JP3452291B2 - 耐摩擦溶融性を有する芯鞘型複合繊維及びその織編物 - Google Patents

耐摩擦溶融性を有する芯鞘型複合繊維及びその織編物

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐摩擦溶融性を有
する芯鞘型複合繊維及びその織編物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル繊維やナイロン繊維等の合
成繊維からなる織編物は、製品、特にスポーツ衣料とさ
れたとき、その使用状態において、スライデング、転倒
等で過度の擦過を受けた場合、摩擦熱により織編物が溶
融し、穴があいたり、さらに、ときとしては使用者に擦
過傷或いは火傷を与えるという問題を有する。特にこの
問題は、屋内運動場や人工芝の普及により増大してい
る。このため従来より、合成繊維織編物に対し各種の耐
摩擦溶融加工が施され、一般的にはシリコーンを主成分
とする仕上剤の付着により平滑性を高める等の表面処理
が用いられているが、スナッギング等織編物としての物
性が低下し、また洗濯により処理効果が低下する。
【0003】また、合成繊維に木綿を交撚、交織、交編
等により混合する方法もあるが、穴あき現象は生じない
ものの、織編物表面に合成繊維の溶融跡が生じたり、木
綿における染色性及び混合工程に基づくコスト高を招
く。一方、織編物の原糸そのものに耐摩擦溶融性を付与
する観点から、本出願人は、芯鞘型複合繊維における芯
部に鞘部の重合体より低融点の重合体を配するならば耐
摩擦溶融性が得られることを見い出し、特開平4−11
006号公報、特開平6−49712号公報にて、鞘部
成分としてポリエチレンテレフタレート、芯部成分とし
てポリプロピレン、ポリエチレン或いはナイロン12を
用いた芯鞘型複合繊維を提案している。
【0004】しかしながら、この芯鞘型複合繊維に、そ
の用途から要求されるストレッチ性、嵩高性を付与する
ために、仮撚加工を施した場合、通常の仮撚温度では芯
部成分の重合体の軟化変形により鞘部が破裂し、芯部成
分が露出するという問題を有し、特に芯部成分としてポ
リプロピレンを用いる場合、荷重たわみ温度が115℃
の通常のポリプロピレン、或いは規則性を高めることに
より結晶性を高めた荷重たわみ温度が125℃の高結晶
性ポリプロピレンを芯部成分に用いた芯鞘型複合繊維に
160℃以上の温度で仮撚加工を施すと、変形歪によっ
て芯鞘構造が破壊し、芯部成分のポリプロピレンが露出
する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、仮撚
加工通過性に優れ、ソフトなボリューム感のある風合い
を織編物に与えることが可能な耐摩擦溶融性を有する芯
鞘型複合繊維及びその耐摩擦溶融性が発現される織編物
を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、融点が200
℃以上の熱可塑性重合体を鞘部に配し、α晶核剤または
β晶核剤の少なくとも一つの結晶核剤が配合された荷重
たわみ温度が130℃以上のポリプロピレンを芯部に配
したことを特徴とする耐摩擦溶融性を有する芯鞘型複合
繊維、及び、
【0007】前記の芯鞘型複合繊維からなり、ローター
型摩擦溶融試験による荷重6kg、3秒間の接圧で溶融
跡を生じないことを特徴とする織編物、にある。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘部
に融点が200℃以上の熱可塑性重合体が配され、芯部
に荷重たわみ温度が130℃以上のポリプロピレンが配
された芯鞘複合構造を有する。
【0009】本発明において、芯部に配されるポリプロ
ピレンは、JIS K7207(硬質プラスチックの荷
重たわみ温度試験方法)に拠って測定される荷重たわみ
温度が130℃以上のポリプロピレンであることが必要
である。芯部に配されるポリプロピレンが荷重たわみ温
度が130℃未満のポリプロピレンであるときは、耐摩
擦溶融性は得られるものの、仮撚加工における芯鞘構造
の破壊が起こり仮撚加工通過性が不良となる。
【0010】荷重たわみ温度が130℃以上のポリプロ
ピレンは、結晶核剤の配合により、ポリプロピレンにお
ける非晶部に対する結晶部の割合を高めることにより得
られる。また、一般的に繊維に用いられるポリプロピレ
ンの結晶部の結晶構造は、α晶を示すが、α晶の増加
は、α晶核剤の配合により、またβ晶の生成は、β晶核
剤の配合により行われ、特に本発明におけるポリプロピ
レンは、β晶の生成により結晶部割合を高めたポリプロ
ピレンであることが好ましい。
【0011】荷重たわみ温度が130℃以上のポリプロ
ピレンを得るに用いられる結晶核剤は、α晶核剤として
は、例えば芳香族カルボン酸金属塩、芳香族リン酸金属
塩が挙げられ、特にp−t−ブチル安息香酸アルミニウ
ム、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−
ブチルフェニル)ナトリウムが好ましく用いられ、ま
た、β晶核剤としては、例えば下記一般式で示される化
合物が挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】特に一般式の具体的な化合物として、N,
N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボ
キシアミド、3,9−ビス〔4−(N−シクロヘキシル
カルバモイル)フェニル〕−2,4,8,10−テトラ
オキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、テレフタル酸−O
−トルイジドが好ましく用いられる。
【0014】結晶核剤は、ポリプロピレン100重量部
に対し前記α晶核剤またはβ晶核剤0.01〜1重量
部、好ましくは0.03〜0.8重量部、さらに好まし
くは0.05〜0.6重量部配合され、結晶核剤の配合
が0.01重量部未満では、荷重たわみ温度が130℃
に達せず、1重量部を超えると、荷重たわみ温度の顕著
な向上がないだけでなく、機械的物性の低下、コストア
ップを招く。
【0015】また、鞘部に配される熱可塑性重合体は、
融点が200℃以上の熱可塑性重合体であり、融点が2
00℃以上であるポリエステル、ナイロン66、ナイロ
ン6等が挙げられ、特にエチレンテレフタレートを主た
る繰り返し単位とするポリエステルであることが好まし
く、さらにエチレンテレフタレート単位が95モル%以
上のポリエステルであることが好ましい。
【0016】エチレンテレフタレートを主たる繰り返し
単位とするポリエステルとしては、テレフタル酸または
そのエステル形成性誘導体をジカルボン酸性成分とし、
エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体を
ジオール成分として得られるポリエチレンテレフタレー
トが代表的に挙げられ、またこのジカルボン酸性成分ま
たはジオール成分の一部が他のジカルボン酸性成分また
はジオール成分で置き換えられたポリエステルであって
もよい。
【0017】他のジカルボン酸性成分としては、イソフ
タル酸、5−スルホイソフタル酸金属塩、ナフタレンジ
カルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セ
バシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、p−
オキシ安息香酸等が、また他のジオール成分としては、
1,4−ブタンジオール、炭素数2〜10のアルキレン
グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポ
リアルキレングリコール等が挙げられる。さらに、ポリ
エステルが実質的に線状である範囲で、トリメリット
酸、ピロメリット酸等のポリカルボン酸、ペンタエリス
リトール、トリメチロールプロパン等のポリオール、モ
ノハイドリックポリアルキレンオキサイド、フェニル酢
酸等が用いられたものであってもよい。
【0018】かかるポリエステルは、公知の任意の方法
で合成されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタ
レートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレング
ルコールとをエステル化反応させる、テレフタル酸ジメ
チルとエチレングルコールとをエステル交換反応させる
等によりグルコールエステルまたはその低縮合物を生成
し、次いで重縮合させる方法により得られる。なお、ポ
リエステルの合成に当たっては、公知の触媒、抗酸化
剤、着色防止剤、エーテル結合副生防止剤、難燃剤等が
用いられ、かつこれらの添加剤がポリエステルに含まれ
ていてもよい。
【0019】本発明の芯鞘型複合繊維における芯部と鞘
部の複合比は、芯部成分に前記ポリプロピレンを用いた
ことにより、その芯部比率を高めることが可能であり、
芯鞘複合比は、容積比で芯部/鞘部が1.5/1〜1/
8、特に1/1〜1/4であることが好ましい。
【0020】本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘部成分とし
て前記の融点が200℃以上の熱可塑性重合体を用い、
芯部成分として前記の荷重たわみ温度が130℃以上の
ポリプロピレンを用い、公知の芯鞘複合紡糸ノズルにて
溶融複合紡糸し、延伸、好ましくは2段延伸する方法に
より得ることができる。
【0021】芯鞘型複合繊維は、その繊度に限定はなく
任意の繊度とし得る。また、繊維断面も円形断面、三角
断面等異形断面としてもよく、複合成分の少なくとも一
方に着色用顔料を含有させて原着繊維としてもよい。
【0022】本発明の芯鞘型複合繊維は、通常のポリプ
ロピレンより低融点であっても、芯部のポリプロピレン
が荷重たわみ温度130℃以上であることにより、16
0℃以上の温度での仮撚加工によっても芯鞘構造の破壊
なしに良好に捲縮が付与されるものであり、仮撚加工で
適用される仮撚温度の範囲を拡大する。従って、より高
い仮撚温度で仮撚加工された本発明の芯鞘型複合繊維
は、捲縮率が15%以上、好ましくは35%以上の捲縮
が付与され、嵩高発現による優れた風合いを織編物に与
える。
【0023】また、本発明の芯鞘型複合繊維からなる織
編物は、JIS L1056(B法)に準拠するロータ
ー型摩擦溶融試験による荷重6kg、3秒間の接圧で溶
融跡を生ぜず、穴あき現象が全くない織編物となる。
【0024】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。なお、実施例中のポリプロピレンの荷重たわみ温度
は、前述したJIS K7207に準拠して測定された
温度であり、ローター型摩擦溶融試験は、JIS L1
056(B法、荷重6kg、3秒間)に準拠する試験で
ある。
【0025】(実施例1)相対粘度1.6、密度1.3
8g/cm3、融点256℃のポリエチレンテレフタレ
ート(PET)を鞘部成分に用い、JIS K6758
(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定された
メルトフローレート(MFR)が12g/10分のポリ
プロピレン粉末100重量部に対しβ晶核剤としてN,
N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボ
キシアミド0.2重量部を配合して250℃のスクリュ
ー押出機にて混合し、JIS K6758(23℃)に
準拠して測定された密度が0.902g/cm3、融点
が154℃及び167℃の2点ピーク、荷重たわみ温度
が143℃のポリプロピレン(PP)を芯部成分に用い
た。
【0026】かかる鞘部成分及び芯部成分にて、芯鞘複
合比(容積比)をPP/PET=1/8として、芯鞘複
合紡糸ノズルにて溶融複合紡糸し、未延伸糸を得た。次
いでこの未延伸糸を2段延伸して98デニール/24フ
ィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。この芯鞘型複合繊
維を得る際の製糸安定性は良好であった。得られた芯鞘
型複合繊維を原糸とし、Z撚3043T/M、オーバー
フィード率3.1%、加燃張力15〜16g、ヒーター
温度(仮撚温度)150〜180℃の条件で仮撚加工を
施したところ、仮撚温度が150〜170℃の範囲で糸
切れもなく加工安定性が良好で、芯鞘構造の破壊もな
く、優れた仮撚加工通過性を示した。仮撚温度が175
℃以上となると、鞘部の破裂による芯部成分の露出が認
められ、糸切れが多発した。
【0027】160℃の仮撚温度で得られた仮撚加工糸
は、捲縮率が43.8%で、優れた嵩高性を有するもの
であった。この仮撚加工糸を用い、20ゲージ丸編機に
てスポーツ衣料に使用する代表的組織であるモックロデ
ィに編成し、通常のポリエステル繊維に適用の染色工程
で染色仕上げを行ったところ、ストレッチ性、嵩高性に
よるボリューム感に優れ、また良好な鮮明性を有する編
物が得られた。また、得られた染色編物をローター型摩
擦溶融試験(荷重6kg、3秒間)を行ったが、溶融跡
がなく、穴あき現象は全く認められなかった。
【0028】(実施例2)実施例1において、芯鞘複合
比(容積比)をPP/PET=1/4とした以外は、実
施例1と同様にして溶融複合紡糸、延伸して90デニー
ル/24フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。得られ
た芯鞘型複合繊維を原糸とし、Z撚3043T/M、オ
ーバーフィード率3.1%、加燃張力13g、ヒーター
温度(仮撚温度)150〜180℃の条件で仮撚加工を
施したところ、仮撚温度が150〜165℃の範囲で糸
切れもなく加工安定性が良好で、芯鞘構造の破壊もな
く、優れた仮撚加工通過性を示した。仮撚温度が170
℃以上となると、鞘部の破裂による芯部成分の露出が認
められ、糸切れが多発した。
【0029】160℃の仮撚温度で得られた仮撚加工糸
は、捲縮率が43.2%で、優れた捲縮特性を有するも
のであった。この仮撚加工糸を用い、実施例1と同様に
して編成し、染色仕上げを行ったところ、ボリューム感
に優れ、また良好な鮮明性を有する編物が得られた。ま
た、得られた染色編物をローター型摩擦溶融試験(荷重
6kg、3秒間)を行ったが、溶融跡が全くなく、穴あ
き現象は全く認められなかった。さらに荷重10kg、
3秒間ローター型摩擦溶融試験を行ったが、溶融跡が殆
どなく、穴あき現象は全く認められなかった。
【0030】(比較例1)実施例1において、芯部成分
をMFR12g/10分、密度0.96g/cm3、融
点167℃、荷重たわみ温度115℃の結晶核剤無配合
のPPに代えた以外は、実施例1と同様にして溶融複合
紡糸、延伸して98デニール/24フィラメントの芯鞘
型複合繊維を得た。得られた芯鞘型複合繊維を原糸と
し、Z撚3043T/M、オーバーフィード率3.1
%、加燃張力15〜16g、ヒーター温度(仮撚温度)
150〜180℃の条件で仮撚加工を施したところ、仮
撚温度が150〜155℃の極く狭い範囲では、糸切れ
もなく加工安定性が良好で、芯鞘構造の破壊もなく、優
れた仮撚加工通過性を示しが、仮撚温度が160℃以上
になると、鞘部の破裂による芯部成分の露出が認めら
れ、糸切れが多発した。
【0031】150℃の仮撚温度で得られた仮撚加工糸
は、捲縮率が31.7%であった。この仮撚加工糸を用
い、実施例1と同様にして編成し、染色仕上げを行っ
た。得られた染色編物を、ローター型摩擦溶融試験(荷
重6kg、3秒間)を行ったところ、溶融跡がなく、穴
あき現象は全く認められなかったが、得られた染色編物
そのものは、嵩高性に欠けボリューム感がなく風合いが
不十分な編物であった。
【0032】
【発明の効果】本発明の芯鞘型複合繊維は、より広い仮
撚温度での仮撚加工通過性に優れ、ストレッチ性、嵩高
性に優れた仮撚加工糸とすることが可能なるものであ
り、ソフトなボリューム感のある風合いを織編物に与え
ることが可能な、かつ耐摩擦溶融性を有する芯鞘型複合
繊維であり、本発明の芯鞘型複合繊維からなる織編物
は、優れた耐摩擦溶融性が発揮されるものである。従っ
て、本発明の芯鞘型複合繊維を原糸とした織編物は、例
えば、スポーツ衣料をはじめとして、各種繊維製品ので
の使用状態において、スライデング、転倒等で過度の擦
過を受けた場合でも、摩擦熱により織編物が溶融しない
ことより、使用者に対し安全性を与えるものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 川島 能則 愛知県豊橋市牛川通四丁目1番地の2 三菱レイヨン株式会社豊橋事業所内 (72)発明者 藤村 和昌 三重県四日市市東邦町1番地 三菱化学 株式会社四日市総合研究所内 (56)参考文献 特開 平6−49712(JP,A) 特開 平4−11006(JP,A) 特開 昭61−155437(JP,A) 特開 平4−82933(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) D01F 8/00 - 8/18

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 融点が200℃以上の熱可塑性重合体を
    鞘部に配し、α晶核剤またはβ晶核剤の少なくとも一つ
    の結晶核剤が配合された荷重たわみ温度が130℃以上
    のポリプロピレンを芯部に配したことを特徴とする耐摩
    擦溶融性を有する芯鞘型複合繊維。
  2. 【請求項2】 熱可塑性重合体が、エチレンテレフタレ
    ートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである
    求項1記載の耐摩擦溶融性を有する芯鞘型複合繊維。
  3. 【請求項3】 捲縮率15%以上の捲縮が付与された
    求項1または請求項2記載の耐摩擦溶融性を有する芯鞘
    型複合繊維。
  4. 【請求項4】 請求項1記載の芯鞘型複合繊維からな
    り、ローター型摩擦溶融試験による荷重6kg、3秒間
    の接圧で溶融跡を生じないことを特徴とする織編物。
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