JP3584636B2 - 熱間加工性に優れた耐硫酸・塩酸露点腐食鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間加工性に優れた、硫酸・塩酸露点腐食に対して優れた耐食性を有する鋼(以下、「耐硫酸・塩酸露点腐食鋼」という。)に関し、より詳しくは、重油、石炭及び都市ゴミなどを燃焼させた排煙や排ガスの煙道及び煙突、あるいは空気予熱装置や熱交換器などに使用される、熱間加工性に優れた耐硫酸・塩酸露点腐食鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
重油や石炭といった所謂「化石燃料」を用いる事業用発電所では、化石燃料の燃焼によって生じた硫黄酸化物によって排ガスの露点が上昇する。このため、80〜140℃といった水の露点よりも高い温度で排ガスに接する排煙ダクトなどでも高濃度の硫酸が生成し、この硫酸に起因した所謂「硫酸露点腐食」が生ずることが問題になっていた。
【0003】
燃料中に含まれる硫黄(S)は燃焼により酸化されて、亜硫酸ガス(SO2 )更には無水硫酸(SO3)となるが、水分を含む排ガス気相に少量のSO3が含まれると露点が大幅に高くなり、水分だけの場合にはまず結露を生じない80〜140℃といった高い温度でも、硫酸(H2SO4)を含む水が凝結するようになる。この凝結硫酸水の濃度は、排ガス中のSO3 濃度にはほとんど無関係で、水分の量と凝結面の温度に依存する。
【0004】
例えば、10%の水分を含む排ガスにおいて、水分だけの場合には露点は46℃であるが、気相中に10ppmのSO3 が含まれると、平衡状態で露点は135℃にまで上昇し、その凝結水は約80%の硫酸を含むことになる。このように露点が上昇した燃焼排ガス中では、水分だけから推定される露点よりもはるかに高い温度で水分の凝結が生じ、その高濃度硫酸溶液により鋼は腐食を受ける。これが硫酸露点腐食と呼ばれる鋼の腐食である。
【0005】
一方、近年、燃焼エネルギーを有効利用する観点から、例えば60〜100℃程度の低温排ガスが有する熱を回収することが指向されている。この場合、水露点である80℃以下での凝結水による腐食が問題になっている。すなわち、上記の凝結水には硫酸に加えて、特に石炭が燃料として用いられた場合には、石炭に含まれる塩素が燃焼時に水素と反応して塩化水素が生成され、この塩化水素が凝結して生ずる塩酸も含まれることになる。このため、低温排ガスから熱回収を行う場合には、前記の硫酸露点腐食に加えて「塩酸露点腐食」も問題となるのである。
【0006】
更に、都市ゴミの焼却炉においては、ゴミに含まれる塩化ビニールが燃焼すると塩化水素が生じ、この塩化水素が排ガスの低温部で凝結すると塩酸水溶液を生成する。したがって、都市ゴミの焼却炉の場合には、前記した硫酸露点腐食に加えて、特に、塩酸露点腐食が大きな問題となる。
【0007】
特公昭47−1876号公報、特公昭53−46776号公報及び特開昭61−3867号公報に、硫酸腐食に対して抵抗性を有する低合金鋼が開示されている。これらの公報で提案された各種の鋼は硫酸露点腐食に対する抵抗性を有するため、ダクトなどの部位に使用されて一応の効果をあげてきた。しかしながら、前記の各公報で提案された鋼には、塩酸腐食に対する配慮がなされていない。したがって、前記の鋼を塩酸露点腐食が問題となる環境で使用した場合には、必ずしも所謂「普通鋼」に対する優位性が得られないこともあった。
【0008】
塩酸に対してはハステロイC276やインコネル625(いずれも商品名)などのMo含有量の高いNi基合金が耐食性を有することが知られている。しかし、前記のNi基合金は極めて高価であるうえに鋼に比べて熱間加工が難しい。このため、ダクトや煙突などの大型構造物の母材として用いると、費用が嵩んでしまう。
【0009】
低合金鋼にフッ素樹脂やガラスなどを被覆処理すれば、塩酸に対する耐食性を高めることは可能である。しかし、施工や補修が難しく、特に、複雑な形状の部材に欠陥のない均一な被覆処理を行うことには困難を伴うので、総コストとしてはやはり高くなってしまう。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
重油、石炭及び都市ゴミなどを燃焼させた排煙や排ガスの煙道及び煙突、あるいは空気予熱装置や熱交換器などにおいて、硫酸だけでなく塩酸も含んだ硫酸・塩酸露点腐食が問題になってきている。本発明の目的は、こうした硫酸・塩酸露点腐食に対して優れた抵抗性を有するとともに熱間加工性にも優れ、且つ、廉価で施工し易い経済的にも有利な鋼を提供することにある。
【0011】
本発明の要旨は、下記の熱間加工性に優れた耐硫酸・塩酸露点腐食鋼にある。
【0012】
すなわち、「重量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.1〜0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0〜0.5%、Cr:0〜2.0%、Al:0〜0.1%、V:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、Ti:0〜0.2%、Sn及びSbの1種又は2種の合計が0.01〜1.0%、並びにB:0.001〜0.01%及びMo:0.01〜0.5%の1種以上を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなることを特徴とする熱間加工性に優れた耐硫酸・塩酸露点腐食鋼」である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、燃焼排ガス用ダクトなどの母材鋼として従来用いられてきた耐硫酸露点腐食鋼を初めとする種々の低合金鋼について、耐塩酸腐食性と耐硫酸腐食性の両方を調査した。その結果、下記▲1▼〜▲4▼の知見を得た。
【0014】
▲1▼従来の耐硫酸露点腐食鋼に含まれるレベルのSが、塩酸に対して顕著な悪影響を及ぼす。
【0015】
これまで、Sが硫酸に対する耐食性を高めることが報告されていたが、本発明者らの調査で、硫酸腐食に対して効果を有するSが、塩酸腐食に対しては悪影響を及ぼすことが明らかになったのである。これは、塩酸の場合には、鋼中に生成した硫化物系介在物の近傍で腐食速度が特に大きくなってしまうことに基づくと考えられる。
【0016】
▲2▼Sn又は/及びSbを添加した鋼の耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性は良好である。これは、SnとSbが腐食反応の対反応である水素発生反応を抑制するためと考えられる。
【0017】
▲3▼耐硫酸露点腐食鋼に含有されているSを低減あるいは含まないようにしても、Sn又は/及びSbを添加すれば、耐硫酸腐食性を維持あるいは更に向上させつつ耐塩酸腐食性を高めることができる。
【0018】
▲4▼耐酸腐食性を高めるSnやSbを添加すれば熱間加工性が低下してしまうが、適量のMo又は/及びBを併せて添加することにより熱間加工性を改善することができる。
【0019】
SnやSbを添加した場合の熱間加工性の劣化は結晶粒界破断が起き易くなるためであるが、MoやBを複合添加すればそれ自体が結晶粒界に濃化したり、SnやSbが結晶粒界へ偏析することを低減したりするので、結晶粒界強度が高まって熱間加工性が改善されるものと考えられる。
【0020】
以下、本発明における化学組成を前記のように限定する理由について述べる。なお、「%」は「重量%」を意味する。
【0021】
C:0.01〜0.15%
Cは、構造材料としての強度を確保するために必要であり、その含有量が0.01%未満では所望の強度が得難い。一方、過剰に含有させると溶接性の低下を招き、特にC含有量が0.15%を超えると溶接性が著しく低下する。したがって、C含有量を0.01〜0.15%とした。なお、C含有量の好ましい範囲は0.05〜0.1%である。
【0022】
Si:0.1〜0.5%
Siは、製鋼時の脱酸のため必要であり、そのためには0.1%以上含有させる。しかし、過剰に添加すると耐塩酸腐食性を低下させてしまう。特に、その含有量が0.5%を超えると耐塩酸腐食性の低下が著しい。したがって、Siの含有量を0.1〜0.5%とした。
【0023】
Mn:0.1〜0.5%
Mnは、Sによる熱間脆性を防止する作用がある。しかし、その含有量が0.1%未満では添加効果に乏しい。一方、0.5%を超えると耐塩酸腐食性の顕著な低下を招く。したがって、Mn含有量を0.1〜0.5%とした。
【0024】
P:0.03%以下
Pは不可避不純物の一つで、熱間加工性や溶接性を劣化させるのでその含有量は少ないほど良く、0.03%以下に限定する。
【0025】
S:0.005%以下
Sは鋼の熱間加工性や耐食性を劣化させるのでその含有量は少ないほど良い。特に、0.005%を超えて含有させると耐塩酸腐食性の著しい劣化をきたすため、S含有量を0.005%以下とした。なお、S含有量は0.003%以下にすることが好ましい。後述する量のSnやSbを含有させる本発明鋼の場合にはSを含有させなくても、良好な耐硫酸腐食性と耐塩酸腐食性が得られる。
【0026】
Cu:0.2〜1.0%
Cuは、耐硫酸露点腐食鋼では耐食性を高めるので必ず添加される。本発明鋼の場合も同様で、更に、塩酸による腐食に対しても有効である。しかし、その含有量が0.2%未満では添加効果に乏しく、一方、1.0%を超えると鋼の熱間加工性が劣化してしまう。したがって、Cu含有量を0.2〜1.0%とした。なお、Cuの好ましい含有量は0.2〜0.6%である。
【0027】
Ni:0〜0.5%
Niは、本発明の対象である硫酸と塩酸による腐食の抑止には顕著な効果を有しないので添加しなくても良い。添加すれば、Cu、SnやSb添加による熱間加工性の低下を防ぐ作用がある。この効果を確実に得るには、Niは0.1%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、0.5%を超えて含有させてもその効果が飽和しコストが嵩むばかりである。したがって、Niの含有量を0〜0.5%とした。
【0028】
Cr:0〜2.0%
Crは添加しなくても良い。添加すればプラント停止時の塩酸が中和された中性塩化物水溶液中での耐食性を改善する効果を有する。この効果を確実に得るには、Crは0.2%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、2.0%を超えて含有させると、塩酸腐食に対する抵抗性が低下する。したがって、Cr含有量を0〜2.0%とした。なお、Cr含有量は0〜1.0%とすることが好ましい。
【0029】
Al:0〜0.1%
Alは、耐食性にとくには影響しないので、製品の含有量としてはなくてもよいが、製鋼時に健全な鋼塊を得るために添加され、結果として鋼に含まれる。耐食性やその他の性質に影響を及ぼさない範囲として、Alの含有量を0〜0.1%とした。
【0030】
V:0〜0.2%
Vは添加しなくても良い。添加すれば鋼の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Vは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えると鋼の靭性の劣化をきたす。したがって、Vの含有量を0〜0.2%とした。
【0031】
Nb:0〜0.2%
Nbは添加しなくても良い。添加すれば鋼の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Nbは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、0.2%を超えて含有させると鋼の靭性の劣化をもたらす。したがって、Nbの含有量を0〜0.2%とした。
【0032】
Ti:0〜0.2%
Tiは添加しなくても良い。添加すれば鋼の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Tiは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.2%を超えると鋼の靭性の劣化をきたす。したがって、Tiの含有量を0〜0.2%とした。
【0033】
Sn、Sb:1種又は2種の合計が0.01〜1.0%
SnとSbは、本発明において重要な元素で、ともに硫酸及び塩酸による酸露点腐食に対する抵抗性を高める作用を有する。この効果は、いずれか1種の含有量、又は2種の合計含有量が0.01%以上で得られる。しかし、前記の含有量が1.0%を超えると硫酸及び塩酸に対する耐酸露点腐食性が飽和するばかりか、熱間加工時の割れ発生や靭性の劣化をきたすようになる。したがって、SnとSbの含有量を、1種、又は2種の合計で0.01〜1.0%とした。なお、好ましくは0.1〜0.5%である。
【0034】
Mo:0.01〜0.5%、B:0.001〜0.01%
Mo及びBには、熱間加工性を著しく改善する作用がある。したがって、SnとSbとを前記の量で含有させる本発明鋼においては、MoとBの1種以上を添加する。しかし、MoとBの含有量がそれぞれ0.01%未満、0.001%未満では所望の効果が得られない。一方、Moの含有量が0.5%を超えると耐硫酸・塩酸露点腐食性の劣化をきたす。又、Bの含有量が0.01%を超えると耐硫酸・塩酸露点腐食性の劣化をきたす。このため、MoとBの含有量をそれぞれ0.01〜0.5%、0.001〜0.01%とした。なお、MoとBの好ましい含有量は、それぞれ0.01〜0.2%、0.001〜0.005%である。
【0035】
【実施例】
表1に示す化学組成の鋼を、通常の方法によって25Kg真空炉溶製した。表1における鋼 1〜11は本発明例の鋼、鋼12〜19は成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。
【0036】
【表1】
【0037】
次いで、これらの鋼を1200℃に加熱してから通常の方法で幅100mm×厚さ30mmに熱間鍛造した。この後、1200℃に加熱してから通常の方法で熱間圧延して厚さ9mmの板を作製し、更に、900℃に加熱して20分保持後空冷する焼準処理を行った。
【0038】
こうして得られた焼準後の9mm厚さの板材から幅10mm×長さ40mm×厚さ3mmの試験片を切り出し、表面をNo.320のエメリー紙で研磨後、脱脂して腐食試験に供した。
【0039】
腐食試験は、▲1▼80%硫酸、140℃、▲2▼5%塩酸、40℃、▲3▼40%硫酸と0.2%塩酸の混酸、60℃の3条件とし、それぞれ5時間浸漬した後、腐食による重量減少を測定し、腐食速度(g/(m2・h)) を求めて耐食性を比較した。
【0040】
又、厚さ30mmの熱間鍛造材から熱間加工性を調査するために直径10mmで平行部長さが110mmの丸棒試験片を切り出した。
【0041】
熱間加工性の調査は、上記の丸棒試験片の長さ中央の7mm部分を均熱帯とし、通電加熱によって1250℃に昇温させて5分保持後900℃まで10℃/秒の冷却速度で冷却し、次いで、引張速度7mm/秒で引張り破断させる方法で行った。破断部の絞りを測定して熱間加工性の指標とした。なお、絞りが高いほど熱間加工性は良好となる。
【0042】
表2に、耐食性及び熱間加工性の調査結果を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から、本発明例の鋼 1〜11の場合は、いずれも前記の腐食条件▲1▼における腐食速度は60mg/(m2・h) 以下、腐食条件▲2▼における腐食速度は2.5mg/(m2・h)以下、腐食条件▲3▼における腐食速度は60mg/(m2・h)以下で耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性に優れると同時に、引張り破断部の絞りが70%を超えているので良好な熱間加工性をも有することが明らかである。これに対して比較例の鋼12〜19の場合には、少なくとも耐硫酸腐食性、耐塩酸腐食性、熱間加工性のいずれかにおいて劣っている。
【0045】
【発明の効果】
本発明の鋼は耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性に優れているので、硫酸及び塩酸による酸露点腐食に対して大きな抵抗性を有する。したがって、重油、石炭及び都市ゴミなどを燃焼させた排煙や排ガスの煙道及び煙突、あるいは空気予熱装置や熱交換器などに使用される耐硫酸・塩酸露点腐食鋼として利用することができる。更に、本発明の鋼は熱間加工性にも優れ、廉価で施工し易い経済的にも有利な鋼で、その効果は極めて大きい。
Claims (1)
- 重量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.1〜0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0〜0.5%、Cr:0〜2.0%、Al:0〜0.1%、V:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、Ti:0〜0.2%、Sn及びSbの1種又は2種の合計が0.01〜1.0%、並びにB:0.001〜0.01%及びMo:0.01〜0.5%の1種以上を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなることを特徴とする熱間加工性に優れた耐硫酸・塩酸露点腐食鋼。
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