JP3358297B2 - 複合亜鉛合金めっき金属板 - Google Patents

複合亜鉛合金めっき金属板

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JP3358297B2 JP13437994A JP13437994A JP3358297B2 JP 3358297 B2 JP3358297 B2 JP 3358297B2 JP 13437994 A JP13437994 A JP 13437994A JP 13437994 A JP13437994 A JP 13437994A JP 3358297 B2 JP3358297 B2 JP 3358297B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車、家電製品、建
材等の材料として好適な、耐食性、成形加工性、および
低温耐衝撃性が良好で、抵抗スポット溶接性、特に抵抗
スポット溶接時の連続打点性が著しく改善された、複合
亜鉛合金めっき金属板に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車をはじめとして、家電製品、建材
等の多様な分野で各種の表面処理金属板、特に表面処理
鋼板が利用されている。その使用量の増大に伴い、これ
ら表面処理鋼板に対する防錆能力向上の要求が高まって
おり、例えば自動車用表面処理鋼板としては、塩害地で
の10年耐穴あき腐食性や5年耐外面錆性を目標とする高
耐食性能が求められている。
【0003】自動車用、特に過酷な腐食環境で使用され
る寒冷地向けの自動車車体に対しては、従来から各種の
防錆用表面処理を施した防錆鋼板の適用が積極的に推進
されてきた。特に寒冷地向け自動車外装用の防錆鋼板
は、その防錆皮膜の密着性が低温 (−50℃〜0℃) 環境
下での衝撃負荷 (例、石跳ね) によって損なわれないと
いう低温耐衝撃性に優れていることも要求される。即
ち、寒冷地で石跳ね等により自動車外板が衝撃を受ける
と、低温で弾性率が上昇した樹脂塗膜に衝撃的に亀裂が
発生する。防錆皮膜の低温耐衝撃性が低いと、この樹脂
塗膜の亀裂がその下層の防錆皮膜にも伝播し、防錆皮膜
が基材から剥離して腐食が起こる。しかし、防錆皮膜が
低温耐衝撃性に優れていれば、樹脂塗膜に亀裂が発生し
ても防錆皮膜の基材からの剥離は阻止され、基材の腐食
を防止できる。
【0004】また、自動車外装用の防錆鋼板は、加工後
に塗装を受けることから、成形加工性に優れている (加
工時に金型への防錆皮膜の焼付きや、パウダリングによ
る防錆皮膜の剥離が起こらない) ことと、塗装密着性に
優れていて、塗装後の塗膜疵部および端面での耐食性
(塗装後耐食性) が確保されることも必要である。
【0005】最も一般的な防錆鋼板は、溶融めっき法ま
たは電気めっき法による亜鉛めっき鋼板である。また、
亜鉛めっき鋼板の耐食性をさらに改善するために、Znを
Fe、Ni、Co、Mn、Cr、Al等の少なくとも1種の金属と合
金化した多様な亜鉛合金めっき鋼板も提案され、その一
部のもの(例、Zn−Ni合金めっき鋼板) は既に実用化さ
れている。
【0006】亜鉛合金めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板に
比べて、裸耐食性 (耐穴あき性、以下では単に耐食性と
もいう) は向上するが、逆に塗装密着性がよくないため
に塗装後耐食性は低くなり、低温耐衝撃性も低いという
欠点がある。また、亜鉛めっき鋼板と同様に、亜鉛合金
めっき鋼板も、需要家での組立工程において多用される
抵抗スポット溶接による接合性(抵抗スポット溶接性、
以下では単にスポット溶接性ともいう)の低下および成
形加工性の低下が、特にめっき皮膜が厚目付きになると
目立ってくるという問題もあった。
【0007】耐食性を改善するために、2以上のめっき
皮膜を設けた複層亜鉛系めっき鋼板も提案されている。
例えば、特開昭60−215789号公報には、付着量10〜300
g/m2の亜鉛めっき層を下層に、NiとCoの一方または両方
を合計15〜30重量%含有し、付着量が1〜20g/m2の亜鉛
系合金めっき層を上層に配した複層めっき鋼板が記載さ
れている。特公昭58−15554 号公報には、合金化溶融亜
鉛めっき鋼板の上層に、リン酸塩化成処理性や電着塗装
性を向上させる目的でFe系フラッシュめっき層を設けた
複層亜鉛系めっき鋼板が記載されている。これは、Fe系
フラッシュめっきが示す塗装密着性の向上効果による間
接的な高耐食性化を狙ったものである。これらの複層め
っき鋼板でも、需要家の要求する高耐食性を発揮するに
は、下層のZnめっき層を厚目付にする必要があり、成形
加工性、加工塗装後の耐食性、スポット溶接性、さらに
は低温耐衝撃性などに問題が生じる。また、めっき工程
を2回繰り返すため、製造装置が煩雑になり、製造コス
トが高くなる。
【0008】特開平1−172578号公報には、表面にホウ
素、リンなどの半金属や非金属の酸化物を含む無水のア
ルカリ金属塩の層を形成した合金化溶融亜鉛めっき鋼板
が記載されている。これは、上層のアルカリ金属塩の層
により潤滑性を付与し、成形性の向上を狙ったものであ
る。しかしこの方法でも、耐食性を十分に確保するには
めっき皮膜を厚目付としなければならず、スポット溶接
性や低温耐衝撃性は低下する。また、ユーザー (例、自
動車メーカー) での塗装工程の前の脱脂工程において、
アルカリ金属塩の層を完全に除去することが困難であ
り、めっき皮膜の表層にアルカリ金属塩が残存するた
め、塗装性だけでなく塗装後耐食性にも問題が残る。さ
らに、アルカリ金属塩の塗布工程と100 ℃以上に加熱・
脱水することによる成膜工程とが加わり、製造コストが
高くなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、過酷な使用環
境に耐え得る良好な耐食性を保持しながら、需要家での
組立工程に必要な高水準の成形加工性と抵抗スポット溶
接性を具備し、さらに低温耐衝撃性と塗装密着性に優
れ、塗装後の疵部および端面の耐食性 (塗装後耐食性)
に優れた表面処理金属板の出現が要請されている。
【0010】本発明の目的は、この要請に応えて、耐食
性、成形加工性に優れ、同時に抵抗スポット溶接性、特
に抵抗スポット溶接時の連続打点性が著しく改善され、
さらに望ましくは低温耐衝撃性と塗装後耐食性にも優れ
た、表面処理金属板を提供することである。
【0011】本発明の具体的な目的は、亜鉛系めっき金
属板において、1層のめっき皮膜で、および/または厚
目付の亜鉛系めっき皮膜であっても、耐食性を保持した
まま、成形加工性と抵抗スポット溶接性が著しく改善さ
れた、亜鉛系めっき金属板を提供することである。本発
明の別の目的は、上記の特性に加えて、さらに塗装後耐
食性と低温耐衝撃性が改善された亜鉛系めっき金属板を
提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明により、耐食性に
優れ、厚目付きであっても成形加工性が良好で、抵抗ス
ポット溶接性が著しく改善された亜鉛系めっき金属板が
提供される。
【0013】これは、金属板の少なくとも片面上に、F
e、CoおよびNiから選ばれた1種または2種以上の金属
を合計で、金属元素全体に対して0.2 wt%以上の量で含
有する、付着量5〜200 g/m2の亜鉛合金めっき皮膜を有
し、このめっき皮膜が 0.001〜10wt%の炭素を含有する
複合亜鉛合金めっき皮膜であって、表層に厚み0.1 μm
以上、10μm以下のC濃化層を有し、この表層C濃化層
がめっき皮膜の厚みの5〜50%を占めることを特徴とす
る、複合亜鉛合金めっき金属板である。
【0014】好適態様にあっては、前記亜鉛合金めっき
皮膜は、Fe、CoおよびNiから選ばれた1種もしくは2種
以上の金属を合計で、金属元素全体に対して 0.2〜10wt
%の量で含有する。それにより、上記の特性に加えて、
低温耐衝撃性がさらに改善される。
【0015】また、この好適態様は、別の面からは、金
属板の少なくとも片面上に、Fe、CoおよびNiから選ばれ
た1種または2種以上の金属を合計で、金属元素全体に
対して 0.2〜10wt%の量で含有する、付着量5〜200 g/
m2の亜鉛合金めっき皮膜を有し、このめっき皮膜が 0.0
01〜10wt%の炭素を含有する複合亜鉛合金めっき皮膜で
あって、このめっき皮膜中のη相の (00・2)面の配向性
指数が0.8 以下、 (10・1)面の配向性指数が0.2 以上で
あることを特徴とする、複合亜鉛合金めっき金属板であ
る。
【0016】本発明の特に好ましい態様にあっては、前
記亜鉛合金めっき皮膜が、金属元素全体に対してCoを
0.4〜2wt%の量で含有するZn−Co合金めっき皮膜であ
る。
【0017】本発明によれば、上記の複合亜鉛合金めっ
き金属板のめっき皮膜上に、Cr付着量10〜200 mg/m2
クロメート皮膜と、その上に膜厚 0.1〜2μmの有機樹
脂皮膜とを有することを特徴とする、有機複合被覆金属
板もまた提供される。
【0018】
【作用】前述したように、自動車用防錆鋼板として、多
くの亜鉛合金めっき鋼板が開発された。これらは、亜鉛
(純Zn)めっき鋼板に比べて裸耐食性 (耐穴あき性) が
一般に優れているので、高耐食性を確保できる。
【0019】本発明においては、特に高い裸耐食性を示
すことができる亜鉛合金系である、Fe、CoおよびNiの1
種もしくは2種以上からなる合金元素との亜鉛合金めっ
き皮膜を選択する。この亜鉛合金めっき皮膜は、上記の
合金元素を合計で0.2 wt%以上含有する。なお、本明細
書において、合金元素の含有量は、金属元素全体 (即
ち、Znと合金元素との合計量) に対する重量%である。
合金元素の含有量が0.2wt%未満では、純亜鉛めっきに
比べた裸耐食性の飛躍的な向上を得ることができない。
合金元素の含有量の上限は特に制限されないが、好まし
くは30wt%を上限とする。これを上回ると、加工時のパ
ウダリングが発生し易くなり、かつめっき皮膜の犠牲防
食作用の低下が、特に母材が鋼板である場合に生じやす
くなる。
【0020】この亜鉛合金めっき皮膜を有する耐食性に
優れた金属板を、例えば、自動車外装用に適用するに
は、さらにそのスポット溶接性、成形加工性、塗装密着
性 (塗装後耐食性) 、および低温耐衝撃性を改善するこ
とが望ましい。
【0021】本発明者らは、亜鉛合金めっき金属板を製
造するための電気めっき条件について検討を重ねた結
果、めっき液中に特定の有機物を少量添加して電気めっ
きを行うと、耐食性を保持したまま、亜鉛合金めっき鋼
板の成形加工性とスポット溶接性が改善されることに気
付いた。そして、その時のめっき皮膜の組成を調べたと
ころ、 0.001〜10wt%の炭素がZnと共析した炭素含有複
合亜鉛合金めっき皮膜になっていた。
【0022】この成形性とスポット溶接性が改善され
た、炭素含有複合亜鉛合金めっき皮膜について化学構造
上から検討したところ、この亜鉛めっき皮膜は、めっき
皮膜の表層に炭素が濃化したC濃化層が形成されてお
り、しかもこのC濃化層の厚みが0.1〜10μmの範囲内
であって、かつめっき皮膜全体の厚みの半分以下 (具体
的には5〜50%) になっていた。
【0023】C濃化層がめっき皮膜の表層に生成する理
由は明確ではないが、現状では次のように推定される。
炭素は、めっき液中の有機物が電極反応により分解して
生成し、めっき金属と共析する。しかし、有機物の電極
反応より金属の電析反応速度の方が大きいため、炭素の
共析が遅れ、相対的にめっき表層に炭素が濃化するもの
と考えられる。その結果、1層めっきであるにもかかわ
らず、めっき皮膜の断面をみると、炭素含有量が少ない
下層と炭素含有量が多い表層(C濃化層)とに分化し、
2層めっきと同様の効果を得ることができる。
【0024】本発明において「C濃化層」とは、めっき
皮膜の断面深さ方向のC濃度のプロファイルにおいて、
C濃度が平均C濃度よりも高い部分を意味する。めっき
皮膜深さ方向のC濃度は、例えばグロー放電発光(GDS)
分析により測定可能である。この測定結果に基づき、め
っき皮膜深さ方向のC濃度の平均値を求め、それよりC
濃度が高い部分の厚みをC濃化層の厚みとする。本発明
におけるC濃化層の厚みは、グロー放電発光分析の結果
に基づいて上記のように測定した値である。
【0025】このC濃化層は、炭素が共析していない従
来の亜鉛合金めっき皮膜に比べて、電気抵抗が高くなる
ために、スポット溶接時の抵抗発熱量が格段に多くな
り、ナゲットと称する接合部が形成され易くなる。この
C濃化層がめっき皮膜の表層のみに形成されることで、
耐食性を犠牲とせずに、スポット溶接性が著しく改善さ
れるのである。なぜなら、C濃化層中のC濃度は、めっ
き皮膜の平均C濃度の2〜3倍程度にすぎず、またその
下側にめっき皮膜の半分以上の厚みを占めるC濃度の低
いZn層が存在しているため、C濃化層が形成されてもめ
っき皮膜の耐食性は低下せず、むしろ良好になる場合さ
えある。
【0026】また、このめっき皮膜は、表層のC濃化層
が純Zn皮膜より硬質で、摩擦係数が低いため、金型への
焼付きが起こりにくくなり、プレス成形性も良好とな
る。C濃化層は硬質のためパウダリングが心配される
が、C濃化層が表層のみに存在し、下側に延性のZn層が
存在することでパウダリングも避けることができる。
【0027】本発明の亜鉛合金めっき皮膜においては、
表層C濃化層の厚みを 0.1μm以上、10μm以下とし、
かつC濃化層がめっき皮膜の厚みの5〜50%を占めるよ
うにする。C濃化層の厚みが0.1 μm未満、或いはめっ
き皮膜の厚みの5%未満では、C共析による抵抗発熱量
の増大に起因するスポット溶接性の改善が不十分とな
る。一方、C濃化層の厚みが10μmより大、或いはめっ
き皮膜の厚みの50%を超えると、スポット溶接で連続打
点溶接したときに、電極中央部への炭素の大量付着によ
る電極汚染がひどくなり、これが電気絶縁物となってナ
ゲットが形成されなくなってしまい、狙いとは逆にスポ
ット溶接性が再び低下するようになる。表層C濃化層の
厚みは、好ましくは 0.1〜5μm、より好ましくは 0.5
〜3μmであり、C濃化層の厚みは好ましくはめっき皮
膜の厚みの5〜40%、より好ましくは10〜30%を占め
る。
【0028】炭素が共析した亜鉛合金めっき皮膜中の合
金元素の好ましい含有量は 0.2〜20wt%であり、より好
ましくは 0.2〜10wt%である。最も好ましいめっき皮膜
の合金系は 0.4〜2wt%のCoを含有するZn−Co合金系で
ある。Coは、炭素が複合化しためっき皮膜において、少
ない含有量で耐食性の向上効果が大きく、また合金元素
含有量が少なくてもスポット溶接性を良好に保つことが
できる。Coのより好ましい含有量は 0.5〜1.5 wt%であ
る。
【0029】また、本発明の複合亜鉛合金めっき金属板
において、めっき皮膜の合金元素の含有量 (合金元素が
2種以上の場合には合計量) を10wt%以下 (即ち、 0.2
〜10wt%) に制限すると、上記の表層C濃化層に起因す
るスポット溶接性と成形加工性の改善に加えて、塗装後
耐食性と低温耐衝撃性も向上することが判明した。
【0030】その理由を追究するために、複合亜鉛合金
めっき皮膜の結晶学的な検討を行った。その結果、めっ
き皮膜の合金元素の含有量が10wt%以下になると、複合
亜鉛合金めっきのマトリックスを構成する合金組織がZn
相 (η相) を含有するようになる。η相の有無は、簡易
手段として、X線回折法によりη相に固有の回折ピーク
を調べることにより判定できる。
【0031】塗装後の端面および疵部の耐食性は、基本
的にはめっき皮膜の犠牲防食能により確保される。その
ため、めっき皮膜中に犠牲防食効果の高いZn相 (η相 )
が存在すると、塗装後耐食性はよくなる傾向がある。ま
た、η相は金属間化合物に比べて延性に富むので、亀裂
の伝播の防止に寄与する。そのため、めっき皮膜中にη
相が存在すると、低温耐衝撃性が向上する。
【0032】η相はc軸方向に伸びた最密六方晶の結晶
形態をとり、配向性を有している。このめっき皮膜中の
η相の配向についてX線回折測定により調べたところ、
上記のC濃化層を有する複合亜鉛合金めっき皮膜では、
このη相の (00・2)面の配向性指数が0.8 以下、その
(10・1)面の配向性指数が0.2 以上という配向性を有し
ていることが判明した。
【0033】ここで、η相の各面 [例えば、 (00・2)
面] の「配向性指数」とは、ASTMに登録された亜鉛標準
物質の同じ面の配向度に対する相対的な配向度を示す指
標であり、X線回折測定における各面の回折ピーク (以
下同じ) 強度の測定値に基づいて、例えば、 (00・2)面
については次式により算出される。
【0034】
【数1】
【0035】上記式中、IXX・X は供試材のη相の (XX・
X)面のX線回折ピーク強度、IRXX・X はASTMに登録さ
れた亜鉛標準物質の (XX・X)面のX線回折ピーク強度を
表す。なお、η相の各面の回折角 (Co2θ) は、 (00.
2) 面が42.4°、 (10.0) 面が45.6°、 (10.1) 面が50.
7°、 (10.2) 面が64.0°、 (10.3) 面が83.6°、 (11.
0) 面が84.4°である。
【0036】従って、ある面の配向性指数が1である時
には、その面の配向度が標準物質と同じであることを意
味し、配向性指数が小さいほどその面の配向度は小さ
い。本発明の複合亜鉛めっき皮膜では、η相の (00・2)
面の配向性指数が0.8 以下であるから、この面の配向度
が標準物質に比べて小さいという特徴を有する。また、
(10・1)面の配向性指数が0.2 以上必要である。 (00・
2)面の配向性指数が0.8を超えるか、 (10・1)面の配向
性指数が0.2 より小さくなると、塗装後耐食性が低下す
る。好ましくは (00・2)面の配向性指数は 0.7以下、
(10・1)面の配向性指数は0.25以上である。
【0037】η相の (00・2)面の配向性が小さく、(10.
1)面の配向性が大きいことにより、塗装前処理として行
われる化成処理 (例、りん酸塩処理) 時に処理液との反
応性が高まり、化成処理皮膜がめっき皮膜の表面に堅固
に付着する結果、塗装性 (塗装密着性) がよくなる。
【0038】即ち、合金元素含有量が10wt%以下の本発
明の複合亜鉛合金めっき金属板では、めっき皮膜中に犠
牲防食効果の高いη相が存在し、しかもこのη相が上記
のように配向しているために塗装密着性が向上する。こ
の両者の作用があいまって、非常に高い塗装後耐食性
(端面および疵部耐食性) を発揮することができるので
ある。また、延性に富むη相の存在は低温耐衝撃性の改
善にもつながる。
【0039】その結果、耐食性、成形加工性、スポット
溶接性、塗装性、塗装後耐食性、低温耐衝撃性がいずれ
も自動車車体に要求される水準を満たす、総合的に極め
て優れた特性を示す複合亜鉛合金めっき金属板が得られ
るのである。これは、自動車車体の内外面に好適である
が、建材や家電製品等の他の用途にももちろん使用でき
る。
【0040】本発明の複合亜鉛合金めっき金属板の合金
元素含有量が10wt%以下である場合、上記の結晶学的特
徴は前述した表層C濃化層により規定される化学構造的
特徴と両立するものであるが、必ずしもこれらの両方の
特徴を有していることを調べる必要はない。即ち、上記
の優れた特性を示す複合亜鉛合金めっき金属板を得るに
は、めっき皮膜の化学構造のみを調べて、上記のC濃化
層を有していればよく、或いはめっき皮膜の結晶構造の
みを調べて上記の配向性指数の特徴を有していればよい
のである。また、後述するように、母材がめっき金属板
である場合には、めっき皮膜の上記の結晶学的配向性は
調べることができないことがある。その場合には、めっ
き皮膜の化学構造のみを調べることになる。
【0041】耐食性は基本的には亜鉛めっきの付着量に
依存するところが大きく、本発明の複合亜鉛合金めっき
皮膜の付着量が5g/m2以下では、防錆効果が不十分とな
る上、このめっき皮膜の表層に0.1 μm以上のC濃化層
を形成することが困難となる。一方、このめっき皮膜の
付着量が200 g/m2を超えると、コストが高く、実用面で
問題がある上、成形性やスポット溶接性の低下も起こ
る。そのため、本発明の複合亜鉛合金めっき皮膜の付着
量を5〜200 g/m2とする。この付着量は、好ましくは10
〜120 g/m2、より好ましくは20〜60 g/m2 である。ま
た、後述するように、母材の金属板はめっき材であって
もよく、その場合には本発明の複合亜鉛めっき皮膜は、
例えば、5〜30 g/m2 の程度の薄めっきで十分である。
【0042】また、この複合亜鉛合金めっき皮膜中の炭
素含有量は、前述したように 0.001〜10wt%である。炭
素含有量が0.001 wt%未満では、前述したC濃化層また
はη相の配向性を持っためっき皮膜を形成することがで
きない。めっき皮膜中の炭素含有量が10wt%を超える
と、めっき皮膜の延性が低下し、成形時にパウダリング
が生じ易くなり、まためっき表面の外観も低下する。亜
鉛めっき皮膜の炭素含有量は、好ましくは0.05〜5wt
%、より好ましくは 0.5〜3wt%である。
【0043】次に、本発明の複合亜鉛合金めっき金属板
の製造方法について簡単に説明する。母材金属板 本発明の複合亜鉛合金めっき金属板の母材は、主として
通常の鋼板、特に冷延鋼板であるが、軽量化のためにア
ルミニウム板を使用するなど、使用目的、使用部位に応
じて適当な金属板を選択できる。
【0044】また、耐食性をさらに高めるために、母材
の金属板として、予め常法により適当なめっきが施され
ためっき金属板 (例、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめ
っき鋼板など) を使用してもよい。母材が亜鉛めっき鋼
板である場合、これは電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛め
っき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のいずれであって
もよい。この母材のめっき皮膜の付着量は特に制限され
ないが、その上にさらに本発明の複合亜鉛合金めっき皮
膜が形成されるので、50 g/m2 以下程度の薄目付である
ことが好ましい。
【0045】なお、母材が亜鉛めっき鋼板のようにZn相
(η相) を有するめっき皮膜を持つめっき鋼板である場
合には、X線回折の測定値に母材のめっき皮膜中のη相
の回折も含まれる。従って、このX線回折測定から本発
明の複合亜鉛合金めっき皮膜のη相の配向状態を知るこ
とはできないので、その場合にはめっき皮膜中のC濃化
層の厚みを調べ、これが上記の条件を満たしていればよ
い。
【0046】めっき方法 めっき方法は電気めっきであり、片面めっきと両面めっ
きの何れでもよい。めっき浴は、酸性浴 (例、硫酸塩
浴、塩化物浴) とアルカリ性浴 (例、シアン化物浴) の
何れでも可能であるが、酸性浴、特に硫酸塩浴の使用が
望ましい。電気めっきは、めっき浴に有機物を添加する
以外は、常法に従って実施すればよい。通電する電流
は、通常の直流でよいが、有機物から共析する炭素量を
増大させるために、パルス電流あるいは交流を重畳した
直流もしくはパルス電流を通電してもよい。
【0047】本発明の亜鉛合金めっき皮膜の形成に使用
できる代表的なめっき条件を、硫酸酸性浴の場合につい
て示せば、次の通りである: ZnSO4・7H2O : 20〜40wt% Na2SO4/(NH4)2SO4 : 5〜10wt% 合金元素 (化合物) : 10〜40wt% 有機物 : 0.001〜10wt% pH : 1〜4 浴温 : 40〜65℃ 電流密度 : 20〜150 A/dm2 液流速 : 0.5〜4 m/sec 合金元素は、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、モリブデン酸
塩、次亜リン酸塩、有機金属塩、あるいは予め金属を溶
解した状態で、目標の組成となるようにめっき浴に添加
する。有機物の添加量は、上記のように一般に 0.001〜
10wt%であるが、本発明の条件を満たすC濃化層を表層
に持った亜鉛合金めっき皮膜が得られるように、めっき
付着量に応じてこの範囲内で調整する。有機物の添加量
は、好ましくは0.01〜10wt%、より好ましくは0.05〜5
wt%の範囲内である。
【0048】めっき浴に添加する有機物としては、アル
キン類、アルキノール類、アミン類、チオ化合物、複素
環化合物、芳香族カルボン酸類などがある。これらから
選んだ1種もしくは2種以上の有機物を用いることがで
きる。
【0049】アルキン類は、炭素−炭素三重結合を含む
有機化合物であり、例えば、ペンチン、ヘキシン、ヘプ
チン、オクチン等が使用できる。アルキノール類は、上
記のアルキン類に1個以上の水酸基が置換した有機化合
物であり、例えば、プロパルギルアルコール、1−ヘキ
シン−3−オール、1−ヘプチン−3−オールなどが例
示される。
【0050】アミン類は脂肪族、脂環式、芳香族のいず
れでもよい。使用可能なアミン類としては、オクチルア
ミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、
トリデシルアミン、セチルアミンなどのアルキルアミン
類;プロペニルアミン、ブテニルアミンなどのアルケニ
ルアミン類;シクロヘキシルアミンなどの脂環式アミン
類;アニリンなどの芳香族アミン類が例示される。
【0051】チオ化合物としては、デシルメルカプタ
ン、セチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン
類;ジメチルスルフィドなどのジアルキルスルフィド
類;チオ尿素およびその誘導体;チオグリコール酸等が
例示される。複素環化合物の例としては、ピリジン、ベ
ンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾ
ール、キノリン、インドール、チオフェン、ピロール、
フラン、プリンなど、ならびにこれらの置換誘導体が示
される。
【0052】芳香族カルボン酸としては、安息香酸、桂
皮酸、サリチル酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン
酸、フタル酸、テレフタル酸などが例示される。
【0053】なお、アミン類 (複素環アミンも含む) お
よびカルボン酸類については、その塩を用いることも可
能である。即ち、アミン類の場合にはその酸付加塩
(例、硫酸塩、塩酸塩など) を、カルボン酸類について
はその金属塩 (例、アルカリ金属塩、亜鉛塩) やアンモ
ニウム塩を使用することもできる。
【0054】上記から選んだ少なくとも1種の有機物を
添加しためっき浴中での陰極電解により亜鉛合金電気め
っきを行って、表層に前述したC濃化層を有する、C含
有量が 0.001〜10wt%、合金元素の含有量が0.2 wt%以
上、付着量5〜200 g/m2の亜鉛合金めっき皮膜を母材金
属板の表面に形成する。このめっき皮膜は、合金元素の
割合が10wt%以下では、めっき層相構造としてη相を含
有し、η相の (00・2)面および (10・1)面が上述した配
向性を示す。それにより、亜鉛合金めっきに固有の優れ
た耐食性 (裸耐食性) を保持しながら、成形加工性、ス
ポット溶接性、塗装性 (化成処理性) 、塗装後耐食性、
低温耐衝撃性が改善された複合亜鉛合金めっき金属板が
得られる。従って、このめっき金属板は、そのままで、
例えば自動車車体、建材、家電製品などの各種用途に使
用できる。
【0055】しかし、この複合亜鉛系めっき皮膜を、次
に説明するように、さらに防食効果のあるクロメート皮
膜と環境遮断効果のある薄い有機樹脂皮膜とで被覆し
て、有機複合被覆鋼板とすることにより、その耐食性が
一層向上するので、必要であればこのような被覆をさら
に行う。
【0056】クロメート皮膜 クロメート皮膜の形成方法は、塗布型、反応型、電解型
のいずれも可能であるが、耐食性に特に優れている塗布
型クロメート皮膜が好ましい。塗布型クロメート皮膜
は、クロム酸もしくはクロム酸塩を含有するクロメート
処理液を塗布した後、加熱乾燥して塗布液中のCr6+をCr
3+に還元して造膜させることにより形成される。塗布型
クロメート皮膜は、低温での還元、造膜を効率よく進行
させるため、二段還元法 (部分還元法) で形成してもよ
い。
【0057】クロメート皮膜の付着量は、金属Cr量とし
て10〜200 mg/m2 、好ましくは30〜120 mg/m2 である。
この付着量が10 mg/m2未満では耐食性の改善効果が不十
分であり、200 mg/m2 を超えると、電着塗装性やスポッ
ト溶接性に悪影響が出る。
【0058】クロメート皮膜の形成に用いるクロメート
処理液は、クロム酸もしくはクロム酸塩と還元剤以外
に、従来より公知の各種の添加剤 (例、コロイダルシリ
カ、酸、水性樹脂など) の1種もしくは2種以上をさら
に含有していてもよい。
【0059】有機樹脂皮膜 クロメート皮膜の上に、最上層として有機樹脂皮膜を0.
1 〜2μmの厚みで設ける。0.1 μm未満では耐食性が
不十分となり、2μmを越えると溶接性、電着塗装性が
著しく低下する。好ましい膜厚は 0.6〜1.4 μmの範囲
内である。
【0060】この有機樹脂皮膜が、従来より塗装鋼板の
製造に使用されてきた各種の樹脂系被覆組成物 (樹脂
液) を用いて形成することができる。有機樹脂薄膜は、
装置が簡便で造膜も速い熱硬化型皮膜が工業的には好ま
しいが、紫外線もしくは電子線硬化皮膜や常温乾燥型皮
膜とすることもできる。
【0061】熱硬化型の有機樹脂皮膜は、必要により架
橋剤を含有させた樹脂液を塗布した後、適当な温度に加
熱して塗膜を焼付けることにより形成される。樹脂種は
特に制限されず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエ
ステル樹脂など、塗装鋼板に使用可能な各種樹脂を使用
できるが、特に好ましい樹脂種はエポキシ系樹脂であ
る。
【0062】塗布に用いる樹脂液中には、樹脂および必
要により加える架橋剤のほかに、必要により希釈用の溶
媒や、1種もしくは2種以上の添加剤を含有していても
よい。このような任意添加剤としては、無機充填材、顔
料類 (防錆顔料、着色顔料、体質顔料) 、可塑剤、潤滑
剤などがある。
【0063】好ましい樹脂種であるエポキシ系樹脂とし
ては、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ノボ
ラック型、臭素化エポキシ等の任意のグリシジルエーテ
ル系エポキシ樹脂が使用できる。また、エポキシ樹脂中
のエポキシ基およびヒドロキシル基を乾性油脂肪酸中の
カルボキシル基と反応させたエポキシエステル樹脂、イ
ソシアネートと反応させることにより得られるウレタン
変性エポキシ樹脂などの変性エポキシ樹脂も使用でき
る。
【0064】また、本発明においてエポキシ系樹脂の1
種として好適に使用できるものに、ポリヒドロキシポリ
エーテル樹脂がある。この樹脂は、単核型もしくは二核
型の2価フェノールもしくは単核型と二核型との混合2
価フェノールを、アルカリ触媒の存在下にほぼ等モル量
のエピハロヒドリンと重縮合させて得られる重合体であ
る。
【0065】以上のようなエポキシ系樹脂の1種もしく
は2種以上を使用し、これを適当な溶剤に溶解させて塗
布用の樹脂液を調製することができる。この樹脂液中に
は、有機樹脂皮膜の種々の性能 (例、加工性、可撓性、
潤滑性、電着塗装性など) を改善する目的で、エポキシ
系以外の樹脂を添加してもよい。例えば、皮膜に可撓性
を与えるためのブチラール樹脂の添加、電着塗装性を向
上するための水溶性樹脂の添加などである。エポキシ系
以外の樹脂の添加量は、あまり多くなると耐食性の低下
を招くので、樹脂液中の全樹脂固形分の50重量%以下と
する。
【0066】エポキシ系樹脂用の架橋剤としては、フェ
ノール樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド、アミノポリアミ
ド、アミン、ブロックイソシアネート、酸無水物などの
公知の各種エポキシ架橋剤の1種もしくは2種以上を使
用することができる。架橋剤を使用すると、皮膜の耐食
性が一層向上する。架橋剤の添加量は、エポキシ系樹脂
中のエポキシ基とヒドロキシル基の合計量に対する架橋
剤中の官能基のモル比が 0.1〜2となる範囲内が好まし
い。
【0067】樹脂皮膜の耐食性向上を目的として所望に
より無機充填材を樹脂液に添加してもよい。有用な無機
充填材の例としては、コロイダルシリカ、各種ケイ酸塩
鉱物、アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸
カルシウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸
アルミニウムなどが挙げられる。無機充填剤の添加量
は、樹脂固形分に対して1〜30重量%の範囲内が好まし
い。
【0068】顔料としては、高い防食性向上効果を示す
ことが知られている、クロム酸ストロンチウム、クロム
酸亜鉛などの金属クロム酸塩系防錆顔料が、耐食性向上
の目的に有効である。また、有機複合被覆が片面のみに
施される場合には、被覆面の識別のために着色顔料を添
加して樹脂皮膜を着色してもよい。
【0069】
【実施例】
【0070】
【実施例1】脱脂した0.8 mm厚の冷延鋼板を母材とし
て、有機物を添加した硫酸塩浴を用いた電気めっきによ
り、表1に示す皮膜構成の、合金元素含有量が10wt%超
の、炭素共析複合亜鉛合金電気めっき皮膜を鋼板の両面
に形成した。この時のめっき条件は次の通りであった。
【0071】pH: 1.8 浴温: 50±2℃ 電流密度: 60A/dm2 液流速: 1.0 m/sec この複合亜鉛合金めっき皮膜の断面深さ方向におけるC
濃度の変化を、島津製作所製のグロー放電発光分析装置
(GDLS-5017) を用いて測定した。この分析装置では、め
っき鋼板断面方向のFe、Zn、Cの各元素の濃度プロファ
イルを測定した。測定結果の1例を図1に示す。比較の
ために、有機物を添加しないめっき浴により形成された
めっき皮膜の濃度プロファイルの例を図2に示す。
【0072】C濃度の測定データから、皮膜表層のC濃
化層の厚み、およびめっき皮膜厚みに対するC濃化層の
厚みの割合 (%) を求めた。これらの結果も表1に併せ
て示す。
【0073】得られためっき鋼板の片面のめっき面上
に、市販の二段還元型の塗布型クロメート処理液をロー
ルコータにより、乾燥後に金属Cr量として60 mg/m2の付
着量となるように塗布し、140 ℃×30秒の加熱より乾燥
させてクロメート皮膜を形成した。
【0074】このクロメート皮膜の上に、ビスフェノー
ルA型エポキシ樹脂65重量部、フェノール樹脂系硬化剤
15重量部、乾性コロイダルシリカ15重量部、潤滑剤5重
量部をシクロヘキサノンに溶解し、不揮発分20wt%に調
整した樹脂液をロールコータにより乾燥膜厚が1.0 μm
となるように塗布し、140 ℃×30秒の加熱より塗膜を硬
化させて、最上層の有機樹脂皮膜を形成した。
【0075】このようにして得た有機複合被覆鋼板の抵
抗スポット溶接性、成形加工性、塗装後の疵部耐食性、
塗装後の端面耐食性を下記の方法で評価した。
【0076】[スポット溶接性]単相交流スポット溶接機
を用いて下記条件で連続打点溶接を行った。
【0077】電流: 10000 A 加圧力: 200 kgf 通電時間:12サイクル (60 Hz で) 電極形状:ドーム形 溶接方法:「1点/2秒で20点連続打点溶接後、40秒以
上の休止」というサイクルを繰り返す。100 点毎にn=
3の剪断試験片を採取し、引張試験後にナゲット径を測
定する。 判定基準:ナゲット径が3.6 mm以上になるまでの溶接点
を連続打点数(N) とし、既存めっき鋼板の連続打点数
(Nas)プラス2000点以上 (即ち、[N−Nas]の値が2000以
上) を合格とする。
【0078】[成形加工性]加工性 亜鉛めっき鋼板から直径90 mm の円板状のブランクを採
取し、直径50 mm 、深さ28 mm の円筒状に深絞り成形
し、その側壁面のめっき皮膜を透明粘着テープで剥離さ
せる試験を行い、その剥離量を目視調査して、剥離片が
付着しているテープ面積率により次の基準で評価した。 5:全く剥離なし 4:剥離片の付着面積率10%未満 3:同じく10%以上、30%未満 2:同じく30%以上、50%未満 1:同じく50%以上成形性 上記深絞り成形時のブランク破断の有無 (◎:28mm絞り
抜け、○:20mm以上成形、×:20mm未満で破断) で評価
した。
【0079】[裸耐食性 (耐穴あき性) 評価法]70 mm ×
150 mmの試験片に対して、塩水噴霧 (5%NaCl、35℃、7
時間) →乾燥(50℃、2時間) →湿潤 (RH 85%、50℃、1
5時間) のサイクル設定の複合腐食試験を300 サイクル
実施後、腐食生成物を除去して腐食深さを測定し、最大
腐食深さによって次の区分で評価した。
【0080】○:最大腐食深さ <0.2 mm △:最大腐食深さ ≦0.6 mm ×:最大腐食深さ >0.6 mm [塗装後耐食性]疵部耐食性 70 mm ×150 mmの試験片を切り出し、この未加工の平板
の有機複合被覆面を、脱脂剤 FC4336(日本パーカライジ
ング社製) で脱脂し、PZT(日本パーカライジング社製)
で表面調整した後、PB-L3080 (日本パーカライジング社
製) を用いて化成処理を行い、次いで、U-80 (日本ペイ
ント社製) で厚さ20±1μm のカチオン電着塗装を施
し、175 ℃で25分間焼き付けた。その後、自動車用アル
キッド系塗料の中塗り (40μm)、焼付け、メラミン・ポ
リエステル系塗料の上塗り (40μm)、焼付けを行って、
塗装試料を作製した。
【0081】この塗装試料の評価面 (塗装面) 側に、カ
ッターナイフで鋼板素地に達するクロスカットを入れ、
次に示すサイクル設定の複合腐食試験を行った。 塩水噴霧 (5%NaCl、35℃、7時間) →乾燥 (50℃、2時
間) →湿潤 (RH 85%、50℃、15時間) 。
【0082】評価は、30サイクル後のクロスカット部の
ブリスター度合いの目視検査により、下記の5段階で行
った。 ◎:ブリスター幅<0.5 mm ○:ブリスター幅<1.0 mm △:ブリスター幅<2.0 mm ×:ブリスター幅<3.0 mm ××:ブリスター幅≧3.0 mm。
【0083】端面耐食性 試験片端面のカエリが板厚の10%となるように金型のク
リアランスを調整してプレス打ち抜きを行い、打ち抜い
た試験片に上記と同様の電着塗装、中塗り、上塗りを行
って塗装試料を作製した。この塗装試料を上記サイクル
の複合腐食試験に供した。評価は、60サイクル後の端面
の赤錆発生面積率により、次の5段階に区分して行っ
た。 ◎:赤錆発生なし ○:5%以下 △:10%以下 ×:30%以下 ××:30%超。
【0084】試験結果を、表2にまとめて示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】表1および表2からわかるように、本発明
の表層に炭素が濃化した亜鉛合金めっき皮膜を持つ複合
亜鉛合金めっき鋼板は、従来の皮膜中に炭素を含有しな
い亜鉛合金めっき鋼板と同等の優れた裸耐食性を示し、
同時にスポット溶接性が著しく改善された。また、成形
加工性および塗装後耐食性も良好であった。
【0088】
【実施例2】実施例1と同様の方法で亜鉛合金電気めっ
きを行い、冷延鋼板の両面に、表3に示す皮膜構成の、
合金元素含有量が10wt%以下の炭素共析複合亜鉛合金電
気めっき皮膜を鋼板の両面に形成した。この時のめっき
条件は次の通りであった。
【0089】pH: 1.8 浴温: 50±2℃ 電流密度: 60A/dm2 液流速: 1.0 m/sec 形成された複合亜鉛合金めっき皮膜のFe、Zn、C濃度プ
ロファイルを実施例1と同様に測定し、C濃度の測定デ
ータから、皮膜表層のC濃化層の厚み、およびめっき皮
膜厚みに対するC濃化層の厚みの割合 (%) を求めた。
また、複合亜鉛合金めっき皮膜のη相の (00・2)面と
(10・1)面の配向性指数を、上述した方法によりX線回
折測定値に基づいて算出した。X線回折測定は、強力X
線回折装置を用いてCoをターゲットとして行った。これ
らのめっき皮膜の測定結果も、表3に併せて示す。
【0090】得られた複合亜鉛合金めっき鋼板の成形加
工性、および塗装後耐食性(疵部と端面)を実施例1に
記載した方法で調べた。また、スポット溶接性と低温耐
衝撃性を次に述べる試験法により評価した。これらの試
験結果は表4にまとめて示す。
【0091】[スポット溶接性]単相交流スポット溶接機
を用いて下記条件で連続打点溶接を行った。
【0092】電流: 27000 A 加圧力: 300 kgf 通電時間:6サイクル (60 Hz で) 電極形状:ドーム形 溶接方法:「1点/2秒で20点連続打点溶接後、40秒以
上の休止」というサイクルを繰り返す。100 点毎にn=
3の剪断試験片を採取し、引張試験後にナゲット径を測
定し、ナゲット径が3.6 mm以上になるまでの溶接点を連
続打点数 (N) とする。 判定基準:◎ N≧2000 ○ 2000>N≧1500 △ 1500>N≧1000 × N<1000。
【0093】[低温対衝撃耐久性]未加工の平板試験片に
対して、塗装後耐食性試験と同様に塗装を行った。この
塗装試験片を供試台上にセットし、−40℃の低温条件下
でダイヤモンド粒 (直径約3mm) を時速120 km/hの速度
で10箇所衝突させた。この衝撃を受けさせた試験片に対
して、1か月に1回の頻度で3%NaCl水溶液に30分間浸
漬しながら工業地帯環境 (兵庫県尼崎市) に暴露すると
いう耐食性暴露試験を5年間行った。この暴露後の衝突
点での塗膜ブリスターの最大径を測定し、下記の基準で
低温耐衝撃性を評価した。 ×:ブリスター幅が5mm以上 △:ブリスター幅が3mm以上、5mm未満 ○:ブリスター幅が1mm以上、3mm未満 ◎:ブリスター幅が1mm未満
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】表3および表4からわかるように、合金元
素の含有量が10wt%以下の本発明の複合亜鉛合金めっき
鋼板では、前述した皮膜表層のC濃化層に加えて、めっ
き皮膜が亜鉛のη相を含有し、しかもそのη相の (00・
2)面の配向性指数が0.8 以下、 (10・1)面の配向性指数
が0.2 以上であるという配向性を示した。それにより、
裸耐食性、成形加工性、スポット溶接性、塗装後耐食性
に加えて、低温耐衝撃性にも優れて複合亜鉛合金めっき
鋼板を得ることができた。
【0097】
【発明の効果】本発明の複合亜鉛合金めっき金属板は、
めっき皮膜の表層に、スポット溶接性と成形加工性の改
善に有効なC濃化層を有しており、その下側は裸耐食性
に優れた亜鉛合金めっき皮膜となっているため、亜鉛合
金めっき鋼板に特有の高い耐食性を保持したまま、その
弱点であったスポット溶接性と成形加工性が改善され
る。さらに、めっき皮膜中の亜鉛合金の合金元素の含有
量を10wt%以下に制限することによって、めっき皮膜の
合金組織がη相を含有し、このη相が特定の配向性を有
する、複合亜鉛合金めっき皮膜となり、めっき皮膜の塗
装性が向上して塗装後耐食性が改善され、またη相の延
性により低温耐衝撃性も向上する。
【0098】本発明の複合亜鉛合金めっき金属板は、自
動車車体の内外面に要求される性能を満たすことがで
き、苛酷な腐食環境下に耐える防錆鋼板として使用でき
る。従って、このめっき金属板は自動車車体、特にその
外板用に最適であるが、家電製品、建材などの他の用途
にも使用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合亜鉛合金めっき鋼板の表面の断面
方向におけるC、Zn、Feの各濃度変化プロファイルの例
を示す図である。
【図2】従来の亜鉛合金めっき鋼板の同様な濃度変化プ
ロファイルの例を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 細田 靖 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友 金属工業株式会社内 (72)発明者 吉田 究 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友 金属工業株式会社内 (56)参考文献 特開 平4−214895(JP,A) 特開 昭58−210193(JP,A) 特開 平4−124296(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C25D 15/00 - 15/02 C25D 5/26

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属板の少なくとも片面上に、Fe、Coお
    よびNiから選ばれた1種または2種以上の金属を合計
    で、金属元素全体に対して0.2 wt%以上の量で含有す
    る、付着量5〜200 g/m2の亜鉛合金めっき皮膜を有し、
    このめっき皮膜が0.001〜10wt%の炭素を含有する複合
    亜鉛合金めっき皮膜であって、表層に厚み0.1 μm以
    上、10μm以下のC濃化層を有し、この表層C濃化層が
    めっき皮膜の厚みの5〜50%を占めることを特徴とす
    る、複合亜鉛合金めっき金属板。
  2. 【請求項2】 金属板の少なくとも片面上に、Fe、Coお
    よびNiから選ばれた1種または2種以上の金属を合計
    で、金属元素全体に対して 0.2〜10wt%の量で含有す
    る、付着量5〜200 g/m2の亜鉛合金めっき皮膜を有し、
    このめっき皮膜が0.001〜10wt%の炭素を含有する複合
    亜鉛合金めっき皮膜であって、このめっき皮膜中のη相
    の (00・2)面の配向性指数が0.8 以下、 (10・1)面の配
    向性指数が0.2 以上であることを特徴とする、複合亜鉛
    合金めっき金属板。
  3. 【請求項3】 請求項1または2に記載の複合亜鉛合金
    めっき金属板のめっき皮膜上に、Cr付着量10〜200 mg/m
    2 のクロメート皮膜と、その上に膜厚 0.1〜2μmの有
    機樹脂皮膜とを有することを特徴とする、有機複合被覆
    金属板。
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