JP3563984B2 - 端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材 - Google Patents

端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は外面に防食被覆を必要とする鋼材である鋼矢板及び鋼管、鋼管杭、鋼管矢板の搬送、港湾・河川の桟橋や護岸などの鋼構造物の打設時、もしくは打設後の捨て石類、その他船舶を含む浮遊物等によって発生する衝撃に対して防食被覆の耐衝撃・耐久性に優れた外面重防食被覆鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼矢板及び鋼管杭、鋼管矢板において、ポリウレタン又はポリオレフィン樹脂を防食被覆材として使用した重防食被覆鋼材の耐衝撃性向上には、ガラス繊維強化の不飽和ポリエステル樹脂等を表層に保護被覆として積層する方法がある。
例えば鋼管杭では、特開平6−146271号公報に示されるように、鋼管杭にポリオレフィンまたはウレタン被覆を行った後、エンボス加工を行い、その上層にガラスクロス又はマットで強化したビニルエステルもしくはポリエステル樹脂を保護被覆として積層する方法が提案されている。
一方、鋼管矢板においても特開平6−122173号公報に示されるように、ポリウレタン被覆鋼管矢板の表面に、ガラスフレーク入りのビニルエステル、ポリエステルもしくはエポキシの保護被覆層を植毛材を介して被覆する方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
重防食被覆の表層に強度・硬度に優れる耐傷性被覆層を形成する方法は、防食被覆と種類の異なる樹脂を積層するため、その接着が問題となる。特にポリオレフィン被覆を防食被覆として用いると、高強度被覆の熱硬化樹脂とは全く接着しない。このため、特開平6−146271に示されるようなエンボス加工や、スパイラル上の隆起を形成して使用する。ところが、この様な接着強化の方法を用いても、従来の高強度被覆では端部が接着しておらす、衝撃を受けると剥離が発生しやすいという問題があった。
鋼矢板や鋼管矢板で用いるウレタン被覆上への高強度保護層の形成においても、端部近傍への衝撃や長期使用によって界面接着力が低下すると、塗装の全面に端部があるために保護被覆の剥離〜脱落という問題があった。
【0004】
これに対し、予め鋼材表面に突起となる部分を作製しておき、その後に熱硬化樹脂を塗装することで、突起により高強度保護被覆を固定する方法が考えられる。しかしながら、防食被覆を行う前の鋼材面に溶接等により突起を直接形成すると、防食被覆塗装により突起の形状が変化してしまうため、十分な効果を保持することが難しい。さらには、ガラス繊維を含む熱硬化樹脂を塗装する際に、大きな突起の近傍では塗膜に泡を巻き込みやすく、また塗膜の浮き発生や塗装時の脱泡処理が困難であるという問題があった。
本発明は、防食被覆形成後に上層に塗装する高強度被覆の端部を鋼材と機械的に直接固定、あるいはそれと同等の方法により、被覆性に優れるとともに保護被覆端部からの剥離を防止し、安定した耐衝撃性と優れた防食性を持つ高強度重防食被覆鋼材を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題を解決する手段として、ウレタン又はポリオレフィンの重防食被覆端部近傍の重防食被覆層上、あるいは端部外の被覆を施していない鋼材面の一部に、鋼材と直接固定した鋲によって突起を被覆層上に形成させ、その突起をガラス繊維を含んだ熱硬化樹脂で覆って保護被覆を機械的に固定して端部からの剥離を防止する。
突起を保護被覆であるガラス繊維を含有する熱硬化樹脂層に含有する方法としては、保護被覆用の積層前に、予め同種の樹脂を使用した繊維強化の熱硬化樹脂の硬化下物又は半硬化物を突起としてネジ等の機械的方法を用いて固定しておくと、塗装作業性に優れる。この後、被覆鋼材の表層にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂を積層する。以上の方法により、保護被覆の端部が鋼材と直接機械的に固定され、耐剥離性を有し、かつ脱泡作業が簡便で塗装性に優れる高強度重防食被覆鋼材が得られることを見いだし本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明の一例を図1の断面図に示す。下地処理を施した鋼材1の表面に、プライマー層2、ポリウレタン層又は接着剤層を含むポリオレフィン層3を積層する。ウレタン又はポリオレフィン被覆端部外の鋼材1の表面に鋼材と固定された突起部4を設け、防食被覆層3の表層と突起部4にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂による保護被覆層5を順次積層した端部固定の高強度被覆を有する重防食被覆鋼材である。
【0007】
また、作業性に優れた固定方法である本発明の一例を図2〜図4の断面図に示す。下地処理を施した鋼材1の表面に、プライマー層2、ポリウレタン層又は接着剤層を含むポリオレフィン層3を積層する。ウレタン又はポリオレフィン被覆端部外の鋼材1の表面に鋼材と固定されたボルト、鋲等の固定具6によって、保護被覆と同種の樹脂を使用した繊維強化熱硬化樹脂の硬化又は半硬化物7を固定する。防食被覆層3と固定した熱硬化樹脂7の表層にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂による保護被覆層5を順次積層した端部固定の高強度被覆を有する重防食被覆鋼材である。
【0008】
また、被覆上に突起を設ける場合の本発明の一例を図5の断面図に示す。下地処理を施した鋼材1の表面に、プライマー層2、ポリウレタン層又は接着剤層を含むポリオレフィン層3を積層する。ウレタン又はポリオレフィン被覆の一部に積層する保護被覆の端部の位置に鋲等の突起部4を設ける。突起部4は防食被覆を貫通させて鋼材1に機械的に固定したものである。以上の突起部4を含む防食被覆層3上にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂5を順次積層して製造した端部固定の高強度被覆を有する重防食被覆鋼材である。
【0009】
また、被覆上に突起を設ける場合の作業性に優れた固定方法である本発明の一例を図6の断面図に示す。下地処理を施した鋼材1の表面に、プライマー層2、ポリウレタン層又は接着剤層を含むポリオレフィン層3を積層する。ウレタン又はポリオレフィン被覆の一部に積層する保護被覆の端部の位置に繊維強化熱硬化樹脂の硬化又は半硬化物7を積層し、加工を施し予め固定する。固定にはボルト、鋲の等を用いた固定具6を用いる。固定具6は防食被覆を貫通させて鋼材1に機械的に固定したものである。以上の固定された保護被覆と同種の樹脂を使用した繊維強化熱硬化樹脂の硬化又は半硬化物7を含む防食被覆層3上にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂5を順次積層して製造した端部固定の高強度被覆を有する重防食被覆鋼材である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用する鋼材とは、海洋、河川の鋼構造物として使用される鋼材である。鋼材製品としては、鋼管、鋼管杭、鋼管矢板、あるいはその他形鋼として、鋼矢板、H形鋼、溝形鋼等である。また、鋼材種は何でもよく一般鋼及び合金鋼を使用する。鋼材の一部に施す防食被覆は、以下の処理を行い被覆する。
まず鋼材表面の下地処理を行う。大型構造物ではサンド、グリッド、ショット等を用いてブラスト処理を行ない表面付着物を除去する。ただし、表面の油分・スケール等を除去する機能があればブラスト処理以外の脱脂・酸洗等の他の方法を用いてもよい。更に下地処理として、被覆鋼材の使用環境が厳しい場合や耐陰極剥離性能が求められる場合、ブラスト後の表面にクロメート処理を施す。クロメート処理剤はローラー、刷毛等により、塗布後、十分に乾燥する。
【0011】
下地処理を施した鋼材の表面にはプライマー処理剤を塗布して硬化させる。プライマー処理剤は熱硬化性樹脂に無機顔料を添加したものを用いる。プライマー処理剤は液体、あるいは粉体で供給され、ロール塗装、スプレー塗装、静電粉体塗装等を用いて塗布し、常温、あるいは加熱により硬化させる。プライマー処理層の硬化後の膜厚は10〜150μmが望ましい。膜厚が10μm以下ではプライマーによる鋼材表面被覆率が低下する。150μm以上ではプライマーの応力増加により密着力が低下する。
下地処理、鋼材用のプライマー処理を行った鋼材表面に防食層としてポリウレタン樹脂を塗装、又は接着剤層付きのポリオレフィン樹脂層を被覆する。被覆厚みとしては、重防食層としての機能と経済性を考慮し、1〜6mmまでの間で被覆することが望ましい。
【0012】
次に、ウレタン又はポリオレフィン被覆上、又は被覆端部外に設ける熱硬化樹脂の機械固定部分について説明する。樹脂固定用には防食被覆後では鋼材表面から、熱による防食被覆の損傷の少ない方法であるネジ切りや、打ち込み等の方法を用いて鋲、ボルト等の固定具を固定する。被覆端部外に機械固定部を設ける場合には、樹脂固定用に鋼材の表面に、溶接、ネジ切り、打ち込み等の方法を用いてボルト、鋲、プレート等を固定する。固定具には金属を用いても、最終的に全面が樹脂で覆われるために激しい腐食は生じ難い。しかしながら、異種金属接触腐食が生じない様に母材との電位差が少なく、母材よりもやや貴な電位のものを利用すると良い。
【0013】
また固定具の表面を亜鉛、スズ等のめっきや塗装を行っておくと、腐食がより生じ難い。この固定具により、1〜10mm程度の厚みを有し、防食被覆面に沿った形状で1mm以上の厚みを持ち、保護被覆と同じ種類の樹脂を用いた繊維強化熱硬化樹脂の硬化物又はその半硬化物を予め積層して鋲、プレート又はボルトにより固定しておくと塗装時の作業性が向上する。この繊維強化熱硬化樹脂の硬化物又はその半硬化物は、別途に成型するかあるいは塗装等により防食層上で直接成型する。さらに、塗装前に固定具がポリエステル樹脂に埋没して表面に出ないようにすると、簡便な脱泡作業が可能となる。また、機械的固定部は被覆に対して対照の位置に設ける。
【0014】
最後に防食被覆層と固定用突起、あるいは既に固定した繊維強化熱硬化樹脂の表層に高強度保護被覆層を形成する。その被覆方法にはハンドレイアップ法、スプレーアップ法、コールドプレス法、フィラメントワインデイング法や型枠による注入成形等の方法を用いる。本発明で使用する繊維強化熱硬化樹脂に用いる繊維としては、熱硬化樹脂には一般的には不飽和ポリエステル樹脂を用いるが、他の樹脂を使用しても本発明の効果に影響を与えるものでは無い。不飽和ポリエステル硬化樹脂とは、分子内にエステル結合と二重結合を有するものであれば良く、オルソ系、イソ系、ビスフェノール系、ビニルエステル等の不飽和ポリエステル樹脂が使用出来る。これらの樹脂に過酸化物触媒を混合して硬化させる。
【0015】
熱硬化樹脂層に充填する繊維には、ガラス繊維が価格と樹脂補強効果、防食性能において優れることからこれを用いる。ガラス繊維としては、一般市販のロービング、チョップ、マット、クロス等で5mm以上の長さを持つものを10wt%以上添加する。また、意匠性と耐候性付与のため、少なくともその表層には、着色顔料を添加した樹脂層を形成する。繊維強化熱硬化樹脂層の厚みとしては、2〜10mmの皮膜を形成する。また、繊維強化熱硬化樹脂の保護被覆は端部の機械的固定部を対照に含むようにすればよく、必要な部分のみに固定部をもうけても良い。
【0016】
以上の突起を持つ鋼材上に図1、図5の断面図に示すように順次積層する。これにより端部に衝撃が加わった場合でも、被覆の脱落が生じないため耐衝撃性と防食性の長期維持が可能となる。あるいは、図2〜図4、図6に示すように、高強度被覆端部を固定する方法として、予め機械的に固定しておいた保護被覆と同種の樹脂を用いた繊維強化熱硬化樹脂と、高強度被覆として形成するガラス繊維を含む熱硬化樹脂とが接着により一体化して端部に機械的に繊維強化熱硬化樹脂を固定したのと同等の製品が得られる。また被覆方法とし、この方法を用いると、予め突起を設けておく方法に比較してより簡便な脱泡作業が可能である。
【0017】
【実施例】
<実施例1>(図7参照)
図7において、外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管8外面にグリッドブラスト処理を施し、スケール等を除去して表面に粗度を付与した後、被覆面積部分にクロメート処理剤を全クロム付着量で500mg/mとなるように塗布、乾燥して下地処理を行った。次に、ウレタン樹脂系のプライマーを30〜60μmの膜厚となるようにスプレー塗布し、この鋼材を加熱してプライマーを硬化させた。次いで、イソシアネートとポリオールからなる2液混合のポリウレタン樹脂塗料を3mm厚み狙いで塗装し、ポリウレタン防食被覆層を形成した。ポリウレタン被覆は1.5m長を部分的に残して切り取り、被覆を除去した。固定用の突起作製のため、1.5m長の防食被覆層の両端部近傍の鋼材表面に鋼製の鋲を数カ所溶接して突起部4を作製した。
【0018】
次に、スプレーアップ法により、熱硬化樹脂としてオルソ系不飽和ポリエステル樹脂に1%の着色顔料を添加した塗料と過酸化物触媒含有硬化剤をスプレー混合しながら、ガラスロービングをガン9の先端で25mm長に切断したものを同時に吹き付け、防食被覆3と突起部全体を覆うように塗装を行い、保護層5を形成した。このとき、突起部周辺は泡の巻き込みが多かったため、5〜10分程度の脱泡作業が必要であった。
以上の方法により、端部の耐剥離性を改善した本発明の実施例1の端部を固定した高強度保護被覆を持つポリウレタン被覆鋼材を作成した。
【0019】
<実施例2及び3>(図8参照)
図8において、外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管8外面にグリッドブラスト処理を施し、スケール等を除去して表面に粗度を付与した後、被覆面積部分にクロメート処理剤を全クロム付着量で500mg/mとなるように塗布、乾燥して下地処理を行った。次に、エポキシ樹脂系のプライマーを30〜60μmの膜厚となるようにスプレー塗布し、この鋼材を加熱してプライマーを硬化させた。次いで無水マレイン酸で変性したポリエチレン樹脂層を接着剤として約400μmになる様にポリエチレン防食樹脂層として2.7mmとなるように2層押し出し被覆をTダイスを用いて被覆した後に、冷却し、ポリエチレン防食被覆層3を形成した。ポリエチレン被覆は1.5m長を部分的に残して切り取り、被覆を除去した。固定具6の取り付けのため、1.5m長の防食被覆層3の両端部近傍の鋼材表面に鋼製のボルトを数カ所溶接した。このボルト部に鋼管表面の曲率に併せて事前に常温で硬化させた厚さ約3mmのガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂板7をナットで固定した。
【0020】
次に、スプレーアップ法により、熱硬化樹脂としてイソ系不飽和ポリエステル樹脂に1%の着色顔料を添加した塗料と過酸化物触媒含有硬化剤をスプレー混合しながら、ガラスロービングをガン9の先端で25mm長に切断したものを同時に吹き付け、防食被覆3と突起部全体を覆うように塗装を行い、保護層5を形成し、実施例2の端部を固定した高強度保護被覆を持つポリエチレン被覆鋼材を作成した。また、不飽和ポリエステル樹脂の塗装を半周のみ行うことで、実施例3の端部を固定した高強度保護被覆を持つポリエチレン被覆鋼材を作成した(図9参照)。このとき、端部固定用の固定具周辺は既にポリエステル樹脂で覆われているため、固定具周辺の脱泡作業でも、数回のローラーがけにより脱泡が可能であり、本仕様の方が実施例1よりも脱泡作業性に優れる。
【0021】
<比較例1>
外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管に実施例1と同様の方法によりポリウレタンを被覆した後、端部に突起用の鋲を溶接しないで、そのまま、ガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂を被覆し、比較例1の従来の高強度ポリウレタン重防食被覆鋼管を作製した。
【0022】
<比較例2及び3>
外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管に実施例2と同様の方法で、ポリエチレンを被覆を施した直後に表面に凹凸を付けた内面水冷金属ロールにより、表面にエンボス加工を施した後、水冷した。
次に、ガラス繊維を含むオルソ系不飽和ポリエステル樹脂をスプレーアップ法により、吹き付け塗装を行い保護層を形成した。以上の方法により、エンボス加工をポリエチレン表面に施すことで剪断接着性を改善した特開平6−146271号公報に相当する比較例2の高強度ポリエチレン被覆鋼管を作成した。
同様の方法でガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂の塗装を半周のみ行うことで、比較例3の高強度ポリエチレン被覆鋼材を作成した。
【0023】
以上の方法で作成した実施例1〜3及び比較例1〜3の被覆鋼管に、ASTMG14の衝撃試験に準じ、衝撃剥離の評価として15.9mm直径の半球状の先端を被覆面に接触させ、その上部から30kgの重りを1mの高さから落下させた。またその衝撃位置としては防食被覆の端部から15mm内側の部分の8箇所に衝撃を加えて、ポリエステル樹脂保護層の剥離状況を観察した。
また、高強度被覆端部を切り出し、JIS Z2371に準じ、5%食塩水溶液を用い、35℃の温度で塩水噴霧試験を6ヶ月間行い、外観を観察した。以上の結果をまとめて表1に示す。
【0024】
表1の結果から明らかなように、被覆端部外の鋼材表面に設けた突起をポリエステル樹脂保護被覆内に含有する本発明は、被覆の端部に衝撃を加えてもポリエステル保護被覆が剥離することがなく、優れた性能を有することがわかる。また、突起部がポリエステル樹脂で覆われているため、ある程度の腐食環境においても突起部が腐食することなく、その機能維持が可能である。
【0025】
【表1】
Figure 0003563984
【0026】
<実施例4>(図10参照)
図10において、外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管8外面にグリッドブラスト処理を施し、スケール等を除去して表面に粗度を付与した後、被覆面積部分にクロメート処理剤を全クロム付着量で500mg/mとなるように塗布乾燥して下地処理を行った。次に、ウレタン樹脂系のプライマーを30〜60μmの膜厚となるようにスプレー塗布し、この鋼材を加熱してプライマーを硬化させた。次いで、イソシアネートとポリオールからなる2液混合のポリウレタン樹脂塗料を3mm厚み狙いで塗装し、ポリウレタン防食被覆層を形成した。ポリウレタン被覆は2m長を部分的に残して切り取り、被覆を除去した。固定用の突起府部4作製のため、防食被覆層3の両端からそれぞれ30cmの位置に鋼材表面から溶融亜鉛めっきを施した鋼製の鋲を数カ所打ち込み、突起部4を作製した。
【0027】
次に、スプレーアップ法により、オルソ系不飽和ポリエステル樹脂に1%の着色顔料を添加した塗料と過酸化物触媒含有硬化剤をスプレー混合しながら、ガラスロービングを塗装ガン9の先端で25mm長に切断したものを同時に吹き付け、防食被覆3と突起部全体を覆うように塗装を行い、1.5m長の保護層5を形成した。このとき、突起部周辺は泡の巻き込みが多かったため、5〜10分程度の脱泡作業が必要であった。
以上の方法により、端部の耐剥離性を改善した本発明の実施例4の端部を固定した高強度保護被覆を防食被覆上の一部に持つポリウレタン被覆鋼材を作成した。
【0028】
<実施例5及び6>(図11参照)
図11において、外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管8外面にグリッドブラスト処理を施し、スケール等を除去して表面に粗度を付与した後、被覆面積部分にクロメート処理剤を全クロム付着量で500mg/mとなるように塗布乾燥して下地処理を行った。次に、エポキシ樹脂系のプライマーを30〜60μmの膜厚となるようにスプレー塗布し、この鋼材を加熱してプライマーを硬化させた。次いで無水マレイン酸で変性したポリエチレン樹脂層を接着剤として約400μmになる様にポリエチレン防食樹脂層として2.7mmとなるように2層押し出し被覆をTダイスを用いて被覆した後に、冷却し、ポリエチレン防食被覆層3を形成した。ポリエチレン被覆層3は2m長を部分的に残して切り取り、被覆を除去した。
【0029】
次に、スプレーアップ法により、防食被覆層3の両端部から25〜40cmの位置にイソ系不飽和ポリエステル樹脂塗料と過酸化物触媒含有硬化剤をスプレー混合しながら、ガラスロービングを塗装ガン9の先端で25mm長に切断したものを同時に吹き付け、厚さ3mmの層を形成し、硬化させた。
固定具6の取り付けのため、防食被覆層3の両端部から30cmの位置の被覆に穴開け加工を行い鋼製のボルトを数カ所埋め込んだ。このボルトを用いてガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂をナットで固定した。
【0030】
次に、スプレーアップ法により、イソ系不飽和ポリエステル樹脂に1%の着色顔料を添加した塗料と過酸化物触媒含有硬化剤をスプレー混合しながら、ガラスロービングをガンの先端で25mm長に切断したものを同時に吹き付け、防食被覆3の端部から25〜175cmの位置で突起部を含むように塗装を行い、保護層を形成し、実施例5の端部を固定した高強度保護被覆を防食被覆上の一部に持つポリエチレン被覆鋼材を作成した。また、不飽和ポリエステル樹脂5の塗装を半周のみ行うことで、実施例6の端部を固定した高強度保護被覆を持つポリエチレン被覆鋼材を作成した(図12参照)。但し、この場合には、予め固定する繊維強化不飽和ポリエステル樹脂は別途成型したものを用いて、半周のみを覆うようにした。このとき、端部固定用の固定具6周辺は既にポリエステル樹脂7で覆われているため、固定具周辺の脱泡作業でも、数回のローラーがけにより脱泡が可能であり、本仕様の方が実施例4よりも脱泡作業性に優れる。
【0031】
<比較例4>
外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管に実施例4と同様の方法によりポリウレタンを被覆した後、突起用の鋲を打ち込まないで、そのままガラス繊維を含むオルソ系不飽和ポリエステル樹脂を被覆し、比較例4の従来の高強度ポリウレタン重防食被覆鋼管を作製した。
【0032】
<比較例5及び6>
外径200A×長さ5500mm×肉厚5.8mmの鋼管に実施例5と同様の方法で、ポリエチレンを被覆を施した直後に表面に凹凸を付けた内面水冷金属ロールにより、表面にエンボス加工を施した後、水冷した。
次に、ガラス繊維を含むイソ系不飽和ポリエステル樹脂をスプレーアップ法により、吹き付け塗装を行い1.5m長の保護層を形成した。以上の方法により、エンボス加工をポリエチレン表面に施すことで剪断接着性を改善した特開平6−146271号公報に相当する比較例2の高強度ポリエチレン被覆鋼管を作成した。同様の方法でガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂の塗装を半周のみ行うことで、比較例6の高強度ポリエチレン被覆鋼材を作成した。
【0033】
以上の方法で作成した実施例4〜6及び比較例4〜6の被覆鋼管に、ASTMG14の衝撃試験に準じ、衝撃剥離の評価として15.9mm直径の半球状の先端を被覆面に接触させ、その上部から30kgの重りを1mの高さから落下させた。またその衝撃位置としては防食被覆の端部から27cmの部分の8箇所に衝撃を加えて、ポリエステル樹脂保護層の剥離状況を観察した。
また、高強度被覆端部を切り出し、JIS Z2371に準じ、5%食塩水溶液を用い、35℃の温度で塩水噴霧試験を6ヶ月間行い、外観を観察した。以上の結果をまとめて表2に示す。
表2の結果から明らかなように、被覆端部外の鋼材表面に設けた突起をポリエステル樹脂保護被覆内に含有する本発明は、被覆の端部に衝撃を加えてもポリエステル保護被覆が剥離することがなく、優れた性能を有することがわかる。また、突起部がポリエステル樹脂で覆われているため、ある程度の腐食環境においても突起部が腐食することなく、その機能維持が可能である。
【0034】
【表2】
Figure 0003563984
【0035】
【発明の効果】
本発明により端部に機械的固定部を設けた高強度重防食被覆鋼材は、機械的固定部により端部からの耐剥離性が向上する。また、防食被覆外の鋼材面に固定部を設けると、突起自体の形状の自由度も高く作業性が向上する。さらには、予め保護被覆と同種の樹脂を使用した繊維強化熱硬化樹脂を固定しておく方法を用いると、脱泡作業をほとんど必要としないため、ガラス繊維強化熱硬化樹脂の積層が容易である。以上の方法により端部を機械的に固定することによって、端部の安定した耐衝撃性と、長期の接水環境での高強度保護層の端部剥離を抑制することが出来る。この結果、鋼矢板、あるいは鋼管矢板のように被覆端部を有する被覆鋼材にも高強度保護被覆の適用が可能となる。本発明は、防食層による防食性と保護層による耐衝撃性を有し、保護層の形成が容易でその剥離が無いことから、運搬、施工時や船舶等の衝突、捨て石による防食被覆の損傷を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の突起により端部の機械的固定を行った高強度重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図2】本発明の作業性に優れる端部の機械的固定を行った高強度重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図3】本発明の作業性に優れる端部の機械的固定を行った高強度重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図4】本発明の作業性に優れる端部の機械的固定を行った高強度重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図5】本発明の突起により端部の機械的固定を行った高強度保護層を部分的に持つ重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図6】本発明の作業性に優れる端部の機械的固定を行った高強度保護層を部分的に持つ重防食被覆鋼材の断面図の一例。
【図7】本発明の実施例1の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図。
【図8】本発明の実施例2の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図。
【図9】本発明の実施例3の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図。
【図10】本発明の実施例4の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図。
【図11】本発明の実施例5の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図。
【図12】本発明の実施例6の被覆鋼管のポリエステル被覆保護層の形成状況を示す図である。
【符号の説明】
1 下地処理を施した鋼材
2 プライマー層
3 ポリウレタン又は接着剤層付きポリオレフィン防食被覆層
4 突起部
5 ガラス繊維を含有する不飽和ポリエステル樹脂保護層
6 固定具
7 繊維強化不飽和ポリエステル樹脂の硬化物又は、半硬化物。
8 鋼管
9 塗装ガン

Claims (4)

  1. 鋼材表面に下地処理、プライマー層、ポリオレフィン又はポリウレタン層を順次積層した防食被覆層と、防食被覆層端部外の被覆を施していない鋼材面の一部に固定用の突起を設けた被覆鋼材の表層に、ガラス繊維を含有した熱硬化樹脂を積層したことを特徴とする端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材。
  2. 鋼材表面に下地処理、プライマー層、ポリオレフィン又はポリウレタン層を順次積層した防食被覆層と、防食被覆層端部外の被覆を施していない鋼材面の一部に予めその表層に被覆する保護層と同じ種類の樹脂を用いた繊維強化熱硬化樹脂層を機械的に固定し、その表層にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂を積層したことを特徴とする端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材。
  3. 鋼材表面に下地処理、プライマー層、ポリオレフィン又はポリウレタン層を順次積層した防食被覆層上の保護被覆を積層する端部の位置に、鋼材に直接固定した鋲によって突起を形成し、ガラス繊維を含有した熱硬化樹脂を保護被覆として、防食被覆の一部に突起部を覆って積層することによって、保護被覆端部の機械的固定を行ったことを特徴とする端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材。
  4. 鋼材表面に下地処理、プライマー層、ポリオレフィン又はポリウレタン層を順次積層した防食被覆層上の保護被覆を積層する端部の位置に、鋼材に直接固定した固定具により前記保護被覆層と同じ種類の樹脂を用いた繊維強化熱硬化樹脂層を予め機械的に固定し、その表層にガラス繊維を含有した熱硬化樹脂を積層することによって、保護被覆端部の機械的固定を行ったことを特徴とする端部固定高強度被覆を有する重防食被覆鋼材。
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