JP2022091345A - トンネル防水工法 - Google Patents
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Abstract
Description
近年、シート防水工では、施工性の向上を目的として、幅10m程度の長尺防水シートが開発され活用されている。この長尺防水シートは、展開したまま取り扱うことができないため、幅方向に複数回折り返して長手方向に長い帯状に折り畳み、トンネル周方向に沿ってシート台車上に配置する。
張付け時には、防水シート背面の固定片(「ヒレ」と呼ばれる)を、トンネル周方向に沿って所定間隔で吹付けコンクリート面へ釘留めし、続いて、シート台車を切羽側に移動して折り畳んだ防水シートを繰り出し、これらの工程を繰り返して、防水シートを全長にわたって吹付けコンクリート面に張付ける。
<1>施工性。
長尺防水シートの繰り出し施工の場合、防水シートの張付け時、作業員が折り畳んだ防水シートの切羽側に立ち、防水シート背面の固定片を掴み上げて吹付けコンクリート面に押し付け、トンネル周方向に沿って所定の間隔で釘打ちする。
ここで、固定片のシート幅方向における間隔は1m以上あり、折り畳んだ防水シート越しに2列目の固定片へ手を伸ばすことができないため、固定片を一度に2列以上釘留めすることができない。
よって、防水シートを周方向に1列釘留めするごとに、シート台車を移動させて、次の固定片の位置まで防水シートを繰り出す必要がある。
また、釘留め時には、作業員がシート台車上を天井部から地上部にわたって昇降しながら作業しなければならない。
従って、従来技術は、施工性において改善の余地がある。
近年、施工品質の向上を目的として、防水シートと不織布等の裏面緩衝材が一体になった複合積層構造の防水シートが多用されている。
しかし、長尺防水シートを複合積層構造とする場合、裏面緩衝材に厚みがあり嵩張るため、工場における折り畳み、現場への輸送、シート台車上への配置、シート台車上における繰り出し、吹付けコンクリート面への釘留め、の各工程において防水シートの取り扱いが難しく、施工性が悪い。
特に吹付けコンクリート面への釘留めでは、重みのある積層構造の防水シートを、固定片で掴み上げて吹付けコンクリート面へ押し付けるため、作業員の肉体的負担が非常に大きい。
<1>施工性が高い。
折り畳んだ防水シートの坑口側において、防水シートをシート表面側から電磁誘導作用によって張付けるため、長尺防水シートの施工でありながら、シート台車を頻繁に移動させることなく、一度に広い面積にわたって防水シートを張付けることができる。
また、この際、作業員はシート台車上の同じ高さのステージ上で、トンネル軸方向における複数箇所をまとめて溶着できるため、シート車上の昇降回数を従来技術の数分の一に削減することができる。
このため、施工性が極めて高く、作業員の肉体的負担も少ない。
<2>複合積層構造への適合性。
裏面緩衝材の分割釘留めと、防水シートの繰り出し溶着とを組み合わせることによって、防水シートと裏面緩衝材からなる複合積層構造の防水シートを、簡易な作業で効率よく張付けすることができる。
なお、本明細書において、防水シート及び裏面緩衝材の「幅方向(幅)」とは、施工完了時においてトンネル軸方向と平行する方向(の幅)であり、「長手方向(長さ)」とは、防水シート上において幅方向と直交する方向(の長さ)である。
また、防水シート及び裏面緩衝材の「背面」とは、張付け時に吹付けコンクリート面に対面する側の面を意味し、「表面」とは、背面の反対面を意味する。
裏面緩衝材の「展張」とは、裏面緩衝材を吹付けコンクリート面上に広げて押し付けることを意味する。
図面上の各構成要素の寸法や比率は、説明の目的のため適宜変更して表示しており、実際の寸法や比率を表すものではない。また、図面上、トンネル、防水シート、及び裏面緩衝材はトンネル軸方向に沿った断面で表示している。
<1>全体の構成(図1)。
本発明のトンネル防水工法は、山岳トンネル工事において、吹付けコンクリート面A上に、複合防水層10を構築する工法である。
トンネル防水工法は、裏面緩衝材固定工程S1と、発熱体固定工程S2と、防水シート配置工程S3と、開始端部固定工程S4と、繰り出し工程S5と、溶着工程S6と、を少なくとも備え、繰り出し工程S5及び溶着工程S6を、所定回数繰り返して、吹付けコンクリート面A上に複合防水層10を設ける。
なお、以下では、前施工サイクルによって吹付けコンクリート面A上に設けた複合防水層10の切羽側に、新たに複合防水層10を設ける1施工サイクルについて説明する。
複合防水層10は、吹付けコンクリート面A上に固定した裏面緩衝材12と、裏面緩衝材12の表面に張付けた防水シート11からなる、複合構造の防水層である。
本発明のトンネル防水工法では、複合防水層10を一体構造のシート体のまま張付けるのではなく、吹付けコンクリート面Aに固定した裏面緩衝材12の表面に防水シート11を張付けることで、吹付けコンクリート面A上に複合防水層10を構成する。
防水シート11は、遮水機能を備えたシート体である。
本発明で用いる防水シート11は、シート台車B上に折り畳んだ状態から繰り出して張付ける、長尺防水シートである。
防水シート11の幅方向の開始端部付近には、背面に開始端部固定用の固定片(「ヒレ」)を付設する。
防水シート11の幅は施工スパンに応じて任意に選択する。防水シート11の長さは、吹付けコンクリート面Aの周長に対応させる。
本例では防水シート11として、幅9.8m(有効長9.6m)×長さ21.0m、厚さ0.8mmのエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)製シートを採用する。
ただし防水シート11はこれに限られず、所定の強度と遮水性能を備えていれば、公知の他のシート材であってもよい。
また、防水シート11として、透光性素材(透明又は半透明)のシート材を採用すれば、後述する溶着工程において、防水シート11の背面側にある電磁誘導発熱体20の位置を防水シート11の表面側から視認することができるので、施工効率がさらに高くなる。
裏面緩衝材12は、衝撃に対する緩衝機能と排水機能を備えたシート体である。
本例では裏面緩衝材12として、幅2.1m×長さ21.0mの長繊維不織布シートを採用する。
すなわち、本例では、1枚の防水シート11(有効長9.6m)に対して、5枚の裏面緩衝材12(合計有効長10.0m)を組み合わせて使用する。
また、裏面緩衝材12の背面側に、排水機能を向上させるための立体網状体を設置してもよい。
裏面緩衝材固定工程S1は、例えば以下の手順で行う。
長手方向両側から中央に向けてロール巻きにした裏面緩衝材12を、シート台車B上に運び、シート台車Bの中央から裏面緩衝材12の2つのロール部を両側に転がし下ろして、裏面緩衝材12をシート台車B上に展開する。
裏面緩衝材12を、吹付けコンクリート面Aにおける前施工サイクルの複合防水層10の切羽側に押し付ける。
裏面緩衝材12の長手方向の中央を吹付けコンクリート面Aの周方向の中央に合わせ、コンクリート釘で固定する。続いて、裏面緩衝材12の中央から両側へ向けて、所定の間隔で全周吹付けコンクリート面Aに釘留めする。
裏面緩衝材12を1枚固定したら、シート台車Bを移動させて、固定した裏面緩衝材12の切羽側に次の裏面緩衝材12を固定する。本例では、隣接する2枚の裏面緩衝材12の間に10cmの重ね代を設ける。
以上の手順を繰り返して、防水シート11の全周に対応する5枚の裏面緩衝材12を吹付けコンクリート面A上に固定する。
本例では、1枚の防水シート11に対して、裏面緩衝材12を複数枚に分割して施工する。
このように裏面緩衝材12の分割単位を、作業員1人で取り扱い可能な重量及び幅の範囲内とすることで、長尺で継ぎ目のない防水シート11の施工でありながら、裏面緩衝材12を作業員1人で持ち上げたり移動させることができる。このため施工性が高く、作業員の肉体的負担も少ない。
また、裏面緩衝材12は丈夫で水密性を求められないため、僅かな傷であっても確実に修繕が必要な複合一体型防水シートのような慎重な取り扱いを必要としない。このため、取り扱いが容易で、効率よく施工することができる。
発熱体固定工程S2は、例えば以下の手順で行う。
吹付けコンクリート面A上に固定した裏面緩衝材12の表面に、複数の電磁誘導発熱体20を固定する。
詳細には、裏面緩衝材12上に電磁誘導発熱体20を添え、電磁誘導発熱体20の中央孔にコンクリート釘を挿通して裏面緩衝材12に釘留めする。
電磁誘導発熱体20は、トンネル周方向に所定の間隔を空けて全周釘留めして1列とし、これをトンネル軸方向に所定の間隔(本例では1m間隔)で複数列固定する。
必要に応じてシート台車Bを移動しつつ、電磁誘導発熱体20を裏面緩衝材12の全面に固定する。
電磁誘導発熱体20は、電磁誘導装置30(ディスクウェルダー)が発する高周波電流による電磁誘導作用によって、防水シート11を溶着する部材である。
本例では電磁誘導発熱体20として、樹脂製の固定板21と、固定板21の一面に設けた溶着層22の組合せからなる、円形ディスク体を採用する。
溶着層22は、例えば、アルミニウム等の磁性材料からなるフィルム体の一面を熱溶着性樹脂で被覆して構成することができる。
ただし電磁誘導発熱体20の構成はこれに限らず、要は電磁誘導装置30の電磁誘導作用によって、防水シート11に溶着可能な構造であればよい。
電磁誘導発熱体20と電磁誘導装置30の構成は公知なので、ここでは詳述しない。
防水シート配置工程S3は、例えば以下の手順で行う。
幅方向に内外相互に複数回折り返して、長手方向に長い帯状に折り畳んだ防水シート11をロール状に巻いて、シート台車Bの側方の地上に仮に配置しておく。
シート台車Bの、防水シート11配置側と反対側の側部に電動ウインチを固定しておき、電動ウインチに連結したワイヤを、シート台車B上のシート受台を通過させてシート台車Bの反対側へ架け渡す。
ロール状の防水シート11の一端を治具で挟み、治具をワイヤの先端に接続する。
電動ウインチでワイヤを巻き取ると、防水シート11が長手方向に展開しながらシート台車Bのシート受台上を周方向に牽引されて、シート台車Bの外周に掛け渡される。
掛け渡し後、防水シート11から治具を取り外す。
なお、防水シート11をシート台車B上に配置する方法は上記に限らず、他の方法によってもよい。
従来技術の裏面緩衝材一体型の防水シートは、厚みと重量があるため、折り畳んだりロール巻きするのが難しく、また嵩張るため、保管時に空間を広く占有していた。また、裏面緩衝材一体型の防水シートは重量が重いため、電動ウインチによる牽引時に治具で挟持した部分に応力が集中して、防水シート面を損傷するおそれがあった。
これに対し、本発明のトンネル防水工法は、防水シート配置工程S3において、単層の防水シート11のみを取り扱うため、折り畳み、ロール巻き、展開等の各種作業が容易である。
また防水シート11が軽量であるため、電動ウインチによる牽引時に損傷しにくい。
開始端部固定工程S4は、例えば以下の手順で行う。
シート台車B上に配置した防水シート11の開始端部を引き上げて、裏面緩衝材12上に固定する。
詳細には、防水シート11の開始端部近くに付設した固定片を掴み上げて、裏面緩衝材12の坑口側の開始端部付近に押し付け、コンクリート釘で裏面緩衝材12上に釘留めする。同様に、トンネル周方向に所定の間隔を空けて全周釘留めする。
防水シート11の開始端部は下方に垂らしておいて、後に前施工サイクルの防水シート11の切羽側の後端部と拝み合わせて、電熱器で一体に溶着する。
繰り出し工程S5は、例えば以下の手順で行う。
シート台車Bを切羽方向に移動させる。
シート台車B上の防水シート11は、坑口側の開始端部が裏面緩衝材12上に釘留めされているため、シート台車Bの移動によって、シート台車B上に折り畳んだ防水シート11が幅方向に展開して繰り出される。
防水シート11の1回あたりの繰り出し幅は、シート台車の1回あたりの移動量に対応する。本例では、防水シート11の繰り出し幅は、4m/回である。
溶着工程S6は、例えば以下の手順で行う。
シート台車B上から繰り出した防水シート11の表面側から、防水シート11越しに電磁誘導装置30を電磁誘導発熱体20に押し当て、電磁誘導装置30から電磁誘導発熱体20へ電磁場を作用させる。
すると、電磁誘導発熱体20の溶着層22が電磁誘導作用によって発熱し、溶着層22の熱溶着性樹脂が溶融して防水シート11の背面に付着する。
ここで、電磁誘導装置30を防水シート11に押し当てつつ、電磁場を遮断すると、溶着層22の発熱が止まり、溶融した熱溶着性樹脂が冷えて硬化することで、電磁誘導発熱体20が防水シート11の背面に溶着する。
同様の作業を、裏面緩衝材12上に展開した防水シート11におけるすべての電磁誘導発熱体20に対して行い、電磁誘導発熱体20を介して防水シート11を裏面緩衝材12上に張付ける。
従来技術では、防水シートを背面側から吹付けコンクリート面へ釘留めしていたため、トンネル軸方向の1列釘留めするごとに、シート台車を移動させて次の固定片の位置まで防水シートを繰り出す必要があった。
従って、例えば固定片の防水シート幅方向の間隔が1mの場合、作業員がシート台車上を昇降しつつ、固定片を釘留めし、シート台車を移動する一連の作業を防水シートの幅1mごとに繰り返す必要があった。このため、シート台車上の同じ高さからトンネル軸方向1か所ずつしか釘留めできず、作業に時間がかかると共に、作業員の肉体的負担が大きかった。
これに対し、本発明のトンネル防水工法は、防水シート11を前面側から溶着できるため、従来のようにシート台車Bをトンネル軸方向1列ごとに移動させることなく、防水シート11を一度に広い範囲溶着することができる。また、作業員がシート台車B上の同じ高さのステージから、トンネル軸方向の複数列にわたってまとめて溶着することができる。
例えばシート台車Bの移動量が4m/回の場合、防水シート11をトンネル軸方向1m間隔で3列まとめて溶着することができるため、従来技術と比較して、作業員の昇降とシート台車Bの移動に係る時間及び労力を、数分の1に削減することができる。
繰り出し工程S5と溶着工程S6を所定回数繰り返して、1枚の防水シート11全体を繰り出すと共に、防水シート11を全幅にわたって裏面緩衝材12上に溶着する。
以上によって1施工サイクルが完了し、吹付けコンクリート面A上に、防水シート11と裏面緩衝材12からなる複合防水層10が構築される(図2)。
本例では、裏面緩衝材固定工程S1において、吹付けコンクリート面Aに固定した裏面緩衝材12の表面に、トンネル軸方向に平行な基準ライン12aが記入されている。
基準ライン12aは、少なくともトンネルの天端中央部に記入することが望ましい。
本例では、開始端部固定工程S4や溶着工程S6において、裏面緩衝材12の基準ライン12aを目印にして防水シート11のセンター位置等を位置合わせすることで、施工精度を高め、施工を容易にすることができる。
基準ライン12aは、裏面緩衝材12の固定前に予め記入しておいてもよいし、裏面緩衝材12を吹付けコンクリート面Aに固定した後に、トンネル内測量に基づいて記入してもよい。
S2 発熱体固定工程
S3 防水シート配置工程
S4 開始端部固定工程
S5 繰り出し工程
S6 溶着工程
10 複合防水層
11 防水シート
12 裏面緩衝材
12a 基準ライン
20 電磁誘導発熱体
21 固定板
22 溶着層
30 電磁誘導装置
A 吹付けコンクリート面
B シート台車
Claims (4)
- 山岳トンネル工事において、吹付けコンクリート面上に、裏面緩衝材及び防水シートを含む複合防水層を設ける、トンネル防水工法であって、
前記裏面緩衝材を、吹付けコンクリート面上に展張して固定する、裏面緩衝材固定工程と、
複数の電磁誘導発熱体を、前記裏面緩衝材上に所定の間隔で固定する、発熱体固定工程と、
幅方向に複数回折り返して長手方向に長い帯状に折り畳んだ前記防水シートを、トンネル周方向に沿ってシート台車上に配置する、防水シート配置工程と、
前記防水シートにおける幅方向の開始端部を、トンネル周方向における所定間隔で前記裏面緩衝材上に固定する、開始端部固定工程と、
前記シート台車を切羽方向に移動させることで、前記シート台車上から前記防水シートを繰り出す、繰り出し工程と、
前記シート台車上から繰り出した前記防水シートの表面に、電磁誘導装置を近接させ、前記防水シート越しに前記裏面緩衝材上の前記電磁誘導発熱体を電磁誘導作用によって加熱して、前記防水シートを前記電磁誘導発熱体に溶着する、溶着工程と、を備え、
前記繰り出し工程と前記溶着工程を所定回数繰り返して、前記防水シートを全幅にわたって前記裏面緩衝材上に貼り合わせることを特徴とする、
トンネル防水工法。 - 前記裏面緩衝材固定工程において、1枚の前記防水シートの幅方向の長さに対応する複数枚の裏面緩衝材を、トンネル軸方向に沿って前記吹付けコンクリート面上に敷き並べて固定することを特徴とする、請求項1に記載のトンネル防水工法。
- 前記吹付けコンクリート面上に固定した前記裏面緩衝材の表面に、トンネル軸方向に平行な基準ラインが記入されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネル防水工法。
- 前記防水シートが透光性を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトンネル防水工法。
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