JPH0741920A - 耐摩耗性を向上させる過共晶Al−Si合金の熱処理方法 - Google Patents
耐摩耗性を向上させる過共晶Al−Si合金の熱処理方法Info
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- JPH0741920A JPH0741920A JP5188191A JP18819193A JPH0741920A JP H0741920 A JPH0741920 A JP H0741920A JP 5188191 A JP5188191 A JP 5188191A JP 18819193 A JP18819193 A JP 18819193A JP H0741920 A JPH0741920 A JP H0741920A
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Abstract
(57)【要約】
【目的】 鍛造性,加工性,切削性,耐摩耗性等に優れ
た過共晶Al−Si合金を得る。 【構成】 Si:13〜21重量%,Ca:6〜120
ppm及びP:40〜130ppmを含み、P/Caが
重量比で0.6〜6.0の範囲にある過共晶Al−Si
合金の鋳塊,押出し材,鍛造材等に、510〜535℃
×2〜24時間の熱処理を施す。過共晶Al−Si合金
は、更にCu:0.5〜5.0重量%及びMg:0.3
〜2.0重量%を含んでも良い。 【作用】 初晶Siに先立って共晶Siが優先的に成長
するため、初晶Siを粗大化させることなく、共晶Si
の粒径が大きなる。その結果、良好な鍛造性,押出し等
の加工性,切削性を確保しながら、耐摩耗性が改善され
る。
た過共晶Al−Si合金を得る。 【構成】 Si:13〜21重量%,Ca:6〜120
ppm及びP:40〜130ppmを含み、P/Caが
重量比で0.6〜6.0の範囲にある過共晶Al−Si
合金の鋳塊,押出し材,鍛造材等に、510〜535℃
×2〜24時間の熱処理を施す。過共晶Al−Si合金
は、更にCu:0.5〜5.0重量%及びMg:0.3
〜2.0重量%を含んでも良い。 【作用】 初晶Siに先立って共晶Siが優先的に成長
するため、初晶Siを粗大化させることなく、共晶Si
の粒径が大きなる。その結果、良好な鍛造性,押出し等
の加工性,切削性を確保しながら、耐摩耗性が改善され
る。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、加工性,切削性等の改
善のために初晶Siを微細化した過共晶Al−Si合金
の耐摩耗性を向上させる熱処理方法に関する。
善のために初晶Siを微細化した過共晶Al−Si合金
の耐摩耗性を向上させる熱処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】Siを12.6重量%以上含む過共晶A
l−Si合金は、熱膨張係数が小さく、耐熱性も優れて
いる。また、溶湯が凝固する際に高硬度の初晶Siが晶
出するため、耐摩耗性が要求されるピストン,クランク
ケース,ブレーキドラム,シリンダーライナー等の内燃
機関用部品として使用されている。過共晶Al−Si合
金は、硬質の初晶Siが晶出することに起因して優れた
耐摩耗性を呈するが、初晶Siが大きく成長した鋳造組
織になり易い。この状態で加工を施すと、初晶SiやA
lマトリックスとの界面に亀裂が入り、目的とする製品
が得られないばかりでなく、機械的性質も十分でない。
そのため、強度の加工が施される鍛造素材として使用さ
れることは稀であった。また、粗大な初晶Siが晶出し
た組織は、切削加工の際に初晶Siにより工具の摩耗を
促進させる欠点をもつ。
l−Si合金は、熱膨張係数が小さく、耐熱性も優れて
いる。また、溶湯が凝固する際に高硬度の初晶Siが晶
出するため、耐摩耗性が要求されるピストン,クランク
ケース,ブレーキドラム,シリンダーライナー等の内燃
機関用部品として使用されている。過共晶Al−Si合
金は、硬質の初晶Siが晶出することに起因して優れた
耐摩耗性を呈するが、初晶Siが大きく成長した鋳造組
織になり易い。この状態で加工を施すと、初晶SiやA
lマトリックスとの界面に亀裂が入り、目的とする製品
が得られないばかりでなく、機械的性質も十分でない。
そのため、強度の加工が施される鍛造素材として使用さ
れることは稀であった。また、粗大な初晶Siが晶出し
た組織は、切削加工の際に初晶Siにより工具の摩耗を
促進させる欠点をもつ。
【0003】過共晶Al−Si合金中の初晶Siを微細
化するため、Al−Cu−P,Cu−P等としてPを添
加することが一般的に行われている。添加されたPは、
金属間化合物AlPを形成し、この金属間化合物AlP
が初晶Siを微細化させる。しかし、急冷凝固法等の特
殊な方法を除く金型鋳造やDC鋳造のように、インゴッ
トを経て目的とする合金材料を製造するとき、P添加の
みで初晶Siを十分に微細化することには限界がある。
Caを含むAl−Si合金に関しては、初晶Siの微細
化に有効なPの作用が阻害されることが多く報告されて
いる。しかし、本発明者等は、過共晶Al−Si合金に
制御された量のP及びCaを共存させるとき、P単独の
場合に比較して初晶Siの微細化が促進されることを見
い出し、特願平4−244259号で紹介した。すなわ
ち、P/Ca:0.6〜6.0(重量比)の条件下で
P:40〜130ppm及びCa:6〜120ppmを
含む過共晶Al−Si合金溶湯にあっては、Pによる初
晶Si微細化作用が顕著になり、微細な鋳造組織をもつ
製品が得られる。本発明者等は、更にP及びCaの共存
が鋳造組織に与える影響を調査・研究する過程で、初晶
Siの微細化により加工性や切削性が著しく改善される
ことを見い出し、特願平5−71804号,特願平5−
100626号等で紹介した。
化するため、Al−Cu−P,Cu−P等としてPを添
加することが一般的に行われている。添加されたPは、
金属間化合物AlPを形成し、この金属間化合物AlP
が初晶Siを微細化させる。しかし、急冷凝固法等の特
殊な方法を除く金型鋳造やDC鋳造のように、インゴッ
トを経て目的とする合金材料を製造するとき、P添加の
みで初晶Siを十分に微細化することには限界がある。
Caを含むAl−Si合金に関しては、初晶Siの微細
化に有効なPの作用が阻害されることが多く報告されて
いる。しかし、本発明者等は、過共晶Al−Si合金に
制御された量のP及びCaを共存させるとき、P単独の
場合に比較して初晶Siの微細化が促進されることを見
い出し、特願平4−244259号で紹介した。すなわ
ち、P/Ca:0.6〜6.0(重量比)の条件下で
P:40〜130ppm及びCa:6〜120ppmを
含む過共晶Al−Si合金溶湯にあっては、Pによる初
晶Si微細化作用が顕著になり、微細な鋳造組織をもつ
製品が得られる。本発明者等は、更にP及びCaの共存
が鋳造組織に与える影響を調査・研究する過程で、初晶
Siの微細化により加工性や切削性が著しく改善される
ことを見い出し、特願平5−71804号,特願平5−
100626号等で紹介した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】初晶Siの微細化は、
塑性加工性や切削性の改善に有効であるものの、耐摩耗
性を若干低下させる傾向を示す。そこで、初晶Siを微
細化した状態で耐摩耗性を回復することが可能になれ
ば、塑性加工性,切削性と耐摩耗性との間にバランスの
とれた材料を提供することが可能となる。本発明は、こ
のような要求に応えるべく案出されたものであり、比較
的高温の熱処理で共晶Siを成長させることにより、塑
性加工性や切削性を損なうことなく耐摩耗性を向上さ
せ、内燃機関用部品を始めとする各種機器部品に好適な
過共晶Al−Si合金を提供することを目的とする。
塑性加工性や切削性の改善に有効であるものの、耐摩耗
性を若干低下させる傾向を示す。そこで、初晶Siを微
細化した状態で耐摩耗性を回復することが可能になれ
ば、塑性加工性,切削性と耐摩耗性との間にバランスの
とれた材料を提供することが可能となる。本発明は、こ
のような要求に応えるべく案出されたものであり、比較
的高温の熱処理で共晶Siを成長させることにより、塑
性加工性や切削性を損なうことなく耐摩耗性を向上さ
せ、内燃機関用部品を始めとする各種機器部品に好適な
過共晶Al−Si合金を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の熱処理方法は、
その目的を達成するため、Si:13〜21重量%,C
a:6〜120ppm及びP:40〜130ppmを含
み、P/Caが重量比で0.6〜6.0の範囲にある過
共晶Al−Si合金に、510〜535℃の温度範囲で
2〜24時間加熱する熱処理を施すことを特徴とする。
熱処理される過共晶Al−Si合金は、DC鋳造された
鋳塊,金型鋳造された鋳塊,鋳塊から製造された押出し
材,鋳塊又は押出し材を熱間鍛造した鍛造材の何れであ
っても良い。鋳塊をDC鋳造で得る場合、初晶Siを微
細化する上で、直径150mm以下の鋳塊に鋳造するこ
とが好ましい。金型鋳造による場合、同様に直径又は肉
厚30mm以下の鋳塊に鋳造することが好ましい。何れ
の場合も、初晶Siを十分に微細化するため、液相線よ
りも70℃以上高い温度に鋳造温度を設定することが好
ましい。使用される過共晶Al−Si合金は、更にC
u:0.5〜5.0重量%及びMg:0.3〜2.0重
量%を含むこともできる。
その目的を達成するため、Si:13〜21重量%,C
a:6〜120ppm及びP:40〜130ppmを含
み、P/Caが重量比で0.6〜6.0の範囲にある過
共晶Al−Si合金に、510〜535℃の温度範囲で
2〜24時間加熱する熱処理を施すことを特徴とする。
熱処理される過共晶Al−Si合金は、DC鋳造された
鋳塊,金型鋳造された鋳塊,鋳塊から製造された押出し
材,鋳塊又は押出し材を熱間鍛造した鍛造材の何れであ
っても良い。鋳塊をDC鋳造で得る場合、初晶Siを微
細化する上で、直径150mm以下の鋳塊に鋳造するこ
とが好ましい。金型鋳造による場合、同様に直径又は肉
厚30mm以下の鋳塊に鋳造することが好ましい。何れ
の場合も、初晶Siを十分に微細化するため、液相線よ
りも70℃以上高い温度に鋳造温度を設定することが好
ましい。使用される過共晶Al−Si合金は、更にC
u:0.5〜5.0重量%及びMg:0.3〜2.0重
量%を含むこともできる。
【0006】
【作用】過共晶Al−Si合金を510〜535℃の温
度範囲で熱処理するとき、初晶Siが実質的に粗大化せ
ず、共晶Siのみが成長する。この温度条件は、本発明
者等の実験によって見出されたものであるが、共晶Si
の成長によって耐摩耗性を向上させる上で有効である。
また、初晶Siが粗大化しないことから、鍛造性,押出
し等の加工性,切削性等が低下することはない。このよ
うに初晶Siと共晶Siとの間で結晶成長の温度依存性
が異なるのは、大きな粒径の初晶Siに比較して共晶S
iの界面が活性であり、先ず共晶Siの成長が開始し、
次いで初晶Siの成長が行われることに由来する。すな
わち、初晶Siの成長なく、共晶Siを選択的に成長さ
せる上で、熱処理温度510〜535℃は重要なファク
ターである。
度範囲で熱処理するとき、初晶Siが実質的に粗大化せ
ず、共晶Siのみが成長する。この温度条件は、本発明
者等の実験によって見出されたものであるが、共晶Si
の成長によって耐摩耗性を向上させる上で有効である。
また、初晶Siが粗大化しないことから、鍛造性,押出
し等の加工性,切削性等が低下することはない。このよ
うに初晶Siと共晶Siとの間で結晶成長の温度依存性
が異なるのは、大きな粒径の初晶Siに比較して共晶S
iの界面が活性であり、先ず共晶Siの成長が開始し、
次いで初晶Siの成長が行われることに由来する。すな
わち、初晶Siの成長なく、共晶Siを選択的に成長さ
せる上で、熱処理温度510〜535℃は重要なファク
ターである。
【0007】この熱処理は、製品を得るまでの製造工程
のどの段階で行っても良い。たとえば、鋳塊に対する均
熱処理,押出し材の予備加熱,鍛造材の溶体化等を兼ね
て510〜535℃で2〜24時間加熱することによっ
て、共晶Siを選択的に成長させることができる。熱処
理による効果は、後続する工程における軟化焼鈍,歪取
り焼鈍,析出硬化処理等の際に損なわれることがない。
そのため、製品段階においても共晶Siが大きく成長し
た組織が維持され、耐摩耗性が改善された材料が得られ
る。
のどの段階で行っても良い。たとえば、鋳塊に対する均
熱処理,押出し材の予備加熱,鍛造材の溶体化等を兼ね
て510〜535℃で2〜24時間加熱することによっ
て、共晶Siを選択的に成長させることができる。熱処
理による効果は、後続する工程における軟化焼鈍,歪取
り焼鈍,析出硬化処理等の際に損なわれることがない。
そのため、製品段階においても共晶Siが大きく成長し
た組織が維持され、耐摩耗性が改善された材料が得られ
る。
【0008】以下、本発明で規定した各条件を説明す
る。熱処理温度:510〜535℃ 共晶Siを大きく成長させる上で、510℃以上の熱処
理温度が必要である。熱処理温度が510℃未満では、
共晶Siの成長が十分でなく、耐摩耗性の改善効果が得
られない。しかし、535℃を超える熱処理温度では、
バーニングが生じ易く、機械的性質等の劣化させる傾向
がみられる。また、初晶Siが成長を開始し、それに伴
って切削性が低下する。熱処理時間:2〜24時間 共晶Siを十分に成長させるためには、510〜535
℃の温度に2時間以上加熱することが必要である。2時
間未満の短時間熱処理では、共晶Siの成長が不十分
で、耐摩耗性の改善効果が期待できない。しかし、24
時間を超える長時間の熱処理では、初晶Siが粗大化し
易く、切削性を低下させる。また、長時間の熱処理を施
した後で鍛造する場合、鍛造性の低下も招く。
る。熱処理温度:510〜535℃ 共晶Siを大きく成長させる上で、510℃以上の熱処
理温度が必要である。熱処理温度が510℃未満では、
共晶Siの成長が十分でなく、耐摩耗性の改善効果が得
られない。しかし、535℃を超える熱処理温度では、
バーニングが生じ易く、機械的性質等の劣化させる傾向
がみられる。また、初晶Siが成長を開始し、それに伴
って切削性が低下する。熱処理時間:2〜24時間 共晶Siを十分に成長させるためには、510〜535
℃の温度に2時間以上加熱することが必要である。2時
間未満の短時間熱処理では、共晶Siの成長が不十分
で、耐摩耗性の改善効果が期待できない。しかし、24
時間を超える長時間の熱処理では、初晶Siが粗大化し
易く、切削性を低下させる。また、長時間の熱処理を施
した後で鍛造する場合、鍛造性の低下も招く。
【0009】Si含有量:13〜21重量% Ca及びPにより初晶Siが微細化する現象は、Si含
有量が13〜21重量%の範囲にある過共晶Al−Si
合金にみられる。Si含有量が多くなるほど、多量のC
a及びPの含有が必要になることは勿論、製造条件を厳
格にコントロールすることが要求される。しかも、Si
含有量の増加に応じて微細化効果が低くなる。そこで、
Si含有量は、上限を21重量%に規定した。また、過
共晶Al−Si合金の特性を得るため、Si含有量の下
限を13重量%に規定した。Ca含有量:6〜120ppm Caは、Pと反応してCa−P化合物を形成し、初晶S
iを微細化する作用を呈すると推察される。Caは、溶
解原料に予め含ませておくこと、或いは溶解した過共晶
Al−Si系合金に添加する方法の何れによっても、過
共晶Al−Si系合金に含ませることができる。何れの
場合においても、Caは、溶解や保持過程における損耗
が激しいので、添加量ではなく含有量で把握することが
必要である。なお、Caは、Caを含有するAl−Ca
系等の母合金,化合物,混合物等として塊状,棒状,線
状,粉末状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。
有量が13〜21重量%の範囲にある過共晶Al−Si
合金にみられる。Si含有量が多くなるほど、多量のC
a及びPの含有が必要になることは勿論、製造条件を厳
格にコントロールすることが要求される。しかも、Si
含有量の増加に応じて微細化効果が低くなる。そこで、
Si含有量は、上限を21重量%に規定した。また、過
共晶Al−Si合金の特性を得るため、Si含有量の下
限を13重量%に規定した。Ca含有量:6〜120ppm Caは、Pと反応してCa−P化合物を形成し、初晶S
iを微細化する作用を呈すると推察される。Caは、溶
解原料に予め含ませておくこと、或いは溶解した過共晶
Al−Si系合金に添加する方法の何れによっても、過
共晶Al−Si系合金に含ませることができる。何れの
場合においても、Caは、溶解や保持過程における損耗
が激しいので、添加量ではなく含有量で把握することが
必要である。なお、Caは、Caを含有するAl−Ca
系等の母合金,化合物,混合物等として塊状,棒状,線
状,粉末状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。
【0010】Ca含有量を高精度にコントロールする上
からは、溶解後の過共晶Al−Si系合金に所定量のC
aを添加することが好ましい。すなわち、溶解前にCa
を配合すると、溶解,高温保持,脱ガス処理等の工程で
Caが損耗し、鋳塊中のCa含有量を正確にコントロー
ルすることが難しくなる。特に、連続鋳造のように大量
のメタルを取り扱う場合、目標とするCa含有量が得ら
れず、不良となる確率が高くなる。また、鋳塊に移行す
るCaの歩留りが低いため、損耗分を見込んだより多量
のCaを添加することも必要になる。溶解後の過共晶A
l−Si系合金にCaを添加するとき、鋳塊におけるC
a含有量を比較的正確にコントロールすることができ、
初晶Siの微細化も目標通り行われる。たとえば、溶解
原料にCaを冷材として配合し、溶解直後に鋳造したと
き、Caの歩留りは45〜85%の範囲で大きくばらつ
いた。これに対し、溶解後の過共晶Al−Si系合金に
Caを添加し、直ちに鋳造したとき、Caの歩留りが7
6〜94%に向上すると共に、鋳塊のCa含有量に大き
なバラツキがなくなった。
からは、溶解後の過共晶Al−Si系合金に所定量のC
aを添加することが好ましい。すなわち、溶解前にCa
を配合すると、溶解,高温保持,脱ガス処理等の工程で
Caが損耗し、鋳塊中のCa含有量を正確にコントロー
ルすることが難しくなる。特に、連続鋳造のように大量
のメタルを取り扱う場合、目標とするCa含有量が得ら
れず、不良となる確率が高くなる。また、鋳塊に移行す
るCaの歩留りが低いため、損耗分を見込んだより多量
のCaを添加することも必要になる。溶解後の過共晶A
l−Si系合金にCaを添加するとき、鋳塊におけるC
a含有量を比較的正確にコントロールすることができ、
初晶Siの微細化も目標通り行われる。たとえば、溶解
原料にCaを冷材として配合し、溶解直後に鋳造したと
き、Caの歩留りは45〜85%の範囲で大きくばらつ
いた。これに対し、溶解後の過共晶Al−Si系合金に
Caを添加し、直ちに鋳造したとき、Caの歩留りが7
6〜94%に向上すると共に、鋳塊のCa含有量に大き
なバラツキがなくなった。
【0011】鋳造直前の過共晶Al−Si系合金におけ
る重量比P/Caが0.6〜6.0の範囲にあるとき、
Ca−P化合物の微細化作用が効果的に発揮される。し
かし、Ca含有量は、過共晶Al−Si系合金を溶湯の
状態で保持すると次第に減少し、それに伴ってP/Ca
が増加する。また、Ca含有量の減少率は、過共晶Al
−Si系合金溶湯が高温になるほど大きくなる。そこ
で、鋳造に先立ってCa含有量を所定範囲に調整した
後、長い保持時間をおかずに鋳造することが好ましい。
Ca含有量が減少し、重量比P/Caが6.0を超える
と、Ca−P化合物の微細化作用が不十分である。ま
た、重量比P/Caが0.6未満でも、微細化効果が得
られなくなる。Ca含有量が更に増加しP/Caが低く
なると、初晶Siは、Ca無添加の場合よりもむしろ粗
くなる。重量比P/Caが0.6未満になると、Ca−
P化合物中のCa濃度も上がり、これが初晶Siの結晶
核として働かない好ましくない状態になるものと考えら
れる。その結果、従来報告されているようにP処理によ
る微細化作用が阻害される。また、Ca含有量が120
ppmを超えると、重量比P/Caが0.6未満であれ
ば初晶Siが微細化するが、溶湯の流動性が著しく低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。この点か
ら、Ca含有量の上限は、120ppmに設定される。
他方、Ca含有量の下限は、P/Ca=0.6〜6.0
及びP=40〜130ppmの条件から6ppmに定ま
る。
る重量比P/Caが0.6〜6.0の範囲にあるとき、
Ca−P化合物の微細化作用が効果的に発揮される。し
かし、Ca含有量は、過共晶Al−Si系合金を溶湯の
状態で保持すると次第に減少し、それに伴ってP/Ca
が増加する。また、Ca含有量の減少率は、過共晶Al
−Si系合金溶湯が高温になるほど大きくなる。そこ
で、鋳造に先立ってCa含有量を所定範囲に調整した
後、長い保持時間をおかずに鋳造することが好ましい。
Ca含有量が減少し、重量比P/Caが6.0を超える
と、Ca−P化合物の微細化作用が不十分である。ま
た、重量比P/Caが0.6未満でも、微細化効果が得
られなくなる。Ca含有量が更に増加しP/Caが低く
なると、初晶Siは、Ca無添加の場合よりもむしろ粗
くなる。重量比P/Caが0.6未満になると、Ca−
P化合物中のCa濃度も上がり、これが初晶Siの結晶
核として働かない好ましくない状態になるものと考えら
れる。その結果、従来報告されているようにP処理によ
る微細化作用が阻害される。また、Ca含有量が120
ppmを超えると、重量比P/Caが0.6未満であれ
ば初晶Siが微細化するが、溶湯の流動性が著しく低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。この点か
ら、Ca含有量の上限は、120ppmに設定される。
他方、Ca含有量の下限は、P/Ca=0.6〜6.0
及びP=40〜130ppmの条件から6ppmに定ま
る。
【0012】P含有量:40〜130ppm Pは、Caに比較し反応性が低い。そのため、溶解原料
に予めPを配合させておいても、或いは溶解後にPを添
加しても、P添加による効果は実質的に変わらない。し
たがって、Pの添加時期は、次の〜の何れであって
も良い。また、予め所定量のPを含有する過共晶Al−
Si系合金又は溶解原料を溶解した後、Ca添加に相前
後して残りのPを添加することもできる。Pは、P含有
母合金,化合物,混合物等を塊状,棒状,線状,粉末
状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。 Pを含む過共晶Al−Si系合金又は溶解原料の調
整 →溶解→ Ca添加 → 鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca及びPの同時添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解P添加 → Ca添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca添加 → P添加
→ 鋳造
に予めPを配合させておいても、或いは溶解後にPを添
加しても、P添加による効果は実質的に変わらない。し
たがって、Pの添加時期は、次の〜の何れであって
も良い。また、予め所定量のPを含有する過共晶Al−
Si系合金又は溶解原料を溶解した後、Ca添加に相前
後して残りのPを添加することもできる。Pは、P含有
母合金,化合物,混合物等を塊状,棒状,線状,粉末
状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。 Pを含む過共晶Al−Si系合金又は溶解原料の調
整 →溶解→ Ca添加 → 鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca及びPの同時添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解P添加 → Ca添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si系合金又は溶解原料
の調整 →溶解→ Ca添加 → P添加
→ 鋳造
【0013】P含有量は、Ca−P化合物による初晶S
iの微細化を促進させる上で、40〜130ppmの範
囲に維持することが必要である。P含有量は、Ca含有
量と異なり、過共晶Al−Si系合金を溶湯状態のまま
で保持しても、保持時間による大きな影響を受けること
なく、減少量は小さい。なお、P含有量が40ppm未
満では、初晶Siを微細化する作用が不十分である。し
かし、130ppmを超えるP含有量では、初晶Siを
微細化する効果があるものの、合金溶湯の流動性が低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。また、Pの
濃度が高くなると溶解歩留りが極端に低下するので、1
30ppm以上のPを含有させることは非常に困難であ
る。
iの微細化を促進させる上で、40〜130ppmの範
囲に維持することが必要である。P含有量は、Ca含有
量と異なり、過共晶Al−Si系合金を溶湯状態のまま
で保持しても、保持時間による大きな影響を受けること
なく、減少量は小さい。なお、P含有量が40ppm未
満では、初晶Siを微細化する作用が不十分である。し
かし、130ppmを超えるP含有量では、初晶Siを
微細化する効果があるものの、合金溶湯の流動性が低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。また、Pの
濃度が高くなると溶解歩留りが極端に低下するので、1
30ppm以上のPを含有させることは非常に困難であ
る。
【0014】P/Ca重量比:0.6〜6.0 P/Ca比は、微細化効果に大きな影響をもつ因子であ
る。P/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持するこ
とにより、初晶Siの微細化に有効なCa−P化合物が
生成されるものと推察される。すなわち、生成したCa
−P化合物が微細な核として合金中に均一分散し、この
核を起点として初晶Siが晶出する。その結果、微細な
鋳造組織が得られる。P/Ca重量比が0.6未満で
は、初晶Siの結晶核として働く作用をもたないCa濃
度の高いCa−Pが形成され、長時間をかけた溶湯保持
等によってCa−P化合物中のCaが減少するとき好ま
しい状態になり、結晶核としての作用を呈するものと考
えられる。逆に、P/Ca重量比が6を超えると、Ca
が不足し、形成されるCa−P化合物の個数が不足す
る。Cu含有量:0.5〜5.0重量% Cuは、金属間化合物CuAl2 を形成し、過共晶Al
−Si系合金の強度及び硬度を向上させる作用を呈し、
本発明においては必要に応じて添加される合金元素であ
る。Cu添加の作用を得るためには、0.5重量%以上
のCu含有が必要である。しかし、5重量%を超える多
量のCuを含有させても、Cuの作用が飽和し、増量に
見合った強度の向上が図られない。したがって、Cuを
含有させるとき、その含有量を0.5〜5重量%の範囲
に設定する。
る。P/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持するこ
とにより、初晶Siの微細化に有効なCa−P化合物が
生成されるものと推察される。すなわち、生成したCa
−P化合物が微細な核として合金中に均一分散し、この
核を起点として初晶Siが晶出する。その結果、微細な
鋳造組織が得られる。P/Ca重量比が0.6未満で
は、初晶Siの結晶核として働く作用をもたないCa濃
度の高いCa−Pが形成され、長時間をかけた溶湯保持
等によってCa−P化合物中のCaが減少するとき好ま
しい状態になり、結晶核としての作用を呈するものと考
えられる。逆に、P/Ca重量比が6を超えると、Ca
が不足し、形成されるCa−P化合物の個数が不足す
る。Cu含有量:0.5〜5.0重量% Cuは、金属間化合物CuAl2 を形成し、過共晶Al
−Si系合金の強度及び硬度を向上させる作用を呈し、
本発明においては必要に応じて添加される合金元素であ
る。Cu添加の作用を得るためには、0.5重量%以上
のCu含有が必要である。しかし、5重量%を超える多
量のCuを含有させても、Cuの作用が飽和し、増量に
見合った強度の向上が図られない。したがって、Cuを
含有させるとき、その含有量を0.5〜5重量%の範囲
に設定する。
【0015】Mg含有量:0.3〜2.0重量% Mgは、Siとの共存下で強度を向上することに寄与す
る合金元素であり、必要に応じて添加される。Mg添加
の効果は、0.3重量%以上の含有で顕著に現れる。し
かし、2.0重量%を超える多量のMgを含有させると
き、Mg含有量の増加に応じて伸び率が低下し、却って
加工性が悪くなる。したがって、Mgを含有させると
き、その含有量を0.3〜2.0重量%の範囲に設定す
る。
る合金元素であり、必要に応じて添加される。Mg添加
の効果は、0.3重量%以上の含有で顕著に現れる。し
かし、2.0重量%を超える多量のMgを含有させると
き、Mg含有量の増加に応じて伸び率が低下し、却って
加工性が悪くなる。したがって、Mgを含有させると
き、その含有量を0.3〜2.0重量%の範囲に設定す
る。
【0016】
【実施例】表1に示した組成をもつ合金を50kgのル
ツボで溶解し、温度780℃及び速度150mm/分の
鋳造条件でホットトップ鋳造によって直径98mmの鋳
塊をDC鋳造した。各鋳塊の半径の1/2に当る位置で
測定した初晶Si及び共晶Siの粒径を、表1に併せ示
す。表1から明らかなように、Ca含有量,P含有量及
びP/Ca比の条件を満足する鋳塊A及びBは、Caを
含まない鋳塊Cに比較して初晶Siが微細化されている
ことが判る。
ツボで溶解し、温度780℃及び速度150mm/分の
鋳造条件でホットトップ鋳造によって直径98mmの鋳
塊をDC鋳造した。各鋳塊の半径の1/2に当る位置で
測定した初晶Si及び共晶Siの粒径を、表1に併せ示
す。表1から明らかなように、Ca含有量,P含有量及
びP/Ca比の条件を満足する鋳塊A及びBは、Caを
含まない鋳塊Cに比較して初晶Siが微細化されている
ことが判る。
【0017】
【表1】
【0018】各鋳塊を表2(a)に示す条件で均質化処
理し、均質化処理材を作製した。また、直径98mmの
鋳塊に500℃×5時間の均質化処理を施した後、素材
加熱温度450℃及びラム速度20mm/秒の条件で直
径32mmの丸棒に押出すことにより押出し材を作製し
た。このとき、押出しに先立つ予備加熱条件を表2
(b)に示すように変えることにより、試験番号7〜1
2の押出し材を用意した。同様な鋳塊に500℃×5時
間の均質化処理を施した後、面削により直径30mm及
び長さ50mmのブランクを用意した。押出し工程を経
ることなく、400トンプレスを使用し据込み率50%
及び鍛造温度450℃でブランクを熱間鍛造した。そし
て、鍛造後に、表2(c)に示す条件で溶体化処理を施
し、試験番号13〜18の直接鍛造材を用意した。
理し、均質化処理材を作製した。また、直径98mmの
鋳塊に500℃×5時間の均質化処理を施した後、素材
加熱温度450℃及びラム速度20mm/秒の条件で直
径32mmの丸棒に押出すことにより押出し材を作製し
た。このとき、押出しに先立つ予備加熱条件を表2
(b)に示すように変えることにより、試験番号7〜1
2の押出し材を用意した。同様な鋳塊に500℃×5時
間の均質化処理を施した後、面削により直径30mm及
び長さ50mmのブランクを用意した。押出し工程を経
ることなく、400トンプレスを使用し据込み率50%
及び鍛造温度450℃でブランクを熱間鍛造した。そし
て、鍛造後に、表2(c)に示す条件で溶体化処理を施
し、試験番号13〜18の直接鍛造材を用意した。
【0019】また、鋳塊に500℃×5時間の予備加熱
を施して直径32mmの丸棒に押し出した後、直径30
mm及び長さ50mmのブランクを作製した。このブラ
ンクを400トンプレスを使用し据込み率50%及び鍛
造温度450℃で熱間鍛造した後、表2(d)に示す条
件で溶体化処理を施し、試験番号19〜24の押出し−
鍛造材を用意した。表2(a)及び(b)の均質化処理
剤から所定の試験片を切り出し、据込み試験に供した。
また、同じ均質化処理材に500℃×5時間の溶体化処
理を施し、水冷後、170℃×10時間の時効処理を施
し、摩耗試験及び切削試験に供した。同様に表2(b)
〜(d)の各材料は、溶体化処理後、溶体化温度から水
冷し、170℃×10時間の時効処理を施して、摩耗試
験及び切削試験に供した。
を施して直径32mmの丸棒に押し出した後、直径30
mm及び長さ50mmのブランクを作製した。このブラ
ンクを400トンプレスを使用し据込み率50%及び鍛
造温度450℃で熱間鍛造した後、表2(d)に示す条
件で溶体化処理を施し、試験番号19〜24の押出し−
鍛造材を用意した。表2(a)及び(b)の均質化処理
剤から所定の試験片を切り出し、据込み試験に供した。
また、同じ均質化処理材に500℃×5時間の溶体化処
理を施し、水冷後、170℃×10時間の時効処理を施
し、摩耗試験及び切削試験に供した。同様に表2(b)
〜(d)の各材料は、溶体化処理後、溶体化温度から水
冷し、170℃×10時間の時効処理を施して、摩耗試
験及び切削試験に供した。
【0020】
【表2】
【0021】各試験片に対し、次の摩耗試験を条件で行
った。摩耗試験 中央に直径6mmの貫通孔が形成された長さ30mm,
幅30mm及び厚さ5mmの試験片を切り出し、フリク
トロン摩耗試験機を使用した摩耗試験に供した。試験
は、硬質Crめっきを施した摩耗子を使用し、摩擦速度
0.238m/秒,摩擦荷重160kg,摩擦距離30
00m,常温及び湿式雰囲気の条件で実施した。試験後
の試験片を計量し、摩耗減量によって耐摩耗性を評価し
た。試験結果を示す表3から明らかなように、本発明に
従って525℃×6時間の熱処理を施したものでは、鋳
造材,押出し材及び鍛造材の何れも摩耗減量が30mg
以下になっており、耐摩耗性に優れていることが判る。
これに対し、成分的には同じ材料であっても、熱処理温
度が500℃と低い場合、摩耗減量が非常に大きくなっ
ていた。表3の結果は、本発明で規定した熱処理が耐摩
耗性の改善に有効であることを顕著に表している。他
方、合金Cは、初晶Siが粗いことから非常に良好な耐
摩耗性を示すものの、押出し性,鍛造性,切削性等が劣
る。
った。摩耗試験 中央に直径6mmの貫通孔が形成された長さ30mm,
幅30mm及び厚さ5mmの試験片を切り出し、フリク
トロン摩耗試験機を使用した摩耗試験に供した。試験
は、硬質Crめっきを施した摩耗子を使用し、摩擦速度
0.238m/秒,摩擦荷重160kg,摩擦距離30
00m,常温及び湿式雰囲気の条件で実施した。試験後
の試験片を計量し、摩耗減量によって耐摩耗性を評価し
た。試験結果を示す表3から明らかなように、本発明に
従って525℃×6時間の熱処理を施したものでは、鋳
造材,押出し材及び鍛造材の何れも摩耗減量が30mg
以下になっており、耐摩耗性に優れていることが判る。
これに対し、成分的には同じ材料であっても、熱処理温
度が500℃と低い場合、摩耗減量が非常に大きくなっ
ていた。表3の結果は、本発明で規定した熱処理が耐摩
耗性の改善に有効であることを顕著に表している。他
方、合金Cは、初晶Siが粗いことから非常に良好な耐
摩耗性を示すものの、押出し性,鍛造性,切削性等が劣
る。
【0022】
【表3】
【0023】摩耗減量にこのように大きな相違が現れる
原因が共晶Siの粒径如何にあると推察し、各試験片の
共晶Si及び初晶Siの粒径を調査した。調査結果を示
す表4から明らかなように、本発明に従った熱処理を施
した試験片では、初晶Siの粒径にそれほど変化は見ら
れないが、共晶Siが大きく成長していることが観察さ
れた。他方、熱処理温度500℃と比較的低い温度で熱
処理した試験片では、共晶Siの成長がほとんど観察さ
れず、均質化処理する前の鋳片に晶出した共晶Siと実
質的に同じ粒径であった。表4を表3と対比させること
により、共晶Siを成長させることが耐摩耗性の改善に
有効であり、且つ525℃×6時間の熱処理によって共
晶Siが選択的に成長することが確認された。
原因が共晶Siの粒径如何にあると推察し、各試験片の
共晶Si及び初晶Siの粒径を調査した。調査結果を示
す表4から明らかなように、本発明に従った熱処理を施
した試験片では、初晶Siの粒径にそれほど変化は見ら
れないが、共晶Siが大きく成長していることが観察さ
れた。他方、熱処理温度500℃と比較的低い温度で熱
処理した試験片では、共晶Siの成長がほとんど観察さ
れず、均質化処理する前の鋳片に晶出した共晶Siと実
質的に同じ粒径であった。表4を表3と対比させること
により、共晶Siを成長させることが耐摩耗性の改善に
有効であり、且つ525℃×6時間の熱処理によって共
晶Siが選択的に成長することが確認された。
【0024】
【表4】
【0025】切削試験 均質化処理後の鋳塊から切り出された試験番号1〜4の
試験片について、切削試験を行った、試験は、ダイヤモ
ンド焼結体(GEアプレイシブ社製のCOMPA×15
00,SPGN120308)を切削工具として使用
し、切れ刃傾き角0度,垂直掬い角5度,横切り刃角1
5度,切削速度600m/分,送り速度0.1mm/r
ev.,切込み深さ0.5mm,切削距離24000m
及び潤滑剤なしの条件で実施した。切削後に工具逃げ面
の摩耗量を測定し、この摩耗量(μm)によって切削性
を評価した。試験結果を示す表5から明らかなように、
共晶Siを成長させる熱処理を施した試験片2及び4
は、摩耗量が28μm以下となっており、試験片1及び
3と同様に優れた切削性を呈し、共晶Siの成長によっ
て切削性が低下する傾向は見られなかった。この傾向
は、押出し材,直接鍛造材や押出し−鍛造材から切り出
された試験片でも同様であった。すなわち、共晶Siの
粒径は、耐摩耗性を示す摩耗減量に大きな影響を与える
が、切削性を示す工具の摩耗量に実質的な影響を及ぼし
ていない。換言すれば、共晶Siを選択的に成長させる
とき、切削性の低下を伴うことなく耐摩耗性の向上が図
れることが確認された。
試験片について、切削試験を行った、試験は、ダイヤモ
ンド焼結体(GEアプレイシブ社製のCOMPA×15
00,SPGN120308)を切削工具として使用
し、切れ刃傾き角0度,垂直掬い角5度,横切り刃角1
5度,切削速度600m/分,送り速度0.1mm/r
ev.,切込み深さ0.5mm,切削距離24000m
及び潤滑剤なしの条件で実施した。切削後に工具逃げ面
の摩耗量を測定し、この摩耗量(μm)によって切削性
を評価した。試験結果を示す表5から明らかなように、
共晶Siを成長させる熱処理を施した試験片2及び4
は、摩耗量が28μm以下となっており、試験片1及び
3と同様に優れた切削性を呈し、共晶Siの成長によっ
て切削性が低下する傾向は見られなかった。この傾向
は、押出し材,直接鍛造材や押出し−鍛造材から切り出
された試験片でも同様であった。すなわち、共晶Siの
粒径は、耐摩耗性を示す摩耗減量に大きな影響を与える
が、切削性を示す工具の摩耗量に実質的な影響を及ぼし
ていない。換言すれば、共晶Siを選択的に成長させる
とき、切削性の低下を伴うことなく耐摩耗性の向上が図
れることが確認された。
【0026】
【表5】
【0027】据込み試験 直径14mm及び長さ21mmに切り出された各試験片
を、400トンプレスを使用した450℃の熱間据込み
試験に供し、限界据込み率を求めた。潤滑剤として、窒
化硼素を使用した。その他の条件は、日本塑性学会冷間
鍛造分科会冷間鍛造試験基準[塑性と加工 第22巻第
241号(1981〜2)第139頁参照]に従った。
すなわち、円柱状試験片の上部及び下部を押さえ、据込
み前の試験片高さに対する割れが発生しない限界高さの
比率(%)を限界据込み率とした。この比率が高いほ
ど、鍛造性に優れた材料であるといえる。
を、400トンプレスを使用した450℃の熱間据込み
試験に供し、限界据込み率を求めた。潤滑剤として、窒
化硼素を使用した。その他の条件は、日本塑性学会冷間
鍛造分科会冷間鍛造試験基準[塑性と加工 第22巻第
241号(1981〜2)第139頁参照]に従った。
すなわち、円柱状試験片の上部及び下部を押さえ、据込
み前の試験片高さに対する割れが発生しない限界高さの
比率(%)を限界据込み率とした。この比率が高いほ
ど、鍛造性に優れた材料であるといえる。
【0028】試験結果を示す表6から明らかなように、
本発明に従って525℃×6時間の熱処理により共晶S
iを成長させた試験片は、何れも共晶Siの成長がない
試験片と同レベルの優れた鍛造性を呈した。これは、鍛
造時に初晶SiとAlマトリックスとの間に亀裂が入る
ことから、初晶Siの粒径如何が限界据込み率に影響
し、共晶Siの成長によっては鍛造性の低下がないこと
を表している。Ca添加せずP処理を施さない試験番号
6の試験片は、初晶Siの微細化が図られておらず、鋳
塊段階で初晶Siが35μm(表1参照)と大きな粒径
になっている。このような試験片では、525℃×6時
間の熱処理により共晶Siを大きく成長させても、50
0℃×5時間の熱処理を施した試験番号5の限界据込み
率とほぼ同じ値を示し、鍛造性が劣る。このことから、
Ca及びPによる初晶Siの微細化と525℃×6時間
の熱処理とを組み合わせたとき、初めて共晶Siの選択
的な成長に起因してバランスのとれた過共晶Al−Si
合金が製造されることが確認される。
本発明に従って525℃×6時間の熱処理により共晶S
iを成長させた試験片は、何れも共晶Siの成長がない
試験片と同レベルの優れた鍛造性を呈した。これは、鍛
造時に初晶SiとAlマトリックスとの間に亀裂が入る
ことから、初晶Siの粒径如何が限界据込み率に影響
し、共晶Siの成長によっては鍛造性の低下がないこと
を表している。Ca添加せずP処理を施さない試験番号
6の試験片は、初晶Siの微細化が図られておらず、鋳
塊段階で初晶Siが35μm(表1参照)と大きな粒径
になっている。このような試験片では、525℃×6時
間の熱処理により共晶Siを大きく成長させても、50
0℃×5時間の熱処理を施した試験番号5の限界据込み
率とほぼ同じ値を示し、鍛造性が劣る。このことから、
Ca及びPによる初晶Siの微細化と525℃×6時間
の熱処理とを組み合わせたとき、初めて共晶Siの選択
的な成長に起因してバランスのとれた過共晶Al−Si
合金が製造されることが確認される。
【0029】
【表6】
【0030】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、Ca共存下でのP処理によって初晶Siを微細化し
た過共晶Al−Si合金を、初晶Siの粗大化を来すこ
となく共晶Siを成長させる条件下で熱処理している。
これにより、微細な初晶Siに起因する良好な鍛造性,
押出し等の加工性,切削性等を確保しながら、耐摩耗性
が改善される。このようにして、本発明によるとき、鍛
造性,押出し等の加工性,切削性等と耐摩耗性との間に
バランスがとれた過共晶Al−Si合金材料が得られ
る。また、熱処理による効果は、後続する工程で行われ
る軟化焼鈍,歪取り焼鈍,析出硬化処理等によって失わ
れることがない。
は、Ca共存下でのP処理によって初晶Siを微細化し
た過共晶Al−Si合金を、初晶Siの粗大化を来すこ
となく共晶Siを成長させる条件下で熱処理している。
これにより、微細な初晶Siに起因する良好な鍛造性,
押出し等の加工性,切削性等を確保しながら、耐摩耗性
が改善される。このようにして、本発明によるとき、鍛
造性,押出し等の加工性,切削性等と耐摩耗性との間に
バランスがとれた過共晶Al−Si合金材料が得られ
る。また、熱処理による効果は、後続する工程で行われ
る軟化焼鈍,歪取り焼鈍,析出硬化処理等によって失わ
れることがない。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 北岡 山治 東京都港区三田3丁目13番12号 日本軽金 属株式会社内 (72)発明者 青木 一男 東京都港区三田3丁目13番12号 日本軽金 属株式会社内
Claims (2)
- 【請求項1】 Si:13〜21重量%,Ca:6〜1
20ppm及びP:40〜130ppmを含み、P/C
aが重量比で0.6〜6.0の範囲にある過共晶Al−
Si合金に、510〜535℃の温度範囲で2〜24時
間加熱する熱処理を施すことを特徴とする過共晶Al−
Si合金の熱処理方法。 - 【請求項2】 請求項1記載の過共晶Al−Si合金が
更にCu:0.5〜5.0重量%及びMg:0.3〜
2.0重量%を含むものである過共晶Al−Si合金の
熱処理方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP5188191A JPH0741920A (ja) | 1993-07-29 | 1993-07-29 | 耐摩耗性を向上させる過共晶Al−Si合金の熱処理方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP5188191A JPH0741920A (ja) | 1993-07-29 | 1993-07-29 | 耐摩耗性を向上させる過共晶Al−Si合金の熱処理方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH0741920A true JPH0741920A (ja) | 1995-02-10 |
Family
ID=16219367
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP5188191A Pending JPH0741920A (ja) | 1993-07-29 | 1993-07-29 | 耐摩耗性を向上させる過共晶Al−Si合金の熱処理方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JPH0741920A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010531388A (ja) * | 2007-06-29 | 2010-09-24 | 東北大学 | Mgおよび高Siを含むAl合金の構造材料およびその製造方法 |
JP2011012338A (ja) * | 2009-06-30 | 2011-01-20 | Hyundai Motor Co Ltd | 車両シリンダーライナー用アルミニウム合金およびそのシリンダーライナーの製造方法 |
-
1993
- 1993-07-29 JP JP5188191A patent/JPH0741920A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010531388A (ja) * | 2007-06-29 | 2010-09-24 | 東北大学 | Mgおよび高Siを含むAl合金の構造材料およびその製造方法 |
JP2011012338A (ja) * | 2009-06-30 | 2011-01-20 | Hyundai Motor Co Ltd | 車両シリンダーライナー用アルミニウム合金およびそのシリンダーライナーの製造方法 |
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |