JP3589642B2 - 両親媒性ポルフィリン誘導体と酸素運搬体 - Google Patents

両親媒性ポルフィリン誘導体と酸素運搬体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、両親媒性置換基を有するテトラフェニルポルフィリン誘導体に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、酸素運搬体の有効成分として用いられる両親媒性ポルフィリン誘導体に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
生体内においては、赤血球中のヘモグロビンが酸素輸送の役割を担っていることは広く知られている。このヘモグロビンの酸素結合席であるプロトポルフィリン鉄(II)錯体と類似の酸素吸脱着能を合成の錯体で再現しようとする研究が従来数多く報告されている。その先駆的な例としては、J.P. Collman, Accounts of Chemical Research, 1977, 10, 265、F. Basolo, B.M. Hoffman, J.A. Ibers, ibid., 1975, 8, 384 などが挙げられる。特に、室温下でも安定な酸素錯体を形成できるポルフィリン鉄(II)錯体として5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(以下、FeTpivPP錯体とする)(J.P. Collman, et al., J. Am. Chem. Soc., 1975, 97, 1427)が知られている。FeTpivPP錯体は軸塩基(例えば、1−アルキルイミダゾール、1−アルキル−2−メチルイミダゾール、ピリジン誘導体など)が共存すると、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中、室温下で分子状酸素を可逆的に吸脱着できる。しかし、実際にヘモグロビンに代わる人工の酸素運搬体として生体内での利用を指向した場合は、生理条件下、つまり生理塩水溶液中、pH 7.4、≦40Cの環境下で、酸素を可逆的に結合解離する能力を具有することが必要である。
【0003】
そこで発明者らは、このFeTpivPP錯体をリン脂質から成る二分子膜小胞体に包埋させる技術により水中へ可溶化し、酸素配位座近傍に構築された微小な疎水環境の特性を活用することにより、生理条件下でも酸素を可逆的に吸脱着できる人工酸素運搬体として利用できることを明らかにした(E. Tsuchida, et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984, 1147、特開昭58−21371)。しかし、このFeTpivPP錯体は、リン脂質の構成する二分子膜液晶層との相溶性があまり高くないために、得られた酸素配位錯体が徐々に酸素結合能を発揮できないポルフィリン鉄(III)錯体へと酸化されてしまうという問題があった。このような理由から、生理条件下でも長時間、安定な酸素配位錯体を与えることのできるポルフィリン鉄(II)錯体集合体の開発が盛んに行われてきた。
【0004】
発明者らは、その後、鋭意研究により、リン脂質と類似の分子構造を有する長鎖アルキルホスホコリン基をポルフィリン面上に4つ導入した両親媒性ポルフィリン鉄(II)錯体を合成し、それがリン脂質小胞体の二分子層間に効率高く包埋され、生理条件下できわめて安定な酸素配位錯体を形成できることを見出した(Y. Matsushita et al., Chem. Lett., 1983, 1387、特開昭59−101490)。さらに、その技術改良を重ねた結果、ポルフィリン面上の4つのアルキルホスホコリン基をリン脂質と全く同様な分子構造のジアルキルグリセロホスホコリン基に変換すると、両親媒性ポルフィリン鉄(II)錯体自身が水中で自発的に組織形成して、ポルフィリン鉄(II)錯体のみからなる二分子膜小胞体を形成することを見出した(E. Tsuchida et al., Langmuir, 11, 1877 (1995)、特開平06−092966)。この技術により、もはや過剰量のリン脂質を共存させる必要はなくなり、同時に高濃度のポルフィリン小胞体溶液が簡便に調製できるようになった。このポルフィリン鉄(II)錯体集合体の酸素親和性は赤血球と同程度、酸素結合解離速度もヘモグロビンと同等であり、所望の濃度に調整されたポルフィリン鉄(II)錯体集合体の生理塩水分散液が、赤血球の代替物として利用できると期待されている。しかし、この化合物の合成は多段階からなるため、溶液物性の定量や、生体内酸素輸送評価のための動物投与試験に必要な高濃度試料の調製は困難であったのが実情である。
【0005】
そこで、より簡便に合成できる、自己組織化能と酸素配位能を具有する両親媒性ポルフィリン鉄(II)錯体の実現が望まれていた。
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、少ない合成段階で、簡便にかつ高収率で合成される両親媒性ポルフィリン誘導体を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ジアルキルホスホコリン基の骨格部分として、従来用いていた天然のリン脂質と同様なグリセリンを、トリメチロールエタンに変換すれば、より簡単にジアルキルホスホコリン側鎖構造が合成でき、さらにこれをポルフィリン誘導体に導入すれば、簡便に両親媒性ポルフィリン誘導体が得られることを見出し、この出願の発明に至ったのである。
【0007】
すなわち、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、次の一般式[I]
【0008】
【化5】
Figure 0003589642
【0009】
(ただし、Rは、次の一般式[II]
【0010】
【化6】
Figure 0003589642
【0011】
(ただし、Rはアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれメチレン数を表す整数である)であり、Mは第4または5周期の遷移金属イオンもしくは2つの水素原子を表し、Xはハロゲンイオン、kはMが遷移金属イオンのとき、Mの価数から2を差し引いた整数、Mが2つの水素原子のとき0である)で表される両親媒性ポルフィリン誘導体を提供する。
【0012】
この出願の発明は、第2には、RがC〜C17のアルキル基である前記の両親媒性ポルフィリン誘導体を、第3には、mおよびnが同一または別異に1〜18から選択される整数である前記の両親媒性ポルフィリン誘導体を提供する。
【0013】
さらに、この出願の発明は、第4には、MがFeイオンである前記いずれかの両親媒性ポルフィリン誘導体、第5には、MがCoイオンである前記いずれかの両親媒性ポルフィリン誘導体を提供する。
【0014】
この出願の発明は、第6には、Feイオンが+2価または+3価のいずれかである両親媒性ポルフィリン誘導体、第7には、Coイオンが+2価である両親媒性ポルフィリン誘導体を提供する。
【0015】
この出願の発明は、第8には、前記第6の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体において、その第5配位座または第5配位座と第6配位座の両方に、次の一般式[III]
【0016】
【化7】
Figure 0003589642
【0017】
(ただし、Rは水素原子またはC〜Cのアルキル基、RはC〜C18のアルキル基を示す)で表されるイミダゾール誘導体を配位子として有するポルフィリン金属錯体を提供する。
【0018】
第9には、この出願の発明は、前記第7の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体において、第5配位座に次の一般式[III]
【0019】
【化8】
Figure 0003589642
【0020】
(ただし、Rは水素原子またはC〜Cのアルキル基、RはC〜C18のアルキル基を示す)で表されるイミダゾール誘導体を配位子として有するポルフィリン金属錯体を提供する。
【0021】
この出願の発明は、第10には、少なくとも第8または第9のいずれかのポルフィリン金属錯体が集合してなるポルフィリン金属錯体集合体を提供する。
そして、第11には、この出願の発明は、酸素を可逆的に結合解離できる酸素運搬体であって、前記第8または第9のいずれかの発明のポルフィリン金属錯体または第10の発明のポルフィリン金属錯体集合体を有効成分として含有する酸素運搬体をも提供する。
【0022】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、上記のとおりの特徴を有するものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0023】
この出願の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、次の一般式[I]
【0024】
【化9】
Figure 0003589642
【0025】
(ただし、Rは、次の一般式[II]
【0026】
【化10】
Figure 0003589642
【0027】
(ただし、Rはアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれメチレン数を表す整数である)であり、Mは第4または5周期の遷移金属イオンもしくは2つの水素原子を表し、Xはハロゲンイオン、kはMが遷移金属イオンのとき、Mの価数から2を差し引いた整数、Mが2つの水素原子のとき0である)で表される化合物である。このとき、RはC〜C17のアルキル基、mおよびnは、同一または別異に1〜18から選択される整数とすることが好ましい。
【0028】
以上のとおりの両親媒性ポルフィリン誘導体において、Mが2つの水素原子ならば、次の一般式[IV]
【0029】
【化11】
Figure 0003589642
【0030】
(ただし、R、R、m、nはそれぞれ前記のとおりである)で表されるポルフィリン誘導体となり、Mが第4〜5周期の遷移金属イオンならば、次の一般式[V]
【0031】
【化12】
Figure 0003589642
【0032】
(ただし、R、R、m、n、Xはハロゲンイオン、kはMの価数から2を差し引いた整数である)となる。
これらの両親媒性ポルフィリン誘導体において、実際に酸素を結合できる化合物としては、Mが+2価の状態にある中心金属であり、この金属の第5配位座または第5および第6配位座の両方に塩基を1つまたは2つ配位した錯体である。中でも、Mが+2価のFe、あるいは+2価のCoイオンのとき高い酸素結合脱離能を有する。
【0033】
この出願の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、それ自身が水中で自己組織化し、二分子膜小胞体を形成できる。したがって、酸素結合サイトである金属ポルフィリン部分が、二分子膜の疎水領域の中心に固定される。すなわち、ポルフィリン面上に構築した4つのジアルキルホスホコリン基が自己集合により高密度に配向することにより、酸素錯体形成に必要な微小疎水環境が提供されるのである。これにより、生理条件下でも安定な酸素錯体の形成が可能となり、酸素運搬体、あるいは人工赤血球として有効に作用できるのである。
【0034】
さらに、この出願の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、人工酸素運搬体だけでなく、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としても有効に作用するものである。例えば前記一般式[I]の化合物において、Mが第4周期に属する金属イオンである場合、この両親媒性ポルフィリン誘導体は、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒として用いられる。
【0035】
以上のとおりのこの出願の発明の両親媒性ポルフィリン誘導体について、その製造法は、とくに限定されず、従来公知の種々の化学合成的手法を用いて製造することができる。とくに、合成手順が少なく、簡便な方法を以下に例示する:
(i) 1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンを、脱水ピリジンとジメチルホルムアミド等の適当な有機溶媒との混合溶媒に溶解し、窒素雰囲気下70〜110℃、好ましくは90℃で攪拌する。ここにトリチルクロライド、またはトリチルブロマイドの溶液を1時間以上かけてゆっくりと滴下し、さらに同温度で2〜8時間攪拌を続ける。その後、反応溶液を氷水にて冷却し、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼンなどの適当な有機溶媒で洗浄する。有機相を回収し、残存するピリジンおよび有機溶媒を減圧除去する。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)等で精製し、目的物を集めて真空乾燥することにより、1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−1−トリチルオキシメチルエタンが無色粘稠液体として得られる。
【0036】
(ii) 得られた1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−1−トリチルオキシメチルエタンを適当な有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン、クロロホルム、ベンゼン等に溶解し、C〜C18のアルカン酸無水物を加え、窒素雰囲気下、室温で数分から1時間攪拌した後、4−ジメチルアミノピリジンを添加し、40〜65℃で6〜24時間攪拌する。溶媒を除去後、メタノールに溶解するなどして不溶物を除き、濾液を濃縮する。精製し、目的物を集めて真空乾燥すれば、ω−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパンオキシカルボニル)アルカンが無色透明粘稠液体として得られる。
【0037】
(iii) このω−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパンオキシカルボニル)アルカンをテトラヒドロフラン、クロロホルム、ベンゼン等の適当な有機溶媒に溶解し、環状アルカン酸無水物、4−ジメチルアミノピリジンを加え、窒素雰囲気下、40〜65℃で6〜24時間攪拌する。溶媒を除去した後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)等で分画精製し、目的物を集めて真空乾燥することにより、ω−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−(ω−カルボキシルアルカノイルオキシ)プロパンオキシカルボニル)アルカンが無色透明粘稠液体として得られる。
【0038】
(iv) このようにして合成したω−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−(ω−カルボキシルアルカノイルオキシ)プロパンオキシカルボニル)アルカンを、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ベンゼンなどの適当な有機溶媒に溶解し、ジシクロヘキシルカルボジイミド、4−ジメチルアミノピリジン、さらに既報(Y. Matsushita et al., Chem. Lett., 1983, 1387)に従って合成した一般式[VI]
【0039】
【化13】
Figure 0003589642
【0040】
(但し、mはメチレン基数を示す)で示される5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ω−ヒドロキシ−2,2−ジメチルアルカンアミドフェニル)ポルフィリンを加え、室温で12〜48時間、望ましくは20時間攪拌する。溶媒を減圧除去し、ベンゼンに不溶なDCウレアを除いた後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で分画精製し、目的物を集め、真空乾燥する。こうして、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ω−(ω−(2−トリチルオキシメチル−2−アルカノイルオキシメチルプロパンオキシカルボニル)アルカノイルオキシ)−2,2−ジメチルアルカンアミドフェニル)ポルフィリンが得られる。
【0041】
(v) このポルフィリンをジクロロメタン、またはクロロホルムに溶解し、12%三フッ化ホウ素メタノール錯体を加え、室温で3〜12時間攪拌する。反応溶液を氷水/クロロホルムの二層溶液に滴下し、炭酸水素ナトリウムを徐々に加えて中和した後、クロロホルム層を水で洗浄する。硫酸ナトリウムで脱水後、分画精製し、目的物を集めて真空乾燥すれば、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ω−(ω−(2−ヒドロキシメチル−2−アルカノイルオキシメチルプロパンオキシカルボニル)アルカノイルオキシ)−2,2−ジメチルアルカンアミドフェニル)ポルフィリンが得られる。
【0042】
以上のとおりの方法で合成されるポルフィリン誘導体は、前記一般式[I]において、Mが2つの水素である化合物である。
このような化合物に、常法(例えば、D. Dolphin Ed., The Porphyrins (1975) に記載の方法)により中心金属を導入すると、Mが金属イオンの一般式[I]の化合物、すなわち、上記ポルフィリン誘導体に相当するポルフィリン金属錯体が得られる。具体的には、導入される金属が鉄ならば、ポルフィナト鉄(III)錯体が、コバルトならばポルフィナトコバルト(II)錯体が得られる。
【0043】
以上のとおり製造方法により、アルキル鎖末端に水酸基を有する両親媒性ポルフィリン誘導体が得られる。これを、ジクロロメタン、トリエチルアミンの混合溶液に溶解し、アルゴン雰囲気下、2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを加え、0℃で1〜3時間、さらに室温で1〜12時間攪拌し、溶媒を減圧除去した後、ジメチルホルムアミド、またはアセトニトリルに溶解する。さらにこれを耐圧反応容器へ移してトリメチルアミンを加え、室温で1〜3時間、さらに60℃で6〜25時間、好ましくは12時間攪拌し、冷却後、開栓し、余剰のトリメチルアミンを揮発させる。容器内の反応物をジエチルエーテルでナスフラスコに移し、溶媒を減圧除去する。残渣をゲルカラム(セファデックスLH−60)で精製し、目的物を集め、真空乾燥すれば、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ω−(ω−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−アルカノイルオキシメチルプロパンオキシカルボニル)アルカノイルオキシ)−2,2−ジメチルアルカンアミドフェニル)ポルフィリンが得られる。また、予め上記のとおりの方法で中心金属を導入すれば、同ポルフィリン金属錯体が得られる。
【0044】
なお、このようなポルフィリン金属錯体の内、Fe(III)錯体の場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸など)を用い、常法により中心金属を+3価から+2価へ還元すれば、酸素結合能が付与できる。例えば、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ω−(ω−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−アルカノイルオキシメチルプロパンオキシカルボニル)アルカノイルオキシ)−2,2−ジメチルアルカンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイド、およびN−アルキルイミダゾール(モル比1/2〜1/20、好ましくは1/3)のクロロホルム/メタノール混合溶液を丸底ナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去して、内壁に混合物の薄膜を形成する。真空乾燥後、40〜80℃に暖めたリン酸緩衝液(pH 7.3, 1 mM)を加え、窒素雰囲気下、水浴中にてプローブ型超音波攪拌機を用いて混合攪拌すると、赤色透明の均一分散液が得られる。窒素置換後、亜二チオン酸水溶液を加えて中心Fe(III)を還元すれば、N−アルキルイミダゾールが両軸配位座に結合し、6配位Fe(II)低スピン錯体が得られる(λmax: 436, 538, 568 nm)。余剰の亜二チオン酸は、ゲルろ過(セファデックスG−25)により除去できる。また、この分散液においては、上記の両親媒性ポルフィリン誘導体が粒径100〜150nmの二分子膜小胞体を形成する。
【0045】
このようにして調製される二分子膜小胞体溶液に、酸素ガスを吹き込むと酸素化錯体が得られる。これは、可視吸収スペクトルが直ちにスペクトルが変化し、λmax: 435, 543 nmのスペクトルが得られることから明らかである。反対に、この酸素化錯体溶液に窒素ガスを5分間吹き込むことにより、酸素化型から元の6配位Fe(II)低スピン錯体型へ可逆的に変化する。これは、スペクトル変化から明らかである。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができる。この酸素化錯体の寿命(半減期)は、条件により異なるが、25℃で24時間〜1週間である。
【0046】
以上のとおりの製造方法によって得られるこの出願の発明の両親媒性ポルフィリン金属錯体からなる二分子膜小胞体は、酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を形成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができることから、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として有効である。
【0047】
この出願の発明に使用した両親媒性ポルフィリン誘導体およびその集合体は、生理条件下で酸素を可逆的に吸脱着できるので、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス吸着剤としての応用が可能となるばかりでなく、Fe(II)またはCo(II)錯体の場合、体内でも酸素輸送のできる人工酸素運搬体として作用するものである。
【0048】
以下、実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0049】
【実施例】
<実施例1>
1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン6 g(0.05 mol)の白色粉末個体を脱水ピリジン8.4 ml、ジメチルホルムアミド24 mlの混合溶媒に溶解し、窒素雰囲気下90℃で攪拌した。トリチルクロライド13.9 g(0.05 mol)のジメチルホルムアミド溶液100 mlを1時間かけてゆっくりと滴下し、さらに100℃で4時間攪拌を続けた。
【0050】
反応溶液を氷水に入れ、クロロホルムで洗浄後、有機層を回収し、残存するピリジン、ジメチルホルムアミドを減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール=10/1 (v/v))で分画精製し、目的物を集めた後、真空乾燥した。
【0051】
こうして1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−1−トリチルオキシメチルエタンを無色粘稠液体として収量1.4 g(収率8.0%)で得た。
得られた化合物の分析結果を表1に示した。
【0052】
【表1】
Figure 0003589642
【0053】
<実施例2>
実施例1で合成した1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−1−トリチルオキシメチルエタン1.4 g(3.91 mmol)のテトラヒドロフラン溶液100 mlへ、ステアリン酸無水物2.15 g(3.9 mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温で15分間攪拌後、4−ジメチルアミノピリジン239 mg(2.0 mmol)を添加し、65℃で12時間攪拌した。溶媒を除去し、メタノールに溶解して不溶物を除き、濾液を濃縮した後、シリカゲルカラム(クロロホルム/ジエチルエーテル=30/1 (v/v))で分画精製し、目的物を集めて真空乾燥した。
【0054】
こうして17−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパンオキシカルボニル)ヘプタデカンを無色透明粘稠液体として収量1.31 g(収率53%)で得た。
【0055】
得られた化合物の分析結果を表2に示した。
【0056】
【表2】
Figure 0003589642
【0057】
<実施例3>
実施例2で合成した17−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパンオキシカルボニル)ヘプタデカン0.51 g(0.818 mmol)のテトラヒドロフラン溶液60 mlへ、無水コハク酸573 mg (5.72 mmol)、4−ジメチルアミノピリジン200 mg (1.6 mmol)を加え、窒素雰囲気下、55℃で12時間攪拌した。溶媒を除去した後、シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール=20/1 (v/v))で分画精製、目的物を集めて真空乾燥した。
【0058】
こうして、17−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−(3−カルボキシルプロパノイルオキシ)プロパンオキシカルボニル)ヘプタデカンを無色透明粘稠液体として収量0.533 g(収率90%)で得た。
【0059】
得られた化合物の分析結果を表3に示した。
【0060】
【表3】
Figure 0003589642
【0061】
<実施例4>
実施例3で合成した17−(2−トリチルオキシメチル−2−メチル−3−(3−カルボキシルプロパノイルオキシ)プロパンオキシカルボニル)ヘプタデカン0.5 g(0.686 mmol)をジクロロメタン20 mlに溶解し、ジシクロヘキシルカルボジイミド198 mg(0.960 mmol)、4−ジメチルアミノピリジン41.9 mg(0.343 mmol)、さらに既報(Y. Matsushita et al., Chem. Lett., 1983, 1387)に従って合成した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−ヒドロキシ−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリン139 mg(68.6μmol)を加え、室温で約20時間攪拌した。溶媒を減圧除去し、ベンゼンに不溶なDCウレアを除いた後、シリカゲルカラム(クロロホルム/ジエチルエーテル=30/1 (v/v))で分画精製、目的物を集め、真空乾燥する。こうして、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリチルオキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリンを紫色固体として収量263 mg(収率79%)で得た。
【0062】
得られた化合物の分析結果を表4に示した。
【0063】
【表4】
Figure 0003589642
【0064】
<実施例5>
実施例4で合成した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリチルオキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリン232 mg(47.6μmmol)をジクロロメタン13.5 mlに溶解し、12% 三フッ化ホウ素メタノール錯体175μl(262 mmol)を加え、室温で7時間攪拌した。反応溶液を氷水/クロロホルムの二層溶液に滴下し、炭酸水素ナトリウムを徐々に加えて中和した後、クロロホルム層を水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール=20/1 (v/v))で分画精製、目的物を集め、真空乾燥した。
【0065】
こうして5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−ヒドロキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリンを紫色固体として収量176 mg(収率95%)で得た。
【0066】
得られた化合物の分析結果を表5に示した。
【0067】
【表5】
Figure 0003589642
【0068】
<実施例6>
実施例5で合成した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−ヒドロキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリン35 mg (8.89μmmol)をジクロロメタン5.0 ml、トリエチルアミン0.089 ml (0.64 mmol)に溶解し、アルゴン雰囲気下、2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン 0.05 ml (0.53 mmol)を加え、0℃で1時間、さらに室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧除去後、ジメチルホルムアミド5.0 mlに溶解し、これを耐圧反応容器へ移し、トリメチルアミン1 mlを加え、室温で1時間、さらに60℃で12時間攪拌した。冷却後、開栓し、余剰のトリメチルアミンを揮発した。容器内の反応物をジエチルエーテルでナスフラスコに移し、溶媒を減圧除去した。残渣をゲルカラム(セファデックスLH−60) (ベンゼン/メタノール=2/1 (v/v))で精製し、目的物を集めて真空乾燥した。
【0069】
こうして5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリンを紫色固体として収量25 mg (収率72%)で得た。
【0070】
得られた化合物の分析結果を、表6に示した。
【0071】
【表6】
Figure 0003589642
【0072】
<実施例7>
電解鉄40.4 mg (0.724 mmol)と47% 臭化水素酸溶液1.5 mlを窒素雰囲気下、80℃にて1時間反応し、電解鉄が完全に溶解したことを確認した後、130℃に加熱し溶媒を蒸発乾固し、臭化第一鉄を得た。そこへ実施例5で合成した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−ヒドロキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィリン45 mg (11.4μmol)と2,6−ルチジン8.0μlのテトラヒドロフラン溶液10 mlを滴下し、窒素雰囲気下で2時間沸点還流した。溶媒を減圧除去し、クロロホルムに溶解し、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過した後、溶媒を減圧除去した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール=20/1 (v/v))で分画精製し、目的物を集めて、真空乾燥した。
【0073】
こうして5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−ヒドロキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイドを紫色固体として収量36 mg (収率79%)で得た。
【0074】
得られた化合物の分析結果を表7に示した。
【0075】
【表7】
Figure 0003589642
【0076】
<実施例8>
5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−ヒドロキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイド36 mg(8.4μmmol)をジクロロメタン5.1 ml、トリエチルアミン0.092 mlに溶解し、アルゴン雰囲気下、2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン0.054 mlを加え、0℃で1時間、さらに室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧除去後、ジメチルホルムアミド5.1 mlに溶解し、これを耐圧反応容器へ移し、トリメチルアミン1 mlを加え、室温で1時間、さらに60℃で12時間攪拌した。冷却後、容器を開栓し、余剰のトリメチルアミンを除いた後、ジエチルエーテルでナスフラスコに移し、溶媒を減圧除去した。残渣をゲルカラム(セファデックスLH−60) (ベンゼン/メタノール=2/1 (v/v))で精製し、目的物を集め、真空乾燥した。こうして5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイドを紫色固体として収量30 mg (収率79%)で得た。
【0077】
得られた化合物の分析結果を表8に示した。
【0078】
【表8】
Figure 0003589642
【0079】
<実施例9>
実施例2〜8において、実施例2におけるステアリン酸無水物の代わりにドデカン酸無水物を、実施例3における、無水コハク酸の代わりに無水グルタル酸を、実施例4における5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−ヒドロキシ−2,2−ジメチルエイコサンアミドフェニル)ポルフィリンの代わりに5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−6−ヒドロキシ−2,2−ジメチルヘキサンアミドフェニル)ポルフィリンを用いた以外は全く同様な手法に従い、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−6−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−ドデカノイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)ブタノイルオキシ)−2,2−ジメチルヘキサンアミドフェニル)ポルフィリンを紫色固体として定量的に得た。
【0080】
得られた化合物の分析結果を表9に示した。
【0081】
【表9】
Figure 0003589642
【0082】
<実施例10>
実施例2〜8において、実施例2におけるステアリン酸無水物の代わりにパルミチン酸無水物を、実施例4における5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−ヒドロキシ−2,2−ジメチルエイコサンアミドフェニル)ポルフィリンの代わりに5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−12−ヒドロキシ−2,2−ジメチルドデカンアミドフェニル)ポルフィリンを用いた以外は全く同様な手法に従い、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−6−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−パルミトイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルドデカンアミドフェニル)ポルフィナトコバルト(II)を紫色固体として定量的に得た。
【0083】
得られた化合物の分析結果を表10に示した
【0084】
【表10】
Figure 0003589642
【0085】
<実施例11>
実施例8で合成した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイド0.417 mg(0.1 μmol)、およびN−ドデシルイミダゾール70.9 μg(0.3 μmol)のクロロホルム/メタノール混合溶液を5 ml丸底ナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去することにより、内壁にポルフィリン鉄錯体/N−ドデシルイミダゾールの薄膜を形成した。6時間真空乾燥後、約60℃に暖めたリン酸緩衝液(pH 7.3, 1 mM)5mlを加え、窒素雰囲気下、水浴中にてプローブ型超音波攪拌機により、約5分間混合攪拌すると、赤色透明の均一分散液が得られた。
【0086】
窒素置換後、亜二チオン酸水溶液を加えて中心Fe(III)を還元することにより、N−ドデシルイミダゾールが両軸配位座に結合した、6配位Fe(II)低スピン錯体が得られた。この時の紫外可視吸収スペクトルはλmax: 436, 538, 568 nmを示した。余剰の亜二チオン酸は、ゲルろ過(セファデックスG−25)により除去した。また、この分散液の電子顕微鏡観察から、粒径100〜150nmの二分子膜小胞体の形成が明らかとなった。
【0087】
この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、λmax: 435, 543 nmを示した。これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを5分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルから元の6配位Fe(II)低スピン錯体型のスペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが確認できた。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返すことにより、酸素吸脱着を連続して行うことができた。この酸素化錯体の寿命(半減期)は、25℃で24〜168時間であった。また、一酸化炭素の通気により、安定な一酸化炭素錯体(λmax: 433, 545 nm)が得られた。
<実施例12>
実施例11で調製した5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−20−(3−(2−トリメチルアンモニオエトキシホスホナトキシメチル−2−ステアロイルオキシメチル−プロパンオキシカルボニル)プロパノイルオキシ)−2,2−ジメチルエコサンアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)ブロマイド0.417 mg(0.1 μmol)、およびN−ドデシルイミダゾール70.9 μg(0.3 μmol)のクロロホルム/メタノール混合溶液に、ポルフィリン鉄に対して1〜100倍モルのリン脂質、例えば1,2−ジパルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)を加え、同様な方法により、内壁にポルフィリン鉄錯体/N−ドデシルイミダゾール/DPPCの薄膜を形成した。6時間真空乾燥後、約60℃に暖めたリン酸緩衝液(pH 7.3, 1 mM)5mlを加え、窒素雰囲気下、水浴中にてプローブ型超音波攪拌機により、約5分間混合攪拌すると、赤色透明の均一分散液が得られた。
【0088】
窒素置換後、亜二チオン酸水溶液を加えて中心Fe(III)を還元することにより、N−ドデシルイミダゾールが両軸配位座に結合した、6配位Fe(II)低スピン錯体が得られた。この時の紫外可視吸収スペクトルはλmax: 435, 538, 569 nmを示した。余剰の亜二チオン酸は、ゲルろ過(セファデックスG−25)により除去した。また、この分散液の電子顕微鏡観察から、粒径100〜150nmの二分子膜小胞体の形成が明らかとなった。
【0089】
この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、λmax: 433, 542 nmを示した。これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを5分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルから元の6配位Fe(II)低スピン錯体型のスペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することが確認できた。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返すことにより、酸素吸脱着を連続して行うことができた。この酸素化錯体の寿命(半減期)は、25℃で24〜168時間であった。また、一酸化炭素の通気により、安定な一酸化炭素錯体(λmax: 433, 546 nm)が得られた。
【0090】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、簡便な方法で合成される両親媒性ポルフィリン誘導体が提供される。この発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、従来のジアルキルグリセロホスホコリン基を有する両親媒性ポルフィリン金属錯体に比べ、合成が簡便で、大幅な工程数の低減が可能となったばかりでなく、総収率も高い。したがって、グラム単位での量産が可能となる。また、この発明の両親媒性ポルフィリン誘導体は、それ自身が両親媒性構造を有するため、水中で自己集合して組織体を形成できる。さらに、リン脂質二分子膜小胞体との相溶性が高いため、二分子膜層間疎水領域への包埋においても有利であり、リン脂質小胞体分散の形式でも水中に溶解させることが出来る。
【0091】
この発明によって提供される両親媒性ポルフィリン金属錯体とその自己集合体は、アルキルイミダゾール誘導体の共存下、水相系で酸素運搬能を発揮でき、赤血球の機能を代替できる人工酸素運搬体として有用である。さらに、この発明の両親媒性ポルフィリン金属錯体は、ガス吸着剤、酸素吸脱着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒などとしても有用である。

Claims (11)

  1. 次の一般式[I]
    Figure 0003589642
    (ただし、Rは、次の一般式[II]
    Figure 0003589642
    (ただし、Rはアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれメチレン数を表す整数である)であり、Mは第4または5周期の遷移金属イオンもしくは2つの水素原子を表し、Xはハロゲンイオン、kはMが遷移金属イオンのとき、Mの価数から2を差し引いた整数、Mが2つの水素原子のとき0である)で表される両親媒性ポルフィリン誘導体。
  2. はC〜C17のアルキル基である請求項1の両親媒性ポルフィリン誘導体。
  3. mおよびnは、同一または別異に1〜18から選択される整数である請求項1または2のいずれかの両親媒性ポルフィリン誘導体。
  4. MがFeイオンである請求項1ないし3のいずれかの両親媒性ポルフィリン誘導体。
  5. MがCoイオンである請求項1ないし3のいずれかの両親媒性ポルフィリン誘導体。
  6. Feイオンは+2価または+3価のいずれかである請求項4の両親媒性ポルフィリン誘導体。
  7. Coイオンは、+2価である請求項5の両親媒性ポルフィリン誘導体。
  8. 請求項6の両親媒性ポルフィリン誘導体の第5配位座または第5配位座と第6配位座の両方に、次の一般式[III]
    Figure 0003589642
    (ただし、Rは水素原子またはC〜Cのアルキル基、RはC〜C18のアルキル基を示す)で表されるイミダゾール誘導体を配位子として有するポルフィリン金属錯体。
  9. 請求項7の両親媒性ポルフィリン誘導体において、第5配位座に次の一般式[III]
    Figure 0003589642
    (ただし、Rは水素原子またはC〜Cのアルキル基、RはC〜C18のアルキル基を示す)で表されるイミダゾール誘導体を配位子として有するポルフィリン金属錯体。
  10. 少なくとも請求項8または9のいずれかのポルフィリン金属錯体が集合してなるポルフィリン金属錯体集合体。
  11. 酸素を可逆的に結合解離できる酸素運搬体であって、請求項8または9のいずれかのポルフィリン金属錯体または請求項10のポルフィリン金属錯体集合体を有効成分として含有する酸素運搬体。
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