JPH06158210A - 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法 - Google Patents

加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法

Info

Publication number
JPH06158210A
JPH06158210A JP4244259A JP24425992A JPH06158210A JP H06158210 A JPH06158210 A JP H06158210A JP 4244259 A JP4244259 A JP 4244259A JP 24425992 A JP24425992 A JP 24425992A JP H06158210 A JPH06158210 A JP H06158210A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
alloy
content
primary crystal
hypereutectic
casting
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP4244259A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2730423B2 (ja
Inventor
Susumu Nawata
進 名和田
Kazuo Aoki
一男 青木
Akio Hashimoto
昭男 橋本
Yamaji Kitaoka
山治 北岡
Eikichi Sagisaka
栄吉 鷺坂
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nikkei Techno Research Co Ltd
Nippon Light Metal Co Ltd
Original Assignee
Nikkei Techno Research Co Ltd
Nippon Light Metal Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nikkei Techno Research Co Ltd, Nippon Light Metal Co Ltd filed Critical Nikkei Techno Research Co Ltd
Priority to JP4244259A priority Critical patent/JP2730423B2/ja
Publication of JPH06158210A publication Critical patent/JPH06158210A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP2730423B2 publication Critical patent/JP2730423B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Abstract

(57)【要約】 【目的】 初晶Siを微細化することにより、過共晶A
l−Si合金の加工性,切削性等を改善する。 【構成】 この過共晶Al−Si合金は、Si:13〜
21重量%,Ca:6〜120ppm及びP:40〜1
30ppmを含有し、P/Caが重量比で0.6〜6の
範囲に調整されている。また、初晶Siの粒径は、20
μm以下である。過共晶Al−Si合金の溶湯に含まれ
ているP及びCaの重量比P/Caを鋳造直前の状態で
0.6〜6の範囲になるように調整し、溶湯を鋳造す
る。重量比P/Caは、溶解原料の成分調整,P原料及
びCa原料の添加量と添加時期,合金溶解温度,溶湯保
持温度と時間,脱ガス条件,鋳造温度等の操業条件によ
って調整される。 【効果】 Ca及びPの相乗作用により初晶Siが微細
化され、加工性,切削性,耐摩耗性の良好な過共晶Al
−Si合金が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、初晶Siを微細化する
ことにより加工性を向上させた過共晶Al−Si合金及
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコンを12.6重量%以上含有する
過共晶Al−Si合金は、熱膨張係数が小さく、耐熱性
にも優れている。また、溶湯が凝固する際に高硬度の初
晶シリコンが晶出するため、耐摩耗性が要求されるピス
トン,クランクケース,ブレーキドラム,シリンダーラ
イナー等の内燃機関用部品として使用されている。過共
晶Al−Si合金は、硬質の初晶Siが晶出することに
起因して優れた耐摩耗性を呈するが、初晶Siが大きく
成長した鋳造組織になり易い。この状態で加工を施す
と、初晶Siやアルミニウムマトリックスとの界面等に
亀裂が入り、目的とする製品が得られないばかりでな
く、機械的性質も十分でない。特に、切削加工等の際
に、初晶Siに起因するカジリが発生する欠点がある。
初晶Siは、急冷凝固によって微細化される。たとえ
ば、粉末法を採用したり、特開昭52−129607号
公報にみられるように溶湯圧延法によってアルミニウム
合金溶湯を急冷凝固し、鋳造組織の微細化を図ってい
る。
【0003】アルミニウム合金溶湯をP処理することに
よっても、初晶Siを微細化することができる。P添加
によって初晶Siを微細化し、加工性及び機械的性質の
改善を図っている。添加されたPは、金属間化合物Al
Pを形成し、この金属間化合物AlPが初晶Siの微細
化に作用するものと考えられている。たとえば、特開昭
52−153817号公報では、ヘキサメタリン酸ナト
リウム及びアルミナの融合物をアルミニウム合金溶湯に
添加し、初晶Siの偏析を抑制し鋳造組織の微細化を図
っている。また、特開昭60−204843号公報で
は、Cu−P合金,赤燐,リン酸ソーダ,リン酸カルシ
ウム等の燐含有物質で16〜25重量%のシリコンを含
有する過共晶アルミ−Si合金を処理することが紹介さ
れている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、金型鋳造,D
C鋳造のようにインゴットを経る方法においては、P添
加のみでは微細化が不十分な場合が多く、特に押出し
材,鍛造材等として使用するとき、加工時における初晶
Siの割れが問題となる。初晶Siを微細化するP添加
の作用は、過共晶Al−Si合金がNa又はCaを含む
とき失われがちである。この点に関し、たとえば、財団
法人素形材編集「昭和59年度ハイシリコン・アルミニ
ウム合金ダイカストの開発研究報告書(I)」第24〜
25頁では、次のように説明されている。過共晶Al−
Si合金に含まれているNa及びCaがPと反応してN
a−P及びCa−Pを形成し、初晶Siの微細化に作用
するAlPの生成が妨げられる。
【0005】そのため、初晶Siの微細化を狙ったP添
加は、適用対象がNaやCaをなるべく含まない過共晶
Al−Si合金に限られていた。Caは、共晶Siを改
良する作用を呈し、亜共晶合金の引張り特性や衝撃値等
の性質を改善する有効な合金元素である。しかし、過共
晶Al−Si合金においては、Caが初晶Si微細化の
ため添加されるPの作用を阻害することと、逆にPがC
aによる共晶組織の改良作用を阻害することから、Ca
は過共晶Al−Si合金に添加されることがなかった。
そのため、この系の合金において、初晶Siの更なる微
細化によって加工性等を向上しようとするとき、P処理
のみでは不十分であり、特殊な設備を必要とする溶湯圧
延法等の急冷凝固法に頼らざるを得ない。本発明は、こ
のような問題を解消すべく案出されたものであり、Ca
とPとの間で添加時期の調整や成分バランス等を図り、
急冷凝固を行わない金型鋳造,DC鋳造等においても初
晶Siが十分に微細化され、加工性,機械的性質等に優
れた過共晶Al−Si合金を提供することを目的とす
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の過共晶Al−S
i合金は、その目的を達成するため、Si:13〜21
重量%,Ca:6〜120ppm及びP:40〜130
ppmを含有し、P/Caが重量比で0.6〜6の範囲
にあることを特徴とする。特に、初晶Siは、粒径が2
0μm以下であることが好ましい。
【0007】この過共晶Al−Si合金は、過共晶Al
−Si合金の溶湯に含まれているP及びCaを、鋳造直
前のP含有量が40〜130ppm,Ca含有量が6〜
120ppmで且つP/Caの重量比が0.6〜6の範
囲になるように調整し、前記溶湯を鋳造することにより
製造される。ここで、重量比P/Caは、溶解原料の成
分調整,P原料及びCa原料の添加量と添加時期,合金
溶解温度,溶湯保持温度と時間,脱ガス条件,鋳造温度
等の操業条件によって調整される。
【0008】
【作 用】過共晶Al−Si合金にPを添加すると、A
lP化合物が形成される。このAlP化合物が初晶Si
の核として働き、鋳造組織の微細化が行われる。従来で
は、この系にCaを添加するとき、Ca−P化合物が生
成し、有効なAlP核が減少するため、Pによる微細化
効果が阻害されるものと説明されている。ところが、本
発明者等は、過共晶Al−SiにP及びCaを同時添加
したとき、P単独添加の場合に比較して初晶Siが著し
く微細化されていることを実験的に確認した。初晶Si
が微細化した鋳造組織をXMAにより調査したところ、
多くの場合にCaがPと共存していた。このことは、C
a添加によりCa−P化合物が形成されるが、Ca−P
化合物が好ましい状態にあるとき、従来の説明とは異な
り、初晶Siの晶出により有効な核として働くことを示
唆している。
【0009】本発明者等は、この初晶Siの微細化メカ
ニズムを次のように推察した。AlP系,Cu−P系,
Al−Cu−P系等の母合金或いはP化合物等として過
共晶Al−Si合金に添加されたPは、金属間化合物A
lPとして溶湯中に存在している。この溶湯を鋳造した
場合、従来説明されているようにAlPが初晶Siの核
として働く。これに対し、P及びCaが共存する場合、
AlPの他に多数のCa−P化合物が形成される。Ca
−P化合物は、AlPに比較して、初晶Siが晶出する
ときに有効な結晶核として働き、初晶Siを一層微細化
する。しかし、溶湯を高温に長時間保持すると、酸化等
によってCaが系外に去り、溶湯中のCaが不足するよ
うになる。その結果、有効な結晶核Ca−Pの個数が減
少し、AlPが再び主な結晶核として働くようになり、
初晶Siの微細化が不十分になる。
【0010】Ca−P化合物を初晶Siの核として働か
せるためには、鋳造直前のアルミニウム合金溶湯におけ
る重量比P/Caを0.6〜6の範囲に調整することが
必要である。鋳造直前の重量比P/Caを0.6〜6に
維持する限り、たとえば次に掲げる何れの方法を採用し
ても、或いはこれらの方法を組合せて採用しても、従来
のP処理に比較して一層微細化した鋳造組織が得られ
る。 溶解開始から鋳造までの過程におけるCa及びPの
消耗を考慮し、所定量のCa及びPを予め溶解原料に配
合する方法。 所定量のPを含有する過共晶Al−Si合金を溶
解,鋳造して鋳塊を得る工程で、過共晶Al−Si合金
を溶解した後でCaを添加する方法。 Ca及びPを含まない過共晶Al−Si合金を溶解
した後で、所定量のCa及びPを同時に又は相前後して
添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si合金を鋳造直前に成分分析し、Ca及びP
が不足する場合には、不足分を追加添加する方法。 前掲〜の何れかでCa及びPを含有させた過共
晶Al−Si合金を鋳造直前に成分分析し、Ca含有量
が過剰な場合には、溶湯温度を高くするか或いは保持時
間を長くすることによってCa含有量を低下させる方
法。
【0011】これまで、Caは、P処理による微細化効
果を阻害し、初晶Siの微細化に有害であるとされてい
た理由は、P/Ca比,Si含有量に対するCa及びP
の含有量(添加量と異なる),溶解から鋳造するまでの
時間,鋳造温度,初晶Si晶出温度域での冷却速度等に
関する検討が不十分であったことに起因するものと考え
られる。すなわち、何れかの条件が適当でなく、Ca−
P化合物が有効な核として働かない状態にあったことが
原因として掲げられる。そこで、本発明者等は、これら
条件に関して詳細な検討を行った。
【0012】Caの添加 Caは、溶解原料に予め含ませておくこと、或いは溶解
した過共晶Al−Si合金に添加する方法の何れによっ
ても、過共晶Al−Si合金に含ませることができる。
何れの場合においても、Caは、溶解や保持過程におけ
る損耗が激しいので、添加量ではなく含有量で把握する
ことが必要である。なお、Caは、Caを含有するAl
−Ca系等の母合金,化合物,混合物等として塊状,棒
状,線状,粉末状,顆粒状,溶融状等の形態で添加され
る。Ca含有量を高精度にコントロールする上からは、
溶解後の過共晶Al−Si合金に所定量のCaを添加す
ることが好ましい。すなわち、溶解前にCaを配合する
と、溶解,高温保持,脱ガス処理等の工程でCaが損耗
し、鋳塊中のCa含有量を正確にコントロールすること
が難しくなる。特に、連続鋳造のように大量のメタルを
取り扱う場合、目標とするCa含有量が得られず、不良
となる確率が高くなる。また、鋳塊に移行するCaの歩
留りが低いため、損耗分を見込んだより多量のCaを添
加することも必要になる。
【0013】溶解後の過共晶Al−Si合金にCaを添
加するとき、鋳塊におけるCa含有量を比較的正確にコ
ントロールすることができ、初晶Siの微細化も目標通
り行われる。たとえば、溶解原料にCaを冷材として配
合し、溶解直後に鋳造したとき、Caの歩留りは45〜
85%の範囲で大きくばらついた。これに対し、溶解後
の過共晶Al−Si合金にCaを添加し、直ちに鋳造し
たとき、Caの歩留りが76〜94%に向上すると共
に、鋳塊のCa含有量に大きなバラツキがなくなった。
鋳造直前の過共晶Al−Si合金における重量比P/C
aが0.6〜6.0の範囲にあるとき、Ca−P化合物
の微細化作用が効果的に発揮される。しかし、Ca含有
量は、過共晶Al−Si合金を溶湯の状態で保持すると
次第に減少し、それに伴ってP/Caが増加する。ま
た、Ca含有量の減少率は、過共晶Al−Si合金溶湯
が高温になるほど大きくなる。そこで、鋳造に先立って
Ca含有量を所定範囲に調整した後、長い保持時間をお
かずに鋳造することが好ましい。
【0014】なお、Ca含有量が減少し、重量比P/C
aが6.0を超えると、Ca−P化合物の微細化作用が
不十分である。また、重量比P/Caが0.6未満で
も、微細化効果が得られなくなる。Ca含有量が更に増
加しP/Caが低くなると、初晶Siは、Ca無添加の
場合よりもむしろ粗くなる。重量比P/Caが0.6未
満になると、Ca−P化合物中のCa濃度も上がり、こ
れが初晶Siの結晶核として働かない好ましくない状態
になるものと考えられる。その結果、従来報告されてい
るようにP処理による微細化作用が阻害される。また、
Ca含有量が120ppmを超えると、重量比P/Ca
が0.6未満であれば初晶Siが微細化するが、溶湯の
流動性が著しく低下し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易
くなる。この点から、Ca含有量の上限は、120pp
mに設定される。他方、Ca含有量の下限は、P=6C
aとP=40の交点B(図7参照)における値から、6
ppmに設定した。
【0015】Pの添加 Pは、Caに比較して反応性が低い。そのため、溶解原
料に予めPを配合させておいても、或いは溶解後にPを
添加しても、P添加による効果は実質的に変わらない。
したがって、Pの添加時期は、次の〜の何れであっ
ても良い。また、予め所定量のPを含有する過共晶Al
−Si合金又は溶解原料を溶解した後、Ca添加に相前
後して残りのPを添加することもできる。Pは、P含有
母合金,化合物,混合物等を塊状,棒状,線状,粉末
状,顆粒状,溶融状等の形態で添加される。 Pを含む過共晶Al−Si合金又は溶解原料の調整
→溶解→ Ca添加 → 鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解→ Ca及びPの同時添加 →
鋳造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解P添加 → Ca添加 → 鋳
造 Pを含まない過共晶Al−Si合金又は溶解原料の
調整 →溶解 Ca添加 → P添加 → 鋳造
【0016】P含有量は、Ca−P化合物による初晶S
iの微細化を促進させる上で、40〜130ppmの範
囲に維持することが必要である。P含有量は、Ca含有
量と異なり、過共晶Al−Si合金を溶湯状態のままで
保持しても、保持時間による大きな影響を受けることな
く、減少量は小さい。なお、P含有量が40ppm未満
では、初晶Siを微細化する作用が不十分である。しか
し、130ppmを超えるP含有量では、初晶Siを微
細化する効果があるものの、合金溶湯の流動性が低下
し、湯境い等の鋳造欠陥が発生し易くなる。また、Pの
濃度が高くなると溶解歩留りが極端に低下するので、1
30ppm以上のPを含有させることは非常に困難であ
る。
【0017】P/Ca比 P/Ca比は、微細化効果に大きな影響をもつ因子であ
る。P/Caを重量比で0.6〜6の範囲に維持するこ
とにより、初晶Siの微細化に有効なCa−P化合物が
生成されるものと推察される。すなわち、生成したCa
−P化合物が微細な核として合金中に均一分散し、この
核を起点として初晶Siが晶出する。その結果、微細な
鋳造組織が得られる。P/Ca重量比が0.6未満で
は、初晶Siの結晶核として働く作用をもたないCa濃
度の高いCa−Pが形成され、長時間溶湯保持等によっ
てCa−P化合物中のCaが減少すると好ましい状態に
なり、結晶核としての作用を呈するものと考えられる。
逆に、P/Ca重量比が6を超えると、Caが不足し、
形成されるCa−P化合物の個数が不足する。
【0018】Si含有量 Ca及びPにより初晶Siが微細化する現象は、Si含
有量が13〜21重量%の範囲にある過共晶Al−Si
合金にみられる。Si含有量が大きくなるほど、より多
量のCa及びPを含有させることが必要になることは勿
論、鋳造条件を厳格にコントロールすることが要求され
る。しかも、Si含有量に応じて微細化効果が低くな
る。そこで、Si含有量の上限を21重量%に設定し
た。また、過共晶Al−Si合金の特性を得るため、S
i含有量の下限を13重量%に設定した。
【0019】溶解温度 Ca及びPの微細化作用を有効に発揮させる上で、Si
が十分に溶解するように過共晶Al−Si合金溶湯を7
60〜850℃の温度範囲で溶解することが好ましい。
溶湯温度は、Si含有量に比例して高く設定される。し
かし、過度の高温で溶解することは、溶解のためのエネ
ルギー損失を招くばかりでなく、鋳造までの工程におけ
る条件に変動を来し易い。そこで、溶解温度の上限を、
850℃に設定する。
【0020】溶湯保持時間 Caによる微細化作用は、重量比P/Caが0.6を超
えるCaを含有させた過共晶Al−Si合金ではCa添
加直後に現れる。この微細化作用は、合金溶湯を長時間
保持すると消失する。Caの作用が消失する時間は、C
a含有量や保持温度にもよるが、おおよそ60〜600
分である。この点で、Ca含有量を重量比P/Caが
0.6〜6.0となる設定範囲に調整した後、長時間の
保持工程をおくことなく鋳造工程に入ることが好まし
い。他方、重量比P/Caが0.6を下回るように過剰
のCaを含有させた過共晶Al−Si合金では、Caに
よる微細化作用は、Caの添加直後には現れず、合金溶
湯をある時間保持した後に現れる。いわゆる潜伏期間が
存在する。潜伏期間は、添加直後のCa含有量が大きく
なるほど長くなる。たとえば、61ppmのP及び18
0ppmのCaを含有させた過共晶Al−Si合金を7
60℃に保持したとき、約100分後にCaによる微細
化作用が発現する。
【0021】多量のCaを含有させた場合にみられる潜
伏期間は、合金溶湯を保持する間にCaが減少し、その
結果重量比P/Caが0.6以上に増加することに由来
するものと考えられる。すなわち、重量比P/Caが
0.6以上になったとき、初めてCaによる微細化作用
が発揮される。更に合金溶湯を長時間保持すると、Ca
含有量の減少に伴って重量比P/Caが0.6を超える
とき、微細化作用が消失する。このことは、Caの減少
に伴って、初晶Siの晶出に有効な核として働くCa−
P化合物の個数が不足することを示唆している。
【0022】Ca含有量が多い場合、重量比P/Caが
0.6以上になるまでの溶湯保持時間が長くなるので、
一般に設定範囲にCa含有量をコントロールすることが
難しくなる。しかし、大型の溶解炉を使用して多量の合
金を生産する場合、準備や鋳造に長時間を要する。この
ような場合には、この潜伏期間及び潜伏期間後にCaが
減少して重量比P/Caが6.0を超えるまでの長い微
細化に有効な期間を利用することもできる。すなわち、
鋳造を行うまでの時間が長い場合、Caを過剰に添加し
ておき、鋳造時点で重量比P/Caが0.6〜6.0の
範囲に入るように調整する。
【0023】鋳造温度 高い冷却速度によって初晶Siを微細化する点では、鋳
造温度をなるべく高く設定することが好ましい。しか
し、合金溶湯が高温になるほどCaの損耗が激しくな
り、鋳造時にCa含有量を制御することが難しくなる。
そこで、鋳造温度は、高い冷却速度による微細化効果が
得られる範囲で、可能な限り低くすることが好ましい。
具体的には、Si含有量等の過共晶Al−Si合金の成
分及び含有量にもよるが、Al−Si二元系状態図の液
相線+(70〜170)℃の温度範囲に鋳造温度を設定
する。たとえば、Siを15重量%含有する過共晶Al
−Si合金では鋳造温度を680℃以上に、Siを17
重量%含有する過共晶Al−Si合金では鋳造温度を7
10℃以上に、Siを20重量%含有する過共晶Al−
Si合金では鋳造温度を760℃以上に設定する。
【0024】Ca含有量は、他の製造条件によっても変
化する。特に、脱ガス処理によってCa含有量は大きく
低下する。このときのCa含有量の低下は、脱ガスに使
用するガスの種類や脱ガス時間等によって異なった傾向
を示す。そこで、予め脱ガス条件に対応したCa含有量
の変化率を求めておき、この変化率に基づいてCa含有
量をコントロールすることが好ましい。本発明の過共晶
Al−Si合金は、性質改善元素として6.0重量%以
下のCu,2.0重量%以下のMg,3.0重量%以下
のNi,2.0重量%以下のMn,1.5%重量%以下
のFe,3.0重量%以下のZn,0.3重量%以下の
Ti等を含むことができる。Cuは、強度、特に高温強
度を向上させる。Mgは、強度を向上させる。Niは、
高温強度の向上に有効である。Mn,Fe,Zn,Ti
等は、何れも強度を改善する合金元素である。また、Z
r,Cr,V,Co等の不純物元素は、0.5重量%以
下に規制することが好ましい。
【0025】
【実施例】
実施例1:アルミニウム合金A390にCa及びPを種
々の割合で配合し、ルツボ炉で溶解した。CaはAl−
5%Ca母合金冷材として、PはCuーP母合金冷材と
して、目標組成がSi:17重量%,Cu:4.5重量
%及びMg:0.6重量%となるように溶解原料に配合
した。溶解温度は、Siが完全に溶融する800℃に設
定した。得られた合金溶湯を30分間保持した後、内径
18mm及び高さ90mmの金型で鋳造した。得られた
鋳塊について、Ca含有量及びP含有量を分析し、初晶
Siとの関係を調査した。調査結果を示す表1におい
て、試験番号1は、Caを添加することなくP処理のみ
で初晶Siの微細化を図った例である。この場合、初晶
Siは、かなり粗い粒径となっている。他方、約60p
pmのCaを含有させた試験番号2及び3では、初晶S
iが15μm及び18μmと極めて微細化されていた。
このことから、Ca及びPの共存が初晶Siの微細化に
有効であることが判る。
【0026】Caを150ppmと過剰に含有させた試
験番号4では、P単独添加の試験番号1に比較して、む
しろ初晶Siが粗くなっている。これは、Caによって
Pの微細化作用が阻害されたことを示唆する。同じ試験
番号4の合金溶湯を更に760℃で1時間保持したとこ
ろ、試験番号5にみられるように、Ca含有量が89p
pmまで減少すると共に、Ca及びPの共存による初晶
Siの微細化作用が発現されている。
【表1】
【0027】実施例2:Si:21重量%,Cu:1重
量%,Mg:1重量%及びNi:1重量%を含有するア
ルミニウム合金について、実施例1と同様にCa及びP
の影響を調査した。調査結果を示す表2において、試験
番号6は、P処理によって初晶Siの微細化を図ったも
のであるが、30μmと粗い初晶Siが生成されてい
た。これに対し、Ca及びPの共存によって初晶Siを
微細化した試験番号7では、初晶Siの粒径が10μm
と微細化されていた。
【表2】
【0028】実施例3:Cu−P母合金冷材としてPの
みを溶解原料に添加したアルミニウム合金A390、及
びそれぞれCu−P母合金冷材及びAl−Ca母合金冷
材としてP及びCaを溶解原料に添加したアルミニウム
合金A390を、820℃で溶解し、温度780℃及び
速度150mm/分の鋳造条件でホットトップ鋳造法に
より直径98mmの鋳塊に連続鋳造した。得られた鋳塊
の組織を、図1及び図2に示す。Ca無添加の鋳塊(図
1)では初晶Siが50μmであるのに対し、P及びC
aを併用添加した鋳塊(図2)では、初晶Siが著しく
20μmと微細化していることが判る。
【0029】実施例4:約80ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)をルツ
ボ炉で溶解した後、Caを添加することなく内径18m
m及び高さ90mmの金型に鋳造した。残った溶湯にA
l−5%Ca母合金をCa換算で100ppm添加し、
合金溶湯を800℃の温度で種々の時間保持した後、同
様の金型に鋳造した。得られた鋳塊について、Ca含有
量及びP含有量を分析し、分析結果と初晶Siの粒径と
の関係を調査した。調査結果を示す表3から明らかなよ
うに、P処理のみ(Ca添加前)で微細化を図った試験
番号8に比較して、Ca添加後の合金溶湯を5〜120
分保持した後で鋳造した試験番号9〜12では、初晶S
iが著しく微細化していた。また、Ca含有量は、保持
時間の経過と共に減少する傾向を示した。しかし、Ca
含有量が6ppmを下回らず且つP/Ca比が6以下に
維持されている限り、P及びCaの共存による初晶Si
の微細化作用が維持された。
【表3】
【0030】実施例5:約60ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)にCa
を50ppm添加し、鋳造温度を760℃とする他は実
施例4と同じ条件で鋳塊を製造した。得られた鋳塊にお
けるCa含有量及びP含有量を分析し、分析結果と初晶
Siの粒径との関係を調査した。調査結果を示す表4に
おいて、試験番号13は、Caを添加することなくP処
理のみで初晶Siの微細化を図った例であり、比較的粗
い初晶Siが生成している。これに対し、Ca添加した
試験番号14〜17では、保持時間の経過と共にCa含
有量が低下する傾向にあるが、Ca含有量が6ppmを
下回らない条件下では粒径20μm以下の微細な初晶S
iが生成していた。しかし、保持時間が390分と長く
なったとき、Ca含有量の減少によってP/Ca比が7
となり、それに伴ってCa及びPの共存作用が消失し、
粗い初晶Siが生成した。
【表4】
【0031】実施例6:約60ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)にCa
を200ppm添加し、鋳造温度を760℃とする他は
実施例4と同じ条件で鋳塊を製造した。得られた鋳塊に
おけるCa含有量及びP含有量を分析し、分析結果と初
晶Siの粒径との関係を調査した。
【表5】
【0032】調査結果を示す表5において、試験番号1
8は、Caを添加することなくP処理のみで初晶Siの
微細化を図った例であり、比較的粗い初晶Siが生成し
ている。Ca含有量は、保持時間の経過と共に低下する
傾向にあった。しかし、保持時間が短くCa含有量が1
80ppmと高い試験番号19では、重量比P/Caが
0.6より低く、P処理の作用を打ち消し、むしろ粒径
の大きな初晶Siが生成した。また、同じ溶湯を760
℃に60分間保持した試験番号20では、Ca含有量が
140ppmを超えており、依然として重量比P/Ca
が0.6より低く、初晶Siが粗く、Ca及びPの共存
による微細化作用がみられなかった。保持時間が120
分になったとき、Ca含有量が109ppmまで低下
し、重量比P/Caが0.6となり、Ca及びPの共存
による微細化作用が発現し、微細な初晶Siが生成し
た。
【0033】実施例7:Si:15重量%,Cu:3.
5重量%,Mg:0.5重量%,残部Alの組成をもつ
アルミニウム合金を溶解し、鋳造温度760℃で金型に
鋳造した。鋳塊の組織に与える影響をCa添加の有無に
ついて調査した。図3は、Caを添加せず、P含有量6
5ppm及びCa含有量1ppmでP/Ca比65の合
金溶湯から得られた鋳塊の組織を示す。他方、図4は、
この合金溶湯にCaを添加し、P含有量68ppm及び
Ca含有量47ppmでP/Ca比1.4に調整した合
金溶湯から得られた鋳塊の組織を示す。図3と図4との
比較から明らかなように、Ca無添加の場合に初晶Si
が30μmと粗いが、Ca添加によって初晶Siが10
μmと著しく微細化されていることが判る。
【0034】実施例8:約60ppmのPを含有するア
ルミニウム合金A390(Si:17重量%,Cu:
4.5重量%,Mg:0.6重量%,残部Al)を50
kgのルツボ炉で820℃に溶解し、温度780℃及び
速度150mm/分の鋳造条件でホットトップ鋳造法に
よって直径98mmの鋳塊を製造した。この場合、一部
の溶湯はCa無添加で鋳造し、残りの溶湯はCa添加後
に鋳造した。Caは、Al−5%Ca合金を使用して添
加量が20ppmとなるように鋳造中の湯溜り部に連続
的に添加した。鋳塊のCa含有量及びP含有量を分析
し、分析結果と初晶Siの粒径との関係を調査した。C
aを添加することなくP処理のみで初晶Siを微細化し
た鋳塊(図5)は、P含有量58ppm及びCa含有量
1ppm以下でP/Ca比>58の合金溶湯から鋳造さ
れたものであり、45μmの粒径をもつ初晶Siが生成
していた。P含有量61ppm及びCa含有量17pp
mでP/Ca比3.2に調整した図6の鋳塊には、粒径
18μmの初晶Siが生成していた。
【0035】また、A390合金について実施例1と同
じ金型を使用し、Ca含有量,P含有量及びP/Ca比
を種々変更し、それぞれが初晶Siの粒径に与える影響
を調査した。調査結果を示す表6において、本発明で規
定した範囲を外れる条件に印*を付した。表6から明ら
かなように、Ca含有量を6ppm以上の範囲に、P含
有量を40ppm以上の範囲に、且つP/Caを重量比
で0.6〜6の範囲に維持するとき、初めて粒径が20
μmの初晶Siが生成することが判る。
【表6】
【0036】以上の試験番号1〜30及び図1〜6につ
いて、Ca含有量,P含有量及びP/Ca比で初晶Si
の粒径を整理したところ、図7に示す関係が成立してい
た。なお、図7におけるAE及びEDは、前述したよう
に鋳造性から設定される境界線であり、AEより上及び
EDより右側の部分でも重量比P/Ca=0.6〜6.
0の条件が満たされる限り初晶Siの微細化は達成され
る。しかし、溶湯の粘度が著しく上昇し、湯境い等の鋳
造欠陥が生じ易くなる。Ca含有量=6〜120pp
m,P含有量=40〜130ppm及びP/Ca比=
0.6〜6の条件を満足する領域A−B−C−D−E−
Aでは、粒径が20μm以下の初晶Siが安定して生成
している。これは、初晶Siの晶出に有効な核であるC
a−P化合物が均一に分散していることに由来するもの
と推察される。他方、ABより左,CDより右及びBC
より下の領域では、初晶Siが20μmを超える大きな
粒径になっている。P/Ca比が0.6未満或いは6を
超える領域では、Ca−P系の結晶核が不足するか不適
であり、初晶Siの微細化が図られていない。また、領
域B−C−Oでは、Ca−P系の結晶核が少なく、初晶
Siの微細化が達成されていないと推察される。
【0037】また、アルミニウム合金A390の溶湯を
760℃に保持した時間との関係でCa含有量を整理し
たところ、図8に示すように保持時間の経過に応じてC
a含有量が低下していた。図8において、20ppmの
Caを添加したときのCa含有量の経時変化を印□で、
50ppmのCaを添加したときのCa含有量の経時変
化を印+で、100ppmのCaを添加したときのCa
含有量の経時変化を印◇で示す。Ca含有量の低下傾向
は、アルミニウム合金溶湯の保持温度を800℃にした
とき、図9に示すように変わる。図9を図8と対比する
とき、保持温度の上昇によって短時間でCa含有量が低
下していることが判る。
【0038】したがって、各種アルミニウム合金につい
てCa含有量の経時変化を溶湯保持温度との関係で予め
把握しておくとき、保持時間の調整によって必要とする
Ca含有量及びP/Ca比をコントロールすることがで
きる。たとえば、各種P含有量のアルミニウム合金A3
90について、溶湯保持温度を760℃に設定したと
き、図10に示すようにCa含有量が経時的に低下す
る。図10のCa=115の直線は、P含有量(69〜
76ppm)に拘らず、少なくとも重量比P/Caが
0.6以上になる限界のCa含有量を、Ca=11.5
の直線は同様にP含有量(63〜69ppm)に拘ら
ず、少なくとも重量比P/Caが6.0以下になる限界
のCa含有量を示す。したがって、この二つの直線の間
にCa量があるとき、図7で直線ABとCDの間にある
重量比P/Ca=0.6〜6.0の関係が満足される。
【0039】Ca含有量が多い場合、初晶Siの微細化
効果は得られないが、溶湯保持によりCa含有量が11
5ppm以下に減少するに伴って微細化効果が発現して
いる。同様に適量のCaが含有されていても、溶湯保持
によりCa含有量が11.5ppmより少なくなると、
微細化効果が得られなくなる。すなわち、重量比P/C
aが0.6〜6.0の範囲になるようなCa含有量にあ
るときに鋳造することによって、Ca及びPの共存効果
が発揮され、初晶Siの微細化が行われる。鋳造温度
は、主としてSi含有量をベースにして定められる。S
i含有量が高いほど、初晶Siを微細化するため鋳造温
度を高く設定する。Si含有量及び鋳造温度は、図11
に示すように初晶Siの微細化に影響を与える。鋳造温
度は、具体的にはAl−Si二元系状態図の液相線より
も70℃以上の高い温度に設定する。しかし、鋳造温度
が高くなりすぎると、Caの消耗が激しくなり、Ca含
有量を目標値にコントロールすることが難しくなる。そ
のため、鋳造温度の上限は、液相線+170℃にするこ
とが好ましい。
【0040】図11において、23%Si合金を840
度で鋳造した場合を△印で示している。これは、760
℃及び800℃で鋳造した場合、初晶Siが45〜50
μmと粗かったのに対し、840℃で鋳造した場合は3
0μmと改良効果があるものの、13〜21%のSiを
含む合金の場合のように初晶Siの大きさを20μm以
下に制御することができなかったことを示している。図
12は、重量比P/Ca=0.6〜6.0の条件下でP
を40〜130ppm及びCaを6〜120ppmを含
有させたAl−15〜23%Si合金を鋳造したときに
得られた結果を、初晶Siの粒径及びSi含有量につい
て整理したものである。なお、このときの鋳造温度は、
各合金の液相線+(70℃〜170℃)に設定した。
【0041】Si含有量が15〜21%のとき、何れも
初晶Siが20μm以下に微細化されている。これに対
し、Al−23%Si合金では、P含有量,Ca含有
量,重量比P/Ca,鋳造温度等を調整しても、Ca添
加による初晶Siの微細化効果はみられるものの、初晶
Siの粒径を20μm以下に制御することができなかっ
た。このことから、Si含有量の上限が21%に規定さ
れる。Si含有量が21%を超える過共晶Al−Si合
金では、一般的にいって初晶Siの微細化が難しい。し
かし、Caを添加することによって、P単独添加の場合
に比較して初晶Siが微細化されていることから、その
程度は異なるものの21%以下のSiを含有する合金の
場合と同じ原理に基づいているものと考えられる。この
ようにして鋳造直前の状態におけるCa含有量及びP含
有量をそれぞれ6〜120ppm及び40〜130pp
mの範囲に且つP/Caの重量比を0.6〜6の範囲に
調整したアルミニウム合金溶湯を鋳造するとき、初晶S
iの粒径が20μm以下の微細な鋳造組織をもつ鋳塊が
得られる。この鋳塊は、微細な初晶Siに起因して加工
性,切削性,耐摩耗性等の優れたものである。
【0042】実施例9:加工性を評価するため、Si:
15重量%,Cu:3.5重量%,Mg:0.5重量
%,残部Alの組成をもつ合金に対し、一方はPのみ
を、他方はP及びCaを添加してDC鋳造した。得られ
たDC鋳塊を500℃に5時間加熱する均熱処理を施し
た後、直径14mm及び長さ21mmの円柱状の試験片
を多数切り出し、400トンプレスを使用して温度45
0℃及び速度25mm/秒の条件下で据込み試験を行っ
た。なお、潤滑剤として窒化硼素を使用した。その他の
条件は、日本塑性学会冷間鍛造分科会冷間鍛造試験基準
[塑性と加工第22巻第241号(1981〜2)第1
39頁参照]に従った。試験結果から、P:71ppm
及びCa:3ppmを含有する合金は、割れが発生しな
い限界の加工率、すなわち限界据込み率が約65%に留
まっていた。他方、P:74ppm及びCa:55pp
mを含有し初晶Siを10μmと微細化した合金では、
限界据込み率が74%と著しく向上していた。
【0043】実施例8のA390合金鋳塊(図5及び図
6)について、同様の条件下で据込み試験を行った。
P:58ppm及びCa:1ppmを含有する合金の限
界据込み率は、約63%であった。他方、P:61pp
m及びCa:17ppmを含有し初晶Siを平均粒径1
5μmと微細化した合金では、限界据込み率が70%と
著しく向上していた。この61ppm及びCa:17p
pmを含み直径98mm及び長さ90mmのA390合
金鋳塊を温度340℃,速度2m/分で直径20mmの
丸棒に押し出した後、同じ据込み試験に供した。この試
験片を切断した後、光学顕微鏡で組織を観察したとこ
ろ、初晶Siの割れはほとんどみられなかった。また、
押出し材の限界据込み率は、約88%と過共晶合金とし
ては極めて高い値を示した。以上の据込み試験の結果か
ら、Ca添加によって初晶Siが微細化され、合金の加
工性が著しく向上していることが判る。
【0044】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、Ca含有量,P含有量及びP/Caの重量比を規制
することによって、粒径が小さい初晶Siが分散した微
細な鋳造組織をもち、且つ鋳造欠陥の少ない過共晶Al
−Si合金を得ている。この過共晶Al−Si合金は、
その微細な鋳造組織に起因して加工性,切削性,耐摩耗
性等に優れ、内燃機関用部品を始めとして耐摩耗性,耐
熱性等が要求される用途に使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例3でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図2】 実施例3でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図3】 実施例7でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図4】 実施例7でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図5】 実施例8でP処理のみを施した溶湯から製造
された鋳塊
【図6】 実施例8でCa及びPを共存させた溶湯から
製造された鋳塊
【図7】 Ca含有量,P含有量及びP/Ca比と初晶
Siの粒径の関係
【図8】 溶湯を760℃に保持したときのCa含有量
の経時変化
【図9】 溶湯を800℃に保持したときのCa含有量
の経時変化
【図10】 各種P含有量の溶湯を760℃に保持した
ときのCa含有量の経時変化と初晶Si緒微細化挙動
【図11】 Si含有量及び鋳造温度が初晶Siの微細
化に与える影響
【図12】 Si含有量と初晶Siの粒径
フロントページの続き (72)発明者 橋本 昭男 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 株式会社日軽技研内 (72)発明者 北岡 山治 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 株式会社日軽技研内 (72)発明者 鷺坂 栄吉 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 株式会社日軽技研内

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Si:13〜21重量%,Ca:6〜1
    20ppm及びP:40〜130ppmを含有し、P/
    Caが重量比で0.6〜6の範囲にあることを特徴とす
    る加工性に優れた過共晶Al−Si合金。
  2. 【請求項2】 初晶Siの粒径が20μm以下である請
    求項1記載の過共晶Al−Si合金。
  3. 【請求項3】 過共晶Al−Si合金の溶湯に含まれて
    いるP及びCaを、鋳造直前のP含有量が40〜130
    ppm,Ca含有量が6〜120ppmで且つP/Ca
    の重量比が0.6〜6の範囲になるように調整し、前記
    溶湯を鋳造することを特徴とする過共晶Al−Si合金
    の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の重量比P/Caが、溶解
    原料の成分調整,P原料及びCa原料の添加量と添加時
    期,合金溶解温度,溶湯保持温度と時間,脱ガス条件,
    鋳造温度等の操業条件によって調整される過共晶Al−
    Si合金の製造方法。
  5. 【請求項5】 合金を溶解した後、樋,溜り等でCaを
    添加する請求項3記載の過共晶Al−Si合金の製造方
    法。
JP4244259A 1992-08-19 1992-08-19 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法 Expired - Fee Related JP2730423B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP4244259A JP2730423B2 (ja) 1992-08-19 1992-08-19 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP4244259A JP2730423B2 (ja) 1992-08-19 1992-08-19 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH06158210A true JPH06158210A (ja) 1994-06-07
JP2730423B2 JP2730423B2 (ja) 1998-03-25

Family

ID=17116095

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP4244259A Expired - Fee Related JP2730423B2 (ja) 1992-08-19 1992-08-19 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2730423B2 (ja)

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH11335766A (ja) * 1998-05-26 1999-12-07 Yamaha Motor Co Ltd 鍛造用アルミニウム合金及びその製造方法
WO2004009271A1 (en) * 2002-07-22 2004-01-29 Showa Denko K.K. Continuous cast aluminum alloy rod and production method and apparatus thereof
JP2008223108A (ja) * 2007-03-14 2008-09-25 Kobe Steel Ltd アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法
JP2010012470A (ja) * 2008-06-30 2010-01-21 Nippon Light Metal Co Ltd 過共晶Al−Si系合金の鋳造方法及び鋳塊
WO2013077070A1 (ja) * 2011-11-24 2013-05-30 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板
WO2013077251A1 (ja) * 2011-11-21 2013-05-30 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS61246339A (ja) * 1985-04-22 1986-11-01 Honda Kinzoku Gijutsu Kk 溶湯鍛造された高靭性アルミニウム合金及びその製造法
JPH01319646A (ja) * 1988-06-21 1989-12-25 Kasei Naoetsu:Kk 防振性に優れた鋳造用アルミニウム合金
JPH0551683A (ja) * 1991-07-22 1993-03-02 Toyo Alum Kk 高強度の過共晶Al−Si系粉末冶金合金

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS61246339A (ja) * 1985-04-22 1986-11-01 Honda Kinzoku Gijutsu Kk 溶湯鍛造された高靭性アルミニウム合金及びその製造法
JPH01319646A (ja) * 1988-06-21 1989-12-25 Kasei Naoetsu:Kk 防振性に優れた鋳造用アルミニウム合金
JPH0551683A (ja) * 1991-07-22 1993-03-02 Toyo Alum Kk 高強度の過共晶Al−Si系粉末冶金合金

Cited By (14)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH11335766A (ja) * 1998-05-26 1999-12-07 Yamaha Motor Co Ltd 鍛造用アルミニウム合金及びその製造方法
WO2004009271A1 (en) * 2002-07-22 2004-01-29 Showa Denko K.K. Continuous cast aluminum alloy rod and production method and apparatus thereof
CN1323780C (zh) * 2002-07-22 2007-07-04 昭和电工株式会社 连铸铝合金棒材及其生产方法和装置
KR100758277B1 (ko) * 2002-07-22 2007-09-12 쇼와 덴코 가부시키가이샤 연속 주조 알루미늄 합금 봉 및 그 제조방법 및 장치
JP2008223108A (ja) * 2007-03-14 2008-09-25 Kobe Steel Ltd アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法
JP2010012470A (ja) * 2008-06-30 2010-01-21 Nippon Light Metal Co Ltd 過共晶Al−Si系合金の鋳造方法及び鋳塊
JP2013129909A (ja) * 2011-11-21 2013-07-04 Kobe Steel Ltd アルミニウム−マグネシウム合金およびその合金板
WO2013077251A1 (ja) * 2011-11-21 2013-05-30 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板
CN103842535A (zh) * 2011-11-21 2014-06-04 株式会社神户制钢所 铝-镁合金及其合金板
KR20140080548A (ko) * 2011-11-21 2014-06-30 가부시키가이샤 고베 세이코쇼 알루미늄-마그네슘 합금 및 그의 합금판
US9222152B2 (en) 2011-11-21 2015-12-29 Kobe Steel, Ltd. Aluminum—magnesium alloy and alloy plate thereof
JP2013108158A (ja) * 2011-11-24 2013-06-06 Kobe Steel Ltd アルミニウム−マグネシウム合金およびその合金板
WO2013077070A1 (ja) * 2011-11-24 2013-05-30 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板
CN103842536A (zh) * 2011-11-24 2014-06-04 株式会社神户制钢所 铝-镁合金及其合金板

Also Published As

Publication number Publication date
JP2730423B2 (ja) 1998-03-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP2010528187A (ja) 熱間割れ感受性を減じるためのアルミニウム合金配合物
JP2007211310A (ja) 半融合金鋳造用原料黄銅合金
JP3335732B2 (ja) 亜共晶Al−Si系合金及びその鋳造法
JPH07252567A (ja) 耐摩耗性に優れたアルミニウム鋳造合金及びその製造方法
JP2002535488A (ja) 半固体状態での成形のための過共晶アルミニウム−珪素合金生成物
US4053304A (en) Flux for refinement of pro-eutectic silicon crystal grains in high-silicon aluminum alloys
JPH0328341A (ja) アルミニウム―ストロンチウム母合金
JP3448990B2 (ja) 高温強度及び靭性に優れたダイカスト製品
JP3346186B2 (ja) 耐摩耗性,鋳造性,鍛造性に優れた鋳造・鍛造用アルミ合金材及びその製造法
JP2004256873A (ja) 高温強度に優れた鋳物用アルミニウム合金
JP2730423B2 (ja) 加工性に優れた過共晶Al−Si合金及び製造方法
US5366691A (en) Hyper-eutectic aluminum-silicon alloy powder and method of preparing the same
JP3430684B2 (ja) 高温強度,耐摩耗性及び防振性に優れたダイカスト製内燃機関部品及びその製造方法
JPH08104937A (ja) 高温強度に優れた内燃機関ピストン用アルミニウム合金及び製造方法
JPH06306521A (ja) 鋳物用過共晶Al−Si系合金及び鋳造方法
JPH06145865A (ja) Ca系助剤を併用する初晶Siの微細化
EP0421549A1 (en) Aluminium-strontium master alloy
JP3283550B2 (ja) 初晶シリコンの最大結晶粒径が10μm以下の過共晶アルミニウム−シリコン系合金粉末の製造方法
EP0592665B1 (en) Hypereutectic aluminum/silicon alloy powder and production thereof
JPH06279904A (ja) 鍛造用過共晶Al−Si系合金及び鍛造用素材の製造方法
WO2007094265A1 (ja) 半融合金鋳造用原料りん青銅合金
JP7293696B2 (ja) アルミニウム合金鋳造材およびその製造方法
Szymczak et al. Hypoeutectic silumin to pressure die casting with vanadium and tungsten
JP4544507B2 (ja) Al−Si共晶合金、Al合金製鋳物、鋳造用Al合金およびそれらの製造方法
JPS6360251A (ja) アルミニウム・珪素合金及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
LAPS Cancellation because of no payment of annual fees