JP3572956B2 - 自動クラッチ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自動クラッチ制御装置に係り、特に、変速機の変速後に自動クラッチを接続する際の制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複数の変速段を有して走行用駆動源と車輪との間に配設された変速機の変速時に、その変速機と走行用駆動源との間に配設された自動クラッチを遮断するとともに、変速終了後に所定の接続タイミングでその自動クラッチを接続する自動クラッチ制御装置が知られている。実開平5−71028号公報に記載されている装置はその一例で、運転者のシフトレバー操作に従って変速アクチュエータにより変速機の変速段が切り換えられるようになっているとともに、その変速アクチュエータによる変速後(変速出力から所定時間後など)に自動クラッチを接続するようになっている。変速機の変速段が、運転者のシフトレバー操作に従って機械的に切り換えられる場合は、シフトレバーや変速機構の作動状態、或いは変速機の入出力部材の回転数比などに基づいて変速が略終了したか否かを判断し、変速終了と判断された後に自動クラッチを接続することになる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような変速終了判断は、変速終了後に直ちに自動クラッチが接続されるように、自動クラッチの作動遅れなどを考慮して変速が完全に終了する少し前の段階で判断するのが普通である。これに対し、変速機の温度が著しく低い場合、例えば−20℃〜−30℃程度以下になると、潤滑油等の粘性が高くなるため変速時間が長くなり、変速が完全に終了する前に自動クラッチが接続される可能性があった。このように変速が完全に終了する前に自動クラッチが接続されると、例えば噛合クラッチによって変速段が切り換えられる2軸噛合式の変速機の場合、スプライン歯が完全に噛み合っていない状態で大きなトルクが加えられることによって歯欠けなどを生じる可能性があった。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、変速機の温度が低い場合でも変速終了前に自動クラッチが接続されることを防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明は、平行な2軸間に変速比が異なる複数の変速ギヤ対が配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対に対応して複数のシンクロメッシュタイプの噛合クラッチが設けられ、運転者のシフトレバー操作に連動して機械的にその噛合クラッチが連結されることにより所定の変速段を成立させる一方、潤滑油に浸漬されて潤滑される2軸噛合式の変速機が、走行用駆動源と車輪との間に配設されており、その変速機の変速時に、その変速機と走行用駆動源との間に配設された自動クラッチを遮断するとともに、変速終了後に所定の接続タイミングでその自動クラッチが接続するように、前記噛合クラッチのスプライン歯が完全に噛み合う前に為される変速終了判断に従って、その自動クラッチを実際に接続するための接続制御を開始する自動クラッチ制御装置において、前記変速機の温度を判断し、その温度が低い場合は、前記潤滑油の粘性上昇に拘らず、前記噛合クラッチのスプライン歯が完全に噛み合ってその変速機の変速が完全に終了した後に前記自動クラッチが接続されるように前記接続タイミングを遅くする接続遅延手段を有することを特徴とする。
【0006】
【発明の効果】
このような自動クラッチ制御装置においては、変速機の温度が低い時には潤滑油の粘性上昇に拘らず、噛合クラッチのスプライン歯が完全に噛み合って変速機の変速が完全に終了した後に自動クラッチが接続されるようにその自動クラッチの接続タイミングが遅くされるため、潤滑油の粘性の上昇に起因して変速時間が長くなっても、変速が完全に終了する前に自動クラッチが接続されることが抑制され、噛合クラッチのスプライン歯が僅かに係合する状態で過大なトルクが伝達されることによって歯欠けなどを生じるといった問題が回避される。
【0007】
【発明の実施の形態】
ここで、走行用駆動源としては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは勿論、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。変速機は、平行な2軸間に変速比が異なる複数の変速ギヤ対が配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対に対応して複数の噛合クラッチが設けられた2軸噛合式のものが用いられるが、必ずしも複数の前進変速段を備えている必要はなく、前後進切換え用の変速機であっても良い。
【0008】
自動クラッチとしては、摩擦係合式クラッチや電磁クラッチなどが好適に用いられ、必要に応じてスリップ制御を行うこともできる。接続タイミングは、最終的に自動クラッチが接続されるタイミングで、接続遅延手段は、接続開始時間(接続指令など)を遅くするものでも良いが、流体アクチュエータによって自動クラッチを接続する場合には、その流量制御や流体圧制御で自動クラッチの接続速度(接続するまでの所要時間)を変更するものでも良い。
【0009】
本発明は、好適には(a) 変速機の変速終了を判断する変速終了判断手段、(b) 該変速終了判断手段によって変速終了判断が為された後に所定の接続タイミングで自動クラッチを接続する変速時クラッチ接続制御手段、(c) 変速機の温度を判断する変速機温度判断手段を含んで構成される。変速終了判断手段は、例えばシフトレバーや変速機構の作動状態をスイッチなどで検出して変速終了を判断するように構成されるが、変速機の入出力部材の回転数比が新たな変速段の変速比と略一致するか否か等によって変速終了を判断することもできる。変速時クラッチ接続制御手段は、例えばシフト操作時間や変速の種類、車速、エンジン回転数などの変速条件に応じて自動クラッチを接続する際の接続タイミングを制御するように構成され、流体アクチュエータによって自動クラッチを接続する場合、その流量制御や流体圧制御で自動クラッチの接続速度(接続するまでの所要時間)を変えたり、接続制御の開始時間を変えたりする。また、変速機温度判断手段は、例えば変速機内の潤滑油の温度を直接検出する油温センサにて構成されるが、エンジンの冷却水温や外気温度(吸入空気温度など)を変速機温度として代用したり、エンジン等の走行用駆動源の作動中は、走行距離や変速機の回転数、トルクなどから変速機温度を推定することもできる。
【0010】
上記変速終了判断手段は、例えば複数の変速段のうちの何れかが略成立したか否かを検出するギヤ入りスイッチを含んで構成され、変速機が、(a) 平行な2軸間に変速比が異なる複数の変速ギヤ対が配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対に対応して複数の噛合クラッチが設けられた2軸噛合式の変速機構と、(b) 前記噛合クラッチのクラッチハブスリーブと係合させられ、該クラッチハブスリーブを移動させることにより何れかの変速段を成立させる複数のフォーク部材と、(c) 運転者のシフトレバー操作に従って機械的に所定のセレクト方向へ移動させられることにより前記複数のフォーク部材の任意の一つに選択的に係合させられるとともに、該セレクト方向と略直角なシフト方向へ移動させられることにより該フォーク部材を移動させて所定の変速段を成立させるシフト・セレクト部材とを有するものである場合、上記ギヤ入りスイッチは、例えば上記シフト・セレクト部材の前記セレクト方向位置が異なる場合でも、そのシフト・セレクト部材が前記シフト方向へ前記噛合クラッチの噛合い開始位置まで移動させられることによりON、OFFが切り換えられるON−OFFスイッチにて構成される。ON−OFFスイッチは、シフト・セレクト部材と係合してON、OFFが切り換えられるリミットスイッチなどの接触式のスイッチが好適に用いられるが、近接スイッチや光電スイッチ等の非接触式スイッチを用いることも可能である。
【0011】
上記シフト・セレクト部材のシフト方向とセレクト方向は互いに略直角な方向であるが、必ずしも一平面内の平行移動である必要はなく、例えば軸方向の直線移動と軸心まわりの回転移動であっても良い。また、前記クラッチハブスリーブと係合させられる複数のフォーク部材をシフト・セレクト部材に取り付け、シフト・セレクト部材のセレクト方向の移動に伴って何れかのフォーク部材がクラッチハブスリーブと係合させられるようにしても良い。
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の概略構成を説明する骨子図で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のものであり、走行用駆動源としてのエンジン12、自動クラッチ14、変速機16、差動歯車装置18を備えている。自動クラッチ14は、例えば図2に示す乾式単板式の摩擦クラッチで、エンジン12のクランクシャフト20に取り付けられたフライホイール22、クラッチ出力軸24に配設されたクラッチディスク26、クラッチハウジング28に配設されたプレッシャプレート30、プレッシャプレート30をフライホイール22側へ付勢することによりクラッチディスク26を挟圧して動力伝達するダイヤフラムスプリング32、クラッチレリーズシリンダ34によりレリーズフォーク36を介して図の左方向へ移動させられることにより、ダイヤフラムスプリング32の内端部を図の左方向へ変位させてクラッチを遮断(開放)するレリーズスリーブ38を有して構成されている。
【0013】
上記クラッチレリーズシリンダ34は、図3に示す油圧回路(HPU:Hydraulic Power Unit) 90によって油圧が供給されるようになっている。油圧回路90は、リザーバー92から作動油を汲み上げて吐出する電動式の油圧ポンプ94、油圧ポンプ94から吐出された作動油を蓄積するアキュムレータ96、クラッチレリーズシリンダ34に対する作動油の供給、排出を切り換える3ポートリニアスプール式等のクラッチソレノイドバルブ98を備えており、クラッチソレノイドバルブ98からクラッチレリーズシリンダ34に作動油が供給されることによって自動クラッチ14は遮断され、クラッチレリーズシリンダ34の作動油の流出が許容されると、自動クラッチ14のダイヤフラムスプリング32の付勢力に従ってクラッチレリーズシリンダ34のピストンが押し返されるとともに、自動クラッチ14が接続(係合)状態になる。クラッチソレノイドバルブ98は流量(流通断面積)を連続的に制御することが可能で、自動クラッチ14の接続時には、作動油の流出流量を変更することにより、変速の種類(アップダウンなど)や車速V、エンジン回転数NE などの変速条件に応じて接続速度(接続に要する所要時間)を適宜設定できる。なお、図中の106はリリーフ弁、108は逆止弁、110は作動油の油圧PO を検出する油圧センサである。
【0014】
図1に戻って前記変速機16は、差動歯車装置18と共に共通のハウジング40内に配設されてトランスアクスルを構成しており、そのハウジング40内に所定量だけ充填された潤滑油に浸漬され、差動歯車装置18と共に潤滑されるようになっている。変速機16は、(a) 平行な一対の入力軸42、出力軸44間にギヤ比が異なる複数の変速ギヤ対46a〜46eが配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対46a〜46eに対応して複数の噛合クラッチ48a〜48eが設けられた2軸噛合式の変速機構と、(b) それ等の噛合クラッチ48a〜48eの3つのクラッチハブスリーブ50a、50b、50cにそれぞれ係合させられ、クラッチハブスリーブ50a、50b、50cを移動させることにより何れかの変速段を成立させる3本のフォークシャフト52a、52b、52cと、(c) 図5に示すようにシフトレバー160の操作に従って機械的に軸方向であるセレクト方向へ移動させられることにより前記複数のフォークシャフト52a、52b、52cの任意の一つに選択的に係合させられるとともに、そのセレクト方向と略直角なシフト方向、実施例では軸心まわりに回動させられることによりフォークシャフト52a、52b、52cを軸方向へ移動させて所定の変速段を成立させるシフト・セレクトシャフト53とを備えており、前進5段の変速段が成立させられるようになっている。入力軸42および出力軸44には更に後進ギヤ対54が配設され、図示しないカウンタシャフトに配設された後進用アイドル歯車と噛み合わされることにより後進変速段が成立させられるようになっている。なお、入力軸42は、スプライン嵌合55によって前記自動クラッチ14のクラッチ出力軸24に連結されているとともに、出力軸44には出力歯車56が配設されて差動歯車装置18のリングギヤ58と噛み合わされている。図1は、入力軸42、出力軸44、およびリングギヤ58の軸心を共通の平面内に示した展開図である。
【0015】
上記噛合クラッチ48a〜48eは何れもシンクロメッシュタイプで、図4に噛合クラッチ48aについて具体的に例示するように、キースプリング60によってクラッチハブスリーブ50aに係合させられたシフティングキー62と、所定の遊びを有する状態でシフティングキー62と共に回転させられるれるシンクロナイザリング64と、変速ギヤ対46aの入力歯車66に設けられたコーン部68とを備えている。クラッチハブスリーブ50aの内周面にはスプライン歯70が設けられて入力軸42とスプライン嵌合され、入力軸42と常に一体的に回転させられるようになっており、そのクラッチハブスリーブ50aが図の右方向へ移動させられると、シフティングキー62を介してシンクロナイザリング64がコーン部68に押圧されてテーパ嵌合させられ、それ等の間の摩擦によって入力歯車66に動力伝達が行われるようになる。クラッチハブスリーブ50aが更に右方向へ移動させられると、スプライン歯70は、シンクロナイザリング64に設けられたスプライン歯72、更には入力歯車66に設けられたスプライン歯74と噛み合わされ、これにより入力軸42と入力歯車66とが一体的に連結されて、変速ギヤ対46aを介して動力伝達が行われる。図4の(a) 、(b) は噛合クラッチ48aが遮断された状態で、図4の(c) 、(d) は噛合クラッチ48aが連結された状態である。なお、図4の(a) 、(c) は、軸心を含む一平面の断面図で、(b) 、(d) は(a) 、(c) の状態を外周側から見たクラッチハブスリーブ50aの円筒部分を除く展開図である。
【0016】
他の噛合クラッチ48b〜48eも上記噛合クラッチ48aと実質的に同じ構成であるが、クラッチハブスリーブ50bは噛合クラッチ48bおよび48cに共通のもので、クラッチハブスリーブ50cは噛合クラッチ48dおよび48eに共通のものである。
【0017】
図5において、シフト・セレクトシャフト53はシフト・セレクト部材で、連動機構としての一対のセレクト用プッシュプルケーブル162、シフト用プッシュプルケーブル164を介してシフトレバー160に連結されている。シフトレバー160は運転席の横に配設されているとともに、図7に示すシフトパターン166を備えており、「1」〜「5」の前進位置および「R」の後進位置へ選択的に操作される。図7の左右方向である車両の横方向へシフトレバー160が操作されると、セレクト用プッシュプルケーブル162を介してシフト・セレクトシャフト53は軸方向、すなわち図5の左右方向へ直線移動させられる一方、図の上下方向である車両の前後方向へシフトレバー160が操作されると、シフト用プッシュプルケーブル164を介してシフト・セレクトシャフト53は軸心まわりに回転させられる。
【0018】
シフト・セレクトシャフト53には係合突起168が一体的に固設されており、シフトレバー160が「1」、「2」の中間位置へ操作されると、シフト・セレクトシャフト53は係合突起168がフォークシャフト52cの係合部材170と係合する第1セレクト位置へ移動させられ、その状態で「1」または「2」位置へ操作されてシフト・セレクトシャフト53が軸心まわりに回転させられると、フォークシャフト52cが軸方向へ移動させられて噛合クラッチ48eまたは48dが連結されることにより、変速比e(=入力軸42の回転数NIN/出力軸44の回転数NOUT )が最も大きい第1変速段または変速比eが2番目に大きい第2変速段が成立させられる。シフトレバー160が「3」、「4」の中間位置へ操作されると、シフト・セレクトシャフト53は係合突起168がフォークシャフト52bの係合部材172と係合する第2セレクト位置(図5の位置)へ移動させられ、その状態で「3」または「4」位置へ操作されてシフト・セレクトシャフト53が軸心まわりに回転させられると、フォークシャフト52bが軸方向へ移動させられて噛合クラッチ48cまたは48bが連結されることにより、変速比eが3番目に大きい第3変速段または変速比eが4番目に大きい第4変速段が成立させられる。この第4変速段の変速比eは略1である。また、シフトレバー160が「5」、「R」の中間位置へ操作されると、シフト・セレクトシャフト53は係合突起168がフォークシャフト52aの係合部材174と係合する第3セレクト位置へ移動させられ、その状態で「5」位置へ操作されてシフト・セレクトシャフト53が軸心まわりに回転させられると、フォークシャフト52aが軸方向へ移動させられて噛合クラッチ48aが連結されることにより、変速比eが最も小さい第5変速段が成立させられる。「R」位置へ操作されると、フォークシャフト52aが逆方向へ移動させられることにより後進変速段が成立させられる。なお、シフト・セレクトシャフト53には、付勢手段として一対の圧縮コイルスプリング176、178が配設され、軸方向へ付勢されることにより常には上記第2セレクト位置に保持されるようになっている。上記フォークシャフト52a〜52cはフォーク部材に相当する。
【0019】
上記シフト・セレクトシャフト53にはまた、センサ用係合部材180が固設され、ハウジング40に配設されたギヤ入りスイッチ182と係合させられている。ギヤ入りスイッチ182は、複数の変速段のうちの何れかが略成立したか否かを検出するリミットスイッチ等のON−OFFスイッチで、センサ用係合部材180は、シフト・セレクトシャフト53が何れのセレクト位置へ移動させられてもギヤ入りスイッチ182との係合が維持される軸方向寸法を有するとともに、図6に示すようにシフト・セレクトシャフト53の軸心まわりの所定角度範囲に亘って大径の突部184を備えている。そして、シフト・セレクトシャフト53が軸心まわりに回転させられて何れかの前進変速段または後進変速段が略成立させられると、ギヤ入りスイッチ182の接触部186との係合が解除されてON、OFFを切り換える。本実施例では、接触部186が突部184と係合するニュートラル状態でONになり、それ等の係合が解除されるギヤ入り状態でOFFになる。また、このON、OFFが切り換わる位置は、各変速段が完全に成立する少し前の位置で、図8を参照して具体的に説明すると、クラッチハブスリーブ50a等のスプライン歯70は変速時に(a) →(b) →(c) のように右方向へ移動させられて入力歯車66等のスプライン歯74と完全に噛み合うが、本実施例では(a) のようにスプライン歯70の前端がスプライン歯74の前端と係合可能な噛合い開始位置と、(b) のようにスプライン歯70の側面とスプライン歯74の側面とが係合し始める位置との間で、ギヤ入りスイッチ182のON、OFFが切り換わるようになっている。シフトレバー160については、図7に一点鎖線で示す位置でギヤ入りスイッチ182のON、OFFが切り換わる。
【0020】
図1に戻って、前記差動歯車装置18は傘歯車式のもので、一対のサイドギヤ80R、80Lにはそれぞれドライブシャフト82R、82Lがスプライン嵌合などによって連結され、左右の前輪(駆動輪)84R、84Lを回転駆動する。
【0021】
図9は、本実施例の車両用駆動装置10の制御系統を説明するブロック線図で、エンジン用ECU(Electronic Control Unit)114、自動クラッチ用ECU116、ABS(Antilock Brake System)用ECU118を備えているとともに、それ等の間で必要な情報をやり取りする。これ等のECU114、116、118は、何れもマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。エンジン用ECU114には、イグニッションスイッチ120、エンジン回転数(NE )センサ122、車速(V)センサ124、スロットル弁開度(θTH)センサ126、吸入空気量(Q)センサ128、吸入空気温(TA )センサ130、エンジン冷却水温(TW )センサ132などが接続され、それぞれイグニッションスイッチ120の操作位置、エンジン回転数NE 、車速V(出力軸44の回転数NOUT に対応)、スロットル弁開度θTH、吸入空気量Q、吸入空気温(外気温)TA 、エンジン冷却水温TW などを表す信号が供給されるようになっており、それ等の信号に従ってスタータ(電動モータ)134を回転駆動してエンジン12を始動したり、燃料噴射弁136の燃料噴射量や噴射時期を制御したり、イグナイタ138により点火プラグの点火時期を制御したりする。イグニッションスイッチ120は、「ON」および「スタート」位置を備えており、「スタート」位置へ操作されることによりエンジン用ECU114はスタータ134を作動させてエンジン12を始動する。
【0022】
自動クラッチ用ECU116には、前記ギヤ入りスイッチ182の他、シフトレバースイッチ142、ブレーキスイッチ144、入力回転数(NIN:入力軸42の回転数)センサ146、ギヤ(PG )センサ148、クラッチストローク(SCL)センサ150、前記油圧(PO )センサ110などが接続され、何れかの変速段が略成立しているか否かを表すON、OFF信号の他、シフトレバー160に対する操作の有無、ブレーキのON、OFF、入力回転数NIN、変速機16の変速段であるギヤ位置PG 、自動クラッチ14のストロークすなわちクラッチレリーズシリンダ34のストロークSCL、油圧PO などを表す信号が供給されるようになっている。シフトレバースイッチ142は、変速の際にON操作される自動復帰型のスイッチや、操作抵抗による歪を検出する歪ゲージなどで、前記ギヤ入りスイッチ182がOFFからONに切り換わる前にONになる。また、ギヤ位置センサ148は、シフトレバー160や変速機構に配設された複数のストロークスイッチ、或いは変速段毎に配設されたON−OFFスイッチなどで、ギヤ入りスイッチ182よりもニュートラル側で各変速段を検出する。そして、それ等の信号や、前記エンジン制御用ECU114、ABS用ECU118から必要な信号を取り込むことにより、前記油圧ポンプ94の作動を制御したり、クラッチソレノイドバルブ98により油圧回路を切り換えたりすることにより、変速機16の変速時等に自動クラッチ14の遮断、接続制御を行う。
【0023】
ABS用ECU118には、4本の車輪にそれぞれ配設された車輪速(NW )センサ152から車輪速NW を表す信号が供給され、それ等の車輪速NW を比較することによりスリップの有無を検出し、ブレーキ油圧制御弁154を制御して各車輪のブレーキ油圧を制御することによりスリップの発生を抑制する。
【0024】
次に、前記自動クラッチ用ECU116による変速時の自動クラッチ14の遮断、接続制御を、図10のフローチャートを参照しつつ具体的に説明する。
【0025】
図10のステップS1ではシフトレバースイッチ142がONか否か、すなわちシフトレバー160が操作されているか否かを判断し、ONの場合にはステップS2を実行する。ステップS2では、変速を実行可能か否かを判断し、例えばスロットル弁開度θTHが所定値以下で且つスロットル弁開度θTHの変化速度が0以下である場合など、予め定められた変速許容条件を満足する場合に実行可能とする。ステップS3では、ギヤ入りスイッチ182がOFFからONに切り換わったか否か、すなわちギヤ入り状態からニュートラル状態になったか否かを判断し、ニュートラル状態になるとステップS4以下を実行する。
【0026】
ステップS4では、シフト操作時間計測用のタイマTをリセットし、ステップS5では、前記クラッチソレノイドバルブ98を切り換えることによりクラッチレリーズシリンダ34に作動油を供給して自動クラッチ14を遮断するとともに、クラッチストロークセンサ150からの信号に基づいてクラッチ遮断直後の状態(スタンバイ状態)にクラッチレリーズシリンダ34を保持する。タイマTは、水晶発振子等のクロック信号源からのクロック信号を計数するものである。なお、クラッチレリーズシリンダ34に対する作動油の供給流量を切り換える切換弁や流量を制御する流量制御弁などを設け、ステップS2の判断がYESになった段階からクラッチレリーズシリンダ34に作動油を少流量で供給して遮断準備を行うようにしても良い。
【0027】
ステップS6では、ギヤ入りスイッチ182がONからOFFに切り換わったか否か、すなわちニュートラル状態からギヤ入り状態になったか否かを判断し、ギヤ入り状態になると、ステップS7を実行し、その時のタイマTの内容をシフト操作時間と判定する。ステップS8では、そのシフト操作時間や変速の種類、車速V、エンジン回転数NE などの変速条件に応じて自動クラッチ14を接続する際の変速時接続制御の判定処理を行う。本実施例では、前記クラッチソレノイドバルブ98によって流量制御が可能で、例えばシフト操作時間が短い場合は流出流量を多くして自動クラッチ14を速やかに接続し、シフト操作時間が長い場合は流出流量を少なくして自動クラッチ14を緩やかに接続するようにしておけば、運転者は意図的にシフトレバー160の操作を速くしたり遅くしたりすることにより変速時間(接続時間)を選択できる。また、シフト操作時間を順次記憶しておくことにより、運転者が所望する接続時間となるように学習制御を行うことも可能である。この他、エンジンブレーキ時のダウンシフトやパワーONのダウンシフトでは接続時間を短く、パワーOFFの変速時には接続時間を長くするなど、適宜設定できる。変速の種類は、ギヤ位置センサ148からの信号で判断できる。
【0028】
次のステップS9では、エンジン冷却水温TW が予め定められた所定温度TW * 以下か否かを判断し、TW >TW * であれば直ちにステップS11の自動クラッチ接続制御を実行するが、TW ≦TW * の場合にはステップS10で所定時間経過してからステップS11を実行する。上記所定温度TW * は、変速機16内の潤滑油の粘性が高くなって変速時のクラッチハブスリーブ50a〜50cの移動抵抗が大きくなり、変速完了までの時間が通常よりも長くなると予想される場合で、例えば−10℃〜−20℃程度の温度である。したがって、厳密には変速機16内の潤滑油の温度を測定することが望ましいが、車両走行時には変速機16や差動歯車装置18の歯車の噛合摩擦によって変速機16内の作動油の温度は上昇するため、低温で問題となるのはエンジン12の始動直後であり、その時はエンジン冷却水温TW と変速機16内の潤滑油の温度は略等しいため、エンジン制御などで用いられるエンジン冷却水温TW で代用することが可能である。ステップS10の遅延時間は予め一定時間が設定されても良いが、エンジン冷却水温TW 等に応じてデータマップ等により異なる時間が設定されるようにしても良い。ステップS11では、前記ステップS8の制御判定に従ってクラッチソレノイドバルブ98を切り換え、所定の流出流量で自動クラッチ14の接続制御を行う。
【0029】
このように、本実施例では変速機16の温度が低い時にはステップS10で自動クラッチ14の接続タイミングが遅くされるため、潤滑油の粘性の上昇に起因して変速機16の変速時間が長くなっても、変速が完全に終了する前に自動クラッチ14が接続されることが防止される。これにより、例えば噛合クラッチ48a〜48eのスプライン歯70と歯車側のスプライン歯74とが図8の(b) のように僅かに係合する状態で過大なトルクが伝達されることによって歯欠けなどを生じるといった問題が回避される。
【0030】
本実施例では、自動クラッチ用ECU116による一連の信号処理のうちステップS9およびS10を実行する部分が接続遅延手段に相当し、そのうちのステップS9は、エンジン冷却水温TW を検出するエンジン冷却水温センサ132と共に変速機温度判断手段として機能している。また、ステップS6を実行する部分は、ギヤ入りスイッチ182と共に変速終了判断手段として機能しており、ステップS8およびS11を実行する部分は、変速時クラッチ接続制御手段として機能している。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両にも適用され得るなど、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である自動クラッチ制御装置を備えている車両用駆動装置の概略構成を示す骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の自動クラッチの一例を説明する図である。
【図3】図2の自動クラッチを遮断、接続制御する油圧回路の回路図である。
【図4】図1の車両用駆動装置の変速機の噛合クラッチを説明する図である。
【図5】図1の車両用駆動装置の変速機のシフト・セレクトシャフトを説明する断面図である。
【図6】図5のシフト・セレクトシャフトの回転から変速が略終了したことを検出するギヤ入りスイッチを説明する図である。
【図7】シフトレバーのシフトパターンを示す図で、併せて図6のギヤ入りスイッチのON、OFF切り換わり位置との関係を説明する図である。
【図8】図6のギヤ入りスイッチのON、OFF切り換わり位置と噛合クラッチの噛合状態との関係を説明する図である。
【図9】図1の車両用駆動装置の制御系統を説明するブロック線図である。
【図10】図1の車両用駆動装置における変速時の自動クラッチの遮断、接続制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
10:車両用駆動装置
12:エンジン(走行用駆動源)
14:自動クラッチ
16:変速機
42:入力軸
44:出力軸
46a〜46e:変速ギヤ対
48a〜48e:噛合クラッチ
116:自動クラッチ用ECU
TW :エンジン冷却水温(変速機の温度)
ステップS9、S10:接続遅延手段
Claims (1)
- 平行な2軸間に変速比が異なる複数の変速ギヤ対が配設されるとともに、それ等の変速ギヤ対に対応して複数のシンクロメッシュタイプの噛合クラッチが設けられ、運転者のシフトレバー操作に連動して機械的に該噛合クラッチが連結されることにより所定の変速段を成立させる一方、潤滑油に浸漬されて潤滑される2軸噛合式の変速機が、走行用駆動源と車輪との間に配設されており、該変速機の変速時に、該変速機と該走行用駆動源との間に配設された自動クラッチを遮断するとともに、変速終了後に所定の接続タイミングで該自動クラッチが接続するように、前記噛合クラッチのスプライン歯が完全に噛み合う前に為される変速終了判断に従って、該自動クラッチを実際に接続するための接続制御を開始する自動クラッチ制御装置において、
前記変速機の温度を判断し、該温度が低い場合は、前記潤滑油の粘性上昇に拘らず、前記噛合クラッチのスプライン歯が完全に噛み合って該変速機の変速が完全に終了した後に前記自動クラッチが接続されるように前記接続タイミングを遅くする接続遅延手段を有する
ことを特徴とする自動クラッチ制御装置。
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