JP3556942B2 - エッチング後の形状が良好なシャドウマスク用条材 - Google Patents
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本発明は、シャドウマスクに用いられ、エッチング後の形状が良好なFe-Ni 合金条に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シャドウマスクに用いられる条は、通常、圧延によって製造される。シャドウマスク用条は、脱脂後、フォトレジストを両面に塗付し、そしてパターンを焼き付けて現像後、塩化第二鉄溶液を両面からスプレーすることにより穿孔された後、個々のシヤドウマスクに切断されて作製される(「まてりあ」第36巻第11号(1977)1070〜1074頁)。個々に切断されたシャドウマスクは、エッチング工程あるいはブラウン管製造工程において自動搬送ラインによって運搬されることから、エッチング後のシャドウマスクには搬送時のひっかかり等の搬送不良を回避するために平坦性が要求される。
【0003】
圧延方向に平行および直角な断面における板厚方向の残留応力分布の模式図を図1に、実際測定例のグラフ図を図2に示す。図1に示すように圧延加工後のシャドウマスク用条1には、圧延方向(RD)に平行な断面および直交する断面において、厚さ方向表層部には圧縮、中央部には引張残留応力が残存している。シャドウマスクは、図4に示すように、その片側面に例えば直径130μmの真円状開口部(以下「小孔」2と称す)を有し、もう一方の相対する位置には例えば220μmの真円状開口部(以下「大孔」3と称す)を有する。図4には残留応力の影響にて反りが発生するメカニズムを示す模式図を示す。このように表面ともう一方の面とで開口径の異なる非対称な孔を穿孔した場合、エッチングによって大孔(3)側のほうが多く減肉されるために残留応力のバランス関係が崩れ、反りが発生する。
【0004】
エッチング後の応力バランスは、小孔(2)側表層の圧縮応力と板厚中央部の引張応力とで支配されることから、小孔(2)側の面が凸になるように反る。従来、民生用のシャドウマスクにおいては孔の非対称性が小さいことから、残留応力の影響で発生する反りは小さかったが、高精細シャドウマスク材ではこの非対称性が大きいために残留応力の影響による大きな反りが発生する問題が生じた。
【0005】
一般には、再結晶温度以下の温度で歪取焼鈍を行い、この残留応力を除去することにより、エッチング後の反り発生を抑制することができる。しかし、歪取焼鈍を行うことにより、製造コストが高くなる。また、歪取焼鈍の際に、引張強さ(TSと表記する)はあまり低下しないものの、0.2%耐力(0.2%YSと表記する)がかなり低下する。0.2%YSが低くなると、その後のエッチング工程において折れが発生しやすくなるなどの問題が生じる。
【0006】
本発明は、Fe-Ni 系合金において、形状矯正工程により残留応力及び圧延後の形状を調整することにより、歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後に生じる反りが小さい圧延条を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、最終圧延後の形状矯正工程において、残留応力および形状をそれぞれ下記の(1)および(2)の状態に調整することにより、歪取焼鈍を行うことなく、Fe-Ni 系合金圧延条におけるエッチング反りを抑制できることを発見した。そして、歪取焼鈍を省略した効果として、製造コストを低減することができ、また、TS/0.2%YS≦1.03と、TSと同レベルの0.2%YSを得ることも可能となった。
(1)圧延方向に平行の断面および直交する断面における板厚方向の残留応力分布において、板厚中央部に発生する最大引張残留応力を50N/mm2以下に調整する。
(2)図3に示す圧延条1において、圧延幅方向中央部から圧延方向に一致する長辺500mm、圧延直交方向に短辺50mmを有する短冊形状の板(以下「短冊片1」と称す)および圧延直交方向に一致する長辺500mm、圧延方向に短辺50mmを有する短冊片(以下「短冊片2」と称す)を採取する。短冊片1、2を図3の右半分に示すようにそれぞれ長辺方向に垂下したときに生じる反り(以下、前者圧延方向に平行な方向に発生する反りを「カール反り」、後者圧延直交な方向に発生する反りを「トヨ反り」と称す)が10mm以下になるように調整する。
【0008】
Ni 含有量が 34 〜 38 質量%の Fe-Ni 系合金はシャドウマスク用条材として汎用されており、Fe-Ni系合金は熱膨張係数が低いことから、高精彩シャドウマスクとして好適である。これらの素材の主要元素以外の元素は、熱膨張係数、エッチング性、加工性などに悪影響を与えるので、Fe-Ni 系合金についてはC:0.10質量%以下、Si:0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、Al:0.05質量%以下、Mn:0.5質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることが好ましい。
一方、Fe-Ni系合金を高強度化するために、2〜8質量%のCoをNiと置き換える形で添加したFe-Ni系合金も、シャドウマスク用材として使用されている。すなわちNiを30〜35質量%の範囲まで低減して2〜8質量%のCoを添加する。この範囲でのCo添加は熱膨張係数を上昇させず、むしろ低下させる効果を示す。さらに高強度化するためにはCoに加え、Nb、Ta、Hf、Ti、Zrのうち1種以上を0.05〜0.8質量%添加することが有効である。ただし、Nb、Ta、Hf、Ti、Zrの合計添加量が0.8質量%を超えると、熱膨張係数の増加が著しくなるため、合計添加量は0.8質量%以下に制限される。なお、これら添加元素を加える場合についても、C:0.10質量%以下、Si:0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、Al:0.05質量%以下、Mn:0.5質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることが好ましい。
【0009】
ここで、圧延方向に平行の断面における板厚方向の残留応力分布とは、圧延方向を主方位とする応力の大きさの板厚方向の分布を示し、直交する断面における板厚方向の残留応力分布とは、圧延直交方向を主方位とする応力の大きさの板厚方向の分布を示す(図1)。本発明に係るシャドウマスク用条材の残留応力分布は、両方向とも板厚中央部に引張応力が存在する。このような残留応力分布自体は図1を参照して説明したように歪取り焼鈍を行わない圧延で従来から発生していたものである。但し、板厚中央部の最大引張残留応力値が50N/mm2を超えると図4を参照して説明したようにエッチング後に発生する反りが大きくなるので、50N/mm2以下に規制する。
【0010】
図5に、エッチング後切り離されたシャドウマスクに発生する反りの方向を示す模式図を示す。このようにエッチング後のシャドウマスクに発生する反りは、カール方向に反る場合とトヨ方向に反る場合とがある。何れの方向に反るかは、圧延方向に対して平行な断面の残留応力とそれに直交する断面の残留応力との大小関係によってほぼ決まる。
【0011】
ところで、ブライトロールで圧延された条では、圧延方向に直交する断面にはほとんど残留応力が発生しないことが知られているが、シャドウマスク用条の場合は、以下説明する特殊なロールによって仕上げ圧延されるために圧延方向に直交する断面にも大きな残留応力が発生する。すなわち、シャドウマスク用条は、圧延面にエッチング後、重ねられて熱処理されるが、そのときの熱処理による密着を防ぐことを目的として、シャドウマスク用材の表面には、ダル目と称される凹凸模様が圧延ロールから転写される。このダル目模様は、例えばショット加工などにより表面に適当な凹凸加工を施された圧延ロールによって圧延することで得られる。このような表面凹凸が大きなロールで圧延すると、ブライトロールに比較して材料表面との摩擦力が非常に高いことから圧延方向に直交する断面にも大きな残留応力が発生する。圧延後の条では、圧延方向に平行な断面のほうが直角な断面のよりも残留応力が大きいが、平行断面の残留応力はレベラーによる形状矯正によって減少するために直角断面と同等もしくは低くなる場合がある。
よって、圧延方向に平行な断面と、圧延方向に直角は断面の残留応力の大小により、シャドウマスクの反りが圧延方向に平行方向に反るか、直角方向に反るか決まる。
エッチング後でも反りが小さいためには、板厚中央部の最大引張応力値が50N/mm2以下である必要があるが、レベラーでの矯正条件は、残留応力の状態により異なる。即ち、前述したように表面の凹凸が大きな圧延ロールで圧延した場合は表面の摩擦が大きく、残留応力が大きくなるが、そのレベルはロールの表面粗さだけではなく、圧延速度、圧延油の粘性等、圧延条件の複合的要因により支配され、詳細に解析するのは困難である。
残留応力の小さいシャドウマスク材を得るには、圧延後のシャドウマスク用素材を矯正条件を変えて、試験的に矯正加工し、残留応力の少ない素材が得られる条件を絞り出すことにより行う。
【0012】
エッチング後のシャドウマスクの平坦性は、水平に設置された平坦な定盤上にシャドウマスクを凹面が上になるように置いたときの反り量(盤面からの浮き上がり量)で示され、またこの反りが2mm以下であることを要求される。しかしながらこの方法で反りを測定する場合、その絶対値が小さいために、正確に反りを測定することができないという問題があった。そこで、図6に示すような垂直に固定された平坦な板4に、シャドウマスクの片方の端をクランプなどで固定し、もう一方の端の盤面からの距離を測定する方法(垂下法)を考えた。上述した定盤上に置く方法での反りが2mmなるシャドウマスクは、垂下法での反りが20mmとなることから、垂下法では測定精度が約10倍向上することが期待できる。
【0013】
短冊片にてエッチング前の素材の反りを測定するのは、例えばカール反り10mm、トヨ反り10mmなる正方形の板の反りを測定しようとした場合、2方向成分のそりが互いに打ち消し合う作用がはたらき、見掛け上反りが発生しなくなるためである。そこで、短冊形状に切り出すことで相互作用を抑え、両者の反りを精度良く測定することができるようになる。
【0014】
短冊片によるカール反りおよびトヨ反りをそれぞれ10mm以下としたのは、板厚中央部の最大引張残留応力値を50N/mm2以下に調整しても、エッチング前に元々存在する素材の反りと50N/mm2以下の残留応力により発生する反りとの相乗効果によって、エッチング後のシャドウマスクの反りが大きくなるためである。
【0015】
本発明により平行方向、直角方向ともに残留応力が50N/mm2以下、かつ短冊片による垂下反りが10mm以下になるように形状矯正を行ったシャドウマスク用条は、歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後のシャドウマスクの形状が良好である。
【0016】
【実施例】
以下に本発明による実施例を示す。
参考例としてのAlキルド鋼および本発明例としてのFe-Ni系合金を溶製し、次にインゴットを熱間鍛造、熱間圧延した。ついで熱間圧延板表面の酸化スケール除去後に冷間圧延と焼鈍とを繰り返した後、最終冷間圧延を施し0.12mm厚さの素材を製造した。得られた0.12mm厚さの素材を種々のIM(インターメッシュ:矯正ロールのかみ込み量)および張力に調整したマルチレベラーを有するテンションレべリング方式の矯正機にて形状矯正した。この矯正機の構造は図7の通りである。出側のIMは上下ワークロールの間隙が材料の板厚と等しくなるように、すなわちマイナス側に設定し、入側のIMは下側ワークロール列に対する上側ワークロール列の傾き角度を変えることにより変化させプラス側に設定した。なお、IMの値(図8の横軸)に対して、張力(図8の縦軸)は入側のブライドルロールの周速で制御した。矯正機を通板した後の素材について、引張試験、残留応力測定および垂下反り測定を行った。
引張試験では、JIS13B号試験片を圧延方向と平行方向に2mm/minの速度で行った。
残留応力測定では、幅20mm×長さ200mmの短冊形試料を、塩化第二鉄水溶液を用いて、片面側からエッチングして試料の反りの曲率半径を求め、残留応力を算出した。この測定を表裏両面よりエッチング量を変化させて行い、厚み方向の残留応力分布を求めた(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社(1998)、p.46.)。圧延方向と平行な断面の残留応力を求める場合には短冊形試料の長さ方向が圧延方向と一致するように試料を採取し、圧延方向と直角な断面の残留応力を求める場合には、短冊形試料の長さ方向が圧延方向と直交するように試料を採取した。また、平行、直角の場合とも、素材の幅方向の中央部から試料を採取した。
垂下反りの測定方法は図3に示した。
ここで得られた素材のうち、供試材No.3〜9がFe-Ni系合金の実施例であり、供試材 No.1 、 2 が Al キルド鋼に関する実施例は参考例である。
【0017】
次にこれら素材の両面にフォトレジストを塗付し、そしてパターンを焼き付けて現像後、塩化第二鉄溶液を両面からスプレーすることにより穿孔し、シャドウマスクを作製した。得られたシャドウマスクの形状を図6に示す垂下法にて測定し、反りが20mm以下の場合良好と評価した。結果を表1に示す。
【0018】
比較例1は素材の反りは圧延平行方向および直角方向ともに10mm以下であるが、圧延平行方向の残留応力が50N/mm2を超えるためにシャドウマスクの平行方向の反りが大きくなっている。
【0019】
比較例2は素材の反りが圧延平行方向および直角方向ともに10mmを超え、かつ圧延直角方向の残留応力が50N/mm2を超えるためにシャドウマスクの直角方向の反りが大きくなっている。
【0020】
比較例3は残留応力が圧延平行方向および直角方向ともに50N/mm2以下であるが、素材の反りが10mmを超えているためにシャドウマスクの反りが大きくなっている。
【0021】
比較例4および5は、歪取焼鈍を行っているため、残留応力が50N/mm2以下である。このためにエッチング後のシャドウマスクの反りが小さいものの、歪取焼鈍の際0.2%YSが低下した結果としてTS/0.2%YS>1.03となっている。
【0022】
本発明例は、比較例と比べて歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後のシャドウマスクの反りが小さく、かつTSに近いレベルの0.2%YSを有している。
なお、適正な張力とIMの条件は、装置の剛性、潤滑状態、素材の厚み、形状、機械的特性、表面粗さ、素材の残留応力等の多くの因子に依存するため、一義的に規定することはできないが、 Fe−36質量%Ni合金での実施例および比較例の通板条件示すと図8のようになる。IMが1.2〜1.9mm、張力が50〜65MPaの範囲で、10mm以下の反り、かつ50N/mm2以下の残留応力の素材が得られることがわかる。
【0023】
【表1】
【0024】
【発明の効果】
本発明により作製したシャドウマスク用条は、比較例と比べて歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後のシャドウマスクの反りが小さい。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧延方向に平行および直角な断面における板厚方向の残留応力分布を示す模式図 である。
【図2】板厚方向の残留応力分布の実際測定例を示すグラフである。
【図3】短冊片の採取方法を説明する図である。
【図4】残留応力の影響にて反りが発生するメカニズムを示す模式図である。
【図5】エッチング後切り離されたシャドウマスクに発生する反りの方向を示す模式図である。
【図6】垂下法による反り測定方法の模式図である。
【図7】形状矯正機の模式図である。
【図8】実施例におけるFe−36質量%Ni合金の形状矯正条件である。
【符号の説明】
1圧延条
Claims (5)
- Niを34〜38%質量%含有し、かつTS/0.2%YS比が圧延方向に平行な方向で1.03以下であるFe-Ni系合金圧延条であって、圧延方向に平行の断面および直交する断面における板厚方向の残留応力が板厚中央部に50N/mm2以下の最大引張応力が存在するように分布し、かつ圧延幅方向中央部から採取した圧延方向に一致する長辺500mm、圧延直交方向に短辺50mmを有する短冊試験片および圧延直交方向に一致する長辺500mm、圧延方向に短辺50mmを有する短冊試験片をそれぞれ長辺方向に垂下したときに生じる反りが10mm以下であることを特徴とするシャドウマスク用Fe-Ni系合金。
- Niを30〜35質量%、Coを2〜8質量%含有し、かつTS/0.2%YS比が圧延方向に平行な方向で1.03以下であるFe-Ni系合金圧延条であって、圧延方向に平行の断面および直交する断面における板厚方向の残留応力が板厚中央部に50N/mm2以下の最大引張応力が存在するように分布し、かつ圧延幅方向中央部から採取した圧延方向に一致する長辺500mm、圧延直交方向に短辺50mmを有する短冊試験片および圧延直交方向に一致する長辺500mm、圧延方向に短辺50mmを有する短冊試験片をそれぞれ長辺方向に垂下したときに生じる反りが10mm以下であることを特徴とするシャドウマスク用Fe-Ni系合金。
- Niを30〜35質量%、Coを2〜8質量%、Nb,Ta,Hf,Ti,Zrのうち1種以上を0.05〜0.8質量%含有し、かつTS/0.2%YS比が圧延方向に平行な方向で1.03以下であるFe-Ni系合金圧延条であって、圧延方向に平行の断面および直交する断面における板厚方向の残留応力が板厚中央部に50N/mm2以下の最大引張応力が存在するように分布し、かつ圧延幅方向中央部から採取した圧延方向に一致する長辺500mm、圧延直交方向に短辺50mmを有する短冊試験片および圧延直交方向に一致する長辺500mm、圧延方向に短辺50mmを有する短冊試験片をそれぞれ長辺方向に垂下したときに生じる反りが10mm以下であることを特徴とするシャドウマスク用Fe-Ni系合金。
- C:0.10質量%以下、Si:0.1質量%以下、Al:0.05質量%以下、Mn:0.5質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載のシャドウマスク用Fe-Ni系合金。
- Si:0.05質量%以下であることを特徴とする請求項4記載のシャドウマスク用Fe-Ni系合金。
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