JP2730423B2 - 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法 - Google Patents

加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、初晶Siを微細化する
ことにより加工性を向上させた過共晶Al−Si合金及
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコンを12.6重量%以上含有する
過共晶Al−Si合金は、熱膨張係数が小さく、耐熱性
にも優れている。また、溶湯が凝固する際に高硬度の初
晶シリコンが晶出するため、耐摩耗性が要求されるピス
トン,クランクケース,ブレーキドラム,シリンダーラ
イナー等の内燃機関用部品として使用されている。過共
晶Al−Si合金は、硬質の初晶Siが晶出することに
起因して優れた耐摩耗性を呈するが、初晶Siが大きく
成長した鋳造組織になり易い。この状態で加工を施す
と、初晶Siやアルミニウムマトリックスとの界面等に
亀裂が入り、目的とする製品が得られないばかりでな
く、機械的性質も十分でない。特に、切削加工等の際
に、初晶Siに起因するカジリが発生する欠点がある。
初晶Siは、急冷凝固によって微細化される。たとえ
ば、粉末法を採用したり、特開昭52−129607号
公報にみられるように溶湯圧延法によってアルミニウム
合金溶湯を急冷凝固し、鋳造組織の微細化を図ってい
る。
【0003】アルミニウム合金溶湯をP処理することに
よっても、初晶Siを微細化することができる。P添加
によって初晶Siを微細化し、加工性及び機械的性質の
改善を図っている。添加されたPは、金属間化合物Al
Pを形成し、この金属間化合物AlPが初晶Siの微細
化に作用するものと考えられている。たとえば、特開昭
52−153817号公報では、ヘキサメタリン酸ナト
リウム及びアルミナの融合物をアルミニウム合金溶湯に
添加し、初晶Siの偏析を抑制し鋳造組織の微細化を図
っている。また、特開昭60−204843号公報で
は、Cu−P合金,赤燐,リン酸ソーダ,リン酸カルシ
ウム等の燐含有物質で16〜25重量%のシリコンを含
有する過共晶アルミ−Si合金を処理することが紹介さ
れている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、金型鋳造,D
C鋳造のようにインゴットを経る方法においては、P添
加のみでは微細化が不十分な場合が多く、特に押出し
材,鍛造材等として使用するとき、加工時における初晶
Siの割れが問題となる。初晶Siを微細化するP添加
の作用は、過共晶Al−Si合金がNa又はCaを含む
とき失われがちである。この点に関し、たとえば、財団
法人素形材編集「昭和59年度ハイシリコン・アルミニ
ウム合金ダイカストの開発研究報告書(I)」第24〜
25頁では、次のように説明されている。過共晶Al−
Si合金に含まれているNa及びCaがPと反応してN
a−P及びCa−Pを形成し、初晶Siの微細化に作用
するAlPの生成が妨げられる。
【0005】そのため、初晶Siの微細化を狙ったP添
加は、適用対象がNaやCaをなるべく含まない過共晶
Al−Si合金に限られていた。Caは、共晶Siを改
良する作用を呈し、亜共晶合金の引張り特性や衝撃値等
の性質を改善する有効な合金元素である。しかし、過共
晶Al−Si合金においては、Caが初晶Si微細化の
ため添加されるPの作用を阻害することと、逆にPがC
aによる共晶組織の改良作用を阻害することから、Ca
は過共晶Al−Si合金に添加されることがなかった。
そのため、この系の合金において、初晶Siの更なる微
細化によって加工性等を向上しようとするとき、P処理
のみでは不十分であり、特殊な設備を必要とする溶湯圧
延法等の急冷凝固法に頼らざるを得ない。本発明は、こ
のような問題を解消すべく案出されたものであり、Ca
とPとの間で添加時期の調整や成分バランス等を図り、
急冷凝固を行わない金型鋳造,DC鋳造等においても初
晶Siが十分に微細化され、加工性,機械的性質等に優
れた過共晶Al−Si合金を提供することを目的とす
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の過共晶Al−S
i合金は、その目的を達成するため、Si:13〜21
重量%,Ca:6〜70ppm,P:40ppm以上で
100ppm未満を含み、P/Caが重量比で0.6〜
6の範囲に調整され、残部が実質的にAlの組成をも
ち、粒径20pm以下の初晶Siが均一分散している鋳
造組織をもつことを特徴とする。
【0007】この過共晶Al−Si合金は、過共晶Al
−Si合金の溶湯に含まれているP及びCaを、鋳造直
前のP含有量が40ppm以上で100ppm未満,C
a含有量が6〜70ppmで且つP/Caの重量比が
0.6〜6の範囲になるように調整し、前記溶湯を鋳造
することによって製造される。ここで、重量比P/Ca
は、溶解原料の成分調整,P原料及びCa原料の添加量
と添加時期,合金溶解温度,溶湯保持温度と時間,脱ガ
ス条件,鋳造温度等の操業条件によって調整される。
【0008】
【作 用】過共晶Al−Si合金にPを添加すると、A
lP化合物が形成される。このAlP化合物が初晶Si
の核として働き、鋳造組織の微細化が行われる。従来で
は、この系にCaを添加するとき、Ca−P化合物が生
成し、有効なAlP核が減少するため、Pによる微細化
効果が阻害されるものと説明されている。ところが、本
発明者等は、過共晶Al−SiにP及びCaを同時添加
したとき、P単独添加の場合に比較して初晶Siが著し
く微細化されていることを実験的に確認した。初晶Si
が微細化した鋳造組織をXMAにより調査したところ、
多くの場合にCaがPと共存していた。このことは、C
a添加によりCa−P化合物が形成されるが、Ca−P
化合物が好ましい状態にあるとき、従来の説明とは異な
り、初晶Siの晶出により有効な核として働くことを示
唆している。
【0009】本発明者等は、この初晶Siの微細化メカ
ニズムを次のように推察した。AlP系,Cu−P系,
Al−Cu−P系等の母合金或いはP化合物等として過
共晶Al−Si合金に添加されたPは、金属間化合物A
lPとして溶湯中に存在している。この溶湯を鋳造した
場合、従来説明されているようにAlPが初晶Siの核
として働く。これに対し、P及びCaが共存する場合、
AlPの他に多数のCa−P化合物が形成される。Ca
−P化合物は、AlPに比較して、初晶Siが晶出する
ときに有効な結晶核として働き、初晶Siを一層微細化
する。しかし、溶湯を高温に長時間保持すると、酸化等
によってCaが系外に去り、溶湯中のCaが不足するよ
うになる。その結果、有効な結晶核Ca−Pの個数が減
少し、AlPが再び主な結晶核として働くようになり、
初晶Siの微細化が不十分になる。
【0010】Ca−P化合物を初晶Siの核として働か
せるためには、鋳造直前のアルミニウム合金溶湯におけ
る重量比P/Caを0.6〜6の範囲に調整することが
必要である。鋳造直前の重量比P/Caを0.6〜6に
維持する限り、たとえば次に掲げる何れの方法を採用し
ても、或いはこれらの方法を組合せて採用しても、従来
のP処理に比較して一層微細化した鋳造組織が得られ
る。 溶解開始から鋳造までの過程におけるCa及びPの
消耗を考慮し、所定量のCa及びPを予め溶解原料に配
合する方法。 所定量のPを含有する過共晶Al−Si合金を溶
解,鋳造して鋳塊を得る工程で、過共晶Al−Si合金
を溶解した後でCaを添加する方法。 Ca及びPを含まない過共晶Al−Si合金を溶解
した後で、所定量のCa及びPを同時に又は相前後して
添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si合金を鋳造直前に成分分析し、Ca及びP
が不足する場合には、不足分を追加添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si合金を鋳造直前に成分分析し、Ca含有量
が過剰な場合には、溶湯温度を高くするか或いは保持時
間を長くすることによってCa含有量を低下させる方
法。
【0011】これまで、Caは、P処理による微細化効
果を阻害し、初晶Siの微細化に有害であるとされてい
た理由は、P/Ca比,Si含有量に対するCa及びP
の含有量(添加量と異なる),溶解から鋳造するまでの
時間,鋳造温度,初晶Si晶出温度域での冷却速度等に
関する検討が不十分であったことに起因するものと考え
られる。すなわち、何れかの条件が適当でなく、Ca−
P化合物が有効な核として働かない状態にあったことが
原因として掲げられる。そこで、本発明者等は、これら
条件に関して詳細な検討を行った。
【0012】Caの添加 Caは、溶解原料に予め含ませておくこと、或いは溶解
した過共晶Al−Si合金に添加する方法の何れによっ
ても、過共晶Al−Si合金に含ませることができる。
何れの場合においても、Caは、溶解や保持過程におけ
る損耗が激しいので、添加量ではなく含有量で把握する
ことが必要である。なお、Caは、Caを含有するAl
−Ca系等の母合金,化合物,混合物等として塊状,棒
状,線状,粉末状,顆粒状,溶融状等の形態で添加され
る。Ca含有量を高精度にコントロールする上からは、
溶解後の過共晶Al−Si合金に所定量のCaを添加す
ることが好ましい。すなわち、溶解前にCaを配合する
と、溶解,高温保持,脱ガス処理等の工程でCaが損耗
し、鋳塊中のCa含有量を正確にコントロールすること
が難しくなる。特に、連続鋳造のように大量のメタルを
取り扱う場合、目標とするCa含有量が得られず、不良
となる確率が高くなる。また、鋳塊に移行するCaの歩
留りが低いため、損耗分を見込んだより多量のCaを添
加することも必要になる。
【0013】溶解後の過共晶Al−Si合金にCaを添
加するとき、鋳塊におけるCa含有量を比較的正確にコ
ントロールすることができ、初晶Siの微細化も目標通
り行われる。たとえば、溶解原料にCaを冷材として配
合し、溶解直後に鋳造したとき、Caの歩留りは45〜
85%の範囲で大きくばらついた。これに対し、溶解後
の過共晶Al−Si合金にCaを添加し、直ちに鋳造し
たとき、Caの歩留りが76〜94%に向上すると共
に、鋳塊のCa含有量に大きなバラツキがなくなった。
鋳造直前の過共晶Al−Si合金における重量比P/C
aが0.6〜6.0の範囲にあるとき、Ca−P化合物
の微細化作用が効果的に発揮される。しかし、Ca含有
量は、過共晶Al−Si合金を溶湯の状態で保持すると
次第に減少し、それに伴ってP/Caが増加する。ま
た、Ca含有量の減少率は、過共晶Al−Si合金溶湯
が高温になるほど大きくなる。そこで、鋳造に先立って
Ca含有量を所定範囲に調整した後、長い保持時間をお
かずに鋳造することが好ましい。
【0014】なお、Ca含有量が減少し、重量比P/C
aが6.0を超えると、Ca−P化合物の微細化作用が
不十分である。また、重量比P/Caが0.6未満で
も、微細化効果が得られなくなる。Ca含有量が更に増
加しP/Caが低くなると、初晶Siは、Ca無添加の
場合よりもむしろ粗くなる。重量比P/Caが0.6未
満になると、Ca−P化合物中のCa濃度も上がり、こ
れが初晶Siの結晶核として働かない好ましくない状態
になるものと考えられる。その結果、従来報告されてい
るようにP処理による微細化作用が阻害される。また、
Ca含有量が120ppmを超えると、重量比P/Ca
が0.6未満であれば初晶Siが微細化するが、溶湯の
流動性が著しく低下し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易
くなる。したがって、初晶Siの晶出核として有効なC
a−P化合物を生成させるためには、Ca含有量の上限
を120ppmに設定し、Ca含有量の下限をP=6C
aとP=40の交点B(図7参照)における値から6p
pmに設定することが必要であるが、本発明では更に好
適な6〜70ppmの範囲にCa含有量を設定した。
【0015】Pの添加 Pは、Caに比較して反応性が低い。そのため、溶解原
料に予めPを配合させておいても、或いは溶解後にPを
添加しても、P添加による効果は実質的に変わらない。
したがって、Pの添加時期は、次の〜の何れであっ
ても良い。また、予め所定量のPを含有する過共晶Al
−Si合金又は溶解原料を溶解した後、Ca添加に相前
後して残りのPを添加することもできる。Pは、P含有
母合金,化合物,混合物等を塊状,棒状,線状,粉末
状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。 Pを含む過共晶Al−Si合金又は溶解原料の調整
→溶解→ Ca添加 → 鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解→ Ca及びPの同時添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解P添加 → Ca添加 → 鋳
造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解 Ca添加 → P添加 → 鋳造
【0016】P含有量は、Ca−P化合物による初晶S
iの微細化を促進させる上で、40〜130ppmの範
囲に維持することが必要であるが、本発明では更に好適
な40ppm以上で100ppm未満の範囲にP含有量
を規定した。P含有量は、Ca含有量と異なり、過共晶
Al−Si合金を溶湯状態のままで保持しても、保持時
間による大きな影響を受けることなく、減少量は小さ
い。なお、P含有量が40ppm未満では、初晶Siを
微細化する作用が不十分である。しかし、130ppm
を超えるP含有量では、初晶Siを微細化する効果があ
るものの、合金溶湯の流動性が低下し、湯境い等の鋳造
欠陥が発生し易くなる。このような欠陥発生は、P含有
量を100ppm未満に規制することにより一層抑制さ
れる。また、Pの濃度が高くなると溶解歩留りが極端に
低下するので、130ppm以上のPを含有させること
は非常に困難である。
【0017】P/Ca比 P/Ca比は、微細化効果に大きな影響をもつ因子であ
る。P/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持するこ
とにより、初晶Siの微細化に有効なCa−P化合物が
生成されるものと推察される。すなわち、生成したCa
−P化合物が微細な核として合金中に均一分散し、この
核を起点として初晶Siが晶出する。その結果、微細な
鋳造組織が得られる。P/Ca重量比が0.6未満で
は、初晶Siの結晶核として働く作用をもたないCa濃
度の高いCa−Pが形成され、長時間溶湯保持等によっ
てCa−P化合物中のCaが減少すると好ましい状態に
なり、結晶核としての作用を呈するものと考えられる。
逆に、P/Ca重量比が6を超えると、Caが不足し、
形成されるCa−P化合物の個数が不足する。
【0018】Si含有量 Ca及びPにより初晶Siが微細化する現象は、Si含
有量が13〜21重量%の範囲にある過共晶Al−Si
合金にみられる。Si含有量が大きくなるほど、より多
量のCa及びPを含有させることが必要になることは勿
論、鋳造条件を厳格にコントロールすることが要求され
る。しかも、Si含有量に応じて微細化効果が低くな
る。そこで、Si含有量の上限を21重量%に設定し
た。また、過共晶Al−Si合金の特性を得るため、S
i含有量の下限を13重量%に設定した。
【0019】溶解温度 Ca及びPの微細化作用を有効に発揮させる上で、Si
が十分に溶解するように過共晶Al−Si合金溶湯を7
60〜850℃の温度範囲で溶解することが好ましい。
溶湯温度は、Si含有量に比例して高く設定される。し
かし、過度の高温で溶解することは、溶解のためのエネ
ルギー損失を招くばかりでなく、鋳造までの工程におけ
る条件に変動を来し易い。そこで、溶解温度の上限を、
850℃に設定する。
【0020】溶湯保持時間 Caによる微細化作用は、重量比P/Caが0.6を超
えるCaを含有させた過共晶Al−Si合金ではCa添
加直後に現れる。この微細化作用は、合金溶湯を長時間
保持すると消失する。Caの作用が消失する時間は、C
a含有量や保持温度にもよるが、おおよそ60〜600
分である。この点で、Ca含有量を重量比P/Caが
0.6〜6.0となる設定範囲に調整した後、長時間の
保持工程をおくことなく鋳造工程に入ることが好まし
い。他方、重量比P/Caが0.6を下回るように過剰
のCaを含有させた過共晶Al−Si合金では、Caに
よる微細化作用は、Caの添加直後には現れず、合金溶
湯をある時間保持した後に現れる。いわゆる潜伏期間が
存在する。潜伏期間は、添加直後のCa含有量が大きく
なるほど長くなる。たとえば、61ppmのP及び18
0ppmのCaを含有させた過共晶Al−Si合金を7
60℃に保持したとき、約100分後にCaによる微細
化作用が発現する。
【0021】多量のCaを含有させた場合にみられる潜
伏期間は、合金溶湯を保持する間にCaが減少し、その
結果重量比P/Caが0.6以上に増加することに由来
するものと考えられる。すなわち、重量比P/Caが
0.6以上になったとき、初めてCaによる微細化作用
が発揮される。更に合金溶湯を長時間保持すると、Ca
含有量の減少に伴って重量比P/Caが0.6を超える
とき、微細化作用が消失する。このことは、Caの減少
に伴って、初晶Siの晶出に有効な核として働くCa−
P化合物の個数が不足することを示唆している。
【0022】Ca含有量が多い場合、重量比P/Caが
0.6以上になるまでの溶湯保持時間が長くなるので、
一般に設定範囲にCa含有量をコントロールすることが
難しくなる。しかし、大型の溶解炉を使用して多量の合
金を生産する場合、準備や鋳造に長時間を要する。この
ような場合には、この潜伏期間及び潜伏期間後にCaが
減少して重量比P/Caが6.0を超えるまでの長い微
細化に有効な期間を利用することもできる。すなわち、
鋳造を行うまでの時間が長い場合、Caを過剰に添加し
ておき、鋳造時点で重量比P/Caが0.6〜6.0の
範囲に入るように調整する。
【0023】鋳造温度 高い冷却速度によって初晶Siを微細化する点では、鋳
造温度をなるべく高く設定することが好ましい。しか
し、合金溶湯が高温になるほどCaの損耗が激しくな
り、鋳造時にCa含有量を制御することが難しくなる。
そこで、鋳造温度は、高い冷却速度による微細化効果が
得られる範囲で、可能な限り低くすることが好ましい。
具体的には、Si含有量等の過共晶Al−Si合金の成
分及び含有量にもよるが、Al−Si二元系状態図の液
相線+(70〜170)℃の温度範囲に鋳造温度を設定
する。たとえば、Siを15重量%含有する過共晶Al
−Si合金では鋳造温度を680℃以上に、Siを17
重量%含有する過共晶Al−Si合金では鋳造温度を7
10℃以上に、Siを20重量%含有する過共晶Al−
Si合金では鋳造温度を760℃以上に設定する。本発
明に従ってP含有量,Ca含有量及びP/Ca比が調整
されたアルミニウム合金は、初晶Siの晶出核として働
くP−Ca化合物の作用を活用しているので、アトマイ
ズ法や溶湯鍛造等の特殊な鋳造設備を使用する必要な
く、金型鋳造やDC鋳造によっても初晶Siが十分に微
細化される。そのため、鋳造組織が微細化された高品質
のアルミニウム合金が安価な製造コストで容易に製造さ
れる。
【0024】Ca含有量は、他の製造条件によっても変
化する。特に、脱ガス処理によってCa含有量は大きく
低下する。このときのCa含有量の低下は、脱ガスに使
用するガスの種類や脱ガス時間等によって異なった傾向
を示す。そこで、予め脱ガス条件に対応したCa含有量
の変化率を求めておき、この変化率に基づいてCa含有
量をコントロールすることが好ましい。本発明の過共晶
Al−Si合金は、性質改善元素として6.0重量%以
下のCu,2.0重量%以下のMg,3.0重量%以下
のNi,2.0重量%以下のMn,1.5%重量%以下
のFe,3.0重量%以下のZn,0.3重量%以下の
Ti等を含むことができる。Cuは、強度、特に高温強
度を向上させる。Mgは、強度を向上させる。Niは、
高温強度の向上に有効である。Mn,Fe,Zn,Ti
等は、何れも強度を改善する合金元素である。また、Z
r,Cr,V,Co等の不純物元素は、0.5重量%以
下に規制することが好ましい。
【0025】
【実施例】
実施例1:アルミニウム合金A390にCa及びPを種
々の割合で配合し、ルツボ炉で溶解した。CaはAl−
5%Ca母合金冷材として、PはCuーP母合金冷材と
して、目標組成がSi:17重量%,Cu:4.5重量
%及びMg:0.6重量%となるように溶解原料に配合
した。溶解温度は、Siが完全に溶融する800℃に設
定した。得られた合金溶湯を30分間保持した後、内径
18mm及び高さ90mmの金型で鋳造した。得られた
鋳塊について、Ca含有量及びP含有量を分析し、初晶
Siとの関係を調査した。調査結果を示す表1におい
て、試験番号1は、Caを添加することなくP処理のみ
で初晶Siの微細化を図った例である。この場合、初晶
Siは、かなり粗い粒径となっている。他方、約60p
pmのCaを含有させた試験番号2及び3では、初晶S
iが15μm及び18μmと極めて微細化されていた。
このことから、Ca及びPの共存が初晶Siの微細化に
有効であることが判る。
【0026】Caを150ppmと過剰に含有させた試
験番号4では、P単独添加の試験番号1に比較して、む
しろ初晶Siが粗くなっている。これは、Caによって
Pの微細化作用が阻害されたことを示唆する。同じ試験
番号4の合金溶湯を更に760℃で1時間保持したとこ
ろ、試験番号5にみられるように、Ca含有量が89p
pmまで減少すると共に、Ca及びPの共存による初晶
Siの微細化作用が発現されている。
【0027】実施例2: Si:21重量%,Cu:1重量%,Mg:1重量%及
びNi:1重量%を含有するアルミニウム合金につい
て、実施例1と同様にCa及びPの影響を調査した。調
査結果を示す表2において、試験番号6は、P処理によ
って初晶Siの微細化を図ったものであるが、30μm
と粗い初晶Siが生成されていた。これに対し、Ca及
びPの共存によって初晶Siを微細化した試験番号7で
は、初晶Siの粒径が10μmと微細化されていた。
【0028】実施例3:Cu−P母合金冷材としてPの
みを溶解原料に添加したアルミニウム合金A390、及
びそれぞれCu−P母合金冷材及びAl−Ca母合金冷
材としてP及びCaを溶解原料に添加したアルミニウム
合金A390を、820℃で溶解し、温度780℃及び
速度150mm/分の鋳造条件でホットトップ鋳造法に
より直径98mmの鋳塊に連続鋳造した。得られた鋳塊
の組織を、図1及び図2に示す。Ca無添加の鋳塊(図
1)では初晶Siが50μmであるのに対し、P及びC
aを併用添加した鋳塊(図2)では、初晶Siが著しく
20μmと微細化していることが判る。
【0029】実施例4:約80ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)をルツ
ボ炉で溶解した後、Caを添加することなく内径18m
m及び高さ90mmの金型に鋳造した。残った溶湯にA
l−5%Ca母合金をCa換算で100ppm添加し、
合金溶湯を800℃の温度で種々の時間保持した後、同
様の金型に鋳造した。得られた鋳塊について、Ca含有
量及びP含有量を分析し、分析結果と初晶Siの粒径と
の関係を調査した。調査結果を示す表3から明らかなよ
うに、P処理のみ(Ca添加前)で微細化を図った試験
番号8に比較して、Ca添加後の合金溶湯を5〜120
分保持した後で鋳造した試験番号9〜12では、初晶S
iが著しく微細化していた。また、Ca含有量は、保持
時間の経過と共に減少する傾向を示した。しかし、Ca
含有量が6ppmを下回らず且つP/Ca比が6以下に
維持されている限り、P及びCaの共存による初晶Si
の微細化作用が維持された。
【表3】
【0030】実施例5:約60ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)にCa
を50ppm添加し、鋳造温度を760℃とする他は実
施例4と同じ条件で鋳塊を製造した。得られた鋳塊にお
けるCa含有量及びP含有量を分析し、分析結果と初晶
Siの粒径との関係を調査した。調査結果を示す表4に
おいて、試験番号13は、Caを添加することなくP処
理のみで初晶Siの微細化を図った例であり、比較的粗
い初晶Siが生成している。これに対し、Ca添加した
試験番号14〜17では、保持時間の経過と共にCa含
有量が低下する傾向にあるが、Ca含有量が6ppmを
下回らない条件下では粒径20μm以下の微細な初晶S
iが生成していた。しかし、保持時間が390分と長く
なったとき、Ca含有量の減少によってP/Ca比が7
となり、それに伴ってCa及びPの共存作用が消失し、
粗い初晶Siが生成した。
【表4】
【0031】実施例6: 約60ppmのPを含有するアルミニウム合金A390
(Si:17重量%,Cu:4.5重量%,Mg:0.
6重量%,残部Al)にCaを200ppm添加し、鋳
造温度を760℃とする他は実施例4と同じ条件で鋳塊
を製造した。得られた鋳塊におけるCa含有量及びP含
有量を分析し、分析結果と初晶Siの粒径との関係を調
査した。
【0032】調査結果を示す表5において、試験番号1
8は、Caを添加することなくP処理のみで初晶Siの
微細化を図った例であり、比較的粗い初晶Siが生成し
ている。Ca含有量は、保持時間の経過と共に低下する
傾向にあった。しかし、保持時間が短くCa含有量が1
80ppmと高い試験番号19では、重量比P/Caが
0.6より低く、P処理の作用を打ち消し、むしろ粒径
の大きな初晶Siが生成した。また、同じ溶湯を760
℃に60分間保持した試験番号20では、Ca含有量が
140ppmを超えており、依然として重量比P/Ca
が0.6より低く、初晶Siが粗く、Ca及びPの共存
による微細化作用がみられなかった。保持時間が120
分になったとき、Ca含有量が109ppmまで低下
し、重量比P/Caが0.6となり、Ca及びPの共存
による微細化作用が発現し、微細な初晶Siが生成し
た。
【0033】実施例7:Si:15重量%,Cu:3.
5重量%,Mg:0.5重量%,残部Alの組成をもつ
アルミニウム合金を溶解し、鋳造温度760℃で金型に
鋳造した。鋳塊の組織に与える影響をCa添加の有無に
ついて調査した。図3は、Caを添加せず、P含有量6
5ppm及びCa含有量1ppmでP/Ca比65の合
金溶湯から得られた鋳塊の組織を示す。他方、図4は、
この合金溶湯にCaを添加し、P含有量68ppm及び
Ca含有量47ppmでP/Ca比1.4に調整した合
金溶湯から得られた鋳塊の組織を示す。図3と図4との
比較から明らかなように、Ca無添加の場合に初晶Si
が30μmと粗いが、Ca添加によって初晶Siが10
μmと著しく微細化されていることが判る。
【0034】実施例8:約60ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)を50
kgのルツボ炉で820℃に溶解し、温度780℃及び
速度150mm/分の鋳造条件でホットトップ鋳造法に
よって直径98mmの鋳塊を製造した。この場合、一部
の溶湯はCa無添加で鋳造し、残りの溶湯はCa添加後
に鋳造した。Caは、Al−5%Ca合金を使用して添
加量が20ppmとなるように鋳造中の湯溜り部に連続
的に添加した。鋳塊のCa含有量及びP含有量を分析
し、分析結果と初晶Siの粒径との関係を調査した。C
aを添加することなくP処理のみで初晶Siを微細化し
た鋳塊(図5)は、P含有量58ppm及びCa含有量
1ppm以下でP/Ca比>58の合金溶湯から鋳造さ
れたものであり、45μmの粒径をもつ初晶Siが生成
していた。P含有量61ppm及びCa含有量17pp
mでP/Ca比3.2に調整した図6の鋳塊には、粒径
18μmの初晶Siが生成していた。
【0035】また、A390合金について実施例1と同
じ金型を使用し、Ca含有量,P含有量及びP/Ca比
を種々変更し、それぞれが初晶Siの粒径に与える影響
を調査した。表6から明らかなように、Ca含有量を6
ppm以上の範囲に、P含有量を40ppm以上の範囲
に、且つP/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持す
るとき、初めて粒径が20μmの初晶Siが生成するこ
とが判る。
【0036】以上の試験番号1〜30及び図1〜6につ
いて、Ca含有量,P含有量及びP/Ca比で初晶Si
の粒径を整理したところ、図7に示す関係が成立してい
た。なお、図7におけるAE及びEDは、前述したよう
に鋳造性から設定される境界線であり、AEより上及び
EDより右側の部分でも重量比P/Ca=0.6〜6.
0の条件が満たされる限り初晶Siの微細化は達成され
る。しかし、溶湯の粘度が著しく上昇し、湯境い等の鋳
造欠陥が生じ易くなる。Ca含有量:6〜120pp
m,P含有量:40〜130ppm及びP/Ca比:
0.6〜6の条件を満足する領域A−B−C−D−E−
Aでは、粒径が20μm以下の初晶Siが安定して生成
している。なかでも、本発明で規定するCa含有量:6
〜70ppm,P含有量:40ppm以上で100pp
m未満及びP/Ca比:0.6〜6の条件を満足する領
域では、一層粒径が微細化された初晶Siが晶出した鋳
造組織が安定して得られた。これは、初晶Siの晶出に
有効な核であるCa−P化合物が均一に分散しているこ
とに由来するものと推察される。他方、ABより左,C
Dより右及びBCより下の領域では、初晶Siが20μ
mを超える大きな粒径になっている。P/Ca比が0.
6未満或いは6を超える領域では、Ca−P系の結晶核
が不足するか不適であり、初晶Siの微細化が図られて
いない。また、領域B−C−Oでは、Ca−P系の結晶
核が少なく、初晶Siの微細化が達成されていないと推
察される。
【0037】また、アルミニウム合金A390の溶湯を
760℃に保持した時間との関係でCa含有量を整理し
たところ、図8に示すように保持時間の経過に応じてC
a含有量が低下していた。図8において、20ppmの
Caを添加したときのCa含有量の経時変化を印□で、
50ppmのCaを添加したときのCa含有量の経時変
化を印+で、100ppmのCaを添加したときのCa
含有量の経時変化を印◇で示す。Ca含有量の低下傾向
は、アルミニウム合金溶湯の保持温度を800℃にした
とき、図9に示すように変わる。図9を図8と対比する
とき、保持温度の上昇によって短時間でCa含有量が低
下していることが判る。
【0038】したがって、各種アルミニウム合金につい
てCa含有量の経時変化を溶湯保持温度との関係で予め
把握しておくとき、保持時間の調整によって必要とする
Ca含有量及びP/Ca比をコントロールすることがで
きる。たとえば、各種P含有量のアルミニウム合金A3
90について、溶湯保持温度を760℃に設定したと
き、図10に示すようにCa含有量が経時的に低下す
る。図10のCa=115の直線は、P含有量(69〜
76ppm)に拘らず、少なくとも重量比P/Caが
0.6以上になる限界のCa含有量を、Ca=11.5
の直線は同様にP含有量(63〜69ppm)に拘ら
ず、少なくとも重量比P/Caが6.0以下になる限界
のCa含有量を示す。したがって、この二つの直線の間
にCa量があるとき、図7で直線ABとCDの間にある
重量比P/Ca=0.6〜6.0の関係が満足される。
【0039】Ca含有量が多い場合、初晶Siの微細化
効果は得られないが、溶湯保持によりCa含有量が11
5ppm以下に減少するに伴って微細化効果が発現して
いる。同様に適量のCaが含有されていても、溶湯保持
によりCa含有量が11.5ppmより少なくなると、
微細化効果が得られなくなる。すなわち、重量比P/C
aが0.6〜6.0の範囲になるようなCa含有量にあ
るときに鋳造することによって、Ca及びPの共存効果
が発揮され、初晶Siの微細化が行われる。鋳造温度
は、主としてSi含有量をベースにして定められる。S
i含有量が高いほど、初晶Siを微細化するため鋳造温
度を高く設定する。Si含有量及び鋳造温度は、図11
に示すように初晶Siの微細化に影響を与える。鋳造温
度は、具体的にはAl−Si二元系状態図の液相線より
も70℃以上の高い温度に設定する。しかし、鋳造温度
が高くなりすぎると、Caの消耗が激しくなり、Ca含
有量を目標値にコントロールすることが難しくなる。そ
のため、鋳造温度の上限は、液相線+170℃にするこ
とが好ましい。
【0040】図11において、23%Si合金を840
度で鋳造した場合を△印で示している。これは、760
℃及び800℃で鋳造した場合、初晶Siが45〜50
μmと粗かったのに対し、840℃で鋳造した場合は3
0μmと改良効果があるものの、13〜21%のSiを
含む合金の場合のように初晶Siの大きさを20μm以
下に制御することができなかったことを示している。図
12は、重量比P/Ca=0.6〜6.0の条件下でP
を40〜130ppm及びCaを6〜120ppmを含
有させたAl−15〜23%Si合金を鋳造したときに
得られた結果を、初晶Siの粒径及びSi含有量につい
て整理したものである。なお、このときの鋳造温度は、
各合金の液相線+(70℃〜170℃)に設定した。
【0041】Si含有量が15〜21%のとき、何れも
初晶Siが20μm以下に微細化されている。これに対
し、Al−23%Si合金では、P含有量,Ca含有
量,重量比P/Ca,鋳造温度等を調整しても、Ca添
加による初晶Siの微細化効果はみられるものの、初晶
Siの粒径を20pm以下に制御することができなかっ
た。このことから、Si含有量の上限が21%に規定さ
れる。Si含有量が21%を超える過共晶Al−Si合
金では、一般的にいって初晶Siの微細化が難しい。し
かし、Caを添加することによって、P単独添加の場合
に比較して初晶Siが微細化されていることから、その
程度は異なるものの21%以下のSiを含有する合金の
場合と同じ原理に基づいているものと考えられる。この
ようにして鋳造直前の状態におけるCa含有量及びP含
有量をそれぞれ6〜120ppm及び40〜130pp
m(なかでも6〜70ppm及び40ppm以上で10
0ppm未満)の範囲に且つP/Caの重量比を0.6
〜6の範囲に、調整したアルミニウム合金溶湯を鋳造す
るとき、初晶Siの粒径が20μm以下の微細な鋳造組
織をもつ鋳塊が得られる。この鋳塊は、微細な初晶Si
に起因して加工性,切削性,耐摩耗性等の優れたもので
ある。
【0042】実施例9:加工性を評価するため、Si:
15重量%,Cu:3.5重量%,Mg:0.5重量
%,残部Alの組成をもつ合金に対し、一方はPのみ
を、他方はP及びCaを添加してDC鋳造した。得られ
たDC鋳塊を500℃に5時間加熱する均熱処理を施し
た後、直径14mm及び長さ21mmの円柱状の試験片
を多数切り出し、400トンプレスを使用して温度45
0℃及び速度25mm/秒の条件下で据込み試験を行っ
た。なお、潤滑剤として窒化硼素を使用した。その他の
条件は、日本塑性学会冷間鍛造分科会冷間鍛造試験基準
[塑性と加工第22巻第241号(1981〜2)第1
39頁参照]に従った。試験結果から、P:71ppm
及びCa:3ppmを含有する合金は、割れが発生しな
い限界の加工率、すなわち限界据込み率が約65%に留
まっていた。他方、P:74ppm及びCa:55pp
mを含有し初晶Siを10μmと微細化した合金では、
限界据込み率が74%と著しく向上していた。
【0043】実施例8のA390合金鋳塊(図5及び図
6)について、同様の条件下で据込み試験を行った。
P:58ppm及びCa:1ppmを含有する合金の限
界据込み率は、約63%であった。他方、P:61pp
m及びCa:17ppmを含有し初晶Siを平均粒径1
5μmと微細化した合金では、限界据込み率が70%と
著しく向上していた。この61ppm及びCa:17p
pmを含み直径98mm及び長さ90mmのA390合
金鋳塊を温度340℃,速度2m/分で直径20mmの
丸棒に押し出した後、同じ据込み試験に供した。この試
験片を切断した後、光学顕微鏡で組織を観察したとこ
ろ、初晶Siの割れはほとんどみられなかった。また、
押出し材の限界据込み率は、約88%と過共晶合金とし
ては極めて高い値を示した。以上の据込み試験の結果か
ら、Ca添加によって初晶Siが微細化され、合金の加
工性が著しく向上していることが判る。
【0044】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、Ca含有量,P含有量及びP/Caの重量比を規制
することによって、粒径が小さい初晶Siが分散した微
細な鋳造組織をもち、且つ鋳造欠陥の少ない過共晶Al
−Si合金を得ている。この過共晶Al−Si合金は、
その微細な鋳造組織に起因して加工性,切削性,耐摩耗
性等に優れ、内燃機関用部品を始めとして耐摩耗性,耐
熱性等が要求される用途に使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例3でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図2】 実施例3でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図3】 実施例7でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図4】 実施例7でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図5】 実施例8でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図6】 実施例8でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図7】 Ca含有量,P含有量及びP/Ca比と初晶
Siの粒径の関係
【図8】 溶湯を760℃に保持したときのCa含有量
の経時変化
【図9】 溶湯を800℃に保持したときのCa含有量
の経時変化
【図10】 各種P含有量の溶湯を760℃に保持した
ときのCa含有量の経時変化と初晶Si緒微細化挙動
【図11】 Si含有量及び鋳造温度が初晶Siの微細
化に与える影響
【図12】 Si含有量と初晶Siの粒径
フロントページの続き (72)発明者 北岡 山治 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 株式会社日軽技研内 (72)発明者 鷺坂 栄吉 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 株式会社日軽技研内 (56)参考文献 特開 昭61−246339(JP,A) 特開 平1−319646(JP,A) 特開 平5−51683(JP,A)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Si:13〜21重量%,Ca:6〜7
    0ppm,P:40ppm以上で100ppm未満を含
    み、P/Caが重量比で0.6〜6の範囲に調整され、
    残部が実質的にAlの組成をもち、粒径20μm以下の
    初晶Siが均一分散している鋳造組織をもつ加工性に優
    れた過共晶Al−Si合金。
  2. 【請求項2】 更にCu:6.0重量%以下,Mg:
    2.0重量%以下,Ni:3.0重量%以下,Mn:
    2.0重量%以下,Fe:1.5重量%以下,Zn:
    3.0重量%以下,Ti:0.3重量%以下の1種又は
    2種以上を含む請求項1記載の加工性に優れた過共晶A
    l−Si合金。
  3. 【請求項3】 過共晶Al−Si合金の溶湯に含まれて
    いるP及びCaを、鋳造直前のP含有量が40ppm以
    上で100ppm未満,Ca含有量が6〜70ppm
    且つP/Caの重量比が0.6〜6の範囲になるように
    調整し、前記溶湯を金型鋳造又はDC鋳造することを特
    徴とする過共晶Al−Si合金の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の重量比P/Caが、溶解
    原料の成分調整,P原料及びCa原料の添加量と添加時
    期,合金溶解温度,溶湯保持温度と時間,脱ガス条件,
    鋳造温度等の操業条件によって調整される過共晶Al−
    Si合金の製造方法。
  5. 【請求項5】 合金を溶解した後、樋又は溜りでCaを
    添加する請求項3記載の過共晶Al−Si合金の製造方
    法。
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