JP3542367B2 - 微生物の分離精製回収方法、微生物個体数の計測方法および微生物の核酸回収方法 - Google Patents
微生物の分離精製回収方法、微生物個体数の計測方法および微生物の核酸回収方法 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、土壌、活性汚泥、水底泥等の懸濁液やリアクタ内液等のように、微生物個体が微小粒子や固定用担体に付着している系や微生物個体がフロックを形成している系中に存在する該微生物個体を、各個体に単離精製回収する技術に関し、特に、単離手段としての微生物の培養処理が不要で、簡単な操作でかつ短時間で微生物個体を高収率、高純度で分離回収する微生物の分離精製回収方法、およびその方法により、微生物個体数の計数を簡便にかつ高精度に行う微生物個体数の計測方法、更に該分離精製回収方法により、不純物除去の精製工程が不要な純度で核酸を回収する微生物の核酸回収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、遺伝子工学の発展と共に、従来の化学的な方法とは異なる、微生物や酵素を使った有用物質の生産や有害物質の分解の可能性が盛んに検討されるようになるにつれ、既存の化学工学的な生産の長所を保ちつつ遺伝子工学的な生産を行うことを目的として微生物の研究が盛んになり、例えば高温、低温、高アルカリ、高水圧といった特殊な環境の中で生息し活動する微生物も研究されている。
【0003】
このような状況下において、非常に多種多様な微生物が生息し、上記のような性質を持つ微生物も存在している可能性がある、土壌懸濁液や下水・廃水処理槽の活性汚泥や川・湖・海などの底泥から種々の微生物を単離してその能力について研究したり、その機能に関する情報が書き込まれたDNAを抽出する技術が、遺伝子工学の基礎的な研究のみならず、応用技術分野の更なる発展に大変重要になってきた。
【0004】
そこで、菌等の微生物を分離回収する方法が必要であるが、現在主に用いられている微生物の分離回収方法は、土壌や活性汚泥や川、湖、海などの底泥を適当な緩衝液に混ぜた懸濁液を希釈して目的にあった成分を含む寒天倍地上に塗布し、目的にあった環境に培地を数日間静置して培養し、増殖してきた微生物のコロニーを選抜して、更に集積培養して濃度を高めてから遠心などで沈殿させて回収する方法である。
【0005】
しかし、この培養による微生物の分離回収方法の場合、多種多様な微生物の殆どは培養条件さえ不明であるので、土壌、活性汚泥、底泥等からの懸濁液中の99〜99.9%は寒天培地上で増殖させ分離することは困難であると言われている。従って、サンプリングした懸濁液の中にいくら有用な微生物がいたとしても大部分は回収不可能であるのが実情である。また、比較的培養条件を推定し易い廃水処理槽内の活性汚泥にしても、たとえ培養条件が設定できても、実際の槽内の条件と実験室の培地内の条件の微妙な差から、実験培地の微生物種の比率が変わってしまう可能性が高く、活性汚泥内の優先種を培地内の優先種として回収できない場合がある。
【0006】
そこで、上記のような土壌、活性汚泥、底泥などの懸濁液から培養工程を省いて直接微生物を分離し回収する方法が考えられるが、しかし、これらの微生物含有液は、微生物を培養した液体培地と違い、微生物以外の様々な固形物を含有しているので、かかる液からそのまま濾過や遠心沈殿などの方法で微生物を回収することは大変困難である。また、微生物が何らかの物質を分泌して固形物に付着して棲息していたり、互いに凝集してフロックを形成している場合は、濾過や遠心沈殿によって微生物を回収することは不可能である。このため、従来は往復振盪機、ブレンダ、ホモジナイザ、超音波破砕機等を使って、懸濁液を強力に攪拌し物理的に微生物を固形物から剥離し、または微生物同士を分散させてバラバラにする方法が主に採用されてきた。しかし、この方法は一般に採用されているにも拘らず、実は、この方法で微生物のどの程度が一体剥離されているのかはっきりしていない。また、攪拌を長時間強力にすればするほど、多くの微生物が剥離することは予想がつくが、余り強力すぎると、微生物自身も粉砕されて原型を止めなくなる恐れがある。特に、細微生物よりも巨大な酵母、微細藻類、原生動物が簡単に粉砕されてしまうのは容易に想像がつく。
【0007】
また、たとえ微生物が固形物等から分離できたとしても、これを遠心分離により回収するには、微生物と不要な固形物との微妙な遠心条件の違いを予め調べて、遠心機の操作条件を細かく設定する必要があるので、操作の煩雑さをまぬがれない。また、吸引濾過法により回収するのは、固形物により濾紙が目詰りを起すので頻繁に交換する必要があるから、やはり操作の煩雑さを伴い処理効率が悪いものであった。
【0008】
このように、従来の微生物分離回収方法では、種々の微生物(同定されていない場合が多い)の培養条件が判明しないことから、全ての微生物をその生存比率を変えることなく培養して分離回収することができず、またブレンダ等を用いて強力に攪拌すると物理的に弱い微生物から粉砕されてしまうことから、やはり全ての微生物をその存在比率を変えることなく分離回収することができないので、土壌中等に存在する培養条件の不明な有用微生物を有効に回収することはほとんど不可能であった。一方、培養工程を省いて土壌等に懸濁液から直接微生物を分離回収する方法では、微生物は通常状態において何等かの固形物に付着しているか、または互いに凝集しフロックを形成しているので、濾過や遠心分離等の手段では有効に分離することができない。
【0009】
更に、回収した微生物からDNA等の核酸を回収する場合、回収DNAの質や純度がその後の酵素消化、PCR、ハイブリダイゼーションといった処理にとって大変重要である。しかし、土壌粒子のような微生物担持担体には腐植のような有機物などが微生物と同様多量に付着しており、微生物の精製が不充分であると、これらの有機物が微生物と共に回収される。このため、回収した微生物DNAから腐植などの不純物を除去するために、塩化セシウム平衡密度勾配法やハイドロキシアパタイトカラムクロマトなどゲル濾剤を用いた精製が必要になってくる(これらについては、”Molecular Cloning, A LABORATORY MANUAL, SECOND EDITION”、J. Sambrookら著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、p1.40〜1.48および『生物化学実験法11、ゲル濾過法』、志村憲助ら著、学会出版センター、p181〜195参照)。しかしながら、これらの方法は、操作自体や前処理が煩雑な上に、超遠心機で24〜48時間と長時間遠心する必要がある、初ガン物質であるエチジウムブロマイドを使用する、DNAの回収効率が低い等、問題があった。
【0010】
また、懸濁液中に存在する微生物を分離回収する他にも、懸濁液やバイオリアクタ中の状態や生物活性を評価するために個体数を計数することも大変重要である。この液中の微生物を直接計数する方法としては、P.C.T. JonesとJ.E. Molisonが開発した、懸濁液に溶融した寒天を混合して攪拌した後、血球計算盤上に薄膜状に固定して染色し顕微鏡で計数する方法が一般的である(このJonse−Molison 法については『土壌微生物実験法』、土壌微生物研究会編、養賢社、p143〜154参照)。
【0011】
かかる方法は、対象とする微生物の培養条件が不明であっても計測できる利点があるが、分離が不十分で一部の微生物しか回収できなければ、それを顕微鏡などで計数し個体数を算出したところで殆ど意味をなさないという、微生物の分離回収が困難なことに起因する問題がある。また、土壌・活性汚泥、底泥などの懸濁液や固定化担体を含むリアクタ内液を直接顕微鏡で計数しようとしても、微生物が固形物に付着していたり、フロックを形成して固まっていたりすると、正確に数えることができない。また、サンプル液中に微小粒子が多量に存在すると血球計算盤上に寒天薄膜を作ることすら不可能になる。
【0012】
なお、対象微生物の増殖条件が既知であれば、個体数の測定には一般に適当に希釈して寒天培地上に塗布して培養し、増殖してきた微生物のコロニーを計数する稀釈平板法が一般に行われる。この方法は、シャーレと恒温室さえ有れば測定できるという点では顕微鏡で直接計数するJonse−Molison 法より簡便であるが、培養を開始してから結果が得られるまで数日から数週間もかかるという問題があり、また増殖条件が合致するものしか計数することはできない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑み、微生物以外の固形物に付着している微生物や微生物同士が凝集してフロックを形成している微生物に対して、微生物個体間や微生物と担体間に介在する物質を分解する特定の手段を適用することにより、培養工程を経ることなく、個々の微生物個体を効率的に分離状態とし、更に、分離された微生物を特定の手段により、簡便に精製回収することを可能とし、もって懸濁液やバイオリアクタ液等から微生物を高収率、高純度で分離回収することを目的とする。
【0014】
また、本発明の他の目的は、上記特定の分解手段および回収手段を用いることにより、微生物個体数の計数を簡便にかつ高精度に行うことである。
【0015】
また、本発明の更に他の目的は、上記特定の分解手段および回収手段を用いることにより、微生物から特別な精製を必要としない純度のDNA等の核酸を回収することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成する本発明は、微生物個体が、該微生物個体の分泌した不溶性高分子有機物により、該微生物以外の固形物と結合した状態で分散媒中に存在する微生物懸濁液から、該微生物個体を精製回収する方法であって、前記微生物懸濁液が、土壌、活性汚泥または水底泥の懸濁液、あるいは微生物の固定化担体を用いたバイオリアクタ内から得られる微生物が結合した固定化担体を含む微生物懸濁液であり、該微生物懸濁液に前記不溶性高分子有機物の分解酵素を作用させ、結合状態にある微生物個体を分離して酵素処理微生物懸濁液を得る工程と、好ましくは、該酵素処理微生物懸濁液に含まれる微生物個体、該微生物個体以外の固形物、及び分散媒の比重差を利用して、該酵素処理微生物懸濁液から該微生物個体を精製回収するか、あるいは該酵素処理微生物懸濁液に含まれる微生物個体の電気泳動性を利用して該該酵素処理微生物懸濁液から該微生物個体を精製回収する工程と、を有することを特徴とする精製回収方法である。微生物が分泌した不溶性高分子有機物を分解する酵素を、微生物個体以外の固形物(以下担持担体または固体担体という)と結合した状態で存在する微生物系(「微生物結合体」という。)に作用させることにより、従来のように培養工程を経ることなく、結合物質である不溶性高分子有機物を効率的に分解することができ、また、該微生物の比重や電気泳動性を利用することにより、酵素処理後の懸濁液中に分離された微生物を容易に精製回収することができるので、懸濁液やバイオリアクタ液等から培養条件の不明な又は特異的培養条件が必要な微生物をも極めて簡便、短時間に高収率、高純度で分離回収することが可能となる。
【0017】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、添加する分解酵素が、多糖類分解酵素、タンパク質分解酵素およびペクチン質分解酵素から選ばれる1種または2種以上である微生物の分離精製回収方法である。微生物結合体に介在する結合物質は、微生物の種類により各種多糖類やタンパク質からなる不溶性高分子有機物で構成されており、これら有機物を有効に分解する酵素を選択し作用させることにより、微生物の分離効率を向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、選ばれる1種または2種以上の分解酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルクロニダーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼのいずれかである微生物の分離精製回収方法である。好ましくはこれらの酵素を用いることにより、一層効率的な微生物個体の分離ができる。
【0019】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、微生物の懸濁液が、土壌、活性汚泥または水底泥の懸濁液である微生物の分離精製回収方法である。土壌等を上記分離精製回収方法の対象とすることにより、生存している可能性がある有用な微生物結合体から微生物個体を分離回収することが可能となる。
【0020】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、微生物の懸濁液が、バイオリアクタの固定化担体を含むリアクタ液である微生物の分離精製回収方法である。バイオリアクタを上記分離精製回収方法の対象とすることにより、分離対象の有用な微生物結合体から微生物個体を分離回収することが可能となる。
【0021】
また、本発明は、上記いずれかの分離精製回収方法において、比重差に基づく微生物の精製回収が、酵素処理微生物懸濁液の比重を微生物の比重と同じかそれよりも高く、かつ微生物担持担体の比重よりも低く調整した後、これを遠心して微生物担持担体を沈降させ、得られた微生物が懸濁した上澄みから該微生物を回収して行われる微生物の分離精製回収方法である。懸濁液の比重を微生物と担持担体の中間的なものに調整することにより、微生物と担持担体との微妙な遠心条件の違いを予め調べて遠心機の操作条件を細かく設定する必要がなくなるので、簡単な操作で効率よく微生物を回収することが可能となる。
【0022】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、酵素処理微生物懸濁液の比重が、1.2〜1.5に調整される微生物の分離精製回収方法である。懸濁液の比重を1.2〜1.5とすることにより、微生物と担持担体を一層効率的にかつ確実に分離することが可能となる。
【0023】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、酵素処理微生物懸濁液の比重が、該懸濁液に比重調整用の溶質を添加することにより調整される微生物の分離精製回収方法である。溶質を添加して比重を高めることにより、簡単に比重の調整が可能となる。
【0024】
また、本発明は、上記の分離精製回収方法において、溶質がショ糖または塩化セシウムである微生物の分離精製回収方法である。溶質としてショ糖または塩化セシウムを用いることにより、微生物に悪影響を与えることなく効率的に分離することができる。
【0025】
また、本発明は、前述のいずれかの分離精製回収方法において、電気泳動性に基づく微生物の精製回収が、酵素処理微生物懸濁液に直流電圧をかけてプラス極またはマイナス極側に移動した微生物を回収して行われる微生物の分離精製回収方法である。懸濁液に直流電圧をかけることにより、微生物を電極側に移動させ、その間に担持担体を沈澱させ、これらを分離させた状態を得たところで、電極周りの微生物を含む液を回収するができるので、簡単な操作で効果的な微生物の分離回収が可能となる。
【0026】
また、本発明は、上記のいずれかの分離精製回収方法により分離精製回収された微生物を含む回収液を用いて、平板希釈法または染色法により微生物懸濁液中の微生物個体数を計測する微生物個体数の計測方法である。上記の分離精製回収方法を用いることにより、結合体を形成している微生物個体数を平板希釈法または染色法により簡便にかつ正確に計測することができる。
【0027】
また、本発明は、上記のいずれかの分離精製回収方法により分離精製回収された微生物を含む回収液から、該微生物の核酸を抽出回収する微生物の核酸回収方法である。上記の方法により分離精製回収された微生物を用いて該微生物からDNA等の核酸を抽出回収することにより、不純物を取り除くための処理をしなくても制限酵素で消化できる程度の純度で核酸を回収することが可能となる。
【0028】
本発明者らは、土壌中等に生存する培養条件も不明な有用微生物の分離回収が極めて困難である原因が、微生物が土壌粒子等に付着するために、また微生物同士が凝集しフロックを形成するために分泌する不溶性の高分子有機物にあり、この不溶性高分子物質は一定の分解酵素により分解除去することが可能であることを見出し本発明に至ったものである。かかる不溶性高分子有機物が何であるかは分析、同定されているわけではなく、また微生物の種類により異るが、セルラーゼやヘミセルラーゼ等の多糖類分解酵素、プロテアーゼやコラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素、ペクチナーゼ等のペクチン質分解酵素等により、効果的に分解除去可能であった。特に、セルラーゼ、グルクロニダーゼまたはプロテアーゼをそれぞれ主成分とした酵素、更にはそれぞれを組合せた複合酵素は有効で、高分子有機物はセルロースやグルクロニド成分を主体とする多糖類であり、更にタンパク質を含有するものであることが判る。多糖類分解酵素等は土壌中にも存在しているが、微生物の分泌する高分子物質を分解する程には活性が高くないか存在量そのものが少なく、微生物はあまり影響を受けていない。
【0029】
以下、本発明を詳述する。
【0030】
まず、本発明において微生物とは、細菌、放線菌、酵母、かび、きのこ、微細藻類、原生動物等をいい、天然に存在するもの、バイオテクノロジー技術の応用により得られたものを含み、生息場所等は問わない。
【0031】
本発明における、微生物担持担体または他の微生物個体と結合した状態で存在する微生物系は、自然界、人工的環境下で極自然に生じ得るものであり、特定条件下で生ずるものには限定されない。例えば、土壌中、廃水処理槽等の活性汚泥中、川・湖・海等の水底泥中に生息する微生物は通常、微生物個体が土壌粒子や動植物の死骸由来の残渣等、種々雑多なものを担持担体として着生し結合体を形成し、また、微生物同士が凝集してフロックを形成したり、更にフロックが担持担体に結合した状態で生存している。また、バイオリアクタ内の固体担体に担持された微生物も結合体を形成している。このように微生物の多くは何かに着生して生存するのが普通であるが、これらを包含した微生物系を対象とする。
【0032】
本発明の微生物の分離精製回収方法は、大別して、懸濁液中に微生物を分離する分離工程と、分離した該微生物を懸濁液から精製回収する精製回収工程からなる。まず分離工程を説明し、続いて回収工程を説明する。
【0033】
微生物が結合体を形成するときに分泌するのが、不溶性の高分子有機物である。この高分子物質により微生物は強固に担体に着生し結合体を形成するが、かかる結合体をブレンダー等による物理的操作で分解することは極めて困難であり、また溶剤等を用いる化学的操作によれば微生物自体を破壊する可能性もある。酵素処理によれば、微生物自体を破壊することなく、ほぼ選択的に該高分子物質を分解除去できるので、極めて好都合である。
【0034】
分解酵素を作用させるには、酵素が活性化する条件に上記微生物系を調整することにより、効率的に酵素反応を行うことができるが、酵素作用中に微生物が増殖し又は死滅し、微生物種の比率が変化しないような条件下で行うのがよい。かかる条件は用いる酵素、対象とする微生物等により相違するので、適宜選定すればよい。例えば、処理対象となる微生物系を溶液状または懸濁液状とするため、採取したサンプルを酵素の至適pH(セルラーゼの場合4〜6)に調整した緩衝液等で希釈し、固形物濃度5〜20重量%程度に調整し、分解酵素を添加してから比較的大きい粒子、沈澱物や浮遊物等の固形物を濾別除去しておき酵素の至適温度(セルラーゼの場合40〜50℃)に設定した恒温室で2〜16時間程度振盪させて反応を行い、その後、遠心分離(3000〜5000rpm、10秒〜1分程度)に付して微小土壌粒子等を沈澱させ上澄み液を回収すれば、バラバラに分離した状態の微生物の集合体を得ることができる。酵素の反応時間は短過ぎれば結合物質を分解できず、一方長過ぎれば微生物が増殖したり、死滅して分解したりする。従って、反応終了後は、微生物個体数の計測等、次の工程に速やかに移行するとよい。
【0035】
用いることができる分解酵素としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルクロニダーゼ、アミラーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ等の多糖類分解酵素、プロテアーゼ、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素およびペクチナーゼ、ペクチントランスエリミナーゼ等のペクチン質分解酵素から選ばれる1種または2種以上が好ましく、中でも、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルクロニダーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼから1種以上を用いるとよい。特に、セルラーゼを主成分としキシラナーゼやペクチナーゼ等を含有する複合酵素、グルクロニダーゼやプロテアーゼを主成分とする複合酵素は有効であり、更に該セルラーゼとグルクロニダーゼやプロテアーゼを組合せ主成分とした複合酵素は有効である。添加量は用いる酵素の種類、生存する微生物量等により異るが、通常、希釈された懸濁液に対して、例えばセルラーゼではセルラーゼ活性として1000U/ml以上、好ましくは10000U/ml以上、また、プロテアーゼではプロテアーゼ活性として100U/ml以上、好ましくは1000U/ml以上が目安となり、両者を混合して用いてもよい。また、グルクロニダーゼでは、それを主成分とする粗精製酵素で、10mg/ml以上、好ましくは100mg/ml以上が目安となる。分解酵素の添加量が少な過ぎると結合物を分解することがでない。一方上限は特に制限されないが多過ぎるても分解程度のそれ以上の向上は認められない。
【0036】
土壌中の菌数を正確に計数するのは困難であるが、本発明の分離精製回収方法によれば、全微生物個体数の約10〜90%程度はほぼ完全に分離された状態にすることが可能であると推定される。
【0037】
上述の微生物の分離精製回収方法により回収された微生物は、サンプル中に存在していた全種類の微生物であり、微生物種の比率等は原則的には変化しないから、次に述べる微生物個体数の計測方法に好適である。更に、フロック状に固まった微生物をバラバラにできるので、回収微生物から有用なものを選択的に取出す際には、培養条件が判っていれば、その条件で選択的に培養することにより、一度のスクリーニングで目的の微生物を単離することができる。
【0038】
次に、精製回収工程について説明する。
【0039】
本発明においては、上述した酵素処理微生物懸濁液(単に「懸濁液」という)の比重をそこに含まれる固形物(微生物と分離された担持担体、その他懸濁液中に存在する微生物以外の全ての固形物をいう。)と微生物の分離が可能なように調整してから遠心分離を行う上澄み中の微生物を回収するか、あるいは、該懸濁液に直流電圧をかけて電極側に移動して微生物を回収する方法によって微生物の回収が行われる。
【0040】
懸濁液の比重を調整して遠心分離を行う方法において、懸濁液の比重の調整には溶質を添加するのが簡便であり、好ましいが、それ以外にも比重が1.3〜1.5程度の水溶液を混合することによっても比重を調整することが可能である。この時用いられる水溶液は強アルカリ性、強酸性でなければ特に制限なく用いることができ、クエン酸水溶液等の弱酸性水溶液でもよい。比重調整に用いる溶質としては、所期の分離効果が得られ、かつ回収した微生物を用いた各種処理において不都合を生じないものであれば特に制限なく利用でき、例えば、ショ糖、塩化セシウム、フィコール、硫酸セシウム等をあげることができる。ショ糖は安価、pHの変化がない点で好ましく、また塩化セシウムは容易に高密度水溶液が調製できるので好ましい。
【0041】
また、本発明者らが、土壌、活性汚泥、河川、湖、海等の底泥における微生物の大多数の比重を調べたところ、1.2〜1.3であるのに対して、これらの泥を構成する固形物の比重は2以上であることがわかった。そこで、酵素処理微生物懸濁液を処理する場合も、懸濁液の比重としては、これらの泥をサンプルとする場合には、1.2〜1.5、好ましくは1.3前後がよい。これ以外の範囲で比重を調整すれば、微生物と固形物の分離の確実性および効率が低下する。このように懸濁液の比重を分離すべき微生物の比重と同等またはそれより高く、かつ微生物と分離すべき固形物の比重よりも低く調整することで、即ち、懸濁液の分散媒の比重を微生物と固形物のそれの中間的なものに調整することで、遠心分離を行った際にこれらを一層確実に分離できるので、極めて効率な分離が可能となる。
【0042】
この遠心分離を利用する場合の遠心条件は、比重は水溶液よりも高いが、大きさがサブミクロンオーダーと非常に微細なため沈降速度が遅い粒子も必要があるため、20万G以上の力を数時間かける必要がある。より具体的に説明すると、容積5cc(長さ約4cm)のポリアロマ製遠心チューブに4cc以上のサンプルを入れたものをスイングロータにセットして、超遠心機で1〜5万rpm、好ましくは5万rpmで、1〜10時間、好ましくは1〜2時間回転させ、比重の高い物を沈殿させる。この際の回転数および時間は事前に予測実験を行って微細粒子が除去できる最小値を採用するのがよい。また、ショ糖等の水溶液が粘度流体であるため、遠心時間を少し長めに設定し温度は室温以下に下げない方が、精製回収した微生物の純度は高くなる。なお、遠心後のサンプルの固液界面付近には上記の微細粒子が多数有り、ピペットによる吸引で簡単に舞い上がり液体に混入してしまう。このため、遠心後の上澄み液の採集の際は、上層から丁寧に取り水面が固液界面の上5mm程度になったところでやめるのが望ましい。
【0043】
このようにして得られた上澄みには微生物が選択的に移行し懸濁しているが、該上澄みには微生物以外に、比重調整に用いた溶質や有機物や生物の残渣等が残っている可能性があるので、該溶質等を除去し更に微生物を精製するには、該上澄みを蒸留水等で約5〜10倍量に希釈して、密度を1.05g/ml程度にし、5000〜15000rpm、10〜30分間程度の遠心処理により、微生物相を沈澱させ、これを回収すれば、更に精製された微生物が回収できる。また、微生物が104〜105と少ない場合は、あらかじめPEG(ポリエチレングリコール)を20%程度になるように溶解させた後、遠心処理を行うと、回収効率が改善される。微生物数の計数をする場合等では、かかる回収された微生物を蒸留水等で適当に希釈し微生物濃縮液として用いることができる。なお、以上の操作は必要により繰り返し実施してもよい。
【0044】
一方、直流電圧をかける方法は、かけられた電界に応じて移動する性質を有する微生物が存在することに着目したもので、前述した酵素処理微生物懸濁液を必要に応じて希釈して、+と−の電極が配置された水槽に入れ、これら電極間に直流電圧をかけることで、これら電極の一方または両方に微生物を移動させ、その間に固形物を重力沈殿させて、これらを分離した状態を得たのちに、微生物を回収する方法である。この方法における懸濁液中の微生物濃度や電圧等の操作条件は、目的とする微生物の性質等によって選択される。
【0045】
例えば、電圧の印加条件としては、数十〜数百ボルトの直流電圧を数時間かける条件が採用できる。また、土壌粒子が自重で沈殿し分離しやすくなるように電極は泳動用水槽の上部に設置し、底から水面までの数センチ程度の高さを持たせる方がよい。また、泳動による温度上昇をできるだけ抑えるために、泳動用の水槽の容積はサンプルの量に関係なく数百ml程度であった方がよい。
【0046】
上記の精製回収工程によれば、固形物と微生物が混在している懸濁液から微生物を回収する方法において問題であった、通常の遠心分離法では遠心条件を決定するため予備実験が必要である上に微生物を回収する条件が確実にあるとは断言できない、という不都合な問題を、懸濁液に適当な溶質を解かす等により比重を高めてから遠心分離操作を行い、微生物より比重の大きいものを確実に沈殿除去させることによって、あるいは、微生物を含む懸濁液に直流電圧をかけて微生物を電極側に移動させ、その間に固形物を沈殿させ、これらを分離させた状態を得るところで、電極まわりの微生物を含む液を回収することによって、簡単な操作で効果的な微生物の分離回収が可能となる。これから更に微生物を精製するには、比重遠心法と同様に、蒸留水等で希釈し遠心処理すればよく、微生物は沈澱するので容易に回収することができる。
【0047】
次に、上記の微生物の分離精製回収方法を用いて、微生物個体数を計測する方法について説明する。この技術はバイオリアクタ内の微生物数の変化を把握し操作状況を把握する上で極めて有効である。従来の技術では微生物個体数の把握は、微生物が結合体を形成することから正確さを欠き、状況判断を的確に行うことができなかった。本発明の分離精製回収方法によれば、微生物はバラバラになっているので、特別な操作を施すことなく公知の計数測定法を採用しても正確に数の計測が可能となる。例えば、平板希釈法や染色法が代表的である。染色法の一例を挙げれば、まず、上述の分離精製回収方法により回収された微生物液を検査に必要なだけ濃縮(例えば107個/ml程度の菌濃度)した後、濃縮液にホルマリン液(4%程度)を等量添加して微生物を固定し、更に紫外線等で蛍光発色する色素で染色し、必要により共雑物を除去し、適当に希釈して血球計数盤上に滴下して蛍光顕微鏡で観察すれば、微生物数を正確にカウントすることができる。用いる色素等は公知のものでよく、特に限定されるものではない。
【0048】
また、上記の微生物の分離精製回収方法により単離された微生物から、該微生物の核酸を抽出、回収する方法について説明する。かかる微生物は高度に精製されているので、核酸を精製するために従来不可欠であった塩化セシウム平衡濃度勾配法やゲル濾過剤を用いた精製等、特別な処理を実施しなくても、制限酵素で消化できる程度の純度で微生物の核酸を回収することができる。従って、この方法は、上記の分離精製回収方法で得られた微生物を用いることに特徴があり、それ以降の抽出操作等は公知技術の応用により、適宜実施することができる。例えば微生物のDNAを抽出する場合は、酵素処理微生物懸濁液から比重遠心法等により得た微生物濃縮相を蒸留水等で希釈し遠心処理し得られた微生物濃縮沈澱物を用いて、この沈澱物にSDS等の界面活性剤を添加し微生物を溶菌した後、フェノールやクロロホルム処理でDNAを水相側に抽出し、次にエタノール沈澱を行えば微生物由来のDNAが回収できる。なお、懸濁液には微生物由来のRNAも存在するので、あらかじめRNaseで処理しておくとよい。また、RNAを抽出する場合には、同様の操作でDNaseを活性化しておけばよい。
【0049】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0050】
[実施例1]
土壌サンプル10g(湿重量:含水比81.4)のpHが4.6になるようにリン酸第一ナトリウムとリン酸第二ナトリウムを混合した約0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(あらかじめ2気圧120℃30分で滅菌)を15ml入れてブレンダーで30秒攪拌し、土壌懸濁液を作成した。この懸濁液を1ml取り(この中に含まれる土壌は500mg)、容積約5mlの蓋付き試験管に入れ、あらかじめ蒸留水1ml当りセルラーゼを主成分とする粉末酵素(糸状菌トリコデルマ・ビリデの生産するセルラーゼを主成分とする複合酵素:明治製菓社製、商品名『明治セルラーゼTP』)を20mg(セルラーゼ活性として12000U)溶解させ0.45μの孔径のフィルタで濾過して固形物を除去した酵素液1mlを、さきの蓋付き試験管に添加し、40℃の恒温室で2時間振とうした。
【0051】
その後、この混合液に3gのショ糖を添加して上澄が飽和するまで攪拌した。この時の比重は1.3以上である。この後、水溶液量が4cc程度になるように比重1.3のショ糖水溶液を加えて充分に攪拌した。
【0052】
次にこの遠心管をスイングロータにセットして、5万rpmの回転数で2時間遠心分離処理を行った。
【0053】
遠心後、上澄みのショ糖飽和溶液約3mlを回収し、20mlほどの蒸留水に希釈し、1万rpmの回転数で10分間遠心し沈殿物を回収した。この沈殿物を50μlの蒸留水に懸濁させ土壌微生物濃縮液とした。
【0054】
この濃縮液を50μlの4%のホルマリンで固定し、さらに紫外線を当てると蛍光を発する色素であるエチジウムブロミドで染色した。これを1時間静置した後、充分攪拌してから適当に希釈(100倍量)して蛍光顕微鏡で観察して、微生物がフロックを形成することなく浮遊おり、土壌粒子が混入していないことを確かめると同時に個体数を計数した。
その結果、土壌1g(湿重)から約3×108 個の菌が回収出来ることが確かめられた。
【0055】
また、同じ濃縮液を蛍光顕微鏡で観察したところ、図1に示すように微生物以外には0.1μm程度の微小粒子が多少観察されただけであった。さらに、高密度溶液のために微生物がひしゃげて観察できないということもなかった。
【0056】
[実施例2]
実施例1と同様の土壌懸濁液1mlを蓋付き試験管に入れ、実施例1と同様に蒸留水にセルラーゼを主成分とする粉末酵素(明治製菓社製、商品名『明治セルラーゼTP』)を1ml当たり40mgとプロテアーゼを主成分とする粉末酵素(天野製菓社製、商品名『プロテアラーゼAアマノ』)を1ml当たり100mg(プロテアーゼ活性として1000U)とを溶解させ濾過したものを試験管1本当たり0.5mlづつ添加して、40℃の恒温室で2時間振とうした。
【0057】
この後、この混合液に実施例1と同様にショ糖を入れて比重を1.3にして遠心分離処理を行い、遠心後、実施例1と同様に上澄みを回収し、蒸留水に希釈し、遠心し沈殿物を回収した。この沈殿物を500μlの1%SDS溶液に懸濁させ70℃で1時間加熱し液中の微生物を溶菌した。次にこの液からフェノールクロロホルム溶液を使ってDNAを抽出し、エタノールで沈殿させて回収した。このDNAを蒸留水に溶解させて土壌微生物DNA溶液とした。
【0058】
このDNA溶液をアガロースゲルで電気泳動したところ20kbp以上の長さのDNAが約5000ng程度回収された。
【0059】
また、このDNAに代表的な制限酵素であるBamHI とEcoRI を表1のように添加して2時間37℃に加温した後、電気泳動したところ、DNAが消化されて短くなり、5〜10kbp程度の長さになっていることが確かめられた。このことから、比重遠心法によって回収精製した微生物から溶菌抽出したDNAは、特別なDNA精製処理をしなくても制限酵素で消化できる純度であることが確かめられた。
【0060】
【表1】
表1 DNA消化条件
[実施例3]
実施例1と同様の土壌懸濁液6mlを6本の蓋付き試験管に分けて入れ、実施例1と同様に蒸留水にセルラーゼを主成分とする粉末酵素(明治製菓社製、商品名『明治セルラーゼTP』)を溶解させて濾過したものを添加して、40℃の恒温室で2時間振とうした。
この後、この土壌懸濁液を表2の緩衝液約200ml入った図2に示す容積約250mlの電気泳動槽に入れ、白金電極を介して100V(約50mA)の直流電圧をかけた。
【0061】
4時間後、土壌粒子が十分沈殿して上澄液が透明になったのを確認してから、プラス極側の白金線電極の付近の緩衝液約10mlをピペットで回収し遠心したところ、遠心管底部に沈殿物が認められた。この沈殿物を容積1.5mlのマイクロチューブに移し、実施例2と同様に土壌微生物DNA溶液を作成した。
【0062】
このDNA溶液をアガロースゲルで電気泳動したところ20kbp以上の長さのDNAが約150ng程度回収された。
【0063】
また、このDNAを実施例2と同様にBamHI とEcoRI で消化し、電気泳動したところ、DNAが消化されて短くなり、5〜10kbp程度の長さになっていることが確かめられた。このことから、電気泳動法によって回収精製した微生物から溶菌抽出したDNAは、特別なDNA精製処理をしなくても制限酵素で消化できる純度であることが確かめられた。
【0064】
【表2】
表2 電気泳動用緩衝液組成
[比較例1]
実施例1と同様の土壌懸濁液1mlを蓋付き試験管に入れ、実施例1と同様に蒸留水にセルラーゼを主成分とする粉末酵素(明治製菓社製、商品名『明治セルラーゼTP』)を1ml当たり40mgを溶解させ濾過したものを0.5ml添加して、40℃の恒温室で2時間振とうした。
その後、蓋付き試験管を5000rpmで30秒間軽く遠心して土壌粒子を沈殿除去し、上澄み液1.5mlを回収した。この上澄み液を15000rpmで5分間遠心したところ、遠心管底部に茶色っぽい沈殿物が認められた。この沈殿物を容積1.5mlのマイクロチューブに移し、実施例2と同様に土壌微生物DNA溶液を作成した。
【0065】
このDNA溶液をアガロースゲルで電気泳動したところ20kbp以上の長さのDNAが約150ng程度回収された。
【0066】
また、このDNAを実施例2と同様にBamHI とEcoRI で消化しで消化し、電気泳動したところ、消化前とまったく変わらず酵素が働いていないことが確かめられた。このことから、酸素分離法で微生物を分離しても、精製処理をしなければ回収DNAは不純物のために制限酵素で消化できないことが確かめられた。
【0067】
[その他の実施例]
上記の実施例の他、アミラーゼを主成分とする液状の酵素(ノボノルディスクバイオインダストリー社製、商品名『ターマミル』)を500μl(アミラーゼ活性として25000U)、該酵素と前述セルラーゼを主成分とする酵素との組合せ、プロテアーゼを主成分とする粉末酵素(天野製薬社製、商品名『プロテアーゼAアマノ』)を50mg(プロテアーゼ活性として500U)、該酵素と前述セルラーゼを主成分とする酵素との組合せ、又は、グルクロニダーゼを主成分をする粉末酵素(シグマ社製、商品名『アバロン アセトン パウダー』)を100mg(活性量は不明)、該酵素と上記酵素との組合せを、前述セルラーゼを主成分とする酵素に代えて用いて同様にして微生物の分離精製回収を行ったところ、同様の結果が得られた。特に、酵素を組合せて行ったものでは、分離できた微生物個体数が良好であった。また、酵素を用いないか、失活した酵素を用いたものでは、分離できる微生物個体数は5〜10%程度に過ぎなかった。
【0068】
また、土壌の懸濁液に代えて、菌体付着用担体として直径約1mmの多孔質ゼオライト(三興建装社製、商品名『レインボーサンド』)100gを含む培養液200mlを充填した容積約300mlのバイオリアクタを10日間運転しゼオライトに十分微生物が付着したリアクタ内から採取した10mlの微生物懸濁液(ゼオライトを含む)を、pHが4.6になるようにリン酸第一ナトリウムとリン酸第二ナトリウムを混合した約1Mのリン酸ナトリウム緩衝液1mlとともに容積約30mlの蓋付き試験管に入れ、実施例1と同様に処理して微生物を回収したところ、酵素を用いないものに比べ、約100〜200倍の微生物個体数を分離回収することができた。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、微生物が分泌した不溶性高分子有機物を分解する酵素を、微生物担持担体または他の微生物個体と結合した状態で存在する微生物系に作用させることにより、従来のように培養工程を経ることなく、結合物質である不溶性高分子有機物を効率的に分解することができ、また、該微生物の比重や電気泳動性を利用することにより、懸濁液中に分離された微生物を容易に精製回収することができるので、懸濁液やバイオリアクタ液等から培養条件の不明な又は特異的培養条件が必要な微生物をも極めて簡便、短時間に高収率、高純度で分離回収することが可能となる。
【0070】
また、微生物結合体に介在する結合物質は、微生物の種類により各種多糖類やタンパク質からなる不溶性高分子有機物で構成されており、これら有機物を有効に分解する酵素を選択し作用させることにより、微生物の分離効率を向上させることができる。かかる酵素に、好ましくはセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルクロニダーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼの1種以上を用いることにより、一層効率的な微生物個体の分離ができる。
【0071】
また、土壌等を上記分離精製回収方法の対象とすることにより、生存している可能性がある有用な微生物結合体から微生物個体を分離回収することが可能となる。また、バイオリアクタを上記分離精製回収方法の対象とすることにより、分離対象の有用な微生物結合体から微生物個体を分離回収することが可能となる。また、懸濁液の比重を微生物と担持担体の中間的なものに調整し、これを遠心して微生物担持担体を沈降させ、得られた上澄みから該微生物を回収してすることにより、微生物と担持担体との微妙な遠心条件の違いを予め調べて遠心機の操作条件を細かく設定する必要がなくなるので、簡単な操作で効率よく微生物を回収することが可能となる。ここで、懸濁液の比重を1.2〜1.5とすることにより、微生物と担持担体を一層効率的にかつ確実に分離することが可能となる。また、溶質を添加して比重を高めることにより、簡単に比重の調整が可能となり、好ましくは、溶質としてショ糖または塩化セシウムを用いることにより、微生物に悪影響を与えることなく効率的に分離することができる。
【0072】
また、前述の比重遠心法の他にも、懸濁液に直流電圧をかけることにより、微生物を電極側に移動させ、その間に担持担体を沈澱させ、これらを分離させた状態を得たところで、電極周りの微生物を含む液を回収するができるので、簡単な操作で効果的な微生物の分離回収が可能となる。
【0073】
また、上記の分離精製回収方法を用いることにより、結合体を形成している微生物個体数を平板希釈法または染色法により簡便にかつ正確に計測することができる。
【0074】
また、上記の方法により分離精製回収された微生物を用いて該微生物からDNA等の核酸を抽出回収することにより、不純物を取り除くための処理をしなくても制限酵素で消化できる程度の純度で核酸を回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1で得た遠心上澄み中の微生物を含む粒子の形態を示す図面代用の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)である。
【図2】本発明の実施例3で使用した電気泳動用の水槽の構成を示す縦断面図である。
Claims (10)
- 微生物個体が、該微生物個体の分泌した多糖類分解酵素またはペクチン質分解酵素の1種または2種以上の分解酵素によって分解可能な不溶性高分子有機物によって該微生物以外の固形物と結合した状態で分散媒中に存在する微生物懸濁液から、該微生物個体を精製回収する方法であって、
前記微生物懸濁液が、土壌、活性汚泥または水底泥の懸濁液、あるいは微生物の固定化担体を用いたバイオリアクタ内から得られる微生物が結合した固定化担体を含む微生物懸濁液であり、該微生物懸濁液に前記多糖類分解酵素またはペクチン質分解酵素の1種または2種以上の分解酵素を作用させ、結合状態にある微生物個体を分離して酵素処理微生物懸濁液を得る工程と、
該酵素処理微生物懸濁液に含まれる微生物個体、該微生物個体以外の固形物、及び分散媒の比重差を利用して、該酵素処理微生物懸濁液から該微生物個体を精製回収するか、あるいは該酵素処理微生物懸濁液に含まれる微生物個体の電気泳動性を利用して該酵素処理微生物懸濁液から該微生物個体を精製回収する工程と、
を有する
ことを特徴とする精製回収方法。 - 前記分解酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルクロニダーゼ、アミラーゼ及びペクチナーゼの少なくとも1つである請求項1に記載の精製回収方法。
- 前記比重差に基づく微生物個体の精製回収が、前記酵素処理微生物懸濁液の比重を、該酵素処理微生物懸濁液に含まれる微生物個体の比重と同じかそれよりも高く、かつ該微生物固体以外の固形物の比重よりも低く調整した後、これを遠心して微生物固体以外の固形物を沈降させ、得られた微生物個体が懸濁した上澄みから該微生物個体を回収して行われる請求項1または2に記載の精製回収方法。
- 前記酵素処理微生物懸濁液の比重が、1.2〜1.5に調整される請求項3に記載の分離精製回収方法。
- 前記酵素処理微生物懸濁液の比重が、該酵素処理微生物懸濁液に比重調整用の溶質を添加することにより調整される請求項3または4に記載の精製回収方法。
- 前記溶質がショ糖または塩化セシウムである請求項5に記載の精製回収方法。
- 前記電気泳動性に基づく微生物個体の精製回収が、前記酵素処理微生物懸濁液に直流電圧をかけてプラス極またはマイナス極側に移動した微生物個体を回収して行われる請求項1または2に記載の精製回収方法。
- 請求項1乃至7のいずれか一項記載の精製回収方法により分離精製回収された微生物個体を含む回収液を用いて、平板希釈法または染色法により前記微生物懸濁液中の微生物個体数を計測する微生物個体数の計測方法。
- 請求項1乃至8のいずれか一項記載の精製回収方法により分離精製回収された微生物を含む液から、該微生物の核酸を抽出回収する微生物の核酸回収方法。
- 前記核酸がDNAである請求項9に記載の核酸回収方法。
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