JP4217337B2 - 半導体磁器の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、PTCR特性を有し、TVブラウン管の消磁素子等に利用される半導体磁器、詳しくはBaTiO3系の正特性半導体磁器を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
BaTiO3に、SrO、PbO、CaOなどの温度特性調整のための置換成分と、Y2O3などの半導体化剤とを添加し、さらに、焼結助剤SiO2や抵抗温度係数改善剤MnOなどを加えた組成物を焼成して得られるBaTiO3系半導体磁器は、正の温度係数をもつ抵抗体、いわゆるPTCサーミスタとしてTVブラウン管の消磁素子等に一般的に広く用いられている。
【0003】
BaTiO3系半導体磁器は、比抵抗が低く、かつ、常温での突入電流に対する耐破壊特性に優れた製品を中心として開発が進められてきた。しかし、最近、信頼性を向上させるために、低温時に電圧のON−OFFを繰り返したときの抵抗値変化を抑えること、すなわち低温ON−OFF特性の向上が要求されるようになってきている。また、従来のBaTiO3系半導体磁器では、低温でのON−OFFの繰り返しにより層状割れが生じやすく、層状割れにより抵抗値が大きく変化してしまうという問題もある。また、半導体磁器には、抗折強度が十分に高いことも要求される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、BaTiO3系半導体磁器において、比抵抗が低く、かつ耐電圧が高いことを前提として、抗折強度の向上と、低温で電圧のON−OFFを繰り返したときの抵抗値変化の抑制とを実現することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記(1)〜(4)で特定される事項によって達成される。
(1) 一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶を有し、ABO3のAサイトに入る金属元素として少なくともBaを、Bサイトに入る金属元素として少なくともTiをそれぞれ含み、さらに、半導体化剤を含有し、抵抗値が正の温度係数を示す半導体磁器を製造する方法であって、
出発原料を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、この仮焼体を焼成して半導体磁器を得る焼成工程とを有し、
出発原料中において、Aサイトに入る金属元素(前記半導体化剤を含む)のモル比をA、Bサイトに入る金属元素のモル比をBとしたとき、
A/B=1.000±0.005
とし、
仮焼工程において安定温度を1150℃以上とし、
仮焼工程と焼成工程との間に、Ba2TiSi2O8およびBa4Ti13O30を含む後添加原料を仮焼体に添加してA/Bを減少させると共に、仮焼体を粉砕する後添加および粉砕工程を有し、
後添加および粉砕工程において、後添加原料を含む仮焼体を、比表面積が1.5m2/g以上となるように粉砕し、
A/B<1である半導体磁器を得る半導体磁器の製造方法。
(2) 出発原料または後添加原料がMnを含む上記(1)の半導体磁器の製造方法。
(3) 仮焼体のX線回折パターンにおいて、2θ=25〜30度の範囲に、Ba2TiSi2O8、Ba4Ti13O30、Ba2TiO4およびBa6Ti7O20のそれぞれに対応するピークが実質的に認められない上記(1)または(2)の半導体磁器の製造方法。
(4) 焼成工程において得られた半導体磁器を透過型電子顕微鏡により観察したとき、結晶粒内にドメインが観察される上記(1)〜(3)のいずれかの半導体磁器の製造方法。
【0006】
BaTiO3系半導体磁器に関するこれまでの種々の検討では、組成に関するものや本焼成に関する項目が主だったものであったが、仮焼条件や、その後の粉砕によって変化する粒度に関するものは少なかった。仮焼の過程の検討は、BaTiO3系の材料を検討する上で、材料の組成的な不均一や組成濃度勾配を抑制するために不可欠なものであると考えられる。
【0007】
本発明者らは、BaTiO3系半導体磁器の主成分において、モル比A/B(Ba/Ti)を1未満とすることにより、低温ON−OFF特性および抗折強度が向上することを見いだした。さらに、仮焼体および焼結体の組織構造の解析から、仮焼条件を適切に制御し、かつ、後添加する原料を適切に選択すれば、これらの特性がさらに向上するものと考え、上記本発明に至った。
【0008】
ところで、仮焼後に原料化合物を追加して焼成すること、すなわち、後添加工程を設けることについては、例えば以下に示す提案がなされている。
【0009】
特開平4−119964号公報には、半導体化剤を含んだチタン酸バリウムと平均組成がBa2(Ti1-xMnx)Si2O8(ただし、0.01≦x≦0.2)である物質とを混合したのち、これを焼成して、半導体磁器を製造する方法が記載されている。
【0010】
また、特開平4−311002号公報には、半導体化剤を含有するチタン酸バリウム系半導体材料と式:(Ba(2-x)Ax)TiSi2O8(ただし、A:Li,Na,Kのうちの少なくとも1種、x=0.02〜0.2)で表される材料とを配合した後、これを焼成して、半導体磁器を製造する方法が記載されている。
【0011】
しかし、上記特開平4−119964号公報および特開平4−311002号公報では、実施例においてチタン酸バリウムのA/Bを1としており、また、A/B>1であるBa2(Ti1-xMnx)Si2O8または(Ba(2-x)Ax)TiSi2O8を添加しているため、半導体磁器中におけるA/Bは1を超えてしまう。すなわち、上記各公報に記載された半導体磁器は、本発明により製造される半導体磁器とは基本組成が異なるものであり、A/B<1である半導体磁器の製造を前提とする本発明とは全く異なる。上記各公報に記載された作用効果は、Ba2(Ti1-xMnx)Si2O8または(Ba(2-x)Ax)TiSi2O8を後添加することにより、実用上十分な抵抗温度係数を得ることができる、というものであり、本発明における作用効果とは異なる。また、上記各公報の実施例では、チタン酸バリウムの仮焼を1100℃で2時間行っているが、この温度で仮焼を行うと、仮焼体の結晶粒内が均質とならず、本発明の効果は実現しない。
【0012】
このほか、特開平9−246015号公報には、主組成物に後添加組成物を混合したのち本焼成して正特性半導体磁器を製造する際に、主組成物として、BaTiO3 を主成分としたペロブスカイト型酸化物と半導体化剤とを含有し、かつSiを実質的に含有しないものを用い、後添加組成物として、BaとTiとSiとを、BaO:TiO2 :SiO2 =a:b:c[ただしa+b+c=100モル%]で表して、10≦a≦35、10≦b≦60、30≦c≦80の比率で含有するものを用いることが記載されている。同公報の実施例では、主組成物においてA/B<1とし、後添加組成物においてA/B=1としたものが主体であるが、主組成物においてA/B=1.000±0.005とし、後添加組成物においてA/B<1としたものも存在する。しかし、同公報には、後添加組成物としてBa2TiSi2O8およびBa4Ti13O30を用いる旨の記載はなく、したがって、同公報記載の発明では本発明の効果は実現しない。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明により製造される半導体磁器は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶を有し、ABO3のAサイトに入る金属元素として少なくともBaを、Bサイトに入る金属元素として少なくともTiをそれぞれ含み、さらに、半導体化剤を含有し、抵抗値が正の温度係数を示すものである。
【0014】
この半導体磁器の製造工程の流れを、図1に示す。図示する製造工程は、出発原料を秤量して混合する秤量・混合工程と、混合された出発原料を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体に後添加原料を添加すると共に、両者を粉砕、混合して、後添加原料を含む仮焼体粉末を得る後添加および粉砕工程と、仮焼体粉末を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼成して焼結体(半導体磁器)を得る焼成工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0015】
秤量・混合工程
秤量・混合工程では、出発原料中において、Aサイトに入る金属元素(前記半導体化剤を含む)のモル比をA、Bサイトに入る金属元素のモル比をBとしたとき、
A/B=1.000±0.005、好ましくは
A/B=1.000±0.002
となるように秤量して混合する。A/Bが小さすぎても大きすぎても、結晶粒内を均質にできなくなり、本発明の効果が得られなくなる。具体的には、仮焼体が、A/B=1であるABO3型ペロブスカイト結晶の単一相となりにくくなり、Aサイト元素リッチまたはBサイト元素リッチの異相、例えばBa2TiSi2O8、Ba4Ti13O30、Ba2TiO4、Ba6Ti7O20などが生じやすくなる。
【0016】
出発原料は、酸化物、複合酸化物や、焼成によってこれらの酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択して用いることができる。これらの原料は、通常、平均粒径0.1〜3μm程度の粉末として用いられる。
【0017】
仮焼工程
仮焼工程では、混合された出発原料を、好ましくは安定温度1150℃以上で、より好ましくは安定温度1180℃以上で仮焼する。前記安定温度に維持する時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。なお、前記安定温度とは、ほぼ一定に維持される最高温度を意味する。安定温度が低すぎるか、安定温度に維持する時間が短すぎると、未反応の原料や異相が多く存在しやすくなって結晶粒内の組成や構造を均一にすることが難しくなり、特に、安定温度が低い場合には本発明の効果が実現しない。なお、安定温度は、好ましくは1350℃以下、より好ましくは1250℃以下である。安定温度が高すぎると、仮焼体が粉砕しにくくなる。また、安定温度に維持する時間は、好ましくは6時間以下、より好ましくは4時間以下である。仮焼をこれより長い時間行っても、本発明の効果は増強されず、生産性が低くなってしまう。昇温速度および降温速度は特に限定されないが、好ましくは100〜400℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間である。
【0018】
本発明では、秤量・混合工程においてA/Bを前記範囲とすることにより、Ba2TiSi2O8、Ba4Ti13O30、Ba2TiO4およびBa6Ti7O20等の異相が実質的に存在しない仮焼体を得ることが可能である。なお、これらの異相が実質的に存在しないことは、X線回折パターンにおいて2θ=25〜30度の範囲に、これら各相に対応するピークが実質的に認められないことから判定できる。なお、これらのピークが実質的に認められないとは、X線回折の条件を、40kV、30mA、スキャンスピード2度/分、スキャンステップ0.02度、平行スリット1度以下、発散スリット1度以下、受光スリット0.3mm以下としたときに、上記ピークが認められないことを意味する。
【0019】
後添加および粉砕工程
後添加および粉砕工程とでは、Ba2TiSi2O8およびBa4Ti13O30を含む後添加原料を仮焼体に添加し、仮焼体を粉砕しながら両者を混合する。この後添加原料の添加により、半導体磁器のA/Bを1未満の所望の値に調整できる。なお、仮焼体を粗粉砕した後に後添加原料を添加し、その後、両者を微粉砕する構成とすることが好ましい。後添加原料は、通常、平均粒径0.1〜3μm程度の粉末として添加することが好ましい。
【0020】
本発明者らは、A/B<1としたBaTiO3系半導体磁器のうち、低温ON−OFF特性が良好で抗折強度の高いものにおいて、結晶粒界、すなわち、隣接する結晶粒の間および三重点等の多結晶粒界に、Ba2TiSi2O8およびBa4Ti13O30が存在することを見いだした。そこで本発明者らは、仮焼体においてA/Bを実質的に1とし、かつ、上記2種の複合酸化物を共に後添加する実験を行ったところ、結晶粒内がほぼABO3単一相で、かつ、結晶粒界に上記2種の複合酸化物が存在し、低温ON−OFF特性および抗折強度が極めて優れた半導体磁器が得られることがわかった。
【0021】
Ba2TiSi2O8およびBa4Ti13O30の製造方法は特に限定されないが、好ましくは以下のようにして製造する。まず、出発原料としてBaCO3およびTiO2を用意し、Ba2TiSi2O8の場合にはさらにSiO2を用意し、これらをそれぞれの化合物の組成比に応じて混合した後、空気中等の酸化性雰囲気中で1000〜1300℃で焼成し、得られた焼成体を所定の粒径まで粉砕する。
【0022】
後添加原料には、上記2種の複合酸化物のほか、Mnが含まれていてもよい。Mnは、酸化物として添加してもよく、焼成により酸化物となる化合物として添加してもよいが、好ましくはMn(NO3)2として添加する。
【0023】
なお、Mnの一部または全部を、出発原料として添加してもよい。
【0024】
それぞれの後添加原料の添加量は、目的とする半導体磁器組成に応じて決定すればよいが、通常、Ba2TiSi2O8の添加量は、出発原料中のTiに対し、通常、2モル%以下、好ましくは1モル%以下、かつ一般に0.25モル%以上であり、Ba4Ti13O30の添加量は、出発原料中のTiに対し、通常、1モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、かつ一般に0.01モル%以上である。
【0025】
この工程では、比表面積が1.5m2/g以上、好ましくは2.0〜3.0m2/gとなるように、後添加原料を含む仮焼体を粉砕する。比表面積が小さすぎると、後添加物の分散が悪くなるので、磁器の特性がばらつき、耐電圧性能および低温ON−OFF特性が悪くなるほか、比抵抗が大きくなってしまう。比表面積の上限は特にないが、比表面積を大きくするためには粉砕時間を長くする必要があり、生産効率が落ちるので、比表面積は上記範囲を超える必要はない。また、効果の点からも、比表面積を上記範囲を超える値とする必要はない。
【0026】
成形工程
成形工程では、必要に応じポリビニルアルコール(PVA)等のバインダを加えて造粒した後、所定の形状に成形する。バインダの添加量は、粉末に対して0.5〜5重量%程度とすればよい。
【0027】
成形圧力は特に限定されないが、好ましくは0.5〜3t/cm2である。成形体の密度も特に限定されないが、好ましくは2.9〜3.5g/cm3、より好ましくは3.1〜3.3g/cm3である。
【0028】
焼成工程
焼成は、空気中等の酸化性雰囲気中で行う。焼成工程における安定温度は1300〜1400℃とすることが好ましい。安定温度が低いと磁器の半導体化が十分に進まず、比抵抗が低くならない。一方、安定温度が高いと異常粒成長が起きやすい。安定温度に維持する時間は、好ましくは0.5〜4時間程度であり、昇降温速度および降温速度は、好ましくは100〜400℃/時間であり、より好ましくは、昇温速度は200〜350℃/時間、降温速度は150〜300℃/時間である。
【0029】
なお、成形体中がバインダを含む場合、焼成前に、600〜800℃で1〜3時間熱処理する脱バインダ工程を設けることが好ましい。
【0030】
焼成により得られた半導体磁器を透過型電子顕微鏡により観察したとき、結晶粒内にドメインが観察されることが好ましい。結晶性の極めて良好な結晶粒では、ドメインが観察されるが、本発明では、明瞭なドメインが認められる結晶粒を有する半導体磁器を製造できる。ドメインが認められる半導体磁器では、低温ON−OFF特性および抗折強度のいずれもが極めて良好となる。
【0031】
半導体磁器
本発明の製造方法は、A/B<1であるBaTiO3系半導体磁器一般に適用可能である。一般的なBaTiO3系半導体磁器としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0032】
Aサイトに入る元素としてBaだけを用いてもよいが、このほか、例えばCa、SrおよびPbの少なくとも1種を用いてもよい。Bサイトに入る元素としては、Tiを用いる。半導体化剤は、通常、希土類元素(Yを含む)、Nb、Sb、Bi等から選択すればよい。このほか、上述したように、焼結助剤SiO2や抵抗温度係数改善剤MnOが含まれる。A/Bの好ましい範囲は、0.980〜0.998である。
【0033】
本発明の製造方法は、以下に説明する組成の半導体磁器の製造に、特に好適である。
【0034】
本発明が好ましく適用される半導体磁器は、主成分として、少なくともBa、CaおよびTiを含み、必要に応じてさらにPbおよびSrの少なくとも1種を含む酸化物と、半導体化剤であるR(Rは希土類元素およびNbから選択された少なくとも1種の元素)の酸化物とを含有し、副成分としてSiO2とMn酸化物とを含有し、ペロブスカイト相を有し、抵抗値が正の温度係数を示す。
【0035】
上記酸化物中において、Tiに対するBa、PbおよびSrのモル百分率は、
60≦Ba≦80、
0≦Pb≦1、
0≦Sr≦30
である。Baの比率が上記範囲を外れると、半導体磁器に要求される範囲内にキュリー点を収めることが難しくなる。Pbの比率が高すぎると、前述したように製造上の制限が大きくなり、また、地球環境に及ぼす悪影響も大きくなる。Srの比率が上記範囲を外れると、半導体磁器に要求される範囲内にキュリー点を収めることが難しくなる。なお、Pbのモル百分率の好ましい範囲は、
0.5≦Pb≦0.9
である。Pbを0.5モル%以上とすることにより、高い耐電圧が得られる。一方、Pbを0.9モル%以下とすることにより、前述した製造上の制限がより緩和される。
【0036】
Tiに対するCaのモル百分率は、
10≦Ca≦25
であり、好ましくは
15≦Ca≦20モル%
である。また、Tiに対するRの比率は、0.1モル%以上0.2モル%未満、好ましくは0.1〜0.18モル%である。本発明では、Caの比率を上記範囲内とし、かつ、Rの比率を上記範囲内に制御することにより、低温ON−OFF特性が良好となる。すなわち、低温で電圧ON−OFFを繰り返したときの抵抗値変化が小さくなる。これに対し、Caの比率およびRの比率の少なくとも一方が上記範囲を外れると、低温ON−OFF特性が悪くなる。また、Rの比率が上記範囲を外れると、比抵抗が高くなってしまう。なお、Rのモル百分率は、金属元素としての値であり、例えばRを0.1モル%含有する場合、R2O3としては0.05モル%含有することになる。
【0037】
半導体化剤に用いるRは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびNbから選択し、好ましくはY、Er、DyおよびHoから選択する。
【0038】
Ba+Pb+Sr+Ca+Rの含有量をAとし、Tiの含有量をBとしたとき、
A/B=0.980〜0.998(モル比)
であり、好ましくは
A/B=0.985〜0.998(モル比)
である。また、半導体磁器全体に対するSiO2の比率は、0.1〜0.8重量%である。A/BおよびSiO2の比率の少なくとも一方が上記範囲を外れると、低温ON−OFF特性が悪くなってしまう。また、A/Bが小さすぎると比抵抗が高くなり、A/Bが大きすぎると抗折強度が低下する。また、SiO2が少なすぎると焼結しにくくなる。一方、SiO2が多すぎると、焼成時に生じる液相成分の量が多くなって、焼結体同士や焼結体と炉材との反応による接着が生じやすくなり、また、抗折強度も低くなりやすい。
【0039】
半導体磁器中のMnの比率は、0.010〜0.025重量%である。Mn含有量が上記範囲を外れると、適当な比抵抗が得られにくくなる。
【0040】
半導体磁器の主相であるペロブスカイト相は、X線回折によって確認できる。半導体磁器の平均結晶粒径は、組成や焼成条件等によって異なるが、通常、1〜100μm程度である。結晶粒径は、半導体磁器の断面を鏡面研磨およびエッチングしたのち、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡により測定すればよい。半導体磁器中において、SiO2はペロブスカイト相の結晶粒に囲まれた領域、いわゆる三重点等の多結晶粒界に主として存在する。
【0041】
上記組成の半導体磁器では、目的、用途等に応じた特性を実現することが可能である。例えば、室温(25℃)における比抵抗ρ25として、40Ω・cm以下を実現できる。なお、このρ25は、直径14mm、厚さ2.5mm程度の円板状の半導体磁器の両主面にNiめっき膜を形成した後、その上にAg膜を焼き付けて電極とした試料を用いて測定した値である。
【0042】
本発明により製造される半導体磁器は、正特性サーミスタが適用される各種用途への適用が可能であり、例えば、自己制御型ヒータ(定温発熱体)、温度センサ、ブラウン管の消磁素子、過電流防止素子などに好適である。
【0043】
【実施例】
表1に示す半導体磁器試料を、以下の手順で作製した。
【0044】
出発原料をモル比で
BaCO3:34.41、
PbO:0.27、
SrCO3:6.04、
CaCO3:9.14、
Y2O3:0.07(Yとしては0.14)、
TiO2:50.0
となるように配合し、ボールミルで湿式混合した後、乾燥させて原料粉末を得た。
【0045】
この原料粉末を円柱状に成形した後、空気中において表1に示す条件で仮焼した。表1に、安定温度およびこの温度に維持した時間(安定時間)を示す。得られた仮焼体を、前記した条件でX線回折により分析し、Ba2TiSi2O8、Ba4Ti13O30、Ba2TiO4およびBa6Ti7O20のそれぞれに対応するピークの存在を調べ、これらの異相の有無を判定した。結果を表1に示す。図2に、試料No.1および試料No.8のX線回折パターンを示す。図中上側がNo.1のものであり、異相のピークが認められる。一方、図中下側がNo.8のものであり、異相のピークは認められない。
【0046】
得られた仮焼体を粗粉砕した後、後添加物としてBa2TiSi2O8、Ba4Ti13O30およびMn(NO3)2水溶液を添加し、ボールミルにより湿式混合し、表1に示す比表面積を有する仮焼体粉末を得た。仮焼体中のTiに対する添加量は、Ba2TiSi2O8が0.91モル%、Ba4Ti13O30が0.22モル%であり、この結果、全体組成におけるA/Bは0.990、全体組成中のSiO2含有量は0.5重量%となった。Mnの添加量は、全体の0.015重量%とした。なお、Ba2TiSi2O8は、
BaCO3:40モル%、
TiO2:20モル%、
SiO2:40モル%
を配合し、ボールミルで湿式粉砕した後、乾燥し、空気中において1150℃で2時間熱処理した後、ボールミルで湿式粉砕し、乾燥することにより製造した。一方、Ba4Ti13O30は、
BaCO3:23.53モル%、
TiO2:76.47モル%
を配合し、ボールミルで湿式粉砕した後、乾燥し、空気中において1150℃で2時間熱処理した後、ボールミルで湿式粉砕し、乾燥することにより製造した。
【0047】
次に、仮焼体粉末に対しバインダとしてPVAを1重量%加えて造粒し、これを圧力500kg/cm2で成形して円盤状の成形体を得た。この成形体を空気中において1320℃で1時間焼成し、直径14mm、厚さ2.5mmの円盤状の半導体磁器を得、電気特性測定用試料とした。また、圧力500kg/cm2で棒状に成形したものを空気中において1320℃で1時間焼成し、抗折強度測定用試料とした。
【0048】
これらの試料について、下記の測定および試験を行った。
【0049】
比抵抗の測定
電気特性測定用試料の両面にNiめっき膜を形成した後、その上にAg膜を焼き付けて電極とし、マルチメーターにより25℃での抵抗値を測定して、比抵抗を計算式
ρ=R×S/t
(ρ:比抵抗、R:抵抗値、S:試料表面積、t:試料厚さ)により求めた。結果を表1に示す。なお、比抵抗は、40Ω・cm以下であれば十分に低いといえる。
【0050】
破壊電圧(V B )の測定
上記電極を形成した電気特性測定用試料について、まず、50Vの交流電圧を1分間印加することにより予備加熱を行った後、100Vの電圧を1分間印加した後の電流値を測定した。次いで、さらに20V高い電圧を1分間印加した後の電流値を測定した。この操作を繰り返し、試料が破壊するか電流値が100mAを超えたときの印加電圧値を破壊点と見なし、その1回前の印加電圧を破壊電圧とした。結果を表1に示す。なお、この測定における破壊電圧が350V以上であれば、十分な耐電圧特性をもっているといえる。
【0051】
低温ON−OFF試験
上記電極を形成した電気特性測定用試料に、−20℃の低温恒温槽中で290Vの電圧を60秒間印加し、その後、電圧を300秒間オフにする。これを1サイクルとして、500サイクル終了時の抵抗値変化が±20%を超えない場合を○とし、抵抗値変化が±20%を超える場合を×とした。
【0052】
抗折強度の測定
抗折強度測定用試料について、JIS規格に基づき抗折強度試験を行った。抗折強度が85MPa以上の場合を○、85MPaを下回るものを×として、結果を表1に示す。なお、抗折強度が85MPa以上であれば、十分に強度が高いといえる。
【0053】
結晶粒内のドメインの有無
試料を切断して断面を研磨した後、透過型電子顕微鏡により観察し、ドメインの有無を調べた。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から、本発明の効果が明らかである。すなわち、本発明にしたがって製造した試料では、仮焼体に異相が存在せず、焼結体ではドメインが観察され、低温ON−OFF特性が良好であり、かつ、抗折強度が高い。また、破壊電圧は、比抵抗が低いほど高くすることが難しくなるが、表1に示される本発明サンプルでは、比抵抗が低く、しかも破壊電圧が十分に高くなっている。
【0056】
【発明の効果】
本発明を適用してBaTiO3系半導体磁器を製造することにより、抗折強度を向上でき、かつ、低温で電圧のON−OFFを繰り返したときの抵抗値変化を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法における工程の流れを示すフローチャートである。
【図2】仮焼体のX線回折パターンを示すグラフである。
Claims (4)
- 一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶を有し、ABO3のAサイトに入る金属元素がBaを主成分とし、Bサイトに入る金属元素がTiを主成分としてそれぞれ含み、さらに、半導体化剤を含有し、抵抗値が正の温度係数を示す半導体磁器を製造する方法であって、
出発原料を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、この仮焼体を焼成して半導体磁器を得る焼成工程とを有し、
出発原料中において、Aサイトに入る金属元素(前記半導体化剤を含む)のモル比をA、Bサイトに入る金属元素のモル比をBとしたとき、
A/B=1.000±0.005
とし、
仮焼工程において安定温度を1150℃以上とし、
仮焼工程と焼成工程との間に、Ba2TiSi2O8およびBa4Ti13O30を含む後添加原料を仮焼体に添加してA/Bを減少させると共に、仮焼体を粉砕する後添加および粉砕工程を有し、
後添加および粉砕工程において、後添加原料を含む仮焼体を、比表面積が1.5m2/g以上となるように粉砕し、
A/B<1である半導体磁器を得る半導体磁器の製造方法。 - 出発原料または後添加原料がMnを含む請求項1の半導体磁器の製造方法。
- 仮焼体のX線回折パターンにおいて、2θ=25〜30度の範囲に、Ba2TiSi2O8、Ba4Ti13O30、Ba2TiO4およびBa6Ti7O20のそれぞれに対応するピークが実質的に認められない請求項1または2の半導体磁器の製造方法。
- 焼成工程において得られた半導体磁器を透過型電子顕微鏡により観察したとき、結晶粒内にドメインが観察される請求項1〜3のいずれかの半導体磁器の製造方法。
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