以下、本考案の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本考案の実施形態の例である無段変速機30及びクラッチ80を備えるエンジンユニット10が搭載された自動二輪車1の側面図である。図2は、自動二輪車1が備える車体フレーム2及びエンジンユニット10の側面図であり、図3は、エンジンユニット10の断面図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、エンジンユニット10と車体フレーム2とを備えている。また、車体フレーム2は、図2に示すように、ステアリングヘッド2aと、メインフレーム2bと、シートレール2cと、ステー2dと、ブラケット2eとを含んでいる。
ステアリングヘッド2aは、車体フレーム2の前端部に設けられ、ステアリングシャフト6を回転可能に支持している。ステアリングシャフト6の上端部には、ハンドル5が接続されている。ステアリングシャフト6の下端部にはフロントフォーク7が接続され、このフロントフォーク7の下端部は前輪3を支持している。
図2に示すように、メインフレーム2bの前端部はステアリングヘッド2aに接続されている。メインフレーム2bは、その前端部から車体後部に向かって斜め下方に延伸し、その後端部(下端部)2iは、後輪4の前に位置している。メインフレーム2bの途中には、シートレール2cの前端部2jが接続されている。シートレール2cは、その前端部2jから車体後部に向かって斜め上方に延伸している。シートレール2cの上方には、収納ケース8とシート9が配置され、シートレール2cは、これらを支持している(図1参照)。メインフレーム2bの後端部2iには、ステー2dの前端部が接続され、ステー2dは当該前端部から斜め上方に延伸し、その上端部はシートレール2cの途中に接続されている。ブラケット2eは、下方に伸びる板状の部材であり、その上縁部はメインフレーム2bの後端部2iに接合されている。
ブラケット2eは、その上部に、ピボット軸12を支持する支持部2gを有している(図1参照)。図1に示すように、ピボット軸12には、リアアーム11の前端部が取り付けられている。リアアーム11は、後方に向けて延伸し、その後端部は後輪4の車軸を支持している。リアアーム11は、ピボット軸12を支点として、後輪4とともに揺動し、エンジンユニット10に対しては独立して揺動する。
図2に示すように、ブラケット2eは、その下端部の前側に、エンジンユニット10が取り付けられる被取付部2fを有している。また、メインフレーム2bの途中には、下方に突出するブラケット2L,2mが接合されている。エンジンユニット10が備えるクランクケース60の前側の上壁は、ブラケット2Lに取り付けられ、クランクケース60の後側の上壁は、ブラケット2mに取り付けられ、クランクケース60の下部は、ブラケット2eの被取付部2fに取り付けられている。これによって、エンジンユニット10は車体フレーム2によって支持されている。
図1又は図2に示すように、エンジンユニット10は、メインフレーム2bの後部の下方であって、後輪4の前に配置されている。エンジンユニット10は、図3に示すように、エンジン20と、無段変速機30と、クラッチ80と、クランクケース60と、無段変速機30を収容する変速機ケース50とを備えている。
エンジン20は、クランク軸21と、シリンダ22と、ピストン23とを備えている。シリンダ22は、クランクケース60の前方(図3においてFrの示す方向)において、上方に僅かに傾斜する姿勢で配置されている。ピストン23は、シリンダ22に送られた燃料と空気の混合気が燃焼することで、シリンダ22内において往復運動する。ピストン23は、コンロッド24を介してクランク軸21に設けられたクランクピン25に連結されている。ピストン23の往復運動は、クランク軸21によって回転運動に変換されて、駆動力の伝達経路の下流側に出力される。
クランク軸21は、クランクケース60内において車幅方向(図3においてWに示す方向)に延伸するように配置されている。クランク軸21は、右側軸部21aと、左側軸部21bと、一対のクランクアーム21c,21cとを有している。クランクアーム21c,21cは、右側軸部21aと左側軸部21bの基部から径方向に延伸し、クランクピン25を回転可能に支持している。
左側軸部21bは、その基部から車幅方向外側(車両進行方向に対して左方向)に延伸している。左側軸部21b上には、発電機(不図示)が設けられている。右側軸部21aは、その基部から車幅方向外側(車両進行方向に対して右方向)に延伸している。右側軸部21a上には、無段変速機30の駆動側プーリ31が設けられている。右側軸部21aの端部21dは、変速機ケース50によって支持されている。
図4は、無段変速機30及び変速機ケース50の断面図である。図5は、変速機ケース50の側面図である。図4に示す例では、変速機ケース50は、車幅方向内側(車幅方向の中央部側)に開く椀状を呈し、内部に無段変速機30を収容するケース本体51と、ケース本体51に外側から取り付けられる支持部材52とを有している。クランク軸21の端部21dは、ケース本体51の前部の壁に形成された開口51eから軸方向に突出している。支持部材52は、その前部に駆動軸支持部52aを有し、その後部に被駆動軸支持部52bを有している。駆動軸支持部52aは、クランク軸21の端部21dを支持している。なお、図4の例では、駆動軸支持部52aは、ベアリング53と環状部材54とを介して、クランク軸21の端部21dを支持している。すなわち、駆動軸支持部52aの内側にはベアリング53が嵌められ、このベアリング53の内輪の内側には、当該内輪とともに回転する環状部材54が配置されている。この環状部材54は、クランク軸21の端部21dに嵌められ、当該クランク軸21とともに回転する。なお、クランク軸21の端部21dには、環状部材54の外側からナット55が嵌められている。
図3に示すように、クランク軸21から後方に離れた位置には、被駆動軸27と出力軸29とが配置されている。被駆動軸27は車幅方向に延伸するよう配置され、被駆動軸27上には、無段変速機30の被駆動側プーリ41とクラッチ80とが設けられている。被駆動側プーリ41は、駆動側プーリ31の後方に位置し、クラッチ80は被駆動側プーリ41の車幅方向内側に配置されている。
被駆動軸27の車幅方向内側の端部27bには、ベアリング65と、当該ベアリング65より車幅方向外側に位置するベアリング63とが嵌められている。ベアリング65の外輪は、クランクケース60に支持されており、クランクケース60はベアリング65を介して被駆動軸27の端部27bを支持している。ベアリング63の外輪には出力軸29が嵌められており、ベアリング63は出力軸29を支持している。出力軸29の中央部29aは、ベアリング62を介してクランクケース60に支持されている。被駆動軸27の中央部27cには、ベアリング66が嵌められている。ベアリング66の外輪は、クランクケース60に固定された仕切り部材64によって支持されており、クランクケース60は、仕切り部材64及びベアリング66を介して、被駆動軸27の中央部27cを支持している。なお、仕切り部材64は、クラッチ80と被駆動側プーリ41との間に位置し、クランクケース60内に設けられたクラッチ室60aを閉塞している。このクラッチ室60aにクラッチ80が収容されている。被駆動軸27の車幅方向外側の端部27aは、変速機ケース50によって支持されている。
図4に示すように、被駆動軸27の端部27aは、ケース本体51の前部の壁に形成された開口51fから軸方向に突出し、支持部材52の被駆動軸支持部52bによって支持されている。図4に示す例では、被駆動軸支持部52bは、ベアリング56と環状部材57とを介して、被駆動軸27の端部27aを支持している。すなわち、被駆動軸支持部52bの内側には、ベアリング56が嵌められている。ベアリング56の内輪の内側には、当該内輪とともに回転する円環状の環状部材57が配置されている。この環状部材57は、被駆動軸27の端部27aに嵌められ、当該被駆動軸27とともに回転する。なお、被駆動軸27の端部27aには、環状部材57の外側からナット59が嵌められている。
なお、図4に示す例では、ケース本体51の開口51fの縁には、ベアリング56の車幅方向内側への脱落を防止する抜け止め部材58が設けられている。抜け止め部材58は、例えば、円環状の部材であり、その内径は、ベアリング56の外径より小さくなっている。これによって、抜け止め部材58の内側の縁58aは、被駆動軸支持部52bとの間にベアリング56の外輪56aを挟んでいる。
また、図5に示すように、支持部材52には、駆動軸支持部52aと被駆動軸支持部52bから径方向(クランク軸21の中心線に直交する方向、又は被駆動軸27の中心線に直交する方向)に突出する複数(ここでは6つ)の取付部52kが設けられている。この取付部52kは、ボルトによってケース本体51の外壁に取り付けられている。
また、図4又は図5に示すように、支持部材52は、駆動軸支持部52aと被駆動軸支持部52bとに掛け渡され、これらの間で突っ張る支柱部52cを有している。
ここで、無段変速機30について説明する。無段変速機30は、ベルト式無段変速機であり、上述したように、駆動側プーリ31と、被駆動側プーリ41とを有している。また、無段変速機30は、駆動側プーリ31と被駆動側プーリ41とに巻き付けられ、当該駆動側プーリ31から被駆動側プーリ41にトルクを伝達するベルト39を有している。
図4に示すように、駆動側プーリ31は、固定シーブ32と、可動シーブ33と、プレート35とを有している。固定シーブ32とプレート35は、軸方向の動きが規制され、可動シーブ33は、固定シーブ32とプレート35との間において、軸方向へ移動可能となっている。可動シーブ33は固定シーブ32と軸方向に向き合い、これらにベルト39の前側が巻き掛けられている。
なお、可動シーブ33とプレート35との間に、遠心力によって径方向へ移動するウェイトローラ34が配置されている。クランク軸21が回転すると、ウェイトローラ34は、径方向の外側に移動するとともに、可動シーブ33を固定シーブ32側に押圧する。そして、ベルト39が可動シーブ33に押されて前方に移動し、駆動側プーリ31のベルト39が巻かれた部分の径が大きくなることで、減速比が小さくなる。
また、駆動側プーリ31は、変速機ケース50内に外気を導入するためのファン36を有している。図4に示す例では、ファン36は、固定シーブ32から車幅方向外側に立ち上がるように形成されている。ケース本体51は、外気を取り入れる吸入口51cと、変速機ケース50内の空気を排出する排出口51dとを有している(図5参照)。図2及び図5に示すように、吸入口51cには、斜め上方に伸びる吸気ダクト71が接続されている。吸気ダクト71の先端には、エアクリーナ72が取り付けられている。図2に示すように、エアクリーナ72の上部には、上方に突出する先端ダクト73が取り付けられている。図2又は図5に示すように、排出口51dには、斜め上方に延びる排気ダクト74が接続されている。
図4に示すように、被駆動側プーリ41は、被駆動軸27上に設けられ、ベルト39を介して伝達されたトルクによって被駆動軸27とともに回転する。図6は、被駆動側プーリ41の断面図である。同図に示すように、被駆動側プーリ41は、被駆動軸27とともに回転する固定シーブ42と、同じく、被駆動軸27とともに回転する可動シーブ43と、固定シーブ42の軸方向の動きを規制するカラー46とを有している。
図4に示すように、被駆動軸27には、カラー91、固定シーブ42、及びカラー46が嵌められている。これらは、上述したベアリング66と、環状部材57とに挟まれて、軸方向の動きが規制されている。また、カラー46及び固定シーブ42は、被駆動軸27にスプラインで結合しており、これらは一体的に回転する。
図6に示すように、カラー46の車幅方向外側の端部46aには、中心が窪んだ円盤状のスプリング支持部材45が嵌められている。このスプリング支持部材45は、固定シーブ42及び可動シーブ43より車幅方向外側(被駆動軸27の端部27a側)に位置する。また、スプリング支持部材45は、カラー46とともに回転するように、当該カラー46に取り付けられている。図7は、図6に示すVII−VII線の断面図である。ここで説明する例では、円筒状に形成されたカラー46の端部46aの外周面の一部が削られて、当該外周面に平面部46bが形成されている。スプリング支持部材45の内周縁は、当該端部46aの外形に合わせた形に形成されている。これによって、スプリング支持部材45は、カラー46とともに回転する。なお、図6に示すように、カラー46の端部46aには、スプリング支持部材45の脱落を防止するC字状のクリップ48が取り付けられている。
図6に示すように、可動シーブ43は、被駆動軸27の径方向に広がるシーブ本体43aと、カラー46に嵌められる円筒状のボス部43bとを有している。ボス部43bには、可動シーブ43を固定シーブ42側に付勢するスプリング44が嵌められている。スプリング44の端部はスプリング支持部材45に当接しており、スプリング44はスプリング支持部材45によって固定シーブ42側に支持されている。
ボス部43bには、軸方向に延びるガイド溝43c,43cが形成されている。ガイド溝43c,43cには、先端部47aがカラー46に差し込まれたキー47,47が配置されている。これによって、可動シーブ43の回転は、キー47,47を介してカラー46に伝達される。また、可動シーブ43は、キー47,47に案内されて、軸方向へ移動する。なお、ボス部43bのガイド溝43c,43cは、被駆動軸27の中心線を挟んで互いに反対側に形成されている。
可動シーブ43のシーブ本体43aと、固定シーブ42とには、ベルト39の後側が巻き掛けられている。駆動側プーリ31においてベルト39が可動シーブ33によって前方に押されると、被駆動側プーリ41において可動シーブ43は、スプリング44の付勢力に抗して、固定シーブ42から離れる方向に移動する。これによって、ベルト39の被駆動側プーリ41に巻かれた部分の径が小さくなり、減速比が小さくなる。
被駆動側プーリ41の重心位置は、その製造誤差等によって、回転中心(被駆動軸27の中心線O上)からずれている場合がある。そのため、本実施の形態では、スプリング支持部材45において被駆動軸27の中心線から離れた位置に、被駆動側プーリ41の重心位置を、その回転中心に近づけるための重心位置調整部49が設けられている。
この例では、図6に示すように、スプリング支持部材45は、カラー46の外周面から径方向に広がる内周部45aと、内周部45aの縁から固定シーブ42側に立ち上がる円筒状の筒状部45bと、筒状部45bの縁から径方向の広がる外周部45cとを含んでいる。外周部45cには、当該外周部45cを貫通する複数の穴45dが形成されている。図7に示すように、この複数の穴45dは、外周部45cにおいて周方向に等間隔で設けられている。
重心位置調整部49は、例えば、リベットである。重心位置調整部49は、複数の穴45dのうち、被駆動側プーリ41の回転中心から、その重心位置がずれている方向とは、被駆動軸27を挟んで反対側に位置する穴45dに留められている。例えば、図7に示すように、スプリング支持部材45、固定シーブ42、可動シーブ43、カラー46、及びスプリング44(すなわち、被駆動側プーリ41において重心位置調整部49を除く部分)の重心位置G1が、被駆動軸27の中心線O上には存在していない場合、中心線Oを挟んで重心位置G1とは反対側に位置する穴45dに重心位置調整部49が設けられる。また、重心位置調整部49の質量は、重心位置G1の中心線Oからのずれ量(重心位置G1と中心線Oとの距離、及び被駆動側プーリ41において重心位置調整部49を除く部分の質量)に応じて設定される。なお、重心位置G1の中心線Oからのずれ量に応じて、複数の重心位置調整部49が設けられてもよい。
複数の穴45dは、例えば、スプリング支持部材45の製造段階において形成される。また、重心位置調整部49が取り付けられる位置及び質量は、例えば、スプリング支持部材45、固定シーブ42、可動シーブ43、カラー46、スプリング44を被駆動軸27に組み付けた状態で、それらの重心位置の回転中心からのずれ量、及びずれている方向を計測することで、算出される。そして、算出された位置の穴45dに、算出された質量の重心位置調整部49が取り付けられる。そのため、重心位置調整部49は、スプリング支持部材45や、固定シーブ42など被駆動側プーリ41を構成する各部材を組み付けた後に形成される。すなわち、固定シーブ42などの各部材を組み付けた状態で、重心位置G1及びそのずれ量が計測される。その後、重心位置G1に応じた位置に、そのずれ量に応じた質量を有するリベットが、重心位置調整部49として、被駆動側プーリ41に取り付けられる。
なお、図4に示すように、スプリング44は、スプリング支持部材45の内周部45aによって、固定シーブ42側に支持されている。また、筒状部45bの内側には、スプリング44において車幅方向外側に位置する部分が収容されている。
次にクラッチ80について説明する。図8は、クラッチ80の断面図である。上述したように、クラッチ80は、被駆動軸27の中央部27cを挟んで被駆動側プーリ41とは反対側に設けられている(図3参照)。図8に示すように、クラッチ80は、被駆動軸27に対して空転するクラッチインナ81と、当該クラッチインナ81より大きな質量を有し、被駆動軸27とともに回転するクラッチアウタ82とを有している。また、ここで説明する例では、クラッチ80は、多板クラッチであり、クラッチアウタ82とともに回転する複数のフリクションプレート83と、クラッチインナ81とともに回転する複数のクラッチプレート84とを有している。なお、クラッチインナ81、フリクションプレート83、及びクラッチプレート84は、クラッチアウタ82に収容されている。また、フリクションプレート83は、クラッチプレート84より大きな質量を有している。
クラッチアウタ82は、車幅方向の外側が閉じた筒状の部材であり、被駆動軸27の外周面から径方向に広がる内周部82aと、当該内周部82aの外周縁から、さらに径方向に広がるとともに、被駆動軸27の軸方向に僅かに膨らむ外周部82bと、外周部82bの縁から軸方向に立ち上がる筒状部82cとを有している。内周部82aの内周面には、ギアが形成されており、このギアは被駆動軸27の外周面に形成されたギアに噛み合っている。筒状部82cの内周面には、軸方向に延びるガイド溝82hが形成されている。フリクションプレート83には、径方向に突出し、ガイド溝82hに嵌る突起部83aが形成されている。この突起部83aがガイド溝82hに案内されることで、フリクションプレート83は、軸方向へ移動する。また、突起部83aがガイド溝82hに引っ掛かることで、フリクションプレート83はクラッチアウタ82とともに回転する。
クラッチインナ81は、クラッチアウタ82の筒状部82cの内側に配置されている。被駆動軸27には、当該被駆動軸27に対して空転するギア26が嵌められている。クラッチインナ81の内周面には、ギア26に噛み合うギア81aが形成されており、クラッチインナ81は、このギア26とともに回転する。クラッチインナ81の外周面には、軸方向に延伸するガイド溝81bが形成されている。クラッチプレート84の内周縁には、径方向内側に突出し、ガイド溝81bに嵌る突起部84aが形成されている。突起部84aが、ガイド溝81bに案内されることによって、クラッチプレート84は軸方向へ移動する。また、突起部84aがガイド溝81bに引っ掛かることで、クラッチインナ81はクラッチプレート84とともに回転する。
複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84は、交互に配置され、これらが互いに押し付けられ連動することで、フリクションプレート83からクラッチプレート84にトルクが伝達される。図8に示す例では、クラッチ80は、自動クラッチであり、クラッチ80の接続又は切断は、被駆動軸27の回転速度に応じて、自動で行なわれる。具体的には、クラッチ80は、クラッチアウタ82とともに被駆動軸27の周りを回転するウェイトローラ86と、フリクションプレート83を軸方向へ付勢するダイアフラムスプリング85とを有している。ウェイトローラ86とダイアフラムスプリング85との間に、複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とが配置されている。クラッチアウタ82が回転すると、ウェイトローラ86は、遠心力によって径方向へ移動するとともに、フリクションプレート83をクラッチプレート84に押し付ける。これによって、クラッチ80は接続状態になる。また、被駆動軸27の回転速度が下がると、ウェイトローラ86は、径方向の内側(被駆動軸27側)に戻り、フリクションプレート83がクラッチプレート84から離れ、クラッチ80は切断状態になる。
クラッチ80の軸方向中心を挟んで、外周部82b及び内周部82aとは反対側の位置には環状ストッパ87が配置されている。クラッチアウタ82の筒状部82cには、軸方向に突出する突起82jが形成されている。この突起82jに環状ストッパ87が嵌められている。環状ストッパ87は、フリクションプレート83とダイアフラムスプリング85のクラッチアウタ82からの離脱を防止している。なお、環状ストッパ87には、突起82jが嵌る複数の穴87aが形成されている。また、突起82jの内周面には、環状ストッパ87を抜け止めするための環状のクリップ88が嵌められている。
クラッチ80の重心位置は、その製造誤差等によって、回転中心(被駆動軸27の中心線上)からずれている場合がある。そのため、クラッチアウタ82において被駆動軸27の中心線から離れた位置には、クラッチ80の重心位置を、その回転中心に近づけるための重心位置調整部82eが形成されている。ここで説明する例では、外周部82bの径方向(被駆動軸27の中心線に対して直交する方向)外側の位置に、クラッチアウタ82の他の部分より肉厚の厚い厚肉部82dが設けられている。この厚肉部82dの車幅方向外側の面82fに重心位置調整部82eとして穴が形成されている。
図9は、クラッチアウタ82を軸方向に臨む図である。同図に示すように、厚肉部82dは、外周部82bの全周に亘って設けられ、被駆動軸27を囲む円環状となっている。図8に示すように、厚肉部82dは、径方向の外側に向かうにしたがって、その肉厚が徐々に厚くなるよう形成されている。
重心位置調整部82eは、厚肉部82dにおいて、クラッチ80の回転中心から、その重心位置がずれている方向と同じ側に形成される。例えば、図9に示すように、重心位置調整部82eが形成される前におけるクラッチ80の全体(すなわち、クラッチアウタ82、フリクションプレート83、クラッチプレート84、及びクラッチインナ81)の重心位置G2が被駆動軸27の中心線O上には存在していない場合、中心線Oと重心位置G2とを結ぶ延長線L1上の位置に重心位置調整部82eが形成される。また、重心位置調整部82eの大きさ(穴の径や深さ)は、重心位置G2の中心線Oからのずれ量(重心位置G2と中心線Oとの距離、及びクラッチ80の質量)に応じて設定される。なお、重心位置G2の中心線Oからのずれ量に応じて、複数の重心位置調整部82eが形成されてもよい。また、図8に示す例では、重心位置調整部82eは、厚肉部82dの車幅方向外側の面82fに形成されていたが、例えば、重心位置調整部82eは、厚肉部82dの外周面82gに形成されてもよい。重心位置調整部82eは、クラッチアウタ82やフリクションプレート83などクラッチ80を構成する各部材を組み付けた後に、形成される。すなわち、クラッチアウタ82等の各部材を組み付けた状態で重心位置G2及びその中心線Oからのずれ量が測定される。そして、そのずれ量が低減されるように、クラッチアウタ82の厚肉部82dに、重心位置調整部82eとして穴が形成される。
最後に、エンジンユニット10における駆動力の伝達経路について説明する。クランク軸21の回転は、無段変速機30によって減速されて、被駆動軸27に伝達される。被駆動軸27の回転は、クラッチ80のクラッチアウタ82に伝達される。クラッチ80が接続状態にある時には、被駆動軸27の回転は、クラッチアウタ82からクラッチインナ81に伝達され、当該クラッチインナ81からギア26に伝達される。ギア26は、図3に示すように、被駆動軸27の前方に配置された中間軸28のギア28aに噛み合っている。また、中間軸28にはギア28bが形成され、このギア28bは出力軸29に形成されたギア29bに噛み合っている。これによって、ギア26の回転は、中間軸28を介して、出力軸29に伝達される。出力軸29上には、チェーンが巻き掛けられたスプロケット29cが設けられている。このチェーンは、後輪4とともに回転するスプロケット(不図示)にも巻き掛けられており、出力軸29の回転は、チェーンを介して、後輪4に伝達される。
以上説明したクラッチ80によれば、重心位置調整部82eを肉厚の厚い厚肉部82dに形成するので、クラッチ80の重心位置G2を回転中心に近づけるために利用できる部分が増え、例えば、重心位置G2が大きくずれている場合でも、クラッチ自体を交換することを要せず、加工作業の効率性を向上できる。
また、厚肉部82dには、重心位置調整部82eとして穴が形成されている。そのため、重心位置の調整精度を高めることができる。すなわち、穴の深さや径、位置を調整することで、微妙な重心位置の調整を行うことができる。
また、クラッチ80では、クラッチアウタ82は、被駆動軸27の外周面から径方向に広がる内周部82aと、当該内周部82aからさらに径方向に広がる外周部82bとを含み、厚肉部82dは外周部82bに設けられている。そのため、例えば、内周部に厚肉部を設ける場合に比べて、少ない加工でクラッチ80の重心位置G2を中心線O側に変位させることができる。
また、以上説明した無段変速機30によれば、重心位置調整部49が設けられるスプリング支持部材45は、固定シーブ42と可動シーブ43より車幅方向外側、すなわち作業者にとって手前側に位置している。そのため、固定シーブ42と可動シーブ43を被駆動軸27に組み付けた状態であっても、重心位置G1を回転中心に近づける作業が容易に行えるようになる。
また、無段変速機30では、可動シーブ43との間にスプリング44を挟み、当該スプリング44を可動シーブ43側に支持するスプリング支持部材45に重心位置調整部49を設けている。そのため、重心位置調整部49を設けるために、専用の回転部材を被駆動側プーリ41に設ける必要がなくなり、無段変速機30の生産性を向上できる。
また、無段変速機30では、スプリング支持部材45は、スプリング44の端部に当たり、スプリング44を可動シーブ43側に支持する内周部45aと、当該内周部45aより径方向の外側に位置する外周部45cとを有している。そして、重心位置調整部49は、スプリング支持部材45の外周部45cに設けられている。そのため、例えば、内周部45aに重心位置調整部49を設ける場合に比べて、少ない加工で、無段変速機30の被駆動側プーリ41の重心位置G2を中心線O側に変位させることができる。
また、無段変速機30では、重心位置調整部49はリベットである。そのため、固定シーブ42と可動シーブ43を被駆動軸27に組み付けた状態であっても、重心位置G1を回転中心に近づける作業が容易に行えるようになる。
また、無段変速機30では、重心位置調整部49は、スプリング支持部材45に取り付けられる。そのため、例えば、スプリング支持部材45の一部を削って、可動シーブ43及び固定シーブ42の重心位置を調整する場合に比べて、重心位置G1を回転中心に近づける作業が容易に行えるようになる。また、スプリング支持部材45を削った場合に発生する金属粉等の発生を抑えることができる。
なお、本考案は以上説明したクラッチ80及び無段変速機30に限られず種々の変形が可能である。例えば、クラッチ80では、厚肉部82dは、外周部82bに設けられていたが、厚肉部82dは筒状部82cに設けられてもよい。すなわち、筒状部82cの肉厚を厚くしてもよい。また、重心位置調整部82eとしての穴は、外周部82bを被駆動軸27の軸方向に貫通してもよい。また、クラッチ80では、重心位置調整部82eは、厚肉部82dの車幅方向外側の面82fに形成されていたが、上述したように、重心位置調整部82eは、厚肉部82dの外周面82gに形成されてもよい。図10はこの形態に係るクラッチ80Aの断面図である。クラッチ80Aでは、厚肉部82dの外周面82gに重心位置調整部82iとして穴が形成されている。周方向における重心位置調整部82iの位置は、上述した重心位置調整部82eと同様に、重心位置調整部82iが形成されていない状態でのクラッチ80Aの重心位置と、クラッチ80Aの回転中心を通る中心線Oとを結ぶ延長線上の位置である。
また、クラッチには、クラッチアウタ82に形成される重心位置調整部82i,82eに替えて、或いは重心位置調整部82i,82eに加えて、環状ストッパ87に重心位置調整部として穴が形成されてもよい。図11はこの形態に係るクラッチ80Bを被駆動軸27の軸方向に臨む図であり、クラッチ80を車幅方向の中心側から臨む図である。図12は、図11に示すXII−XII線での断面図であり、図13はクラッチ80Bが有する環状ストッパ87Bの正面図である。なお、図11及び図12において、これまで説明した箇所と同一箇所には同一符号を付している。
図11乃至図13に示すように、環状ストッパ87Bには重心位置調整部87bとして穴が形成されている。環状ストッパ87Bの周方向における重心位置調整部87bの位置は、上述した重心位置調整部82e,82iと同様に、重心位置調整部87bが形成されていない状態でのクラッチ80Bの重心位置G3と、クラッチ80Bの回転中心を通る中心線Oとを結ぶ延長線上の位置である。また、重心位置調整部87bの大きさ(穴の径)は、重心位置G3の中心線Oからのずれ量に応じて設定される。なお、図13では周方向に等間隔で形成された複数の穴87aが示されている。上述したように、この穴87aにクラッチアウタ82の突起82jが嵌っている(図8参照)。重心位置調整部87bは、この穴87aの間に位置している。
また、以上の説明では、被駆動側プーリ41には、重心位置調整部49としてリベットが取り付けられていた。しかしながら、リベットに代えて、被駆動側プーリ41には、重心位置調整部として穴が形成されてもよい。図14は、この形態における被駆動側プーリ41Aの断面図であり、図15は被駆動側プーリ41Aを軸方向に臨んだときに得られる図である。同図に示すように、被駆動側プーリ41Aでは、スプリング支持部材45Aに、重心位置調整部45eとして穴が形成されている。周方向における重心位置調整部45eの位置は、上述した重心位置調整部49とは反対に、中心線Oから、被駆動側プーリ41を構成する各部材を組み付けた状態での重心位置G1に向かって延伸する直線L2上の位置である。なお、被駆動側プーリ41Aでは、被駆動側プーリ41とは異なり、周方向において等間隔に位置する穴45dは形成されていない。
また、以上の説明では、クラッチ80は、複数のフリクションプレート83とクラッチプレート84とを有する自動の多板クラッチであった。しかしながら、クラッチは、例えば、摩擦板を有するウェイトが遠心力により径方向の外側に移動してクラッチアウタの内周面に押し付けられることでトルクを伝達する自動遠心クラッチでもよい。
また、無段変速機30では、スプリング支持部材45に重心位置調整部49が設けられていた。しかしながら、可動シーブ43及び固定シーブ42とともに回転する部材であって、重心位置調整部49を設けるための専用の部材を備えてもよい。