JP2654825B2 - 新規環状イヌロオリゴ糖およびその製造法 - Google Patents

新規環状イヌロオリゴ糖およびその製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、新規な環状イヌロオリゴ糖およびその製造
法に関するものである。
〔従来の技術〕
数個の糖単位からなる環状化合物としては、従来、α
−1,4結合したグルコース6〜8分子からなるサイクロ
デキストリンが知られている。この環状オリゴ糖は、種
々の物質を包接し、それにより、光や熱に対する安定性
を向上させ、揮発性物質を安定に保持し、さらには水難
溶性物質を易溶性にするなど、有用な作用を示すから、
食品、医薬品、化粧品等の分野で広く用いられている。
しかしながら、グルコース以外の糖が環状オリゴ糖を形
成した例はあまり知られておらず、フラクトースの場
合、フラクトース2分子からなるものが報告されている
だけで、それ以上の多数分子からなる環状化合物は知ら
れていない。
〔発明が解決しようとする課題〕 そこで本発明の目的は、従来知られてはいないがその
有用性が大いに期待される多数のフラクトース分子から
なる環状オリゴ糖を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕 本発明が提供することに成功した新規環状オリゴ糖
は、下記のようにフラクトース6〜8分子がβ−2,1結
合で環状構造を形成してなるものである。
この環状イヌロオリゴ糖は、重合度が8以上のβ−2,
1結合フラクトースポリマーに作用してフラクトース6
〜8分子からなる環状オリゴ糖を分子内転移反応により
生じさせる酵素・cycloinulo−oligosaccharide fructa
notransferase(略称:CFTase)または該酵素を菌体外に
産生するバチルス属微生物をイヌリンに作用させること
により、製造することができる。
環状イヌロオリゴ糖を製造するにあたり使用する酵素
・CFTaseを産生する微生物の例としては、バチルス・サ
ーキュランスMZ No.31(微工研菌寄第9943号)がある。
CFTaseは、バチルス・サーキュランスMZ No.31(微工
研菌寄第9943号)など、この酵素を生産する能力を有す
る細菌を、β−2,1−フラクトシド結合を有するフラク
トースポリマーの存在下に培養することにより、誘導産
生させることができる。このとき使用可能なフラクトー
スのポリマーとしては、イヌリン、レバン、イヌロオリ
ゴ糖類、フラクトオリゴ糖類、レバンオリゴ糖類、およ
びこれらを含有する植物抽出物または微生物培養物など
があるが、特に好ましいのは、イヌリンおよびレバンで
ある。CFTaseは菌体外に生産されるので、培養液から菌
体を除去した後、硫安塩析、限外ろ過、イオン交換樹脂
クロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィ
ーなど、任意の酵素精製手段で精製することにより容易
に高活性のものを得ることができる。
次に、CFTaseまたはその生産菌を用いてイヌロオリゴ
糖を製造する方法について詳述する。
CFTase生産菌をイヌリンに作用させる場合は、イヌリ
ンまたはイヌリン含有植物抽出物を約0.1〜50重量%含
有させた培地で、温度20〜35℃で1〜6日間、CFTase生
産菌を培養する。培養によりCFTaseが生産され、生産さ
れたCFTaseの作用により培地中のイヌリンから本発明の
環状イヌロオリゴ糖が生成するので、培養終了後、培養
物から環状イヌロオリゴ糖を採取する。
精製したCFTaseを用いる場合は、イヌリンまたはイヌ
リン含有植物抽出物の水溶液にCFTaseを加え、好ましく
はpH6〜8(特に好ましくはpH6.3〜6.8)、温度10〜70
℃(特に好ましくは35〜50℃)で、最高収率が達成され
るまで反応させればよい。反応に用いるCFTaseとして
は、CFTase生産菌の培養物から菌体を除去しただけの粗
酵素液を用いることもできるし、これを酵素精製の常法
により精製した酵素を用いることもできる。また、アル
ギン酸カルシウムゲル包括、グルタルアルデヒド処理等
の酵素固定化の常法により固定化したCFTaseを用いても
よい。
酵素反応終了後、反応液から目的物である環状イヌロ
オリゴ糖を採取する手段としては、活性炭カラムクロマ
トグラフィー、イオン交換樹脂カラムクロマトグラフィ
ー等のクロマトグラフィー処理、種々の膜を用いる膜分
離濃縮などがある。
得られる環状イヌロオリゴ糖は、フラクトース重合度
nが6〜8のものの混合物である。組成は酵素反応の条
件によって変わり、通常、nが6のものが50〜100%、
nが7のものが0〜50%、nが8のものが0〜20%の範
囲で変動する。これら3種のオリゴ糖は、いずれも包接
作用を有するので、多くの用途には、組成のいかんにか
かわらず混合物のままでも使用することができる。しか
しながら、3種の環状イヌロオリゴ糖を分離する必要が
あるときは、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー等のク
ロマトグラフィーによる分離を行う。
本発明による3種の環状イヌロオリゴ糖の構造は、次
のような事実により確認された(後記実施例1参照)。
還元力 還元力をネルソン−ソモギ法で測定すると、いずれも
還元力を示さず、非還元糖であることが確認され、環状
構造が支持された。
構成糖 0.1N−H2SO4により60℃で2時間加水分解するといず
れからも単糖類としてはフラクトースのみが得られ、フ
ラクトースのみからなるものであることが確認された。
13C−NMRスペクトル いずれも6本のシグナルが認められるだけであって、
環状構造が支持された。また、イヌリンの13C−NMRスペ
クトルと比較して、β−2,1結合していることが確認さ
れた。
分子量 マススペクトルによる分子量測定は、分子量がそれぞ
れ972、1135、および1297であることを示し、フラクト
ース残基の数が6、7、および8であることが確認され
た。
本発明の環状イヌロオリゴ糖は、次のような物理的化
学的性質を有する。
味:無味 色:白色粉末 溶解性:室温で水10mlに1gは容易に溶解する。
温度安定性:1%水溶液を120℃で10分間、沸騰水中
で20分間、70℃で1時間、加熱したが、分解されなかっ
た。
pH安定性:McI lvaine氏緩衝液(pH3,3.5〜7.0)に
1%濃度となるように溶解し、沸騰水中で20分間、70℃
で1時間、加熱したが、分解されなかった。
微生物分解性: 下記10種の細菌、酵母、カビについて試験したが、炭
素源として利用されず、分解されなかった。
Bacillus circulans Escherichia coli Pseudomonas fluorescens Lactobacillus casei Lactobacillus arabinosus Saccharomyces cerevisiae Pichia nakazawae Rhizopus nigricans Mucor pusillus Aspergillus oryzae Aspergillus niger 〔実施例〕 以下、実施例を示して本発明を説明する。
実施例1 イヌリン1%、酵母エキス0.5%、K2HPO40.1%、NaNO
30.5%、MgSO4・7H2O0.05%を含むpH7.0の培地100mlを
入れた500ml容坂ロコルベン20本にバチルス・サーキュ
ランスMZ No.31を植菌し、28℃で4日間、振とう培養し
た。培養終了後、遠心分離して菌体を除き、培養液上清
1800mlを得た。
この培養液上清を活性炭−セライトカラム(直径5c
m、高さ50cm;活性炭とセライトの1:1混合物を充填)に
通し、オリゴ糖を吸着させた。次いで、カラムに5の
水を流した後、濃度5%、10%、15%、20%、25%、30
%のエタノール含有水各5を順次流して吸着物を溶出
させると、オリゴ糖は15%エタノールによる溶出画分に
高率で含まれていた。この画分を減圧濃縮し、乾燥物5.
0gを得た。
上記乾燥物1.0gを少量の水に溶解し、Bio−gel P−4
(BIORAD社)によるゲル濾過カラムクロマトグラフィー
を行なった。溶出液は、溶出するオリゴ糖を薄層クロマ
トグラフィーにより検出しながら10mlごとに採取し、そ
の後、同一オリゴ糖の溶出フラクションをまとめて濃
縮、乾燥した。
得られた三つのフラクションα−CI(210mg)、β−C
I(30mg)およびγ−CI(10mg)は、いずれも高速液体
クロマトグラフィーで1ピークのものであった。
これらのオリゴ糖は還元性を示さず、また、0.1N−H2
SO4による60℃・2時間の加水分解で生成する単糖類は
フラクトースのみであった。
α−CIをD2Oに溶解し、内部標準としてジオキサンを
用いて13C−NMRスペクトルを測定したところ、61.4ppm
(C−1)、103.7ppm(C−2)、79.0ppm(C−
3)、75.2ppm(C−4)、82.3ppm(C−5)、63.3pp
m(C−6)の6本のシグナルしか検出されなかった。
また、文献(Carbohydrate Research Vol.76,p.45〜5
7)記載のイヌリンの13C−NMRと比較することにより、
α−CIはフラクトースがβ−2,1結合で環状構造を形成
していることが確認された。さらに、α−CIの完全メチ
ル化体をメチル化アルジトールアセテートとしてGC−マ
ススペクトル分析した結果も、上記結合様式を支持し
た。β−CIおよびγ−CIの13C−NMRもα−CIの場合とほ
ぼ同一のスペクトルを示し、α−CI同様、フラクトース
がβ−2,1結合で環状構造を形成していることが確認さ
れた。
さらに、マススペクトル分析の結果、α−CIはヘキソ
ース分子6個、β−CIはヘキソース分子7個、γ−CIは
ヘキソース分子8個にそれぞれ相当する分子量のもので
あることが確認された。
以上の結果より、α−CIはフラクトース6分子が、β
−CIはフラクトース7分子が、γ−CIはフラクトース8
分子が、それぞれβ−2,1結合で環状構造を形成してい
る化合物であることを確認した。
実施例2 実施例1の場合と同一条件でバチルス・サーキュラン
スMZ No.31株を培養し、培養終了後、遠心分離して培養
液から菌体を除き、培養上清1.8を得た。この上清1
を粗酵素液として2%イヌリン水溶液1に加え、pH
6.5、45℃で、4日間反応させた。次いで100℃で10分間
加熱して、酵素を失活させた。
以下、実施例1と同様に処理して、α−CI4.74g、β
−CI1.04g、γ−CI0.22gを得た。得られた各環状イヌロ
オリゴ糖の性質は、実施例1で示した値と一致した。
実施例3 実施例2により得られた環状イヌロオリゴ糖につい
て、α−トコフェロールに対する包接作用を調べた。
50%メタノールを溶媒とする0.2%環状イヌロオリゴ
糖溶液に0.1%α−トコフェロール溶液(溶媒:メタノ
ール)50mlを加え、よく混合、撹拌した後、1夜放置し
た。溶媒を減圧下除去し、乾燥した後、蒸留水5mlを加
え、よく混合、撹拌し、メンブレンフィルター(0.45μ
m)で不溶物を除いてから、294nmの吸光度・OD294を測
定した。OD294は、環状イヌロオリゴ糖に包接されて水
に溶けたα−トコフェロールの量に比例する。
結果を表1に示す。
〔発明の効果〕
本発明による環状イヌロオリゴ糖は、包接作用を有す
るので、難水溶性物質の可溶化、光や熱に対して不安定
な物質の安定化、矯味、矯臭、揮発性物質の保持などに
有用なものである。
本発明の環状イヌロオリゴ糖はまた、水への溶解性 がよく、非還元糖であるためアミノ酸との褐変反応を起
こさず、味やにおいもない。さらに、通常の使用法にお
いて遭遇する熱、酸、アルカリ等に安定であり、微生物
により資化されにくいなど、きわめて有利な性質を持つ
から、多くの用途に制限なく使用することができるとい
う特長がある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 川村 三志夫 奈良県奈良市左京3―23―3

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】フラクトース6〜8分子がβ−2,1結合で
    環状構造を形成してなる新規環状イヌロオリゴ糖。
  2. 【請求項2】重合度8以上のβ−2,1結合フラクトース
    ポリマーに作用して分子内転移反応によりフラクトース
    6〜8分子からなる環状オリゴ糖を生じさせる酵素また
    は該酵素を菌体外に産生するバチルス属微生物をイヌリ
    ンに作用させることを特徴とする、フラクトース6〜8
    分子からなる環状イヌロオリゴ糖の製造法。
  3. 【請求項3】バチルス・サーキュランスMZ No.31(微工
    研菌寄第9943号)が産生する酵素をイヌリンに作用させ
    る請求項2記載の製造法。
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