JP4746583B2 - 被覆鋼材の耐食性評価方法及び被覆鋼材の複合耐食性評価方法 - Google Patents

被覆鋼材の耐食性評価方法及び被覆鋼材の複合耐食性評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、被覆鋼材の耐食性評価方法及び被覆鋼材の複合耐食性評価方法に関し、特にコンクリートあるいは地面に一部を埋め込まれて使用される被覆鋼材の耐食性評価方法に関するものである。
鋼材を防食する技術としては、亜鉛系のめっきが広く採用される。さらに防食能を高くするには、亜鉛めっきの上に有機樹脂塗装をすることが多い。この場合、亜鉛めっき上に直接塗装をしても、めっきと有機樹脂の密着性は、必ずしも良くないこともまた周知のことであり、このため、めっき上に、リン酸塩処理、クロメート処理等の所謂化成処理をするのが一般的である。
このような被覆鋼材を含む鉄鋼構造物は、コンクリートや地面に埋め込む形で屋外使用されることも多い。しかし、このような使い方をした鉄鋼構造物は、埋設された部分の直上、即ち、地際部で激しい腐食を起こす事例があることが知られている。この現象を以下、「地際腐食」とよぶ。
この「地際腐食」の原因には、以下の要素が挙げられている。
I) コンクリート中の鉄鋼材料は、コンクリートのアルカリにより不動態化している。この不動態化した部分と地表に出ている部分の鉄が局部電池を形成すること。
II) 地際部は、鋼管柱への結露等が落ちてくるため湿り易い構造であり、かつ、この結露水には、鋼管柱に付着した塩分等が凝集していること。
III) 動物の排泄物、昆虫の死骸等が微生物によって分解され、アンモニア性窒素を生成する。このアンモニア性窒素が、鋼材の亜鉛めっき、リン酸塩化成処理を溶解すること。
このような、防食皮膜を有する鋼材の防食性の評価方法としては、種々の方法が実施されている。
1) 塩水噴霧試験(以下SST)(JIS Z 2371)
pH7.0の5%NaCl水を35℃で連続噴霧する方法であり、手軽ではあるが、現実の屋外での腐食との相関が低い。
2) 日本自動車工業規格会で規定された車体外面腐食試験法(非特許文献1)
5%NaCl水を2時間噴霧することを含む腐食サイクル試験であり、濡れ時間を全試験時間の50%とする。
3) Society of Automotive Engineers(以下SAE)で規定された自動車外面腐食試験法(非特許文献2)
融雪剤による腐食を想定し、NaClとCaClの混合溶液を用いた試験法。
4) 国内の酸性雨地域用の建材の試験方法(ISO TC1556資料)
人工海水(ASTM D 1141)を用いた試験方法。NaCl、CaCl、MgCl、硫酸根、硝酸根を含む。
以上の例で分かるように、防食皮膜を有する鋼材の耐食性を評価する方法としては、いずれも、種々の温度あるいは温度サイクルや、種々の湿度あるいは湿度サイクルで、主に塩化物イオン(以下Cl)による腐食を調査するものが殆どである。金属イオンの種類を変えてその影響を調査しているものもあるが、腐食は主に塩化物イオンによって進むと考えてよい。
例外として、地際腐食の環境をそのまま再現した条件で、腐食試験を実施した例が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、この方法は、6ヶ月に及ぶ長期の試験期間を必要としている。もちろん、試験片を高温槽に入れる等の処置を採れば、試験期間の短縮は可能と考えられる。しかし、微生物の活動は必ずしも高温にすることによって活発になるのものではなく、また、アンモニアが気散し易くなる、等のマイナス要素もある。このため、この実際に即した環境という信頼性を損ねずに、試験期間の大きな短縮は困難である。
また、塗装した鋼材の腐食促進方法の一つとして、温度を変更すること、場合によっては凍結条件を加えたサイクル試験がよく用いられるが、コンクリート塊を含む試験片は熱容量が大きいため、サイクル試験には不向きである。また、凍結条件がある場合には、コンクリートが割れる等の問題も生じる。
特開2006−132128号公報 JASO M610 自動車技術会「自動車部品外観試験法」JASO M610−92 (1992) H. E. Townsend, Corrosion prevention, SP−1265, SAE, 53 (1997)
このため、簡便かつ短期間で、実際の環境との相関性が高い評価方法が必要である。
しかしながら、上述したように、地際腐食には、塩化物イオン以外に、マクロ電池形成とアンモニアによる亜鉛・化成処理皮膜の溶解という2つの要因がある。このため、上記のような従来型の腐食促進試験では、地際腐食の現象を再現することはできない。特に、アンモニアという特殊な化学物質が存在する環境での耐食性は充分な検討はなされてなく、上記のように、現実の環境を再現した形での試験に止まっていることが実情である。このような長期に亘る試験が必要な現状では、有効な防食方法の開発が困難であることは言うまでもない。
特殊な環境での腐食が問題になるケースとしては、原油の掘削・輸送等に用いられる鋼管で、硫化水素等の酸性ガスによる腐食が問題になる場合がある。この場合は、このような特殊な環境・物質での腐食のみを考えればよいため、その対応も、試験方法もさして難しいものではない。しかし、地際腐食の場合には、通常の環境での一般的な腐食に加えて、地際での特殊な要因を考慮しなくてはならない。
本発明の目的は、地際環境での被覆鋼材の耐食性の簡便で正確な評価方法を提供することにある。
本発明では、地際腐食の要因の一つである、アンモニア性窒素(以下、アンモニア)に着目した。そして、アンモニアによる鋼材上のめっき・化成処理皮膜の溶解の可能性、土中でのアンモニア生成の可能性等について調査した結果、以下のことが分かった。
i) 食塩と尿酸・尿素・クレアチン等の含窒素化合物で作製した模擬尿水(pH:6.4)に、腐葉土を懸濁させ室温(約25℃)で24時間放置した後、ろ過液を分析した。その結果、模擬尿水中には殆ど存在しないアンモニア性窒素が約2000ppm検出され、pHは9.3に上昇した。このことから、腐葉土+動物の排泄物という自然環境でありふれていると思われる組合せで、容易にアンモニアが生成することが確認された。
次に、アンモニアを生成する、腐食性が強い土壌環境の極端な一例として、堆肥の生成過程、その分析結果を調査した。
ii) 堆肥の発酵過程は、まずアンモニア性窒素が生成してpHが最大9.5程度まで上昇する。さらに発酵が進むと、アンモニアが酸化されて硝酸が発生し、pHは逆に低下することが一般的であることが分かった。さらに、報告されている堆肥の分析結果から、pHは、5.0〜10.0の値を取り、また、堆肥の乾燥質量比で、アンモニア性窒素は0〜1.6%、硝酸性窒素は0〜1.3%生成する。
(堆肥の乾燥質量からの質量百分率)
iii) 亜鉛−アンモニア錯体(以下、亜鉛アンミン錯体)の生成量を計算すると、亜鉛アンミン錯体の逐次錯生成定数(log K=2.18、log K=2.25、log K=2.31、log K=1.96)より、アンモニア濃度が 0.1mol/L 付近から、急速に亜鉛アンミン錯体の生成量が増加すること、即ち、アンモニアによる亜鉛の溶解が生じ易くなることが分かった。
これらの調査結果から、いわゆる「地際腐食」は、地際部位の土壌中で、微生物の働きによってアンモニアが生成し、これが亜鉛を溶解することが原因の一つであることが確認された。さらに試験を進めた結果、
iv) 低濃度のアンモニアは、単独では、表面処理鋼材に対しての腐食性は小さいが、塩化物イオンが存在する場合には、腐食を促進する効果を発揮すること、
v) 腐食試験を促進するために、pHを11以上に高くすると、アンモニアによるリン酸亜鉛化成処理皮膜の急速な溶解が生じたり、また、鋼材が不動態化して発錆しない等、現実的でない腐食環境になってしまうこと、
vi) 表面処理鋼材の、腐葉土が付着している近傍で、局部的に激しい腐食が生じること、
vii) アンモニア性の環境では、亜鉛めっき鋼材が腐食した場合に通常見られる白錆の発生が観察されないこと、
等が分かった。
以上のような調査結果に基づき、地際環境に用いられる被覆鋼材の、アンモニアを含有する又はアンモニアを産出する特殊な環境における耐食性を正確に評価する簡便で迅速な方法を確立したものである。即ち、本発明は、以下のとおりである。
(1) 0.02〜2.0質量%のアンモニアと塩化物イオン濃度で0.1〜2.0質量%の金属塩化物とを含むpHが5.0〜11.0である試験水溶液中に、評価対象である被覆鋼材を所定時間浸漬することで前記被覆鋼材の耐食性を試験することを特徴とする、被覆鋼材の耐食性評価方法。
(2) 前記アンモニアの濃度が、0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、(1)記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
(3) 前記金属塩化物が、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物であることを特徴とする、(1)記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
(4) 前記試験水溶液のpHが、7.0〜10.0であることを特徴とする、(1)記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
(5) 前記試験水溶液が、さらに硝酸根を0.1〜2.0質量%含有することを特徴とする、(1)記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
(6) 前記硝酸根の濃度が、0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、(5)記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の耐食性試験に引き続き、評価対象である前記被覆鋼材に対して、水蒸気湿潤試験、乾燥試験及び凍結試験を順次行い、前記耐食性試験、前記水蒸気湿潤試験、前記乾燥試験及び前記凍結試験を所定回数繰り返すことを特徴とする、被覆鋼材の複合耐食性評価方法。
本発明により、コンクリートあるいは地面に一部埋め込まれて使用される被覆鋼材の正確な耐食性を簡便で迅速に評価することができ、さらに被覆鋼材の適切な防食構造の開発の効率を向上させることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の評価方法は、単純な浸漬による方法と、温度・湿度を変化させたサイクル試験と呼ばれる方法の2種類である。
まず、浸漬法による評価方法について説明する。浸漬法は、被覆鋼材をアンモニア含有水溶液に、静止状態で連続して浸漬する試験方法である。この場合の水溶液の条件は、以下のとおりである。
まず、アンモニア濃度は、前述のように、現実の環境においても、微生物の活動が活発な条件では、0.2質量%に達していると推定される。この濃度では、アンモニアによる亜鉛錯体の形成量は少なく、アンモニアが直接亜鉛を溶解する効果は小さい。しかし、実際に、このアンモニア濃度で塗装した亜鉛めっき鋼材の浸漬による腐食試験を行うと、亜鉛めっきした鋼材の腐食試験で通常見られる亜鉛の白錆が殆ど発生しないまま、塗装皮膜の剥離が進行する。このため、この濃度においても、アンモニアによる亜鉛めっき鋼材の腐食は促進されていることが分かる。このため、このアンモニア濃度よりもさらに低い濃度である0.02質量%を試験条件の下限とする。実際には、上述のように0.2質量%以上の濃度で行うことが促進試験としては現実的である。促進することよりも、現実の環境に即していることを優先する場合には0.02〜0.2質量%とする。次に、上限の濃度は、2.0質量%とする。これは、堆肥におけるアンモニア生成量の最大値の約2倍であり、促進試験の性質上、このように高めに設定した。このように、アンモニア濃度は0.02質量%から2.0質量%の範囲とする。実際の試験においては、0.1質量%以上、1.0質量%以下であることが望ましい。
その他の成分の濃度としては、塩化物濃度は、動物の排泄物、特に哺乳動物の尿の成分と同等が望ましいため、塩化物濃度として、0.1〜2.0質量%が望ましい。その対イオンとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が混在することが望ましいが、現実に腐食に作用するのは塩分濃度のみといっても差し支えない。このため、簡易方法としては塩化ナトリウムのみで浸漬浴を調整しても差し支えない。
また、硝酸根は、検討した範囲では、亜鉛めっきの溶解には殆ど影響は認められなかったが、腐食が進んで露出した鉄面で赤錆が発生し易くなる傾向があった。このため、硝酸根は添加した方が望ましいが、被覆鋼材の初期の腐食を調査するだけの場合には、省略してもよい。添加する場合の濃度は、堆肥の分析結果と同等に、0.1〜2.0質量%が望ましい。また、堆肥の分析結果と同様に、実際の試験においては、硝酸根を添加する場合の濃度は、0.1質量%以上、1.0質量%以下であることが望ましい。
溶液のpHは、5.0から11.0の間とする。低pHは、堆肥の分析結果に基づいたものであり、実際の地際環境でもこれ以下のPHになることは考え難い。高pH側は、11.0としたが、これ以上の高pHになると、化成処理が不安定な領域になるためである。地際腐食の環境が開放的であり高pHになり難いこと、現実の堆肥のpHが10以下であることから、地際環境のpHも、10程度が上限と考えられる。pHは高い方が促進試験としては効果的であるが、化成処理が不安定なpH領域では、現実の地際地際と異なるメカニズムによって塗膜の剥離、腐食が進む恐れがあるため、最高でも11.0とした。しかし、現実に即するという点では、実際には、10.0以下にすることが望ましい。低pH側としては、堆肥環境でpHが5〜7の低い値も観測されているが、アンモニアの有効濃度、試験の評価期間の短縮等を考えると、7以上であることが望ましい。よって、溶液のpHは、5.0から11.0の間に限定され、さらに7.0〜10.0であることが望ましい。
試験の対象となる材料は、地面又はコンクリート等に埋め込んで用いられる鋼材であり、通常は亜鉛系めっきによる被覆鋼材、あるいは鋼材に亜鉛系のめっきを行い、必要に応じてリン酸塩処理等の化成処理を施した後、塗装をした被覆鋼板である。試験材には、予め、鉄面に達する疵を入れておくことが望ましい。無傷の塗装面である場合、評価結果が判明するまで試験期間が長過ぎるため、望ましくない。この場合、腐食試験でよく行われるように、X字形にカッターナイフをもちいて細い筋状の疵をいれる方法、1mm以上の広い幅で線状に塗膜・めっき層を剥離・除去する、あるいは適当な方法で打痕等の疵を入れてもよい。いずれの場合も、疵の程度に再現性があることが重要であることは言うまでもない。
作製した試験片を、上述のアンモニア性溶液に浸漬する場合、試験片全体を浸漬する方法と、試験片の一部のみ浸漬する方法があるが、いずれでも差し支えはない。これまでの試験結果では、いずれの方法でも、耐アンモニア性の評価結果には殆ど影響は出ていない。
試験温度は、10℃以上40℃以下とする。10℃未満では、腐食の進行が遅く試験時間がかかり過ぎる。上限としては、塗膜のTg(ガラス転移温度)以下の温度であることがまず重要である。また、塗膜のTgが高い場合でも、温度が高くなるほど、アンモニアが揮散して失われ易くなる等の問題があること、現実の土中の温度は高温にはなり難いことを考慮すると、最高でも40℃程度が限界となる。このため、促進性、自然環境との適合性を考えた場合、25〜35℃がより適切である。
なお、試験にあたっては、特に、アンモニア濃度が高い場合にはアンモニア臭が強いため、なんらかの方法で溶液系を密閉状態にせざるを得ない。この場合、臭い、アンモニアの揮散による損失は問題がないが、腐食反応に酸素が消費されると、系内が酸素不足状態になり、反応が遅くなる可能性がある。このため、一日又は二日に一回程度の割合で、試験片の観察の際等に密閉状態を解消することが必要である。同様に、反応の進行にはアンモニアの絶対量も必要である。このため、密閉する系に閉じ込める空気、試験液は十分に余裕がある量が必要である。亜鉛−アンモニア錯体の化学式は、Zn(NHであり、錯体を形成する際に亜鉛は同等質量のアンモニアを消費する。このため、たとえば、0.02質量%のアンモニア濃度の試験液が100mLの場合、アンモニアの絶対量は0.02gであり、溶解する亜鉛量も約0.02gとなる。これは、200g/mの亜鉛めっき鋼材では、1cmのめっき付着量であり、試験片の疵の長さが10cmの場合には、1mm幅程度の塗膜剥離にとどまる可能性がある。このため、特にアンモニア濃度が低い場合には、疵の長さ10cmについて約1Lの試験液が必要である。酸素は、亜鉛のイオン化には酸素2分子が消費されるため、電気化学的な亜鉛の溶解には、やはり亜鉛と同等質量の酸素が必要である。1Lの空気に含まれる酸素の質量は約0.28gであるため、定期的に空気を入れ替えるという前提であれば、試験片あたりの空気量は、数100mLで十分である。
水蒸気湿潤、乾燥、凍結等の条件を加えての試験(以下、サイクル腐食試験と略記)としては、種々の条件があり得るが、アンモニア含有液浸漬についてはこれまで述べた条件の範囲でよい。湿潤条件については、温度は20℃から60℃の範囲、湿度は70%以上とし、凍結条件については、−5℃から−30℃の範囲、乾燥条件については、温度は30℃から70℃の範囲、湿度は60%以下とすることが好ましい。試験時間としては、温度・湿度の変化が大きいこと、浸漬−引き上げという物理的な操作を含むことから、試験機の能力、あるいは試験の手法にもよるが、十分な移行時間が必要である。このため、各工程には最低でも2〜3時間以上が必要と考えられることから、1サイクル/1日程度のサイクルを設定することが望ましい。その一例としては、
アンモニア含有液浸漬(30℃、4時間)
→湿潤(40℃、R.H.95%、4時間)
→凍結(−20℃、4時間)
→乾燥(50℃、R.H.40%、12時間)
という工程を繰り返す等の条件が考えられる。
アンモニア溶液への単純な浸漬は、塩素による電気化学的な腐食とアンモニアによる化成処理、亜鉛、亜鉛の腐食生成物の溶解除去が同時に進行する試験である。しかし、現実の地際腐食においては、この2つの反応は必ずしも同時に起きるものではない。塩素等による電気化学的な腐食は湿潤条件では継続的に生じていると考えられるが、アンモニアが連続的に発生しているとは考え難い。このため、このサイクル腐食試験の方が、連続浸漬試験よりもより現実に近い腐食条件と考えられる。
凍結過程は、皮膜中等に含まれる水分が凍結、膨張して塗膜剥離を促進するものである。しかし、現実には、土壌が凍結するような環境(時期)では、微生物によってアンモニアが発生することは考え難い。このため、現実の環境に近づけるという点からは、凍結過程は必ずしも必要なものではない。
試験の期間は、アンモニアの濃度によって腐食速度が異なるため、一概には言えないが、高アンモニア濃度では一週間〜10日間、低アンモニア濃度では、2ヶ月〜6ヶ月が必要である。高濃度の試験では、化成処理皮膜と亜鉛めっきのアンモニアによる直接の溶解の要素が大きいため、この結果は参考試験程度に考えざるを得ない。現実の環境での、塩素とアンモニアの複合作用による地際腐食の再現試験、促進試験としては、低アンモニア濃度で、最低一ヶ月かけての評価試験が望ましい。
腐食試験後の評価方法としては、
(a) 白錆・赤錆発生の有無(非破壊検査)
(b) 塗装皮膜の膨れ面積、又は疵部からの膨れ幅(非破壊検査)
(c) 塗装皮膜の剥離面積、又は疵部からの剥離幅(破壊検査)
(d) 塗装皮膜を除去しての化成処理皮膜減量・めっき減量の測定(破壊検査)
等を行うとよい。
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
試験に用いた鋼材は、長さ150mm、幅75mm、板厚2.3mmの熱延・酸洗鋼板である。この供試材に、フラックス法によって片面約120g/mの溶融亜鉛めっきを行った。このめっきをした試験片の一部について、通常の塗装下地用の浸漬型リン酸塩化成処理を行い、さらにスプレー塗装を行った。
塗料は、タールエポキシ塗料を用い、皮膜厚は150〜180μmであった。
上記の試験鋼材に、カッターナイフで長さ100mmの鋼層に達する疵を入れた後、表1に示す各種試験液に浸漬した。浴温度は25℃、浸漬時間は6週間とした。試験終了後、疵部周辺の剥離した塗装皮膜を除去し、疵部からの剥離幅を測定した。比較試験として、非特許文献1、2に挙げた試験等を、同一の加工をした試験片に対して行った。その結果を表1にまとめて示す。
Figure 0004746583
表1に示されるように、表面処理した鋼材のアンモニア存在下での耐食性は、pH、アンモニア濃度、その他のイオンの存在、また、化成処理の有無によって異なることが分かる。
単純な高濃度のアンモニア水では、化成処理をした鋼材で塗装皮膜が全面剥離し、化成処理が無い鋼材で腐食が進行しないという、通常の腐食では見られない結果であり(NO.9,10)、耐食性の評価方法としては不適切であることは明らかである。また、アンモニア水と同じpHの水酸化ナトリウム水溶液(NO.7,8)では、殆ど腐食は進行していないため、腐食にはアンモニアが大きく影響していることは明らかである。しかし、低濃度、低pHのアンモニア溶液(NO.7〜10)では、やはり腐食は進行しない。NO.10を除けば、浸漬試験では、本発明例での、低濃度のアンモニア+塩化ナトリウムの溶液(NO.15〜18)でのみ腐食が進行しており、塩素イオンとアンモニアの組合せによって、表面処理した鋼材の腐食が促進されることが明らかである。また、塩水噴霧試験(以下、SSTと略記)、車体外面腐食試験の結果では、化成処理の有無によって剥離幅は大きく異なり、一般的な腐食条件である対塩水での化成処理の効果が明白に現れている。しかし、NO.9、10の結果で分かるように、化成処理皮膜は耐アンモニア性が低い。本発明例の試験条件では、この化成処理の耐アンモニア性の低さの要素が大きく、化成処理皮膜がある方が、耐食性が悪い。
したがって、表面処理した鋼材のアンモニア性環境における耐食性を調査するには、本発明による、アンモニアと塩素イオンの共存が必要であることが分かる。
(実施例2)
試験に用いた鋼材は、長さ500mm、直径80mm、肉厚2.3mmの熱延鋼板を素材とする鋼管である。この供試材に、フラックス法によって片面約80g/mの溶融亜鉛めっきを行った。このめっきをした試験片の一部について、通常の塗装下地用の浸漬型リン酸塩化成処理を行い、さらにタールエポキシ塗料をスプレー塗装した。皮膜厚は50〜70μmとした。
上記の試験鋼材について、本発明例の試験法、実際のコンクリートに埋設しての実環境試験を行った。試験片には、カッターナイフで長さ100mmの鋼面に達する疵を入れた。本発明の試験法では、表1に示す条件で浸漬試験、及びサイクル試験を行った。サイクル試験の条件は、耐食試験、すなわち、アンモニア溶液浸漬は、アンモニア濃度が0.8質量%の硝酸アンモニウムと0.5質量%の塩化ナトリウムを含むpH9.5の試験溶液中に、25℃で4時間試験片を浸漬することにより行った。水蒸気湿潤試験は、温度40℃、湿度95%で8時間行った。凍結試験は、温度−20℃で4時間行った。乾燥試験は、温度50℃、湿度30%で8時間行った。また、実埋設試験としては、山間部でコンクリートを用いて土中に埋設しての試験と、500mmφ×300mm深さのポットにコンクリートで埋設し、これをビルの屋上に設置した試験を行った。疵は、半分程度がコンクリートに埋まるように設定した。また、土中に埋設した試験材については、コンクリート上に疵が見えなくなる程度の量の腐葉土をかぶせた。評価結果を表2、3に示した。
Figure 0004746583
Figure 0004746583
暴露試験のポット埋込みは、地際腐食でなく単純な乾湿繰り返しと、コンクリート内外の電池形成による腐食であり、比較例の静止浴での試験も同様に地際腐食とは異なるものである。
両実験では、亜鉛めっきの犠牲防食が機能し、赤錆が発生する前に白錆が発生している。これに対し、暴露試験の土中埋込みの場合、白錆の発生を見ることなく赤錆が発生している。静止浴浸漬、サイクル試験の本発明例でも、白錆が発生するとなく赤錆が発生しており、この点で本発明の試験法は、アンモニアによる亜鉛の溶解を再現していることが分かる。
次に、化成処理の効果を見ると、暴露試験のポット埋め込みの場合、腐食は赤錆が生じるまで至ってないが、化成処理がある方が、明らかに耐食性は良好である。静止浴浸漬の比較例でも、化成処理がある方が膨れ幅は小さい。しかし、本発明例の静止浴浸漬試験では、化成処理がある方が耐食性は劣り、耐アンモニア性の観点からは、化成処理は逆効果であることが分かる。しかし、比較例の土中埋め込み試験、本発明例のサイクル試験では、化成処理がある方が若干耐食性は良好である。ところで、その化成処理の有無による差異は、比較例のポット埋め込み試験、静止浴浸漬試験ほどは大きくはない。これは、現実の地際環境での腐食がアンモニアによるものだけでなく、その他の塩化物イオン等による電気化学的な腐食の要素も大きいためである。
以上の結果から、本発明例のアンモニアと塩化物イオンを含む静止浴浸漬試験は、防食構造の主に耐アンモニア性を評価する試験方法であり、同じ溶液への浸漬を含むサイクル試験は、アンモニアを含む環境での総合的な耐食性促進評価試験であることが分かる。このサイクル試験における、耐アンモニア性評価の重み付けは、アンモニア溶液の条件と浸漬時間、湿潤条件とその時間を変更することで、変更することが可能である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

Claims (7)

  1. 0.02〜2.0質量%のアンモニアと塩化物イオン濃度で0.1〜2.0質量%の金属塩化物とを含むpHが5.0〜11.0である試験水溶液中に、評価対象である被覆鋼材を所定時間浸漬することで前記被覆鋼材の耐食性を試験することを特徴とする、被覆鋼材の耐食性評価方法。
  2. 前記アンモニアの濃度が、0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、請求項1記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
  3. 前記金属塩化物が、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物であることを特徴とする、請求項1記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
  4. 前記試験水溶液のpHが、7.0〜10.0であることを特徴とする、請求項1記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
  5. 前記試験水溶液が、さらに硝酸根を0.1〜2.0質量%含有することを特徴とする、請求項1記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
  6. 前記硝酸根の濃度が、0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、請求項5記載の被覆鋼材の耐食性評価方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の耐食性試験に引き続き、評価対象である前記被覆鋼材に対して、水蒸気湿潤試験、乾燥試験及び凍結試験を順次行い、前記耐食性試験、前記水蒸気湿潤試験、前記乾燥試験及び前記凍結試験を所定回数繰り返すことを特徴とする、被覆鋼材の複合耐食性評価方法。


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