JP3333902B2 - 遺伝子導入動物、それから得られる細胞および細胞系、およびその使用 - Google Patents

遺伝子導入動物、それから得られる細胞および細胞系、およびその使用

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    • C12N2517/02Cells from transgenic animals

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】 この発明は、正常な動物生育時に核酸シーケンス発現
が阻止されるが、分離した組織培養中では活性化し得る
生殖および/または体細胞が染色体組み込みされた、
「条件的」遺伝子導入によって得られるヒト以外の脊椎
動物、例えば哺乳動物、に関する。また、この発明は、
そのような分離された培養と、不死化細胞系の産生にお
けるその使用に関するものである。そのような細胞系も
多くの有用な用途がある。
【0002】 細胞レベルでの生理機能の研究では、クローン由来の
細胞の同質集団についての生化学実験を可能にする細胞
系が利用できることが大いに役立っている。そのような
細胞系は、多くの場合、自然または実験発生の腫瘍から
得られていた。最近になって、遺伝子操作で特定種類の
遺伝情報を細胞ゲノムに挿入することによって細胞系を
産生することが可能になった。
【0003】 細胞系の生成を可能にする種々の遺伝情報は、細胞が
不分裂の最終段階細胞に分化することを防止する性質を
共有する。バイロロジー127、74−82(1983)(Virolog
y 127,74−82(1983))で、ペティト他(Petit et a
l)がげっ歯類動物の胚繊維芽細胞の不死化でのSV40の
使用を記載し、また多くの研究で、限定数の繊維芽細胞
分裂の後で通常見られる表現型である老化の表現型に繊
維芽細胞が入ることを救う能力によって分化阻害遺伝子
が定義されている。細胞系の生成に関して、繊維芽細胞
がそのような老化表現型に入ることは「危機」と呼ばれ
ることもあり、細胞を危機に入ることから救済する能力
はこの科の遺伝子の特定のための貴重なアッセイシステ
ムを可能にする。この特定種類の遺伝情報が発現される
細胞は、生体外で実質的に無限期間成長する組織培養系
として樹立し得るので、この科の遺伝子は樹立遺伝子ま
たは不死化遺伝子と呼ばれている(ランド他、ネイチャ
ー1983、304、596−602、ルーリー・ネイチャー1983、3
04、602−606(Land et al,Nature 1983,304,596−602,
Ruley Nature 1983,304,602−606))。また、これらの
遺伝子は最終段階分化を阻止するので、成熟阻止遺伝子
と呼ばれることもある。
【0004】 現在の分析は、分化阻害遺伝子ががん遺伝子の核がん
遺伝子と呼ばれる科に属する場合が多いことを示唆して
いる。これらの核がん遺伝子は、細胞性対応物が知られ
ていないいくつかのウイルス性がん遺伝子(例えば、SV
40ラージT抗原、ポリオーマ・ラージT抗原、ヒト乳頭
腫ウイルスE7抗原)(ジャット・アンド・シャープ198
6、ジェイ・バイロロジー59、746−750、ラッソウルザ
デガン他、1982ネイチャー300、713−718、1983ピーエ
ヌエイエス80、4354−4358、フェルプス他、1988セル5
3、539−547、および上記ペティト他(Jat and Sharp 1
986,J.Virology 59,746−750,Rassoulzadegan et al,19
82 Nature 300,713−718,1983 PNAS 80,4354−4358,Phe
lps et al,1988 Cell 53,539−547,and Petit et al su
pra))と、細胞性同族体が知られているいくつかの遺
伝子(mycがその一番よい例)を含む。更に、細胞質
(または成長制御)がん遺伝子の科の中にも、あるセル
タイプにおける分化を阻止する遺伝子がある。例えば、
src遺伝子は膠始原細胞の分化を阻止する。しかし、細
胞分裂の刺激において機能すると思われる遺伝子が、細
胞分化プロセスを阻止する能力をも有するのは希であ
る。
【0005】 最近の実験で、細胞系の樹立を可能にするために、不
死化がん遺伝子を細胞内に位置づける種々の方法が使用
された。例えば、モレキュラー・アンド・セルラー・バ
イオロジーVol6、p.1204−1217(1986年4月)(Molecu
lar and Cellular Biology Vol 6,p.1204−1217(April
1986))で、ジャット他(Jat et al)は、マウス・レ
トロウイルス・シャトルベクター・システムと、ラット
F111細胞の感染用の組換えレトロウイルスの組立でのそ
の使用を記載している。その結果生じた細胞系はSV40ラ
ージTを発現し、腫瘍を発生させることはできないが、
(軟寒天中で)効率的なミクロコロニー形成を示した。
更に、これらの組換えレトロウイルスを用いて、彼らは
SV40ラージT抗原が単独で、危機を生じずに一次繊維芽
細胞を効率よく不死化できることを示した(上記ジャッ
ト他(Jat et al))。
【0006】 種々のトランスフェクション法があるが、レトロウイ
ルス仲介による遺伝子挿入は不死化遺伝要素を導入する
ために最も普通に使用される方法である。これらの方法
はいずれも、いくつかの難点がある。第一に、特定の細
胞集団を標的にする手段が今のところない。第二に、実
効遺伝子挿入の効率が悪く(大体、細胞104個に対して
1個以下)、従って、いくらかでも規則的な細胞系を樹
立するためには多数の細胞の使用が要求される。第三
に、遺伝要素の実効的な組込みは、組織培養での細胞分
裂の誘発を必要とする。第四に、細胞が実験に使用でき
るようになるには培養中での広範な成長が要求され、こ
の成長は通常、非常に人工的な選択的圧力を細胞集団に
かけるといった人工的状態で時間がかかる。
【0007】 現在の技術で可能なものより効率的かつ確実に、種々
のセルタイプから細胞系を樹立することのできる方法が
あれば非常に有用であろう。
【0008】 更に、体のすべての細胞は2つの異なるクラスである
前駆細胞(precursor cell)と最終段階細胞に分けるこ
とができる。前駆細胞(これは始原細胞(rogenitor ce
ll)と幹細胞を含む)は体内における特定の細胞集団の
補充に関与する細胞である。それらは1種類の最終段階
細胞のみの産生に限定され得(例えば、骨格筋前駆体は
骨格筋のみを生じると考えられる)、また、それらはバ
イポテンシャルであり得(例えば、顆粒球−マクロファ
ージ始原細胞は顆粒球とマクロファージのみを生じ
る)、あるいは、それらは多数のセルタイプを生じるこ
とができる(例えば、造血幹細胞は血流のすべての細胞
を生じ、胚幹細胞は体のすべてのセルタイプを生じるこ
とができる)。これに対して、最終段階細胞はその分化
経路の最終点に達した細胞であって、多数のセルタイプ
を生成する能力を失っており、更に重要なことは、損傷
した組織集団の補充に参加する能力を失っている。
【0009】 前駆細胞と分化した最終段階細胞の両方を置換する原
始的な形の前駆体移植療法を用いて、正常な組織機能の
回復を可能にする、特異的前駆細胞についての十分な知
識が存在する数少ない例があって、そのすべてが造血系
に関係するものである。この原始的な形の前駆体療法
は、造血幹細胞を(他の細胞とともに)ドナー個体か
ら、(広がった悪性腫瘍の放射線治療の結果よく見られ
るように)正常な造血集団を部分的にまたは全て喪失し
た受容体へ移植するといった、広く行われている骨髄移
植を支える原理である。注入された造血幹細胞は患者自
身の骨髄にコロニーをつくり、更に、この単一の幹細胞
集団から巨核球、リンパ球、マクロファージ、好酸球、
その他の多種多様な細胞を産生する。
【0010】 前駆体置換療法を行えることが非常に価値のある科
学、医療の分野が現在および将来とも多くあるが、この
方面の努力は目下、体の大半の組織の正常な発達に寄与
する前駆体集団の正体についての現在の知識の不足によ
って阻まれている。これらの集団の研究を含む多年にわ
たる努力にも拘らず、特異な前駆体集団が特定され、損
傷した組織に後で導入できるような態様で組織培養中で
操作できる例は限られた数しかない。同様に、前駆体を
特定の経路で分裂ないし分化させる分子信号の正体が判
っている例も限られている。体自身の前駆体集団に損傷
組織をより効果的に補充ないし修復させる上で非常に価
値があると考えられるそのような組織の取得は、これら
の重要な分子の精製のための適当な細胞アッセイシステ
ムの欠如、および適当な原材料の不足によって大いに妨
げられている。
【0011】 WO89/09816で、マッケイ他(McKay et al)は、成長
促進遺伝子が脊椎動物の細胞に導入される、細胞系の一
般的な不死化方法を記載している。その意図は、この遺
伝子の機能が外的要因で制御され、遺伝子機能が随意に
調節できることにある。そして、活性化された遺伝子で
前駆細胞が成長させられ、その結果生じる細胞集団が、
コンディションを「非許容」コンディションに変えて遺
伝子を不活性化することによって分化できるようにする
ことが記載されている。更に、トロントでの神経科学会
の第18回年次例会(1988年11月)(神経科科学会アブス
トラクト14(2)1988 1130を参照)で、アルマザン他
(Almazan et al,at the 18th Annual Meeting of the
Society for Neuroscience,Toronto,(November 1988)
(see Soc.Neurosci.Abstr.14(2)1988 1130))は、
温度感受性がん遺伝子担体レトロウイルスを用いた乏枝
神経膠前駆細胞の不死化について述べている。
【0012】 しかし、遺伝子を前駆細胞に挿入するための従来技術
の利用は前駆体の性質を備えた特異的細胞系の発達を可
能にしたが、いかなる細胞系の生成にも内在する問題が
前駆細胞系の生成に対しても生じるばかりでなく、前駆
細胞系の樹立には、前駆体がある一定の組織の細胞のご
く一部にしか相当しないこともあり得るという別の困難
があり、必要な遺伝情報を細胞にうまく導入できる可能
性がそれに応じて低くなる。
【0013】 いわゆる「遺伝子導入」動物も何年か前から知られて
いる、つまりこれは、動物の特性を指定通りに変える新
しい染色体環境で発現できる異種遺伝子を動物ゲノムに
組み込んだ動物である。
【0014】 遺伝子導入動物に関する論文は1982年に初めて文献に
発表された。つまり、パルミター他(セル、1982、29:7
01−710)(Palmiter et al.(Cell,1982,29:701−71
0))が、ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼの構造
遺伝子に結合されたマウス・メタロチオネイン−I・プ
ロモーター/調節部位を含むプラスミドをミクロ注入し
た。これらは生体内でハイブリッド遺伝子の発現と、重
金属による生体内での遺伝子の調節可能性を示した。ゴ
ードンおよびラドル(プログ・クリン・バイオル・レ
ス、1982、85:111−124)(Gordon and Ruddle(Prog.C
lin.Biol.Res.,1982,85:111−124))も注入DNA配列の
遺伝を証明した。パルミター他(ネイチャー、1982:611
−615)(Palmiter et al.(Nature,1982:611−615))
は、メタロチオネイン・プロモーターによって調節され
た成長ホルモンのマウス遺伝子導入が異常に大きなもの
に成長したことを示した。
【0015】 1983年に、マックナイト他(セル、1983、32:335−34
1)、レイシー他(セル、1983、34:343−358)、パルミ
ター他(サイエンス、1983、22:809−814)、ブリンス
ター他(ネイチャー、306:332−336)、およびゴードン
(ジェイ・エクスプ・ゾウオル、1983、228:313−324)
(McKnight et al.(Cell,1983,32:335−341),Lacy et
al(Cell,1983,34:343−358),Palmiter et al.(Scie
nce,1983,22:809−814),Brinster et al(Nature,30
6:332−336),and Gordon(J.Exp.Zool.,1983,228:313
−324))がいずれも、組織培養中での細胞の成長に触
れずに遺伝子導入動物の特異性について報告した。
【0016】 1984年に、がん細胞の発現が正常な発達を阻むことを
指摘した最初の論文が発表された。ブリンスター他(セ
ル、1984、37:367−379)(Brinster et al.(Cell,198
4,37:367−379))が、メタロチオネイン・プロモータ
ーの制御のもとでSV40ラージT抗原を発現するマウスに
脈絡膜叢の腫瘍ができたことを示した。腫瘍は生後長く
経ってから発生し、腫瘍形成に関与したのが導入遺伝子
だけでないことを示している。腫瘍組織から細胞系が得
られたが、腫瘍形成前の組織または他の組織から細胞系
を得る試みについての記載はなかった。その少し後で、
スチュアート他(セル、1984、38:627−637)(Stewart
et al.(Cell,1984,38:627−637))が、ホルモン誘発
性マウス乳腫瘍ウイルスプロモーターの制御のもとでc
−mycを発現するマウスに乳腺がんが発生したことを報
告した。細胞系については記載がなかった。遺伝子導入
マウス由来の細胞の培養中での使用の可能性について
は、リッチーズ他(ネイチャー、1984、312:517−520
(Ritchies et al.(Nature,1984,312:517−520))も
触れており、免疫グロブリンκ遺伝子用のマウス導入遺
伝子由来の脾臓細胞を正常なハイブリドーマ融合相手と
融合することによって、ハイブリドーマをつくることが
可能なことを示した。
【0017】 アメリカ特許4736866で、リーダー・アンド・スチュ
アート(Leder and Stewart)は、生殖および体細胞が
活性がん遺伝子配列を含むヒト以外の遺伝子導入哺乳動
物のことを記載している。そのような動物は、新生物を
発達させる傾向が強く、追って試験で使用される薬剤投
与量が低レベルであることから、抗がん剤の試験に特に
有用なモデルである。しかし、その動物は異常に発達す
る顕著な傾向を示し、このことは正常な細胞発達の研究
用のモデルとして、あるいは治療生物素材源としての有
用性を実質的に無にする。
【0018】 パルミター他(ネイチャー、1985、316:457−460)
(Palmiter et al.(Nature,1985,316:457−460))
は、遺伝子導入マウスにおけるSV40ラージT抗原の効果
についての以前からの分析を継続して、脈絡膜叢腫瘍の
発達がSV40エンハンサー部位の存在を必要とし、異なる
SV40コンストラクト(構造)が異種の腫瘍を生じること
を示した。いくつかのマウスの肝細胞腫から細胞系が分
離され、これらの細胞がその核にT抗原を発現すること
が示された。この著者はSV40のts58温度感受性派生物で
マウスを産生することを記載しているが、このコンスト
ラクトは温度感受性でないと述べている。遺伝子導入マ
ウスの産生にT抗原が広く使用されていること、そして
例えばレトロウイルスを仲介とする遺伝子挿入の使用を
通じて生体外での条件的な不死細胞系の産生にts58(=
tsA58)突然変異体が広く使用されていることにも拘ら
ず、従来の他の研究(パルミター(Palmiter)とその同
僚のその後の研究を含む)は、この突然変異体に帰らな
かった。
【0019】 これまで報告された遺伝子導入研究の総体的目標は、
大体特異的組織の正常な発達を阻害する遺伝情報を生殖
系列に導入することにあった、と言える。これとはまっ
たく対照的に、後で明らかになるように、本発明は、正
常な発達が阻害されず、細胞が収集され、特に、組織培
養中での導入遺伝子の活性化が、潜在的可能性として体
のすべての組織からの細胞の研究を、特に容易にする遺
伝子導入動物の産生に関するものである。
【0020】 従って、例えば、他の研究機関では、がん細胞発現を
調節するために調節可能なプロモーター(H−2Kb)を
使用した遺伝子コンストラクトをつくるところまで行っ
たとしても、遺伝子導入動物でそのようなプロモーター
の使用が生体外での条件的がん遺伝子発現を可能にする
可能性は以前に認識されなかった。この最も詳細な例
は、モレロ他(がん細胞研究、1989、4:111−125)(Mo
rello et al.(Oncogene Research,1989,4:111−12
5))によって記載された、H−2Kbプロモーターをc−
myc遺伝子と結びつける研究であり、彼らは、融合遺伝
子を担持するいくつかの遺伝子導入株をつくり、そこで
は、構成的c−myc発現がすべての組織に見られるか否
かを判断するため、そしてこれらの遺伝子導入動物にお
ける構成的に強化されたmyc発現の生物学的効果を確認
するために、5'H−2Kbプロモーター配列がヒトc−myc
プロトがん遺伝子に結合されている。その著者は、5個
の遺伝子導入株の樹立に到る33匹のマウスを得た。著者
は、分析されたほとんどの器官でH−2/mycコンストラ
クトの発現が見られ、リンパ系器官で最大発現が、脳と
肝臓で最少発現が見られたことを報告している。H−2K
/myc発現のレベルは、H−2K発現と対応していた。モレ
ロ他(Morello et al.)は、H−2K/mcyマウス4匹に20
ヶ月の期間疾病が生じなかったことも報告し、これか
ら、このコンストラクトでの不死化には第二の遺伝事象
が必要であると結論づけている。
【0021】 以前の遺伝子導入研究で、エフラットおよびハナハン
(モル・セル・バイオル、1987、7:192−198)(Efrat
and Hanahan(Mol.Cell Biol.,1987,7:192−198))
は、T抗原発現をすい臓のβ島細胞に目標づけるために
プロモーターを使用した、2系列の遺伝子導入マウスに
おける逆プロモーター要素の細胞特異性活動を調べた。
遺伝子の発現が腫瘍細胞で調べられた。また、エフラッ
ト他(プロック・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエ
イ、1988、85:9037−9041(Efrat et al.(Proc.Natl.A
cad.Sci.USA,1988,85:9037−9041))は、ハイブリッド
・インシュリン・プロモーターSV40T抗原遺伝子を担持
する遺伝子導入マウスから得た島細胞腫瘍から樹立され
た3個のすい臓β細胞系の作用を調べた。すべて一次β
細胞腫瘍由来のβ腫瘍細胞は、培養の50継代にわたって
β細胞の特徴を維持した。著者は、「細胞特異性調節要
素を備えたがん遺伝子の目標とされる発現は希有セルタ
イプの不死化と、その分化表現型の維持のための選択の
両方に使用できる」と結論している。本発明では、この
科学分野に対する重要な貢献が「目標とされる発現」が
不要な点にある。以下で明らかになるが、本発明の遺伝
子導入動物は、必要に応じて不死化のために随意に選択
・採用できるセルタイプの貯蔵庫であり得る。
【0022】 更に別の遺伝子導入研究で、ビーバリッヒ他(モル・
セル・バイオル、1987、7:4003−4009)(Bieberich et
al.(Mol.Cell Biol.,1987,7:4003−4009))も、クラ
スI抗原機能の研究に遺伝子導入マウスを用い、遺伝子
導入マウスからの皮膚移植片がバックグラウンド株のマ
ウスに迅速に拒絶されること、クラス1導入遺伝子がイ
ンターフェロン処理で誘発可能で、ヒト・アデノウイル
ス12形質転換によって抑制可能であることを知見した。
【0023】 また、1987年に、チョイ他(ジェイ・バイロル、198
7、61:3013−3019)(Choi et al.(J.Virol.,1987,61:
3013−3019))は、マウス乳腫瘍ウイルスの長末端反復
の転写調節を受けるシミアンウイルス40の初期領域遺伝
子の発現を調べた。遺伝子導入動物から培養された細胞
は、グルココルチコイドによって誘発可能なキメラ遺伝
子の発現を示した。シミアンウイルス40配列を発現す
る、全部ではないが多くの組織が、前悪性特徴を示し、
腫瘍に発達した。
【0024】 1988年に、ポール他(クリン・ボーヘンストラ、198
8、66、サップル11:134−139;エクス・セル・レス、17
5、354−365)(Paul et al.(Klin Wochenstr.,1988,6
6,Suppl.11:134−139;Exp.Cell Res.,175,354−365))
が、マウス・メタロチオネイン・エンハンサー配列に誘
発されたSV40ウイルス配列を発現するマウス由来の肝細
胞を成長させることによって、永続的に成長する肝細胞
系をつくり出した。ほとんどの肝細胞が培養中で不死化
表現型を示し、培養中で更に成長してますます転換状に
なった。当初の細胞は非悪性であったが、細胞分裂を促
進するために化学的に規定された培地に表皮成長因子を
加えることを必要としない点で、正常な細胞と明らかに
異なっていた。生体内で、マウスは肝細胞がん腫を発生
した。
【0025】 マッケイ他(キドニー・イント、1988、33:677−68
4)(MacKay et al.(Kidney Int.,1988,33:677−68
4))は、シミアンウイルス40用のマウス導入遺伝子系
からクローン化糸球体上皮、中皮および内皮細胞の永久
細胞系を樹立した。これらのマウスは誕生時には正常に
見えるが、3〜4ヶ月経つと可変パーセンテージの糸球
体に影響する硬化症が発生した。これらのマウスから得
た細胞は、転換表現型にも拘らず、その正常な対応物特
有の特徴を維持した。
【0026】 ランドン他(オンコジーン・レス、1988、3:271−27
9)(Langdon et al.(Oncogene Res.,1988,3:271−27
9))は、E mu−myc遺伝子導入B−リンパ系細胞の生
体外研究を行って、リンパ腫特性への進行を調べた。そ
の結果、細胞が当初に骨髄支持細胞層を必要とし、その
後培養がモノクローナルまたはオリゴクローナル組成に
分解し、そして後の時点で初めて成長自律性を達成し、
従って成長自律性の樹立における多数の事象の重要性を
示した。
【0027】 上記WO89/09816で、そこに記載された条件的不死化細
胞を動物に導入して、前記細胞に存在する成長促進遺伝
子が正常の体温で不活性である遺伝子導入動物を産生す
る可能性が示唆されている。しかし、記載された研究は
この示唆を取り上げず、そのような技術がいかにして首
尾よく適用されるかは、まったく記載されていない。本
発明で使用されるような(以下を参照)低レベルの発現
のみを産生する促進システムまたは条件的がん遺伝子の
開示はなく、細胞、分化ないし前駆細胞(培養中で後で
不死化できる)源としての安定した遺伝子導入動物の使
用についての開示もない。
【0028】 潜在的可能性として体のいかなる組織からも、細胞系
を効率よく得る方法を提供することが、非常に望ましい
ことは明かであろう。これが、上記の具体的問題点とは
別に、そして遺伝子導入動物に対する非常に大きな関心
にも拘らず、これまで実現に程遠かった目標である。
【0029】 以上のような従来からの問題点および目標に鑑み、本
発明では、配列が染色体組み込みされた生殖細胞および
/または体細胞をもった、遺伝子導入、非ヒト、真核動
物であって、 前記配列は条件的に活性となる分化阻害産物をコード
するものであり、かつ、前記配列は活性化可能なプロモ
ーターの制御下にあり、ここで、 生体内では、前記活性化可能なプロモーターが前記配
列の発現が阻害されるような制御を行うとともに、前記
条件的に活性となる分化阻害産物が不活性となるような
条件におかれることにより、前記分化阻害産物は発現し
たとしても前記動物における前記細胞の正常な発達を可
能にするのに十分に低い機能レベルしか有さず、 培養中では、許容条件、即ち、前記活性化可能なプロ
モーターが前記分化阻害配列の発現が誘導されるような
制御を行うとともに、前記条件的に活性となる分化阻害
産物が活性となるような条件を与えられると、前記動物
から取り出された細胞の分化が完了することを妨げるの
に十分な機能レベルの発現を有することを特徴とする、
配列が染色体組み込みされた生殖細胞および/または体
細胞をもった、遺伝子導入、非ヒト、真核動物を提供す
る。後述するように上記発明の動物において、前記配列
が、TAgtsをコードすることが好ましい。また、前記プ
ロモーターがHLAクラスIプロモーターであることが好
ましく、前記プロモーターがHLA H−2Kbプロモーター
であることが更に好ましい。更に、前記プロモーター
が、操作可能に結合している複数の遺伝調節要素を有す
ることが好ましく、前記動物は、マウスまたはラットで
あることが好ましい。
【0030】 上記発明は、その一面で、活性化可能なプロモーター
の制御下で、条件的に活性となる分化阻害産物をコード
する配列が染色体組み込みされた生殖細胞および/また
は体細胞をもった遺伝子導入、非ヒト、真核動物であっ
て、ここで、活性化可能なプロモーターの制御とは、通
常は、正常な細胞発達を可能にするよう前記配列の発現
が阻害されるような制御を行い、しかし、前記動物から
取り出された前駆細胞が組織培養中におかれた場合に、
前記プロモーターに許容状態を与えて前記配列の発現を
活性化することによって、前記動物から取り出された前
駆細胞の組織培養中での分化を完了することを妨げるこ
とができるような制御を行うものである、条件的に活性
となる分化阻害産物をコードする配列が染色体組み込み
された生殖細胞および/または体細胞をもった遺伝子導
入、非ヒト、真核動物を提供するものである。これらの
「条件的」遺伝子導入動物に関連して、本書で使用する
「活性化可能なプロモーター」は、(a)その制御下
で、誘導されない場合より、配列の発現のずっと高いレ
ベルを生じるよう誘導され、(b)誘導されない場合
に、検出可能な程度に発現を許容しないか、正常な細胞
発達を阻害しないレベルでのみ発現を許容するプロモー
ターシステムを意味する。「漏出性」つまり少量の発現
を許容するプロモーターシステムは、発現のレベルが正
常な発達パターンを妨げない限り許容されることが理解
されよう。後で明らかになるが、動物内での発現レベル
を低く抑えることができるが、必要に応じて上昇誘導す
る種々の方法がある。従って、「条件付き」は、条件的
がん遺伝子が関与する二重条件付きの形を使用する、本
書に記載された特定の研究におけるように、多くの手段
を用いて達成できる。例えば、多重条件付きは、上記
(a)で述べた高レベル発現を達成するためにそのすべ
ての調節が必要な、2個以上の調節遺伝要素を採用した
プロモーターシステムの使用に択一的に依存することが
できる。
【0031】 他の面で、上記発明は、活性化可能なプロモーターの
制御下で前記条件的に活性となる分化阻害産物をコード
する配列が染色体組み込みされた細胞をもった遺伝子導
入、非ヒト動物に関し、そこでは前記活性化可能なプロ
モーターの活性化のない限り前記配列の発現が阻害され
る。
【0032】 十分に分化したセルタイプは、必要に応じて、そのよ
うな動物に由来する組織培養に効果的に入れることがで
き、更に、上記発明は正常な組織から前駆細胞を得るた
めの方法を提供し、それはこれら細胞の正体ばかりでな
く、その発達を調節する生物学的原理を理解する可能性
を大いに高める態様で行われる。
【0033】 上記発明は、誘発のない生体内での低い発現レベルの
達成によって、組織の発達と分化が生体内で正常に行わ
れる遺伝子導入動物を産生することができ、種々の目的
用の生物材料の宝庫を提供する。
【0034】 総じて、上記発明は、正常な動物のほとんど、または
すべての組織内で不活性で、特に動物の正常な発育に対
する影響が最小限であるように構成された条件的に活性
となる分化阻害産物をコードするDNA配列を含む生殖細
胞および/または体細胞をもった遺伝子導入、非ヒト、
真核動物に関する。最終分化を妨げることのできる遺伝
子コンストラクトの活性化は、そのコンストラクトが生
体内でも活性化され得るが、生体外での切開組織の操作
を通じて優先的に達成される。
【0035】 従って、別の面で、上記発明は、プロモーターの制御
下で、条件的に活性となる分化阻害産物をコードする配
列が染色体組み込みされた生殖細胞および/または体細
胞をもった遺伝子導入、非ヒト、真核動物であって、こ
こで、プロモーターの制御とは、通常は、正常な細胞発
達を可能にするよう前記配列の発現が実効レベルより下
に維持されるような制御を行い、しかし、前記動物から
取り出された前駆細胞が組織培養中におかれた場合に、
前記配列の発現を活性化することによって、前記動物か
ら取り出された前駆細胞が組織培養中での分化を完了す
ることを妨げることができるような制御を行うものであ
る、条件的に活性となる分化阻害産物をコードする配列
が染色体組み込みされた生殖細胞および/または体細胞
をもった遺伝子導入、非ヒト、真核動物を提供するもの
である。
【0036】 上記種類の動物において、条件的に活性となる分化阻
害産物はTAgtsでよく、そして/またはプロモーターはT
Kプロモーター等の「弱い」非誘導性のプロモーターで
よい。多数のプロモーターのいずれもの分子操作(例え
ば、レビン・アンド・マンリー、セル、1989、59:405−
408、エイブル・アンド・マニアティス、ネイチャー、1
989、241:24−25、およびミッシェル・アンド・チア
ン、サイエンス、1989、245:371−378(Levin and Manl
ey,Cell,1989,59:405−408,Abel and Maniatis,Nature,
1989,341:24−25,and Mitchell and Tjian,Science,198
9,245:371−378)でも、上記発明での使用に適した弱
い、非誘導性プロモーターの生成が可能なことが当業者
に理解されよう。
【0037】 別の面で、発明は、上記動物から分離されたか、その
ように分離された細胞から得られ、発現が活性化可能な
前記配列が染色体組み込みされた細胞を含む。
【0038】 また、この発明は、そのような細胞から得られ、前記
配列の発現を活性化することによって不死化された細胞
系をも含む。
【0039】 更に別の面で、この発明は、前記配列の発現を活性化
せずに分化を許容することによって上記細胞から、ある
いは前記配列の発現を不活性化することによって上記細
胞系から、あるいは前記配列の発現を活性化するが、外
的要因にさらすことで細胞の分化誘発可能で、そのよう
にさらされた上記細胞から得られる分化細胞を含む。
【0040】 また、本発明は、遺伝子導入、非ヒト、真核動物の産
生方法であって、 前記動物は条件的に活性となる分化阻害産物をコード
する配列を有するコンストラクトを保有し、そして前記
配列は活性化可能なプロモーターの制御下にあり、ここ
で、前記分化阻害産物は、生体内では、前記活性化可能
なプロモーターが前記配列の発現が阻害されるような制
御を行うとともに、前記条件的に活性となる分化阻害産
物が不活性となるような条件におかれることにより前記
分化阻害産物は発現したとしても、前記動物における前
記細胞の正常な発達を可能にするのに十分に低い機能レ
ベルしか有さず、前記分化阻害産物は、培養中におかれ
許容条件、即ち、前記活性化可能なプロモーターが前記
配列の発現が誘導されるような制御を行うとともに、前
記条件的に活性となる分化阻害産物が活性となるような
条件を与えられると、前記動物から取り出された細胞の
分化が完了することを妨げるのに十分な機能レベルの発
現を有する、ことを特徴とする、 前記コンストラクトの染色体組み込みを前記動物の細
胞の少なくとも一部に対して行うことからなる、遺伝子
導入、非ヒト、真核動物の産生方法を提供する。
【0041】 遺伝子導入の達成に使用する技術は発明概念にとって
重要ではないが、通常、周知の手順を用いた胚段階での
ミクロ注入が望ましい手段である。ミクロ注入は、単細
胞段階から後の胚段階まで、いかなる発達段階において
も使用できる。
【0042】 上記発明の方法においても、前記配列がTAgtsをコー
ドするものが好ましい。前記プロモーターがHLAクラス
Iプロモーターであることが好ましく、前記プロモータ
ーがHLA H−2Kbプロモーターであることが更に好まし
い。また、前記プロモーターが、操作可能に結合してい
る複数の遺伝調節要素を有することが好ましく、前記動
物がマウスまたはラットであることが好ましい。
【0043】 しかしながら、遺伝子導入動物は、この発明の範囲内
にすべて含まれる種々の方法で生成することができる。
その遺伝コンストラクトは胚幹細胞に挿入でき、これら
の遺伝子操作された幹細胞は、少数の細胞が存在する段
階の受精接合体に注入できる。胚幹細胞が接合体にうま
く組み込まれる場合があり、これらの遺伝子操作された
細胞が分化して、体に存在する多くの、あるいはすべて
のセルタイプを形成することができる。そのような細胞
が生殖系列にも寄与する動物もあり、従って初期キメラ
の子孫として完全に遺伝子導入の動物を作る手段が可能
になる。精子自体が遺伝子導入動物を生成するためのベ
クターとして使用できることも示唆されており(現在こ
の主張は議論の余地があると考えられているが)、前受
胎段階での事象の結果組み込まれる可能性を無視するべ
きでない。分化阻害産物をコードする配列が活性化可能
なプロモーターの制御下で遺伝子導入動物の少なくとも
一部の細胞に発現し、従って配列が調節可能であれば、
本発明による染色体組み込み達成の仕方と(動物発生期
おける)タイミングは重要でない。
【0044】 この発明の中心的特徴は、正常な発達を妨げるような
実験的に導入される遺伝情報の発現レベルを避けようと
する意図にある。この特徴により、本発明はこれまで報
告されている他のすべての遺伝子導入実験と区別され
る。本発明のこの必要性は、主として、分化阻害遺伝子
のかなりの発現を可能にするために特に活性化されるべ
きプロモーター配列を利用することによって達成され
る。以下で述べる非限定的な例で、がん遺伝子の作用
は、条件的でのみ活性となる分化阻害産物をコードする
がん遺伝子配列を用いることによって更に制限される。
従って、発明は多重条件付きの原理を採用している。こ
れは、例えば、一緒に用いられると上記の全体的に活性
化可能なプロモーターシステムを提供する複数の遺伝調
節要素の使用によって達成され、あるいは、それは、こ
れも一緒に用いられると、そのようなシステムを提供す
るという所望の効果を達成する1個以上の遺伝調節要素
と、条件的がん遺伝子様の配列の使用によって達成でき
る。
【0045】 本発明にかかわる配列にコードされる分化阻害産物は
前駆細胞の分化を阻害する能力がある。そのような配列
ないし遺伝子は、細胞核に局在化するタンパク質をコー
ドするがん遺伝子を含む。これら核がん遺伝子がコード
する産物のいくつかは、細胞を不死化し(従って、最終
分化の状態に入ることなく不定(無限)期間成長する能
力を与え)、また前駆細胞が非分裂・最終段階細胞に分
化することを阻害する能力を持つ。これら遺伝子のいく
つかは、ウイルスを起源としたものであるだけでなく、
現在のところ、正常なゲノムに既知の哺乳動物の対応物
を持たない。例えば、SV40ラージT抗原、ヒト乳頭腫ウ
イルスE7タンパク、およびポリオーマ・ラージT抗原す
べてが、新生物トランスフォーメーションにおけるウイ
ルスタンパク質の作用に関係すると思われる態様で、正
常の細胞タンパク質と相互作用する能力があることが示
されているものの、これらのウイルスタンパク質の正常
な細胞対応物は現在知られていない(ホワイト・ピー
他、1988ネイチャー388、124−129、デカプリオ・ジェ
イ・エイ他、1988セル54、275−283、およびダイソン・
エヌ他、1989サイエンス143、934−937(Whyte P.et a
l,1988 Nature 388,124−129,De Caprio J.A.et al,198
8 Cell 54,275−283,and Dyson N.et al,1989 Science
243,934−937))。核に局在化するc−myc等の正常な
細胞タンパク質の中にも細胞を不死化し、前駆細胞分化
を阻害する能力をもつものがある(上記ランド他、ドッ
トー・ジー・ピー他、1985ネイチャー318、472−475、
およびドミトロフスキー・イー他、1986ネイチャー31
1、748−750(Land et al supra,Dotto G.P.et al,1985
Nature 318,472−475,and Dmitrovsky E.et al,1986 N
ature 311,748−750))。更に、成長調節と関連がある
と思われるsrc等の少数のがん遺伝子産物は、特定の前
駆体集団を不死化し、その分化を阻害する能力がある。
【0046】 大まかに、この発明で分化阻害産物をコードする配
列、すなわち、分化阻害配列として機能し得る異なった
遺伝子のグループが現在5個あると言える。各カテゴリ
ーの既知の遺伝子のいくつかが下の表に列記されてい
る。第一の遺伝子カテゴリーは核がん遺伝子ファミリー
に属し、SV40ラージT等の遺伝子と、myc、myb等の遺伝
子を含む。第二の遺伝子カテゴリーは突然変異によって
抑制遺伝子から不死化遺伝子へ変換されえるものであ
る。このカテゴリーの現在唯一知られている代表例はp
53で、これは網膜芽細胞腫遺伝子産物活性の変調にも関
与するファミリーのタンパク質と、まだ知られていない
態様で相互作用すると考えられる。第三の遺伝子カテゴ
リーは細胞増殖の制御に関与すると一般に考えられてい
るものだが、あるセルタイプの分化を阻害する能力もも
っているようである。第四の遺伝子カテゴリーは分化阻
害活性と呼ばれる分泌分子がその典型で、細胞表面レセ
プターを介して胚幹細胞の分化を阻害する作用があると
思われる。最後に、分裂促進因子間の協働的相互作用も
前駆細胞分化を阻害できることが最近発見された。ラッ
ト視神経の乏枝神経膠細胞型2星状始原細胞についての
研究で、これらの前駆細胞を血小板由来増殖因子と塩基
性繊維芽細胞成長因子で同時に刺激すると、一見核がん
遺伝子の突然変異活性化のない組織培養中で、前駆体の
乏枝神経膠細胞への分化が完全に阻害され、0−2A始原
体の不定(無限)成長が可能になることが判明した(ボ
グラー他、1990、プロック・ナトル・アカド・サイ・ユ
ーエスエイ、87:6368−6372(Bogler et al.,1990,Pro
c.Natl.Acad.Sci.USA.87:6368−6372))。最後の2組
の結果は、細胞分化を阻害するために、誘導性の活性化
可能なプロモーターで制御された可溶性因子を使用する
ことも可能であることを示している。そのような状況
で、この発明で使用される「分化阻害配列」は前記因子
をコードする遺伝子配列である。
【0047】
【表1】 核がん遺伝子 SV40 ラージ T ポリオーマ・ラージ T アデノウイルス EIA HPV E7およびE6 myc erb A myb 優性突然変異変更性がん抑制遺伝子 p53のいくつかの突然変異体 分化を阻害する成長調節遺伝子 V−src 分化阻害剤を産生する遺伝子 分化阻害活性 分化を阻害するよう作用する複数の成長因子の組合せを
コードする遺伝子配列 血小板由来増殖因子+塩基性繊維芽細胞成長因子
【0048】 分化阻害能力をもつ遺伝子であることが非常に多い核
がん遺伝子のリストはハンター(Hunter)によって最近
編さんされた(セル、1990、64:249−270(Cell,1990,6
4:249−270))。
【0049】 本発明で使用する分化阻害配列は、不死化遺伝子が機
能するポテンシャルを生体内では制限する態様でゲノム
に含まれる。例えば、SV40ラージT抗原(TAg)の熱不
安定形(テグトマイヤー、1975ジェイ・バイロロジー1
5、613−618(Tegtmeyer,1975 J.Virology 15,613−61
8))を使用でき、それはマウスの正常体温(39.5℃)
で急速に分解し、従って不活性化した。この発明の実施
例で、この温度感受性TAg(TAgts)は、主要組織適合遺
伝子複合体のクラスI抗原の発現を通常制御するプロモ
ーターの制御を受ける(木村他、1986セル44、261−27
2、およびボールドウイン・ジュニア・エイ・エス他、1
987モル・セル・バイオル、7、305−313(Kimura et a
l.1986 Cell 44,261−272,and Baldwin Jr.A.S.et al,1
987 Mol.Cell Biol.7,305−313))。このプロモーター
はガンマ・インターフェロンにさらすことによって活性
化できるが、通常は健康な動物の体のほとんどの組織中
で低いレベルでのみ活性である。
【0050】 制御可能な活性化可能なプロモーターの使用の根拠
は、発現が望まれる場合を除いて、意図する遺伝子の発
現を阻害することにある。本発明で使用可能な活性化可
能なプロモーターは、条件を変えることによって制御で
きる。ある条件下(不許容)で、プロモーター作用は阻
害され、正常な細胞発達が生じる。条件が許容に変えら
れる(例えば、上記例ではガンマ・インターフェロンに
さらすことで)と、相当程度の発現が起こる。条件的が
ん遺伝子がすべての組織で常に発現することが許容され
ると、このがん遺伝子自体の復帰突然変異が異常発達を
起こしがちになること、遺伝子産物の十分に高いレベル
が発現すると、条件的がん遺伝子の低レベルの活性が効
力をもち得ること(以下の例1に記載のように)、そし
て生体内の野生型分化阻害配列の機能レベルの発現が組
織トランスフォーメーションを起こすこと(例えば、ア
メリカ特許4736866に開示されたような他の遺伝子導入
モデルに見られるように)等が知られていることから、
相当程度の発現を回避することは肝要である。
【0051】 ランダムな突然変異によって起こる復帰突然変異は、
106個の細胞に1個の頻度で発生する。動物の体は1012
よりずっと多くの細胞を含んでいるので、これは体の多
数の細胞が条件的遺伝子の復帰突然変異を発現すること
を意味する。更に、他の細胞制御経路に関係する復帰突
然変異が104個に1個といった頻度で発生し得ることを
組織培養での実験が示している。従って、体の組織それ
ぞれが、例えば、分化の正常な経路を阻害する能力を持
つ機能的がん遺伝子を発現する多数の細胞を抱えている
と考えられる。そのような状況は正常な発達に相反す
る。実際、この肝心な概念が実現する前に、発明者の一
人(ピー・ジャット(P.Jat))とその同僚によって、T
Agtsがベータアクチンのプロモーターの制御下に置か
れ、体の各細胞で相当に高いレベルでTAgtsが構成的に
発現される遺伝子導入マウスの作製、という公表されな
かった試みがなされた。そのような遺伝コンストラクト
が、操作された胚の生存に適するとは思われない。従っ
て、復帰の問題を回避するためには、TAgtsの発現を実
効レベル以下に落とすプロモーターを使用することが不
可欠である。
【0052】 この発明での使用に考え得る他のプロモーターシステ
ムとして、バクテリアから分離したラクトース(ラッ
ク)誘導性オペロンに基づくものがある。ラック誘導性
システムは、転写プロモーターと転写開始部位の間に位
置する特定のタンパク質のための結合部位を持つことに
もとづく。通常、リプレッサーがオペレーターと結合し
て、転写の立体障害を起こす。細胞に誘導物質がある
と、リプレッサーを複合化し、オペレーターに結合する
ことを妨げ、それによって転写を可能にする。使用され
る特異性誘導物質は、代謝不能で自然に存在しないアロ
ラクトース類似体IPTGである。ラクトースはこの誘導物
質を活性化することも可能であるが、ラクトースは迅速
に代謝され、現在のところ、ほとんどすべての組織中で
低レベルである。高レベルのラクトースを含む唯一の体
液はミルクで、これが泌乳メスのミルク生成細胞中でこ
のコンストラクトが誘導される可能性を高める。多数の
細胞によって構成的かつ誘導可能に発現される(その結
果、誘導前と比べて発現レベルが高まる)クラスI抗原
と異なり、ラックリプレッサーは、本件の遺伝子導入動
物に使用される分化阻害遺伝子の発現の更に確実な制御
を行い得る。もちろん、ラックシステムが哺乳動物の細
胞でも作用することが知られている。
【0053】 ラック誘導性プロモーターは、正常な温血動物で誘導
を起こしそうもない物質によって活性化され得る細菌型
プロモーターの既知の例であるが、他の類似の細菌型プ
ロモーターシステムの発見も考えられる。更に、ラック
レプレッサーのラップ突然変異に例示されるように、細
菌型プロモーターの突然変異形の使用も可能であろう。
そのようなプロモーターがこの発明の方法で使用され
る。
【0054】 誘導性プロモーターの更に別の例はメタロチオネイン
・プロモーターで、これは亜鉛、カドミウム等の重金属
によって活性化される。このプロモーターも本発明の方
法で使用できる。
【0055】 グルココルチコイドによって調節されるMMTVプロモー
ターは、遺伝子導入実験で使用されている誘導性プロモ
ーターである。しかし、このプロモーターは、内因性の
グルココルチコイド生成が分化阻害コンストラクトの発
現を活性化する恐れがある。
【0056】 動物界全般にわたる適用性(下記参照)とは別に、ク
ラスIプロモーターシステムの利点は少なくとも2つ挙
げられる。先ず、低レベルの内因性クラスI抗原発現の
ある組織において、このプロモーターの活性レベルは、
例えば、正常の発達に干渉するに十分なTAgtsA58抗原の
生成を可能にするには低すぎる。しかし、誘導物質(例
えばガンマ・インターフェロン)の付加によって、この
プロモーターの活性を超誘導し、TAgtsA58抗原のレベル
を、分化阻害遺伝子の完全な活性が見られるレベルにす
ることができる。更に、このプロモーターの使用によっ
て、例えば、通常はクラスI抗原の発現がない組織(例
えば中枢神経系)でTAgtsA58の発現を誘発できるが、こ
れはすべての細胞が機能的インターフェロン・レセプタ
ーを持っているからである。
【0057】 本発明の大きな利点は、その一般的概念が温血動物の
すべての種に適用できることにある。例えば、上記例で
は、クラスIプロモーターが通常、細胞がガンマ・イン
ターフェロンにさらされると主要組織適合遺伝子複合体
遺伝子の高レベル発現を起こす(ウオラック・ディー
他、ネイチャー299、Q33−836(Wallach D.et al,Natur
e 299,Q33−836))。この遺伝子活性化の経路がヒト、
うし科の動物、ラットおよびマウスに生じることは既に
よく知られており、従って、すべての温血動物に生じる
と考えられる。更に、既に述べたように、細菌型ラック
プロモーターは哺乳動物の細胞で機能することが知られ
ている。
【0058】 この発明の動物は、潜在可能性として体のすべての組
織に由来する、特に前駆細胞の成長、同定、精製および
詳細分析用の原材料として使用できる(モーストン・ジ
ー他、造血成長因子、エイ・レビュー・キャンサー・リ
サーチ1988、48、5624−5637(Morston G.et al,Hemopo
ietic Growth Factors,A.Review Cancer Research 198
8,48,5624−5637))。不死化・分化阻害遺伝子を活性
化する条件の組織培養に切断した組織を入れて、前駆細
胞を不定(無限に)成長させることができる。更に、前
駆細胞と通常考えられない細胞(繊維芽細胞等)も、こ
の発明の一部をなす実験的操作によって不死化できる。
前に示したように、この発明の動物は、発がん物質の試
験や、新生物の発達に対する保護を与えると考えられる
物質の試験に適していない点で、アメリカ特許4736866
の動物と異なる。一般的に、本発明の動物の組織は、組
織培養に入れられるまで正常な発達を経る。本件の研究
の場合、胸腺を除いて正常な発達が見られ(このこと
は、器官全体の遅延過形成増大を示す)、胸腺内でさえ
も、最終分化を妨げる遺伝コンストラクトの機能が条件
的である。異常発達状態(アメリカ特許4736866に記載
されたような状態)に置かれた細胞が正常な細胞の性質
を発現せず、そのような細胞ががん遺伝子を活性化する
更なる突然変異を経る傾向もあることを示す証拠があ
る。従って、生体内で活性化がん遺伝子を発現する動物
の組織から収集した細胞は、正常な細胞の研究用、特に
正常な前駆細胞の研究用の適正モデルとして信頼できな
いかも知れない。これに対して、本発明に記載された動
物の組織から分離した細胞は、正常の発達を経たと考え
られ、生体外で生育された場合、一旦細胞が不死化タン
パク質を発現すれば、その正常な対応物に可及的に近づ
くと考えられる。
【0059】 従って、この発明の他の面では、不死化細胞を作る方
法が提供され、この方法は、本発明の動物から、前記配
列を染色体組み込みした前駆体または分化細胞を分離
し、前記細胞を前記配列の発現が活性化される組織培養
条件に置くことからなる。
【0060】 特に本発明は、培養中で細胞を確立する方法であっ
て、上記本発明の動物から細胞を取り出す工程、および
取り出された細胞を培養中で許容条件、即ち、前記細胞
に染色体組み込みされた前記条件的に活性となる分化阻
害産物をコードする配列の発現が非構成プロモーターの
制御によって誘導されるとともに、前記分化阻害配列に
コードされる条件的に活性となる分化阻害産物が活性と
なるような条件、に置く工程からなり、ここで前記許容
条件は前記細胞の分化が完了することを妨げるために前
記分化阻害産物の十分な機能レベルの発現を導くもので
ある、培養中で細胞株を確立する方法を提供する。
【0061】 この方法において取り出される細胞は、すい臓細胞、
インシュリン生成細胞前駆体、膠細胞、膠細胞前駆体、
筋細胞および筋細胞前駆体からなるグループから選択さ
れる細胞が好ましい。この方法にさらに前記培養に外的
要因を与えて分化を誘発する工程を有する方法も本発明
の一部をなす。そのような方法によって得られた単離細
胞、特に、後述のように、ヒトまたは動物体の治療用の
そのような方法によって得られた単離細胞も本発明の一
部をなす。また、本発明では、そのような方法によって
得られた細胞の発現産物を生成する方法であって、前記
細胞を前記発現産物の生成に適した条件下で培養するこ
とからなる、上記のような方法によって得られた細胞の
発現産物を生成する方法も提供する。
【0062】 正常な発達を乱すようながん遺伝子発現のレベルの防
止は、単一の遺伝制御要素に存在するものより更に微妙
な調整メカニズムを生成するプロモーターシステムの操
作によっても理論的に達成できる。例えば、理論的に有
用なプロモーターシステムは、リード他、プロック・ナ
トル・アカド・サイ・ユーエスエイ、1989、86:840−84
4(Reid et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,1989,86:84
0−844)に記載されたもので、そこではチミジンキナー
ゼ・プロモーター(低レベルで構成的に発現される)
が、TKプロモーターにインターフェロンの誘導性を与え
るに十分な短い(18ヌクレオチド)配列の下流側に置か
れる。このプロモーターコンストラクトは、インターフ
ェロン誘導性を保持しながら、tsA58の発現を推進し
て、発現の基礎構成レベルを下げるために理論的に使用
できる。
【0063】 本書で提供される二重条件性の原理を拡張して、SV40
の熱不安定性TAgtsA58突然変異体の発現がクラスI抗原
遺伝子のプロモーター要素に制御されるようにすること
も可能である。これは、正常な分化を阻害する能力を持
った他の温度感受性遺伝子の使用によって拡張できる。
更に、がん遺伝子機能に不可欠なホルモンレセプター配
列を含むために条件的であるキメラがん遺伝子を作るこ
とも可能である。そのようなタンパク質の例はピカード
他(セル、1988、54:1073−1080)(Picard et al.(Ce
ll,1988,54:1073−1080))およびアイラーズ他(ネイ
チャー、1989、340:66−68)(Eilers et al.(Nature,
1989,340:66−68))によって記載され、彼らはラット
・グルココルチコイド・レセプターのホルモン結合領域
を持ったアデノウイルスElAタンパク質と、ヒト・エス
トロゲン・レセプターの結合領域を持ったmycタンパク
質をそれぞれ作った。両例とも、宿主細胞機能に対する
キメラタンパク質の効果が、キメラタンパク質に対する
適切なホルモンの結合に依存している。
【0064】 本発明の特定の実施例で、使用される分化阻害配列ま
たは遺伝子はシミアンウイルスSV40由来の温度感受性ラ
ージT抗原をコードするものである。この遺伝子の利用
は、この突然変異遺伝子にコードされるタンパク質がマ
ウスの正常体温に近い温度で急速に分解されることか
ら、正常な発達時に遺伝子活性に対して二次レベルの制
御を行う。しかし、本書の別の箇所に記載されたよう
に、構成的(つまり、調節不能の)プロモーターとの組
合せで温度感受性遺伝子を利用することが、プロモータ
ーが例えばベータアクチンプロモーターと同様に強力な
場合、正常な発達に適すことが期待できないことを示す
十分な証拠がある。従って、他の分化阻害遺伝子も、正
常に発達する体のほとんど、またはすべての組織で不活
性である活性化可能なプロモーターによって調節可能な
限りにおいて使用できる。
【0065】 この発明を説明するために以下に記載した研究で使用
された一次細胞は、皮膚、胸腺、すい臓、中枢神経系、
結腸陰窩、内皮、骨格筋、および腸膠細胞由来の細胞で
ある。しかし、本発明の方法は、適切な遺伝子導入動物
の体から得られた実質的にいかなる種類の細胞でも不死
化するのに使用できることを理解されたい。
【0066】 本書で説明を例証するために選択された特定の細胞
が、広範な細胞の特徴づけが行われた組織に由来するか
ら、本発明の方法で得られる細胞系が正常な細胞に期待
される性質を発現することが確認できる。従って、これ
らの細胞系は、多種多様な組織からの多種多様なセルタ
イプの連続細胞系(継代細胞株)の産生に本方法が使用
できることの直接の証明になる。更に、本書に記載され
た研究の一部は、新規なセルタイプが研究に向いている
培養の生成での動物の有用性を直接示している。
【0067】 この発明で具体化された一般的原則が正しいことを確
認するために、皮膚が主要な繊維芽細胞源として利用さ
れた。皮膚の細胞は、使用されるプロモーターを活性化
する条件で、TAgtsの不死化作用の発現を許容する温度
の組織培養に入れられた。これらの細胞は、プロモータ
ーを活性化しないか、TAgtsの作用の非許容であるか、
その両者の条件に切り換えるまで、種々の長さの時間生
育された。異なる遺伝子導入マウスについて図2に示さ
れるように、プロモーター活性化化合物(ここではマウ
ス・ガンマ・インターフェロン)の除去が、細胞の成長
率の低下と関連していた。ほとんどの動物からの細胞の
成長は、細胞がガンマ・インターフェロンがなく、39.5
℃で生育されなければ完全に抑制されなかったが、ガン
マ・インターフェロンのない条件で、低い率ではあるが
成長し続けるこの細胞能力は、繊維芽細胞でのクラスI
抗原の低い構成的発現レベルによるものと考えられる
(イスラエル・エイ他、ネイチャー322、743−746(Isr
ael A.et al,Nature 322,743−746))。実際、正常な
繊維芽細胞に見られるこのプロモーターの低い構成的発
現レベルでさえも、皮膚のいかなる明白な過形成異常の
発達に関連がなかったことは注目に値する。また、図2
は、39.5℃で、インターフェロンがない条件(以下に記
載の研究の動物11および36由来の培養)で生育された場
合でも、対象とする遺伝子の高い方のコピー数の発現
を、細胞の継続したおそい成長と関連づけ得ることを示
している。このおそい成長は、ガンマ・インターフェロ
ンが取り除かれた細胞が33℃で生育されるときに見られ
るのと同様で、恐らく、この非許容温度での分解による
不活性化の前に(多数の遺伝子コピーの存在のため)産
生された大量のT抗原の活性のブレイクスルーによるも
のである。
【0068】 ガンマ・インターフェロンの除去と39.5℃での成長に
よって分化阻害遺伝子および分化阻害産物の活性が終了
したときに繊維芽細胞が非分裂状態になることは、TAgt
sによる繊維芽細胞の不死化の効果についての以前の研
究で観察されたものに類似している。この以前の研究
(TAgts発現が構成的に活性のウイルスLTRで制御され、
TAgts遺伝子の単一コピーのみを発現する細胞系を生成
するためにレトロウイルスを仲介とする遺伝子挿入を使
用している)で、33℃で生育した細胞が組織培養中で不
定(無限)に生育できた。一方、細胞が39.5℃に切り換
えられると、更なる細胞分裂を経る能力を急速に失った
(ジャット・アンド・シャープ、1989、モル・セル・バ
イオル9、1672−1681(Jat and Sharp 1989,Mol.Cell,
Biol.9,1672−1681))。
【0069】 条件的に不死化された繊維芽細胞が非分裂状態になる
ことは、この非分裂状態が繊維芽細胞の正常な分化経路
を反映する仕方に関して特に興味深い。正常の繊維芽細
胞は、更なる細胞分裂に不応性であることを除いて正常
な代謝機能を示す老化状態になる前に、限られた数の分
裂を経る(ハイフリック・エル他、1961、エクス・セル
・レス、25、285、トダロ他、1963ジェイ・セル・バイ
オル17、299−313(Hayflick L.et al,1961 Exp.Cell R
es.25,285,Todaro et al,1963 J.Cell Biol.17,299−31
3))。許容から非許容条件に切り換えられたときに条
件的に不死化された繊維芽細胞が発現する表現型は、正
常な老化状態と区別がつかない程度に似ている。従っ
て、条件的に不死化された細胞は、非許容条件で生育さ
れると、その正常な対応物の分化事象を経ることができ
る。
【0070】 胸腺から発達した細胞系の2つは、この発明を例示す
るものとして、サイトケラチンの発現により上皮細胞系
と定義される。上皮細胞系の由来は、ヒトのがんにおけ
るこれら細胞の重要性からみて特に興味深く、また胸腺
上皮細胞系の由来は、胸腺のTリンパ球集団の発達にお
けるこれら細胞の重要性からみて、更に興味深い。産生
される遺伝子導入マウスの多くに胸腺過形成を生じる傾
向があるので、細胞系を胸腺から得た。この組織由来の
細胞系は組織培養中ですべて条件的にふるまい、39.5℃
でインターフェロンなしで生育した場合に成長阻害が起
こった。生体外でのこれらの細胞系の条件性は、この組
織でも、生体外で生じる構成的レベルが、分化および成
長制御の正常なプロセスに干渉できるように十分なTAg
のレベルを発現させるには不十分であることを示してい
る。そのような所見は、生体内での胸腺過形成の発生が
マウスコロニーにおける肝炎感染の存在によって増進さ
れるという仮説と符合する。そのような感染は、胸腺に
おけるインターフェロンの産生増大を引き起こし、T抗
原のレベルを非有効性しきい値の上へ押し上げる。これ
らの結果は、この場合マウスコロニーの疾患の結果とし
て、体内のあらゆる細胞で(誘導物質にさらされた細胞
だけでなく)TAgtsのレベルが不当に発現されることを
回避する必要がある、という考えを更に支持する。
【0071】 この発明の別の例証としての中枢神経系由来の細胞系
は、膠腫瘍の想像上の前駆体として、また分化制御の研
究の手段としての遺伝子導入で得られる細胞系の潜在的
有用性を示すものとして特に興味深い。この細胞系は、
ある種の組織培養条件で育成されると星状細胞特異性抗
原を発現するが、他の組織培養条件では繊維芽細胞状の
表現型を発現するよう誘導し得る。この中枢神経系細胞
系が想像上の神経膠腫前駆体として特徴づけられる根拠
は、ヒト神経膠腫が、膠原繊維酸性タンパク質(GFAP)
を発現し、明らかに星状細胞由来のものである細胞と、
GFAPを発現せず、代わりにフィブロネクチン(FN)を発
現する細胞との、2つのカテゴリーに抗原分類できる、
という考えにある。GFAP発現系のクローニングがフィブ
ロネクチンを発現するGFAPネガティブ細胞系の生成をも
たらすことが証明され、従ってフィブロネクチン発現細
胞(これは既知のいかなる中枢神経(CNS)系膠細胞と
も相関関係にない)が中枢神経系系統に起源を辿れるこ
とが示唆されている。希と考えられるGFAPポジティブ星
状細胞のサブセットがFN(大抵の星状細胞は発現しな
い)も発現し得ることを、いくつかの実験が示している
のは、これらの所見に潜在的に関係している。本書に記
載された細胞系は、ウシ胎児血清内での成長によって、
GFAPポジティブ表現型からFNポジティブ、GFAPネガティ
ブ表現型へ切り替えることができる。この細胞の分化を
操作できることは、FNポジティブ、GFAPネガティブ経路
に沿う分化を誘導する特異的分子信号の精製に好適なア
ッセイシステムを可能にする。
【0072】 本発明の方法で作成された他の細胞系は、すい臓由来
のものである。この系の少数の細胞は、成長のあらゆる
条件においてインシュリンを自然発現し、系の一部の細
胞もすい臓の島細胞を標識すると考えられるモノクロー
ナル抗体(A2B5)で標識され得る。細胞系におけるこれ
らマーカーの可変発現が、組織培養条件に適切な分化誘
導微環境の生成に失敗したことによるのか、まだ判って
いない。
【0073】 本書に記載の研究で具体的に例証される他の事項(そ
して発明の関連面)は以下の各例で具体的に言及する。 以下の非限定的例は、この発明の原理を例示するもの
である。 以下で使用する「マウスX」は最初に述べる実験から
X番目のマウスを意味する。
【0074】 例1 pH−2KbtsA58遺伝子コンストラクトの構築 組換えpH−2KbtsA58(図1参照)が、H−2Kb遺伝子
の5'−プロモーター要素をSV40突然変異体tsA58由来の
初期領域コーディング配列に付加することによって作ら
れた。プロモーターの断片が約4.2kbのEcoRl−Nrul断片
としてプラスミドpH−2Kb(これはアンドリュー・メラ
ー博士、MRCロンドン(Dr.Anrew Mellor,MRC London)
によって提供された)から分離された。このプラスミド
は、コスミド88H8由来のH−2Kb遺伝子をコードするゲ
ノム配列を包含するEcoRl断片(ワイス他、ネイチャー1
983、301、671−674(Weiss et al,Nature 1983,301,67
1−674))をプラスミドpBR327にクローン化することに
よって作られた。tsA58DNAはテグトマイヤー、1975ジェ
イ・バイロロジー16、168−178(Tegtmeyer,1975 J.Vir
ology 16,168−178)に記載されている。本例では、SV4
0tsA58コーディング配列が、ハートムト・ランド博士
(インペリアル・キャンサー・リサーチ・ファンド、ロ
ンドンの)(Dr.Hartmut Land(of the Imperial Cance
r Research Fund,London))によって提供されたpUCSV4
0tsA58から約2.6kbのBgll−BamHl断片として分離され
た。このプラスミドは、T抗原コーディグ配列をコード
するtsA58DNA由来のKpnl(ヌクレオチド294)からBamHl
(ヌクレオチド2533)の断片を、pUCl9のKpnlおよびBam
Hl部位に挿入することによって作られた。Bgll部位は、
DNAポリメラーゼIのクレノウ断片(Klenow fragmen
t)を使用して平滑末端化された。両断片は、EcoRlとBa
mHlで消化された等モル数のpuc19に結合された。結合産
生物は、大腸菌MClO61のrecA-誘導体であるJS4へ形質転
換され(カサダバン・アンド・コーエン1980ジェイ・モ
ル・バイオル138、179−207;セディビー他1987セル50、
379−389(Casadaban and Cohen 1980 J.Mol.Biol.138,
179−270;Sedivy et al 1987 Cell 50,379−389))、
アンピシリン・コロニーが分離された。プロモーター断
片がT抗原コーディング配列にうまく融合したか調べる
ために、DNAミニプレップが分離コロニーから作成さ
れ、種々の制限エンドヌクレアーゼで消化して分析され
た。
【0075】 H2Kb−Tagts融合を含有する遺伝子導入マウスの産出 上記H−2Kb−TagtsA58プラスミドをEcoRlとSallで消
化して、ベクター配列のないDNA断片を作製した。これ
らDNA断片をアガロースゲル上で分離し、TE緩衝液(10m
M Tris、pH 7.5、0.2mM EDTA)中にDNAが1〜2μg/
mlの濃度で受精単細胞マウス卵子のオス前核に注入し
た。ミクロ注入を生き延びた卵子を、ワグナー他(198
1)ピー・エヌ・エイ・エス78、5016(Wagner et al(1
981)P.N.A.S.78,5016)に記載されたような偽妊娠メス
へ移した。卵子はCBA x C57BL/10交配由来のもので
ある。MRC育種(breeding)コロニーからマウスを得
て、10時間暗く、14時間明るくするといった周期に維持
された環境制御設備内に収容した。養育メス内の卵子を
限度まで発達させた。
【0076】 遺伝子導入マウスの分析 7〜14の日齢で、導入遺伝子を持っているか調べるた
めに各子供を分析した。最初、尻尾の小部分から調整し
たDNAをスロットブロット上で分析した。サムブルック
他「分子クローニング」(コールド・スプリング・ハー
バー1989(Sambrook et al“Molecular Cloning"(Cold
Spring Harbor 1989))に記載された方法で、尻尾の
0.1〜0.15cmの部分からゲノムDNAを分離した。その結果
できた核酸ペレットを一度80%エタノールで洗い、乾燥
させ、200μlの10.0mM Tris、pH 7.4、1mM EDTA中で
再懸濁させた。SV40ラージT抗原に特異的な32p標識断
片でフィルターをハイブリッド形成することによってコ
ンストラクトの存在を確認した。ファインバーグ・アン
ド・フォーゲルシュタイン(Feinberg & Vogelstein)
のランダムプライミング法でプローブを作成した。尻尾
DNA10μgをBamHlで消化することによるサザンブロット
分析で、TAg遺伝子の保全を確かめた。消化されたDNAを
0.8%アガロースゲル上で分画し、ゼタバインドTM(商
標)(バイオラド(Zeta BindTM(Biorad))にトラン
スファーし、公表されている方法(サムブルック他(Sa
mbrook et al)に記載されたような)を用いてSV40特異
的プローブでハイブリッド形成した。TAg遺伝子用の32p
標識プローブでブロットをプローブした。すべての操作
が、製造者推薦の条件で、あるいは上記サムブルック他
(Sambrook et al)に記載されたような標準プロトコー
ルによって行われた。スロットブロットは、88匹中34匹
のマウスがキメラ遺伝子を持っていることを示した。マ
ウスDNA中に存在するこの融合遺伝子のコピー数は、1
個の細胞につき1〜15コピーであった。
【0077】 H−2Kb−TAgtsA58融合遺伝子を含有する動物は、胸
腺過形成の発達を除いて正常に発育した。発現されたTA
g mRNAのレベルと胸腺過形成の開始の速さとの間には
っきりした相関があるように思えた。胸腺の両方の葉が
均等に拡大したこと、そして107もの胸腺由来の細胞を
実験されたことのない(native)受容マウスに(皮下注
射または腹膜腔内注射で)注入しても宿主マウスに腫瘍
を引き起こさなかった事実が、観察された胸腺拡大が新
生物トランスフォーメーションによるものでないことを
示している。更に、以下に記載するように、これらの拡
大胸腺由来のほとんどすべてのストロマ細胞系が培養で
の成長について条件付きであるように思われた。胸腺過
形成は、感染した動物にインターフェロン生成を引き起
こすと思われる動物コロニーのマウス肝炎ウイルス感染
の存在に部分的に起因した可能性がある。従って、胸腺
組織での既に高レベルの内因性クラスI抗原発現によっ
て肝炎感染が悪化し、生体内で体の他の組織の場合より
高いレベルのTAgtsA58の発現に到った可能性がある。ハ
イブリッド遺伝子の単一コピーのみを発現したマウス株
の1つにおいて、過形成の発生に一層長時間を要した
(異種接合体に6ヶ月、同型接合体に3〜4ヶ月)。
【0078】 下記の組織培養で育成された細胞のように、大量のTA
gtsA58が(マウスのDNAにおける多数の遺伝子コピーの
存在と関連して)転写された場合、許容温度でさえも成
長促進に対するTAgtsA58の限界効果が生じると思われ
る。ゲノムにTAgtsA58のコピーが1個だけ存在するマウ
スのうちの1匹に、数カ月後になって初めて胸腺過形成
が起っただけで、マウスは正常に、効果的に繁殖するこ
とができ、H2Kb−TAgtsA58融合を子孫に伝えた。
【0079】 H2Kb−TAgtsA58遺伝子導入マウス由来の繊維芽細胞の分
析 以下は、マウスがこの発明の原理に従って機能するた
めに、生体内で低レベルの遺伝子導入発現を示すマウス
を選抜することの重要性を示す。既に述べたように、こ
の選抜方法は遺伝子導入動物選抜の標準的方法と正反対
のもので、正常な生体内発達を阻害する最大の可能性を
得るために高レベルの生体内遺伝子導入発現を求めるよ
うな標準的方法に対して本発明の方法は正反対の方法で
ある。
【0080】 遺伝子導入マウスの組織内でH2Kb−TAgtsA58の発現が
条件的に不死化される細胞系の生成を可能にすることを
示すため、皮膚の繊維芽細胞の成長を調べた。先ず、頚
部脱きゅうでマウスを犠牲にし、エタノールで皮膚と毛
を殺菌し、毛を剃り落とし、皮膚を数センチ平方分離し
て、5匹の異なるマウスから繊維芽細胞を得た。この皮
膚を無菌の解剖刀で細かく刻み、コラゲナーゼ1mlにつ
き500単位で、ライボビッツの(Leibovitz's)L−15培
地中で2時間37℃で消化した。そして、1mlにつき3000
単位の最終濃度にトリプシンを加え、組織を37℃で更に
15分間維持した。このインキュベーションの後、これも
L−15中で調製した大豆トリプシン阻害剤(mlあたり10
00単位)とDNAse(mlあたり15単位)の溶液の添加によ
って酵素消化を終了させた。そして、組織を5mlの量に
し、無菌のプラスチックピペットで合計20回そっと上下
動して粉砕した。分離しない組織の塊は沈澱させ、上澄
みに含まれた細胞を先ず遠心洗浄し、2mMのグルタミン
と10%ウシ胎児血清と、100U/mlの組換えマウス・ガン
マ・インターフェロンを含むダルベッコズ・モディファ
イド・イーグルズ・メディアム(Dulbecco's Modified
Eagle's Medium)中で再懸濁させた。H2Kb−TAgtsA58を
持つマウスから細胞が得られたすべてのケースで、この
ように作成された培養が組織培養フラスコ内で効果的に
生育した。同齢の正常な実験対照からの細胞も、同一方
法で作成・生育した。それら正常なマウスからの細胞は
下記のように、短時間後に老化を起こした。
【0081】 H2Kb−TAgtsA58融合遺伝子導入マウスから作成した培
養を、その成長の条件性をテストする前、8〜12週間、
ガンマインターフェロン100U/mlの存在下で33℃で生育
した。この時よりずっと前に、H2Kb−TAgtsA58融合コン
ストラクトを含有しないマウス由来のすべての細胞が、
非不死化繊維芽細胞について予期されたように、危機を
経て分裂が止まっていた。H2Kb−TAgtsA58融合遺伝子導
入マウス由来のすべての繊維芽細胞系は、非許容条件に
置かれると細胞成長が阻害された。図2は、1000個の細
胞をインターフェロンのないDMEM+FCS中の6cmの皿で24
時間平板培養し、その後マウス・ガンマ・インターフェ
ロンを100U/ml含んだ、あるいは含んでいない培地へ移
して33℃か39.5℃で14日間成長させ、その間培地を週2
回変えて行った、コロニー形成アッセイの結果を示す。
通常の培地での24時間の予備平板培養は、すべての培養
に対する初期平板培養を同一化するものである。14日後
に培養を2%メチレンブルー、50%エタノール:水で染
色し、得られたコロニー数を数えた。図2に示すよう
に、完全な許容条件(つまり、33℃で、マウス・ガンマ
・インターフェロン100U/ml)での細胞の成長はいかな
る非許容条件におけるよりも大であった。
【0082】 成長の条件性についての皮膚繊維芽細胞培養の詳細な
分析は、完全許容、半許容および非許容条件において成
長する細胞の能力によって、3つの群の培養を明らかに
したが、この目的のため許容条件が33℃でIFNガンマの
存在下での成長と定義され、半許容条件が33℃でIFNガ
ンマなし、または39.5℃でIFNガンマの存在下での成長
と定義され、非許容条件が39.5℃でIFNガンマなしでの
成長と定義される。
【0083】 培養の第一の群では、成長が完全に条件的で、許容条
件でのみ成長がおこった。39.5℃で生育および/または
IFNガンマなしで生育された場合、標準成長アッセイで
もコロニー形成アッセイでも細胞分裂は起こらない。従
って、これらの繊維芽細胞は、ラット胚繊維芽細胞がレ
トロウイルス感染によってtsA58TAgで条件的に不死化さ
れた以前の研究((ジャット・アンド・シャープ、198
9、モル・セル・バイオル9、3093−3096(Jat and Sha
rp 1989,Mol.Cell,Biol.,9,3093−3096))から期待さ
れるようにふるまった。これら以前の研究で、tsA58TAg
を発現する細胞系を生成する、レトロウイルス仲介遺伝
子挿入を使用して条件的に不死化された繊維芽細胞は、
許容条件に維持さえすれば繁殖し続けることが示されて
いる。非許容条件へ温度変更がなされると、繊維芽細胞
は、生体外で長期間生育された正常な繊維芽細胞によっ
て発現される老化表現型を急速に発現する。マウスのH2
Kb−TAgtsA58株内の異なる個体に由来するすべての培養
が同一の結果を生じた。
【0084】 培養の第二の群では、完全な許容条件下で最良の成長
が得られ、半許容条件でより低い程度の成長が見られ、
非許容条件で成長がなかった。第三の群では、完全許容
条件で最良の成長が見られ、完全な非許容条件下で最も
おそい成長があったが、非許容条件下で細胞が成長した
としても細胞の成長が完全に止まらなかった。
【0085】 遺伝子導入動物由来の繊維芽細胞で観察された成長の
条件性は、これら細胞によって発現されるtsA58TAgのレ
ベルと相関関係にあった。すべての培養で、温度のシフ
トアップおよび/またはIFNの除去によってtsA58TAgの
レベルが下げられた。興味深いことに、最も条件的な培
養(マウスH2ts6の子孫に由来するもの)が、33℃でIFN
ガンマなしの、これらの細胞が成長しなかった条件で生
育された場合でも、低レベルのTAgが検出された。この
所見は次の例で詳細に記載する。
【0086】 条件的に不死の細胞系が、構成的に活性の分化阻害遺
伝子の導入によって完全に不死化するかを判断するため
に、H2ts6マウスから分離された繊維芽細胞の一部を、
野生型SV40T抗原を発現するレトロウイルスとネオマイ
シン抵抗遺伝子に感染させた(ジャット・アンド・シャ
ープ、ジェイ・バイロル1986、59:746−750(Jat & sh
arp,J.Virol.,1986,59:746−750))。うまく感染した
細胞をG418抗生物質中での成長によって選択した。これ
らの細胞を非許容条件に切り換えたところ、細胞は成長
し続けた。従って、これらの実験は、望ましいと考えら
れる場合に、細胞系を条件的から非条件的成長状態へ切
り換え得ることを示している。
【0087】 H2Kb−TAgtsA58由来の細胞系の分析 遺伝子導入マウス 胸腺細胞系の分析 (1)この研究は、使用される遺伝子コンストラクトが
正常な発達を阻害する単一例においてさえ、生体内で過
形成拡大を経たセルタイプがその生体外成長でも条件的
のままであることを示す。 (2)この研究は更に、H2ts6マウス由来の胸腺上皮細
胞が、これらの細胞によって生体内で通常発現される中
間径フィラメントタンパク質のファミリーを発現し、従
って、これら細胞が、その正常な対応物に発現されるタ
ンパク質の精製のための潜在的に好適なソースになるこ
とを示す。 (3)また、この研究は、H2ts6マウス由来の胸腺上皮
細胞系がTリンパ球をロゼットする能力があり、従っ
て、正常な細胞の相互作用の研究と考え得る生化学的解
体用の好適なセルタイプにすることができる。
【0088】 多くのH2Kb−TAgtsA58融合遺伝子導入マウスでの胸腺
過形成の発達のため、胸腺由来の細胞の成長を特徴づけ
ることが重要であった。この目的のため、コラゲナーゼ
の合計15分と、トリプシンの追加的存在における更なる
15分と、酵素が加えられる時間が制限されることを除い
て、繊維芽細胞用と同様に培養用に胸腺細胞が調製され
た。そして、これらの細胞が皮膚繊維芽細胞と同様に、
密集フラスコが得られるまで生育され、その後クローナ
ル細胞系が限界希釈単細胞クローニングによって分離さ
れた。
【0089】 H2Kb−TAgtsA58融合遺伝子導入マウスの胸腺から分離
された細胞系はその成長が条件的で、39.5℃でインター
フェロンなしで生育された場合に成長が阻害された。こ
れらの細胞系の生体外での条件性は、この組織でもクラ
スI抗原発現の内因性レベルが、分化および成長制御の
正常なプロセスに干渉できるような、十分なT抗原のレ
ベルの発現を起こすには不十分であることを示してい
る。そのような所見は、生体内での胸腺過形成の発生の
理由が恐らくマウスコロニーにおける肝炎感染の存在に
よるという仮説と符合する。そのような感染は、胸腺に
おけるインターフェロンの産生増大を引き起こし、T抗
原のレベルを非有効性しきい値の上へ押し上げる。これ
らの結果は、この場合マウスコロニーの疾患の結果とし
て、誘導物質にさらされた細胞だけでなく、体内のあら
ゆる細胞で、強力な構成的プロモーターがTAgtsのレベ
ルを不当に発現させることから、誘導性、活性化可能な
プロモーターの使用の重要性を更に支持する。
【0090】 胸腺由来の細胞系の2つが抗原的に特徴づけられ、そ
れらはLE61汎抗ケラチン・モノクローナル抗体で染色す
ることによって、サイトケラチンを発現することが判明
した。ケラチンは上皮細胞集団に特異的に発現されるの
で、これらの細胞をLE61抗体で標識することは、これら
の細胞が胸腺上皮細胞であることを示す。
【0091】 上記のサイトケラチン陽性の胸腺上皮細胞系は、標準
ロゼッティングアッセイで検出されるように、Tリンパ
球を特異的に結合させた。ストロマ細胞を、非遺伝子導
入BALB/cマウスから新たに分離された非分別胸腺細胞
と、1:12の割合で混合た。細胞を少量(200マイクロリ
ットル)に維持し、氷の上で1時間インキュベートし
た。そして、混合物を5分間200gで遠心分離し、ペレッ
トを1mlのPBS中で静かに再懸濁し、ストロマ細胞に付着
した3個以上の胸腺細胞を1ロゼットとして、血球計を
用いてロゼットを数えた。このアッセイで、サイトケラ
チン+胸腺上皮細胞系が、胸腺細胞とロゼットを効率よ
く形成した。
【0092】 推定される神経膠腫前駆細胞の分析 中枢神経系の細胞系を得るために、ノーブル他(198
4、ジェイ・ニューロサイ4、1892−1903)(Noble et
al(1984,J.Neurosci.4,1892−1903))に記載された
方法で、マウス11の大脳皮質から細胞を分離した。解剖
時にマウスは生後3週間であった。細胞は、化学的に規
定された培地(ボッテンシュタイン・アンド・サトー、
1979、プロック・ナトル・アカド・サイ・ユーエスエイ
76、514−517(Bottenstein and Sato,1979,Proc.Natl.
Acad.Sci.U.S.A.76,514−517))で、10ng/mlの血小板
由来増殖因子[BBホモ二量体(ブリティッシュ・バイオ
テクノロジー(British Biotechnology)によって供給
された)および10ng/mlのPDGF AAホモ二量体(キロン
・コーポレーション(Chiron Corporation)によって供
給された)]と10ng/mlの塩基性繊維芽細胞成長因子
(ベーリンガー−マンハイム(Boehringer−Mannheim)
によって供給された)の存在下で成長させた。細胞は初
期パッセジング(継代)で生育した後、限界希釈でクロ
ーン化した。抗原発現用に10個のクローンを分離し、特
徴づけした。このうち、1個のクローンが、中枢神経系
で星状細胞によって特異的に発現される細胞骨格タンパ
ク質である膠原繊維酸性タンパク質(GFAP)(ビグナミ
他、1972ブレイン・レス43、429−435(Bignami,et al,
1972 Brain Res 43,429−435))をすべて発現した細胞
からなるものであった。ダコパッツ・リミテッド(Dako
patts Ltd)から購入した抗GFAP抗血清と適当な蛍光第
二層抗体(サザン・バイオテクノロジー(Southern Bio
technology)から購入)を用いてGFAP発現を分析した。
【0093】 細胞のGFAP発現クローンの分化能力を調べるため、細
胞をポリLリシン被覆ガラスカバーグラス上で再培養
し、分化を誘発するために種々の物質で処理した。ウシ
胎児血清の効果が特に興味深く、それは細胞を誘導して
GFAP−表現型を発生させた。GFAP−細胞は、中枢神経系
膠細胞のうちで一部の低規定星状細胞サブポピュレーシ
ョンでのみ発現されると報告されている細胞外マトリッ
クスタンパク質フィブロネクチン(FN)を確かに発現し
た。親細胞系がGFAPとFNの両方を発現したが、血清が存
在しないとこの親細胞がGFAP+FN−表現型を呈し得るこ
とを、いくつかの実験が示唆している。
【0094】 GFAP+表現型とGFAP−FN+表現型の間で調節可能な細
胞を分離することは、ヒト神経膠腫における抗原発現の
最近の研究結果からみて非常に興味深い。ヒト神経膠腫
の形態学的分類では、一般的にこれらの細胞が中枢神経
系の正常な膠細胞と密接な系統関係にあるとされるが、
神経膠腫由来の細胞の広範な抗原分析は、これら腫瘍の
形態学的分類と一致していない(ケネディ他、1987ニュ
ーロパス・アプル・ニューロバイオル13、327−347(Ke
nnedy et al 1987 Neuropath Appl.Neurobiol.13,327−
347))。非常に重要なことだが、神経膠腫が2つの抗
原カテゴリー、つまり第一はGFAP+表現型で、第二がGF
AP−FN+表現型、の一方に区分けできることを、これま
での研究が示している。ケネディ他の研究で、GFAP−FN
+神経膠腫表現型が神経膠腫由来の細胞培養のほとんど
90%に発生することが判明した。GFAP+神経膠腫由来の
クローンがGFAP−とFN−かも知れないことが示されてい
るが、これらの細胞の起源はまだ判っていない(ウエス
トファル他、1988、キャンサー・リサーチ48、731−740
(Westphal et al,1988,Cancer Research 48,731−74
0))。
【0095】 ヒト神経膠腫についての結果は、星状細胞(GFAP+)
と非膠細胞(GFAP−FN+)の両方の経路に沿って分化す
る可能性を持った前駆細胞が神経系内に存在する顕著な
可能性を示す。我々が分離した細胞は、この可能性の厳
密な検査を可能にするやり方で、そのような細胞が脳か
ら明確に分離された初めてのものである。神経膠腫細胞
における抗原発現についての多くの研究と、マウス11か
ら分離された細胞が発現し得る抗原表現型の一致は、こ
の細胞系が神経膠腫前駆細胞の候補であることをはっき
り示唆している。
【0096】 すい臓細胞の分析 皮質細胞と同じやり方でマウス11のすい臓から分離
し、皮質細胞と同じやり方で生育、クローン化したすい
臓細胞を、組織培養中で予備特徴づけした。非常に詳細
に調べたクローンの細胞のごく一部がインシュリンを発
現し(ICNから購入した抗インシュリン抗体によって認
識されたように)、モノクローナル抗体A2B5で標識でき
(アメリカ合衆国ナショナル・インスティチュート・オ
ブ・ヘルスのマーシャル・ナイレンバーグ博士(Dr.Mar
shall Nirenberg of the National Institute of Healt
h,USA)から入手したハイブリドーマ細胞系)、その両
方がすい臓島細胞のマーカーである(アイゼンバース
他、プロク・ナトル・アカド・サイ、ユーエスエイ、7
9、5066−5070(Eisenbarth et al,Proc,Natl,Acad,Sc
i.U.S.A.,79,5066−5070))。
【0097】 皮質細胞とすい臓クローンの両方がマウス11から分離
され、それらがずっと後で行った分析から遺伝子導入マ
ウスの最も条件的でないものの1つであると判明したこ
とは、振り返って残念である。しかし、皮質およびすい
臓細胞が繊維芽細胞より条件的であるかも知れないこと
を予備的結果が示している。より重要なことに、マウス
11の脳もすい臓も大きな発達異常を示さず、これらの細
胞に発現されたかも知れないTAgtsA58のレベルが生体内
分化に干渉するには不十分なことを示している。あるい
は、これら細胞を組織培養条件に置くことが、生体内で
よりも、高いレベルのクラスI抗原を発現させたのかも
知れない。
【0098】 H2KbtsA58コンストラクトで作った遺伝子導入マウス
(マウスNo.6)のうちの1匹がうまく成長して数腹の子
を産生し、そのすべての子が当初の表現型を持ってい
た。以下のすべての例で、使用された遺伝子導入動物は
H2ts6株(マウスNo.6)と呼ばれるものの異型接合子孫
であった。
【0099】 例2 他のマウスの皮膚から繊維芽細胞を作成したのと同じ
方法で、マウス6の子孫の1匹の心臓から細胞を調製し
た。心臓組織の調製の素材となったマウス(「6の娘」
と呼ぶ)は、解剖してみると器官の大きさに明かな異常
を示さなかった。
【0100】 6の娘由来の細胞(適当な心臓由来繊維芽細胞と認め
られた)を、組換えマウス・ガンマ・インターフェロン
の存在下で、33℃で4週間生育した。実験的分析用とし
て、33℃で、DMEM+10%ウシ胎児血清中で、ポリLリシ
ン被覆ガラスカバーグラス上で細胞を一晩培養した。翌
日、細胞をガンマ・インターフェロンの存在または不在
下で、33℃または39.5℃での成長に切り換えた。許容ま
たは非許容条件で3日間生育した後ブロモデオキシウリ
ジンを24時間加え、細胞を(ベクトン・ディッキンソン
(Becton Dickinson)によって供給されたプロトコール
で)固定し、(ベクトン・ディッキンソンから購入し
た)抗ブロモデオキシウリジン抗体で染色し、その後
(サザン・バイオテクノロジーから購入した)ローダミ
ン結合第二抗体で、それまでの24時間にDNA合成に携わ
った細胞核を標識した。図3に示すように、インターフ
ェロン存在下で、33℃で成長した細胞は、標識期間中
に、インターフェロンなしで、39.5℃で成長した細胞の
20倍のDNA合成を持っていた。半許容条件で成長した細
胞は、生存に十分適したDNA合成の中間レベルを示し
た。
【0101】 例3 (1)この研究は、H2ts6マウス由来の細胞が条件的に
不死で、許容から非許容条件へ切り換えられると最終分
化の正常な経路をたどるという原理を示す。 (2)この研究は更に、がん遺伝子産物のサブ機能レベ
ルの発現が可能なことを示し、従って、正常な発達経路
に干渉しないがん遺伝子産物のレベルの発現が可能であ
るという原理を確認する。 (3)更に、この研究は、正常な発達に干渉するレベル
以下に活性を維持するために、がん遺伝子産物の分化阻
害活性の微調節の必要性を示す。
【0102】 例1で記載のように、H2ts6マウス由来の皮膚繊維芽
細胞の培養を作成し、それは前例で詳細に示したような
条件的に不死化された表現型を示した。
【0103】 H2ts6マウス由来の繊維芽細胞の培養でのT抗原発現
のウエスタンブロット分析は、IFNガンマが存在した方
が発現が明らかに高いが、IFNガンマの存在または不在
下で、33℃で、比較的低レベルのT抗原発現を示した。
この観察は、この遺伝子産物のレベルの小さな変化の結
果、細胞成長の劇的な変更を観察できる可能性を示し
た。この可能性を試すため、細胞成長とコロニー形成が
IFNガンマ濃度に対して力価測定される用量作用分析が
行われた。
【0104】 H2ts6マウスの子孫由来の繊維芽細胞は、1U/mlという
低いIFNガンマのレベルによる細胞成長の促進を示し
た。コロニー形成による分析および細胞数による分析
は、これらの培養に100U/mlのIFNガンマを加えると、コ
ロニー形成頻度が1U/mlの存在下で見られる場合と比較
して3.5倍に増加するだけで、10U/ml加えた場合のたっ
た40%増しであることを示した。異なる用量のIFNガン
マにおけるTAgレベルの相違は大きくなく、1U/mlが基礎
レベルの2.5倍増し、100U/mlが基礎レベルの約6倍増し
をもたらした。
【0105】 例4 星状細胞系の生成 この例は、この発明の動物の使用の4点を示す。 (1)規定の分化セルタイプを表す星状細胞系が、クラ
スI抗原発現の内因性レベルが本質的に皆無で、mRNAの
生体内生成が検出されない組織である中枢神経系から生
成された。従って、生体内でのがん遺伝子コンストラク
トの転写が細胞系生成の前提条件でないことを示す。 (2)星状細胞系は、正常なセルタイプに関連したセル
タイプ特異的マーカーを発現し、従って、H2ts6マウス
由来の細胞の、セルタイプ特異的タンパク質の精製源と
しての潜在的有用性を示す。 (3)星状細胞系は、細胞の正常な対応物によって発現
されることが知られているマイトジェン(分裂促進)活
性を産生し、従って、H2ts6マウス由来の星状細胞系が
他のセルタイプの分裂を促進する能力を持ち、従ってマ
イトジェン(分裂促進)因子の精製用の潜在源であるこ
とを示す。 (4)最後に、星状細胞系は、まず脳細胞を通常の(非
許容)組織培養条件で生育し、その後目標のセルタイプ
を精製し、次に許容条件で目標の細胞を生育することに
よって生成された。従って、これは、細胞が組織培養で
所定期間育成された後がん遺伝子産物機能が開始される
ので、初期の解剖時に条件的に細胞を不死化することさ
え不要であることを示す。
【0106】 標準手順(ノーブル他、1984、ジェイ・ニューロサ
イ、4:1892−1903:ノーブル・アンド・マレイ、1984、
エンボ・ジェイ、3:2243−2247(Noble et al.,1984,J.
Neurosci.,4:1892−1903;Noble & Murray,1984,EMBO
J.,3:2243−2247))で皮質星状細胞の培養を調製し
た。簡単に述べると、H2ts6マウス新生児由来の皮質
を、L−15培地中の0.25%コラゲナーゼと同量の0.25%
トリプシンで、組織の酵素消化によって単細胞に分離し
た。10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMおよびゲンタマ
イシン25マイクログラム/mlを含むDMEM中で、37℃で、
培養を生育した。7〜10日後、37℃で、回転台の上に培
養を一晩置き、培地が泡沫状になる速度より少しだけ遅
い速度(つまり、約60〜75rpm)で回転させた。前に記
載されたように(ノーベル他、1984)、この手順は、こ
れらの細胞の95%に星状細胞特異的細胞骨格タンパク質
GFAP(膠原繊維酸性タンパク質)が発現することからみ
て、95%純粋な星状細胞である培養を産生する。
【0107】 星状細胞の培養を>95%の純度に精製した後、先ず細
胞をガンマインターフェロンの存在下で33℃に換えるこ
とによってクローナル細胞系を生成した。そして、細菌
β−ガラクトシダーゼの遺伝子とネオマイシン抵抗遺伝
子を宿すレトロウイルスで、このウイルスを用いた標準
感染プロトコール(プライス他、プロク・ナトル・アカ
ド・サイ、ユーエスエイ、1987、85:156−160(Price e
t al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1987,156−160))を
使用して細胞を感染させた。感染させてから1日後、0.
25%トリプシンでのインキュベーションによってフラス
コから細胞を取り出し(上記ノーブル他1984を参照)、
G418抗生物質を含む培地で再平板培養した。その選抜条
件から細胞の耐性コロニーが発生し、継続研究用として
クローンを10個ランダムに選び出した。このようにして
クローン細胞系が容易に生成され、10個の細胞系のうち
7個が、中枢神経系における星状細胞特異的マーカーで
ある膠原繊維酸性タンパク質(GFAP)を構成的に発現し
た。
【0108】 これらの細胞と通常関連したマイトジェン(分裂促
進)活性を産生する星状細胞系の能力を調べるために、
乏枝神経膠細胞タイプ2星状細胞(O−2A)の始原細胞
を生後7日のラットの視神経から分離し、星状細胞単層
上で平板培養した。以前の実験(ノーブル・アンド・マ
レイ、1984)で、髄膜細胞や繊維芽細胞ではなく、星状
細胞が生体外でO−2A始原細胞の分裂を刺激することが
でき、星状細胞で調整された培地によって分裂の刺激を
受けたO−2A始原細胞が、星状細胞の単層、星状細胞調
整培地または血小板由来増殖因子(これら星状細胞の単
層によって産生されるマイトジェン(分裂促進因子))
の存在下でこれらの始原細胞が育成される場合のみに見
られる特定の二極形態を発現することが示されている。
遺伝子導入マウスのH2ts6株に由来するクローン星状細
胞系の単層上で成長したO−2A始原細胞は、分裂および
予期される二極形態の発現に関して、非遺伝子導入星状
細胞上で成長したものと区別がつかなかった。
【0109】 例5 中枢神経系の膠前駆体 この例は次のことを示す。 (1)新規前駆細胞の特性をもった中枢神経系由来の細
胞を、許容条件での細胞の成長で直接不死化し、このよ
うに生育された細胞が、核がん遺伝子の発現と通常関連
する分化の阻止を行う可能性がある。従って、この例は
更に、導入遺伝子の検出可能な生体内発現のない体組織
に由来する不死化細胞培養を生成する能力を示す。 (2)細胞分裂は適当な成長因子の存在を必要とし、従
って、このことは成長因子精製に有用なアッセイシステ
ムとしての、H2ts6マウス由来の細胞の潜在的有用性を
示す。 (3)H2ts6マウス由来の前駆細胞は、細胞を許容から
非許容の条件に切り換えることによって分化するよう誘
導でき、従ってこのことは、新しい前駆細胞の成長を可
能にする上での、この細胞の潜在的有用性を示す。 (4)また、発明の方法に従って生育される前駆細胞
は、許容条件で生育された場合、規定の分子因子または
細胞源で調整された培地に細胞をさらせば、正常な分化
を経る能力を保持する。従って、この例は、細胞分化を
誘導する因子の精製を可能にするようなアッセイシステ
ムでの使用についての、H2ts6マウス由来の細胞の潜在
的有用性を更に示す。
【0110】 細胞が発生日18のマウスに由来することと、血小板由
来増殖因子のAAホモ二量体(キロン・コーポレーショ
ン)を10ng/ml、塩基性繊維芽細胞成長因子(キロン・
コーポレーション)を5ng/ml、そしてIFNガンマを20U/m
l含む化学的に規定された培地(ラフ他、1983、ネイチ
ャー、303:390−396(Raff et al.,1983,Nature,303:39
0−396)に記載されたような成分)で生育したことを除
いて、例3に記載したように皮質細胞を分離した。細胞
を急速に継代でき、記載された条件に維持された継代済
み細胞は規定された膠細胞タイプへの分化の形跡を示さ
なかった。培養は、A2B5モノクローナル抗体(アイゼン
バース他、1979、プロク・ナトル・アカド・サイ、ユー
エスエイ、76:4913−4917(Eisenbarth et al,1979,Pro
c.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,76,:4913−4917))で標識で
きる二極細胞を含み、視神経細胞の培養中で上記O−2A
始原細胞と類似していた(例えば、ラフ他、ネイチャ
ー、1983、303:390−396;ノーブル・アンド・マレイ、1
984、エンボ・ジェイ、3:2243−2247(Raff et al.,Nat
ure,1983,303:390−396;Noble & Murray,1984,EMBO
J.,3:2243−2247))。また、培養は、ビメンチン中間
径フィラメントに対する抗体(デイコーパッツ・リミテ
ッド(Dako−Patts,Ltd.)からの抗体)によって、そし
てSSEA−1(グーイ他、ネイチャー、1981、292:156−1
58(Gooi et al.,Nature,1981,292:156−158)に記載さ
れた段階特異的胚抗原−1)に対する抗体で標識された
別グループの新規な細胞を含んでいた。これらの新規な
細胞は非常に原始的な形態を表現し、突起や細胞質エク
ステンションの少ない、小さい丸い細胞であった。胚ラ
ットの皮質から作成された培養についての以前の実験
で、同様な細胞が見られ、それらはいずれも、継代され
た細胞が再平板培養される培地に拘らず、一定してパッ
セージング(継代)によって星状細胞または乏枝神経膠
細胞へ分化した。これと対照的に、上記成長条件に維持
されたH2ts6マウス由来の細胞は、分化せずに繰り返し
継代することが容易であった。
【0111】 H2ts6マウスの皮質に由来する皮質細胞は、いくつか
の生体外操作によって分化誘導できた。すべてのケース
で、培養は、乏枝神経膠細胞(これは、乏枝神経膠細胞
がA2B5+SSEA−1-であるから、A2B5+細胞に由来すると
考えられた)と星状細胞(これは、星状細胞がしばしば
SSEA−1+だが、常にA2B5-であるから、SSEA−1+細胞に
由来すると考えられた)を産生した。両方の場合に、細
胞形態が劇的に変化した。乏枝神経膠細胞はその正常な
多極形を表現し、ガラクトセレブロシドに対するモノク
ローナル抗体(ランシト他、1982、プロク・ナトル・ア
カド・サイ、ユーエスエイ、79:2709−2713(Ranscht e
t al,1982,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,79:2709−271
3))で標識できた。星状細胞の分化の場合も細胞形態
が劇的に変化し、小さい原始的に見えるSSEA−1+細胞
が、細胞体の大きい、広い膜の広がりをもったSSEA−1+
細胞に取って換わられた。星状細胞に分化した細胞は星
状細胞に類似するだけでなく、GFAPを発現した。
【0112】 第一に、PDGFとFGFの除去が分化と細胞死をもたら
し、従って、これは、がん遺伝子発現細胞が成長し続け
るために適切な成長因子の継続的存在を必要とすること
を示している。第二に、成長培地と成長因子の存在下に
維持された細胞も、培地からIFNガンマが除去される
(従って、TAgts発現を止める)と分化した。この結果
は、がん遺伝子発現細胞が非分化状態で成長し続けるこ
とを許容する条件下で細胞が生育されても、分化を阻止
するためにはTAgtsの発現が必要であることを示してい
る。第三に、完全に許容条件(つまり、33℃、+IFNガ
ンマ)で、PDGFとbFGFの存在下で生育された細胞は、精
製皮質星状細胞(ノーブル他、1984、ジェイ・ニューロ
サイ、4:1892−1903(Noble et al.,1984,J.Neurosci.,
4:1892−1903)に記載されたように作成した)によって
調整された培地にさらされると分化誘導され、従って、
分化誘導剤の検出と精製のためのアッセイシステムでの
使用についての、H2ts6前駆細胞の潜在的有用性を示し
た。第四に、完全に許容条件で、PDGFとbFGFの存在下で
生育された細胞は、10ng/mlのトランスフォーミング増
殖因子−β(ブリティッシュ.バイオテクノロジー)に
さらすこと、または2ng/mlの毛様体神経栄養因子(シナ
ジェン(Synergen))にさらすことによって分化誘導さ
れ、従って、中枢神経系に存在することが知られている
規定された分化誘導剤に対する前駆細胞の応答性を示
し、更に分化誘導剤の検出と精製のためのアッセイシス
テムでの使用ついての、H2ts6前駆細胞の潜在的有用性
を更に示した。
【0113】 例6 内皮細胞 (1)この例は、H2ts6マウスが内皮起源の細胞系を生
成するのに使用できることを示す。 (2)更に、この例は、H2ts6マウスから生成された内
皮細胞培養が、正常な内皮細胞によって分泌されること
が知られている新規な分化促進活性を分泌することを示
す。従って、この例は更に、ユニークな生物的活性を発
現する分子の事後精製を可能にするソース物質として
の、H2ts6に由来する細胞系の潜在的有用性を示す。
【0114】 内皮細胞コロニーを次のように調製した。2匹の成熟
したマウス(月齢が2〜3ヶ月)をCO2昏睡状態にして
頭を切り取った。ゲンタマイシンを25マイクログラム/m
l含むライボビッツ(Leibowitz)L−15培養液で脳を洗
い、新鮮なL−15に入れた。それぞれの脳を、L−15を
数mls含む30mmのシャーレに入れた。小脳と他の白質索
(脳梁、眼球)を切り取った。髄膜外皮をきれいに取り
除いた。残った灰色質を無菌の解剖刀で細かく刻んで、
一度ゲージ19針に通し、L−15中の0.1%コラゲナー
ゼ:ジパーゼ(dipase)(BCL)で30℃に60分間インキ
ュベートした。組織を4℃で10分間1000gで回転させ、
上澄みを捨てた。L−15中25%のBSAを20ml加え、泡だ
てずによく混ぜ、20分間2000gで回転させた。小さいペ
レットを乱さずに、慎重に組織の浮上層を上澄みととも
に取り除いた。上澄みと組織を再び混合して、20分間20
00gで回転させた。今度は、組織層と上澄みを捨て、2
個のペレットをL−15中0.5%のBSA10ml中で懸濁させ、
ペレットを洗うために4℃で10分間1000gで回転させ
た。ペレットを(L−15中の)0.1%コラゲナーゼ:ジ
スパーゼ(dispase)に懸濁させ、30℃で2時間インキ
ュベートした。インキュベーション後DNAseを10マイク
ログラム/mlの最終濃度に加え、その結果できた毛管含
有組織を4℃で10分間1000gで回転させた。ペレットをC
a−MgなしのDMEM1mlにそっと再度懸濁させ、10mlのパー
コール・グラジエント(Percoll gradient)に層状に置
き、4℃で10分間1000gで回転させた。(等浸透圧パー
コール5部[パーコール9部と10XCa−MgなしのPBS1
部]に1X PBS5部を混ぜ、26,000gで1時間回転させ
て、Ca−MgなしのPBS中50%パーコール(ファーマシア
(Pharmacia))の直線勾配を予め作った。)チューブ
の上半分には、細胞の破片と単細胞が含まれていた。下
半分には、赤い輪のように見える赤血球と、その輪のす
ぐ上に毛管がそのままあった。この層を慎重に取り出
し、15mlのL−15に懸濁させ、4℃で、20分間1000gで
回転させた。上澄みを捨て、毛管を成長培地(2mMのグ
ルタミン、ボーゲル他(プロク・ナトル・アカド・サ
イ、1978、75:2810−2814(Vogel et al.(Proc.Natl.A
cad.Sci.,1978 75:2810−2814))に記載されたような
血清由来の20%血漿、10IU/mlヘパリン(シグマ)、5ng
/mlの塩基性FGF(キロン・コーポレーション)および20
U/mlのIFNガンマを追加した4.5g/Lグルコースを含むDME
M中で静かに懸濁させた。毛管をビトロジェン(フロー
ラブ)(Vitrogen(Flow Lab))を被覆した96ウエルプ
レート上で50%占有率で培養し、7.5%CO2でインキュベ
ートした。3日後に培地を変え、その後2日ごとに変え
た。3日目に単毛管のウエルを標識し、密集成長させ
た。これら毛管から発生した内皮細胞は、境界が密着し
たコロニーとして成長した。これら細胞は、静かにトリ
プシン化(EDTAを2mM含むCa−MgなしのDMEM中の0.025%
トリプシン、30℃で3分間)し、無菌組織培養グレード
水中で作られた2%(w/v)のゼラチン(ディフコ(Dif
co))で一晩フラスコの成長表面をインキュベートする
ことによって、ゼラチンで前もって被覆したファルコン
75cm2フラスコ中で再平板培養することにより継代でき
た。使用の直前、ゼラチンを吸い出し、フラスコを培地
で洗った。マウスの脳由来の正常な内皮毛管細胞と異な
り、これらの細胞は繰り返し継代できる。
【0115】 内皮細胞培養を調べて、これらの細胞がその正常な対
応物に産生される新規な分化調節活性をつくるかを判断
した。O−2A始原細胞のタイプ2星状細胞への分化は、
少なくとも2つの適当な誘導因子の存在を必要とし、こ
れらは毛様体神経栄養因子と、内皮またはずい膜培養の
マトリックスに見られる未知の因子である(リリエン・
アンド・ラフ、1990、ニューロン、5:111−119(Lillie
n & Raff,1990,Neuron,5:111−119))。我々自身の研
究は、毛様体神経栄養因子と協働して星状細胞分化を誘
導する因子は、種々の正常な内皮細胞から分泌される
が、他のセルタイプからは分泌されないことを示してい
る。H2ts6遺伝子導入マウスから作られた内皮細胞系
は、これまでに検査されたすべての非遺伝子導入内皮細
胞と同様、この分化安定化活性源としての能力をもって
いる。
【0116】 毛様体神経栄養因子と協働する内皮細胞由来因子を認
識するために使用されたアッセイ(assay)は、標準方
法(例えば、ラフ他、1983、ネイチャー、303:390−396
(Raff et al.,1983,Nature,303:390−396))で生後7
日のラットの神経から視神経細胞の培養を作り、これら
の細胞を、ウシの大動脈内皮細胞の密集培養で24時間調
整した、化学的に規定された培地(ラフ他、1983、ネイ
チャー、303:390−396に記載されたように作った)の存
在下で、カバーグラス1枚に細胞3000〜5000個の濃度で
生育するといったものである。このように生育されたO
−2A始原細胞は、4日間の生体外成長のうちにすべてタ
イプ2星状細胞へ分化し、一方、内皮細胞で調整されな
い、化学的に規定された培地で生育された細胞は、すべ
て乏枝神経膠細胞へ分化する。タイプ2星状細胞はGFAP
+である星状細胞として認識され、A2B5モノクローナル
抗体で標識される。
【0117】 H2ts6マウスの大脳皮質に由来する内皮細胞系で調整
された培地の検査は、これらの内皮細胞が、非遺伝子導
入内皮細胞によって分泌されるものと効果および能力の
点で区別できない生物学的活性を分泌することを示す。
【0118】 例7 結腸上皮細胞 (1)この例は、発明が、不死化細胞系の生成用の生体
外遺伝子挿入法の適用で処理しにくい新しいカテゴリー
の上皮細胞を直接不死化できることを示す。
【0119】 生後14〜18日のH2ts6マウスから結腸を取り出した。
その結腸を0.04%次亜塩素酸ナトリウムで(PBS中で)
洗って殺菌した。あるケースでは、組織を3mMのEDTA+
0.05mMのジチオトレイトール中で1.5時間インキュベー
トすることによって結腸から陰窩を取り出した。組織を
PBSで洗い、手で振って完全な陰窩を周囲の組織から分
離した。細胞の指状群に見えるこれら陰窩を、ラフ他
(1983、ネイチャー、303:390−396)(Raff et al.(1
983,Nature,303:390−396))に記載された規定化学添
加物、プラス2%ウシ胎児血清+20U/mlのIFNガンマ+
腫瘍系LIM1863(ホワイトヘッド他、1987、キャンサー
・レス、47:2683−2689(Whitehead et al.,1987,Cance
r Res.,47:2683−2689))由来の20%調整培地(24時間
調整)を含むダルベッコズ・モデファイド・イーグルズ
・ミディアム(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)
の培地上のラットテール・コラーゲン基質上の単層培養
で生育した。陰窩は沈澱し、上皮が拡散し始める。非遺
伝子導入陰窩の場合、細胞は継代できないが、ウシ大静
脈内皮細胞の支持層上で成長できる(ホワイトヘッド
他、1991、ジェイ・ティッシュー・カルト・メソッズ
(Whitehead et al.,1991,J.Tissue Cult.Methods(印
刷中))。これに対して、遺伝子導入動物由来の細胞
は、支持層なしで生育、継代でき、単層培養に樹立でき
る。他のケースでは、外植片培養で結腸が生育された。
すべてのケースで使用された培地は上記の通りである。
培養は、週2、3回、毎回インターフェロンを新たに追
加した。
【0120】 陰窩培養は、はっきりした類上皮形態をもった平坦細
胞のパッチを生じ、外植片培養は、形態的に異なるいく
つかのセルタイプを含んだ混成培養を生じた。陰窩由来
の類上皮細胞は抗ケラチン抗体(レーン(Lane)で挙げ
られたLE61とLP34、以下を参照)で標識され、標識は細
胞質染色特有の原繊維パターンを示した。
【0121】 従って、これらのマウスの使用は、これまで不可能だ
った方法で、そしてこれまで24〜28時間以上培養するこ
とが不可能だった組織から、結腸上皮細胞を培養中で樹
立させる手段を提供する。外植片培養において興味が持
たれた主なセルタイプについて以下の例に記載する。
【0122】 例8 腸神経系の膠細胞 上記例で記載されたように調製した結腸の外植片培養
は、特に興味深い2つのセルタイプを含んでいた。これ
らの細胞の1つは、GFAPに対する抗体で標識された小さ
いプロセシング細胞で、従って、この細胞は腸神経系の
膠細胞の1つと認識される。これら細胞は容易に継代さ
れ、細胞系への変換が容易なはずである。腸神経系の膠
細胞にかなりの関心が寄せられているが、これまでこの
組織の細胞系は発表されていなかった。
【0123】 第二のセルタイプは繊維芽細胞状の形態をもっていた
が、抗GFAP抗体で標識しなかった。しかし、トランスフ
ォーミング増殖因子−βで処理すると、これらの細胞
は、中枢神経系の前駆細胞によって特異的に発現される
と考えられる中間径フィラメントタンパク質であるネス
チンを発現するよう誘導される(レンダール、セル、19
90、60:585−595(Lendahl,Cell,1990,60:585−59
5))。これら細胞の正常な細胞対応物は知られていな
いが、この細胞が新規な前駆体集団である可能性を、そ
の誘導されたネスチン発現が示している。
【0124】 例9 筋芽細胞 (1)この例は、この発明の方法で生成された細胞系
が、生体外で正常な分化を経る能力を保持することを示
す。 (2)更に、この例は、H2ts6マウス由来の細胞系が生
体内で正常な分化を経る能力をもち、従って、H2ts6マ
ウス由来の細胞系の細胞移植における潜在的有用性を示
す。
【0125】 新生児マウスの後脚の骨格筋を切り離した細胞を、33
℃で、ガンマインターフェロンの存在下であることを除
いて、筋前駆細胞の成長用の標準組織培養条件(例え
ば、モーガン他、1987、ジェイ・マッスル・レス・アン
ド・セル・モチル、8:386−396(Morgan et al.,1987,
J.Muscle Res.and Cell Motil.,8:386−396)に記載さ
れたようなもの)での直接限界希釈クローニングでクロ
ーン筋芽細胞培養を作った。ジストロフィン遺伝子の既
知の突然変異をもった非遺伝子導入マウスの骨格筋塊内
への細胞の移植に先だって、クローン培養を数週間継続
的に生育し、繰り返し継代した。ジストロフィン遺伝子
突然変異は、このタンパク質が、筋前駆細胞の融合と分
化で形成された多核筋管内に異常局在化を示すことを意
味する。遺伝子導入マウス由来の移植された細胞は、正
常なジストロフィンを発現する骨格筋管を生成すること
から容易に特定することができた。更に、H2ts6遺伝子
導入マウス由来の筋前駆細胞は、高密度で細胞を成長さ
せるか、非許容条件での細胞成長によるがん遺伝子発現
の阻止によって、生体内で多核筋管に融合することがで
きた。
【0126】 分化阻害遺伝子の発現が調節される本発明の細胞系お
よび細胞株は、体のいかなる組織からも細胞系および細
胞株を得られて、いかなる細胞系および細胞株としても
選択することが理論的に可能な点で、現在実現可能な細
胞系と異なる。従って、本件の技術は、特異的集団を標
的化することができず、または希少細胞の確実な不死化
をすることができないような方法で、遺伝情報を細胞に
移入し、あるいは感染させていた従来の技術とは質的に
異なる。この新しい技術では、従来からあるいかなる手
段(蛍光活性化細胞ソーティング、密度遠心分離、パン
ニング、磁気ビーズを用いた免疫選択法、規定タンパク
質または炭水化物基質に対する選択的付着等)でも希少
細胞を分離し、分化阻害遺伝子産物の活性を支持する条
件で生育でき、従って、希少細胞を大量に生育できる。
そのような細胞のいかなる使用も、初めて、そのような
希少細胞からの細胞成分または物質の分離を(非限定的
に)含む本当の実際的可能性となった。
【0127】 この発明の動物に由来する不死化細胞または分化細胞
および不死化細胞株、分化細胞株は、特にこの発明の以
下のような特異的な別の面を含む、いくつかの重要な用
途をもっている。
【0128】 A)上記の方法で得られた不死化細胞、あるいはそれか
ら得られた分化細胞、あるいはこの発明の動物から分離
された細胞であって、前記分化阻害配列の発現を活性化
するが、外的要因にさらすことで細胞の分化誘発可能
で、そのようにさらされた細胞、あるいは前記細胞が生
体外で増殖され、その後非条件的不死化遺伝子が生体外
で挿入されたこの発明の動物から分離された細胞の、細
胞生成物質源、任意の成長または分化因子の源として、
あるいはそのような物質に関連したアッセイシステムで
の使用。(この使用の1つの例示的態様において、細胞
生成物質は抗体である。) B)上記の方法で得られた不死化細胞、あるいはそれか
ら得られた分化細胞、あるいはこの発明の動物から分離
された細胞であって、前記分化阻害配列の発現を活性化
するが、外的要因にさらすことで細胞の分化誘発可能
で、そのようにさらされた細胞、あるいは前記細胞が生
体外で増殖され、その後非条件的不死化遺伝子が生体外
で挿入された発明の動物から分離された細胞の、医薬の
製造における使用であって、前記医薬が、細胞欠乏また
は細胞産生因子欠乏を特徴とする症状または細胞機能不
全を、細胞移植によって治療または予防するための医薬
であるか、あるいは前記医薬が、上記細胞のいずれかに
由来する細胞産生因子からなる医薬である、上記いずれ
かの細胞の、医薬の製造における使用。 C)特に重要な点は、上記の方法で得られた不死化細
胞、あるいはそれから得られた分化細胞、あるいは本発
明の動物から分離された細胞であって、前記分化阻害配
列の発現を活性化するが、外的要因にさらすことで細胞
の分化誘発可能で、そのようにさらされた細胞、あるい
は前記細胞が生体外で増殖され、その後非条件的不死化
遺伝子が生体外で挿入された本発明の動物から分離され
た細胞、あるいは上記細胞のいずれかに由来する因子を
投与することからなるヒトまたは動物体に行われる治療
または予防方法にある。具体的実施例として、上記の方
法で得られた不死化細胞、あるいは前記分化阻害配列の
発現を不活性化することによってそれから得られた分化
細胞、あるいは本発明の動物から分離された細胞であっ
て、前記分化阻害配列の発現を活性化するが、外的要因
にさらすことで細胞の分化誘発可能で、そのようにさら
された細胞、あるいは本発明の動物から分離された細胞
であって、生体外で増殖され、その後非条件的不死化遺
伝子が生体外で挿入された細胞を、不死化細胞の分化を
許容するか、分化細胞の場合は前記分化阻害配列の発現
を阻害する条件下で体に移植し、それによって体内の既
存細胞の欠乏または機能不全を補償する、ヒトまたは動
物体に行われる移植治療方法がある(そのような方法の
実施例では、移植された細胞が、前記動物のすい臓に由
来するインシュリン産生細胞かその前駆細胞であって、
この場合、移植治療がインシュリン欠乏症の治療または
予防用であり、あるいは膠細胞か膠前駆細胞であって、
この場合、移植治療が神経系統の疾患か不調の治療また
は予防用である)。 D)上記の方法で得られた不死化細胞、あるいはそれか
ら得られた分化細胞、あるいは本発明の動物から分離さ
れた細胞であって、前記分化阻害配列の発現を活性化す
るが、外的要因にさらすことで細胞の分化誘発可能で、
そのようにさらされた細胞、あるいは前記細胞が生体外
で増殖され、その後非条件的不死化遺伝子が生体外で挿
入されたこの発明の動物から分離された細胞の、生体外
診断の方法での使用。
【0129】 細胞系および細胞株は、細胞分裂および分化を刺激す
る因子の精製におけるアッセイシステムとして既に普通
に使用されている。分裂および分化を調節する遺伝子の
精製用のアッセイシステムとしても細胞系および細胞株
を使用できる。樹立がん遺伝子の多くが、樹立細胞系を
新生物状態に変換する能力によって同定された。細胞を
誘導して特異的セルタイプに分化させる遺伝子も、筋細
胞の分化を制御する遺伝子の同定に関する最近の研究で
証明されているように、遺伝物質の適当な受容体細胞へ
のトランスフェクション(移入)によって同定できる。
例えば、ある種のすい臓細胞を誘導してインシュリンを
作らせる因子または遺伝子の同定のための適当なアッセ
イシステムとして、インシュリン陰性のすい臓細胞系を
使用することも考えられる。
【0130】 総じて、本発明は、多数の分化細胞または前駆細胞の
産生を可能にする手段を提供する。例えば、診断法での
使用、個体への移植、望ましい生成物(例えばマイトジ
ェンまたは分化因子)をつくる手段としての使用に、大
量の特異的種類の細胞が必要な場合は、公知の技術を用
いて適当な細胞を選択できる。その後、これらの細胞を
許容条件下で望ましい期間にわたって生育できる。少な
くともある種の分化が見られることを可能にする許容条
件下で、細胞を調べることができる。更に、細胞を、正
常な経路に沿うより広範な分化に適した非許容条件に切
り替えることができる。更に、野生型の分化阻害配列を
発現するよう組織培養において細胞を遺伝子操作でき、
従って(例えば、細胞によって産生される所望のタンパ
ク質の精製のために)許容成長条件を継続使用せずに多
数の細胞の成長を可能にできる。
【0131】 本件の遺伝子導入動物に由来する条件的に不死化され
た細胞を(非許容条件下で)個体に導入でき、そこでの
非許容環境で生存することが、本発明の原理から明かで
ある。そのような細胞の導入は、正常な機能に必要な集
団を補充するために、多数の前駆細胞を冒された組織に
移植する前駆体移植療法の発展に非常に貴重である。例
えば、この発明の遺伝子導入動物のすい臓に由来するイ
ンシュリン産生細胞は、インシュリン欠乏症(例えばタ
イプI糖尿病)を患っている動物のすい臓に外科的に移
植できる。
【0132】 再生プロセスの促進や組織機能の回復のために遺伝子
操作された細胞を使用することは、実用面での関心をま
すます集めている。例えば、ゲージとその同僚(サイエ
ンス、1988、242、1575(Gage and colleagues(Scienc
e,1988,242,1575))は、神経成長因子を過剰産生する
よう遺伝子操作した繊維芽細胞の海馬采円蓋病変部位へ
の注入を記載している。これらの移植された細胞は、当
初の研究では、逆行性軸索変質を少なくとも2週間阻止
したが、より最近になって、コリン作動性神経細胞の生
存を8週間まで促進することが示された(ローゼンバー
グ他、1989、アム・ソク・ニューロサイ・アブス、No.4
33.2(Rosenberg,et al,1989 Am.Soc.Neurosci.Abs.No.
433.2))。
【0133】 多くの腫瘍は、組織発達の所期段階に見られる細胞と
組織学的な関連がある。本発明の動物は、腫瘍細胞の潜
在的前駆体の同定用の手近な細胞源を提供する。推定さ
れる神経膠腫前駆細胞の同定と関連して既に述べた方策
に加えて、本発明の動物から分離したいかなる細胞系の
ゲノムをも更に操作するために、遺伝子挿入の他の技術
(例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーシ
ョン、レトロウイルス仲介遺伝子挿入)も使用できる。
従って、より低い効率の遺伝子挿入法の使用を可能にす
るに十分な数の特異的前駆体または分化セルタイプを最
初に生育することができ、これらの更に改変された細胞
を規定セルタイプの新生物トランスフォーメーションの
研究に利用できる。
【0134】 また、本発明は、予め選択された突然変異を保有し、
かつ、染色体組み込みされた条件的に活性となる分化阻
害産物をコードする配列を保有する細胞を備えた動物を
提供する方法であって、前述の本発明の遺伝子導入動物
を提供する工程、本発明の遺伝子導入動物と、予め選択
された突然変異表現型を示す突然変異動物親とを交雑さ
せる工程、および、前記突然変異と前記染色体組み込み
された配列を保有する子孫を得る工程からなる、予め選
択された突然変異を保有し、かつ、染色体組み込みされ
た条件的に活性となる分化阻害産物をコードする配列を
保有する細胞を備えた動物を提供する方法、およびその
方法によって得られた動物またはその子孫を提供する。
【0135】 更に、本発明の動物は、予め選択された突然変異表現
型を示す不死化細胞系を得る手段を提供する。従って、
発明の別の面は、前述の本発明の遺伝子導入動物を交雑
用の親として使用し、予め選択された突然変異表現型を
示す突然変異動物親と、本発明の遺伝子導入動物とを交
雑させることにより、子孫突然変異動物を産生し、前記
子孫突然変異動物は、正常な細胞発達を示すものであ
り、かつ、前記子孫突然変異動物から前記突然変異表現
型を示す不死化可能な細胞が分離できるものである、子
孫突然変異動物の産生のための、本発明の遺伝子導入動
物の交雑用の親としての使用方法である。そのような使
用方法において、上記のような使用方法によって産生さ
れた子孫が示すことになる各特徴について両方の親が同
型接合性になることが望ましい。従って、この発明は、
前記予め選択された突然変異表現型を示し、上記のよう
な使用方法によって産生された子孫由来の、不死化され
た、または不死化可能な細胞を提供するという別の面を
もっている。
【0136】 本発明概念の範囲から外れることなく、上記の種々の
実施例に種々の改変ないし変更を行えることが当業者に
は明らかであろう。
【0137】 [図面の簡単な説明]
【図1】 本発明の例に記載された遺伝子コンストラクトH−2Kbt
sA58の略図
【図2】 SV40tsA58の生物学的活性の制御が発明の原理に従って
起こることを示す成長分析図
【図3】 発明に基づくマウス由来で、図1の遺伝子コンストラク
トを持った心臓繊維芽細胞用の、種々の条件下でのDNA
合成を示す図
フロントページの続き (72)発明者 ノーブル,マーク,デヴィッド イギリス国 ロンドン ダブリュ 1ピ ー 8ビーティー ライディング・ハウ ス・ストリート 91 コートールド・ビ ルディング ルードヴィッヒ インステ ィテュート フォア・キャンサー・リサ ーチ内 (72)発明者 ジャット,パームジット,シン イギリス国 ロンドン ダブリュ1ピー 8ビーティー ライディング・ハウ ス・ストリート91 コートールド・ビル ディング ルードヴィッヒ・インスティ テュート・フォア・キャンサー・リサー チ内 (72)発明者 キオウシス,ディミトリス イギリス国ロンドン ダブリュ1ピー 8ビーティー ライディング・ハウス・ ストリート 91 コートールド ビルデ ィング ルードヴィッヒ・インスティテ ュート・フォア・キャンサー・リサーチ 内 審査官 長井 啓子 (56)参考文献 国際公開89/9816(WO,A1) Dieter Paul et ai l.,Exp.Cell Res.,v ol.175,pp.354−362(1988) D.Morello et al., Oncogene Res.,vol. 4,pp.111−124(1989) Efrat S.et al.,Pr oc.Natl.Acad.Sci.U SA.,vol.85,pp.9037−9041 (1988) Galiana E.et al., Journal of Neurosc ience Research,vo l.26,pp.269−277(1990) Sigmund C.D.et a l.,J.Biol.Chem.,vo l.265,pp.19916−10022(1990) Tegtmeyer P.et a l.,J.Virol.,vol.15, pp.613−618(1975) Picard D.et al.,C ell,vol.54,pp.1073−1080 (1988) Palmiter R.D.et a l.,Nature,vol.316,p p.457−460(1985) Silers M.et al.,N ature,vol.340,pp.66− 68(1989) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A01K 67/027 C12N 5/10 C12N 15/85 BIOSIS/MEDLINE/WPID S(STN)

Claims (19)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】配列が染色体組み込みされた生殖細胞およ
    び/または体細胞をもった、遺伝子導入非ヒト真核動物
    であって、 前記配列は条件的に活性となるTAgtsである分化阻害産
    物をコードするものであり、かつ、 前記配列は活性化可能なプロモーターの制御下にあり、 生体内では、前記条件的に活性となるTAgtsである分化
    阻害産物は前記動物における前記細胞の正常な発達を可
    能にするのに十分に低い機能レベルしか有さず、 培養中では、許容条件を与えられると、前記条件的に活
    性となるTAgtsである分化阻害産物は前記動物から取り
    出された細胞の分化が完了することを妨げるのに十分な
    機能レベルの発現を有する、ことを特徴とする、 配列が染色体組み込みされた生殖細胞および/または体
    細胞をもった、遺伝子導入非ヒト真核動物。
  2. 【請求項2】前記プロモーターがHLAクラスIプロモー
    ターである請求項1の動物。
  3. 【請求項3】前記プロモーターがHLA H−2Kbプロモー
    ターである請求項2に記載の動物。
  4. 【請求項4】前記プロモーターが、操作可能に結合して
    いる複数の遺伝調節要素を有する請求項1〜3のいずれ
    か1項に記載の動物。
  5. 【請求項5】マウスまたはラットである請求項1〜4の
    いずれか1項に記載の動物。
  6. 【請求項6】予め選択された突然変異を保有し、かつ、
    染色体組み込みされた請求項1で定義された配列を保有
    する細胞を備えた動物を提供する方法であって、請求項
    1〜5のいずれか1項に記載の動物を提供する工程、請
    求項1〜5のいずれか1項に記載の動物と、予め選択さ
    れた突然変異表現型を示す突然変異動物親とを交雑させ
    る工程、および、前記突然変異と前記染色体組み込みさ
    れた配列を保有する子孫を得る工程からなる、予め選択
    された突然変異を保有し、かつ、染色体組み込みされた
    請求項1で定義された配列を保有する細胞を備えた動物
    を提供する方法。
  7. 【請求項7】請求項6に記載の方法によって得られた動
    物、または、予め選択された突然変異を保有し且つ染色
    体組み込みされた請求項1で定義された配列を保有する
    細胞を備えたその子孫。
  8. 【請求項8】培養中で細胞を確立する方法であって、請
    求項1〜5または請求項7のいずれか1項に記載の動物
    から細胞を取り出す工程、および取り出された細胞を培
    養中で許容条件に置く工程からなり、ここで前記許容条
    件は前記細胞の分化が完了することを妨げるために前記
    分化阻害産物の機能レベルの発現を導くものである、培
    養中で細胞を確立する方法。
  9. 【請求項9】前記細胞が、すい臓細胞、インシュリン生
    成細胞前駆体、膠細胞、膠細胞前駆体、筋細胞および筋
    細胞前駆体からなるグループから選択される、請求項8
    に記載の方法。
  10. 【請求項10】さらに前記培養に外的要因を与えて分化
    を誘発する工程を有する、請求項8または9に記載の方
    法。
  11. 【請求項11】請求項8、9または10に記載の方法によ
    って得られた単離細胞。
  12. 【請求項12】ヒトまたは動物体の治療用の請求項11に
    記載の単離細胞。
  13. 【請求項13】請求項11に記載の細胞の発現産物を生成
    する方法であって、前記細胞を前記発現産物の生成に適
    した条件下で培養することからなる、請求項11に記載の
    細胞の発現産物を生成する方法。
  14. 【請求項14】遺伝子導入非ヒト真核動物の産生方法で
    あって、 前記動物は条件的に活性となるTAgtsである分化阻害産
    物をコードする配列を有するコンストラクトを保有し、
    そして 前記配列は活性化可能なプロモーターの制御下にあり、 生体内では、前記条件的に活性となるTAgtsである分化
    阻害産物は前記動物における前記細胞の正常な発達を可
    能にするのに十分に低い機能レベルしか有さず、 培養中では許容条件を与えられると、前記条件的に活性
    となるTAgtsである分化阻害産物は動物から取り出され
    た細胞の分化が完了することを妨げるのに十分な機能レ
    ベルの発現を有する、ことを特徴とする、 前記配列の染色体組み込みを前記動物の前記細胞の少な
    くとも一部に対して行なうことからなる、 遺伝子導入非ヒト真核動物の産生方法。
  15. 【請求項15】染色体組み込みが、動物発育の胚段階で
    ミクロ注入技術によって行われる請求項14に記載の方
    法。
  16. 【請求項16】前記プロモーターがHLAクラスIプロモ
    ーターである請求項14又は15に記載の方法。
  17. 【請求項17】前記プロモーターがHLA H−2Kbプロモ
    ーターである請求項16に記載の方法。
  18. 【請求項18】前記プロモーターが、操作可能に結合し
    ている複数の遺伝調節要素を有する請求項14〜17のいず
    れか1項に記載の方法。
  19. 【請求項19】前記動物がマウスまたはラットである請
    求項14〜18のいずれか1項に記載の方法。
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