JP2023178063A - ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用 - Google Patents

ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】PHA水性懸濁液のpHを低い値に制御することなく、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造すること。【解決手段】(a)菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程、(b)前記水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る工程、および(c)前記混合液に対する遠心分離によりポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る工程を含む製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用に関する。
ポリヒドロキシアルカン酸(以後、「PHA」と称する場合がある。)は、生分解性を有することが知られている。
微生物が生成するPHAは、微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離・精製する工程が必要となる。PHAを分離・精製する工程では、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化した後、得られた水性懸濁液からPHAを取り出す。このとき、例えば、遠心分離、ろ過、乾燥等の分離操作を行う。乾燥操作には、噴霧乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が用いられるが、操作が簡便であることから、好ましくは噴霧乾燥機が用いられる(特許文献1)。
また、本発明者らは、以前に、上記噴霧乾燥に代わる、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができる製造方法として、(a)pHが5以下であるPHA水性懸濁液を調製する工程、(b)前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合する工程、(c)前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去する工程、および(d)前記工程(c)で得られた前記非水溶性有機溶媒相を加熱し、その後冷却して、ゲル状のPHAを取得する工程を含む製造方法を報告している(特許文献2)。
国際公開公報WO2018/070492号 国際公開公報WO2021/161732号
上記の技術は優れたものであるが、なお改善の余地がある。
そこで、本発明の課題は、前記PHA水性懸濁液のpHを過度に低い値に制御することなく、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができる製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特許文献2に記載の製造方法において、PHA水性懸濁液として、菌体残渣タンパク質の濃度が低いPHA水性懸濁液を使用することにより、当該PHA水性懸濁液のpHを低い値に制御しなくとも、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができるとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の一態様は、(a)菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程、(b)前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る工程、および(c)前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去して、ポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)に関する。
また、本発明の一態様は、菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを含む、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体(以下、「本PHA凝集体」と称する。)に関する。
本発明の一態様によれば、PHA水性懸濁液のpHを過度に低い値に制御することなく、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができる。
本発明の一実施形態に係る、遠心分離後の分離した相を示す概略図である。 本発明の実施例1、2及び比較例1のそれぞれにおける、遠心分離後の混合液の態様を示す図である。 本発明の実施例1における、PHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液を加熱・冷却して得られる、ゲル状のPHAを含むPHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液の態様を示す図である。
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
〔1.本発明の概要〕
本発明者は、PHAの製造において噴霧乾燥を行う場合、次の問題点があると考えた。例えば、噴霧乾燥操作では、水性懸濁液中のすべての水を蒸発させる必要があるために、膨大な熱エネルギーが要求される。また、噴霧乾燥操作に用いられる噴霧乾燥機は、巨大になりがちであり、設備設置面積が大きくなるという点でも問題となる。また、PHA水性懸濁液のpHを低い値に制御することにより、当該PHA水性懸濁液を特定の非水溶性有機溶媒と接触させた際に、当該非水溶性有機溶媒へのPHAの親和性が増加する。特許文献2に記載のPHAの製造方法は、前述の事項を利用して、pHが低い値に制御されたPHA水性懸濁液からPHAを高収率にて得る方法である。しかしながら、この方法には、pHを過度に低い値に制御したPHA水性懸濁液中にて、PHAが加水分解されることにより、PHAの収率が低下するおそれがあるとの問題点がある。
そこで、本発明者らは、上述の問題点の解決を目指し、鋭意研究を行ったところ、主に以下の知見を得ることに成功した。
・特許文献2に記載の製造方法において、PHA水性懸濁液として、菌体残渣タンパク質の濃度が低いPHA水性懸濁液を使用する場合には、当該PHA水性懸濁液のpHを過度に低い値に制御しなくとも、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができる。
これは、PHA水性懸濁液における菌体残渣タンパク質の濃度を低濃度に制御することにより、当該PHA水性懸濁液のpHを過度に低い値に制御しなくとも、当該PHA水性懸濁液を特定の非水溶性有機溶媒と接触させた際に、当該非水溶性有機溶媒へのPHAの親和性が増加したことが要因であると、本発明者らは推測している。
したがって、本製造方法によれば、PHA水性懸濁液のpHを低い値に制御することなく、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができるため、PHAの製造において極めて有利である。以下、本製造方法の構成について詳説する。
〔2.PHAの製造方法〕
本製造方法は、下記の工程(a)~(c)を必須の工程として含む方法である。
・工程(a):菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程。
・工程(b):前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る工程。
・工程(c):前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去して、ポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る工程。
(工程(a))
本製造方法における工程(a)では、菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるPHA水性懸濁液を調製する。当該水性懸濁液において、PHAは水性媒体中に分散した状態で存在している。以下では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。また、本製造方法における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)は、前記PHA水性懸濁液中における、PHAの重量に対する菌体残渣タンパク質の重量の割合(ppm)を意味する。前記菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)の測定方法は、特に限定されず、例えば、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)等の市販のタンパク質の含有量の測定キットを用いる方法を採用することができる。
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、乳酸、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mol/mol)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99/1(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液は、特に限定されないが、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
本製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液を得る工程(例えば、上述の培養工程および精製工程を含む工程)を含んでいてもよい。当該工程において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。より詳しくは、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。中でも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、またはカプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネカトールが最も好ましい。
また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しないものである場合、またはPHAの生産量が低いものである場合には、当該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入して得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。当該微生物菌体の培養方法は特に限定されないが、例えば、特開平05-93049号公報等に記載された方法が用いられる。
上記の微生物を培養することにより作製されたPHA含有微生物には、不純物である菌体由来成分が多量に含まれているため、通常、PHA以外の不純物を分解および/または除去するための精製工程を実施され得る。この精製工程においては、特に限定されず、当業者が考え得る物理学的処理、化学的処理、生物学的処理等を適用することができ、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法が好ましく適用できる。
上記の精製工程により、最終製品に残留する不純物量が概ね決定されるため、これらの不純物は、できる限り低減させた方が好ましい。当然に、用途によっては、最終製品の物性を損なわない限り不純物が混入しても構わないが、医療用用途等、高純度のPHAが必要とされる場合は、できる限り不純物を低減させることが好ましい。
前記菌体残渣タンパク質は、前記不純物の一種である。よって、上記した公知の生成方法によって、前記菌体残渣タンパク質の含有量を1000ppm以下の好適な範囲に制御することができる。また、前記菌体残渣タンパク質の含有量を好適な範囲に制御する方法としては、例えば、前記PHA含有微生物を含む培養液を滅菌処理して得られる不活性化培養液に対して、過酸化水素処理、酵素処理、並びに、アルカリ処理を行う方法を挙げることができる。前記過酸化水素処理は、例えば、不活性化培養液に過酸化水素を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を添加し続けて、当該不活性化培養液のpHを、例えば、11.0等の高い値に、例えば、1.5時間等の長時間維持する処理である。前記酵素処理は、例えば、前記過酸化水素処理にて得られる過酸化水素処理液を、前記PHA含有微生物の細胞壁中の糖鎖を分解する酵素およびタンバク質分解酵素を用いて処理することである。前記アルカリ処理は、例えば、前記酵素処理にて得られる酵素処理液に対して、アルカリ溶液を加え、遠心分離した後、上清を除去するとの操作を複数回繰り返す処理である。前記アルカリ溶液は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等である。
本製造方法は、前記菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppmであることにより、PHA水性懸濁液のpHを低い値に制御することなく、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができるとの課題を解決できる。前記課題を解決できる理由としては、以下に示す理由が推測される。前記工程(b)において、PHA水性懸濁液と、非水溶性有機溶媒とを混合する場合に、前記菌体残渣タンパク質は、PHAの表面の少なくとも一部を被覆することにより、当該PHAと当該非水溶性有機溶媒との相互作用を阻害すると考えられる。よって、前記菌体残渣タンパク質の含有量を1000ppm以下であることによって、前記混合液中におけるPHAと前記非水溶性有機溶媒との相互作用が強くなる。従って、前記工程(c)における遠心分離の際に、PHAが非水溶性有機溶媒相の方に移動し易くなる。その結果、前記PHAは、前記非水溶性有機溶媒相の下部により沈降し易くなり、前記課題を解決することができる。
よって、前記菌体残渣タンパク質の含有量がより少ない場合には、前記混合液中におけるPHAと前記非水溶性有機溶媒との相互作用がより強くなる。従って、本製造方法において、前記工程(c)における遠心分離にて得られる非水溶性有機溶媒相に含まれるPHAの量がより多くなる。その結果、より高収率にてPHAを製造することができる。高収率にてPHAを製造するとの観点から、前記菌体残渣タンパク質の含有量は、980ppm以下であることが好ましく960ppm以下であることがより好ましく、940ppm以下であることがさらに好ましく、920ppm以下であることが特に好ましい。
なお、本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する溶媒(「溶媒」は、「水性媒体」とも称する。)は、水、または水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。前記水と相溶性のある有機溶媒としては、その中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、前記水と相溶性のある有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。さらに、前記水と相溶性のある有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンが、特に好ましい。なお、PHA水性懸濁液を構成する水性媒体は、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒、菌体由来の成分、精製時に発生する化合物等を含んでいても構わない。
本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する水性媒体には、水が含まれていることが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、50重量%以上が好ましく、より好ましくは、60重量%以上であり、さらに好ましくは、70重量%以上であり、特に好ましくは、80重量%以上である。
<その他>
本製造方法において、前記工程(b)に供される前記PHA水性懸濁液のpHは特に限定されない。なお、本製造方法の工程(a)に付される前のPHA水性懸濁液は、通常、上記の精製工程を経ることにより、7を超えるpHを有する。
本製造方法において、前記PHA水性懸濁液のpHを低い値に調節することにより、前記工程(b)における非水溶性有機溶媒へのPHAの親和性を向上させることもできる。その場合、工程(b)において、PHAが非水溶性有機溶媒に十分に溶解し、結果として、PHAの収率をより向上させることができる。前記PHA水性懸濁液のpHを低い値に調節する方法は、特に限定されず、例えば、酸を添加する方法等が挙げられる。酸は、特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。より具体的には、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等が使用できる。
前記非水溶性有機溶媒へのPHAの親和性を好適に向上させ、得られるPHAの収率をより向上させるとの観点から、前記PHA水性懸濁液のpHは、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。また、前記PHA水性懸濁液のpHが低い値である場合には、前記PHA水性懸濁液が高酸性溶液となり、反応容器が破損するおそれがある。さらに、前記PHA水性懸濁液のpHが過度に低い値である場合には、前記PHA水性懸濁液中にてPHAの加水分解が発生し、かえって、得られるPHAの収率が低下するおそれもある。前述の反応容器の破損およびPHAの加水分解の発生を好適に防止するとの観点から、前記PHA水性懸濁液のpHは、2.5以上であることが好ましく、2.8以上であることがより好ましく、2.9以上であることがさらに好ましい。
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの濃度は、乾燥ユーティリティーの面から経済的に有利であり、生産性が向上するため、30重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。また、PHAの濃度の上限は、最密充填となり、十分な流動性が確保できない可能性があるため、65重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。PHAの濃度を調整する方法は、特に限定されず、水性媒体を添加する、および、水性媒体の一部を除去する(例えば、遠心分離した後、上清を取り除く等による)等の方法が挙げられる。PHAの濃度の調整は、工程(a)のいずれの段階で実施してもよいし、工程(a)の前の段階で実施してもよい。
(工程(b))
本製造方法における工程(b)では、前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る。
工程(b)において使用される非水溶性有機溶媒は、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒であれば特に限定されない。非水溶性有機溶媒の比重が1.0g/mL超であることにより、後述する工程(c)で遠心分離した際に、遠沈管の上相に水相、下相(底部側)に非水溶性有機溶媒相と、分離することができる。
本発明の一実施形態において、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒としては、例えば、トリアセチン、炭酸ジメチル、トリプロピオニン、プロピレングリコールジアセタート、トリブチリン等が挙げられる。水と比重差があり、遠心分離の容易性の観点から、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒は、好ましくは、トリアセチン、炭酸ジメチル、トリプロピオニンであり、より好ましくは、炭酸ジメチルである。
本発明の一実施形態において、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒は、トリアセチン、炭酸ジメチル、トリプロピオニン、プロピレングリコールジアセタートおよびトリブチリンからなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
また、本発明の一実施形態において、非水溶性有機溶媒の比重は、PHAの比重を超えないことが好ましい。これにより、PHAを含む非水溶性有機溶媒相を最下層とすることができ、容易に回収できる。なお、PHAの比重は、1.2g/mLである。
本発明の一実施形態において、非水溶性有機溶媒の水への溶解度は、20~40℃において、例えば、18g/100mL以下であり、好ましくは、17g/100mL以下であり、より好ましくは、16g/100mL以下であり、特に好ましくは、15g/100mL以下である。非水溶性有機溶媒の水への溶解度が18g/100mL以下であると、後述する工程(c)で遠心分離した際に、非水溶性有機溶媒相と水相とを十分に分離することができる。また、非水溶性有機溶媒の水への溶解度の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1g/100mL以上である。
なお、上述した、トリアセチン、炭酸ジメチル、トリプロピオニン、プロピレングリコールジアセタートおよびトリブチリンの比重および水への溶解度は、以下の通りである。
・トリアセチン:1.16g/mL(比重)、6.1g/100mL(25℃における水への溶解度)
・炭酸ジメチル:1.07g/mL(比重)、13.9g/100mL(25℃における水への溶解度)
・トリプロピオニン:1.08g/mL(比重)、0.3g/100mL(37℃における水への溶解度)
・プロピレングリコールジアセタート:1.06g/mL(比重)、9.0g/100mL(25℃における水への溶解度)
・トリブチリン:1.03g/mL(比重)、0.13g/100mL(37℃における水への溶解度)
(工程(c))
本製造方法における工程(c)では、前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去して、ポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る。
工程(c)において、遠心分離は、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、後述する実施例で記載した、ベックマンコールター製遠心機AllegraTM X-22R Centrifugeを用いて行うことができる。遠心分離を行う際の回転速度、時間等は、当業者により適宜設定可能である。
本発明の一実施形態における、工程(c)での遠心分離後の分離状態を、図1を参照して説明する。工程(c)における遠心分離後、下(遠沈管の底部)から順に、PHA相A1、非水溶性有機溶媒主成分相2、PHA相B3および水主成分相4に分離する。PHA相A1は、主にPHAと非水溶性有機溶媒とを含む混合液であり、PHAが最も濃縮されている。PHA相A1には、一部PHA以外の成分が含まれていてもよい。非水溶性有機溶媒主成分相2は、主に非水溶性有機溶媒を含む溶液である。非水溶性有機溶媒主成分相2には、一部PHAおよびPHA以外の成分が含まれていてもよい。PHA相B3は、主にPHAと水とを含む混合液である。PHA相B3には、PHA相A1および非水溶性有機溶媒主成分相2に沈降しなかったPHAが含まれ得る。PHA相B3には、PHA以外の成分が含まれていてもよい。水主成分相4は、主に水を含む相であり、一部PHAおよびPHA以外の成分が含まれていてもよい。
なお、本明細書において、PHA相Aおよび非水溶性有機溶媒主成分相を合わせて、単に「非水溶性有機溶媒相」と称することがある。また、本明細書において、PHA相Bおよび水主成分相を合わせて、単に「水相」と称することがある。
本製造方法を用いることにより、高収率でPHAを製造することができる。ここで、工程(c)におけるPHAの収率は、以下の式(1)で示される値を指標として示すことができる:
PHA相Aの体積/(PHA相Aの体積+PHA相Bの体積)×100・・・(1)
本発明の一実施形態において、上記式(1)で示される値は、例えば、45%以上であり、好ましくは、50%以上であり、より好ましくは、60%以上であり、さらに好ましくは、70%以上であり、特に好ましくは、80%以上であり、殊更好ましくは、83%以上である。なお、上記の「PHA相Aの体積」および「PHA相Bの体積」は、実施例に記載の方法により測定される。
工程(c)で得られる前記非水溶性有機溶媒相からPHAを回収する方法は、公知の方法を使用することができ、特に限定されない。前記非水溶性有機溶媒相からPHAを回収する方法としては、例えば、工程(c)の後に後述の工程(d)を実施して、あるいは、工程(c)、工程(d)に続いて後述の工程(e)を実施してPHAを凝集させることにより、高収率にて好適にPHAを回収する方法を挙げることができる。一方、前記菌体残渣タンパク質は、PHAの表面の少なくとも一部を被覆しており、前記非水溶性有機溶媒相において、PHAの凝集を阻害していると考えられる。本製造方法においては、前記菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下の少ない範囲に制御されていることにより、前記非水溶性有機溶媒相において、PHAは凝集している。よって、本製造方法は、工程(d)等の特殊な操作を実施しない場合であっても、前記非水溶性有機溶媒相から高収率にてPHAを回収することができる。従って、本製造方法は、より簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができる。
前記非水溶性有機溶媒相からPHAを回収する方法は特に限定されず、例えば、前記非水溶性有機溶媒相をろ過する方法、前記非水溶性有機溶媒相をさらに遠心分離した後、上澄み液を除去する方法等を挙げることができる。また、本製造方法は、得られたPHAをさらに乾燥させることを含み得る。PHAの乾燥方法は、特に限定されず、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて行うことができる。前記乾燥方法の一例としては、例えば、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
(その他)
(工程(d))
本製造方法は、前記工程(c)の後に、さらに以下の工程(d)を含むことができる:
(d)前記工程(c)で得られた前記非水溶性有機溶媒相を加熱し、その後冷却して、ゲル状のPHA(以下、「ゲル化PHA」とも称する)を得る。
工程(d)において、前記非水溶性有機溶媒相を加熱すると、前記非水溶性有機溶媒相に含まれるPHAが熱融着し、より凝集したPHAが得られる。
本発明の一実施形態において、工程(d)における加熱温度は、熱融着によりPHA凝集体が得られる温度であれば特に限定されないが、例えば、50~150℃であり、好ましくは、60~130℃である。
工程(d)における加熱方法は、特に限定されることなく、例えば、オイルバスを用いる方法が挙げられる。また、加熱時間も特に限定されることなく、当業者により適宜設定可能である。
工程(d)において、上記加熱して得られたより凝集したPHAを含む溶液を冷却することにより、PHAがゲル化し、ゲル化PHAが得られる。ゲル化PHAは、PHAと非水溶性有機溶媒とを含むものといえる。
本発明の一実施形態において、工程(d)における冷却温度は、ゲル化PHAが得られる温度であれば特に限定されないが、例えば、50℃未満であり、好ましくは、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下である。
工程(d)における冷却方法は、特に限定されることなく、例えば、水冷を用いる方法が挙げられる。また、冷却時間も特に限定されることなく、当業者により適宜設定可能である。
前記ゲル化PHAは、PHAがより凝集してなるPHA凝集体であり、前記非水溶性有機溶媒相からより簡便な操作で、かつ、より高収率で回収することができる。従って、本製造方法において、工程(d)を含む場合には、より簡便な操作で、かつ、より高収率で、PHAを製造することができる。
工程(d)において、前記非水溶性有機溶媒として、前記加熱する際に前記PHAの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒を使用することにより、続いて前記冷却する際に、溶解していたPHAが析出し、好適に凝集し得る。以上の点から、本製造方法が工程(d)を含む場合、前記非水溶性有機溶媒として、前記加熱する際に前記PHAの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒を使用することがより好ましい。前記加熱する際に前記PHAの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒としては、例えば、炭酸ジメチルを挙げることができる。
(工程(e))
本製造方法は、前記工程(d)の後に、さらに以下の工程(e)を含むことができる:
(e)前記工程(d)により得られたゲル状のポリヒドロキシアルカン酸を乾燥して、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体を取得する工程。
工程(e)により、PHAがより凝集したPHA凝集体を得ることができる。かかるPHA凝集体は、塊状のPHAであり、噴霧乾燥工程により得られる粉末状のPHAと比べて、粒径が大きく、取扱いが容易である。
工程(e)において、ゲル状のPHAを乾燥する前に、ゲル状のPHAを有機溶媒により洗浄してもよい。
本発明の一実施形態において、前記洗浄に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソプロパノール、エタノール、tert-ブタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン等が挙げられる。また、工程(e)にける有機溶媒を用いた洗浄は、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて行うことができる。
本発明の一実施形態において、乾燥方法としては、特に限定されることなく、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて行うことができる。前記乾燥方法の一例としては、例えば、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
〔3.PHA凝集体〕
本PHA凝集体は、菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるPHAと、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを含む。本PHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)は、本PHA凝集体を構成するPHAの重量に対する、本PHA凝集体に含まれる菌体残渣タンパク質の重量の割合(ppm)である。なお、本PHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)の測定方法は、特に限定されず、例えば、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)等の市販のタンパク質の含有量の測定キットを用いる方法を採用することができる。
本製造方法にて製造されるPHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)は、本製造方法における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)と同一の値となる。従って、本PHA凝集体は、本製造方法により製造される。そのために、本PHA凝集体は、簡便な操作で、かつ、高収率で得られるという利点を有する。
詳細には、本PHA凝集体は、菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下と少ない。よって、本PHA凝集体を構成するPHAに付着し、その表面を被覆する菌体残渣タンパク質の量が少ないことから、当該PHAは、凝集し易くなっている。従って、本PHA凝集体は、本製造方法により、工程(d)等の特殊な操作を実施しなくとも製造され得る。また、本PHA凝集体は、前記PHAが凝集し易くなっていることから、菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppmを超えるPHA凝集体よりも、高収率で製造され得る。それゆえに、本PHA凝集体は、簡便な操作で、かつ、高収率で製造され得るとの利点を備える。なお、本PHA凝集体は、前記菌体残渣タンパク質の含有量がより少ない方が、より簡便な操作で、かつ、より高収率で製造され得ると考えられる。その観点から、本PHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量は、980ppm以下であることが好ましく、960ppm以下であることがより好ましく、940ppm以下であることがさらに好ましく、920ppm以下であることが特に好ましい。
本PHA凝集体は、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒を含む。本PHA凝集体中の上記非水溶性有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、本PHA凝集体を構成するPHA100重量部に対して、例えば、0.01~10重量部であり、0.01~1重量部が好ましい。非水溶性有機溶媒の含有量が上記範囲であることにより、引火性が抑えられるとの利点を有する。
また、本PHA凝集体の大きさは、特に限定されないが、例えば、大きさとしては最大径が0.1cm~10cmであることが好ましく、0.5cm~9.0cmであることがより好ましく、1.0cm~8.0cmであることがさらに好ましい。本範囲であれば、操作性の観点で優れる。
また、本PHA凝集体は、本発明の効果を奏する限り、本製造方法の過程で生じた、または除去されなかった種々の成分を含んでいてもよい。
なお、本実施形態において、特に言及しなかったものについては、上記〔2.PHAの製造方法〕に記載の内容が援用される。
本PHA凝集体は、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器等)、袋、部品等、種々の用途に利用できる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の発明を包含する。
<1>(a)菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程、
(b)前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る工程、および
(c)前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去して、ポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る工程、
を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<2>さらに、(d)前記工程(c)で得られた非水溶性有機溶媒相を加熱し、その後冷却して、ゲル状のポリヒドロキシアルカン酸を取得する工程、
を含む、<1>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<3>さらに加えて、(e)前記工程(d)により得られたゲル状のポリヒドロキシアルカン酸を乾燥して、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体を取得する工程、
を含む、<2>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<4>前記工程(c)において、前記混合液を、下から順に、ポリヒドロキシアルカン酸相A、非水溶性有機溶媒主成分相、ポリヒドロキシアルカン酸相Bおよび水主成分相に分離させて、前記ポリヒドロキシアルカン酸相Bおよび水主成分相を除去する工程を含む、<1>~<3>の何れか1つに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<5>前記工程(c)において、以下の式(1)で示される値が45%以上である、<4>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
ポリヒドロキシアルカン酸相Aの体積/(ポリヒドロキシアルカン酸相Aの体積+ポリヒドロキシアルカン酸相Bの体積)×100・・・(1)
<6>前記ポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液のpHが、2.5以上である、<1>~5>の何れか1つに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<7>前記非水溶性有機溶媒が、トリアセチン、炭酸ジメチル、トリプロピオニン、プロピレングリコールジアセタートおよびトリブチリンからなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<6>の何れか1つに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<8>前記工程(d)における加熱温度が、50~150℃である、<2>または<3>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<9>前記工程(d)における冷却温度が、50℃未満である、<2>、<3>および<8>の何れか1つに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<10>菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを含む、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体。
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[測定方法]
<PHA水性懸濁液における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)>
実施例1、2及び比較例1にて調製されたPHA水性懸濁液に対して、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、前記PHA水性懸濁液における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)を測定した。
<PHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)>
実施例1、2及び比較例1にて製造されたPHA凝集体に対して、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、前記PHA凝集体における菌体残渣タンパク質の含有量(ppm)を測定した。
<pH>
実施例1、2及び比較例1にて調製された溶液A、溶液B、PHA水性懸濁液のpHを、pH計(HORIBA製)を用いて測定した。また、実施例1、2及び比較例1において、水酸化ナトリウム水溶液または硫酸を添加している間、添加対象の溶液のpHを、上記pH計を用いて確認しながら、そのpHが特定の値となるように、水酸化ナトリウム水溶液または硫酸の添加量および添加速度を制御した。
[実施例1]
(菌体培養液の調製)
国際公開第WO2019/142717号に記載のラルストニア・ユートロファを、同文献の段落[0041]~[0048]に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。
(不活化)
上記で得られた菌体培養液を、内温60~70℃で7時間加熱および攪拌処理することにより滅菌処理を行い、不活化培養液を得た。
(過酸化水素処理)
上記で得られた不活化培養液に過酸化水素(富士フィルム和光純薬製)を添加して、当該過酸化水素の濃度が0.66重量%であり、前記不活性培養液および前記過酸化水素からなる溶液A100gを得た。次いで、得られた溶液Aに対して30%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHが11.0に調整された溶液Bを得た。さらに、溶液Bの温度を60℃で維持しつつ、溶液Bに対して、30%水酸化ナトリウム水溶液を、1.5時間かけて添加し続けることにより、過酸化水素処理液を得た。前記30%水酸化ナトリウム水溶液が添加されている間、溶液BのpHは、11.0に維持されていた。
(酵素処理)
得られた過酸化水素処理液に対し、10%硫酸を添加して、pHが7.0±0.2に調整された溶液Cを得た。溶液Cの固形分濃度を測定したところ、30重量%であった。その後、溶液Cに対して、細胞壁中の糖鎖(ペプチドグリカン)を分解する酵素であるリゾチーム(富士フイルム和光純薬製)を、液中濃度が10ppmとなるように添加して溶液Dを得、溶液Dを、温度を50℃に維持したまま2時間放置した。続いて、溶液Dに対して、タンパク質分解酵素であるアルカラーゼ2.5L(Novozyme社製)を、液中濃度が300ppmとなるように添加し、次いで、50℃で10%水酸化ナトリウム水溶液を2時間かけて添加して、酵素処理液を得た。前記酵素処理液のpHは、前記30%水酸化ナトリウムが添加されている間は、8.5に調整された後、維持されていた。
(アルカリ処理)
前記酵素処理液に対して、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、花王製)を、SDSの液中濃度が2.0重量%になるように添加して、溶液Dを得た。その後、溶液Dに対して、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHが11.0±0.2に調整された溶液Eを得た。次いで、溶液Eを遠心分離(4500rpm、10分間)した後、上清を除去して、溶液Eを2倍濃縮した溶液Fを得た。溶液Fに、除去した上清と同量のpH11の水酸化ナトリウム水溶液を添加して再度遠心分離(4500rpm、10分間)して、上清を除去することを5回繰り返し、PHA水性懸濁液を得た。得られたPHA水性懸濁液を、PHA水性懸濁液(1)と称する。PHA水性懸濁液(1)中の菌体残渣タンパク質の含有量は、460ppmであった。
(遠心分離)
上記で得られたPHA水性懸濁液(1)に10%硫酸を添加し、そのpHが3.0に安定するまで調整されたPHA水性懸濁液(以下、「pH3.0のPHA水性懸濁液」と称する)を得た。次いで、50mL遠沈管に、ジメチルカーボネート(比重:1.07g/mL)を7.5g、前記pH3.0のPHA水性懸濁液を7.5g添加し、両者を混合し、混合液を得た。得られた混合液を、ベックマンコールター製遠心機AllegraTM X-22R Centrifugeを用いて、回転速度3000rpmで15分間、遠心分離を行った。遠心分離後に、遠沈管の底部から順に、PHA相A、非水溶性有機溶媒主成分相、PHA相Bおよび水主成分相に相分離した、遠心分離後の混合液(1)を得た。前記遠心分離後の混合液(1)の態様を、図2(a)に示す。
前記遠心分離後の混合液(1)における各相の体積を遠沈管の体積目盛を用いて測定し、測定された値を用いて、下記の式(1)により、PHA回収率を算出した。算出されたPHA回収率[%]を表1に示す。
PHA回収率[%]=PHA相Aの体積/(PHA相Aの体積+PHA相Bの体積)×100・・・(1)
前記遠心分離後の混合液(1)から、PHA相Bおよび水主成分相を除去し、PHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液(1)を得た。ここで、PHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液(1)は、本発明の一実施形態における「PHAを含む非水溶性有機溶媒相」に該当する。次いで、PHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液(1)を、60℃で10分間加熱した後、室温で冷却し、PHAをゲル化させた。前記冷却後の、ゲル化したPHA(以下、「ゲル化PHA」と称する)を含むPHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液(1)の態様を図3に示す。前記ゲル化PHAを含むPHA含有非水溶性有機溶媒懸濁液(1)からスパチュラを用いて、当該ゲル化PHAを回収した。その後、回収したゲル化PHAを乾燥させて、PHA凝集体(1)を得た。PHA凝集体(1)における菌体残渣タンパク質の含有量は、PHA水性懸濁液(1)中の菌体残渣タンパク質の含有量と同一であった。
[実施例2]
アルカリ処理工程におけるSDS添加量を1.0wt%とした以外は実施例1と同様の方法でPHA水性懸濁液を得た。得られたPHA水性懸濁液を、PHA水性懸濁液(2)と称する。PHA水性懸濁液(2)中の残タンパク質濃度は、903ppmであった。PHA水性懸濁液(1)の代わりに、PHA水性懸濁液(2)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で遠心分離工程を実施し、遠心分離後の混合液(1)と同様に、遠沈管の底部から順に、PHA相A、非水溶性有機溶媒主成分相、PHA相Bおよび水主成分相に相分離した、遠心分離後の混合液(2)を得た。前記遠心分離後の混合液(2)の態様を、図2(b)に示す。また、実施例1と同様の方法にて、前記遠心分離後の混合液(2)におけるPHA回収率を算出した。算出されたPHA回収率を表1に示す。
[比較例1]
アルカリ処理工程におけるSDS添加量を0.6wt%とし、上清除去のための遠心分離回数を3回とした以外は実施例1と同様の方法でPHA水性懸濁液を得た。得られたPHA水性懸濁液を、PHA水性懸濁液(3)と称する。PHA水性懸濁液(3)中の残タンパク質濃度は、1217ppmであった。PHA水性懸濁液(1)の代わりに、PHA水性懸濁液(3)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で遠心分離工程を実施し、遠心分離後の混合液(1)と同様に、遠沈管の底部から順に、PHA相A、非水溶性有機溶媒主成分相、PHA相Bおよび水主成分相に相分離した、遠心分離後の混合液(3)を得た。前記遠心分離後の混合液(3)の態様を、図2(c)に示す。また、実施例1と同様の方法にて、前記遠心分離後の混合液(3)におけるPHA回収率を算出した。算出されたPHA回収率を表1に示す。
[結果]
表1より、実施例1、2に記載の製造方法は、比較例1に記載の製造方法と比較して、PHA水性懸濁液中の残タンパク質濃度が1000ppm以下と低く、本製造方法に該当する。また、実施例1、2に記載の製造方法は、比較例1に記載の製造方法と比較して、PHA回収率が高い。すなわち、実施例1、2に記載の製造方法では、比較例1に記載の製造方法に対し、PHA水性懸濁液中の残タンパク質濃度が1000ppm以下と低く、その結果、PHA回収率が高いことが分かった。
図2に示す通り、実施例1、2における遠心分離後の混合液において、比較例1における遠心分離後の混合液と比較して、PHAが、遠沈管の底部、すなわち非水溶性有機溶媒相の下部により沈降している。従って、実施例1、2に記載の製造方法は、比較例1に記載の製造方法よりも、より簡便な操作で、PHAを製造することができることが分かった。
以上のことから、本製造方法は、PHA水性懸濁液における菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であることにより、PHA水性懸濁液のpHをより低い値に制御することなく、より簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができるとの効果を奏することが分かった。
さらに、図3より、本製造方法において、工程(d):前記非水溶性有機溶媒相を加熱し、その後冷却する工程を含む製造方法によって、PHA水性懸濁液からゲル化PHAを回収できることが分かった。ここで、ゲル化PHAは、PHAが凝集してなるPHA凝集体であり、前記非水溶性有機溶媒相からより簡便な操作で、かつ、より高収率で回収することができる。従って、本製造方法において、工程(d)を含むことにより、より簡便な操作で、かつ、より高収率で、PHAを製造することができることが分かった。
本製造方法は、簡便な操作で、かつ、高収率で、PHAを製造することができることから、PHAの製造において有利に使用できる。また、本製造方法により得られたPHA凝集体等は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。
1 ポリヒドロキシアルカン酸相A(PHA相A)
2 非水溶性有機溶媒主成分相
3 ポリヒドロキシアルカン酸相B(PHA相B)
4 水主成分相

Claims (10)

  1. (a)菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程、
    (b)前記工程(a)で得られた水性懸濁液と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを混合して混合液を得る工程、および
    (c)前記工程(b)で得られた混合液を遠心分離により非水溶性有機溶媒相と水相とに分離した後、前記水相を除去して、ポリヒドロキシアルカン酸を含む非水溶性有機溶媒相を得る工程、
    を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  2. さらに、(d)前記工程(c)で得られた非水溶性有機溶媒相を加熱し、その後冷却して、ゲル状のポリヒドロキシアルカン酸を取得する工程、
    を含む、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  3. さらに加えて、(e)前記工程(d)により得られたゲル状のポリヒドロキシアルカン酸を乾燥して、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体を取得する工程、
    を含む、請求項2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  4. 前記工程(c)において、前記混合液を、下から順に、ポリヒドロキシアルカン酸相A、非水溶性有機溶媒主成分相、ポリヒドロキシアルカン酸相Bおよび水主成分相に分離させて、前記ポリヒドロキシアルカン酸相Bおよび水主成分相を除去する工程を含む、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  5. 前記工程(c)において、以下の式(1)で示される値が45%以上である、請求項4に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
    ポリヒドロキシアルカン酸相Aの体積/(ポリヒドロキシアルカン酸相Aの体積+ポリヒドロキシアルカン酸相Bの体積)×100・・・(1)
  6. 前記ポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液のpHが、2.5以上である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  7. 前記非水溶性有機溶媒が、炭酸ジメチルである、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  8. 前記工程(d)における加熱温度が、50~150℃である、請求項2または3に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  9. 前記工程(d)における冷却温度が、50℃未満である、請求項2または3に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
  10. 菌体残渣タンパク質の含有量が1000ppm以下であるポリヒドロキシアルカン酸と、比重が1.0g/mL超の非水溶性有機溶媒とを含む、ポリヒドロキシアルカン酸凝集体。
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