JP3061977B2 - 高強度低熱膨張合金 - Google Patents

高強度低熱膨張合金

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JP3061977B2 JP5144627A JP14462793A JP3061977B2 JP 3061977 B2 JP3061977 B2 JP 3061977B2 JP 5144627 A JP5144627 A JP 5144627A JP 14462793 A JP14462793 A JP 14462793A JP 3061977 B2 JP3061977 B2 JP 3061977B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、使用中の昇温によって
支障をきたす精密機械部品や、低弛度耐熱送電線用芯線
等に使用される高強度低熱膨張合金に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】従来より、架空送電線については、鋼芯
アルミ撚線(ACSR線)が使用されてきたが、近年の
電力需要の増大と地価高騰が相まって従来の鋼芯アルミ
撚線に代わる高強度で低い熱膨張係数をもつ合金線が望
まれるようになった。この用途では高強度低熱膨張合金
をアルミ撚線の芯材として使用するので、複数本の線材
を撚って束ねる作業が入る。この撚線作業の性能を評価
する手法として、線材の一端を固定して他端をねじる捻
回試験を実施し、捻回値として要求されている。
【0003】このような用途に対し、特公昭56−45
990号、特開昭55−41928号、特公昭57−1
7942号、特開昭55−122855号、特開昭55
−128565号、特開昭55−131155号、特開
昭56−142851号、特開昭57−26144号、
特開昭58−11767号および特開昭58−1176
8号等のFe−Ni系合金が提案されている。さらに、
これらの合金の強度と捻回特性を向上させる目的で、特
公昭60−34613号、特公平2−15606号、特
公平2−41577号および特公平2−55495号等
の高強度低熱膨張合金線(ACIR線)あるいは合金線の
製造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の高強度
低熱膨張合金は、いずれもNiまたはNi+Coを35
〜50%の範囲で含み、さらにCやNの侵入型固溶強化
元素やCr、Moなどの数種の置換型固溶強化元素やT
i、Nbなどの数種の析出強化型元素を低熱膨張特性を
損なわない範囲で含み、残部がFeからなる合金組成で
ある。これらの合金は、いずれも固溶化熱処理あるい
は、焼鈍熱処理状態においては、良好な捻回特性が得ら
れるものの、引張強さはたかだか50〜80kgf/mm2
範囲であり、この状態では低弛度架空送電線用芯線の用
途には適さない。しかし、これらの合金は、いずれも加
工硬化能が、従来の低熱膨張合金である36%Ni−F
e合金や、42%Ni−Fe合金に比べて大きく、冷間
加工によって100〜130kgf/mm2の引張強さが得ら
れ、一部で実用化されるようになった。
【0005】しかし、従来の鋼芯アルミ撚線の芯線に用
いられているピアノ線の強度は、170kgf/mm2クラス
のものがより多くをしめており、これらの送電線の送電
容量を鉄塔の建て替えなしに高めるためには、170kg
f/mm2クラスのピアノ線と同程度の引張強さをもつ、低
熱膨張合金線が必要となっていた。また、ここで述べた
従来の高強度低熱膨張合金線は、単純に冷間域で強加工
を加えただけではねじりに対する変形能を表わす捻回特
性は大きく低下してしまうので、引張強さと捻回特性を
両立させるために上記の公報に開示された合金を種々の
煩雑な製造によって伸線化する方法が提案されている。
たとえば、特公昭60−34613号や特公平2−15
606号では、いずれも冷間加工の前段階または冷間加
工の途中で歪取焼鈍を実施し、強度と捻回特性の両立が
試みられている。これらの製造方法には皮剥によって生
じる表面の歪みを焼鈍熱処理で除去することにより、良
好な捻回特性を得ることが開示されている。
【0006】これに対し、特公平2−41577号およ
び特公平2−55495号に開示される合金線は上記の
特公昭60−34613号や特公平2−15606号と
ほぼ同一の製造プロセスをとるが、ここでは、冷間加工
後の焼鈍時に生成するMoC炭化物が強度と捻回特性の
向上に寄与すると述べられている。しかし、特公平2−
41577号および特公平2−55495号の発明人の
1人は「Effect ofprocesses of drawing on torsional
property of high-tensile strength Invar alloy wir
e」(Wire Journal International vol.21,No.4(1988),P8
4)と題して捻回特性の改善に触れている。
【0007】この論文において、捻回特性の改善は冷間
加工後にMo2C炭化物を析出させる焼鈍熱処理を実施
するだけでは不十分で、とくに引抜後の合金線の横断面
の硬さ分布において、中心部の硬さがもっとも高くなる
ように、ダイスの引抜角を小さく、かつ潤滑性を高める
ためのクリストファーソンチューブと称される特殊な治
具が必要であると報告されている。しかし、ダイスの引
抜角を小さくしたり、潤滑性を高めるためのクリストフ
ァーソンチューブと称される特殊な治具を使用して捻回
特性を高めることは、引抜パス回数の増大(引抜角が小
さくなると摩擦抵抗が大きくなり、1パスあたりの減面
率を高くとることができない)を招き、ラインの工程変
更にも時間がとられ、全長数kmにもおよぶ合金線の製
造に対してははなはだ効率の悪い製造方法である。
【0008】このような観点から、本発明者は、特願平
4−102564号において、ステンレスインバーと呼
ばれる54Co−9Cr−残部Feの合金と、スーパー
インバーと呼ばれる31Ni−6Co−残部Feの合金
を、よりオーステナイト相が不安定な方向の組成とした
合金を比例関係で結ぶ領域に、さらにオーステナイト相
の加工硬化と加工誘起マルテンサイトの強度向上に大き
く寄与するCを適量添加した合金を提案した。この合金
は、従来のインバー線よりもさらに高強度で、むしろピ
アノ線に近い引張強さと、煩雑な焼鈍工程を入れる必要
もなく、単純な冷間引抜工程を行なうだけで、従来のピ
アノ線と同じレベルの捻回値が得られる。しかし、この
合金では、低弛度架空送電線の常用温度域である常温か
ら200℃程度までの温度範囲では、確かに低い熱膨張
係数が得られるものの、使用最大温度範囲となる常温か
ら、300℃の温度範囲となると従来の低弛度架空送電
線よりもあきらかに高い熱膨張率を示すことがわかっ
た。
【0009】以上の問題点を鑑み、本発明の目的は、従
来のFe−Ni系高強度低熱膨張合金の強度 100〜130k
gf/mm2よりはるかに上のピアノ線に匹敵する170kgf/mm2
程度の引張強さをもち、かつ煩雑な工程を経ずとも安定
して高い捻回特性をもち、さらに常温から300℃程度
の温度域まで、従来の低弛度架空送電線並みの低い熱膨
張係数を有する高強度低熱膨張合金を提供することであ
る。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、このよう
なピアノ線並みの高強度と広い温度域での低熱膨張係数
の両立を目的として、Fe−Co−Ni系合金に種々の
合金元素を添加した組成の熱間鍛造素材を用い、その合
金線の引張特性、捻回特性および熱膨張係数を調査し
た。その結果、熱膨張曲線の曲率の変化を表わす変移点
(変移点は、ほぼキュリー温度に相当し、変移点までの
温度領域においてインバー特性がえられ低い熱膨張係数
となるが、変移点を超える温度域では、急激に熱膨張係
数が大きくなる)が、特願平4−102564号に示さ
れる合金組成群では200℃前後に位置し、そのために
低弛度架空送電線の使用最大温度範囲となる常温から、
300℃の温度範囲では従来の低弛度架空送電線よりも
あきらかに高い熱膨張率を示すことがわかった。そこ
で、特願平4−102564号と同じ加工誘起マルテン
サイト変態を利用した高強度化の手法が利用できるFe
−Co−Ni系合金の組成範囲で、さらに変移点が高く
とれる領域を検討した結果、特願平4−102564号
に比べてNi+Co量が比較的高く、Cr+Mo+W量
が比較的低い領域に高強度と低熱膨張係数を両立する合
金組成領域が存在することを見出した。
【0011】すなわち、本発明のうちの第1発明は、重
量%で、C0.06〜0.50%、Si1.0%以下、
Mn2.0%以下、Ni22.8〜29.2%、Co
9.3〜20%で、NiとCoの関係が58−(5/
3)Ni<Co≦86.25−(5/2)Niであり、
残部は不純物を除きFeからなる組成で、少なくともオ
ーステナイト相と加工誘起変態によって生じるマルテン
サイト相との2相を有する組織としたことを特徴とする
高強度低熱膨張合金であり、第2発明は、重量%で、C
0.06〜0.50%、Si1.0%以下、Mn2.0
%以下、Ni22.8〜29.2%、Co9.3〜20
%で、NiとCoの関係が58−(5/3)Ni<Co
≦86.25−(5/2)Niであり、さらにCr2.
5%以下、Mo3.5%以下およびW5%以下の1種ま
たは2種以上をCr+0.54Mo+0.28W≦2.
5の範囲で含み、残部は不純物を除きFeからなる組成
で、少なくともオーステナイト相と加工誘起変態によっ
て生じるマルテンサイト相との2相を有する組織とした
ことを特徴とする高強度低熱膨張合金である。
【0012】上記の第1、第2発明の合金には、必要に
応じて重量%で、B0.02%以下、Mg0.02%以
下およびCa0.02%以下の1種または2種以上を添
加することができる。さらに、必要に応じて重量%で、
V,Ti,Nb,Ta,HfおよびZrの1種または2
種以上を合計で1%以下を含有することもできる。さら
に重量%で、Al0.2%以下とREM0.2%以下の
1種または2種を添加することもできる。さらに、これ
らの組成の高強度低熱膨張合金のオーステナイト相は、
冷間加工後に相全体の少なくとも65%以上である組織
とするのが低熱膨張特性を得るために望ましい。
【0013】
【作用】以下、本発明の高強度低熱膨張合金の化学組成
範囲について、成分の限定理由を述べる。Cは、本発明
合金において、冷間加工時のオーステナイト相の加工硬
化と加工誘起マルテンサイトの強度向上にもっとも寄与
する元素である。また、オーステナイト安定化元素とし
てNiやCoの一部を置換することもできる。このよう
な効果を得るために、Cは、最低0.06%を必要とす
るが、逆に0.50%を越えるCは、オーステナイト相
を過度に安定化させて、マルテンサイト変態を起こしに
くくするとともに、熱膨張係数の増加を招く。したがっ
て、C量は、0.06〜0.50%に限定する。より望
ましいCの範囲は0.10〜0.30%である。
【0014】SiとMnは脱酸元素として本発明合金に
含まれる。だだし、過度のSi,Mnは熱膨張係数の増
加を招くため、それぞれ1.0%以下および2.0%以
下の添加にとどめる。NiとCoは、本発明合金におい
て、残部を構成するFeとともに合金にインバー特性を
与えるのに不可欠な元素である。NiとCoの成分範囲
は、図1の本発明領域内における相互の関係を満たす範
囲内においてのみ、常温から300℃程度の広い温度領
域で、良好な低熱膨張特性と高い引張強度の両立が可能
である。本発明領域よりも右上あるいはNi量が29.
2%を超える領域Aの合金組成になると、オーステナイ
ト相が強度の冷間加工を加えても安定になり、引張強さ
がせいぜい140kgf/mm2程度でこれ以上の加工硬化が
望めない。一方本発明領域よりも左下およびNi量が2
9.2%以下の領域Bでは、本発明合金と同様、加工誘
起マルテンサイト変態によって高強度が得られる。
【0015】しかし、領域Bの合金は、変移点が低いた
めに、200℃程度までは低い熱膨張係数が得られる
が、200℃〜300℃間の熱膨張係数が急激に高くな
るために、本発明合金に比べて熱膨張特性が劣る。さら
にCoが20%を超え、領域Aと領域Bに挟まれる領域
Cでは、領域Bおよび本発明合金と同様、加工誘起マル
テンサイト変態によって高強度が得られ、変移点も高い
が、変移点までの熱膨張係数が高くなりすぎるために常
温から300℃までのいずれの温度でも熱膨張係数が高
くなってしまう。したがって、本発明合金のNi、Co
量は、図1に示すごとく、22.8〜29.2%のNi
と、9.3〜20%のCoとを含み、かつ以下のNiと
Coの関係を満たす範囲内に限定する。 58−(5/3)Ni<Co≦86.25−(5/2)Ni ・・・(1) 強度、熱膨張係数、合金価格の観点から、特に望ましい
NiとCoの範囲は、25.0〜29.2%のNiと1
1〜15%のCoを含み、かつ(1)式を満足する領域で
ある。
【0016】Cr、MoおよびWは同属の元素で、とも
に基地であるオーステナイト相を安定化させるととも
に、固溶強化元素および一部は炭化物の析出強化元素と
して基地の加工硬化能を高めるので、必要に応じて単独
または複合で添加することができる。また、これらの元
素は低弛度耐熱送電線の使用最高温度である300℃付
近の高温強度を高める作用をもつ。しかし、これらの元
素はともに変移点を大きく低下させる元素であるため、
Crの場合は2.5%、Moの場合は3.5%およびW
の場合は5%を超えると変移点が過度に低下して、20
0℃〜300℃間の熱膨張係数が急激に高くなってしま
うため、Crの上限を2.5%、Moの上限を3.5
%、およびWの上限を5%にそれぞれ限定する。また、
これらの元素は固溶強化ならびに析出強化元素として原
子比で同様の働きをするため、Cr+0.54Mo+
0.28Wの和についても上限を2.5%とする。特に
望ましいCr,Mo,Wの範囲は、それぞれ1.5%以
下、2.5%以下、3.5%以下で、かつ、Cr+0.
54Mo+0.28W≦2.0の範囲内である。
【0017】Bはオーステナイト結晶粒界に偏析して粒
界を強化し、本発明合金の熱間加工性の改善や常温の延
性改善に効果がある。また、MgやCaは、Sと結びつ
いて粒状の硫化物をつくり、Bと同様、熱間加工性の改
善や常温の延性改善に効果がある。このような効果のた
めに、B、MgおよびCaは1種または2種以上を添加
することができるが、いずれも0.02%を超える過度
の添加は、合金の融点を下げて、逆に熱間加工性を低下
させるのでB、MgおよびCaはいずれも0.02%以
下に限定する。なお、Fe−Ni−Co系合金を強化す
る元素としては、C、Cr、Moの他に、固溶強化また
は微細なMC型炭化物の析出強化の点で同一作用を有す
るV,Ti,Nb,Ta,Hf,Zr等の元素を添加で
きる。V,Ti,Nb,Ta,HfおよびZrはCと結
合して微細な一次炭化物を形成し、オーステナイト相を
析出強化するとともに、一部が基地に固溶して、冷間加
工時の加工硬化能を高める。これらの効果のためにV,
Ti,Nb,Ta,HfおよびZrは、1種または2種
以上を必要に応じて添加することができる。その効果は
少量の添加から発揮される。
【0018】しかし、これらの合金元素の重量%の和
が、合計で1%を越えるようになると、粗大な一次炭化
物が析出して、冷間引抜の際に炭化物周辺にボイドが発
生しやすくなり、捻回特性のばらつきの原因となり、ま
た強度の上昇効果以上に熱膨張係数が高くなるようにな
る。よって、V,Ti,Nb,Ta,HfおよびZrの
添加は、1種または2種以上で合計1%以下の添加とす
る。また、AlとREMは脱酸や脱硫を目的として添加
することができる。それぞれ少量の添加から効果が表れ
るが、過度の添加は大気溶解を困難にするので、Al,
REMの添加はそれぞれ、上限を0.2%以下とする。
また、O、N等のガス成分は合金中で介在物を生成し、
同じく捻回値のばらつきの原因となるので、本発明合金
線においてはそれぞれ、0.01%以下が望ましい。本
発明にかかる合金は、上述した合金元素と残部Feから
構成される高強度低熱膨張合金である。
【0019】次に、本願の発明合金においては、オース
テナイト量は65%以上とするのが望ましい。加工誘起
マルテンサイトの変態量が増え過ぎてオーステナイト量
が65%未満になると、熱膨張係数が高くなりすぎて、
本発明が意図する低熱膨張特性が得られなくなる恐れが
あるからである。
【0020】上記の組成の本発明合金は、熱間加工後あ
るいは固溶化熱処理後に急冷して常温に戻しても、常温
ではほぼオーステナイト相が安定である。しかし、十分
に冷間加工を加えることで、加工誘起変態によって、マ
ルテンサイト変態を生じる。冷間加工による加工硬化
は、C添加によるオーステナイト基地の加工硬化能向上
に加え、マルテンサイト変態による効果が大きい。ま
た、本発明合金は線材に加工すると、特に冷間引抜の中
間工程で焼鈍処理を行なわなくても、20回以上の安定
した捻回値が得られる。このレベルの捻回値は従来のピ
アノ線の捻回値のレベルと同等のものであり、これは、
冷間加工によってすでに存在する加工誘起マルテンサイ
ト相あるいは捻回中におきるオーステナイト相からマル
テンサイト相への変態による応力の緩和による効果が大
きいものと推察される。
【0021】インバー合金に強度の冷間加工を加えて
も、基地のオーステナイト相が安定な場合は、熱膨張係
数は低いが引張強さが不十分であったり、線材に冷間加
工した際、単純な冷間引抜の工程では、捻回特性が不十
分になったりする。逆に、オーステナイト相が不安定に
なりすぎると、熱間加工後あるいは、固溶化処理後の冷
却過程で、マルテンサイト変態が生じて、もはやインバ
ー特性を得ることができなくなる。以上述べた理由によ
り、本発明合金が高い強度と低い熱膨張係数および高い
捻回値を同時に得るためには、オーステナイト相と加工
誘起変態によって生じるマルテンサイト相の2相を主相
とする必要がある。
【0022】このような加工誘起マルテンサイトのオー
ステナイトへの逆変態温度は550℃以上の温度であ
り、送電線として使用される最高温度である300℃前
後の連続的な使用は本発明合金において特性上、なんら
問題はない。また、加工誘起マルテンサイトは、送電線
として使用される際の中間および仕上げ製造工程におけ
るAl被覆処理やZnメッキ処理のような400〜500
℃の加熱で一部が炭化物とフェライトに分解することも
あるが、本発明合金において、少量のフェライトの存在
は、特性上なんら問題はない。また、炭化物相も少量存
在するが、特性上なんら問題はない。
【0023】
【実施例】表1に示す組成のFe−Co−Ni−(Cr
+Mo+W)系合金を溶製し、熱間鍛造によって直径1
3.0mmの丸棒に仕上げた。その後、850℃から98
0℃の温度で30分保持後水冷の固溶化処理と表面の皮
剥を行ない、直径12.3mmとした。さらにこの試料を
用いて、熱膨張係数を測定するとともに、冷間引抜によ
り加工率84〜93.5%の範囲で、直径4.9〜3.
1mmのコイルを作製した。冷間引抜は、ごく一般的なア
プローチ角12゜のWC製のダイスを使用し、1パスあ
たり、20%前後の減面率で伸線した。
【0024】その際の伸線速度は、通常の鋼線の伸線速
度と同程度の速度で行なった。これらの線材を用いて最
終加工ままの状態で熱膨張試験、引張試験、捻回試験、
巻付・巻戻し試験および合金中のオーステナイト量の測
定を実施した。この結果を表2に示す。本発明合金につ
いては、160kgf/mm2以上の引張強さと310℃まで
の低い熱膨張係数を両立する最適な加工率の線径の試験
結果について、また、比較合金No.31についても16
0kgf/mm2以上の引張強さが得られた線径の試験結果に
ついて、さらに比較合金No.32〜34と従来合金No.4
1については、加工率93.5%、直径3.1mmまで、
引抜いた時点での試験結果を記載した。
【0025】熱膨張測定は示差熱膨張計により、30℃
から230℃および30℃から310℃までの平均熱膨
張係数を測定した。引張試験の伸びは標点間250mmで
測定し、引張強さと絞りについていずれも5本の平均値
を求めた。また捻回試験は、掴み間を自己径の100倍
とし、回転数60rpmで破断までの捻回値をそれぞれ
10本測定して、平均値を求めた。巻付・巻戻し試験に
ついては、自己径の1.5倍の芯線に各8回巻付・巻戻
しした際に試験片が破断するか否かを調査し、割れの無
い場合は合格として○印を、割れが発生した場合は不合
格として×印を表2に記載した。さらに、試料横断面の
X線回折を行ない、以下の式によりオーステナイト量と
マルテンサイト量の相比を求めた。 オーステナイト相(%)={Iγ/(Iγ+Iα)}×
100 Iγ=Iγ(111)+Iγ(200)+Iγ(220)+Iγ(311) Iγ(111)等はオーステナイトのX線回折強度 Iα=Iα(110)+Iα(200)+Iα(220)+Iα(211) Iα(110)等はマルテンサイトのX線回折強度
【0026】
【表1】
【0027】表1に示す合金のうち、No.1〜22は本
発明合金、No.31〜34は比較合金およびNo.41は、
特開平3−115543号に開示される高強度低熱膨張
合金である。また、本発明合金と比較合金については、
NiとCoの関係を図1に示している。表2より、本発
明合金は84〜93.5%の冷間加工後に160〜18
0kgf/mm2の引張強さと30℃から310℃間の平均熱
膨張係数で5.5×10マイナス6乗/℃以下の熱膨張
係数を併せもち、従来のピアノ線と同等あるいはそれに
近い引張強さとピアノ線の1/2以下の熱膨張係数が得
られることがわかる(ピアノ線の熱膨張係数α30-310
℃:11.5〜13×10マイナス6乗/℃)。
【0028】これらの特性は従来のFe−Ni系の高強
度低熱膨張合金、たとえば、従来合金No.31と比べる
と、熱膨張係数はやや劣るが、引張強度には格段の差が
見られる。既存鉄塔の建て替えなしに、送電線を張り替
えるためには、ピアノ線と同等の強度を持つことが絶対
条件となるので、弛度の点では、従来のFe−Ni系の
高強度低熱膨張合金線に同等あるいはやや劣る程度であ
るが、強度面では、はるかに従来のFe−Ni系の高強
度低熱膨張合金線を上回ることがわかる。
【0029】
【表2】
【0030】また、表2より、本発明合金は高い捻回値
と優れた巻付・巻戻し特性を有することがわかる。この
ような効果は、冷間加工時に存在する加工誘起マルテン
サイトおよびこれらの各種試験の塑性変形中に生じるオ
ーステナイト相から、マルテンサイト相への変態によっ
てもたらされる。表2より本発明合金は、オーステナイ
ト相とマルテンサイト相の相比において、75〜90%
のオーステナイト相と約10〜25%のマルテンサイト
相からなっていることがわかる(実際には、少量の炭化
物が第3相として存在する)。通常、オーステナイト安
定型のインバー合金は、冷間加工によって熱膨張係数が
低下するが、本発明合金は冷間加工前よりも、冷間加工
後の状態の方が30℃から310℃間の平均熱膨張係数
がいずれも高くなることから、すべて冷間加工によって
加工誘起変態が生じていることはあきらかである。
【0031】一方、比較合金No.31のように本発明合
金に比べて、図1の領域Bに属するようなNiとCoの
組成では本発明合金と同じく、加工誘起変態によって高
い引張強さが得られるが、NiとCo量の関係が最適化
されていないために、変移点が低く、230℃までの熱
膨張係数では本発明合金並みの低い値が得られるものの
310℃までとなると本発明合金に比べてあきらかに熱
膨張係数が高くなる。また、比較合金No.32や34の
ようにNiとCoが、図1の領域Bに属するような場
合、また、No.33のように、Cr+0.54Mo+
0.28Wが本発明合金範囲よりも高くなる場合には、
いずれもオーステナイト相が安定になりすぎて、93.
5%という強度の冷間加工を加えても加工誘起変態は生
じず、本発明合金に比べてあきらかに引張強さが劣って
しまう(No.32〜34はいずれも100%オーステナ
イト相)。また、比較合金No.32〜34および従来合
金No.41は、皮剥後に単純に冷間加工を行なうだけで
は、捻回値が10回以下の低い値となり、送電線の芯線
の用途に対しては適さなくなる。
【0032】
【発明の効果】以上述べたように本発明の合金は、従来
の低熱膨張合金より、ワンランク上、つまりピアノ線と
同等あるいはそれに近い引張強さと、簡便な製造工程で
もピアノ線並みの安定して高い捻回値が得られ、常温か
ら300℃程度の広い温度域にわたってピアノ線の1/
2以下の低い熱膨張係数を有するものである。本発明合
金により、信頼性に優れ、従来のピアノ線を芯線に用い
た送電線よりも送電容量が高い低弛度送電線の製造が可
能となり、したがって、比較的容易に送電線の送電容量
を増大させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明合金および比較合金のNiとCoの関係
をプロットした図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−176844(JP,A) 特開 昭59−116359(JP,A) 特開 昭57−26144(JP,A) 特開 昭55−128565(JP,A) 特開 平6−17199(JP,A) 特開 平1−306541(JP,A) 特開 昭50−30728(JP,A) 特開 平5−171358(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 302 C22C 38/10 C22C 38/52

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C0.06〜0.50%、S
    i1.0%以下、Mn2.0%以下、Ni22.8〜2
    9.2%、Co9.3〜20%で、NiとCoの関係が
    58−(5/3)Ni<Co≦86.25−(5/2)
    Niであり、残部は不純物を除きFeからなる組成で、
    少なくともオーステナイト相と加工誘起変態によって生
    じるマルテンサイト相との2相を有する組織としたこと
    を特徴とする高強度低熱膨張合金。
  2. 【請求項2】 重量%で、C0.06〜0.50%、S
    i1.0%以下、Mn2.0%以下、Ni22.8〜2
    9.2%、Co9.3〜20%で、NiとCoの関係が
    58−(5/3)Ni<Co≦86.25−(5/2)
    Niであり、さらにCr2.5%以下、Mo3.5%以
    下およびW5%以下の1種または2種以上をCr+0.
    54Mo+0.28W≦2.5の範囲で含み、残部は不
    純物を除きFeからなる組成で、少なくともオーステナ
    イト相と加工誘起変態によって生じるマルテンサイト相
    との2相を有する組織としたことを特徴とする高強度低
    熱膨張合金。
  3. 【請求項3】 合金組成が請求項1、2のいずれかに記
    載の組成に、さらに重量%で、B0.02%以下、Mg
    0.02%以下およびCa0.02%以下の1種または
    2種以上を含み、少なくともオーステナイト相と加工誘
    起変態によって生じるマルテンサイト相との2相を有す
    る組織としたことを特徴とする高強度低熱膨張合金。
  4. 【請求項4】 合金組成が請求項1〜3のいずれかに記
    載の上に、さらに重量%で、V,Ti,Nb,Ta,H
    fおよびZrの1種または2種以上を合計で1%以下を
    含有し、少なくともオーステナイト相と加工誘起変態に
    よって生じるマルテンサイト相との2相を有する組織と
    したことを特徴とする高強度低熱膨張合金。
  5. 【請求項5】 合金組成が請求項1〜4のいずれかに記
    載の上に、さらに重量%で、Al0.2%以下とREM
    0.2%以下の1種または2種を含み、少なくともオー
    ステナイト相と加工誘起変態によって生じるマルテンサ
    イト相との2相を有する組織としたことを特徴とする高
    強度低熱膨張合金。
  6. 【請求項6】 オーステナイト相が全体の少なくとも6
    5%以上である組織としたことを特徴とする請求項1〜
    5のいずれかに記載の高強度低熱膨張合金。
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