JP3493283B2 - 柑橘類発酵酢の製造法 - Google Patents

柑橘類発酵酢の製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は柑橘類発酵酢の製
造法、特にウンシュウミカンを原料とする発酵酢の製造
法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年我国でもリンゴ、ブドウ、柿などの
多種の果実を原料として醸造したワインおよび食酢が造
られるようになり、原料に由来する風味や発酵過程で生
成する芳香と旨味を持つことからそれらの消費量は増加
している。
【0003】しかし、これら果実ワインおよび果実酢中
には、醸造中に味を調整する目的で原料の抽出液や果汁
などが添加されることがあり、ワイン及び発酵酢すべて
が、天然果汁のみから作られているとはいいがたい。そ
してその製造法に関しての研究は他の醸造物に比べて少
なく、特に食酢醸造は大部分の工場で種酢仕込みをおこ
ない、純粋な発酵微生物を利用することは殆どない。
【0004】柑橘類を原料としたワインおよび発酵酢に
関する記載としては、例えば特開平5−123154号
公報第2ページ第1欄15〜17行、日本食品科学工学
会誌第43巻第7号(1996年)第858ページ左欄
末行〜右欄第1行があげられるが、これらはミカンを原
料としてワインおよび食酢の製造を試みる程度の簡単な
記載であり、アルコール発酵条件、酢酸発酵条件を鋭意
研究した結果の知見に基づくワインおよび食酢の製造法
に関するものではない。
【0005】したがって現在までに柑橘類を原料とした
ワインおよび発酵酢はまだ生産されていないと言っても
過言ではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本願発明のう
ち請求項1記載の発明は、高酢酸生産率を上げることを
可能にした柑橘類発酵酢の製造法を提供することを目的
とするものである。
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】請求項2記載の発明は、請求項1記載の発
明の目的のうち、柑橘類をウンシュウミカンに特定した
柑橘類発酵酢の製造法を提供することを目的とするもの
である。
【0012】
【課題を解決するための手段】前述した目的を達成する
ために本願発明のうちで請求項1記載の発明は、柑橘類
に酵母サッカロマイセスセルビシェW−3(ワイン酵
母)を作用させ、発酵温度を27℃とし、初発菌数を1
5 〜1010cells/mlとしてアルコール発酵を行いアル
コール発酵液を得た後、このアルコール発酵液にアセト
バクター アセティ、アセトバクター パストゥリアヌ
ス、及びアセトバクター リクエファシエンスの3種の
酢酸菌を混合状態で作用させ、発酵温度を30±7℃と
し、初発酸度を2±1%として酢酸発酵を行う柑橘類発
酵酢の製造法を特徴とするものである。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】請求項2記載の発明は、請求項1記載の発
明の構成のうち柑橘類をウンシュウミカンとしたことを
特徴とするものである。
【0018】本発明でいう柑橘類とは、柑橘及び雑柑す
べてを包含し、具体的にはウンシュウミカン、ナツミカ
ン、イヨカン、グレープフルーツ、マンダリンオレン
ジ、レモン等の柑橘およびユズ、カボス、スダチ、ダイ
ダイ、サンポウカン等の雑柑があげられる。
【0019】本発明で使用される酵母サッカロマイセス
セルビシエ W−3(ワイン酵母)は、発酵期間が短
く、高アルコールを生産し、発酵初期に増殖力が優れ、
増殖時のアルコール生産能が高い。
【0020】アルコール発酵条件としては、芳香を有
し、味、色等の良いアルコールを生産し、高アルコール
生産率をあげるすべての発酵条件をいい、具体的には発
酵期間、発酵温度、初発菌数等があげられる。
【0021】発酵期間は、他の菌に汚染される危険度お
よび工業化の際の製造時間、回転率、燃料費等を考慮す
ると、短いほど良い。
【0022】発酵温度としては27℃が好適である。こ
のアルコール発酵温度より高くても低くても、アルコー
ル酵母菌は活性力を低下し発酵がきわめて緩慢となる。
(その結果エタノールの生産率が40〜50%に低下す
る現象が認められた。)初発菌数としては105cells/m
l 〜1010cells/mlが好適であり、特に107cells/ml
が最良である。初発菌数がこの範囲以下であれば糖が菌
の増殖に使用され、エタノール生産に使用する糖が現象
し、この範囲以上であれば、菌の増殖力が低下し、増殖
時のエタノール生産能力が低下するからである。
【0023】本願発明でいう酢酸菌とは、発酵期間が短
く、酢酸生産能力が高く、味や臭いの良い発酵酢を生産
するアセトバクター属に属するアセトバクター アセテ
ィ、アセトバクター パストゥリアヌス、アセトバクタ
ー リクエファシエンスであって、これらの菌株は混合
培養で発酵を行う。
【0024】
【0025】
【0026】酢酸の発酵条件としては、芳香を有し、
味、色等の良い酢酸を生産し、高酢酸生産率をあげるす
べての発酵条件をいい、具体的には発酵期間、発酵温
度、初発酵度等があげられる。
【0027】発酵期間は他の菌に汚染される危険度およ
び工業化の際の製造時間、回転率、燃料費等を考慮する
と、短いほど良い。
【0028】発酵温度としては、30±7℃が好適であ
り、特に30℃が最良である。菌膜下の液温がこの酢酸
発酵温度の限定範囲外では、菌体の活性の劣化が起こ
り、アルコールから酢酸への生産が緩慢となるか一時停
止するからである。
【0029】初発酸度としては、2±1%が好適であ
る。この値にすると汚染菌特に酸膜酵母の汚染菌増殖が
防止され、弱耐酸性酢酸菌が淘汰されるからである。
【0030】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を、実施
例に基づいて詳細に説明する。
【0031】(実施例1) ウンシュウミカンワインの
製造法 糖度(Brix以下同様)11.0以上の早生ウンシュウミ
カンを用い、果皮に付着する微生物の除菌とはく皮を容
易にするため、80℃で30分間熱処理を行った。
【0032】搾汁は果皮を取り除いたミカンを、チョッ
パー パルパー フィニッシャー搾汁機を用いて行い、
搾汁した果汁は砂じょう膜を取り除くため、900rp
m、5分間遠心濾過した。
【0033】得られたウンシュウミカン果汁は糖度11.
6、総酸度0.792 %(クエン酸換算)、アミノ態窒素60.
90 mg%、灰分1.275 %であった。
【0034】上記ミカン果汁1lに、ペプトン0.5 %、
酵母抽出物0.3 %、モルト抽出物0.3 %、グルコース1.
0 %、pH5.5 〜6.0 のYM培地で前培養した、酵母サ
ッカロマイセス セルビシエの菌液1mlを接種し、表1
に示す発酵条件下でアルコール発酵を行い、アルコール
発酵液を得た。
【0035】発酵条件は発酵期間が短く、エタノール生
産率の高い酵母、発酵温度、初発菌数などについて検討
し、それぞれ好適条件を選出したものであり、種々のア
ルコール発酵条件がエタノール生産率に与える効果は表
2に示す通りであった。
【0036】
【表2】
【0037】表2からアルコール酵母がサッカロマイセ
ス セルビシエ W−3(ワイン酵母)、発酵温度が2
7℃、初発菌数が107 cells/mlの発酵条件の時、発酵
期間3日間でエタノール生産率81.2%の最良の結果が得
られたことがわかる。
【0038】上記した最良の酵母、発酵温度、初発菌数
の条件で発酵を行った時のエタノール量、総酸度、全糖
量および菌数を測定した結果は図1に示す通りであり、
発酵開始24時間後に全糖量の多くが減少し、菌数およ
びエタノール量の増加が見られ、72時間後(3日後)
のエタノール量は3.90%、全糖量は0.606 %、菌数は5.
0 ×108 cells/mlであり、アルコール発酵がほぼ終了
していることがわかる。発酵後の培養液は60℃、30
分間熱殺菌を行い、さらに菌体を取り除くために900
rpm、5分間遠心濾過を行い、ウンシュウミカンワイ
ンを得た。得られたワインは有機酸としてクエン酸を多
く含み、ウンシュウミカン特有の香気を有し、透明で輝
き、艶と光沢を有したミカン果汁の色調を残し、爽快で
円やかな独特な風味を有するものであった。
【0039】(実施例2)ウンシュウミカン発酵酢の製
造法 実施例1で得たアルコール発酵後の培養液にグルコース
0.5 %、グリセロール1.0 %、ペプトン0.2 %、酵母抽
出物0.2 %、エタノール4.0 %、酢酸1.0 %からなる酢
酸菌用培地に前培養したT社分譲の酢酸菌を100ml
接種し、さらに総酸度が2.0 %になる様に酢酸を添加
し、30℃でアルコール残量が0.3 〜0.4%になるまで
表面発酵を行い、酢酸発酵液を得た。
【0040】発酵中のエタノール量、総酸度、全糖量、
総生菌数は図2に示す通りであり、発酵期間5日間でほ
ぼ酢酸発酵は終了し、エタノールからの酢酸生産率は9
3.4%(果汁中に含まれる糖からの生産率75.8%)、総
酸度は約5.9 %であった。残存アルコールが0.3 〜0.4
%で発酵を終えるのは、酢酸の過酸化を防ぐためであ
る。
【0041】発酵後、培養液を0.45μmのメンブランフ
ィルターを用いて菌体を除去し、70℃、20分間熱殺
菌を行い、ウンシュウミカン発酵酢を得た。得られた発
酵酢は透明で輝き、艶と光沢があり、ミカン果汁の色調
を残し、爽快で独特な風味を有する。又本発明のミカン
酢は有機酸を多く含むことから独特の円やかで爽快な酸
味を呈し、単に調味料としてではなく体調調節をする健
康維持食品(飲料)としても有用である。
【0042】表3は本発明のミカン酢の成分分析結果を
米酢と比較したものであり、本発明のミカン酢は総酸度
が高く、程良い苦味と渋味を呈し、嗜好性を示すナリン
ギンを含有するのが特徴である。
【0043】
【表3】
【0044】米酢に比べてミカン酢の方が総酸度が高い
のは、ミカン酢中にクエン酸をはじめとする有機酸が多
く含まれているためと思われ、特にクエン酸量は、米酢
の180〜773倍含まれていることが、米酢と比較し
たミカン酢中の有機酸の定量分析結果を示す表4より明
らかである。
【0045】
【表4】
【0046】ミカン酢中の遊離アミノ酸量は、他の果汁
酢よりは多いが、大体においては米酢より少なく、唯一
プロリン量が米酢に比べて多いのが特徴である。
【0047】酢酸菌の分離同定は、実施例2において発
酵中の酢酸菌膜と培養液から酢酸菌を分離し、分離株全
てがグラム染色陰性で、短桿菌、オキシターゼ反応陰
性、カタラーゼ反応陽性であり、エタノールの酢酸への
酸化、酢酸耐性、乳酸ナトリウム又は酢酸ナトリウムの
CO2 への酸化から、アセトバクター属に同定し、さら
に種は形態学的、培養学的、生理学的特徴よりアセトバ
クター アセティ、アセトバクター パストゥリアヌ
ス、アセトバクター リクエファシエンスに同定した。
【0048】有機酸による各酢酸菌株の酢酸発酵促進効
果は、有機酸がクエン酸である場合には、アセトバクタ
ー アセティ、アセトバクター パストゥリアヌス、及
びアセトバクター リクエファシエンス菌株共酸度は増
加し、クエン酸に酢酸発酵促進効果があることがわかっ
た。
【0049】本発明の製造法の前段階で得られるアルコ
ール発酵液としてのウンシュウミカンワイン中にはクエ
ン酸が多く含まれるため、これが酢酸発酵期間の短縮及
び酢酸生産率の向上に貢献したものと思われる。
【0050】
【発明の効果】本発明によると、生鮮果実の市場取引上
においての形状等から商品価値の低い柑橘類、特にウン
シュウミカンを利用して、柑橘類由来の色調、風味、芳
香を有する柑橘類発酵酢を製造でき、得られた発酵酢は
食酢としてのみならず、マヨネーズ、ドレッシングなど
の原料としても利用でき、独特の酸味を有するため、嗜
好食品、健康維持食品(飲料)としても利用できる。
【0051】本発明の柑橘類発酵酢の製造法によると、
高生産率の発酵が短い発酵期間で行われる。特にウンシ
ュウミカン発酵酢において、アルコール発酵液は27
℃、3日間でアルコール発酵を終了し、糖からエタノー
ルの生産率は81.2%と高く、発酵酢は、30℃、5
日間で酢酸発酵を終了し、エタノールから酢酸の生産率
は93.4%と非常に高い。そしてウンシュウミカン中
の糖からウンシュウミカン発酵酢の生産率は75.8
%、製造期間は8週間であり、5〜10カ月かかる一般
的な種酢仕込みの食酢製造法に比べ、実験室レベルとは
いえ製造期間を非常に短縮できる。このように生産率が
高く、製造期間が短いことは、工業化する場合、製造時
間、回転率、燃料費の面から非常に期待がもてるもので
ある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 最良の酵母、発酵温度、初発菌数の条件でウ
ンシュウミカン果汁のアルコール発酵を行った時の、エ
タノール量、総酸度、全糖量及び菌数を24時間ごとに
測定した結果を示す図面である。
【図2】 T社から分譲を受けた酢酸菌で、初発酸度
2.0%、発酵温度30℃で酢酸発酵を行った時の、エ
タノール量、総酸度、全糖量及び総生菌数を日ごとに測
定した結果を示す図面である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI (C12J 1/00 C12J 1/00 C12R 1:02) C12R 1:02

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 柑橘類に酵母サッカロマイセスセルビシ
    ェW−3(ワイン酵母)を作用させ、発酵温度を27℃
    とし、初発菌数を105 〜1010cells/mlとしてアルコ
    ール発酵を行いアルコール発酵液を得た後、このアルコ
    ール発酵液にアセトバクター アセティ、アセトバクタ
    ー パストゥリアヌス、及びアセトバクター リクエフ
    ァシエンスの3種の酢酸菌を混合状態で作用させ、発酵
    温度を30±7℃とし、初発酸度を2±1%として酢酸
    発酵を行うことを特徴とする柑橘類発酵酢の製造法。
  2. 【請求項2】 柑橘類をウンシュウミカンとしたことを
    特徴とする請求項1記載の柑橘類発酵酢の製造法。
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