JP3514810B2 - 電圧依存性非直線抵抗体の製造方法 - Google Patents

電圧依存性非直線抵抗体の製造方法

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JP3514810B2
JP3514810B2 JP08223694A JP8223694A JP3514810B2 JP 3514810 B2 JP3514810 B2 JP 3514810B2 JP 08223694 A JP08223694 A JP 08223694A JP 8223694 A JP8223694 A JP 8223694A JP 3514810 B2 JP3514810 B2 JP 3514810B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電圧依存性非直線抵抗
体に関する。
【0002】
【従来の技術】印加電圧によって著しく抵抗値が変わ
り、電圧−電流特性が非直線性を示す固体素子として電
圧依存性非直線抵抗体(バリスタ)がある。異常高電圧
(サージ)吸収や電圧安定化等の用途があり、リレー接
点の火花消去、モーターブラシノイズ除去、異常電圧の
抑制等に多用されている。
【0003】バリスタは、電圧電流特性の非線形性を示
す非線形係数(α)が、大きいほどバリスタ性が強く、
すぐれた特性をもつ。
【0004】バリスタの一種に、半導体化したペロブス
カイト型構造をもつセラミックバリスタがある。例えば
主成分が、SrTiO3 の組成をもつもの、またはその
Srの一部をBa、Ca、Pb等のうち1種類以上で置
換した組成をもつチタン酸系複合酸化物、あるいはさら
にTiの一部をZr等で置換した組成をもつ複合酸化物
等が知られている。
【0005】このようなバリスタは、一般に原料の混
合、仮焼、粉砕、成形、還元焼成、再酸化の工程を経て
製造される。このようなバリスタにおいて、αを大きく
するために、組成や原料の検討、添加物の検討あるいは
製造時の条件の検討等種々の提案がなされている。
【0006】本出願人は、特願平5−29923号中
で、還元焼成する際に、焼成雰囲気中の酸素分圧Po2
を1×10-13 〜1×10-15atmに制御して得られるバ
リスタを提案した。この提案によれば、Po2 をこの範
囲に制御して還元焼成することで、組成のバラツキが小
さく、得られた焼成体のグレインがより均一となり、こ
の結果、バリスタ電圧やα値等が向上したすぐれたバリ
スタが得られる。
【0007】しかし、さらにα値の大きな、すぐれたバ
リスタが望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、非直
線係数αが高い電圧依存性非直線抵抗体とその製造方法
とを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記
(1)〜(12)の本発明により達成される。 (1) Sr、Ba、Ca、MgおよびPbの1種以上
と、Ti、ZrおよびSnの1種以上とを含む複合ペロ
ブスカイト型酸化物と、ドナー成分の1種以上と、Si
とを含有する電圧依存性非直線抵抗体を製造する方法で
あって、前記組成の粉末を成形し、成形体を還元焼成し
た後、再酸化処理を行なって電圧依存性非直線抵抗体を
得るに際し、前記還元焼成を1×10 -11 〜1×10
-15 atm の酸素分圧下で行ない、前記還元焼成と前記
酸化処理との間において、1×10 -17 atm 以下の酸素分
圧下で還元処理を施すことにより、任意の切片を透過型
電子顕微鏡により観察したとき、粒界に、他とは輝度の
異なる粒界層が確認され、かつ任意の試料切片面の粒界
の長さに占めるファセット粒界の長さが10%以下であ
る電圧依存性非直線抵抗体を得る電圧依存性非直線抵抗
体の製造方法。 (2) 前記粒界層の厚さが5〜50A である上記
(1)の電圧依存性非直線抵抗体の製造方法。 (3) 前記粒界層がSiリッチである上記(1)また
は(2)の電圧依存性非直線抵抗体の製造方法。 (4) 前記複合ペロブスカイト型酸化物が、式(Sr
1-x-y-z Bax Cay A’zm (Ti1-p B’p )O
3 [ただし、A’はMgおよび/またはPb、B’は、
Zrおよび/またはSnである。]と表わしたとき、0
≦x≦0.9、0.05≦y≦0.9、0≦z≦0.1
[ただし、x+y+z<1]、0≦p≦0.1、0.9
5≦m≦1.07 の組成を有する上記(1)〜(3)
のいずれかの電圧依存性非直線抵抗体の製造方法。 (5) 前記ドナー成分が、Nb、Ta、Y、W、L
a、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以上であ
る上記(1)〜(4)のいずれかの電圧依存性非直線抵
抗体の製造方法。 (6) 前記ドナー成分を、それぞれNb25 、Ta
25 、Y23 、WO3 、La23 、Ce23
Pr23 、Nd23 、Sm23 、Eu23 、G
23 、Tb23 、Dy23 、Ho23 、Er
23 、Tm23 、Yb23 およびLu23 に換
算したとき、ドナー成分の含有量が、総計で0.001
〜5wt%である上記(5)の電圧依存性非直線抵抗体
製造方法。 (7) 前記SiをSiO2 に換算したとき含有量が
0.001〜2wt%である上記(1)〜(6)のいずれ
かの電圧依存性非直線抵抗体の製造方法。 (8) さらに、微量成分として、Mn、Co、Ni、
Cu、Zn、Al、Fe、Cr、Sb、BiおよびVの
1種以上を含む上記(1)〜(7)のいずれかの電圧依
存性非直線抵抗体の製造方法。 (9) 前記微量成分を、それぞれMnO、CoO、N
iO、CuO、ZnO、Al23 、Fe23 、Cr
23 、Sb23 、Bi23 およびV25 に換算
したとき、これらのうち1種以上の含有量が、総計で
0.001〜5wt%である上記(8)の電圧依存性非直
線抵抗体の製造方法。 (10) 前記還元処理温度が、800〜1400℃
である上記(1)〜(9)のいずれかの電圧依存性非直
線抵抗体の製造方法の製造方法。 (11) 前記還元処理時間が、5分〜12時間であ
る上記(1)〜(10)のいずれかの電圧依存性非直線
抵抗体の製造方法。 (12) 前記還元焼成温度が、1200〜1500
℃である上記(1)〜(11)のいずれかの電圧依存性
非直線抵抗体の製造方法。
【0010】
【作用】本発明のバリスタは、還元焼成工程と再酸化処
理工程との間に、1×10-15atm以下のPo2 で還元処
理を施す工程を有する方法で製造される。この還元処理
を施すことにより、バリスタの任意の切片を透過型電子
顕微鏡により観察したとき、粒界に他とは輝度の異な
る、より白色味の強い粒界層が明瞭に確認され、任意の
試料切片面の粒界の長さに占めるファセット粒界の長さ
が10%以下となり、非直線係数αが大きなすぐれた特
性を有するバリスタが得られる。
【0011】
【具体的構成】以下、本発明の具体的構成について詳細
に説明する。
【0012】本発明のバリスタは、Sr、Ba、Ca、
MgおよびPbの5種の元素のうちの1種以上とTi、
ZrおよびSnの3種の元素のうちの1種以上とを含む
複合ペロブスカイト型酸化物と、ドナー成分の1種以上
と、Siとを含有する。これらのうち、SrおよびC
a、より好ましくはSr、BaおよびCaを必須に含
み、またTiを必須に含むものが好ましい。
【0013】前記複合ペロブスカイト型酸化物の組成
は、式(Sr1-x-y-z Bax Cay A’zm (Ti
1-p B’p )O3 [ただし、A’はMgおよび/または
Pb、B’は、Zrおよび/またはSnである。]と表
わしたとき、xが、好ましくは0≦x≦0.9、より好
ましくは0.1≦x≦0.7、特に好ましくは0.3≦
x≦0.4である。xがこの範囲より大きすぎるとαが
小さくなりやすくなる。また、xが0.1程度以下で
は、バリスタ電圧(E10)の温度係数が負になる傾向が
ある。
【0014】yは、好ましくは0.05≦y≦0.9、
より好ましくは0.1≦y≦0.5、特に好ましくは
0.3≦y≦0.4である。yがこの範囲より大きすぎ
ても小さすぎてもαが小さくなりやすくなる。
【0015】zは、好ましくは0≦z≦0.1、より好
ましくは0≦z≦0.05である。zが大きすぎるとα
が小さくなりやすくなる。なお、zは、MgとPbとの
合計を示す。
【0016】さらに、x+y+zは、好ましくはx+y
+z<1で、より好ましくは0.1≦x+y+z≦0.
9、である。Srが含まれないと、結晶粒径内の比抵抗
が高くなりすぎるため、好ましくない。
【0017】また、pは、好ましくは0≦p≦0.1、
より好ましくは0≦z≦0.05である。pが大きすぎ
るとαが小さくなりやすい。なお、pは、ZrとSnと
の合計を示す。
【0018】また、mは、好ましくは0.95≦m≦
1.07、より好ましくは1.01≦m≦1.04、特
に好ましくは1.02≦m≦1.03である。mがこの
範囲より大きすぎても、また小さすぎても、均一な結晶
粒をもち、かつ緻密な焼結体を得られにくくなる。
【0019】ドナー成分として、好ましくはNb、T
a、Y、W、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、G
d、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuを
1種以上含む。このようなドナー成分を、それぞれNb
25 、Ta25 、Y23、WO3 、La23
Ce23 、Pr23 、Nd23 、Sm23 、E
23 、Gd23 、Tb23 、Dy23 、Ho
23 、Er23 、Tm23 、Yb23 およびL
23 に換算したとき、これらのうち1種以上の含有
量が、好ましくは総計で0.001〜5wt%、より好ま
しくは総計で0.01〜3wt%である。これらの元素
は、焼結体の半導体化等のために加えるもので、少なす
ぎると還元焼成体の導電率の低下が不十分となり、一
方、多すぎると、反応性や焼結性に悪影響を及ぼすため
好ましくない。
【0020】Siは、SiO2 に換算したとき、好まし
くは0.001〜2wt%より好ましくは0.01〜1wt
%含有する。Siは焼結助剤として添加するもので、少
なすぎると均一な結晶粒をもつ緻密な焼結体が得られに
くくなり、一方、多すぎると、αが低下しやすくなる。
【0021】さらに、本発明の電圧依存性非直線抵抗体
は、微量成分として、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、
Al、Fe、Cr、Sb、BiおよびVの1種以上を含
むことが好ましい。これら微量成分の添加量は、それぞ
れMnO、CoO、NiO、CuO、ZnO、Al2
3 、Fe23 、Cr23 、Sb23 、Bi23
およびV25 に換算したとき、これらのうち1種以上
の含有量が、総計で好ましくは0.001〜5wt%、よ
り好ましくは0.005〜2wt%である。これらの元素
は、αの改善、E10の温度特性改善等のために加えるも
ので、少なすぎるとαおよびE10が小さくなりやすく、
一方、多すぎると、正常な焼結体が得られない。
【0022】さらに、これらの組成物の他に、通常例え
ば原料由来あるいは製造装置由来等による、Na2 CO
3 、K2 CO3 、P25 等が、0.2wt%以下程度含
まれていてもよい。
【0023】本発明の電圧依存性非直線抵抗体は、焼成
により前記組成となる試料混合物を仮焼、粉砕、成形、
還元焼成、還元処理そして再酸化の順に処理して製造さ
れる。このとき、還元処理を酸素分圧(Po2 )が1×
10-15atm以下で施すことで本発明の電圧依存性非直線
抵抗体が得られる。
【0024】用いる原料には特に制限はないが、通常、
各元素それぞれの原料粉末を混合して用いる。この際原
料粉末は、酸化物または後の焼成により酸化物となるも
のである。Sr、Ba、CaおよびMg等の元素を含む
原料粉末としては、通常、炭酸塩を用いればよい。ま
た、Ti、Pb、ZrおよびSnを含む原料粉末として
は、酸化物を用いればよいが、その他、炭酸塩、水酸化
物、硝酸塩、塩化物等を用いることもできる。これらの
原料粉末の平均粒径は、0.1〜10μm 、より好まし
くは0.5〜5μm である。これらの元素を含む原料粉
末の平均粒径がこの範囲より大きすぎると、組織の均一
な反応物を得るのが困難となり、一方小さすぎるもの
は、均一な混合物を得ることが難しく、特性のバラツキ
を生じやすくなる。
【0025】さらに、Nb、Ta、Y、W、La、C
e、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、H
o、Er、Tm、Yb、Lu、Si、Mn、Co、N
i、Cu、Zn、Al、Fe、Cr、Sb、Biおよび
V等の元素を含む原料粉末としては、酸化物を用いれば
よいが、その他、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等
を用いることもできる。また、特に、混合割合が少ない
成分は、あらかじめ水等により溶液にするか、あるいは
スラリー状としたものを用いることで、混合の均一性を
高めることができる点では好ましい。
【0026】なお、原料として、SrTiO3 、BaT
iO3 、CaTiO3 等のペロブスカイト型酸化物の粉
末を用いてもよい。この場合、Aサイト成分やBサイト
成分やドナー成分さらにSi等の他の添加物として、酸
化物や炭酸塩等の粉末を用い、最終組成が前記組成とな
るように混合したものを後述する仮焼を行なわず、バイ
ンダとともに成形して還元焼成を行なえばよい。
【0027】これらの原料は、粉末を用いる場合には、
平均粒径が、好ましくは0.1〜10μm 、より好まし
くは0.3〜1μm である。これらの元素を含む原料粉
末の平均粒径がこの範囲より大きすぎると、均一な結晶
粒界組成が得られず特性のバラツキの原因となり、一方
小さすぎるものは均一な混合が困難で、特性のバラツキ
を生じやすくなる。
【0028】原料として、前記ペロブスカイト型酸化物
の粉末を用いない場合、前記のような原料粉末を、最終
組成が前記組成となるように秤量して混合する。混合方
法には、特に制限はないが、より高い混合度が得られる
ことから、通常は、溶媒と共に湿式混合することが好ま
しい。この場合、溶媒としては、水、低級アルコール
類、トルエン等を単独でまたは2種以上を混合して用い
ればよい。
【0029】このときの混合に用いる装置等にも特に制
限はなく、他成分の混入がなく、混合する成分が十分分
散するものであればどのようであっても良い。また、混
合する時間等についても、用いる混合方法および製造工
程等の都合により適宜選択すればよいが、混合方法とし
ていわゆるバッチ式を用いる場合は、通常1〜20時間
程度である。
【0030】次いで、得られた混合物のスラリーを、乾
燥機で乾燥する。このとき、乾燥時間を短縮するため
に、あらかじめスラリーを濾過・脱水してもよい。得ら
れた混合物を乾燥の後、仮焼を行なう。仮焼は、110
0〜1250℃で、1〜3時間程度行えばよい。
【0031】得られた仮焼物を粗粉砕の後、平均粒径
0.5〜2μm に微粉砕する。次いで、得られた粉末
に、通常は、バインダー、水、pH調整剤、保湿剤等を
必要に応じて加えてホモジナイザー等を用いて混合す
る。バインダーとしては、通常ポリビニルアルコール
(PVA)等を用いればよい。
【0032】次に、この混合物を、成形密度が2.5〜
3.5g/cm3 程度となるように成形する。さらに、得ら
れた成形物を400〜600℃程度で、2時間程度の脱
脂処理の後、還元焼成を行なう。
【0033】還元焼成は、1〜20%の水素を含む窒素
ガス雰囲気中で、酸素分圧(Po2 )を、1×10-11
〜1×10-15 atm 、より好ましくは1×10-12 〜1
×10-14 atm に制御し、焼成温度は、好ましくは12
00〜1500℃、より好ましくは1300〜1400
℃で、焼成時間は、好ましくは1〜4時間、より好まし
くは2〜3時間行なう。
【0034】Po2 がこの範囲より高すぎると、異常粒
成長が多く生じ、αやE10等のバリスタ特性のバラツキ
や低下の原因となりやすい。Po2 がこの範囲より低す
ぎると、粒成長が抑えられやすく、α値が小さくなりや
すい。
【0035】また、焼成温度がこの範囲より高すぎた
り、焼成時間がこの範囲より長すぎたりすると粒成長が
過度となり、α値が小さくなったりE10値の低下やバラ
ツキの原因となる。また、焼成温度がこの範囲より低す
ぎたり、焼成時間がこの範囲より短すぎたりすると、磁
器としての緻密化が不十分となりやすい。
【0036】本発明の製造方法では、還元焼成の後、再
酸化処理の前に還元処理を施す。還元処理の酸素分圧
(Po2 )は、1×10-17atm以下である。また、Po
2 の下限は、通常1×10-21 atm 程度である。
【0037】Po2 を前記範囲として本発明の還元処理
を施すことで、後述する再酸化処理後に非直線係数αの
大きなバリスタが得られる。また、この還元処理を施し
て得られたバリスタは、任意の切片をTEMにより観察
したとき、粒界に、他とは輝度の異なる粒界層が確認さ
れ、任意の試料切片面の粒界の長さに占めるファセット
粒界の長さが10%以下となる。
【0038】還元処理のPo2 が前記範囲より高いと、
本発明の実質的な効果が得られず、αが大きくならな
い。また、このようなバリスタの任意の切片をTEMに
より観察すると、粒界の長さに占めるファセット粒界の
長さが10%以上となる。
【0039】還元処理の温度は、好ましくは800〜1
400℃、より好ましくは900〜1200℃、特に好
ましくは1050〜1150℃である。また、還元処理
の時間は、好ましくは5分〜12時間、より好ましくは
30分〜6時間、特に好ましくは1〜4時間である。処
理温度が高すぎても、また低すぎても、さらに処理時間
が長すぎても、短すぎても本発明の実質的な効果が得ら
れず、αが大きくなりにくい。
【0040】還元処理は、例えばトンネル炉やバッチ炉
を用いて還元焼成工程と連続して行ってもよく、また、
例えばバッチ炉を用いて還元焼成と還元処理とを独立し
てそれぞれ行なってもよい。
【0041】還元焼成工程や還元処理工程でのPo2
調整方法は、水蒸気−水素−酸素平衡を利用して、次の
ように行えばよい。焼成雰囲気として使用する1〜20
%の水素を含む窒素ガスを、通常1000〜3000cm
3/min.の速度で、例えば0〜35℃程度の範囲で、一定
温度に制御した水層中を通過させる。このとき、前記の
水素濃度、水層温度の設定値範囲で調製したガスを、例
えば1400℃の炉内に導入したとき、Po2 =1×1
-8〜1×10-13atm程度の任意のPo2 をもつ焼成雰
囲気が得られる。また、さらに低いPo2 は、前記混合
ガスに、水層中を通過させない乾燥ガスを計算量混合す
ればよい。このようにして得られた前記混合ガス中のP
2 は、露点計を用い、得られた露点より、混合ガス中
に含有する水分量を測定し、計算により求めることで確
認できる。
【0042】このようにして前記組成を持つ半導体化複
合ペロブスカイト型セラミックの焼結体が得られる。得
られた半導体化セラミック焼結体を、目的に応じた適当
なバリスタ電圧(E10)が得られるように、通常800
〜1200℃の温度で3〜5時間、空気中で再酸化処理
を行う。このような処理により、表層部分に厚さ10〜
500μm の再酸化層が形成される。このような再酸化
層は、厚いとE10値が大きくなり、薄いとE10値が小さ
くなることから、製品として要求される特性に合わせ
て、その厚さを選択すればよい。本発明の電圧依存性非
直線抵抗体のバリスタ特性は、この再酸化層において発
現する。
【0043】本発明のバリスタは、通常、緻密かつ均一
な微細構造をもち、グレインの平均粒径は、50μm 以
下、通常1〜50μm である。
【0044】一般に、非直線係数(α)やバリスタ電圧
(E10)等のバリスタ特性は、グレインや粒界等の微細
構造が影響するが、本発明のバリスタの任意の切片を調
製し、この切片を透過型電子顕微鏡(TEM)により観
察すると、粒界に他と輝度の異なる粒界層が確認され、
任意の試料切片面の粒界の長さに占めるファセット粒界
の長さが10%以下である。
【0045】このようなTEM画像において、粒界に、
他と輝度の異なる粒界層として確認される部分は、一般
には明視野で観察したとき、周囲と比較して特に明度の
高い白色部分であり、本発明の方法で製造されたバリス
タでは、粒界に、周囲と比較してとくに明度の高い部分
が白色味の強い粒界層として確認される。なお、このよ
うな他より白色の粒界層は、調製した切片面と粒界面と
が垂直または垂直に近い場合に、特に明瞭に認められ
る。
【0046】この、他より白色の粒界層の厚さは、5〜
50A 、特に5〜20A である。このような粒界層は、
還元処理を施さないバリスタでは認められない。さら
に、この粒界層は、グレイン内部と比較して、Siリッ
チである。すなわち、エネルギー分散型X線検出器を備
えたTEM(TEM−EDS)を用いて、他より白色の
粒界層とグレインとを含む部分と、粒界層を含まずグレ
イン内部のみの部分とのSi含有量を分析し、比較した
とき、粒界層を含む部分の分析値の方がSi含有量が高
い値が得られる。このことから、粒界層が、より高い濃
度でSiを含有し、Siリッチとなっていることがわか
る。
【0047】また、本発明のバリスタは、粒界の長さに
占めるファセット粒界の長さが10%以下、好ましくは
5%以下、より好ましくは1%以下である。また、特に
好ましくは、明確なファセット粒界が認められず、粒界
の全域にわたって前記の白色味の強い粒界層を有するこ
とである。ファセット粒界部分では、隣接するグレイン
の結晶格子面が互いに直接接触して粒界面を形成してい
るが、一方、粒界に他より白色の粒界層が存在する部分
では、隣接するグレインの結晶格子面が直接接触する部
分はほとんどない。したがって、本発明のバリスタは、
各グレインがSiリッチの粒界層を介して存在してい
る。粒界がこのような微細構造をもつことで、理由は明
確ではないが、本発明のバリスタは大きなαをもつと考
えられる。
【0048】試料切片面における、粒界の長さに占める
ファセット粒界の長さの割合が、前記より多いと、得ら
れたバリスタのαが小さくなる。
【0049】なお、本明細書においてファセット粒界と
は、周期的もしくは非周期的に配列する複数の面から構
成されたファセット構造をもつ粒界を示す。本明細書に
おいて記述するファセット粒界とは、ファセット構造を
示す複数の面のうちの1つの面の断面長が、10〜50
00A 程度のものである。
【0050】バリスタのαは、以下のようにして測定す
ればよい。
【0051】バリスタ表面絶縁層の上層に、Ag、Cu
等の電極材を塗布し、通常400〜800℃で、10〜
30分間焼付けて電極を形成する。この電極に、10m
sec.のパルス電圧を印加し、徐々に印加電圧を高くし
て、1mAの電流が流れたときの電圧をE1 、10mAの電
流が流れたときの電圧をE10とする。このE1 およびE
10を用いて下記の式により、αを求めることができる。 α=1/{log(E10/E1 )}
【0052】このようにして測定したαの値は、用途に
より、また、製品のグレードにより異なるが、高ければ
高い程好ましい。なお、本明細書中で、非直線係数αが
大きいバリスタとは、組成や還元焼成までの製造方法が
同一であって、同一のバリスタ電圧(E10)で、より大
きなαをもつバリスタ特性を示す。
【0053】
【実施例】以下、本発明を実施例によって具体的に説明
する。
【0054】実施例1 最終組成が式(Sr0.35Ba0.35Ca0.301.026 Ti
3 となるようにSrCO3 、BaCO3 、CaCO3
およびTiO2 を秤量し、この混合物を98.8wt%、
Nb25 を1.07wt%、SiO2 を0.12wt%お
よびMnOを0.01wt%となるようにそれぞれを秤
量、湿式混合を行なった。
【0055】得られた混合物を脱水、乾燥後、1200
℃、2時間、大気中で仮焼を行ない、得られた仮焼体を
粗粉砕、微粉砕して微粉末を得、この微粉末にバインダ
を加えて成形した後、温度1400℃、酸素分圧(Po
2 )=1×10-12atmの条件で2時間還元焼成し、続け
て1100℃、Po2 =1×10-17atmの条件で2時間
還元処理を行なった。
【0056】次いで、900℃、4時間、空気中で再酸
化処理を行ない、バリスタを形成し、試料1を得た。
【0057】実施例2 還元焼成時のPo2 を1×10-13atmとしたほかは実施
例1と同様にして試料2を得た。ただし、再酸化処理
は、実施例1とほぼ同じE10が得られる温度(900
℃)とした。
【0058】実施例3 還元焼成時のPo2 を1×10-15atmとしたほかは実施
例1と同様にして試料3を得た。ただし、再酸化処理
は、実施例1とほぼ同じE10が得られる温度(900
℃)とした。
【0059】実施例4 還元処理時のPo2 を1×10-19atmとしたほかは実施
例1と同様にして試料4を得た。ただし、再酸化処理
は、実施例1とほぼ同じE10が得られる温度(900
℃)とした。
【0060】実施例5 実施例1と同一の組成の混合物を用い、実施例1と同じ
方法で還元焼成まで行ない、室温まで冷却の後、大気中
に取り出して放置した。次に実施例1と同じ条件で還元
処理を行なって試料5を得た。ただし、再酸化処理は、
実施例1とほぼ同じE10が得られる温度(900℃)と
した。
【0061】比較例1 還元処理時のPo2 を1×10-14atmとしたほかは実施
例1と同様にして試料6を得た。ただし、再酸化処理
は、実施例1とほぼ同じE10が得られる温度(925
℃)とした。
【0062】比較例2〜5 還元焼成時のPo2 を1×10-12atm、1×10-13at
m、1×10-15atmおよび1×10-18atmとし、さらに
還元処理を行わなず、その他は実施例1と同じ組成、方
法で試料7〜10を得た。ただし、再酸化処理は、実施
例1とほぼ同じE10が得られる温度(試料7〜9:90
0℃、試料10:975℃)とした。
【0063】得られた試料1〜10について、それぞれ
の試料あたり9例のE10およびE1を測定し、平均α値
およびE10の変動係数(C.V.)を算出した。なお、C.V.
値は下記数1式により求めた。
【0064】
【数1】
【0065】試料1〜10について、還元焼成時Po
2 、還元処理時のPo2 および測定結果をまとめて表1
に示す。
【0066】
【表1】
【0067】表1より、本発明の還元処理を行なった試
料1〜5では、大きなα値が得られることがわかる。ま
た、還元焼成時のPo2 を1×10-12atmおよび1×1
-1 3atmとした、比較的Po2 の高い試料において、特
にα値の向上効果が著しい。
【0068】また、試料1および試料7を用いて切片を
調製し、TEMにより得られた、本発明および比較のバ
リスタのグレインおよび粒界を示す図面代用写真を図1
(a)、(b)および図2(a)、(b)に示す。な
お、それぞれの(a)および(b)は、倍率が異なる図
面代用写真である。本発明のバリスタのグレインおよび
粒界を示す図1(a)および(b)では、グレイン周囲
の粒界に、他とは輝度が異なる白色層が認められ、ファ
セット粒界が認められない。一方、比較を示す図2
(a)および(b)では、粒界は、すべてファセット粒
界となっている。試料2〜5でも白色層が存在し、ファ
セット粒界は認められなかった。一方、試料6、8〜1
0はともに10%をはるかにこえるファセット粒界が出
現していた。
【0069】実施例6 最終組成が式(Sr0.90Ca0.101.030 TiO3 とな
るようにSrCO3 、CaCO3 およびTiO2 を秤量
し、この混合物を98.40wt%、Nb25を1.4
5wt%、SiO2 を0.15wt%となるようにそれぞれ
を秤量、湿式混合を行なった。
【0070】得られた混合物を脱水、乾燥後、1200
℃、2時間、大気中で仮焼を行ない、得られた仮焼体を
粗粉砕、微粉砕して微粉末を得、この微粉末にバインダ
を加えて成形した後、温度1400℃、酸素分圧(Po
2 )=1×10-12atmの条件で2時間還元焼成し、続け
て1100℃、Po2 =1×10-17atmの条件で2時間
還元処理を行なった。
【0071】次いで、900℃、4時間、空気中で再酸
化処理を行ない、バリスタを形成し、試料11を得た。
【0072】比較例6 還元処理を行わず、ほかは実施例6と同様にして試料1
2を得た。
【0073】得られた試料11および12について、そ
れぞれの試料あたり9例のE10およびE1 を測定し、平
均α値およびE10の変動係数(C.V.)を算出した。測定
結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】実施例7 最終組成が式(Sr0.425 Ba0.250 Ca0.325 )Ti
3 となるようにSrTiO3 、BaTiO3 およびC
aTiO3 を秤量し、この混合物を99.10wt%、N
25 を0.30wt%、SiO2 を0.50wt%、C
uOを0.10wt%となるようにそれぞれを秤量、湿式
混合を行なった。
【0076】得られた混合粉末にバインダを加えて成形
した後、温度1350℃、酸素分圧(Po2 )=1×1
-12atmの条件で3時間還元焼成し、続けて1100
℃、Po2 =1×10-17atmの条件で2時間還元処理を
行なった。
【0077】次いで、1000℃、3時間、空気中で再
酸化処理を行ない、バリスタを形成し、試料13を得
た。
【0078】比較例7 還元処理を行わず、ほかは実施例7と同様にして試料1
4を得た。ただし、再酸化処理は、実施例7とほぼ同じ
10が得られる温度(1000℃)とした。
【0079】得られた試料13および14について、そ
れぞれの試料あたり9例のE10およびE1 を測定し、平
均α値およびE10の変動係数(C.V.)を算出した。測定
結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】実施例8 最終組成が式(Sr0.35Ba0.35Ca0.29Mg0.005
0.0051.026 (Ti0.99Zr0.005 Sn0.005 )O
3 となるようにSrCO3 、BaCO3 、CaCO3
MgCO3 、PbO、TiO2 、ZrO2 およびSnO
2 を秤量し、この混合物を用い、他は実施例1と同様に
して試料15を得た。ただし、再酸化処理温度は915
℃とした。
【0082】比較例8 還元処理を行わず、ほかは実施例6と同様にして試料1
6を得た。得られた試料15および16について、それ
ぞれの試料あたり9例のE10およびE1 を測定し、平均
α値およびE10の変動係数(C.V.)を算出した。測定結
果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】表2、表3および表4に示す通り、本発明
の還元処理により、一層大きなα値が得られることがわ
かる。なお、試料11、13、15では白色層が認めら
れ、ファセット粒界は認められなかったが、試料12、
14、16では10%をこえるファセット粒界が出現し
ていた。
【0085】
【発明の効果】本発明の方法により製造されたバリスタ
は、同一のバリスタ電圧で、より大きなαをもつ。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)および(b)は、セラミック材料の組織
を表わす図面代用写真であって、本発明のバリスタのグ
レインおよび粒界を表わすTEM写真である。
【図2】(a)および(b)は、セラミック材料の組織
を表わす図面代用写真であって、比較のバリスタのグレ
インおよび粒界を表わすTEM写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−201503(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01C 7/00 - 7/22

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Sr、Ba、Ca、MgおよびPbの1
    種以上と、 Ti、ZrおよびSnの1種以上とを含む複合ペロブス
    カイト型酸化物と、 ドナー成分の1種以上と、 Siとを含有する電圧依存性非直線抵抗体を製造する方
    法であって、 前記組成の粉末を成形し、成形体を還元焼成した後、再
    酸化処理を行なって電圧依存性非直線抵抗体を得るに際
    し、前記還元焼成を1×10 -11 〜1×10 -15 atm の酸素
    分圧下で行ない、 前記還元焼成と前記再酸化処理との間
    おいて、1×10 -17 atm 以下の酸素分圧下で還元処理
    を施すことにより、任意の切片を透過型電子顕微鏡によ
    り観察したとき、粒界に、他とは輝度の異なる粒界層が
    確認され、かつ任意の試料切片面の粒界の長さに占める
    ファセット粒界の長さが10%以下である電圧依存性非
    直線抵抗体を得る電圧依存性非直線抵抗体の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記粒界層の厚さが5〜50A である請
    求項1の電圧依存性非直線抵抗体の製造方法
  3. 【請求項3】 前記粒界層がSiリッチである請求項1
    または2の電圧依存性非直線抵抗体の製造方法
  4. 【請求項4】 前記複合ペロブスカイト型酸化物が、式
    (Sr1-x-y-z Bax Cay A’zm (Ti1-p B’
    p )O3 [ただし、A’はMgおよび/またはPb、
    B’は、Zrおよび/またはSnである。]と表わした
    とき、0≦x≦0.9、0.05≦y≦0.9、0≦z
    ≦0.1[ただし、x+y+z<1]、0≦p≦0.
    1、0.95≦m≦1.07 の組成を有する請求項1
    〜3のいずれかの電圧依存性非直線抵抗体の製造方法
  5. 【請求項5】 前記ドナー成分が、Nb、Ta、Y、
    W、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、T
    b、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種以
    である請求項1〜4のいずれかの電圧依存性非直線抵
    抗体の製造方法
  6. 【請求項6】 前記ドナー成分を、それぞれNb2
    5 、Ta25 、Y23 、WO3 、La23 、Ce
    23 、Pr23 、Nd23 、Sm23 、Eu2
    3 、Gd23 、Tb23 、Dy23 、Ho2
    3 、Er23 、Tm23 、Yb23 およびLu2
    3 に換算したとき、ドナー成分の含有量が、総計で
    0.001〜5wt%である請求項5の電圧依存性非直線
    抵抗体の製造方法
  7. 【請求項7】 前記SiをSiO2 に換算したとき
    有量が0.001〜2wt%である請求項1〜6のいずれ
    かの電圧依存性非直線抵抗体の製造方法
  8. 【請求項8】 さらに、微量成分として、Mn、Co、
    Ni、Cu、Zn、Al、Fe、Cr、Sb、Biおよ
    びVの1種以上を含む請求項1〜7のいずれかの電圧依
    存性非直線抵抗体の製造方法
  9. 【請求項9】 前記微量成分を、それぞれMnO、Co
    O、NiO、CuO、ZnO、Al23 、Fe2
    3 、Cr23 、Sb23 、Bi23 およびV2
    5 に換算したとき、これらのうち1種以上の含有量が、
    総計で0.001〜5wt%である請求項8の電圧依存性
    非直線抵抗体の製造方法
  10. 【請求項10】 前記還元処理温度が、800〜14
    00℃である請求項1〜9のいずれかの電圧依存性非直
    線抵抗体の製造方法の製造方法
  11. 【請求項11】 前記還元処理時間が、5分〜12時
    間である請求項1〜10のいずれかの電圧依存性非直線
    抵抗体の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記還元焼成温度が、1200〜1
    500℃である請求項11のいずれかの電圧依存性
    非直線抵抗体の製造方法。
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