JPH06306521A - 鋳物用過共晶Al−Si系合金及び鋳造方法 - Google Patents

鋳物用過共晶Al−Si系合金及び鋳造方法

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JPH06306521A
JPH06306521A JP10062693A JP10062693A JPH06306521A JP H06306521 A JPH06306521 A JP H06306521A JP 10062693 A JP10062693 A JP 10062693A JP 10062693 A JP10062693 A JP 10062693A JP H06306521 A JPH06306521 A JP H06306521A
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casting
alloy
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Susumu Nawata
進 名和田
Hiroshi Horikawa
宏 堀川
Yamaji Kitaoka
山治 北岡
Kazuo Aoki
一男 青木
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Nikkei Techno Research Co Ltd
Nippon Light Metal Co Ltd
Original Assignee
Nikkei Techno Research Co Ltd
Nippon Light Metal Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 機械的強度,耐摩耗性,切削加工性に優れた
過共晶Al−Si系鋳造合金を得る。 【構成】 この鋳造用過共晶Al−Si系合金は、S
i:13〜21重量%,Cu:0.5〜5.0重量%,
Mg:0.3〜2.0重量%,Ca:6〜120ppm
及びP:40〜130ppmを含み、P/Caが重量比
で0.6〜6の範囲に調整されている。成分調整された
合金溶湯は、(液相線+70℃)以上の鋳造温度で、D
C鋳造では直径又は厚みが150mm以下の鋳塊に、金
型鋳造では直径又は厚みが30mm以下の鋳塊に鋳造さ
れる。鋳造組織は、初晶Siが20μm以下に微細化さ
れている。 【効果】 初晶Siが微細化されているため、切削加工
時における工具の摩耗が抑えられ、良好な切削仕上りの
製品が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、強度,耐摩耗性,切削
加工性等に優れた鋳物用過共晶Al−Si系合金及び鋳
造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】Siを12.6重量%以上含有する過共
晶Al−Si系合金は、熱膨張係数が小さく、耐熱性に
も優れている。また、溶湯が凝固する際に高硬度の初晶
シリコンが晶出するため、耐摩耗性が要求されるピスト
ン,クランクケース,ブレーキドラム,シリンダーライ
ナー等の内燃機関用部品として使用されている。過共晶
Al−Si系合金は、硬質の初晶Siが晶出することに
起因して優れた耐摩耗性を呈するが、初晶Siが大きく
成長した鋳造組織になり易い。大きな初晶Siが晶出し
た鋳塊を切削加工すると、硬質の初晶Siによって切削
工具が短期間に摩耗し、工具寿命を短くする。その結
果、切削コストが上昇する。また、機械的性質も十分で
なく、切削加工による仕上り寸法も高精度にコントロー
ルできなくなる。
【0003】初晶Siは、急冷凝固によって微細化され
る。たとえば、粉末法を採用したり、特開昭52−12
9607号公報にみられるように溶湯圧延法によってア
ルミニウム合金溶湯を急冷凝固し、鋳造組織の微細化を
図っている。また、アルミニウム合金溶湯にAl−Cu
−P,Cu−P等を添加してP処理することによって
も、初晶Siを微細化することができる。更に、特開平
1−298131号公報,特公平4−34621号公報
等では、P処理と共にTi,B等のB添加によって初晶
Si及び共晶Si共に微細化し、機械的性質及び切削加
工性を改善した過共晶Al−Si系合金が開示されてい
る。P処理によって初晶Siが微細化し、加工性及び機
械的性質の改善を図っている。添加されたPは、金属間
化合物AlPを形成し、この金属間化合物AlPが初晶
Siの微細化に作用するものと考えられている。
【0004】たとえば、特開昭52−153817号公
報では、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びアルミナの融
合物をアルミニウム合金溶湯に添加し、初晶Siの偏析
を抑制し鋳造組織の微細化を図っている。また、特開昭
60−204843号公報では、Cu−P合金,赤燐,
リン酸ソーダ,リン酸カルシウム等の燐含有物質で16
〜25重量%のシリコンを含有する過共晶アルミ−Si
合金を処理することが紹介されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、過共晶Al−
Si系合金は、急冷凝固法等では特殊な設備や操業条件
を必要とすることから、金型鋳造,DC鋳造等によって
製造することが一般的である。インゴットを経る金型鋳
造,DC鋳造等の方法においては、P添加のみでは初晶
Siの微細化が不十分な場合が多く、特に後続工程で高
度の切削加工が施される用途に使用するとき、切削加工
時における初晶Siに起因する割れや切削工具の摩耗等
が問題となる。初晶Siを微細化するP添加の作用は、
過共晶Al−Si系合金がNa又はCaを含むとき失わ
れがちである。この点に関し、財団法人素形材編集「昭
和59年度ハイシリコン・アルミニウム合金ダイカスト
の開発研究報告書(I)」第24〜25頁では、過共晶
Al−Si系合金に含まれているNa及びCaがPと反
応してNa−P及びCa−Pを形成し、初晶Siの微細
化に作用するAlPの生成が妨げられると説明されてい
る。
【0006】そのため、初晶Siの微細化を狙ったP添
加は、NaやCaをなるべく含まない過共晶Al−Si
系合金に適用対象が限られていた。Caは、共晶Siを
改良する作用を呈し、亜共晶合金の引張り特性や衝撃値
等の性質を改善する有効な合金元素である。しかし、過
共晶Al−Si系合金においては、Caが初晶Si微細
化のため添加されるPの作用を阻害することと、逆にP
がCaによる共晶組織の改良作用を阻害することから、
Caは過共晶Al−Si系合金に添加されることがなか
った。そのため、この系の合金において、初晶Siの更
なる微細化によって切削加工性等を向上しようとすると
き、P処理のみでは不十分であり、特殊な設備を必要と
する溶湯圧延法等の急冷凝固法に頼らざるを得ない。
【0007】本発明者等は、Ca共存下におけるP処理
について調査・研究した結果、ある特定条件下で適当量
のP及びCaを共存させることにより、Pのみの場合に
比較して初晶Siの微細化がより進行することを見い出
し、特願平4−244259号で提案した。すなわち、
P/Ca重量比が0.6〜6の条件下でP:40〜13
0ppm及びCa:6〜120ppmを過共晶Al−S
i系合金溶湯に含有させ、図1のA−B−C−D−E−
A領域に維持した溶湯を鋳造するとき、初晶Siが微細
化された鋳造組織をもつ製品が得られる。本発明は、初
晶Siの微細化に効果的なP/Ca=0.6〜6の条件
を更に発展させ、他の合金成分との間での成分調整を図
ることにより、急冷凝固を行わない金型鋳造においても
初晶Siが十分に微細化され、切削加工性,機械的性質
等に優れた鋳物用過共晶Al−Si系合金を提供するこ
とを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の鋳物用過共晶A
l−Si系合金は、その目的を達成するため、Si:1
3〜21重量%,Cu:0.5〜5.0重量%,Mg:
0.3〜2.0重量%,Ca:6〜120ppm及び
P:40〜130ppmを含み、P/Caが重量比で
0.6〜6の範囲にあることを特徴とする。この過共晶
Al−Si系合金は、Ni:0.5〜3.0重量%及び
/又はMn:0.5〜3.0重量%を含むこともでき
る。この組成をもつ過共晶Al−Si系合金溶湯は、
(液相線+70℃)以上の鋳造温度で金型鋳造される。
金型鋳造によるとき、直径又は厚みが30mm以下の鋳
塊に鋳造される。得られた鋳塊は、初晶Siの平均粒径
(以下、単に粒径という)が20μm以下の鋳造組織を
もったピストン等の素材となる。
【0009】
【作用】過共晶Al−Si系合金にPを添加すると、A
lP化合物が形成される。AlP化合物が初晶Siの核
として働き、鋳造組織の微細化が行われる。このとき、
Caが共存すると、AlPの他に多数のCa−P化合物
が形成され、Ca−P化合物が好ましい状態にあると
き、初晶Siの晶出により有効な核として働く。Ca−
P化合物は、AlPに比較して、初晶Siが晶出すると
きに有効な結晶核として働き、初晶Siを一層微細化す
るものと推察される。Ca−P化合物を初晶Siの核と
して働かせるためには、鋳造直前のアルミニウム合金溶
湯における重量比P/Caを0.6〜6の範囲に調整す
ることが必要である。鋳造直前の重量比P/Caを0.
6〜6に維持する限り、たとえば次に掲げる何れの方法
を採用しても、或いはこれらの方法を組合せて採用して
も、従来のP処理に比較して一層微細化した鋳造組織が
得られる。
【0010】 溶解開始から鋳造までの過程における
Ca及びPの消耗を考慮し、所定量のCa及びPを予め
溶解原料に配合する方法。 所定量のPを含有する過共晶Al−Si系合金を溶
解,鋳造して鋳塊を得る工程で、過共晶Al−Si系合
金を溶解した後でCaを添加する方法。 Ca及びPを含まない過共晶Al−Si系合金を溶
解した後で、所定量のCa及びPを同時に又は相前後し
て添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si系合金を鋳造直前に成分分析し、Ca及び
Pが不足する場合には、不足分を追加添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si系合金を鋳造直前に成分分析し、Ca含有
量が過剰な場合には、溶湯温度を高くするか或いは保持
時間を長くすることによってCa含有量を低下させる方
法。
【0011】これまで、Caは、P処理による微細化効
果を阻害し、初晶Siの微細化に有害であるとされてい
た理由は、P/Ca比,Si含有量に対するCa及びP
の含有量(添加量と異なる),溶解から鋳造するまでの
時間,鋳造温度,初晶Si晶出温度域での冷却速度等に
関する検討が不十分であったことに起因するものと考え
られる。すなわち、何れかの条件が適当でなく、Ca−
P化合物が有効な核として働かない状態にあったことが
原因として掲げられる。そこで、本発明者等は、特願平
4−244259号でも紹介したように、これら条件に
関して詳細な検討を行った。以下の条件は、Cu及びM
gを含む過共晶Al−Si系合金においても成立する。
【0012】Caの添加 Caは、溶解原料に予め含ませておくこと、或いは溶解
した過共晶Al−Si系合金に添加する方法の何れによ
っても、過共晶Al−Si系合金に含ませることができ
る。何れの場合においても、Caは、溶解や保持過程に
おける損耗が激しいので、添加量ではなく含有量で把握
することが必要である。なお、Caは、Caを含有する
Al−Ca系等の母合金,化合物,混合物等として塊
状,棒状,線状,粉末状,顆粒状,溶融状等の形態で添
加される。Ca含有量を高精度にコントロールする上か
らは、溶解後の過共晶Al−Si系合金に所定量のCa
を添加することが好ましい。すなわち、溶解前にCaを
配合すると、溶解,高温保持,脱ガス処理等の工程でC
aが損耗し、鋳塊中のCa含有量を正確にコントロール
することが難しくなる。特に、連続鋳造のように大量の
メタルを取り扱う場合、目標とするCa含有量が得られ
ず、不良となる確率が高くなる。また、鋳塊に移行する
Caの歩留りが低いため、損耗分を見込んだより多量の
Caを添加することも必要になる。
【0013】溶解後の過共晶Al−Si系合金にCaを
添加するとき、鋳塊におけるCa含有量を比較的正確に
コントロールすることができ、初晶Siの微細化も目標
通り行われる。たとえば、溶解原料にCaを冷材として
配合し、溶解直後に鋳造したとき、Caの歩留りは45
〜85%の範囲で大きくばらついた。これに対し、溶解
後の過共晶Al−Si系合金にCaを添加し、直ちに鋳
造したとき、Caの歩留りが76〜94%に向上すると
共に、鋳塊のCa含有量に大きなバラツキがなくなっ
た。鋳造直前の過共晶Al−Si系合金における重量比
P/Caが0.6〜6.0の範囲にあるとき、Ca−P
化合物の微細化作用が効果的に発揮される。しかし、C
a含有量は、過共晶Al−Si系合金を溶湯の状態で保
持すると次第に減少し、それに伴ってP/Caが増加す
る。また、Ca含有量の減少率は、過共晶Al−Si系
合金溶湯が高温になるほど大きくなる。そこで、鋳造に
先立ってCa含有量を所定範囲に調整した後、長い保持
時間をおかずに鋳造することが好ましい。
【0014】なお、Ca含有量が減少し、重量比P/C
aが6.0を超えると、Ca−P化合物の微細化作用が
不十分である。また、重量比P/Caが0.6未満で
も、微細化効果が得られなくなる。Ca含有量が更に増
加しP/Caが低くなると、初晶Siは、Ca無添加の
場合よりもむしろ粗くなる。重量比P/Caが0.6未
満になると、Ca−P化合物中のCa濃度も上がり、こ
れが初晶Siの結晶核として働かない好ましくない状態
になるものと考えられる。その結果、従来報告されてい
るようにP処理による微細化作用が阻害される。また、
Ca含有量が120ppmを超えると、重量比P/Ca
が0.6未満であれば初晶Siが微細化するが、溶湯の
流動性が著しく低下し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易
くなる。この点から、Ca含有量の上限は、120pp
mに設定される。他方、Ca含有量の下限は、P=6C
aとP=40の交点B(図1参照)における値から、6
ppmに設定した。
【0015】Pの添加 Pは、Caに比較して反応性が低い。そのため、溶解原
料に予めPを配合させておいても、或いは溶解後にPを
添加しても、P添加による効果は実質的に変わらない。
したがって、Pの添加時期は、次の〜の何れであっ
ても良い。また、予め所定量のPを含有する過共晶Al
−Si系合金又は溶解原料を溶解した後、Ca添加に相
前後して残りのPを添加することもできる。Pは、P含
有母合金,化合物,混合物等を塊状,棒状,線状,粉末
状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。
【0016】 Pを含む過共晶Al−Si系合金又は
溶解原料の調整 →溶解→ Ca添加 → 鋳
造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca及びPの同時添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解 P添加 → Ca添加 → 鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca添加 → P添加
→ 鋳造
【0017】P含有量は、Ca−P化合物による初晶S
iの微細化を促進させる上で、40〜130ppmの範
囲に維持することが必要である。P含有量は、Ca含有
量と異なり、過共晶Al−Si系合金を溶湯状態のまま
で保持しても、保持時間による大きな影響を受けること
なく、減少量は小さい。なお、P含有量が40ppm未
満では、初晶Siを微細化する作用が不十分である。し
かし、130ppmを超えるP含有量では、初晶Siを
微細化する効果があるものの、合金溶湯の流動性が低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。また、Pの
濃度が高くなると溶解歩留りが極端に低下するので、1
30ppm以上のPを含有させることは非常に困難であ
る。
【0018】P/Ca比 P/Ca比は、微細化効果に大きな影響をもつ因子であ
る。P/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持するこ
とにより、初晶Siの微細化に有効なCa−P化合物が
生成されるものと推察される。すなわち、生成したCa
−P化合物が微細な核として合金中に均一分散し、この
核を起点として初晶Siが晶出する。その結果、微細な
鋳造組織が得られる。P/Ca重量比が0.6未満で
は、初晶Siの結晶核として働く作用をもたないCa濃
度の高いCa−Pが形成され、長時間溶湯保持等によっ
てCa−P化合物中のCaが減少すると好ましい状態に
なり、結晶核としての作用を呈するものと考えられる。
逆に、P/Ca重量比が6を超えると、Caが不足し、
形成されるCa−P化合物の個数が不足する。
【0019】Si含有量 Ca及びPにより初晶Siが微細化する現象は、Si含
有量が13〜21重量%の範囲にある過共晶Al−Si
系合金にみられる。Si含有量が大きくなるほど、より
多量のCa及びPを含有させることが必要になることは
勿論、鋳造条件を厳格にコントロールすることが要求さ
れる。しかも、Si含有量に応じて微細化効果が低くな
る。そこで、Si含有量の上限を21重量%に設定し
た。また、過共晶Al−Si系合金の特性を得るため、
Si含有量の下限を13重量%に設定した。
【0020】Cu含有量 Cuは、金属間化合物CuAl2 を形成し、過共晶Al
−Si系合金の強度及び高度を向上させる重要な合金元
素である。この作用を得るために、0.5重量%以上の
Cu含有が必要である。しかし、5重量%を超える多量
のCuを含有させても、Cuの作用が飽和し、増量に見
合った強度の向上が図られない。したがって、本発明に
おいては、Cu含有量を0.5〜5重量%の範囲に設定
した。
【0021】Mg含有量 Mgは、Siとの共存下で強度を向上することに寄与す
る合金元素であり、0.3重量%以上の含有でMgの作
用が顕著に現れる。しかし、2.0重量%を超えて多量
のMgを含有させるとき、Mg含有量の増加に応じ伸び
率が低下する。また、多量のMg含有量は、酸化を進行
させることから溶湯管理が難しくなり、鋳造欠陥を発生
させる原因となる。したがって、本発明においては、M
g含有量を0.3〜2.0重量%の範囲に設定した。
【0022】Ni含有量 本発明の鋳物用過共晶Al−Si系合金は、必要に応じ
て0.5〜3重量%のNiを含有する。Niは、高温強
度を向上させる作用を呈し、0.5重量%以上でその作
用が顕著になる。また、Niの含有によって過共晶Al
−Si系合金の熱膨張係数が小さくなるため、用途に応
じた熱膨張係数が得られるようにNiを添加することも
ある。しかし、3重量%を超えて多量のNiを含有させ
るとき、却って耐食性を悪化させる傾向を示す。そこ
で、本発明においてNi含有量を含有させるとき、その
範囲を0.5〜3重量%に設定する。
【0023】Mn含有量 Mnも、本発明の鋳物用過共晶Al−Si系合金の任意
合金成分である。Mnは、MnAl6 等の金属間化合物
として析出し、強度を向上させる。このような作用は、
0.5重量%以上のMn含有量で顕著に現れる。しか
し、3重量%を超える多量のMnを含有させると、巨大
な金属間化合物が晶出し、靭性や機械的性質を低下させ
る。そこで、本発明においてMn含有量を含有させると
き、その範囲を0.5〜3重量%に設定する。
【0024】初晶Siの粒径 初晶Siは、P含有量,Ca含有量及びP/Ca比を調
整することによって、平均粒径20μm以下に微細化さ
れる。初晶Siの粒径が20μmを超えると、切削加工
性が劣化する。また、大きな初晶Siが晶出している鋳
造組織は、靭性や機械的性質を低下させる。そこで、本
発明においては、切削加工性,機械的性質等を考慮して
初晶Siの粒径を20μm以下に規制した。
【0025】溶解温度 Ca及びPの微細化作用を有効に発揮させる上で、Si
が十分に溶解するように過共晶Al−Si系合金溶湯を
760〜850℃の温度範囲で溶解することが好まし
い。溶湯温度は、Si含有量に比例して高く設定され
る。しかし、過度の高温で溶解することは、溶解のため
のエネルギー損失を招くばかりでなく、鋳造までの工程
における条件に変動を来し易い。そこで、溶解温度の上
限を、850℃に設定することが好ましい。
【0026】溶湯保持時間 Caによる微細化作用は、重量比P/Caが0.6を超
えるCaを含有させた過共晶Al−Si系合金ではCa
添加直後に現れる。この微細化作用は、合金溶湯を長時
間保持すると消失する。Caの作用が消失する時間は、
Ca含有量や保持温度にもよるが、おおよそ60〜60
0分である。この点で、Ca含有量を重量比P/Caが
0.6〜6.0となる設定範囲に調整した後、長時間の
保持工程をおくことなく鋳造工程に入ることが好まし
い。他方、重量比P/Caが0.6を下回るように過剰
のCaを含有させた過共晶Al−Si系合金では、Ca
による微細化作用は、Caの添加直後には現れず、合金
溶湯をある時間保持した後に現れる。いわゆる潜伏期間
が存在する。潜伏期間は、添加直後のCa含有量が大き
くなるほど長くなる。たとえば、61ppmのP及び1
80ppmのCaを含有させた過共晶Al−Si系合金
を760℃に保持したとき、約100分後にCaによる
微細化作用が発現する。
【0027】多量のCaを含有させた場合にみられる潜
伏期間は、合金溶湯を保持する間にCaが減少し、その
結果重量比P/Caが0.6以上に増加することに由来
するものと考えられる。すなわち、重量比P/Caが
0.6以上になったとき、初めてCaによる微細化作用
が発揮される。更に合金溶湯を長時間保持すると、Ca
含有量の減少に伴って重量比P/Caが6.0を超え、
微細化作用が消失する。このことは、Caの減少に伴っ
て、初晶Siの晶出に有効な核として働くCa−P化合
物の個数が不足することを示唆している。
【0028】Ca含有量が多い場合、重量比P/Caが
0.6以上になるまでの溶湯保持時間が長くなるので、
一般に設定範囲にCa含有量をコントロールすることが
難しくなる。しかし、大型の溶解炉を使用して多量の合
金を生産する場合、準備や鋳造に長時間を要する。この
ような場合には、この潜伏期間及び潜伏期間後にCaが
減少して重量比P/Caが6.0を超えるまでの長い微
細化に有効な期間を利用することもできる。すなわち、
鋳造を行うまでの時間が長い場合、Caを過剰に添加し
ておき、鋳造時点で重量比P/Caが0.6〜6.0の
範囲に入るように調整する。
【0029】鋳造温度 高い冷却速度によって初晶Siを微細化する点では、鋳
造温度をなるべく高く設定することが好ましい。しか
し、合金溶湯が高温になるほどCaの損耗が激しくな
り、鋳造時にCa含有量を制御することが難しくなる。
そこで、鋳造温度は、高い冷却速度による微細化効果が
得られる範囲で、可能な限り低くすることが好ましい。
具体的には、Si含有量等の過共晶Al−Si系合金の
成分及び含有量にもよるが、Al−Si二元系状態図の
(液相線+70℃)以上,好ましくは(液相線+70℃
〜170)℃の温度範囲に鋳造温度を設定する。たとえ
ば、Siを15重量%含有する過共晶Al−Si系合金
では鋳造温度を680℃以上に、Siを17重量%含有
する過共晶Al−Si系合金では鋳造温度を710℃以
上に、Siを20重量%含有する過共晶Al−Si系合
金では鋳造温度を760℃以上に設定する。
【0030】Ca含有量は、他の製造条件によっても変
化する。特に、脱ガス処理によってCa含有量は大きく
低下する。このときのCa含有量の低下は、脱ガスに使
用するガスの種類や脱ガス時間等によって異なった傾向
を示す。そこで、予め脱ガス条件に対応したCa含有量
の変化率を求めておき、この変化率に基づいてCa含有
量をコントロールすることが好ましい。鋳塊のサイズ 初晶Siを粒径20μm以下に微細化するため、鋳塊の
直径又は厚みを30mm以下に規制し、鋳塊中央部の冷
却速度を確保することが必要である。
【0031】
【実施例】
実施例1:Si,Mn及びNiの含有量を種々変化させ
た過共晶Al−Si系合金3kgをルツボに溶解し、A
l−5%Caを用いてCaを添加した。Caを添加した
後、溶湯を760℃に30分保持し、金型鋳造で直径1
8mm及び高さ90mmの鋳塊を得た。鋳塊の断面を光
学顕微鏡で観察し、初晶Siの粒径を測定した。測定結
果を、成分・組成と共に表1に示す。
【表1】
【0032】表1から明らかなように、Si:13〜2
1重量%,P:40〜140ppm,Ca:6〜120
ppm及びP/Ca:0.6〜6の条件を満足する試験
番号2,4,5及び7〜9では、Si,Cu及びMgの
含有量が多少変化しても、初晶Siが20μm以下に微
細化されている。これに対し、Caを添加していない試
験番号1,3及び6,Si含有量が21重量%を超える
試験番号10では、初晶Siが20μmより大きく、微
細化されていないことが判る。
【0033】実施例2:Si:15重量%,Cu:3.
5重量%,Mg:0.5重量%,Ni:1.5重量%,
Mn:0.5重量%,P:60ppm及び残部Alの組
成をもつ合金と、Si:17重量%,Cu:4.5重量
%,Mg:0.6重量%,Ni:1.5重量%,Mn:
0.5重量%,P:60ppm及び残部Alの組成をも
つ合金とを、それぞれルツボに760℃で溶解し、金型
鋳造によって直径88mm,高さ77mm及び最大肉厚
部6mmのピストン部材を製造した。また、それぞれの
合金溶湯に対し、Al−5%Ca合金を使用して目標値
50ppmのCaを鋳造前に添加し、同一の鋳造条件下
で同じサイズのピストン部材を鋳造した。各ピストン部
材について、組成分析すると共に、断面の光学顕微鏡観
により初晶Siの粒径を測定した。測定結果を示す表2
から明らかなように、Caを添加していない試験番号1
1,13に比較し、Caを添加した試験番号12,14
では、初晶Siの微細化が進行していることが判る。ま
た、Ca添加によって偏析することなく初晶Siが均一
に分散さていることが観察された。
【表2】
【0034】表2の合金をJIS4号舟型に鋳造し、T
6処理(500℃×6時間→W.Q.→170℃×10
時間)を施した後、JIS4号試験片に加工し、常温及
び250℃で引張り試験に供した。試験温度250℃で
は、試験片を250℃に100時間保持した後、引張り
試験を行った。試験結果を示す表3から明らかなよう
に、Caを添加した試験番号12及び14は、それぞれ
試験番号11及び13に比較して引張り強さ及び伸び共
に上昇していることが判る。また、試験温度250℃で
も、同様な傾向がみられる。
【表3】
【0035】実施例3:切削試験には、ある程度の大き
さをもった試験片が必要であるが、大きな鋳塊を金型で
鋳造すると冷却速度が不足し、Ca添加によっても初晶
Siを十分に微細化できない。そこで、DC鋳塊を使用
して切削性を評価した。表4に示した組成をもつ過共晶
Al−Si系合金を50kgのルツボに溶解し、直径9
7mmの鋳塊にDC鋳造した。DC鋳造としては、温度
780℃及び速度150mm/分の鋳造条件下でホット
トップ鋳造法を行った。Ca源にはAl−5%Caを使
用し、鋳造時に樋に連続的に添加した。得られた鋳塊の
Ca分析値及び初晶Siの粒径を、表4に併せ示す。表
4から明らかなように、DC鋳塊中の初晶Siは、表1
に示した金型鋳塊の初晶Siとほぼ同じ粒径になってい
る。
【表4】
【0036】鋳塊の直径が94mmになるまで面削する
ことにより鋳塊の表皮を除去した後、切削試験に供し
た。なお、一部の鋳塊は、更にT7処理(500℃×6
時間→水冷→220℃×5時間)を施した後、切削試験
に供した。切削試験には、ダイヤモンド焼結体(GEア
グレイシブ社製 OMPA×1500,SPGN120
308)を切削工具として使用し、切れ刃傾き角0度,
垂直掬い角5度,横切り刃角15度,切削速度600m
/分,送り速度0.1mm/rev,切込み深さ0.5
mm,切削距離6000m,12000m及び2400
0m,潤滑剤なしの条件を採用した。そして、各切削距
離ごとに工具逃げ面の摩耗量を測定することによって、
切削加工性を評価した。評価結果を表5に示す。
【表5】
【0037】表5に示されているように、工具逃げ面の
摩耗量は、初晶Siの粒径に大きく影響されている。す
なわち、6〜120ppmのCa含有量及び0.6〜6
のP/Ca重量比が満足されているとき、初晶Siが2
0μm以下に微細化され、工具逃げ面の摩耗量が著しく
減少している。切削工具の摩耗に対する抑制作用は、切
削距離が長くなるほど顕著に現れる。たとえば、初晶S
iの粒径が35μmの試験番号15(As cast)では切削
距離が24000mになったときの摩耗量が170μm
であるのに対し、初晶Siの粒径が18μmの試験番号
20(As cast)では同じ切削距離で27μmの
摩耗量に過ぎない。しかも、切削加工性の改善は、専ら
初晶Siの微細化によるものであり、Mg,Cu,N
i,Mn等の合金元素の添加量及び調質状態にほとんど
影響されていない。したがって、切削加工性に悪影響を
与えることなく、合金元素の添加によって機械的強度や
耐熱性を向上することができる。T7処理等の調質によ
っても、切削加工性を損ねることはない。
【0038】実施例4:表6に示す組成をもつ過共晶A
l−Si系合金を50kgのルツボに溶解し、温度78
0℃及び速度150mm/分の鋳造条件でホットトップ
鋳造により直径97mmの鋳塊を製造した。Ca源とし
てAl−5%Caを使用し、鋳造時に樋に連続的に添加
した。得られた鋳塊のCa分析値及び初晶Siの粒径を
表6に併せ示す。表6から明らかなように、初晶Si
は、Ca添加及び無添加に応じて表1の合金金型鋳塊の
初晶Siとほぼ同じ粒径になっている。
【表6】
【0039】鋳塊の直径が94mmになるまで面削する
ことにより鋳塊の表皮を除去した後、切削試験に供し
た。切削試験は、実施例3と同じ条件を採用した。そし
て、各切削距離ごとに工具逃げ面の摩耗量を測定するこ
とによって、切削加工性を評価した。評価結果を示す表
7から明らかなように、この場合にも初晶Siの微細化
によって工具の摩耗が減少していることが判る。特に、
17重量%のSiを含む合金で、顕著な効果が得られて
いる。
【表7】
【0040】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、Al−Si−Cu−Mg系鋳造合金にP/Ca重量
比0.6〜6の条件下で6〜120ppmのCa及び4
0〜130ppmのPを含有させることにより、初晶S
iを微細化し、切削加工性に優れた過共晶Al−Si系
合金を得ている。この過共晶Al−Si系合金は、初晶
Siが20μm以下に微細化されていることから、切削
加工によって高精度の製品形状に仕上げることができ、
しかも工具の摩耗が抑制される。また、Si,Cu,M
g等の合金元素と相俟つて、優れた機械的性質,耐熱性
等を呈する。そのため、内燃機関用部品を始めとして、
強度,耐摩耗性,成形性等が要求される種々の部品とし
て使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Ca含有量,P含有量及びP/Ca重量比と
初晶Siの粒径との関係
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 北岡 山治 東京都港区三田3丁目13番12号 日本軽金 属株式会社内 (72)発明者 青木 一男 東京都港区三田3丁目13番12号 日本軽金 属株式会社内

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Si:13〜21重量%,Cu:0.5
    〜5.0重量%,Mg:0.3〜2.0重量%,Ca:
    6〜120ppm及びP:40〜130ppmを含み、
    P/Caが重量比で0.6〜6の範囲にあることを特徴
    とする鋳物用過共晶Al−Si系合金。
  2. 【請求項2】 Si:13〜21重量%,Cu:0.5
    〜5.0重量%,Mg:0.3〜2.0重量%,Ca:
    6〜120ppm,P:40〜130ppm及びNi:
    0.5〜3.0重量%とMn:0.5〜3.0重量%の
    1種又は2種を含み、P/Caが重量比で0.6〜6の
    範囲にあることを特徴とする鋳物用過共晶Al−Si系
    合金。
  3. 【請求項3】 初晶Siの粒径が20μm以下である請
    求項1又は2記載の鋳物用過共晶Al−Si系合金。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3記載の過共晶Al−Si系
    合金からなり、最大肉厚部が30mm以下の金型鋳造
    材。
  5. 【請求項5】 請求項1〜3記載の過共晶Al−Si系
    合金からなるピストン部材。
  6. 【請求項6】 Si:13〜21重量%,Cu:0.5
    〜5.0重量%,Mg:0.3〜2.0重量%,Ca:
    6〜120ppm及びP:40〜130ppmを含み、
    P/Caが重量比で0.6〜6の範囲にある過共晶Al
    −Si系合金を(液相線+70℃)以上の温度で鋳造す
    ることを特徴とする鋳造方法。
  7. 【請求項7】 Si:13〜21重量%,Cu:0.5
    〜5.0重量%,Mg:0.3〜2.0重量%,Ca:
    6〜120ppm,P:40〜130ppm及びNi:
    0.5〜3.0重量%とMn:0.5〜3.0重量%の
    1種又は2種を含み、P/Caが重量比で0.6〜6の
    範囲にある過共晶Al−Si系合金を(液相線+70
    ℃)以上の温度で鋳造することを特徴とする鋳造方法。
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