JP3553418B2 - 振動型ジャイロスコープ、振動型ジャイロスコープの形成方法および調整方法 - Google Patents

振動型ジャイロスコープ、振動型ジャイロスコープの形成方法および調整方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、振動している物体に角速度が加わることで生じるコリオリ力を検出することで、角速度の大きさを検出する振動型ジャイロスコープに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の高度化に伴い、人間や自動車などの動きを電気信号に変えて、その動きに対する補正を行うため種々の方式が実用化されている。
【0003】
振動型ジャイロスコープも、そのような方式の一つを用いた動き検出のためのセンサであり、ロボットや自動車等の回転角の検出やカメラの手ぶれ補正などに利用されている。
【0004】
x方向に励振されている振動子にz軸のまわりの角速度Ωが加わると角速度Ωに比例したコリオリ力がy軸方向に生ずる。その結果、振動子はy軸方向の振動成分を持つようになる。このy軸方向の振動成分を検出することで角速度Ωを検出することができる。
【0005】
理想的な振動型ジャイロスコープではx方向に励振された振動子の振動成分はx方向のみである。このようなジャイロスコープでは、駆動方向の共振周波数fxと離調度Δfとを駆動周波数fdに対して最適なものとすると検出出力と感度とが最大となる。ここで、離調度Δfは、駆動方向の共振周波数fxと駆動方向に対し直角をなす検出方向の共振周波数fyとの差である。
【0006】
しかしながら、振動子の製作精度の誤差および振動子内部・外部の諸結合等のために、実際の離調度Δfは、設計時の理想的な離調度Δf0に対して誤差を含む。また、駆動方向の励振に起因して、角速度Ωが0である時には0であるべき検出方向への漏れ振動も現れる。
【0007】
これらの要因は、検出出力や感度の低下の原因となる。検出出力を大きくしたり感度を上げるために、離調度Δfの調整や上記の漏れ振動を小さくするためのトリミングが行われる。
【0008】
角速度を検出するジャイロに用いる振動子は、音叉型のものが使いやすい。振動脚が一本である片持ち梁型の振動子は、支持方法によって共振周波数等が変わったり、外部の振動の影響を受けやすいなどの問題があり、ジャイロとしては使いにくい。
【0009】
このような音叉型の振動ジャイロの離調度Δfを調整する方法が、「LiTaO単結晶を用いた音さ型圧電ジャイロ」電気情報通信学会論文誌(C−II Vo.J79−C−II No.11 pp.610−617 1996年11月)や特開平9−89571号公報に提案されている。
【0010】
図13は、音叉型振動ジャイロスコープで振動子基部の長さdを変えたときの共振周波数fx、fyの変化を示した図である。
【0011】
図13を参照して、振動子基部の長さdを大きくすると、共振周波数fxはほとんど変わらず、共振周波数fyのみが減少する。このように、振動子基部の長さdを変え、共振周波数fyを変化させることで離調度Δfを調節できる。
【0012】
図14は、特開平9−89571号公報に開示された三脚音叉型振動ジャイロスコープの正面図および側面図である。図14(A)は正面図である。図14(B)は側面図である。
【0013】
図14を参照して、弾性体10の上部には振動脚11a、11b、12が形成されている。各振動脚11a、11bおよび12の断面形状は互いに等しくそれぞれほぼ正方形に近い矩形状である。左右両側の振動脚11a、11bのそれぞれの表面には駆動用電極が設けられる。駆動電極には交流駆動電力が与えられ弾性脚11a、11bはX方向に同じ位相で振動する。また、振動脚12は、振動脚11a、11bと逆の位相でX方向へ振動する。
【0014】
次に、図14に示した振動型ジャイロスコープの調整方法を説明する。振動脚11aのX方向の共振周波数が高すぎる場合は、振動脚11aの基部において肩部(ロ)を除去する作業を行なう。また、除去する部分としては、振動脚11aと振動脚12との間の溝10aの底部の(ハ)で示す部分を除去してもよいし、または振動脚11aの根元付近の(ニ)で示す部分を一部除去してもよい。このようにして離調度Δfを調整する方法が提案されている。
【0015】
一方、「LiTaO音さ型圧電ジャイロの漏れ出力の検討」(電気情報通信学会技報 US95−42)には、駆動方法の励振に起因した検出方向への漏れ振動を小さくするための方法が提案されている。
【0016】
図15は、漏れ振動を小さくするための従来の方法を説明するための図であり、2本の振動脚を持つ音叉型振動ジャイロスコープの振動脚の根元部の断面を示す図である。
【0017】
図15を参照して、駆動方向の励振に起因した検出方向への漏れ振動があるときには、音叉の振動脚は振動方向(x方向)と検出方向(y方向)のいずれからも傾いたα1方向またはα2方向に振動する。
【0018】
この傾いた振動を矯正するためには、振動脚の根元部におけるコーナ部分に切り溝を入れることが有効であることが上記文献に報告されている。図15に示した振動脚根元部の断面において、α1方向への傾きを減らすときには、A1、A2部を削り、α2方向への傾きを減らすときにはB1、B2部を削ればよい。
【0019】
このように漏れ振動を減らすことによって、静止状態における検出方向のヌル電圧が減少し、ジャイロスコープが回転運動を検出する感度が上がる。また、特開平9−89517号公報にも三脚音叉型振動ジャイロスコープの漏れ振動の軽減に関する同様の記載がある。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来例では、共振周波数の調整と漏れ振動の軽減とはそれぞれ別々の調整法で行なわれてきた。これらの調整を別々に行なうと、調整に手間やコストがかかる。さらに、離調度の調整と漏れ振動の調整との干渉効果も考える必要があり、最適なトリミング条件を得るために高度な技術が要求される。
【0021】
本発明は、このような振動型ジャイロスコープの駆動方向の共振周波数と検出方向の共振周波数の離調度Δfの調整と、駆動方向の励振に起因した検出方向への漏れ振動を小さくするための調整とを同時に行なうことで、手間を少なくし、容易に最適なトリミングを行なえる調整方法およびこの調整方法により調整されコストが軽減される振動型ジャイロスコープを提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の振動型ジャイロスコープは、音叉型の振動子を備え、振動子は、基部と、基部から上方に立上がって延び、所定の振動方向に振動する振動脚部とを含み、駆動方向に対して交差する振動脚部の面は、基部と振動脚部との境界をなす振動の基端面の一部を構成する底辺と、底辺の両端から上方に立上がる互いに長さが異なる第1および第2の側辺と、第1および第2の側辺の上端を連結する上辺とを有し、振動脚部を駆動方向に対して振動させる駆動手段と、駆動方向と直角をなす検出方向の振動成分を検出する検出手段とをさらに備える。
【0023】
部には、振動脚部の駆動方向の共振周波数と検出方向の共振周波数との離調度の調整と、駆動手段による振動脚部の振動の検出方向への漏れ振動の低減とを行うために、基部の上面からの深さが一様でない振動脚部の面に接する欠損部が設けられる。
【0024】
請求項に記載の振動型ジャイロスコープは、請求項に記載の振動型ジャイロスコープの構成において、振動脚部の断面は長方形の形状であり、欠損部は、振動脚部の基端面に沿って振動脚部の先端から基部に向かう向きの延長方向に基部に溝状に設けられる。
【0025】
請求項に記載の振動型ジャイロスコープは、請求項に記載の振動型ジャイロスコープの構成において、振動脚部の断面は長方形の形状であり、欠損部は、基部内において振動脚部の基端面および上面に交わる調整面と振動脚部の面とが鋭角を成して挟み、かつ、調整面と基準面とが鋭角を成して挟む部分を除去するように設けられる。
【0026】
請求項に記載の振動型ジャイロスコープの形成方法は、請求項に記載の振動型ジャイロスコープを形成する形成方法であって、振動脚部が非回転状態において駆動手段によって振動させられたときの検出方向の振動成分および振動脚部の検出方向の共振周波数を測定する測定ステップと、測定ステップで測定された検出方向の振動成分の測定値に基づき欠損部の深さを検出方向に沿って次第に深く形成するか、検出方向と反対方向に沿って次第に深く形成するかを決定する方向決定ステップと、方向決定ステップの決定結果に応じて基部に欠損部を形成する調整ステップとを含む。
【0027】
請求項に記載の振動型ジャイロスコープの調整方法は、音叉型の振動子を備え、振動子は、基部と、基部から上方に立上がって延び、所定の振動方向に振動する振動脚部とを含み、駆動方向に対して交差する振動脚部の面は、基部と振動脚部との境界をなす振動の基端面の一部を構成する底辺と、底辺の両端から上方に立上がる互いに長さが異なる第1および第2の側辺と、第1および第2の側辺の上端を連結する上辺とを有し、振動脚部を駆動方向に対して振動させる駆動手段と、駆動方向と直角をなす検出方向の振動成分を検出する検出手段とをさらに備える振動型ジャイロスコープの調整方法であって、振動子が非回転状態において駆動手段によって振動脚部を振動させ、振動脚部の検出方向の振動成分と振動脚部の駆動方向の共振周波数と検出方向の共振周波数とを測定する測定ステップと、振動脚部の駆動方向の共振周波数と検出方向の共振周波数との離調度の調整と、振動脚部の検出方向への漏れ振動の低減とを行うための欠損部を基部に設けるために、測定ステップで測定された検出方向の振動成分の測定値に基づき欠損部の深さを検出方向に沿って次第に深く形成するか、検出方向と反対方向に沿って次第に深く形成するかを決定する方向決定ステップと、方向決定ステップの決定結果に応じて基部に欠損部を形成する調整ステップとを備える。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0030】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1の振動型ジャイロスコープの形状を示す図である。図1(A)は正面図であり、図1(B)は側面図である。
【0031】
図1を参照して、実施の形態1の振動型ジャイロスコープは、2本の振動脚部5a、5bを持つ音叉型の振動子1および圧電体2a、2b、3aおよび3bで構成されている。振動子1としてはエリンバー合金などの恒弾性金属を好適に用いることができる。圧電体2a、2b、3aおよび3bとしてはPZT(Pb(Zr,Ti)O)を用いたが、BaTiOなどの他の圧電セラミックスを用いてもよい。
【0032】
振動子1の振動脚部5a、5bは圧電体3a、3bにより図1のx方向へ励振される。この励振されている振動子に、z軸のまわりの角速度Ωが加わると、角速度Ωに比例したコリオリ力がy軸方向に生じる。
【0033】
その結果、振動脚部5a、5bはy軸方向の振動成分を持つようになる。このy軸方向の振動を圧電体2a、2bで検出することで、角速度Ωを求めることができる。
【0034】
一般に音叉の共振状態が最適になるのは音叉の左右の振動脚のバランスが取れたときである。このため、実施の形態1では、左右の振動脚のバランスをとるのに好ましいように2本の振動脚のそれぞれに駆動用、検出用の圧電体を設けている。しかし、音叉がジャイロとして機能するためには圧電体は駆動用、検出用それぞれ1つずつ取り付ければよいため、圧電体の個数や取り付け位置は、異なっても良い。
【0035】
実施の形態1では、振動子1の基部を振動脚部5a、5bに沿って、振動脚部の断面積を変えずに長くする方向へ削るトリミング部4a、4bを設けることで共振周波数の離調度Δfの調整と漏れ出力の軽減とを同時に行なう。トリミング部4a、4bは、必要に応じてz軸の負方向への向きの深さ、すなわち基部の上面からの深さが不均一になるように線状に削られる。
【0036】
このようなトリミングを行なうと、振動脚部5a、5bが長くなるので、駆動方向の共振周波数fxと検出方向の共振周波数fyとはともに下がるが、このとき図1のような形状の振動子においては共振周波数fxの下がり方の方が大きくなる。
【0037】
すなわち、振動子形状が音叉の場合には、振動脚部の断面が純粋な正方形の場合やむしろx方向の長さがy方向の長さよりも長い場合、あるいはその逆の場合でも、現実的でない極端な形状としない限りトリミングによって共振周波数fxのほうが共振周波数fyよりも大きく減少する。
【0038】
したがって、共振周波数fx、fyを近づけるためには、初期にfx>fyとなるように振動子を設計することが必要である。
【0039】
その際に、たとえば、振動子の全長が20mm程度の場合において、0.1mmの加工精度の誤差に対して共振周波数が1kHz程度変わることがあるので、加工精度なども考慮して振動子を設計することが必要である。
【0040】
図2は、図1に示した振動子1を上方から見た形状を示す平面図である。
図2を参照して、振動子1には、共振周波数の離調度Δfと漏れ振動の調整のため振動脚部5aの側面に沿うように溝状のトリミング部4aが設けられ、振動脚部5bの側面に沿うように溝状のトリミング部4bが設けられている。トリミング部4aの幅は、図2においてトリミング幅4wである。
【0041】
図3は、図2におけるA−Aでの断面を示す断面図である。
図3を参照して、図1(A)および図2に示したトリミング部4aは図3の断面図においては、点P1、P2、P5、P3で囲まれた四角形である。つまり、トリミング前の状態においては、振動脚部5aと振動子1の基部との境界は線P1−P2であったが、離調度Δfおよび漏れ振動の調整のために振動脚部5aに沿うように振動子1の基部に溝状の切込みが入れられ、トリミング後には振動脚部5aと振動子1の基部との境界は線P3−P5となっている。この振動脚部と基部との境界線を本明細書中では底辺と呼ぶこととする。
【0042】
このような切込みを入れると、振動脚部が基部と結合する結合面の位置が変わる。この結合面を本明細書では振動の基端面と称する。基端面は、図3では底辺P3−P5を含み点P6、P3、P5、P7を含む振動脚部の側面と直交する面である。
【0043】
基端面を境界として振動脚部の長さが定まる。振動脚部5aの側辺の長さは、P1側においてはL10からL11へと長さが増し、x方向の共振周波数fxは減少する。また、点P2側の振動脚部5aの側辺の長さはL10からL12となり、長さL11に対してさらに長くなっている。
【0044】
つまり、トリミングを行なう際に、トリミング角δを設けつつ振動脚部5aに沿うように振動子1の基部に対して溝を形成する。
【0045】
このようにすることにより、振動脚部5aの長さL11とL12とが異なり、かつ振動脚部と基部との結合部である点P3、P5、P8、P9で囲まれた領域の形状も変形されるため、離調度Δfと漏れ振動との調整が同時に行なえる。このような調整を行った後には、点P6、P3、P5、P7を含む振動脚部の側面は、底辺P3−P5の両端から上方に立上がった長さが異なる側辺P7−P5、P6−P3を有することになる。
【0046】
図4は、図1(A)におけるトリミング部4aを拡大して示した図である。
図4を参照して、トリミング部4aは、振動脚部5aの側面に沿いつつ、かつ、振動子1の基部に溝状に形成される。図4において、手前側は点P5の深さまで溝が形成されており、裏側は、点P4の深さまで溝が形成されている。このようなトリミング部はヤスリ、ルータおよびレーザー光線等を用いて形成することができる。このトリミング部の形成により、図3で説明した振動の基端面は底辺P3−P5を含み側面に直交する面P3−P5−P51−P31となる。
【0047】
図5は、振動脚部の振動方向とトリミングの形状の関係を説明するための図である。
【0048】
図5を参照して、振動脚の漏れ振動の方向がα1のように駆動方向に対して角θの(+)方向にずれている場合は、図5の点P2側が深くなるようにトリミング角δを設ければよく、逆に角θの(−)方向にずれた場合は点P1側が深くなるようにトリミング角δを設ければよい。
【0049】
図6は、実施の形態1のジャイロスコープの調整方法の流れを示すフローチャートである。
【0050】
図6を参照して、まずステップS01において調整が開始される。次いでステップS02において静止時、すなわち回転していないときの共振周波数fx、共振周波数fy、漏れ振動角θを測定する。
【0051】
ステップS03において、測定された漏れ振動角θの値によってトリミングをする側を決める。このとき漏れ振動角θ>0であればステップS04に進み、図9に図示したと同じ向きにトリミング角δを設定し、深さ方向に基部を削る(図6ではδ>0と表わす)。漏れ振動角θ<0であれば、ステップS05に進み、図9に図示した場合と逆側すなわち、点P11側をより深く削るようにトリミング角δを設定し、深さ方向に削る(図6ではδ<0と表わす)。
【0052】
続いてステップS04またはステップS05が終了すると、ステップS06に進む。
【0053】
ステップS06においては、静止時、すなわち回転していないときの共振周波数fx、fyおよび漏れ振動角θを再度測定する。
【0054】
そしてステップS07において離調度Δfが目標値f0より小で、かつ、漏れ振動角θが目標値θ0より小さいことを確認する。この条件が満たされない場合は、再びステップS03に戻り、再度調整をする。漏れ振動角θ>0が連続して測定された場合は、トリミング角をさらに大きく設定してステップS04にて基部を削る。漏れ振動角θ<0が連続して測定された場合は、トリミング角をさらに負方向に大きく設定してステップS04にて基部を削る。
【0055】
ステップS07において条件が満たされた場合は、ステップS08に進みジャイロスコープの調整が終了する。
【0056】
実施の形態1のジャイロスコープの調整方法を用いて調整した例を示す。
再び、図1を参照して、振動部5aのx方向の幅X1=1.5mm、y方向の幅Y1=2.0mm、振動脚部5aの初期の長さL1=11mm、振動子1の基部の長さL2=9mmという寸法に設計して作製した振動型ジャイロスコープの調整を行なった。
【0057】
共振周波数の初期値を測定すると、x方向の共振周波数fx=8348Hz、y方向の共振周波数fy=8274Hz、離調度Δf=74Hzであった。また、漏れ振動については、図5に示した角θ=24.5°となった。
【0058】
この状態から実施の形態1の方法を用いてトリミングを行なった。この際、圧電体3a、3b、2aおよび2bを適宜駆動および検出に用いて、x軸およびy軸の2方向の共振周波数と漏れ振動の方向および大きさを観察しながら調整を進めた。漏れ振動の方向が図5に示されるα1方向なので、切り口は、断面が図3に表わされるように、削る深さが不均一になるように削った。
【0059】
その結果、共振周波数fx=7849Hz、共振周波数fy=7847hz、離調度Δf=2Hz、漏れ振動角θ=4.5°に調整ができた。なお、トリミングの幅すなわち図2の幅4aは0.1mmであり、削った深さすなわち図3の長さP2−P5は2.0mmであった。また、トリミング角δは、6.5°であった。
【0060】
トリミングの幅4aが広くなると、先に説明したx方向の共振周波数の下がり方とy方向の共振周波数の下がり方との差が小さくなる。したがって、トリミング前の状態での離調度Δfの大きさに応じて、適宜トリミングの幅を選択するのが望ましい。また、漏れ振動の方向が図5のθの(−)方向の場合は、図3で示した場合とは逆の方向が低くなるように削ればよい。すなわち、漏れ振動の方向と反対の対角線の方向が低くなるようにトリミングを行なうと漏れ振動が小さくなる。
【0061】
他の場合においても、離調度Δfが大きいときには削る深さを深く、離調度Δfが小さいときには浅くすることで、また漏れ振動角θが大きいときにはトリミング角δを大きく、漏れ振動角θが小さいときにはトリミング角δを小さくすることで対応することができる。
【0062】
このように、実施の形態1で説明したジャイロスコープの調整方法を用いることにより、離調度Δfの調整と漏れ振動の調整とを同時に行なうことができるため、調整作業が容易になり、それによりジャイロスコープのコストダウンを図ることができる。
【0063】
[実施の形態2]
図7は、実施の形態2における調整方法を施したジャイロスコープの形状を示す図であり、図7(A)は正面図であり、図7(B)は側面図である。
【0064】
図7を参照して、実施の形態2におけるジャイロスコープは、トリミング部4cの形状が図1で示したジャイロスコープと異なる。他の部分については実施の形態1のジャイロスコープと同様であるため説明は繰返さない。
【0065】
図8は、図7に示した振動子1を上方から見た平面図である。
図8を参照して、実施の形態2では、振動脚部5aに沿うように振動子1の基部にトリミング部4cが設けられる。図8では、トリミング部は除去されることにより、点P12、P13、P14で囲まれる三角形の領域および点P12a、P13a、P14aで囲まれる三角形の領域の面が露出している。
【0066】
図9は、図8のB−Bにおける断面を示す断面図である。
図9を参照して、振動脚部5aの側面に沿うようにトリミング部4cが除去されている。除去された部分は、点P12、P13、P14で囲まれる三角形の部分であり、図9で示すようなトリミング角δとなる。なお図示しないが、図8における点P12a、P13a、P14aで囲まれる三角形の領域においても点P12、P13、P14で囲まれる三角形の領域におけると同様に形状および大きさが同じである部分が除去されている。
【0067】
トリミング後には振動脚部5aと振動子1の基部との境界は折れ線P13−P12−P11となっている。この振動脚部と基部との境界線を本明細書中では底辺と呼ぶこととする。実施の形態1では底辺は直線であったが、実施の形態2では折れ線となった。底辺は直線や折れ線に限られるものではなく曲線でもかまわない。
【0068】
図10は、トリミング部4cの周辺を拡大して示した斜視図である。
図10を参照して、トリミング部4cは、点P10、P12、P14を頂点とする三角形と、点P12、P13、P14を頂点とする三角形と、点P10、P13、P14を頂点とする三角形と、点P10、P12、P13を頂点とする三角形とが取囲む領域である。
【0069】
すなわち、本実施例では、2本の振動脚部の間にある振動子1の基部を、2本の振動脚部の断面積を変えずに長くする方向に、かつ削る深さが不均一になるように面状に削ることで、共振周波数の離調度Δfの調整と、漏れ出力の軽減を同時に行なう。
【0070】
実施の形態2のトリミングの場合にも、実施の形態1の場合と同様に、振動脚部が基部と結合する結合面すなわち基端面の位置が変わる。基端面は、図9では底辺P11−P12−P13を含み点P16、P11、P12、P13、P17を含む振動脚部の側面と直交する面である。
【0071】
このようなトリミングを行った後には、点P16、P11、P12、P13、P17を含む振動脚部の側面は、底辺P11−P12−P13の両端である点P11、P13からそれぞれ上方に立上がった長さが異なる側辺P11−P16、P13−P17を有することになる。
【0072】
基端面の位置が変わると、振動脚部が長くなるので、駆動方向の共振周波数fxと検出方向の共振周波数fyとはともに下がるが、このとき共振周波数fxの下がり方の方が大きい。
【0073】
再び図7を参照して、各部の寸法をX1=1.4mm、Y1=2.0mm、L1=9mm、L2=9mmという寸法に設計したとき、振動型ジャイロスコープの共振周波数の初期値を測定すると、共振周波数fx=7709Hz、共振周波数fy=7688Hz、離調度Δf=21Hzとなった。また、漏れ振動については、図5のθで表わすとθ=18.3°になった。
【0074】
この状態から、実施の形態2の方法でトリミングを行なった。この際、実施の形態1の場合と同様に、圧電体3a、3b、2aおよび2bを適宜駆動および検出に用いて、x軸およびy軸の2方向の共振周波数と漏れ振動の方向および大きさを観測しながら調整を進めた。漏れ振動が図5に示したα1方向であったので、切り口は図8〜図10で示したように削る深さが不均一になるように削った。
【0075】
その結果、共振周波数fx=7578Hz、共振周波数fy=7577Hz、離調度Δf=1Hz、漏れ振動角θ=3.0°に調整ができた。このときの削った深さ、すなわち図9の長さP13−P14は1.2mmであった。また、トリミング角δは、5.2°であった。
【0076】
実施の形態2の場合でも、初期値の離調度Δfが大きいときには削る深さを深く、離調度Δfが小さいときには削る深さを浅くすることで、また漏れ振動角θが大きいときにはトリミング角δを大きく、漏れ振動角θが小さいときにはトリミング角δを小さくすることでさまざまな初期値を持つ場合に対応できる。
【0077】
[実施の形態3]
図11は、実施の形態3の調整方法を施した振動型ジャイロスコープの斜視図である。
【0078】
図11を参照して、実施の形態3の振動型ジャイロスコープは、トリミング部4a、4bに代えてリミング部4d〜4gを有する点が実施の形態1と異なる。他の部分については実施の形態1と同様の形状を有するため説明は繰返さない。なお、実施の形態3では、振動脚部の上部付近の側面がトリミング部4d〜4gとなる。
【0079】
実施の形態3では、図11のトリミング部4dにおいては、点P21、P22、P23を頂点とする三角形で示される平面を露出させるように振動脚部の上部を除去する。同様に、トリミング部4eにおいては、点P26、P27、P28を頂点とする三角形で示される平面を露出させるように振動脚部の上部を除去する。つまり、振動脚部の上部側面を斜めに削ることで、共振周波数の離調度Δfの調整と漏れ振動の軽減とを同時に行なう。このような調整を行った後には、点P22、P24、P25、P26、p27を含む振動脚部の側面は、底辺P24−P25の両端から上方に立上がった長さが異なる側辺P22−P24、P26−P25を有することになる。
【0080】
実施の形態1および実施の形態2に記載したトリミング方法では、共振周波数fxを多く下げるような場所でトリミングを行なっていたため、共振周波数fx<共振周波数fyとなった場合には、最適なトリミングができなくなる。したがって、予め共振周波数fxが共振周波数fyよりも大きくなるように設計しておく必要があった。しかしながら、実施の形態3においては、共振周波数fx、fyのどちらを多く下げるかをトリミング時に選ぶことが可能であり、設計目標値を共振周波数fx=fyとなるようにして設計することができる。
【0081】
再び図11を参照して、調整結果の実例を示す。各部の寸法がX1=1.5mm、Y1=2.0mm、L1=12.5mm、L2=7.5mmという寸法にし、設計目標値を共振周波数fx=fyとなるように設計したとき、振動型ジャイロスコープの共振周波数を測定すると、共振周波数fx=6919Hz、共振周波数fy=6982Hz、離調度Δf=−63Hzとなり、漏れ振動は図5のθで表わすとθ=−20.8°になった。
【0082】
この状態から、実施の形態3の方法でトリミングを行なった。この際、実施の形態1と同様に、圧電体3a、3b、2aおよび2bを適宜駆動および検出に用いて、x軸およびy軸の2方向の共振周波数と漏れの方向および大きさを観測しながら調整を進めた。漏れ振動が図5におけるα2の方向であったので、図11で示すようにトリミング部4d、4e部を削った。
【0083】
図12は、図11に示したジャイロスコープの上方から見た場合の平面図である。すなわち、この場合には図12におけるf−fで示される部分を削った。
【0084】
その結果、共振周波数fx=6228Hz、共振周波数fy=6226Hz、離調度Δf=2Hz、漏れ振動角θ=−4.0°に調整できた。
【0085】
初期値が上記以外の場合でも、離調度Δfが大きいときには削る幅を大きく、離調度Δfが大きいときには削る幅を小さくすることで、また漏れ振動角θが大きいときにはトリミング角δを大きく、漏れ振動角θが小さいときにはトリミング角δを小さくすることで対応できる。
【0086】
トリミング前の離調度Δfと漏れ振動の方向との組合せは4通りあって、それらに対して次のようにトリミングを行なえばよいことがわかる。
【0087】
まず最初に、トリミング前の状態が共振周波数fx>fyで、漏れ振動の方向が図5のα1方向の場合には、図12のC−C部を削ってトリミングを行なえばよい。
【0088】
このとき、振動脚部の断面のx方向の幅が小さくなることによって共振周波数fxが下がり、斜めに削り取ることで漏れ振動を小さくできる。したがって、図12のC−C部を削ることで、離調度Δfの調整と漏れ振動の軽減との両方が可能になる。
【0089】
次に、トリミング前の状態が共振周波数fx>fyで漏れ振動の方向が図5のα2方向の場合には、図12のD−D部を削ってトリミングを行なえばよく、共振周波数がfx<fyで漏れ振動の方向が図5のα1方向の場合には、図12のE−Eを削ってトリミングを行なえばよい。最後に、トリミング前の状態が共振周波数fx<fyで漏れ振動の方向が図5に示したα2方向の場合には、図12のF−F部を削ってトリミングを行なえばよいことがわかる。
【0090】
以上説明したように、実施の形態3においては、離調度Δfと漏れ振動との調整を同時に行なうことができることに加えて、さらに調整の自由度が増すという点で有利である。
【0091】
実施の形態1〜3では、駆動および検出に圧電体を用いたが、これは磁石やコイルなどを用いた駆動および検出の場合でも同様のことがいえる。また、振動脚の断面は長方形の場合を示したが正方形の場合も本発明のトリミング方法を適用することができる。さらには、振動子はH型、三脚音叉型であるときにも同様に本発明のトリミング方法を適用することができる。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0093】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、振動型ジャイロスコープの駆動方向の共振周波数と検出方向の共振周波数と漏れ振動との観測を行ないながら、2つの共振周波数の離調度と漏れ振動とを同時に調整することができる。したがって、振動型ジャイロスコープに対する最適なトリミングを容易に行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の振動型ジャイロスコープの形状を示す図であり、図1(A)は正面図であり、図1(B)は側面図である。
【図2】図1に示した振動子1を上方から見た形状を示す平面図である。
【図3】図2におけるA−Aでの断面を示す断面図である。
【図4】図1(A)におけるトリミング部4aを拡大して示した図である。
【図5】振動脚部の振動方向とトリミングの形状の関係を説明するための図である。
【図6】実施の形態1のジャイロスコープの調整方法の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施の形態2における調整方法を施したジャイロスコープの形状を示す図であり、図7(A)は正面図であり、図7(B)は側面図である。
【図8】図7に示した振動子1を上方から見た平面図である。
【図9】図8のB−Bにおける断面を示す断面図である。
【図10】トリミング部4cの周辺を拡大して示した斜視図である。
【図11】実施の形態3の調整方法を施した振動型ジャイロスコープの斜視図である。
【図12】図11に示したジャイロスコープの上方から見た場合の平面図である。
【図13】音叉型振動ジャイロスコープで振動子基部の長さdを変えたときの共振周波数fx、fyの変化を示した図である。
【図14】特開平9−89571号公報に示される三脚音叉型振動ジャイロスコープの正面図および側面図である。図14(A)は正面図である。図14(B)は側面図である。
【図15】漏れ振動を小さくするための従来の方法を説明するための図であり、音叉型振動ジャイロスコープを上方から見た図である。
【符号の説明】
1 振動子
2a,2b 検出用圧電体
3a,3b 駆動用圧電体
5a,5b 振動脚部
4a〜4g トリミング部
θ 漏れ振動角
δ トリミング角

Claims (5)

  1. 音叉型の振動子を備え、
    前記振動子は、
    基部と、
    前記基部から上方に立上がって延び、所定の振動方向に振動する振動脚部とを含み、
    前記駆動方向に対して交差する前記振動脚部の面は、
    前記基部と前記振動脚部との境界をなす振動の基端面の一部を構成する底辺と、
    前記底辺の両端から上方に立上がる互いに長さが異なる第1および第2の側辺と、
    前記第1および第2の側辺の上端を連結する上辺とを有し、
    前記振動脚部を前記駆動方向に対して振動させる駆動手段と、
    前記駆動方向と直角をなす検出方向の振動成分を検出する検出手段とをさらに備え
    前記基部には、前記振動脚部の前記駆動方向の共振周波数と前記検出方向の共振周波数との離調度の調整と、前記駆動手段による前記振動脚部の振動の前記検出方向への漏れ振動の低減とを行うために、前記基部の上面からの深さが一様でない前記振動脚部の面に接する欠損部が設けられる、振動型ジャイロスコープ。
  2. 前記振動脚部の断面は長方形の形状であり、
    前記欠損部は、前記振動脚部の前記基端面に沿って前記振動脚部の先端から前記基部に向かう向きの延長方向に前記基部に溝状に設けられる、請求項に記載の振動型ジャイロスコープ。
  3. 前記振動脚部の断面は長方形の形状であり、
    前記欠損部は、前記基部内において前記振動脚部の前記基端面および前記上面に交わる調整面と前記振動脚部の前記基端面とが鋭角を成して挟み、かつ、前記調整面と前記基面とが鋭角を成して挟む部分を除去するように設けられる、請求項に記載の振動型ジャイロスコープ。
  4. 請求項1に記載の振動型ジャイロスコープの形成方法であって、
    前記形成方法は、
    記振動脚部が非回転状態において前記駆動手段によって振動させられたときの前記検出方向の振動成分および前記振動脚部の前記検出方向の共振周波数を測定する測定ステップと、
    前記測定ステップで測定された前記検出方向の振動成分の測定値に基づき前記欠損部の深さを前記検出方向に沿って次第に深く形成するか、前記検出方向と反対方向に沿って次第に深く形成するかを決定する方向決定ステップと、
    前記方向決定ステップの決定結果に応じて前記基部に前記欠損部を形成する調整ステップとを含む、振動型ジャイロスコープの形成方法
  5. 音叉型の振動子を備え、前記振動子は、基部と、前記基部から上方に立上がって延び、所定の振動方向に振動する振動脚部とを含み、前記駆動方向に対して交差する前記振動脚部の面は、前記基部と前記振動脚部との境界をなす振動の基端面の一部を構成する底辺と、前記底辺の両端から上方に立上がる互いに長さが異なる第1および第2の側辺と、前記第1および第2の側辺の上端を連結する上辺とを有し、前記振動脚部を前記駆動方向に対して振動させる駆動手段と、前記駆動方向と直角をなす検出方向の振動成分を検出する検出手段とをさらに備える振動型ジャイロスコープの調整方法であって、
    前記振動子が非回転状態において前記駆動手段によって前記振動脚部を振動させ、前記振動脚部の前記検出方向の振動成分と前記振動脚部の前記駆動方向の共振周波数と前記検出方向の共振周波数とを測定する測定ステップと、
    前記振動脚部の前記駆動方向の共振周波数と前記検出方向の共振周波数との離調度の調整と、前記振動脚部の前記検出方向への漏れ振動の低減とを行うための欠損部を前記基部に設けるために、前記測定ステップで測定された前記検出方向の振動成分の測定値に基づき前記欠損部の深さを前記検出方向に沿って次第に深く形成するか、前記検出方向と反対方向に沿って次第に深く形成するかを決定する方向決定ステップと、
    前記方向決定ステップの決定結果に応じて前記基部に前記欠損部を形成する調整ステップとを備える、振動型ジャイロスコープの調整方法。
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