JP3593083B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スクロール圧縮機に係り、特に冷凍、空調用の冷媒圧縮機、空気やその他のガス圧縮機として好適なスクロール圧縮機に関する。
【０００２】
【従来の技術】
一般的なスクロール圧縮機の基本構成は、図１０に示すように密閉容器１０内に鏡板１ａに直立する渦巻状のラップ１ｂを形成した固定スクロール部材１と、同じく鏡板２ａに直立する渦巻状のラップ２ｂを形成した旋回スクロール部材２を、互いにラップを内側にして噛み合わせ、フレーム３を固定スクロール部材１に結合させ、更に、該フレーム３と旋回スクロール部材３との間に、オルダムリング等の自転防止機構部材４を設けたものとなっている。
【０００３】
電動機５の回転によりクランク軸６が回転するとクランクピン６ａに係合された旋回スクロール部材２が固定スクロール部材１に対して旋回運動を行なう。
【０００４】
この旋回運動に伴ない、固定スクロール部材１と旋回スクロール部材２によって形成される圧縮空間７を中心に移動させ容積を減じガスを圧縮する。圧縮空間７が両スクロール部材１，２の中心近傍に達したとき、圧縮空間７が吐出口１ｃと連通して、圧縮されたガスは密閉容器１０内空間へ吐出される。
【０００５】
このような構成及び動作のスクロール圧縮機では、固定スクロール部材１と旋回スクロール部材２とを引き離そうとする力が圧縮空間７に存在する圧縮ガスの圧力により両スクロール部材１，２に作用する。その為そのままでは、両スクロール部材１，２が離脱してしまい、正常な圧縮動作を行なうことができなくなる。そこで、例えば特公昭６２−３７２３８号公報に示されているように、ガス圧を旋回スクロール部材２の背面側の背圧室に作用させ、軸方向押付け力を旋回スクロール部材２へ付与し、両スクロール部材１，２の離脱を防いでいる。
【０００６】
該背圧室は、フレーム３、クランク軸６に形成された給油通路を通ってシール軸受９に供給された潤滑油、固定スクロール部材１の各要素によって密閉容器１０内と圧力的にシールされた状態にあり、この背圧室は、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１によって圧縮途中の圧縮空間７と連通しているので、吸入圧力の変化に追従して吸入圧力と吐出圧力の中間圧力になっている。又、シール軸受９に供給された潤滑油は該背圧室へ流入する。この背圧室へ流入した潤滑油は、更に、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１を通じて圧縮空間７内の圧縮ガスと混合され密閉容器１０内空間へ吐出され、この密閉容器１０内で、吐出ガスと潤滑油を分離するが、分離できない潤滑油は、そのまま吐出管１６を通りガスと共に使用箇所に送られる。これを油上がりと呼ぶが、特に圧縮機の小型化等を図る場合、密閉容器１０内に十分な油分離空間を確保することができず、従って十分な分離が行なわれず油上がり量が多くなってしまう。
【０００７】
従来の技術による圧縮機では、背圧室を圧力的にシールしているのは、フレーム３、固定スクロール部材１、及びシール軸受９に供給された潤滑油である。シール軸受９の密閉容器内空間側は吐出圧力であり、背圧室側は背圧室内圧力（吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力：以下中間圧力と呼ぶ）である。従ってシール軸受９の高さ方向に、吐出圧力から中間圧力までの圧力勾配が生じている。シール軸受９に供給された潤滑油の一部が、背圧室へ流入する際、この圧力勾配によって潤滑油中に溶解している冷媒が減圧発泡する。冷媒の減圧発泡が発生すると、シール軸受９に形成されていた油膜が切れ、軸受本来の機能を果たすことができず、軸受荷重に耐えられなくなり、延いては軸受の焼き付き損傷が生じることがある。
【０００８】
又、背圧室に流入した潤滑油は、小孔１１を通って、圧縮途中の圧縮空間７内に存在する圧縮ガスと混合され、吐出口１ｃを通じて、密閉容器１０内の空間に吐出される。この場合、吐出温度に近い潤滑油が圧縮途中のガスに混入され、圧縮ガスの温度が上昇する。つまり、圧縮仕事がその温度上昇分だけ余分に必要となり圧縮効率が低下する。更に、吐出ガスに混合された潤滑油を、密閉容器１０内で、分離する必要が生じる。
【０００９】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、旋回スクロール部材を、旋回スクロール部材背面に形成した背圧室の圧力によって支持する構造のスクロール圧縮機に於いて、吐出ガスに混入する潤滑油量（油上がり量）を低減することのできるスクロール圧縮機を提供することにある。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明によるスクロール圧縮機は、請求項１ないし３に記載されたところを特徴とするものであるが、独立項としての請求項１に係る発明によるスクロール圧縮機は、電動機及びスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を、吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記固定スクロール部材に固定されたフレームと前記旋回スクロール部材との間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有し、かつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間と、外周部にあって吸入圧力と吐出圧力との間の圧力に維持される第２の空間とに分割し、前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
また、独立項としての請求項２に係る発明によるスクロール圧縮機は、鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
また、独立項としての請求項３に係る発明によるスクロール圧縮機は、鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、前記シール部材に前記第１の空間と第２の空間との圧力差に相当する力を下側から上側に作用させてシール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側シール面との間をシールすると共に、シール部材の外周面と前記フレームとの間でもシールする構成とし、前記シール部材を介して前記第１の空間から第２の空間へと差圧により必要最少限の潤滑油を漏出させ、前記第１の空間内の残余の大部分の潤滑油を電動機より下方の密閉容器内底部まで戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
【００１２】
【作用】
本発明によれば、前記第１の空間に流入した潤滑油は、ごく僅かの量がシール部材を通じて、第２の空間へ洩れオルダムリング等の潤滑を行なう必要最少限の油量を除き、大部分が第１の空間に開口するフレーム内の排油路を通じて、密閉容器内空間へ排出される。従って、排油パイプ、仕切板によって排出された潤滑油は、密閉容器内空間で吐出ガスと混合されないので、吐出ガス中の潤滑油の再分離機構を不要にでき、低い油上がり量を達成することができる。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下本発明の一実施例を図１，図２を用いて説明する。図１は本発明の一実施例を示すスクロール圧縮機の全体構造図であり、図２はその部分拡大図である。鏡板１ａに渦巻状のラップ１ｂを直立して成る固定スクロール部材１及び、同じく鏡板２ａに渦巻状のラップ２ｂを直立して成る旋回スクロール部材２を、互いにラップを噛み合わせ、固定スクロール部材２を、数本のボルト１３によってフレーム３に結合させている。フレーム３は、旋回スクロール部材２の背面側に背圧室を備えている。
【００１４】
電動機５のステータ５ａは密閉容器１０の内側に固定されており、ロータ５ｂはクランク軸６に結合している。クランク軸６の端部にはクランクピン６ａが設けられており、旋回スクロール部材２の中心部に形成されたボス部２ｃに挿入されている。
【００１５】
オルダムリング等の自転防止部材４は、その構成自体公知のものであり簡単に説明すると、リング部とキー部から成り、キー部は、旋回スクロール部材２の背面、及び、固定スクロール部材１の端面に設けられた少なくとも１つの互に直交するキー溝１ｄ，２ｄにそれぞれ嵌合されている。固定スクロール部材１に形成されたキー溝１ｄのかわりに、従来のようにフレーム３にキー溝を形成してもよい。
【００１６】
フレーム３と、旋回スクロール部材２の背面側におけるシール面としてのボス部２ｃの端面との間には、シール部材１５が設けられており、背圧室１４を、シール部材の内側の第１の空間１４ａと、外周部の第２の空間に分割し、圧力的に両空間１４ａ，１４ｂをシールしている。図２は、この部分の拡大図である。フレーム３にはリング溝３ａが形成されておりシール部材１５を保持すると共に、旋回スクロール部材２のボス部２ｃの下端面を十分滑らかに加工することによりシール部材１５の上端面及びボス部２ｃの下端面に当接することで背圧室内の第１の空間１４ａと第２の空間１４ｂを圧力的にシールする。又、第１の空間はほぼ吐出圧力、第２の空間は中間圧力となっており、従ってシール部材１５は内側から外側へ圧力差に相当する力を受ける。つまり、シール部材１５の外周面とリング溝３ａの外周面とによってもシールされる。このシール部材１５は、例えば、フッ素樹脂、或いはポリイミド系樹脂から成るシールリング等であり、運転中の圧縮機内部の条件下で必要なシール性を得られるものであればよい。また、シール部材は１個の例が示されているが、シール性を高めるために複数個使用してもよい。
【００１７】
電動機５のロータ５ｂが回転すると、これに結合したクランク軸６が回転するとともに、クランクピン６ａに挿入された旋回スクロール部材２が旋回運動を行ない、固定スクロールラップ１ｂを旋回スクロールラップ２ｂで形成された圧縮空間７は、容積を減じながら中心へ移動し、吸入管８から吸入した冷媒ガスを圧縮する。圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール部材１の中心部に設けられた吐出口１ｃを通じて、密閉容器１０内の空間に吐出される。吐出された圧縮ガスは、固定スクロール部材１及びフレーム３の側面に設けられたガス通路（図示せず）を通りフレーム３の下部空間へ導びかれ、電動機５を冷却した後に吐出管１６を経由して使用箇所に送られる。
【００１８】
クランク軸６内には、給油路６ｂが設けられており、クランク軸６の回転とともに、遠心ポンプ作用により、密閉容器１０底部に溜められている潤滑油１７を上部へ導く。給油路６ｂは、旋回軸受２ｅ、主軸受１２を介して背圧室内の第１の空間１４ａに開口している。第１の空間１４ａに吐出圧力の潤滑油１７が流入することにより該第１の空間１４ａは吐出圧力か、又はほぼ吐出圧力に等しい圧力となる。この為、主軸受１２の上端面、下端面との間の圧力勾配はほとんど無くなり、潤滑油中に溶解した冷媒が減圧発泡することがなくなり、以て高い軸受信頼性を得ることができる。
【００１９】
第１の空間１４ａに流入した潤滑油１７は、必要最少限の量がシール部材１５から第２の空間１４ｂへ漏出し、オルダムリング等の自転防止部材４、その他の摺動部を潤滑し、小孔１１を通じて圧縮空間７に排出され、第１の空間１４ａ内の残余の大部分の潤滑油は、主軸受１２のすき間（軸受のギャップ又は、クランク軸６に設けたカット面）を通じて重力によって密閉容器１０内の空間へ排出される。
【００２０】
一方、背圧室内の第２の空間１４ｂは旋回スクロール部材２の鏡板２ａに設けられた小孔１１によって圧縮空間７と連通しており、該第２の空間１４ｂは吐出圧力と吸入圧力の中間の中間圧力に維持されている。この小孔１１の位置を調整し、連通させる圧縮空間７の圧力を適当に選ぶことによって、第２の空間１４ｂの中間圧力を調整し、以て両スクロール部材１，２を離脱させようとする力に対して適切な押付力を旋回スクロール部材２の背面へ付与することができる。また、圧縮ガスに潤滑油が混入しないので、吐出ガスに含まれる油を分離する必要が無く、低い油上がり量を得ることが可能である。
【００２１】
図３は本発明の他の実施例である。図１との相違点は、背圧室内の第１の空間１４ａに開口し、密閉容器１０内の空間と連通する排油路１８を設けたことである。第１の空間１４ａへ潤滑油１７を導く遠心ポンプの圧力ヘッドを、潤滑油１７を確実にクランク軸６上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定することで、該第１の空間１４ａ内の圧力は吐出圧力より若干高くなり、第１の空間１４ａに流入した潤滑油１７を排油路１８から密閉容器１０内の空間へ確実に排油することが可能となるのである。この場合排油路１８は密閉容器１０の内壁面に近接して開口しているので、排油された潤滑油１７が密閉容器１０内の吐出ガスの流れに混入することがきわめて少ないこととなる。
【００２２】
第１の空間１４ａ内の潤滑油１７の排油が確実に行なえることにより第２の空間へ必要最少限のごく少量の潤滑油１７が漏出するにすぎないので、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１を通して高温の潤滑油１７が圧縮途中の圧縮ガスに混入し、該圧縮ガスの温度を上昇させることがほとんどなく、以って圧縮効率の低下を防ぐことができるのである。
【００２３】
更に、圧縮ガスに潤滑油が混入しないので、吐出ガスに含まれる油を分離する必要が無く、低い油上がり量を得ることが可能である。
【００２４】
図４及び図５は本発明の他の実施例である。いずれも、図３の実施例に於いて、排油路１８から密閉容器１０内空間へ排油された潤滑油１７が、密閉容器１０内の吐出ガスの流れにより一層混入することのないような構造としたものである。
【００２５】
図４は、排油パイプ１９を、その一端を排油路１８に連通させるとともに、他端を密閉容器１０内の底部に溜まっている潤滑油中に開口させた構造としたものである。該排油パイプ１９は、電動機５に設けられたカット面５ｃを通して備えられている。これにより、背圧室の第１の空間から排油路１８を通して排油された潤滑油１７は、密閉容器１０内の吐出ガス流れに混入することなく確実に底部の油溜りへ戻すことができる。さらに図５では、排油路１８の密閉容器１０内空間への開口端と，電動機５のカット面５ｃとの間に、吐出ガス流れを遮断する仕切板２０を密閉容器１０の内壁に備えた例である。該仕切板２０及び、電動機５のカット面５ｃにより、油案内通路を形成している。
【００２６】
図４，図５いずれの実施例に於いても、密閉容器１０内空間の吐出ガスの流れと、排油が直接干渉することなく、吐出ガスに排油が混入するのを防ぐことができ、以て、低い油上がり量を達成することができるのである。
【００２７】
図９に本発明の他の実施例を示す。従来のスクロール圧縮機では、旋回スクロール２はその鏡板２ａの外周でフレームの旋回スクロール支承部３ａと固定スクロール鏡板外周部分１ｅとに挟まれて支持されている。このような構造においても例えば図１０に示す如く、旋回スクロールボス部２ｃの下端面とフレーム３の背圧室を形成する空間の底面３ｂをシール面とし、シール部材１５により、背圧室を、第１の空間１４ａと第２の空間１４ｂとに分割することができる。図１０では、主軸受に滑り軸受を使用しているが、転り軸受を用いても同様に背圧室を二分割することができる。
【００２８】
また、図９は、図１に示す本発明の実施例を従来のスクロール圧縮機に適用した例であるが、図３乃至図５に示す実施例についても同様に適用することが可能であり、これまで述べてきたと同様の作用効果を奏することができる。
【００２９】
図６，図７は全ての実施例に共通なシール部材１５の一実施例である。図６は、第１の空間１４ａ内潤滑油から必要最少限の量を第２の空間１４ｂへ漏出させる油漏出手段としての溝１５ａをシール部材１５の上端面に設けたものである。背圧室内第２の空間１４ｂにあるオルダムリング等の自転防止部材４、及び、両スクロール部材１，２の鏡板面等の摺動部へ、溝１５ａを通して潤滑油１７を必要な量だけ供給することができる。該溝１５ａの数、巾、深さを調節することにより、潤滑油１７の供給量を制御することができる。又、加工精度の如何によりシール部材１５の上端面を通して、背圧室内の第１の空間１４ａから、第２の空間１４ｂへ漏出する潤滑油量で十分な場合は、該溝１５ａは無くてもよい。
【００３０】
図７は、シール部材１５に切欠き１５ｂを設けた場合の実施例を示す。シール部材１５の内側の第１の空間はほぼ吐出圧力であり、シール部材１５の外側の第２の空間は、中間圧力で、吐出圧力と吸入圧力の中間の圧力である。従って、シール部材１５は、内側から外側へ圧力差による力を受け、図８に示す如く変形する。ここで、図７の如くシール部材１５に切欠き１５ｂを設けることにより、該圧力差による力を受けたときの変形に対応して、シール性を損なうことなくシール部材１５の径を調節することが可能となり、以てシール部材１５の外周面のシール性が良好になるのである。
【００３１】
【発明の効果】
以上の如く、請求項１ないし３に係る各発明によれば、旋回スクロール部材とフレームとの間に設けられたシール部材により、互いにシールされた中心部側の第１の空間と外周部側の第２の空間とに分割し、吐出圧力のもとにある第１の空間内の潤滑油を排油パイプを介して密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく電動機より下方の密閉容器底部まで導くようにし、第２の空間へ必要最少限の量以上には潤滑油が流入しない構造としているので、吐出ガスに混入する潤滑油量（油上がり量）が少ないスクロール圧縮機を得ることができる。
また、密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成されているので、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路及び排油パイプを通して密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できると共に、低圧側の第２の空間に流出される潤滑油量を最適に維持しつつ、潤滑油の循環を良くして主軸受および旋回軸受に流れる油量を適切に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の一実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図２】本発明の一実施例のシール部分を示す部分拡大図
【図３】本発明の他の実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図４】本発明の更に他の実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図５】本発明のもう１つの実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図６】本発明の一実施例のシール部材を示す図
【図７】本発明の他の一実施例のシール部材を示す図
【図８】本発明の一実施例のシール部分を示す部分拡大図
【図９】本発明の更にもう１つの実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図１０】従来のスクロール圧縮機の縦断面図
【符号の説明】
１…固定スクロール部材
１ａ…鏡板
１ｂ…固定スクロールラップ
１ｃ…吐出口
１ｄ…キー溝
２…旋回スクロール部材
２ａ…鏡板
２ｂ…旋回スクロールラップ
２ｃ…ボス部
２ｄ…キー溝
２ｅ…旋回軸受
３…フレーム
４…自転防止部材
５…電動機
５ａ…ステータ
５ｂ…ロータ
６…クランク軸
６ａ…クランクピン
６ｂ…給油路
７…圧縮空間
８…吸入管
９…シール軸受
１０…密閉容器
１１…小孔
１２…主軸受
１３…ボルト
１４…背圧室
１４ａ…第１の空間
１４ｂ…第２の空間
１５…シール部材
１５ａ…溝
１５ｂ…切欠
１６…吐出管
１７…潤滑油
１８…排油路
１９…排油パイプ
２０…仕切板
【発明の属する技術分野】
本発明は、スクロール圧縮機に係り、特に冷凍、空調用の冷媒圧縮機、空気やその他のガス圧縮機として好適なスクロール圧縮機に関する。
【０００２】
【従来の技術】
一般的なスクロール圧縮機の基本構成は、図１０に示すように密閉容器１０内に鏡板１ａに直立する渦巻状のラップ１ｂを形成した固定スクロール部材１と、同じく鏡板２ａに直立する渦巻状のラップ２ｂを形成した旋回スクロール部材２を、互いにラップを内側にして噛み合わせ、フレーム３を固定スクロール部材１に結合させ、更に、該フレーム３と旋回スクロール部材３との間に、オルダムリング等の自転防止機構部材４を設けたものとなっている。
【０００３】
電動機５の回転によりクランク軸６が回転するとクランクピン６ａに係合された旋回スクロール部材２が固定スクロール部材１に対して旋回運動を行なう。
【０００４】
この旋回運動に伴ない、固定スクロール部材１と旋回スクロール部材２によって形成される圧縮空間７を中心に移動させ容積を減じガスを圧縮する。圧縮空間７が両スクロール部材１，２の中心近傍に達したとき、圧縮空間７が吐出口１ｃと連通して、圧縮されたガスは密閉容器１０内空間へ吐出される。
【０００５】
このような構成及び動作のスクロール圧縮機では、固定スクロール部材１と旋回スクロール部材２とを引き離そうとする力が圧縮空間７に存在する圧縮ガスの圧力により両スクロール部材１，２に作用する。その為そのままでは、両スクロール部材１，２が離脱してしまい、正常な圧縮動作を行なうことができなくなる。そこで、例えば特公昭６２−３７２３８号公報に示されているように、ガス圧を旋回スクロール部材２の背面側の背圧室に作用させ、軸方向押付け力を旋回スクロール部材２へ付与し、両スクロール部材１，２の離脱を防いでいる。
【０００６】
該背圧室は、フレーム３、クランク軸６に形成された給油通路を通ってシール軸受９に供給された潤滑油、固定スクロール部材１の各要素によって密閉容器１０内と圧力的にシールされた状態にあり、この背圧室は、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１によって圧縮途中の圧縮空間７と連通しているので、吸入圧力の変化に追従して吸入圧力と吐出圧力の中間圧力になっている。又、シール軸受９に供給された潤滑油は該背圧室へ流入する。この背圧室へ流入した潤滑油は、更に、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１を通じて圧縮空間７内の圧縮ガスと混合され密閉容器１０内空間へ吐出され、この密閉容器１０内で、吐出ガスと潤滑油を分離するが、分離できない潤滑油は、そのまま吐出管１６を通りガスと共に使用箇所に送られる。これを油上がりと呼ぶが、特に圧縮機の小型化等を図る場合、密閉容器１０内に十分な油分離空間を確保することができず、従って十分な分離が行なわれず油上がり量が多くなってしまう。
【０００７】
従来の技術による圧縮機では、背圧室を圧力的にシールしているのは、フレーム３、固定スクロール部材１、及びシール軸受９に供給された潤滑油である。シール軸受９の密閉容器内空間側は吐出圧力であり、背圧室側は背圧室内圧力（吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力：以下中間圧力と呼ぶ）である。従ってシール軸受９の高さ方向に、吐出圧力から中間圧力までの圧力勾配が生じている。シール軸受９に供給された潤滑油の一部が、背圧室へ流入する際、この圧力勾配によって潤滑油中に溶解している冷媒が減圧発泡する。冷媒の減圧発泡が発生すると、シール軸受９に形成されていた油膜が切れ、軸受本来の機能を果たすことができず、軸受荷重に耐えられなくなり、延いては軸受の焼き付き損傷が生じることがある。
【０００８】
又、背圧室に流入した潤滑油は、小孔１１を通って、圧縮途中の圧縮空間７内に存在する圧縮ガスと混合され、吐出口１ｃを通じて、密閉容器１０内の空間に吐出される。この場合、吐出温度に近い潤滑油が圧縮途中のガスに混入され、圧縮ガスの温度が上昇する。つまり、圧縮仕事がその温度上昇分だけ余分に必要となり圧縮効率が低下する。更に、吐出ガスに混合された潤滑油を、密閉容器１０内で、分離する必要が生じる。
【０００９】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、旋回スクロール部材を、旋回スクロール部材背面に形成した背圧室の圧力によって支持する構造のスクロール圧縮機に於いて、吐出ガスに混入する潤滑油量（油上がり量）を低減することのできるスクロール圧縮機を提供することにある。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明によるスクロール圧縮機は、請求項１ないし３に記載されたところを特徴とするものであるが、独立項としての請求項１に係る発明によるスクロール圧縮機は、電動機及びスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を、吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記固定スクロール部材に固定されたフレームと前記旋回スクロール部材との間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有し、かつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間と、外周部にあって吸入圧力と吐出圧力との間の圧力に維持される第２の空間とに分割し、前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
また、独立項としての請求項２に係る発明によるスクロール圧縮機は、鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
また、独立項としての請求項３に係る発明によるスクロール圧縮機は、鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、前記シール部材に前記第１の空間と第２の空間との圧力差に相当する力を下側から上側に作用させてシール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側シール面との間をシールすると共に、シール部材の外周面と前記フレームとの間でもシールする構成とし、前記シール部材を介して前記第１の空間から第２の空間へと差圧により必要最少限の潤滑油を漏出させ、前記第１の空間内の残余の大部分の潤滑油を電動機より下方の密閉容器内底部まで戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするものである。
【００１２】
【作用】
本発明によれば、前記第１の空間に流入した潤滑油は、ごく僅かの量がシール部材を通じて、第２の空間へ洩れオルダムリング等の潤滑を行なう必要最少限の油量を除き、大部分が第１の空間に開口するフレーム内の排油路を通じて、密閉容器内空間へ排出される。従って、排油パイプ、仕切板によって排出された潤滑油は、密閉容器内空間で吐出ガスと混合されないので、吐出ガス中の潤滑油の再分離機構を不要にでき、低い油上がり量を達成することができる。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下本発明の一実施例を図１，図２を用いて説明する。図１は本発明の一実施例を示すスクロール圧縮機の全体構造図であり、図２はその部分拡大図である。鏡板１ａに渦巻状のラップ１ｂを直立して成る固定スクロール部材１及び、同じく鏡板２ａに渦巻状のラップ２ｂを直立して成る旋回スクロール部材２を、互いにラップを噛み合わせ、固定スクロール部材２を、数本のボルト１３によってフレーム３に結合させている。フレーム３は、旋回スクロール部材２の背面側に背圧室を備えている。
【００１４】
電動機５のステータ５ａは密閉容器１０の内側に固定されており、ロータ５ｂはクランク軸６に結合している。クランク軸６の端部にはクランクピン６ａが設けられており、旋回スクロール部材２の中心部に形成されたボス部２ｃに挿入されている。
【００１５】
オルダムリング等の自転防止部材４は、その構成自体公知のものであり簡単に説明すると、リング部とキー部から成り、キー部は、旋回スクロール部材２の背面、及び、固定スクロール部材１の端面に設けられた少なくとも１つの互に直交するキー溝１ｄ，２ｄにそれぞれ嵌合されている。固定スクロール部材１に形成されたキー溝１ｄのかわりに、従来のようにフレーム３にキー溝を形成してもよい。
【００１６】
フレーム３と、旋回スクロール部材２の背面側におけるシール面としてのボス部２ｃの端面との間には、シール部材１５が設けられており、背圧室１４を、シール部材の内側の第１の空間１４ａと、外周部の第２の空間に分割し、圧力的に両空間１４ａ，１４ｂをシールしている。図２は、この部分の拡大図である。フレーム３にはリング溝３ａが形成されておりシール部材１５を保持すると共に、旋回スクロール部材２のボス部２ｃの下端面を十分滑らかに加工することによりシール部材１５の上端面及びボス部２ｃの下端面に当接することで背圧室内の第１の空間１４ａと第２の空間１４ｂを圧力的にシールする。又、第１の空間はほぼ吐出圧力、第２の空間は中間圧力となっており、従ってシール部材１５は内側から外側へ圧力差に相当する力を受ける。つまり、シール部材１５の外周面とリング溝３ａの外周面とによってもシールされる。このシール部材１５は、例えば、フッ素樹脂、或いはポリイミド系樹脂から成るシールリング等であり、運転中の圧縮機内部の条件下で必要なシール性を得られるものであればよい。また、シール部材は１個の例が示されているが、シール性を高めるために複数個使用してもよい。
【００１７】
電動機５のロータ５ｂが回転すると、これに結合したクランク軸６が回転するとともに、クランクピン６ａに挿入された旋回スクロール部材２が旋回運動を行ない、固定スクロールラップ１ｂを旋回スクロールラップ２ｂで形成された圧縮空間７は、容積を減じながら中心へ移動し、吸入管８から吸入した冷媒ガスを圧縮する。圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール部材１の中心部に設けられた吐出口１ｃを通じて、密閉容器１０内の空間に吐出される。吐出された圧縮ガスは、固定スクロール部材１及びフレーム３の側面に設けられたガス通路（図示せず）を通りフレーム３の下部空間へ導びかれ、電動機５を冷却した後に吐出管１６を経由して使用箇所に送られる。
【００１８】
クランク軸６内には、給油路６ｂが設けられており、クランク軸６の回転とともに、遠心ポンプ作用により、密閉容器１０底部に溜められている潤滑油１７を上部へ導く。給油路６ｂは、旋回軸受２ｅ、主軸受１２を介して背圧室内の第１の空間１４ａに開口している。第１の空間１４ａに吐出圧力の潤滑油１７が流入することにより該第１の空間１４ａは吐出圧力か、又はほぼ吐出圧力に等しい圧力となる。この為、主軸受１２の上端面、下端面との間の圧力勾配はほとんど無くなり、潤滑油中に溶解した冷媒が減圧発泡することがなくなり、以て高い軸受信頼性を得ることができる。
【００１９】
第１の空間１４ａに流入した潤滑油１７は、必要最少限の量がシール部材１５から第２の空間１４ｂへ漏出し、オルダムリング等の自転防止部材４、その他の摺動部を潤滑し、小孔１１を通じて圧縮空間７に排出され、第１の空間１４ａ内の残余の大部分の潤滑油は、主軸受１２のすき間（軸受のギャップ又は、クランク軸６に設けたカット面）を通じて重力によって密閉容器１０内の空間へ排出される。
【００２０】
一方、背圧室内の第２の空間１４ｂは旋回スクロール部材２の鏡板２ａに設けられた小孔１１によって圧縮空間７と連通しており、該第２の空間１４ｂは吐出圧力と吸入圧力の中間の中間圧力に維持されている。この小孔１１の位置を調整し、連通させる圧縮空間７の圧力を適当に選ぶことによって、第２の空間１４ｂの中間圧力を調整し、以て両スクロール部材１，２を離脱させようとする力に対して適切な押付力を旋回スクロール部材２の背面へ付与することができる。また、圧縮ガスに潤滑油が混入しないので、吐出ガスに含まれる油を分離する必要が無く、低い油上がり量を得ることが可能である。
【００２１】
図３は本発明の他の実施例である。図１との相違点は、背圧室内の第１の空間１４ａに開口し、密閉容器１０内の空間と連通する排油路１８を設けたことである。第１の空間１４ａへ潤滑油１７を導く遠心ポンプの圧力ヘッドを、潤滑油１７を確実にクランク軸６上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定することで、該第１の空間１４ａ内の圧力は吐出圧力より若干高くなり、第１の空間１４ａに流入した潤滑油１７を排油路１８から密閉容器１０内の空間へ確実に排油することが可能となるのである。この場合排油路１８は密閉容器１０の内壁面に近接して開口しているので、排油された潤滑油１７が密閉容器１０内の吐出ガスの流れに混入することがきわめて少ないこととなる。
【００２２】
第１の空間１４ａ内の潤滑油１７の排油が確実に行なえることにより第２の空間へ必要最少限のごく少量の潤滑油１７が漏出するにすぎないので、旋回スクロール部材２に設けられた小孔１１を通して高温の潤滑油１７が圧縮途中の圧縮ガスに混入し、該圧縮ガスの温度を上昇させることがほとんどなく、以って圧縮効率の低下を防ぐことができるのである。
【００２３】
更に、圧縮ガスに潤滑油が混入しないので、吐出ガスに含まれる油を分離する必要が無く、低い油上がり量を得ることが可能である。
【００２４】
図４及び図５は本発明の他の実施例である。いずれも、図３の実施例に於いて、排油路１８から密閉容器１０内空間へ排油された潤滑油１７が、密閉容器１０内の吐出ガスの流れにより一層混入することのないような構造としたものである。
【００２５】
図４は、排油パイプ１９を、その一端を排油路１８に連通させるとともに、他端を密閉容器１０内の底部に溜まっている潤滑油中に開口させた構造としたものである。該排油パイプ１９は、電動機５に設けられたカット面５ｃを通して備えられている。これにより、背圧室の第１の空間から排油路１８を通して排油された潤滑油１７は、密閉容器１０内の吐出ガス流れに混入することなく確実に底部の油溜りへ戻すことができる。さらに図５では、排油路１８の密閉容器１０内空間への開口端と，電動機５のカット面５ｃとの間に、吐出ガス流れを遮断する仕切板２０を密閉容器１０の内壁に備えた例である。該仕切板２０及び、電動機５のカット面５ｃにより、油案内通路を形成している。
【００２６】
図４，図５いずれの実施例に於いても、密閉容器１０内空間の吐出ガスの流れと、排油が直接干渉することなく、吐出ガスに排油が混入するのを防ぐことができ、以て、低い油上がり量を達成することができるのである。
【００２７】
図９に本発明の他の実施例を示す。従来のスクロール圧縮機では、旋回スクロール２はその鏡板２ａの外周でフレームの旋回スクロール支承部３ａと固定スクロール鏡板外周部分１ｅとに挟まれて支持されている。このような構造においても例えば図１０に示す如く、旋回スクロールボス部２ｃの下端面とフレーム３の背圧室を形成する空間の底面３ｂをシール面とし、シール部材１５により、背圧室を、第１の空間１４ａと第２の空間１４ｂとに分割することができる。図１０では、主軸受に滑り軸受を使用しているが、転り軸受を用いても同様に背圧室を二分割することができる。
【００２８】
また、図９は、図１に示す本発明の実施例を従来のスクロール圧縮機に適用した例であるが、図３乃至図５に示す実施例についても同様に適用することが可能であり、これまで述べてきたと同様の作用効果を奏することができる。
【００２９】
図６，図７は全ての実施例に共通なシール部材１５の一実施例である。図６は、第１の空間１４ａ内潤滑油から必要最少限の量を第２の空間１４ｂへ漏出させる油漏出手段としての溝１５ａをシール部材１５の上端面に設けたものである。背圧室内第２の空間１４ｂにあるオルダムリング等の自転防止部材４、及び、両スクロール部材１，２の鏡板面等の摺動部へ、溝１５ａを通して潤滑油１７を必要な量だけ供給することができる。該溝１５ａの数、巾、深さを調節することにより、潤滑油１７の供給量を制御することができる。又、加工精度の如何によりシール部材１５の上端面を通して、背圧室内の第１の空間１４ａから、第２の空間１４ｂへ漏出する潤滑油量で十分な場合は、該溝１５ａは無くてもよい。
【００３０】
図７は、シール部材１５に切欠き１５ｂを設けた場合の実施例を示す。シール部材１５の内側の第１の空間はほぼ吐出圧力であり、シール部材１５の外側の第２の空間は、中間圧力で、吐出圧力と吸入圧力の中間の圧力である。従って、シール部材１５は、内側から外側へ圧力差による力を受け、図８に示す如く変形する。ここで、図７の如くシール部材１５に切欠き１５ｂを設けることにより、該圧力差による力を受けたときの変形に対応して、シール性を損なうことなくシール部材１５の径を調節することが可能となり、以てシール部材１５の外周面のシール性が良好になるのである。
【００３１】
【発明の効果】
以上の如く、請求項１ないし３に係る各発明によれば、旋回スクロール部材とフレームとの間に設けられたシール部材により、互いにシールされた中心部側の第１の空間と外周部側の第２の空間とに分割し、吐出圧力のもとにある第１の空間内の潤滑油を排油パイプを介して密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく電動機より下方の密閉容器底部まで導くようにし、第２の空間へ必要最少限の量以上には潤滑油が流入しない構造としているので、吐出ガスに混入する潤滑油量（油上がり量）が少ないスクロール圧縮機を得ることができる。
また、密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成されているので、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路及び排油パイプを通して密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できると共に、低圧側の第２の空間に流出される潤滑油量を最適に維持しつつ、潤滑油の循環を良くして主軸受および旋回軸受に流れる油量を適切に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の一実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図２】本発明の一実施例のシール部分を示す部分拡大図
【図３】本発明の他の実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図４】本発明の更に他の実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図５】本発明のもう１つの実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図６】本発明の一実施例のシール部材を示す図
【図７】本発明の他の一実施例のシール部材を示す図
【図８】本発明の一実施例のシール部分を示す部分拡大図
【図９】本発明の更にもう１つの実施例を示すスクロール圧縮機の縦断面図
【図１０】従来のスクロール圧縮機の縦断面図
【符号の説明】
１…固定スクロール部材
１ａ…鏡板
１ｂ…固定スクロールラップ
１ｃ…吐出口
１ｄ…キー溝
２…旋回スクロール部材
２ａ…鏡板
２ｂ…旋回スクロールラップ
２ｃ…ボス部
２ｄ…キー溝
２ｅ…旋回軸受
３…フレーム
４…自転防止部材
５…電動機
５ａ…ステータ
５ｂ…ロータ
６…クランク軸
６ａ…クランクピン
６ｂ…給油路
７…圧縮空間
８…吸入管
９…シール軸受
１０…密閉容器
１１…小孔
１２…主軸受
１３…ボルト
１４…背圧室
１４ａ…第１の空間
１４ｂ…第２の空間
１５…シール部材
１５ａ…溝
１５ｂ…切欠
１６…吐出管
１７…潤滑油
１８…排油路
１９…排油パイプ
２０…仕切板
Claims (3)
- 電動機及びスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を、吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、
前記固定スクロール部材に固定されたフレームと前記旋回スクロール部材との間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有し、かつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間と、外周部にあって吸入圧力と吐出圧力との間の圧力に維持される第２の空間とに分割し、
前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、
かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするスクロール圧縮機。 - 鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、
前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、
前記シール部材は前記フレームに保持される構成とし、シール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側面との間をシールすると共に、シール部材の外周面とこれを保持するためにフレームに設けたリング状溝との間でもシールする構成とし、
かつ前記第１の空間内の潤滑油を前記密閉容器内の圧縮ガスと混合させることなく密閉容器内底部へ戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするスクロール圧縮機。 - 鏡板と、鏡板に直立している渦巻状のラップから成る旋回スクロール部材及び固定スクロール部材を、互にラップを内側にして噛み合わせ、両スクロール部材によって形成される圧縮空間を中心に移動させ、容積を減じせしめるように両スクロール部材の相対運動を行なうスクロール圧縮機構を密閉容器内に納めるとともに、密閉容器内を吐出口に連通して密閉容器内圧力を吐出圧力に維持する一方、旋回スクロール部材の反ラップ側に背圧室を備えたスクロール圧縮機において、
前記旋回スクロール部材とフレームとの間にシール部材を設け、このシール部材により、中心部にあってほぼ吐出圧力に等しい圧力を有しかつ密閉容器内底部に溜められている潤滑油が上部へ導かれる給油路を開口させた第１の空間を形成し、前記シール部材の外周部には第２の空間を形成し、
前記シール部材に前記第１の空間と第２の空間との圧力差に相当する力を下側から上側に作用させてシール部材の上端面と旋回スクロール部材の反ラップ側シール面との間をシールすると共に、シール部材の外周面と前記フレームとの間でもシールする構成とし、前記シール部材を介して前記第１の空間から第２の空間へと差圧により必要最少限の潤滑油を漏出させ、前記第１の空間内の残余の大部分の潤滑油を電動機より下方の密閉容器内底部まで戻すための排油路及び排油パイプを設け、前記排油路は、前記旋回軸受と主軸受との間の前記第１の空間に開口し、この第１の空間に流入した潤滑油を水平方向に流出させるように前記フレーム内に形成されると共に、前記排油パイプは、その一端が前記排油路に連結され、前記フレームの下面から下方に延長させてその下端が電動機下端部より下方の密閉容器底部の油溜り内で開口するように構成され、前記第１の空間に潤滑油を導く圧力ヘッドを、潤滑油を確実にクランク軸上端まで押し上げる為に必要最小ヘッドよりも高めに設定し、前記第１の空間に流入した潤滑油を排油路から密閉容器底部の油溜り内に確実に排油できるようにしたことを特徴とするスクロール圧縮機。
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