JP3298610B2 - 電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法 - Google Patents

電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電解コンデンサ電
極用アルミニウム箔、詳しくは化成後に高い静電容量を
得ることができるエッチド箔、およびその製造方法に関
する。
【0002】
【従来の技術】電子部品の小型化に伴い、当該部品に使
用される電解コンデンサ電極用アルミニウム箔について
も、エッチング処理後の表面積の拡大による静電容量の
向上が要望されている。電解ンデンサ電極用アルミニウ
ム箔のエッチングは、通常、塩素イオンを含む溶液中
で、電気化学的または化学的な処理を施すことにより行
われ、交流エッチングを行った場合には海綿状のエッチ
ピットが形成され、直流エッチングを行った場合にはト
ンネル状のエッチピットが形成される。
【0003】エッチング処理されたエッチド箔は、中性
溶液、例えばほう酸やアジピン酸アンモニウム溶液中で
化成、すなわち陽極酸化することにより誘電体の酸化皮
膜がコンデンサの使用電圧に応じて形成される。コンデ
ンサの静電容量は、C=εS/d(C:静電容量、ε:
化成皮膜の誘電率、S:表面積、d:化成皮膜の厚さ)
で与えられる。
【0004】従来、静電容量を高くするために、化成皮
膜の厚みをできるだけ小さくし、高い化成電圧を得よう
とする試みがなされてきた。化成皮膜は無定形酸化皮膜
の場合が14オングストローム/V、結晶性酸化皮膜の
場合が10〜11オングストローム/Vであるから、静
電容量を向上させるために、化成前にエッチド箔を水和
処理または熱酸化処理することにより、化成皮膜をでき
るだけ結晶化させることが現在の一般的手法となってい
る。
【0005】しかしながら、化成前にエッチド箔を水和
処理または熱酸化処理しても化成皮膜の結晶化が十分に
進行しない場合が少なくない。ベーマイト処理により水
和皮膜を形成させた後、化成すると脱水反応により化成
皮膜が結晶化されることは知られており、熱酸化処理に
よりアルミニウム箔表面にγ−Al2 3 の微結晶を形
成させた後、化成すると、γ−Al2 3 の微結晶が核
となり結晶性酸化皮膜の形成が助長させることは知られ
ているが、これらの手法においては、結晶化を開始する
化成電圧が150V程度以上からであり、500〜60
0Vの高い化成電圧まで化成しても部分的にしか結晶性
酸化皮膜が形成されなかったり、結晶性酸化皮膜層の厚
みが均一にならないなどの難点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】発明者らは、アルミニ
ウム箔中の不純物成分と化成前の水和処理、熱酸化処理
による化成皮膜の結晶化との関連について研究する過程
において、Mgを含有するエッチド箔を使用した場合
に、化成皮膜の結晶化が進行することを発見し、エッチ
ド箔の酸化皮膜中のMg系化合物と化成時の結晶性酸化
皮膜の形成との関係について実験、検討を重ねた結果、
スピネル(MgAl2 4 )がエッチド箔の酸化皮膜中
に存在する場合に、効果的な結晶性酸化皮膜が形成され
ることを知見した。
【0007】本発明は、上記の知見に基づいてなされた
ものであり、その目的は、特定の厚さを有する酸化膜中
に特定量のスピネルを分布させることにより化成処理時
の酸化皮膜の結晶化を進行させたエッチド箔で、化成後
に高い静電容量を得ることを可能とした電解コンデンサ
電極用アルミニウム箔およびその製造方法を提供するこ
とにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めの本発明による電解コンデンサ電極用アルミニウム箔
は、アルミニウム純度が99.9重量%以上のアルミニ
ウム箔で且つエッチング処理されたエッチド箔であっ
て、表面に厚さ20〜200オングストロームの酸化皮
膜を有し、該酸化皮膜中にはスピネル(MgAl
2 4 )が原子濃度で5〜40%存在することを構成上
の第1の特徴とし、また酸化皮膜中のスピネルの密度
が、1.0×106 〜9.0×106 個/mm2 である
ことを第2の特徴とする。
【0009】本発明による電解コンデンサ電極用アルミ
ニウム箔の製造方法は、アルミニウム純度が99.9重
量%以上のアルミニウム箔で、箔全体にMgを20〜3
00ppm含有するエッチド箔を、400〜580℃の
温度で熱処理して、表面にスピネル(MgAl2 4
を含む酸化皮膜を形成させた後、40V以上の電圧で化
成することを特徴とする。
【0010】さらに、熱処理を酸素濃度1000ppm
以下のアルゴンガスもしくはヘリウムガス雰囲気中、ま
たは真空度1.3Pa以下の真空雰囲気中で行い、40
V以上200V未満の電圧で化成すること、および40
0〜530℃の温度で大気中で熱処理した後、200V
以上の電圧で化成することを第2および第3の特徴とす
る。
【0011】本発明において、電解コンデンサ電極用ア
ルミニウム箔は、常法に従い、塩素イオンを含む溶液、
例えば塩酸溶液や塩酸と硝酸との混合溶液中においてエ
ッチング処理されたエッチド箔を前提とするものである
が、アルミニウム箔中のアルミニウムの純度は99.9
重量%以上であることが好ましい。99.9%未満の純
度では不純物が多くなり過ぎ、高い静電容量が得難い。
さらに好ましいアルミニウム純度は99.94重量%以
上である。
【0012】エッチド箔の表面には、20〜200オン
グストローム厚さの酸化皮膜が形成され、酸化皮膜中
に、スピネル(MgAl2 4 )が原子濃度で5〜40
%存在しているのが好ましい。酸化皮膜の厚さが20オ
ングストローム未満では、皮膜が薄過ぎて所定量のスピ
ネルを皮膜中に分布させることが難しく、200オング
ストロームを越えると、酸化皮膜厚が化成皮膜の厚みを
越える場合があり好ましくない。
【0013】スピネルの分布量が5原子%未満では、化
成時に結晶性酸化皮膜が極く僅かしか形成されず、40
原子%を越えると、化成後の酸化皮膜中にスピネルが残
存し、化成皮膜中に結晶化しない部分が生じる。
【0014】酸化皮膜中のスピネルは高濃度に分布する
ほど合体したり偏在したりする傾向があり、酸化皮膜の
結晶化に最も効果的なスピネルの分布密度は1.0×1
6〜9.0×10 6 個/mm2 の範囲である。1.0
×106 個/mm2 未満では化成時の結晶性酸化皮膜の
形成が少なく、9.0×106 個/mm2 を越えると、
酸化皮膜中にスピネルが残存し、結晶化しない部分が生
じる。
【0015】なお、エッチド箔に形成される酸化皮膜中
のスピネルは、ヨウ素−メタノール溶液中でアルミニウ
ム箔のアルミニウム部分を溶解し、溶け残った酸化皮膜
を透過電子顕微鏡で観察することにより確認でき、酸化
皮膜の厚さおよびスピネルの原子濃度はオージェ電子分
光分析により確認することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】エッチド箔の表面に酸化皮膜を形
成し、酸化皮膜中にスピネルを分布させるには、アルミ
ニウム純度が99.9%以上のアルミニウム箔で、箔全
体にMgを20〜300ppm含有するエッチド箔を使
用し、当該エッチド箔を所定の温度で熱処理する。
【0017】エッチング前のアルミニウム箔に含まれる
Mg含有量はとくに限定されない。通常、エッチング処
理されたエッチド箔の表面には酸化皮膜がほとんど残存
しておらず、エッチド箔表面にはスピネルが存在しない
から、エッチド箔を化成前に熱処理して酸化皮膜を形成
し、酸化皮膜中にスピネルを分布させる。本発明におい
ては、この場合、エッチド箔全体にMgを20〜300
ppmの範囲で含有させることが必要である。
【0018】熱処理は400〜580℃の温度域で行う
のが好ましい。Mgを含有するアルミニウム箔を350
℃以上の温度で熱処理すると、表面に形成される酸化皮
膜中にはMgを含む酸化物、例えばMgO、MgAl2
4 (スピネル)などが形成されるが、MgOは断面か
らみると不均一な層状に分布し、化成時、結晶性酸化皮
膜の核としては作用せず、スピネルのみが微細且つ点状
に分散して、結晶性酸化皮膜の形成を促進する。
【0019】特定量のMgを含有するエッチドアルミニ
ウム箔を400℃以上の温度で熱処理した場合、形成さ
れる酸化皮膜中にはスピネルが分散する。400℃未満
の温度では、酸化皮膜中にスピネルがほとんど形成され
ない。酸化皮膜中にスピネルが多く形成される熱処理の
温度域は400〜580℃であり、580℃を越える
と、酸化皮膜中のスピネルが粗大化して数が減少し、結
晶性酸化皮膜の核として有効に機能しなくなる。
【0020】本発明においては、エッチド箔を熱処理し
て表面に酸化皮膜を形成させ、酸化皮膜中にスピネルを
分散させた後、40V以上の電圧で化成することが要件
であり、化成電圧が40V以上でスピネルが酸化皮膜の
結晶化に有効に機能し、静電容量を向上させる。化成電
圧が40V未満では、酸化皮膜中にスピネルが残存し、
結晶性酸化皮膜がほとんど形成されない。
【0021】本発明では、化成電圧に応じて熱処理の雰
囲気を変えるのが好ましい。第1の態様は、エッチド箔
の熱処理を酸素濃度1000ppm以下のアルゴンガス
もしくはヘリウムガス雰囲気中、または真空度1.3P
a以下の真空雰囲気中で行い、40V以上200V未満
の電圧で化成するものである。非酸化性雰囲気の酸素濃
度、真空度が上記の範囲を越えると、酸化皮膜の厚みが
化成時に形成される皮膜の厚みを越える場合がある。
【0022】第2の態様は、エッチド箔を400〜53
0℃の温度で大気中において熱処理し、200V以上の
化成電圧を使用して化成するものである。この場合は、
スピネルを分散した酸化皮膜が形成し易く、化成時に所
定の電圧まで少ない電気量で酸化皮膜を結晶化させるこ
とが可能となる。熱処理温度が530℃を越えると、大
気中の窒素とアルミニウムが反応して窒化物が生成し、
化成時に漏れ電流の増大を招き易い。
【0023】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説
明する。 実施例1、比較例1 アルミニウム純度99.94重量%で、Mgを含有する
厚さ100μmのエッチドアルミニウム箔に、表1に示
す条件で熱処理した。熱処理により形成された酸化皮膜
の厚さ、酸化皮膜中のスピネルの原子濃度および密度を
表1に示す。なお、熱処理時の昇温速度および降温速度
は100℃/hとした。また、表1において、本発明の
条件を外れたものには下線を付した。
【0024】熱処理後のエッチド箔を、ほう酸100g
に純水1リットルを加えた90℃の溶液中に浸漬後、直
ちに40V、180Vおよび300Vまで電流密度0.
05A/cm2 で化成し、15分間定電圧に保持した。
化成後、LCRメータを使用し、120Hz、並列等価
回路で静電容量を測定した。
【0025】なお、化成電圧により使用するエッチド箔
を変え、化成電圧40〜180Vの場合は海綿状エッチ
ピットを有する交流エッチド箔を使用し、化成電圧が3
00Vの場合はトンネル状のエッチピットを有する直流
エッチド箔を使用した。これは、低い化成電圧の場合に
は交流エッチド箔で高い静電容量が得られるが、高い化
成電圧では海綿状ピットが化成皮膜で埋まってしまうた
め、この場合には直流エッチド箔を使用して適正な評価
を行うためである。
【0026】静電容量の測定結果を表2に示す。表2に
示すように、本発明に従う電解コンデンサ電極用アルミ
ニウム箔は、本発明の酸化皮膜を有しないエッチド箔を
化成して得られたものの静電容量を100%とした場
合、いずれも105%以上の優れた静電容量をそなえて
いた。
【0027】
【表1】 《表注》酸化皮膜厚さ: オングストローム
【0028】
【表2】
【0029】実施例2 アルミニウム純度99.96重量%で、全体のMg含有
量を変えた厚さ100μmのエッチドアルミニウム箔
に、表3〜5に示す条件で熱処理した。熱処理後のエッ
チド箔を、ほう酸100gに純水1リットルを加えた9
0℃の溶液中に浸漬後、直ちに40V、180Vおよび
300Vまで電流密度0.05A/cm2で化成し、1
5分間定電圧に保持した。化成後、LCRメータを使用
し、120Hz、並列等価回路で静電容量を測定した。
測定結果を表3〜5に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】比較例2 実施例2と同様、アルミニウム純度99.96重量%
で、全体のMg含有量を変えた厚さ100μmのエッチ
ドアルミニウム箔に、表6〜8に示す条件で熱処理し
た。熱処理後のエッチドアルミニウム箔を、ほう酸10
0gに純水1リットルを加えた90℃の溶液中に浸漬
後、直ちに40V、180Vおよび300Vまで電流密
度0.05A/cm2 で化成し、15分間定電圧に保持
した。化成後、LCRメータを使用し、120Hz、並
列等価回路で静電容量を測定した。測定結果を表6〜8
に示す。なお、表6〜8において、本発明の条件を外れ
たものには下線を付した。
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】比較例3 実施例2と同様、アルミニウム純度99.96重量%
で、全体のMg含有量を変えた厚さ100μmのエッチ
ドアルミニウム箔に、表9に示す条件で熱処理した。熱
処理後のエッチドアルミニウム箔を、ほう酸100gに
純水1リットルを加えた90℃の溶液中に浸漬後、直ち
に20Vまで電流密度0.05A/cm2で化成し、1
5分間定電圧に保持した。化成後、LCRメータを使用
し、120Hz、並列等価回路で静電容量を測定した。
測定結果を表9に示す。なお、表9において、本発明の
条件を外れたものには下線を付した。
【0038】
【表9】
【0039】
【発明の効果】以上のとおり、本発明によれば、化成前
のエッチドアルミニウム箔の酸化皮膜中に、予めスピネ
ルを分散させることにより、化成処理時に結晶性酸化皮
膜の生成を促進し、化成後に高い静電容量を得ることを
可能とした電解コンデンサ電極用アルミニウム箔が提供
される。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI // C22F 1/00 622 C22F 1/00 661Z 661 H01G 9/04 346 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01G 9/055

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アルミニウム純度が99.9重量%以上
    のアルミニウム箔で且つエッチング処理されたエッチド
    箔であって、表面に厚さ20〜200オングストローム
    の酸化皮膜を有し、該酸化皮膜中にはスピネル(MgA
    2 4 )が原子濃度で5〜40%存在することを特徴
    とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔。
  2. 【請求項2】 酸化皮膜中のスピネルの密度が、1.0
    ×106 〜9.0×106 個/mm2 であることを特徴
    とする請求項1記載の電解コンデンサ電極用アルミニウ
    ム箔。
  3. 【請求項3】 アルミニウム純度が99.9重量%以上
    のアルミニウム箔で、箔全体にMgを20〜300pp
    m含有するエッチド箔を、400〜580℃の温度で熱
    処理して、表面にスピネル(MgAl2 4 )を含む酸
    化皮膜を形成させた後、40V以上の電圧で化成するこ
    とを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の
    製造方法。
  4. 【請求項4】 熱処理を酸素濃度1000ppm以下の
    アルゴンガスもしくはヘリウムガス雰囲気中、または真
    空度1.3Pa以下の真空雰囲気中で行い、40V以上
    200V未満の電圧で化成することを特徴とする請求項
    3記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方
    法。
  5. 【請求項5】 400〜530℃の温度で大気中で熱処
    理した後、200V以上の電圧で化成することを特徴と
    する請求項3記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム
    箔の製造方法。
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