ製品に好適するとの知見に基づいている。
【021】
なお、このように微細なオーステナイト結晶構造の達成についても、本発明では固溶化熱処理、又は固溶化熱処理後のスキンパス伸線で行うこととしているが、熱処理条件の選定は重要であって、例えば、高温度で長時間の熱処理したステンレス鋼は熱の影響を十分に受けて内部結晶を粗大化させ軟質化してくるものの、逆に低温度または短時間での過少処理をした場合には、その結晶粒があまり成長しないうちに終えることとなって、強度や硬度を十分な軟質状態にさせることができないものとなる。
【022】
本発明は、こうしたステンレス鋼の熱処理における後者現象を、所定組成の材料に応用することを基本としてブラシ軸用線材への応用を可能にするものであって、前記熱処理条件の選定については種々実験により確立しておく必要がある。
【023】
このようにブラシ軸用に好適した特性とする為に、前記組成のステンレス鋼に少なくとも熱処理を施し、結晶粒度の微細な組織とすることで達成可能としているが、例えば更に強度アップを図ろうとする場合には、必要に応じて前記熱処理に引続きスキンパス伸線加工を行うこともできる。
【024】
この場合のスキンパス伸線加工としては、線材の表面層のみが実質的に影響を受ける程度以下の比較的軽い、例えば加工率5%程度以下で行うのが好ましく、逆に線材全体的にわたって加工マルテンサイト相を発生させるような大きな加工率を加えることは線材自体の靭性を低下させることとなって好ましくない。より好ましい加工率は、3%以下とする。
【025】
本発明では、前記線材組成に加え、さらにこのような手法によりJISG0551に基づくオーステナイト結晶粒度を8以上とする細粒オーステナイト組織を有することをその特徴としており、その結晶粒度の算出はJISG0551『鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法』に基づき行うこととしている。
【026】
すなわち同規格では、その粒度番号を−3〜10までの計14ランクに規定され、その中で例えば粒度番号8では断面積1mm2当たりの結晶数が2048ケ、結晶粒の平均断面積は0.00049mm2に、また粒度番号10では、断面積1mm2当たりの結晶数は8192ケ、結晶粒の平均断面積が0.000122mm2としており、粒度番号5以上の鋼を細粒鋼としていることから、本発明で用いる線材はこの中に含まれるものである。
【027】
そして、線材の結晶粒度を前記範囲に設定することに関して説明すれば、一般的に金属材料ではその機械的特性や化学的特性に影響する大きな因子としては材料素材の成分調整があり、また、ステンレス鋼線材の熱処理加工では前記したように、例え同一成分の材料であってもその処理条件によって製品特性に大きな影響を与えることとなる。
【028】
この観点から、靭性を高めた材料組成を用いる本発明において、例えば歯間ブラシ用などのように線径が細く、しかもそれ自体に所定の強度を持たせるためには、その結晶粒度を細かくすることが不可欠であり、結晶粒度を8未満のように粗大化させたものでは、横断面における結晶数が少なくなりすぎて絞り値を低下させることとなって、例えば繰返し疲労強度を低下させたり製品寿命を短縮させる原因となることから8以上、より好ましくは10以上としており、一方、その上限については、例えば断面積1mm2当たりの結晶粒の数が20000ケ以下とするのが良い。
【029】
このような構成及び作用から、線材を伸線加工する場合には高い伸線性によって安定して細線化でき、またブラシ製造時にも捻り性に優れスプリングバックも小さく、しかも座屈や折損を防ぐ寿命の長いブラシ製品とすることが可能となるが、ここで本発明に使用する前記ステンレス鋼における各成分範囲の限定理由を説明する。
【030】
{C}Cは侵入型の元素であり、その添加によって強度を高めることができるが、多量のCを添加した場合にはCrと結合して炭化物を生成させることとなり、耐食性を劣化させることとなる。この為、少なくとも0.01%の添加は必要であり、その上限を0.08%、好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.03%とする。
【031】
{Si}Siは鋼の溶製時の脱酸剤として使用され、多量添加は加工性を劣化させることとなることから、その上限を0.50%とした。
【032】
{Mn}MnはNiとともにオーステナイト生成元素であり、また靭性を高めることに有効なNをより多く固溶させるのに有効であって、本発明のように、0.35%以上の高Nを含む材料では少なくともその値が5.0%未満では不十分であり、一方7.0%を越える程添加させたものでは熱間加工性を害することとなり、より好ましくは5.0〜6.5%とする。
【033】
{Ni}Niはオーステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定には欠くことができず、また変形抵抗の低下や冷間加工性の向上にも寄与する成分であることから、少なくとも9.0%の含有は必要であるものの、11.0%を越える程の添加は必要なく、好ましくは9.5〜10.5%とする。
【034】
{Cr}Crもまたステンレス鋼におけるNの固溶量の増加、及び耐食性を高めることに寄与する元素であるが、一方ではフェライト生成元素でもある。この為、口腔内での使用に耐える耐食性とする為には少なくとも19.0%の含有が必要であり、一方23.0%を越える程添加した場合にはFe−Cr合金のシグマ相が発生し脆化することが懸念される。この為、より好ましくは20.0〜22.5%とする。
【035】
{Mo}Moも前記Crの場合と同様に、Nの固溶量の増加、耐食性の向上に有効であって、口腔内での耐食性に対応する為には1.0%以上を必要とするが、3.0%を越える添加は熱間加工性を阻害することとなり、より好ましくは1.5〜2.5%とする。
【036】
{N}Nは侵入型元素であって、その添加によってオーステナイト相を安定にして絞り特性を高めるとともに耐食性も向上させることに寄与するが、より有効とする為には少なくとも0.35%が必要となる。しかし通常の製造プロセスの中で窒化物を完全固溶させ、加工性を阻害させない範囲としては0.4〜0.5%とするのがよい。
【037】
このように、本発明で用いるステンレス鋼は、前記従来技術の中で示したようなCo元素を含まない組成としていることから、生体的にも安全性の高い材料である。
【038】
また、請求項2の発明では、このような材料の中でさらにN含有量をより多く添加することによって、前記結晶粒度の細粒化を促進して容易に10以上にでき、それによってすぐれた靭性を有しながらも強度アップを図るとともに、座屈や捻り特性の向上を図っている。
【039】
また請求項3及び4の発明では、絞り特性75%以上とし、0.2%耐力を500N/mm2以上の強度とすることによって、特に座屈問題が問われる例えば歯間ブラシなどで使用されるような0.1〜0.4mmの細線領域における特性向上を図っており、したがって、この軸線の複数本を螺旋巻した場合にも、大きな絞り特性を有することで強度の撚り加工に耐えることを可能にするとともに、その間にブラシ毛材を挟持させた場合にも、撚り加工によるスプリングバック発生が少なく、確実な挟持を可能にすることができる。
【040】
本発明の軸用線材は、このような特性以外にさらに透磁率特性も非常に小さい特徴を有することから、例えば処理ライン中の一工程などにおいて特に非磁性を必要とするような例えば洗浄の為のブラシ用の軸材として使用する場合にも有効であり、また可撓性を特に持たせたブラシ製品とする場合には、その軸線として、例えば多本数の前記線材同士を撚り合わせたり、あるいは2重撚り3重撚りなどの多重撚線とて構成することもできる。
【041】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の態様として、歯間ブラシの場合を説明するが、これはその一例にすぎず、例示されなかったものについてもその思想が及ぶ範囲内にあるものはその対象として包含されるべきである。
【042】
図1は前記した歯間ブラシ製品の構造を示す全体構造であって、所定太さの線材(軸線)Aを密着に折り曲げてその間に所定長さに切られた天然繊維や合成繊維でなる毛材Bの複数本を配して順次撚り合わせ、かつこの撚り合わせによって前記毛材Bを保持することで形成しており、またその端元部はプラスチックなどでなる把持体C内に埋め込みブラシ製品1としている。なお、この把持体Cについては、本発明の必須要件ではなく必ずしも必要とはしない。
【043】
ここで、この軸線Aとしての適合性を評価する為に、表1に示す各種ステンレス鋼線を製造し、各々の特性を比較することとした。
【044】
【表1】
【045】
この中で、試料1〜5は本発明に相当する組成でなる実施例であり、他方、試料6〜9は比較の為の比較材であって、試料6ではCoを多量に含有させた前記特開平7−227315号に基づくNAS604PH(材質記号)材を用い、試料7はNiアレルギーの副作用を防止する為にその一部をMnで置換させ省Ni型としたAISI205材、また試料8は一般的なSUS304材,試料9は耐食性を高める為にMoを含有させたSUS316Lである。
【046】
これら材料は、各溶解ロッドから伸線と熱処理加工とを繰り返し行うことで0.25mmの細線に仕上げることとし、発明実施例材及び比較材は共に最終熱処理仕上げとしているが、実施例材については、結晶粒度と熱処理条件との関係を見る為に比較的軽度の熱処理条件(950〜1050℃×1〜10Sec.)で行い、また比較材については通常の熱処理条件(温度1100〜1150℃)で行ったものである。
【047】
こうした線材の伸線加工性及びその結果得られたものの機械的特性と化学的特性,磁性特性を表2にまとめて示す。また以下の各表中に記した符号、◎は優,○は良,△は適,×は不適であることを示している。
【048】
【表2】
【049】
この中で、実施例とした試料1〜5の線材は1mm以下の細線でも90%近くの加工率を加えても十分に加工することができ、加工性が大きいことが確認されたが、一方、Coを含む試料6や高Mnの試料7では40%加工毎に熱処理を行わなければならず、特に試料7の線材については0.8mm以下の細線にすることはできなかった。
【050】
また機械的性質の測定については、得られた軟質線材を標点間距離100mmとし、引張り速度30mm/分で引張った時の応力:歪み曲線から算出したものであつて、本実施例材と試料8(SUS304)の一例を図2に示している。
【051】
またその結晶粒度の測定は、前記JISG0551による方法で求めたものである。前記表2及び図2の結果から、本発明とした実施例材では結晶粒度が10以上(平均結晶粒の大きさ0.5×10−4〜1.5×10−4mm2)と微細であり、しかも引張り強さ,破断伸び,耐力ともにブラシ軸線としては好適する範囲にあることが判明した。この線材横断面組織を200倍に拡大した組織写真の一例を図4に示す。
【052】
また、試料1の線材についてはさらに前記通常条件での熱処理も併せて行ってみたが、その場合の特性は、結晶粒度が6と大きくなって大きな破断伸び特性は有するものの、破断強度が小さく、また耐力も430N/mm2しか得られなかった。
【053】
さらに耐食性についての結果として、図3に『生理食塩水(0.9%NaCl,at37℃)中における全金属溶出量』の結果の一例を図示しているが、この図から本発明に基づく実施例材の溶出量はSUS316L材までには及ばなかったものの、AISI205材あるいはNAS604PH材の1/2〜1/4と優れていることが分かり、衛生的な問題は少ないものといえる。
【054】
また表3には、対孔食性としてのアノード分極曲線の結果を示しているが、この結果においても実施例材の電流密度100μA/cm2の時の孔食電位は1.150(V VS Ag/AgCl)と他の線材に比べて優れ、強固な不動態皮膜が形成されていることが確認できた。
【055】
【表3】
【056】
《ブラシ製品製造時の比較》つぎに、このようにしてなる軸線によりブラシ製品を製造する際の問題について検討することとし、試料3(実施例材)及び試料6(NAS604PH),試料8(SUS304)の3点について、捻回加工での加工性及びスプリングバッグ発生程度と、座屈強度の4項目について評価し、その結果を表4に示した。
【057】
【表4】
【058】
これら評価方法として、捻り加工性については、スパン200mmにセットした各線材の一端に1.8rpmでの捻り応力を加え、破断するまでの捻り回数で求めたものであり、またスプリングバッグについては、2本の線材に一定量の捻りを与えた後一旦これを解放しその時の戻り角度で求めており、また座屈強度については捻られた長さ2cmの軸線をU字状に曲げていき、その荷重の大小で見た。
【059】
その結果、試料6(NAS604PH線材)では平均96回、試料8(SUS304線材)では平均169回の捻りで折損したのに対して、試料3(本実施例線材)では141回と試料8には及ばなかったものの高い捻回特性を有し、またスプリングバッグ及び座屈が少ないことが判明した
【060】
そこで、さらにこの試料3及び試料8の両線材を対象として、実際の使用状態を想定した試験として、撚り合わせ線に繰り返し曲げを行う複合試験で評価し、この結果から寿命特性を比較することとした。
【061】
試験は、線材2本を撚り回数50〜90回の範囲内で撚り合わせた各撚線を用い、その一端を固定して他端側を180°に繰り返し曲げすることで折損した時の曲げ回数で求めたが、この回数は曲げ角度90°を1回分として数えたものである。
【062】
その結果、試料8(比較材)の線材では、撚り回数を増し密に螺旋撚りしたものでは平均70〜90回で折損したのに対して、実施例の試料3の線材では120〜130回までの曲げに耐えることができ、また実施例線材では撚り回数が変化しても曲げ回数の変動が小さい特徴もあり、長寿命品となることが確認できた。
【063】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のブラシ軸用線材と歯間ブラシ製品は、結晶粒度を細粒化し成分調整されてなるステンレス鋼とすることにより、線材の加工性と強度特性とのバランスを図り、細さが要求されるような例えば歯間ブラシ用としても加工性を高めるとともに、歯間のような狭い部分への挿通性や操作性、耐久性、さらには耐食性をも向上したブラシ製品の提供に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】歯間ブラシ製品の形態を示す平面図。
【図2】軸線の引張試験における応力:歪み線図の一例
【図3】耐食性の結果を示す線図。
【図4】線材の横断面組織写真の一例。
【符号の説明】
A:軸線 B:毛材 C:把持部 1:ブラシ製品
Claims (4)
- 重量で、C:0.01〜0.08%、Si:0.50%以下、Mn:5.0〜7.0%,Ni:9.0〜11.0%、Cr:19.0〜23.0%、Mo:1.0〜3.0%、N:0.35%以上,残部実質的にFeからなるステンレス鋼の線材であって、
固溶化熱処理、又は該熱処理に引続くスキンパス伸線加工により仕上げられ、かつ該線材のJISG0551に基づくオーステナイト結晶粒度を8以上とする細粒オーステナイト構造とするとともに、線径0.1〜0.4mmに仕上げたことを特徴とする歯間ブラシ用のブラシ軸用線材。 - 前記線材はNを0.40〜0.50%を含み、かつ前記結晶粒度を10以上とした請求項1に記載の歯間ブラシ用のブラシ軸用線材。
- 前記線材は、絞り75%以上で0.2%耐力を500N/mm 2 以上の特性とし、請求項1または2に記載の歯間ブラシ用のブラシ軸用線材。
- 前記請求項1〜3のいづれかに記載のブラシ軸用線材の複数本を螺旋巻するとともに、該線材間でブラシ毛材を挟持して構成してなる歯間ブラシ製品。
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