JP2661911B2 - 高強度ばね用鋼線 - Google Patents

高強度ばね用鋼線

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【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、高強度ばね用鋼線に係り、特に内燃機関用
弁ばね、クラッチばね又はブレーキばね等の機械用ばね
に用いられるものに関する。 (従来の技術) 耐疲労性や耐へたり性が要望される代表的なばね用鋼
線としてはSi−Cr鋼のオイルテンパー線が用いられてい
る。 これらのワイヤーの引張強さは線径に応じた概略式と
して、 T.S.=71d−1/2+155 ここで、 T.S.:引張強さ(kgf/mm2) d:素線径(mmφ) で与えられる。 具体的にこの式に基づいて引張強さを求めると、4mm
φのワイヤーでT.S.は約190kgf/mm2となる。 また、ばね用オイルテンパー線としてSWRS67B等のピ
アノ線が用いられることがある。このときのワイヤーの
引張強さはSi−Cr鋼のオイルテンパー線よりも更に低
く、4.0mmφのワイヤーで目標とされる引張強さは約165
kgf/mm2である。 更に、ばね用ワイヤーとして、伸線加工されたまゝの
ワイヤーが用いられる場合もある。その代表的な例とし
て、SWRS82Aを伸線加工したワイヤーが挙げられるが、
その引張強さは約170kgf/mm2である。 そして、従来のばね用ワイヤーに関する規格としては
次のようなものがある。 《JIS規格等》 JIS G3566、JIS G3561、 JIS G3565、 JSMA(日本ばね工業会規格) (発明が解決しようとする問題点) 一般に、圧縮・引張コイルばねにおいて、ばねの高さ
H(mm)、並びに軸方向力が作用した場合の素線に生じ
るねじり応力(kgf/mm2)はそれぞれ次式で与えられ
る。 H=A・Na・d …… τ=8・P・D/(π・d3) …… 但し、 A:定数、Na:有効巻数、d:素線径(mm) P:ばねにかかる荷重(kgf) D:コイル平均径(mm) ところで、ばねの高さを低くすることによって、ばね
のみではなく、その駆動系全体及びそれを保護している
ブロックを軽量化することができるが、ばねの高さを低
くするためには、前記式からわかるように、有効巻数
Naを減少させ、素線径dを小さくすることが必要とな
る。 しかし、この場合には、前記式からわかるように、
ばねに作用する繰り返し応力が大きくなるため、ばねの
疲労寿命が低下してしまうという相反関係がある。 またエンジン等においては、その出力を向上させるた
めにはエンジンの回転数を上げることが最も有効であ
る。従って、エンジン等の要部に使用されているばねに
ついては、その固有振動数を大きくすることが望まれる
ことが少なくない。 なお、固有振動数f1は f1=3.56×105・d/(Na・D2) …… (JIS B2704) で与えられる。 このためには、有効巻数Naを減少させ、ばねの素線径
dを大きくすることが必要となる。 しかし、素線径dを大きくすると軽量化に不適当であ
るため、素線径dを一定にして有効巻数Naを減少させる
ことになるが、この場合にもばねに作用する繰り返し応
力が大きくなるため、ばねの疲労寿命が低下してしまう
という相反関係がある。 以上のことから、ばねの疲労寿命を保証するために
は、ばねの素材の強度を向上させることが必要となる。 現在使用されているばね用ワイヤーの代表的素材であ
るSi−Cr鋼でも、オイルテンパー処理での焼もどし温度
を下げることによって高強度ワイヤーは得られるが、こ
の場合には次のような問題点が生じる。 焼もどし処理は溶融鉛を使用することにより行われる
が、現行のSi−Cr鋼で高強度化を図るためには、素線径
4.0mmφのワイヤーで溶融鉛温度を400℃以下にしなけれ
ばならない。しかし、溶融鉛の融点は327℃であり、こ
の処理温度では処理鋼線の表面に鉛が付着してしまうと
いう問題がある。 更に、引張強さを220kgf/mm2以上にすると延性が極端
に低下し、ばねコイリング時での折損や疲労寿命の低下
を招いてしまうという問題がある。 一般に成形されたばねは、ばね成形時の歪除去と弾性
限の向上のためブルーイング処理がなされるが、この際
に現行のSi−Cr鋼で高強度を維持するためにはブルーイ
ング温度が低くなり、上記の問題点について充分な効果
が得られなくなる。 そこで、本発明は、上記従来技術の欠点を解消し、高
強度でも高い延性を有し、且つ高いブルーイング処理温
度でもその強度を維持する鋼線を提供することを目的と
するものである。 (問題点を解決するための手段) 上記目的を達成するため、本発明者は、化学成分をバ
ランスよく調整し、特に低C、高Cr、極低Al化により所
期の高強度化を図ると共に、またばね用鋼線としては引
張強さを調整して疲労特性の向上を図ったものであり、
その要旨とするところは、次のとうりである。 すなわち、高強度ばね用鋼線に係る本発明は、C:0.3
〜0.5%未満、Si:0.8〜2.0%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:1.2
〜2.5%、Al≦0.005%及び0≦30ppmを含み、更に必要
に応じてV:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、Nb:0.05〜0.
5%及びTa:0.05〜0.5%のうちの1種又は2種以上を含
み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線であっ
て、引張強さT.S.(kgf/mm2)が素線径d(mm)に対し
て、 71d−1/2+173≦T.S.≦71d−1/2+201 なる関係を有するように調整したことを特徴とするもの
である。 以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。 まず、本発明に用いられる鋼の化学成分を限定した理
由について説明する。 C: Cは強度を増大するために有効な元素であるが、0.3
%未満では十分な強度を得ることができず、また0.5%
以上では、本発明のようにCr量が1.2%以上の鋼を用い
る場合には靭性が劣化するので、0.3〜0.5%未満とし
た。 Si: Siは脱酸に有効で、且つオイルテンパー処理した場合
の強度増大に大きく寄与する元素であるが、0.8%未満
では高強度にすることが困難になる。一方、2.5%を超
えると脱炭を助長して表面の強度を低下させるばかりで
なく、Alの混入源となる。後述するように、Alの増加は
非延性介在物を生成せしめるため、ばねの疲労特性が悪
くなる。従って、Si量は0.8〜2.5%とした。 Mn: 焼入焼もどし処理では、鋼の焼入性が重要であり、こ
のためにはMnの添加がなされなければならない。また、
鋼の靭延性に有害なSを固定する役割を果たすため、あ
る程度のMnの添加が必要とする。しかし、添加しすぎる
と、処理鋼の延性が低下し、高強度ワイヤーが得られな
くなる。従って、Mn量は0.1〜1.0%とした。 Cr: 脱炭を防止するのに有効な元素であり、また、鋼の焼
もどし軟化抵抗を大きくするため、高強度化に有効であ
る(第1図参照)。しかし、1.2%未満ではその効果は
少なく、2.5%を超えると既述のような低Cの範囲でも
靭性が劣化するので、Cr量は1.2〜2.5%とした。 Al: Alを0.005%以上添加した材料では多数のAl2O3が生成
し、このAl2O3は非延性であるだけでなく、非常に硬度
が高いため、疲労試験において早期破壊が発生する。こ
のため、Alの添加量は極力抑えるべきであり、0.005%
以下にする必要がある。 O: Oは鋼中のAl、Siなどと結び付いてSiO2系、Al2O3
の介在物を生成する。これらの介在物は疲労に有害であ
るので、少なくするにはOを30ppm以下に規制する必要
がある。 V、Mo、Nb、Ta: これらの元素は析出強化を付与する元素であり、高強
度化に効果があるので、必要に応じて単独又は複合して
適量添加することができる。 すなわち、Vの添加は結晶粒を微細にし、処理鋼の靭
延性の向上に寄与する。また、耐へたり性の改善にも有
効である。更に、Vはばね成形後の歪取り焼鈍及びオイ
ルテンパー処理において二次析出強化を図るため、焼も
どし軟化抵抗が大きくなり、高強度化に有効である。し
かし、0.05%以下ではその効果は非常に小さくなる。 一方、オイルテンパー処理におけるオーステナイト化
時に過度にVを添加すると溶け込まず、未溶解炭化物が
オイルテンパー材に残ってしまい、この未溶解炭化物が
粗大になると処理材の延性が低下する。従って、この添
加量には上限があり、0.5%である。以上のことから、
V量を0.05〜0.5%とした。 また、Mo、Nb、Taは、Vと同様に析出強化を付与する
元素であり、高強度化に効果がある。しかし、各元素と
も0.05%以下ではその効果が小さく、一方、0.5%を超
えると粗大な未溶解炭化物ができるため、各元素の添加
量はそれぞれ0.05〜0.5%の範囲とした。 なお、P、S等々の不可避的不純物を規制するのが望
ましい。例えば、鋼中にPが多く存在すると偏析の原因
となり、素材の靭延性を損う恐れがあるので、Pを0.02
0%以下にするのが望ましい。またS含有量が高くなる
とワイヤーの絞り値を低下させることになるので、高強
度ワイヤーで良好な絞り値を得るにはSを0.010%以下
にするのが望ましい。 次に、引張強さを素線径との関係で限定した理由につ
いて説明する。 一般的にばねの素線の疲労限はワイヤーの引張強度が
高いほど向上する。 しかし、引張強さT.Sが素線径dに対して、T.S.=71d
−1/2+155で与えられる強度より10(kgf/mm2)程度大
きくても疲労限の向上は顕著でなく、目的を達成するこ
とができない。一方、T.S.=71d−1/2+201で与えられ
る強度より大きくなると靭延性が不足し、コイリング時
に折損が増えるだけでなく、疲労限も低下してゆく。従
って、前記鋼をオイルテンパー処理し、引張強さを素線
径に対して、 71d−1/2+173≦T.S.≦71d−1/2+201 なる関係を有するように調整することにより、ばね用鋼
線を得ることとした。 次に、本発明の一実施例を示す。 (実施例) 第1表に示した化学成分(wt%)を有する供試鋼(a
〜d)につき素線径4.2mmφのワイヤーを製造し、オイ
ルテンパー処理[加熱(875〜925℃)→油焼入れ(60〜
70℃)→焼戻し(400〜450℃)]した後に中村式回転曲
げ疲労試験機で疲労試験を行い、疲労限度を求めた。 その結果を第2表に示す。 同表より、本発明に用いられる鋼種a、bを用い、オ
イルテンパー処理により引張強さを調整した場合には、
高強度で優れた疲労特性を示すことが分かる。これに対
して本発明で規定する成分組成を満足しないc、dを用
いた場合には、引張強さを素線径(4.2mmφ)に対して
所望の強度に調整すること(207.6〜235.6kgf/mm2)自
体が困難であり、疲労限測定用サンプルを得ることがで
きなかった。特に鋼種dはAlの量が多く、Al2O3系の非
金属介在物が鋼中に多数存在するため、T.S.が195〜205
kgf/mm2においても疲労限が低いことが分かる。 (発明の効果) 以上詳述したように、本発明によれば、鋼の化学成分
をバランスよく調整すると共に、該鋼を使用し、従来か
らのSi−Cr鋼と同様の焼もどし及びブルーイング処理温
度で処理することによって、引張強さが素線径に対して
T.S.=71d−1/2+173(kgf/mm2)以上の引張強さを有す
るオイルテンパー線が得られるだけでなく、超微細粒を
有する鋼線を製造することが可能となる。 特に、このワイヤーを使用することにより、従来より
高い疲労強度を有したばね用鋼線を得ることができ、更
に本発明ではAlが極端に低いレベルに押さえられている
ため、疲労に有害な非延性介在物も非常に少なくするこ
とができる。 従って、従来材(Si−Cr鋼等)よりも高い疲労強度を
得ることが可能となり、エンジンの小型化や軽量化に寄
与するだけでなく、小型のばねで高出力の機能を内燃機
関に与えることが可能となる。 また高Cr量の添加により焼もどし軟化抵抗が向上し、
高強度鋼線の製造が可能になると共に、弁ばね用鋼線で
重要な耐熱性も向上する。
【図面の簡単な説明】 第1図は引張強さとブルーイング温度の関係に与えるCr
の効果を示す図である。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−30653(JP,A) 特開 昭60−89553(JP,A) 特公 昭33−6454(JP,B1)

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 1.重量%で(以下、同じ)、C:0.3〜0.5%未満、Si:
    0.8〜2.5%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:1.2〜2.5%、Al≦0.00
    5%及び0≦30ppmを含み、残部がFe及び不可避的不純物
    からなる鋼線であって、引張強さT.S.(kgf/mm2)が素
    線径d(mm)に対して、 71d−1/2+173≦T.S.≦71d−1/2+201 なる関係を有するように調整したことを特徴とする高強
    度ばね用鋼線。 2.前記不純物として、P≦0.020%、S≦0.010%に規
    制した特許請求の範囲第1項に記載の高強度ばね用鋼
    線。 3.C:0.3〜0.5%未満、Si:0.8〜2.5%、Mn:0.1〜1.0
    %、Cr:1.2〜2.5%、Al≦0.005%及び0≦30ppmを含
    み、更にV:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、Nb:0.05〜0.
    5%及びTa:0.05〜0.5%のうちの1種または2種以上を
    含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼線であっ
    て、引張強さT.S.(kgf/mm2)が素線径d(mm)に対し
    て、 71d−1/2+173≦T.S.≦71d−1/2+201 なる関係を有するように調整したことを特徴とする高強
    度ばね用鋼線。 4.前記不純物として、P≦0.020%、S≦0.010%に規
    制した特許請求の範囲第3項に記載の高強度ばね用鋼
    線。
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