JP2528674B2 - 製パン・製菓用油脂組成物及びその製法 - Google Patents

製パン・製菓用油脂組成物及びその製法

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JP2528674B2
JP2528674B2 JP62249571A JP24957187A JP2528674B2 JP 2528674 B2 JP2528674 B2 JP 2528674B2 JP 62249571 A JP62249571 A JP 62249571A JP 24957187 A JP24957187 A JP 24957187A JP 2528674 B2 JP2528674 B2 JP 2528674B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、製パン・製菓用油脂組成物とその製法に関
する。更に詳しくは、イースト由来の生地改良機能を有
する活性物質、又はイースト及びイースト由来の活性物
質と小麦粉との反応を進めた液を、油脂に乳化配合する
ことによつて、用途に応じた生地改良機能の強化された
油脂組成物を提供する方法に関するものである。
(従来の技術と問題点) 油脂組成物は、マーガリンやシヨートニングとして製
パン・製菓の生地調製に多量に使用されている重要な副
原料である。油脂組成物の機能としては、生地の伸展性
(Extensibility)の改善、ガスの保持力を高め製品の
体積を増加する作用、生地の機械耐性の付与、製品の老
化防止など極めて重要な働きをすることが知られてい
る。
一方、油脂と共に、製パン・製菓で重要な役割りを果
している副原料としてイーストがあげられる。製パンに
おけるイーストの機能としては、(1)ガス発生、
(2)生地形成の促進、(3)風味形成の3つの働きが
生地の熟成工程で発揮されることが知られている。
本発明は、イースト由来の機能と油脂の持つ機能を結
びつけることによつて、夫々が本来持つている機能を相
乗的に高め、安定して発揮しようとするものである。
上記のように、油脂又はイーストが生地の物性及び製
品品質に極めて重要な働きをすることが知られている
が、生地熟成の機作については、多くの研究があるもの
の未解明の部分が多い。例えば、油脂の生地における働
きについては、油脂がグルテン膜にそつて拡がり、伸展
性及びガス保持力を高めるという説、小麦粉に存在する
脂質と油脂が結びつくことによつてガス保持力を高める
という説、油脂とグルテンとの相互作用など、いくつか
の仮説がある。
イーストの働きについては、ガス発生能については詳
細な作用機作が明らかにされているが、生地形成、風味
形成等に関しては未解明の部分が多く、有機酸,エステ
ル類,エタノールなどアルコール類など代謝物を通じて
生地形成を促進する作用、イースト菌体から漏洩する還
元物質や酵素類の作用など、いくつかの可能性が示唆さ
れている段階である。
製パン・製菓の生地に必要とされる伸展性、機械耐
性、ガス保持力などの物性は、グルテン・蛋白質の解離
(低分子化)、と再会合によるネツトワーク形成の現象
と関連することが推定され、研究が進められているが、
イースト由来の物質の中で還元型グルタチオンはグルテ
ン蛋白質の−SS−結合切断、又はプロテアーゼの活性化
による蛋白分子の低分子化等を通じて、生地の伸展性を
改良することが知られており、製パン・製菓の生地改良
剤としての応用が試みられている。又、グルタチオンを
含むと推定されるイースト分解物をパン製造に用いる方
法も知られている。しかし、還元型グルタチオン、又は
酵母分解物は空気酸化など受けやすく極めて不安定であ
ることと、作用が速効性であり、製パン上は使用しにく
いという欠点があつた。イースト由来の物質の中でグル
タチオンのほかに、小麦粉中のグルテンに作用し、生地
熟成を促進する可能性のある物質としては、前述のよう
に有機酸,アルコール,エステル類,など生地熟成中に
イースト及び乳酸菌などの作用で蓄積する物質、及びイ
ースト或いは乳酸菌等から分泌される可能性のあるプロ
テアーゼ等の酵素類があげられる。これらが還元物質と
共に複合的に働き、生地熟成を進めると思われる。この
場合、注目すべきことは、還元型グルタチオン、プロテ
アーゼ等生地熟成に関わる可能性のある物質が、通常
は、酵母細胞内に存在し、酵素活性はインヒビター等の
作用で活性の発酵が抑えられているということである。
即ち、イースト細胞を破壊し、これらの物質を細胞外
に漏出させ、活性化することによつて、より大きな効果
を発揮することが期待される。但し、先に述べたよう
に、菌体外に漏出したこれらの活性物質は極めて不安定
であり、何らかの保護方法を工夫しないと安定した効果
を発揮することは不可能である。そこで、本発明者ら
は、活性の保護方法として、油脂に乳化配合し、油脂組
成物を調製する方法を試みた。即ち、油脂によるマスキ
ング効果及び、一般に天然油脂中に存在する抗酸化剤の
効果等の複合効果を期待して試験を行なつたところ、期
待通りの良好な保存安定効果と、生地調製に油脂組成物
を使用する場合、イースト細胞破壊液を直接生地に使用
する効果以上の生地改良効果を示すことを見い出した。
更に、研究を進め、イースト細胞破壊液又はイースト細
胞破壊液及びイーストと小麦粉とを反応させた後、油脂
に乳化配合し油脂組成物を調製し、かかる組成物を製パ
ン・製菓の生地に使用することによつて、生地改良活性
の保存性の改良と共に、生地の伸展性、機械耐性、ガス
保持力、内相の改善、風味の向上など、相乗的な改良効
果が得られることを見い出し、本発明を完成した。
(発明が解決しようとする問題点) 本発明の目的の一つは、製パン・製菓用の生地改良機
能の強化された油脂組成物を提供することにある。第2
の目的は、生地の主原料である小麦粉、副原料であるイ
ースト,油脂の本来持つている機能を高め、あらかじめ
相互作用を進めることによつて、安定した生地熟成を進
める方法を提供しようとするものである。第3の目的
は、イースト菌株由来の生地改良活性を、油脂への乳化
配合又は粉末油脂に配合することによつて安定的に維持
し、製パン・製菓用の生地改良効果を安定して発揮させ
る方法を提供するものである。第4の目的は、小麦粉中
のグルテンをイースト菌株由来の活性によつて、反応
(例えば還元力による低分子化)を進め、油脂との相互
作用を進めて、生地物性を改善する方法を提供するもの
である。
以上の目的を通じて、安定した品質の製品を製造する
と共に、工程短縮など合理化に役立つ方法を提供しよう
とするものである。
(問題点を解決するための手段) 本発明は、1〜50重量部の水相部、50〜99重量部の油
脂部、0.1〜5.0重量部の乳化剤を乳化して得られる油脂
組成物に関するものであるが、以下その製法について詳
細に説明する。
まず水相部は、イースト細胞破壊液又はイースト細胞
破壊液とイーストとを接触せしめた小麦粉懸濁液を基本
成分として有する液体である。
ここに用いるイーストとしては、パン酵母のほかに、
ビール酵母、ワイン酵母等醸造用酵母などサツカロミセ
ス属に属する酵母、チーズ・ホエーなど乳関連物質の発
酵に用いられるクルイベロミセス属に属する酵母(例え
ばKluyveromyces lactis),又はキヤンデイダ(Candid
a)属酵母など、食品に用いられる酵母類があげられ
る。最も適した酵母はパン酵母であるが、酵母の種類に
よつて、酵素活性、酸化・還元力、風味、前駆物質など
異なつており、目的に応じて、これらの酵母の2種以上
の組み合せを使用することも可能である。市販されてい
る圧搾酵母又は乾燥酵母のいずれも使用できる。
まず、イースト懸濁液を調製する。濃度は1〜20%乾
燥菌体換算濃度の範囲である。イースト濃度は、イース
ト細胞破壊液の生地改良効果に必要な還元力のレベルに
応じて選ぶことができる。即ち、例えば短時間で生地の
伸展性を付与するビスケツト生地の場合は、イースト濃
度を高目に、また発酵時間が比較的長く機械耐性(生地
の伸展性と粘弾性が関係すると思われる)と共にガス保
持力が要求されるパン生地の場合は、やや低目に調製す
る。
還元力の指標としては、後述の過ヨウ素酸(KIO3)を
用いる滴定法で、例えばビスケツト類など焼菓子類の場
合、0.1〜10ml×10-3M KIO3溶液/ml(水相部)の滴定値
を示す全還元力、パン類の場合、0.02〜1.0ml×10-3M K
IO3溶液/ml(水相部)の全還元力があげられる。但し、
パン類の場合、用いる酸化剤の種類と濃度に応じて、最
適量を製パン試験等で決定する。
イースト細胞を破壊する方法としては、一般的な方法
として自己消化を進める方法があげられる。例えばイー
スト懸濁液をpH4〜6、温度40〜45℃で攪拌する方法、
又は酢酸エチルを0.5〜5.0%(対液)添加し、同様にpH
4〜6、温度20〜45℃で攪拌する方法があげられる。超
音波処理など物理的な手段で破壊することも可能であ
る。更に、イースト懸濁液を60〜95℃で短時間、例えば
2〜15分間加熱処理する方法もあげられる。この場合、
酵素類の活性の大部分は失活するが、還元物質等の生地
熟成活性化因子は菌体外に漏洩し、有効に利用すること
ができる。
得られたイースト細胞破壊液は直ちに油脂組成物の調
製に用いることができるが、pH4.5〜5.5の範囲に1〜3
日保存することによつてプロテアーゼ活性を高めること
ができる。このように、活性化処理したイースト細胞破
壊液を用い、油脂組成物を調製することができる。更
に、イースト細胞破壊液又はイースト細胞破壊液及びイ
ーストとを小麦粉と反応させた後、油脂組成物を調製す
ることによつて生地改良効果を高めることができる。即
ち、イースト細胞破壊液中、小麦粉0.5〜20%を加え
て、pH4.0〜6.0、温度20〜50℃の範囲で0.5〜2時間程
度攪拌する。小麦粉の代りに、0.1〜5%の活性グルテ
ンを添加することもできる。別の方法として、イースト
懸濁液に小麦粉を加えて均一に混合し、pH4〜6、温度4
0℃以下で攪拌下に小麦粉のイーストによる発酵を進め
る。発酵の時間は30℃で2〜4時間であるが、25℃以下
の場合、4時間以上とることもできる。小麦粉とイース
トとの発酵によつて、小麦粉成分を利用したイーストに
よる発酵が進み、生地における熟成に類似した反応が進
む。
小麦粉とイーストとの発酵を行なう場合に乳酸菌を添
加することもできる。乳酸菌の添加によつて、生地熟成
の促進効果と共に風味の改善した効果も期待できる。乳
酸菌としては、ラクトバチルス属、ストレプトコツカス
属、ペデイオコツカス属、ロイコノストツク属に属する
乳酸発酵のスターターを用いることができる。
発酵が終つた後、イーストの自己消化を行ない、更に
反応を進める。自己消化の方法としては、先の述べた方
法の中で、酢酸エチルを用いる方法が簡便であり、高い
生地改良効果を持つ油脂組成物の調製が可能である。酢
酸エチルは、イーストの自己消化の促進効果と共に、小
麦粉中のグルテンに作用し、油脂組成物を調製する際
に、油脂とグルテンとの相互作用を有効に進める効果を
持つものと推定される。即ち、本発明では酢酸エチルを
用いる自己消化後、酢酸エチルは真空蒸溜によつて蒸
発、回収するが、通常自己消化液中に50〜500ppm残存
し、上に述べた補助的な効果を発揮するものと推定され
る。
油脂としては、大豆油,綿実油,なたね油,パーム
油,ヤシ油,落花生油,コーン油,パーム核油,ホホバ
油(Jojoba),クヘヤ油(Cuphea),魚油,牛脂,乳
脂,等動植物油脂及びそれらの硬化油,分別油,エステ
ル交換油,などを単独又は混合して用いる。油脂原料の
融点は20〜45℃の範囲のものを用いる方が好ましい。
乳化剤としては特に限定しないが、例えばグリセリン
脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステ
ル,ポリグリセリン酸脂肪酸エステル,シヨ糖脂肪酸エ
ステル,ソルビタン脂肪酸エステル,レシチンなどが使
用できる。その使用量は0.1〜5.0%の範囲である。
油脂組成物の調製法としては、水相部、油脂部、乳化
剤を混合し、攪拌によつて予備乳化を行ない、急冷、混
捏して可塑化し、油脂組成物を得る。
装置としては、例えばボテーター,パーフエクター,
オンレーター,コンビネーター,コンプレクターなどを
用いることができる。通常のマーガリン等の油脂組成物
と本発明の水相とを混捏し、「後合せ法」によつて、油
脂組成物を得ることもできる。即ち、例えば乳化油脂組
成物であるマーガリンと本発明の水相部をミキサーに入
れ、30〜45℃で攪拌して再乳化を行なつた後、冷却する
ことによつて油脂組成物を得ることができる。この場
合、必要に応じ、乳化剤を追加使用する。
還元力のほかに、酵素活性の生地への作用を期待する
場合、上述の「後合せ法」によつて油脂組成物の調製を
簡便に実施することができる。可塑化した油脂組成物は
10℃以下で保存する方が好ましい。
保存安定性のすぐれた油脂組成物の調製法として、粉
末油脂を調製する方法があげられる。粉末油脂の製造法
は種々報告されているが、代表的な例として噴霧乾燥方
式があげられる。即ち、水相部に、被膜剤又は安定剤と
して小麦タンパク,カゼイン,大豆タンパク,脱脂粉
乳,卵白アルブミン,ゼラチン等タンパク質又はタンパ
ク質含有天然物;デンプン,デキストリン,麦芽糖,乳
糖など炭水化物,又はアラビアガム,グアガム,カラギ
ーナン,キサンタンガム,セルロース誘導体などガム類
を添加し、油脂部、乳化剤を混合・攪拌して乳化し、ホ
モゲナイズ後、噴霧乾燥することによつて粉末油脂が得
られる。本発明では、水相部にイースト細胞破壊液又は
イースト細胞破壊液及びイーストとを接触せしめた小麦
粉懸濁液を用いる。粉末油脂は、保存安定性が優れてい
る、即ち室温での保存が可能となると共に、粉体との混
合が容易となり、取り扱いが簡便となるなどの利点があ
る。粉末油脂調製に用いる油脂としては、硬化植物油
脂、例えばコーン油,綿実油,ヤシ油,パーム油,大豆
油等が好ましい。
以上のごとく調製した油脂組成物は、pH4〜6、温度1
0℃以下で保存すると、少くとも1ケ月の間は保存可能
であり、この間全還元力は調製時の70〜80%以上維持さ
れ、プロテアーゼ活性も適度に増加し、その上風味もそ
こなわれない。従つて、この間任意に取出して製パン・
製菓生地として使用に供することが出来る。この時の使
用量は、使用時点での全還元力、プロテアーゼ活性など
各々の標準の性質に応じて決めることができる。
本発明の油脂組成物にしておくと、もともと保存安定
性のよくない酵母の自己消化液を多量に調製して保存す
ることができるので、使用の都度調製する繁雑さがな
く、工業的使用にきわめて有利となる。
本発明によつて得られる油脂組成物を製パン用の生地
に使用する場合、通常使用されるシヨートニング又はマ
ーガリン等油脂配合量の一部又は全部を本発明油脂組成
物と代替して使用する。使用量としては、油脂組成物中
のイースト乾燥菌体換算の換算値で0.01〜0.3%程度と
なるように調整する。この最適量はアスコルビン酸,ブ
ロム酸カリウム等酸化剤の添加量によつても変るので生
地物性試験、製パン試験によつて最適配合量を決定す
る。
油脂組成物の使用法としては、例えばストレート法食
パンの場合、小麦粉,砂糖,脱脂粉乳,食塩,パン酵
母,イースト・フードなど水と混捏した生地に、油脂組
成物を加えて混捏を行ない、生地への練り込みを行つた
後、生地を発酵させる。中種法食パンの場合は、小麦
粉,イースト,イースト・フードと水を混捏して得られ
る生地を発酵させた中種生地に、小麦粉,砂糖,食塩,
脱脂粉乳を加えて混捏後、油脂組成物を加えて更に混捏
し、フロアタイムをとり、分割丸目を行ないベンチタイ
ム後、モルダーで整形し、型詰してホイロ発酵後、焼成
する。
ビスケツト類など製菓用の生地調製に本発明油脂組成
物を使用する場合、上に述べた製パンの生地での使用法
に準じて用いるが、製菓用の生地の場合、製パン生地に
要求されるガス保持力と関連すると言われているグルテ
ン形成を抑え、生地の伸展性と焼き上げ時のシヨートネ
スを求める場合がないので、油脂組成物に保持される生
地還元力、プロテアーゼなど生地の伸展性を付与する活
性をいかに有効に生地に作用させるかが重要となる。こ
の目的で、グルタチオン,システイン,アスコルビン
酸,など天然還元剤、微生物又は天然由来のプロテアー
ゼ,フマール酸,コハク酸,酒石酸,クエン酸,乳酸,
リンゴ酸,酢酸,プロピオン酸,など有機酸類を補助剤
として添加することも有効である。
ビスケツト,クラツカーなど製菓用の生地に用いる油
脂組成物の水相部の活性の調整の基準としては、先に述
べたように、過ヨウ素酸滴定法で測定した場合、0.1〜1
0ml×10-3M KIO3溶液/mlの全還元活性が一つの指標とな
るが、本発明法の場合、還元活性のほかに、小麦粉とイ
ースト細胞破壊物の反応物,及び反応を受けた小麦粉
(例えば、低分子化したグルテン蛋白質)との会合によ
つて生成する界面活性物質の生地改良への寄与も期待で
きるので、比較的低い還元活性でも良好な改良効果を発
揮することが特徴である。
ビスケツト・クラツカーの生地に、本発明の油脂組成
物を使用する方法としては、通常と変らないが、油脂組
成物中に含まれる酵素活性等熱に不安定な活性物質を、
生地調製過程で、生かそうとする場合、生地温度が45℃
以下になるように配慮する必要がある。例えば、油脂の
一部を、本発明による油脂組成物を用いる場合、生地調
製上、高温を要する工程で通常の油脂組成物(例えばシ
ヨートニング、マーガリン)を用い、生地温度が低下し
た段階で本発明油脂組成物を生地に練り込んで、生地熟
成を進める方法があげられる。
ビスケツト類には、ハード生地型とソフト生地型があ
るが、本発明法は、特にハード生地型ビスケツト類にお
いて顕著な効果を発揮する。
ハード生地型は、発酵生地,パフ生地,セミスイート
生地の3種に分類される。この中で発酵生地は、例えば
クリーム・クラツカーやソーダ・クラツカーの製造に使
用されるが、ストレート法、中種法などの製法におい
て、いずれも使用可能である。本発明の油脂組成物の使
用法は通常と変らないが、水相部の比率を考慮し、生地
全体の仕込水を設定することが必要である。本発明油脂
組成物は、醗酵を促進し、生地の伸展性を助長するの
で、通常より短い発酵時間で良質の製品の製造が可能で
ある。セミスイート、ハードビスケツト類では通常薄力
粉が使用され、油脂が22%以下使用される。小麦粉と副
原料を混合し、発酵生地と同じ位に生地ができあがるま
でミキシングされる。充分な伸展性を出すため、ミキシ
ングの強さ、時間は、発酵生地より2〜3倍は必要とさ
れる。ミキシング時間を短縮し、生地の伸展性を付与す
るために、メタ重亜硫酸ソーダや次亜硫酸ソーダ(ブラ
ンキツト)など還元剤が使用される場合があるが、本発
明法の油脂組成物を使用する場合は、これらの化学物質
の使用は必要でなく、通常のミキサーによつて必要とさ
れる生地の伸展性を付与し、内相の良好な製品を得るこ
とができる。
ミキシングされた生地は、ベンチタイムをとり、ラミ
ネーターによつて折りたたみを行ない、ドーシーターを
経て圧延ロールでプレスされ、カツテイング・マシンで
分割された生地が焼成されてビスケツトが得られる。
(実施例) 以下実施例によつて更にくわしく説明する。
実施例1 イーストとして、市販のパン酵母(Saccharomyces ce
revisiae)の圧搾菌体(水分約70%)を水に懸濁し、20
g/dl(乾燥菌体換算約6%)の懸濁液を調製した。酢酸
エチル5ml/dlを添加し、37℃で、pH4〜6の範囲で2時
間攪拌、自己消化を進めた。液の1部をサンプリング
し、遠心した上清の260mμ(核酸量に対応)及び280mμ
(蛋白質量に対応)の吸光度を測定し、菌体の破壊(自
己消化)による核酸又は蛋白質の漏洩状況を測定したと
ころ、1.5〜2時間でピークに達することが判明した。
自己消化液の還元型グルタチオン(GSH)をアロキサン
法で更に全還元物質を過ヨウ素酸カリウム(KIO3)を用
いるヨード滴定法(Iodometric Titration Method)で
測定し、還元物質の量をGSH換算値で評価した。即ち、
希釈したサンプルに、2%H2SO415ml、5%沃化カリウ
ム溶液2ml、N/2スルホサルチル酸溶液2ml、1%デンプ
ン溶液1mlを加え、10-3M過沃素酸カリウム(KIO3)で
滴定し、青色の発色で終点を決定した。滴定値を還元型
グルタチオンの還元力に換算して全還元物質量を表わし
た。
上記の核酸、蛋白質の漏洩に応じて、還元力が増加す
ることが認められた。
自己消化を終つた液をpH5.0で冷蔵庫に1夜保存後、3
0℃で真空下に残存酢酸エチルを蒸溜し、回収した。得
られた液の全還元力は0.61g/l(as GSH)、GSH濃度0.4g
/lであり、還元物質としてGSH以外の物質が含まれるこ
とが示唆された。
得られた自己消化液を油脂組成物の調製に用いた。
また、液中の中性プロテアーゼ(pH6.0)の活性を次
のようにして測定した。1.5%ミルク・カゼイン溶液1ml
を試験管(15mm×150mm)にとり、37℃の恒温水槽中に
入れ予熱し、希釈試料(酵素活性測定用)1mlを加え、
よく振りまぜ直ちに37℃の恒温水槽中に入れ60分間保つ
た後、これに0.4Mトリクロル酢酸2mlを加えて、更に37
℃で25分間保つた後、これを過した。液1mlを試験
管(30mm×200mm)にとり、0.4M炭酸ナトリウム液5ml及
びフオリン試薬(5倍希釈液)1mlを加えて、よく振り
まぜ37℃で20分間保つて発色させた後、この液につき、
波長660mμにおける吸光度(E)を測定した。別に試料
の代りに水を用いたものを同様に操作し、吸光度E′を
測定し、ブランクとした。
試験値とブランク値との差に、試料(酵素液)の希釈
倍数(n)を乗じて、蛋白分解力(単位)を表わした。
即ち、 この方法に従つて、上に述べたイースト自己消化液の活
性は0.45Unitであつた。
得られた自己消化液を次に示すように油脂組成物の調
製に用いた。
パーム硬化油(mP30℃)15%、硬化コーン油(mp32
℃)15%、大豆油15%(重量%で表示)からなる配合油
83.2部を55℃で加熱溶解し、乳化剤としてグリセリンモ
ノステアレート0.1部、大豆レシチン0.2部を混合し、油
相部材を調製した。この油相部を攪拌しながら、先に得
た自己消化液16.5部を添加し、予備乳化を行ないエマル
ジヨンを得て、ボテーターを通して急冷捏和して油脂組
成物を得た。
得られた油脂組成物を5〜10℃で冷蔵保存した。径時
でサンプリングした油脂組成物を50℃で溶解し、油相部
と水相部とを分離し、水相部中の還元力をAlloxan法(G
SH)及び過ヨウ素酸滴定法で測定し、保存安定性を調べ
た。対照として、イースト自己消化液を液状で冷蔵保存
した場合の還元力の変化を測定した。結果を図1に示
す。
図から明らかなように、液状(対照)で保存する場
合、還元活性は急速に低下し、1週間で殆んど消失する
に対して、油脂組成物中の還元物質は極めて安定であ
り、20日後も80%〜85%保持することが認められた。即
ちイースト自己消化液の還元力の保存安定性を液状の場
合と、油脂組成物に乳化配合した場合とを比較した。油
脂組成物中の還元力は、50℃で油脂を加熱溶解したとき
の水相部を測定した。図から明らかなように、液状で保
存する場合、還元力は急速に低下するに対し、油脂組成
物中では極めて安定であり、20日後も80%以上の活性を
保持していることがわかる。
実施例2 イースト細胞の破壊方法として、イースト懸濁液を加
熱処理する方法について検討した。即ち、実施例1と同
様、パン酵母の懸濁液40g/dl(乾燥菌体換算約12%)を
調製し、85℃、10分間加熱処理し、菌体を過した。懸
濁液と同量の水で菌体を洗滌した液も含めたイースト
処理液(全還元力0.5g/l)を用い、実施例1と同様、
油脂組成物を調製し、5〜10℃で冷蔵保存し、還元力の
保存安定性を調べた。液状で保存した場合、14日で活性
が殆んど消失するに対し、油脂組成物の場合、85%保持
されることが確認された。
実施例3 実施例1において、イーストとしてパン酵母の代り
に、ワイン酵母(Saccharomyces cerevisiae IAM 427
4)、乳酵母(Kluyveromyces lactis IFO 0433)、キヤ
ンデイダ属酵母Candida utilis(IFO 0396)をブドウ糖
を炭素源とする培地(酵母エキス添加)で好気培養して
得られる菌体を用いて、実施例1と同様に自己消化処理
及び、油脂組成物の調製を行ない、還元力の保存性を調
べた。液状保存の場合、14日で還元活性が未検出レベル
(Negrigible)に対し、ワイン酵母、乳酵母、キヤンデ
イダ属酵母由来の油脂組成物の還元力は、夫々0.45、0.
40、0.31g/l(as GSH)と保持されていることが確認さ
れた。
実施例4 イーストとして市販のパン酵母(圧搾酵母)を用い、
水に懸濁し、20g/dlの懸濁液を調製した。攪拌下に小麦
粉(強力粉)を1〜5%加えて30℃で、pH4.5〜5.5の範
囲で3時間、攪拌下に小麦粉のイーストによる発酵を行
なつた。発酵によつてpHが低下した。pHの低下は、小麦
粉の添加量が多い程大きい。エタノールの蓄積と共に、
コハク酸,乳酸,酢酸,等有機酸の増加が認められ、生
地発酵に類似した発酵が進んでいることが推察された。
次に、温度を37℃に上昇し、酢酸エチルを5ml/dl添加
し、2時間攪拌し、イーストの自己消化を進めた。
小麦粉添加区は、反応の途中で激しい発泡現象がみら
れ、界面活性物質の生成が示唆された。pHを5.0に調整
し、冷蔵庫に一夜、保存後、真空下(温度30℃)で酢酸
エチルを蒸溜回収した。
得られた小麦粉反応液を油脂組成物の調製に用いた。
即ち、硬化魚油(mp 30℃)66.5部とコーン油16.7部を5
5℃で混合し、配合油を調製した。この配合油83.2部に
対して、グリセリンモノステアレート0.1部、レシチン
0.2部を加え、混合後、先に得た小麦粉反応液16.5部を
添加し、乳化を行ない、急冷、混捏して油脂組成物を得
た。
得られた油脂組成物を用いて、製パン試験を実施する
に先立つて、油脂組成物に配合されたイースト及びイー
スト自己消化液と反応せしめた小麦粉懸濁液の生地に対
する機能を比較する目的でシリンダー発酵力試験を試み
た。シリンダー発酵力試験は、中種法食パンの配合で、
生地を調製し、30℃で発酵を行ない、生地の膨張を測定
するものである。まず、製パンにおいて、酸化、還元剤
が極めて重要であることが知られているので、対照とし
て代表的な酸化剤としてブロム酸カリウム、還元剤とし
て次亜硫酸ソーダ(ブランキツト)を選び、生地膨張へ
の影響を調べた。
即ち、生地配合としては、小麦粉(強力粉)70g、イ
ースト・フード0.1g、コハク酸モノグリセライド0.2g、
圧搾酵母2.4g、水44mlからなる原料を攪拌機(Hobart M
ixer)で混捏(低速3分、中速2分)を行ない、生地を
シリンダーに入れて、30℃で発酵を行ない、生地膨張を
経時的に記録した。得られた結果を図2に示した。
図から酸化剤の添加によつて、生地膨張は促進され、
発酵の後期においても高い膨張力を維持しており、生地
のガス保持力に必要な粘弾性が向上していることが示唆
される。一方、還元剤を添加した場合、発酵初期におい
ては生地膨張が促進されるが、後期には生地がブレーク
ダウン(生地がくずれて、発生ガスが洩れる)傾向を示
し、生地の軟化によつてガスが漏洩していることが示唆
されている。
即ち、このようなシリンダー発酵力試験の解釈につい
ては確定した理論的な裏付けはまだ確立していないが、
生地を酸化する力、還元する力の一つの指標として有用
であると思われる。この指標にそつて、小麦粉反応液の
効果を比較すると、小麦粉の添加量に応じて、還元力が
上昇している傾向がみられる。アロキサン(Alloxan)
法によつて測定したGSHの量に差異は認められなかつた
ことからGSH以外の還元活性又は、生地の軟化に影響す
る活性の上昇が推定される。
図2は、中種法による食パンの生地配合による生地を
シリンダーに入れ、30℃で発酵させたときの生地膨張を
示したものである。酸化剤(Potassium iodate)の添加
により、生地が安定化し、ガス保持力が高くなつてい
る。一方、還元剤(Sodium hydrosulphite)添加によ
り、発酵初期の生地膨張は促進されるが、後期には生地
が弱くなりブレークダウンの傾向を示し、ガスが洩れて
いることが示唆されている。酸化力に対し還元力が優る
ため、このような現象が起こると推定される。この図か
らイースト及びイースト自己消化液と小麦粉の反応液は
生地を軟化する還元力が強くなつていることが示唆され
る。
実施例5 実施例4において、小麦粉とイースト自己消化液との
接触によつて、界面活性物質の生成が示唆された。この
現象を確認する目的で、太田らの方法(第12回食品の物
性に関するシンポジウム、講演要旨集、第61頁、1985)
にもとづき、小麦粉の起泡性に対するイースト細胞破壊
液の影響を調べた。即ち、小麦粉(強力粉)10%懸濁液
に、実施例1で調製したイースト自己消化液を添加し、
30℃で2時間攪拌し(pHは5.5に調整)、処理した小麦
粉懸濁液100mlを5℃に冷却し、砂糖100g、大豆油0.7ml
を添加し、5℃で7分間ホバート・ミキサーで泡立てを
行なつた後、泡比重を測定し、起泡活性を比較した。得
られた結果を図3に示した。図3により、小麦粉懸濁液
の起泡性が、イースト自己消化液の添加による反応によ
つて顕著に促進されていることがわかる。イースト菌体
との共存によつて、更に高い効果が得られていることが
わかる。即ち、小麦粉とイースト細胞破壊液との接触に
よつて界面活性物質の生成が示唆されている。
実施例6 実施例4で得られた油脂組成物(冷蔵庫保存1週間)
を用いて、ストレート法食パンにおける効果を調べた。
(基本配合) 小麦粉(強力粉) 100部 砂糖 5〃 食塩 2〃 パン酵母(圧搾酵母) 2.2〃 イースト・フード 0.1〃 脱脂粉乳 2〃 油脂組成物* 6〃 水 68〃 *油脂組成物 (1)対照(水相部が水) (2)本発明(水相部がイースト自己消化液) (3)本発明(水相部が小麦粉2g/dl+イースト自己消
化液) (4)本発明(水相部が小麦粉5g/dl+イースト自己消
化液) 油脂組成物を除く、原料を混捏(低速1分、中速1
分、高速5分)後、油脂組成物を加え、更に混捏(低速
1分、中速1分、高速5分)を行なつた。捏上温度は26
〜27℃に調整した。30℃で1時間発酵後、生地をパンチ
し、ガス抜きを行ない、生地を分割し、25分間ベンチタ
イムをとり、得られた生地をモルダーにかけて成型し、
型詰めしてホイロ発酵後、230℃で焼成した。ホイロの
条件は38℃、湿度85%で実施した。ホイロ時間は、生地
が一定容積に達する時間で示した。機械耐性は、生地の
分割、モルダーでの成型時の生地状態を観察して判断し
た。外観、内相、風味については5人の専門家による官
能評価を行つた。得られた結果を表1に示す。
表に示したように、本発明による油脂組成物を用いる
ことによつて生地の機械耐性が改善されると共に、比容
積、外相、内相も改善されることがわかる。イースト自
己消化液を液状で冷蔵保存(1週間)した液の添加効果
を、油脂組成物に含まれる相当量の添加試験を試みた
が、効果は殆んど認められず、実施例1に示したよう
に、活性が保存中に低下したことが示唆された。小麦粉
とイースト及びイースト自己消化液と反応させた液を配
合した油脂組成物は、特にすぐれた効果を示した。油脂
を生地に練り込む場合、一般に乳化剤等の助けが必要で
あるが、本発明の油脂組成物の場合、生地に均一に分布
する為の乳化機能もすぐれていると推定される。
実施例7 実施例4で調製した油脂組成物を用いて、ハード・ビ
スケツトにおける効果を調べた。ビスケツトにおいて
は、生地の伸展性が機械生産上重要であり、焼成後の製
品の形や大きさにも生地物性が影響するため、還元剤や
プロテアーゼを用い、生地の伸展性を改善する工夫など
がなされている。
(生地配合) 小麦粉(薄力粉) 600g シヨートニング 10g 油脂組成物 60g グラニユー糖 80g グルコース 40g 脱脂粉乳 12g 炭酸アンモニウム 6g 炭酸水素ナトリウム 2g 食塩 5g 水 180ml 小麦粉、脱脂粉乳を混合し、グラニユー糖、シヨート
ニング、油脂組成物、食塩及び水140mlでシラツプをつ
くり、75℃に昇温し、小麦粉・脱粉の混合物を加え、低
速で2分間混捏した。次に水40mlに炭酸アンモニウム,
炭酸水素ナトリウムを溶解したものを生地に添加し、低
速で4分間ミキシングを行なつた。捏上げ温度は38〜39
℃であつた。生地をタオルで包み、約30℃で20分間放置
し、3段ローラーにかけ、3回圧延した。スタンピング
マシンで生地をカツテイングし、オーブン(200℃)で
8分間焼成した。生地状態、自然冷却したビスケツトの
10枚の径の合計値、製品の風味について評価した結果を
表2に示す。
表2に示したように、イースト自己消化液又はイース
ト及びイースト自己消化液と接触させた小麦粉懸濁液を
配合した油脂組成物は、生地の伸展性の改善に効果があ
り、次亜硫酸ソーダと同等以上の効果を示している。
イースト自己消化液を冷蔵庫で10日間保存した液の添
加試験を試みたところ、還元力の消失に対応して、ビス
ケツトの焼成試験では効果が認められなかつた。
実施例8 実施例4において、パン酵母(圧搾酵母)懸濁液20g/
dlに、小麦粉(強力粉)4g/dl及び脱脂粉乳0.5g/dlを加
えた懸濁液を調製した。
この懸濁液に乳酸菌としてLactobacillus bulgaricus
(IFO 3533)とStreptococcus thermophilus(IFO 353
3)の1:1の混合菌を108/mlの濃度で添加し、pH4.5〜5.5
の範囲で30℃、4時間攪拌し、発酵を進めた。終了後、
温度を37℃に上昇し、酢酸エチルを5ml/dl加えて2時間
攪拌を続け、イーストの自己消化を進めた。以下、前記
実施例に示した方法に従つて、油脂組成物を調製した。
得られた油脂組成物を用いて、中種法による食パンの
製パン試験を試みた。
イースト・フードとして、臭素酸カリウムを用いる方
法、及びアスコルビン酸を用いる方法が知られている
が、アスコルビン酸を用いる場合、生地の機械耐性の不
良、ケービングなどの現象による容積不良、風味の低下
などの欠点があり、その改良法が種々報告されている。
そこで、アスコルビン酸を配合したイースト・フードを
用いる方法においての改良効果を調べ、臭素酸カリを用
いる方法との比較を行なつた。
(中種生地配合) 小麦粉(強力粉) 70部 水 41部 パン酵母 2部 イースト・フード 0.1部 (1)アスコルビン酸 (2)ブロム酸カリウム ミキシング:低速3分、中速2分 ミキシング後の生地温度:23〜24℃ 中種発酵条件:27〜28℃、4.5時間 (本捏生地配合) 小麦粉(強力粉) 30部 砂糖 5部 食塩 2部 脱脂粉乳 2部 油脂組成物 6部 水 25部 ミキシング:油脂組成物を除く原料を、中種発酵終了後
の生地に加えて、ミキシング(低速2分、中速2分、高
速3分)し、油脂組成物を加えて、更にミキシング(低
速2分、中速2分、高速3分)する。
フロアタイムを15分間とり、生地を一定量分割し、ベ
ンチタイムを室温で20分間とり、モルダーで成型し、型
詰めして、湿度85%で一定容積に達するまでホイロ発酵
を行ない、210℃で35分間焼成した。得られた結果を表
3に示す。
表に示したように、本発明油脂組成物の使用によつ
て、機械耐性が改善されると共に、ケービング現象がな
くなり、比容積も臭素酸カリウム添加法に匹敵する成績
が得られた。
乳酸菌の使用によつて、生地物性が改善されると共
に、風味の改善効果が認められたことは注目すべき点で
ある。
実施例9 実施例4において、イースト懸濁液に小麦粉2g/dlを
添加し、発酵後、イーストを自己消化させた液を用いて
粉末油脂の調節を試みた。
水100mlにイースト自己消化液20mlを混合した液に、
被覆物質又は安定剤としてカゼインソーダ8g、脱脂粉乳
7g、カルボキシメチルセルロース0.2g、クエン酸ソーダ
0.1gを添加し、60℃に加温攪拌後、乳化剤としてモノグ
リセライド(オレイン酸モノグリセライド7、ステアリ
ン酸モノグリセライド3の組成)2g、油脂として棉実硬
化油(mp 39℃)80gを加え、ホモミキサーでホモゲナイ
ズしてエマルジヨンを得た(温度約50℃)。得られたエ
マルジヨンを噴霧乾燥することにより粉末油脂が得られ
た。
得られた粉末油脂を用いて、実施例5に示した方法に
よつてストレート法食パンにおける効果を調べた。
イースト自己消化液を添加しない、通常の粉末油脂の
場合、パンの比容積は4.50に対し、本発明粉末油脂の場
合、4.85であつた。
生地の粘弾性、製品品質も対照にくらべ優れていた。
粉末油脂を室温で2週間保存した場合も同様な効果を示
し、保存安定性も優れていることが確かめられた。
実施例10 市販イースト(圧搾酵母)を水道水に20%濃度となる
ように懸濁し、pHを5.5となるように調整し、酢酸エチ
ルを5%添加し、37℃で攪拌下に1時間処理を行なつ
た。塩酸でpHを5.0に調整し、冷蔵庫(2〜5℃)に1
夜保存した後、真空下に酢酸エチルを蒸溜し除去した。
得られた酵母処理液を油脂組成物の調製に用いた。
魚硬化油(融点45℃)10部、魚硬化油(融点30℃)80
部、大豆白絞油10部を60℃で混合し、配合油を調製し
た。
この配合油80部に対し、グリセリンモノステアレート
5部を加え、混合後、温度を45℃に冷却し、先に得た酵
母処理液15部を添加し、乳化させた後、ボテーターにて
急速冷却した。急冷工程で窒素ガスを30cc/100gの割合
で分散、練り合わせ、油脂組成物を得た。
得られた油脂組成物を用いて、ストレート法食パンに
ついて製パン試験を行なつた。
(基本配合) 小麦粉(強力粉) 100 部 砂糖 5 〃 食塩 2 〃 パン酵母 2.0 〃 油脂組成物 5.0*〃 イースト・フード 0.1 〃 脱脂粉乳 2 〃 水 67 〃 *イースト換算0.15%/小麦粉の自己消化液の添加に相
当 (操作) ミキシング:低速1分、中速1分、高速5分後、油脂組
成物を加え、低速1分、中速1分、高速5分 捏上温度:27〜28℃ 第1発酵:湿度75%で1時間 ベンチタイム:パンチ後25分 得られた発酵生地を分割し、ホイロ条件として温度38
℃、湿度85%で発酵させ、一定容積に達して後、210℃
で焼成した。
本発明油脂組成物の代りに、イースト処理物を添加し
ない処法(イースト処理液の代りに水を用いたもの)で
得た油脂組成物を用いた場合(対照)と比較した結果を
表4に示す。
標準のストレート法に比較し、発酵時間を1時間と半
減したにも拘わらず、カマ伸びのよい良質のパンがで
き、作業性も顕著に改善されることが分かる。
実施例11 実施例9において、イースト自己消化処理液を澱粉で
プレコートした紙で過した液を、同様な工程で、
油脂と乳化混合した油脂組成物を得た。
得られた油脂組成物を用いて製パン試験を試みた。ホ
イロ時間50分、比容積4.75であり、表4の結果に準じた
製パン評価を得た。
実施例12 魚硬化油(融点45℃)15%、魚硬化油(融点30℃)40
%、ラード30%、大豆白絞油155%からなる混合油80kg
にグリセリン脂肪酸モノエステル1.8kgと大豆レシチン
0.2kgを加え、加熱融解し、40〜45℃に冷却し、直ちに
イースト自己消化液16lを加え、攪拌混合後、急冷、練
合せして、乳化油脂組成物を得た。
得られた油脂組成物を用い、中種法食パンについて試
験を行なつた。
(中種生地配合) 小麦粉 70部 水 40部 パン酵母 2部 イースト・フード 0.1部 ミキシング:低速1分、5分間休止、中速4分 捏上温度:25℃ 中種発酵:27〜28℃、4.5時間 (本捏生地配合) 小麦粉 30部 水 24部 砂糖 5部 食塩 2部 脱脂粉乳 2部 油脂組成物 5部 油脂組成物を除く原料を中種発酵済の生地に加え、低
速2分、中速2分、高速1分でミキシング後、油脂組成
物を加え、低速1分、高速5分間混捏した。フロアタイ
ムを15分とつてねかし、生地を一定量ずつ切断し、ベン
チタイムを室温で20分とり、モルダーでガス抜きをし
て、パン型に一定量入れ、温度38℃、湿度85%で50分ホ
イロをとり、210℃で35分焼成した。油脂組成物調製に
おいて、イースト自己消化液の代りに、同容量の水を用
いた対照と製パン性について比較した結果を表5に示
す。
当該油脂組成物を2〜10℃で3週間保存し、同様な試
験を試みたところ、上記の効果を維持していることが確
認された。
【図面の簡単な説明】
図1は油脂組成物中の還元力安定性を示す図であり、図
2はシリンダー醗酵力試験の結果を示す図、図3は小麦
粉起泡性のイースト自己消化液による促進を示す図であ
る。

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】(a)イースト細胞を破壊せしめた酵母処
    理液又はイースト細胞破壊液又はイースト細胞破壊液及
    びイーストと接触せしめた小麦粉懸濁液を含む水相部、
    (b)油脂部、(c)乳化剤からなる製パン・製菓用油
    脂組成物。
  2. 【請求項2】1〜50部の水相部、55〜99部の油脂部、0.
    1〜5.0部の乳化剤からなる特許請求の範囲第1項記載の
    油脂組成物であつて、急冷、可塑化して得られる製パン
    ・製菓用油脂組成物。
  3. 【請求項3】特許請求の範囲第1項において、水相部
    に、被膜剤又は安定剤として、小麦タンパク質,カゼイ
    ン,脱脂粉乳,大豆タンパク,ゼラチン等タンパク質又
    はタンパク質含有天然物;デンプン,デキストリン,麦
    芽糖,乳糖など炭水化物;又はアラビアガム,グアガ
    ム,カラギーナン,キサンチンガム,セルロース誘導体
    等ガム類を添加し、油脂部、乳化剤とを混合、攪拌する
    ことによつて乳化し、均質化後、噴霧乾燥することによ
    つて得られる粉末状油脂組成物。
  4. 【請求項4】イースト細胞の破壊が、イースト懸濁液に
    酢酸エチル0.5〜5.0%を添加、攪拌し、自己消化を進め
    た後、残存酢酸エチルを真空蒸溜し回収する方法、又は
    イースト懸濁液を60〜95℃、2〜15分間加熱処理する方
    法による特許請求の範囲第1項記載の油脂組成物。
  5. 【請求項5】イーストが、パン酵母(Bakers yeast)、
    醸造用酵母(Brewers yeast)、等からなるSaccharomyc
    es属に属する酵母、Lactic yeast乳酵母(Kluyveromyce
    s lactis)、又はCandida属に属する食品用酵母である
    特許請求の範囲第1項記載の油脂組成物。
  6. 【請求項6】イースト懸濁液1〜20%(Dry base)に小
    麦粉を0.5〜20%添加し、pH4〜6、温度45℃以下で攪
    拌、発酵して後、イーストを自己消化せしめ、反応を進
    めた液を水相部として用いる特許請求の範囲第1項、第
    2項または第4項記載の油脂組成物。
  7. 【請求項7】イースト懸濁液に、Lactobacillus属,Stre
    ptococcus属,Leuconostoc属,Pediococcus属に属する乳
    酸菌を共存せしめて、イースト及び乳酸菌を小麦粉と発
    酵後、イーストを自己消化させる特許請求の範囲第5項
    記載の油脂組成物。
  8. 【請求項8】油脂が、大豆油,綿実油,なたね油,パー
    ム油,ヤシ油,コーン油,パーム核油,ホホバ油(Jojo
    ba),クヘヤ油(Cuphea),魚油,牛脂,乳脂等各種動
    ・植物油脂またはそれらの硬化油,分別油,エステル交
    換油,などを単独又は混合して使用する特許請求の範囲
    第1項記載の油脂組成物。
  9. 【請求項9】水相部に、補助剤として、グルタチオン,
    システイン,アスコルビン酸等天然還元剤;微生物又は
    天然物由来のプロテアーゼ;フマール酸,コハク酸,酒
    石酸,クエン酸,乳酸,リンゴ酸,酢酸,プロピオン酸
    など有機酸類を添加してなる特許請求の範囲第1項記載
    の油脂組成物。
  10. 【請求項10】油脂として融点25〜45℃を持つ動・植物
    油脂,またはその硬化油,分別油,エステル交換油を用
    いる特許請求の範囲第1項記載の油脂組成物。
  11. 【請求項11】小麦粉を主原料とし、副原料として砂糖
    又は異性化糖など糖類、食塩、脱脂粉乳等乳製品、液状
    又は乾燥卵、イースト又は膨剤、香料、油脂及び水を用
    いて製造されるパン類又はビスケツト等焼菓子におい
    て、小麦粉に対し1〜50%用いられる油脂の一部又は全
    部が、(a)イースト細胞を破壊せしめた酵母処理液又
    はイースト細胞破壊液又はイースト細胞破壊液及びイー
    ストと接触せしめた小麦粉懸濁液を含む水相部、(b)
    油脂部、(c)乳化剤からなる油脂組成物を使用し、生
    地を調製し、熟成工程を経て得られる生地を焼成して製
    造されるパン類又はビスケツト等焼菓子類。
  12. 【請求項12】イースト細胞破壊液又はイースト細胞破
    壊液及びイーストとを小麦粉および/もしくは活性グル
    テンとを接触させて得た水相部1〜50重量部と、油脂部
    50〜99重量部および乳化剤0.1〜5.0重量部を攪拌して乳
    化し、冷却、混捏して可塑化して保存安定性のよい油脂
    組成物を製造する方法。
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