JP2022090379A - 耐油性スチレン系樹脂シート、および、包装体 - Google Patents

耐油性スチレン系樹脂シート、および、包装体 Download PDF

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Abstract

【課題】薄い塗布厚でもスチレン系樹脂シートに耐熱耐油性、特に中鎖脂肪酸に対する耐油性を向上させることができる被覆層を有するスチレン系樹シートを提供する。【解決手段】スチレン系樹脂シートの少なくとも片面にナノセルロースと親水性高分子とを含む被覆層を有することを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シート。好ましくは、被覆層の厚みが20~200nmであり、ナノセルロースがセルロースナノクリスタルであり、被覆層のガラス転移温度が50~150℃である。【選択図】なし

Description

本発明は、耐油性スチレン系樹脂シート、および、包装体に関する。
ポリスチレンから得られるシートは、透明性や剛性が優れ、また成形性に優れているため、主に食品包装用容器用材料として使用されている。しかし、このポリスチレンから得られるシート製の容器は一般的な食品包装容器としては適しているものの、コンビニエンスストア等における、高出力の電子レンジで加熱する用途においては、耐熱耐油性が不足することがあり、改良が求められている。
特に、スチレン系樹脂シートは、食品の艶出しや離型のために多用されている、脂肪酸エステル部の炭素鎖が比較的短い中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglycerid、以下、「MCT」と称することがある。)に対し耐性が弱く、言い換えると浸食されて白化が起きやすく、食品包装体の商品価値を低下させてしまう。よって、この点の改善が必要であった。
スチレン系樹脂シートの耐油性を改善する手段として、特許文献1には、親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に、炭素数1~3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が25~100重量%、及び親水性高分子が75~0重量%からなるコーティング組成物の塗膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1のMCTに対する耐性は70℃5分程度までであり、実用上の耐熱耐油性としては不十分であった。
また、特許文献2には、スチレン系樹脂シートの少なくとも片面に、糖由来の脂肪酸エステルを含むアクリル系親水性コート剤を用いた被覆層を形成する技術が開示されている。特許文献2では、MCTに対し90℃15分の条件下における耐性が示されているが、その塗布量は200~8000mg/mと厚いため、スチレン系樹脂シートへの塗布及び乾燥工程の生産上の負荷が非常に大きく、また生産コストの点で経済的負荷も大きなものとなり、実用上の課題があった。
特開2007-077364号公報 特開2016-098255号公報
これらの事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、薄い塗布厚でもスチレン系樹脂シートに耐熱耐油性、特に中鎖脂肪酸に対する耐油性を向上させることができる被覆層を有するスチレン系樹シートを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の本発明を完成した。
第1の本発明は、スチレン系樹脂シートの少なくとも片面にナノセルロースと親水性高分子とを含む被覆層を有することを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シートである。
第1の本発明において、前記被覆層の厚みが20~200nmであることが好ましい。
第1の本発明において、前記ナノセルロースがセルロースナノクリスタルであることが好ましい。
第1の本発明において、前記被覆層のガラス転移温度が50~150℃であることが好ましい。
第1の本発明において、前記親水性高分子がアクリル系樹脂、及び/又は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。
第1の本発明において、前記スチレン系樹脂シートが二軸延伸シートであることが好ましい。
第2の本発明は、第1の本発明の耐油性スチレン系樹脂シートを用いた包装体である。
本発明のスチレン系樹脂シートにおいては、薄い塗布厚で被覆層を形成してもスチレン系樹脂シートに耐熱耐油性、特に中鎖脂肪酸に対する良好な耐油性を付与することができる。そのため、食品用途等の包装材として好適に用いることができる。
<耐油性スチレン系樹脂シート>
以下に、本発明の耐油性スチレン系樹脂シート(以下、本発明のシートと称することがある)について説明する。
なお、断り書きを設けない限り「△~△△」の表記は、「△以上△△以下」を意味する。
本発明の耐油性スチレン系樹脂シートは、スチレン系樹脂シートの少なくとも片面に、被覆層を有する。
(スチレン系樹脂シート)
スチレン系樹脂シートのスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体(a)を主成分としてなる樹脂である。なお、ここでの「主成分」とは、スチレン系樹脂全体を100質量%として、スチレン系単量体(a)を50質量%超含むことを意味する。スチレン系単量体(a)としては、スチレン及びその誘導体が挙げられ、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等のハロゲン化スチレン、ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、スチレン、α-メチルスチレンを用いることが好ましい。
また、スチレン系樹脂シートの耐熱性を向上させる点などで、スチレン系単量体(a)の他に単量体成分を1種以上含有する共重合体であってよく、共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの共重合体形態であってもよい。
また、シートに用いるスチレン系樹脂は、1種類であってもよく2種類以上を混合しても良い。
共重合体に用いられる他の単量体の例としては、(a)と異なる種類のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリルや、ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン系炭化水素、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィン等が挙げられる。
中でも、シートの耐熱性を向上させる観点ではビカット軟化点温度を上げることから、(a)と異なる種類のスチレン系単量体であるα-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、アクリロニトリルを用いることが好ましく、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルを用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸を用いることが特に好ましい。ここで、「(a)と異なる種類のスチレン系単量体」とは、例えば、スチレン系単量体(a)としてスチレンを用いている場合は、該スチレン以外のスチレン系単量体をいい、例えば、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン等をいう。
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。中でも、本発明のシートをリサイクル利用して新たにシート成形する時の脱水反応に伴う外観不良抑制や機械強度低下抑制の観点から、共重合体に用いられる他の単量体として、(メタ)アクリル酸メチルを用いることが好ましい。
また、スチレン系樹脂が共重合体である場合、スチレン系単量体(a)と、前記(a)と異なる種類のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、及びアクリロニトリルの群から選ばれる1種の単量体(b)との二元共重合体や、スチレン系単量体(a)と、前記(a)と異なる種類のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及びアクリロニトリルの群から選ばれる1種の単量体(b)’と、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)との三元共重合体が、スチレン系樹脂シートのビカット軟化点上昇、即ち耐熱性の観点で好ましい。中でも、単量体(b)又は(b)’が(メタ)アクリル酸である二元共重合体又は三元共重合体が好ましい。
前記二元共重合体の共重合組成比は、単量体(a)と(b)の合計を100質量%とした場合、(a):(b)は80~99:1~20質量%が好ましく、85~98:2~15質量%がより好ましく、86~97:3~14質量%がさらに好ましく、90~97:3~10質量%が最も好ましい。
前記三元共重合体の共重合組成比は、単量体(a)と(b)´と(c)の合計を100質量%とした場合、(a):(b)´:(c)は60~98:1~20:1~20質量%が好ましく、67~96:2~18:2~15質量%がより好ましく、74~94:3~16:3~10質量%がさらに好ましく、78~92:4~14:4~8質量%が最も好ましい。
スチレン系単量体(a)の共重合組成比が二元共重合体の場合80質量%以上、三元共重合体の場合60質量%以上であると、他のポリスチレン系樹脂、特に耐衝撃性ポリスチレン系樹脂との相溶性の点で好ましい。つまり、スチレン系樹脂は、耐衝撃性ポリスチレン(ポリブタジエン、または、スチレンとブタジエンとのランダム共重合体にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体)を含んでいてもよく、この場合、得られるシートに耐衝撃性を付与することができる。
また、スチレン系単量体(a)の共重合組成比が二元共重合体の場合99質量%以下、三元共重合体の場合98質量%以下であると、シートのビカット軟化点温度が高くなり耐熱性を向上させやすく、単量体(b)、(b)’を1質量%以上含有すると、シートのビカット軟化点温度が高くなり耐熱性を向上させやすい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)の含有量が20質量%以下であると、スチレン系樹脂シートをリサイクルに供した場合に吸水が抑制され発泡等が生じ難い。
スチレン系樹脂シートには、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含有することができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
また、スチレン系樹脂シートは、使用目的に応じて、内部潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、加工助剤、溶融粘度改良剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、核剤、架橋剤、滑材、鉱油、スリップ剤、防曇剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤および顔料などを適宜含有してもよい。
スチレン系樹脂シートの厚みは、特に制限ないが、シート強度、耐熱性、成形性、経済性などの点から0.08~1.0mmが好ましく、0.1~0.7mmがより好ましく、0.2~0.4mmが特に好ましい。
スチレン系樹脂シートのビカット軟化点は、一般的に100℃位であり、得られるシートの耐熱性を向上させる観点から、103℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましい。
(被覆層)
本発明のシートは、スチレン系樹脂シートの少なくとも片面にナノセルロースと親水性高分子とを含む被覆層を有する。
被覆層に用いるナノセルロースとは、幅100nm以下のセルロースであり、例えばセルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)が挙げられる。
ナノセルロースは、木材パルプなどのセルロースを含む原料から、セルロースを機械的及び/又は科学的手法でナノサイズまで微細化して製造され、比表面積が大きく、熱変形が小さく、更に、炭素繊維、ガラス繊維等の補強用繊維と同等の強度を発揮するという特徴を有する。また、可視光波長より十分小さいため、被覆層を形成した際の透明性が高く、また天然物・再生型資源であるので環境負荷の低減に役立つといった利点を持つ。
ナノセルロースは、ヒドロキシル基以外に、表面官能基として、スルホン酸基、アミノ基、リン酸基、カルボキシル基などを有していてもよく、中でも、ナノセルロースの分散性の点でスルホン酸基が好ましい。
セルロースナノファイバー(CNF)は、幅4~100nm、長さ数μm以上の非晶質部分と結晶部分とを有する繊維体であり、セルロースナノクリスタル(CNC)は、幅3~50nm、長さ50~500nmの表面官能基であるヒドロキシル基の水素結合による針状結晶体である。CNCは、形状が小さく、ヒドロキシル基等の表面官能基により、親水性高分子との親和性、分散混和性、凝集力が高く、被覆層の緻密化が効率的に行われ、本発明のシートの耐油性に有効である。また、被覆層を形成する塗布液の粘度調整の観点でも、CNCが好ましい。
被覆層に用いる親水性高分子は、水溶性高分子、水分散性高分子のいずれでもよい。例えば、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール及びその誘導体、エチレン-ビニルアルコール共重合体及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、セルロース及びその誘導体、天然多糖類及びその誘導体などである。中でも、成膜性及び成形加工性の点で、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコールが好ましい。
親水性高分子のガラス転移温度は、40~100℃であることが好ましく、50~80℃がより好ましい。40℃以上であることにより、高い耐油性を発現でき、100℃以下であることにより、溶解させたときにゲルになりにくいため、スチレン系樹脂シートのリターン性が向上する。
アクリル系樹脂としては、親水性基を有するアクリル系単量体に由来する構成繰返し単位を含むものであればよく、その親水性基を有するアクリル系単量体としては、水と相互作用が強い極性の原子団である親水性基、即ち、水中で陽イオンとして解離するカチオン性基、陰イオンとして解離するアニオン性基、或いは解離しない非イオン性基を有する公知のアクリル系単量体が挙げられる。
カチオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその塩、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が、又、そのアニオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸-2-スルホエチル及びその塩、ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート及びその塩等が、又、非イオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。塩としては、アルカリ金属、アルカリ土金属、及びアルミニウム族等の金属、好ましくはLi、Na、K、Mg、Ca、及びAlの塩、並びに、アンモニウム塩等が挙げられる。
中でも、アニオン性基を有するアクリル系単量体、及び非イオン性基を有するアクリル系単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸及びその塩、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
アクリル系樹脂は、上記した親水性基を有するアクリル系単量体以外の単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1~8の直鎖状及び分岐状)エステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
ポリビニルアルコールとしては、特に制限はないが、耐油性の観点から、けん化度の下限は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、上限は99.5モル%以下が好ましく、99%以下がより好ましい。けん化度が高いと、親水性高分子及びナノセルロースとの水素結合による親和性が高まり、被覆層が緻密化し易いため、被覆層厚が薄くても耐油性が得られやすい。また、被覆層を形成する塗布液の粘度調整及び塗膜強度、塗工外観の観点から、重合度の上限は1500以下が好ましく、1000以下がより好ましく、下限は200以上が好ましく300以上がより好ましい。
被覆層のナノセルロースと親水性高分子との固形分合計質量を100質量%とした場合、ナノセルロースと親水性高分子との固形分組成質量比は、10~60:90~40(ナノセルロース:親水性高分子、以下同様)が好ましく、15~55:85~45がより好ましい。親水性高分子がアクリル系樹脂の場合は、20~55:80~45が更に好ましい。
ナノセルロースと親水性高分子とを混合することにより、被覆層中にナノセルロースを均等に分散させることができ、均質な成膜ができるので、本発明のシートの透明性および耐油性が向上する。また、被覆層形成時にナノセルロースが分子間相互作用と凝集力により、緻密な膜を形成するため、相乗的にスチレン系樹脂フィルム内部への油の侵入を防ぐことができる。
また、被覆層には、本発明の効果を損なわない範囲において、防曇剤、帯電防止剤、着色剤等も混合することができる。
例えば、防曇剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等のノニオン界面活性剤や、レシチン等の両性界面活性剤、等が挙げられる。
防曇剤は、得られる積層体の表面における耐熱耐油性と防曇性とのバランスに優れる点から、ナノセルロースと親水性高分子と防曇剤との合計を100質量%とした場合、防曇剤が3~40質量%の範囲であることが好ましく、5~30質量%の範囲であることがより好ましい。
また、防曇剤のHLB値は、ナノセルロースと親水性高分子との分散性の観点から、5以上が好ましく、7以上がより好ましい。
被覆層のガラス転移温度は、50~150℃が好ましく、55~130℃がより好ましい。ナノセルロースと親水性高分子とを含有することにより、親水性高分子自体のガラス転移温度よりも被覆層のガラス転移温度が上昇し、加温下での耐油性が向上する。
被覆層のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、乾燥させた被覆層組成物や、スチレン系樹脂シート上の被覆層を削り取った物を測定する、或いは、シート上の被覆層をマイクロサーマルアナライザーで測定して得ることができる。
被覆層の厚みは、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましい。厚みの上限は特にないが、被覆層を塗工及び乾燥する、ひいては耐油性スチレン系樹脂シートを製造する生産性、経済性の点から、300nm未満が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましく、100nm以下が特に好ましい。
被覆層の厚みは、本発明のシートの断面を顕微鏡観察することにより測定できる。また、被覆層の固形分塗布量(mg/m)と固形分比重から換算して求めることもできる。
<耐油性スチレン系樹脂シートの製造方法>
耐油性スチレン系樹脂シートの製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって製造することができる。スチレン系樹脂シートについては、例えば、未延伸シートの場合は、単軸押出機、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機などの押出機を用いてシートを構成する樹脂組成物を溶融し、ダイからシート状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して得られる。また、延伸シートは、上記未延伸シートを縦方向及び/又は横方向にロール延伸やテンター延伸等の延伸処理することにより得られる。延伸倍率は、樹脂組成や所望するシート機械物性により設定できるが、通常は面倍率で1.5~15倍、好ましくは4~10倍である。
なお、スチレン系樹脂シートを構成する組成物が複数の種類からなる場合は、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサーなどの混合機で適当な時間混合した後、押出機に投入してもよく、他の混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカットなどの方法により一旦ペレット化した後、場合によっては追加する組成物と共に、得られたペレットを押出機に投入してもよい。
本発明のシートの被覆層は、少なくともスチレン系樹脂シートの片面に、ナノセルロースと親水性高分子を含む水性塗布液を、スプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等の公知の塗布方法で、被覆層の乾燥厚みが上述の厚みとなる塗布液濃度及び量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させ形成する。
なお、塗布工程の前に、被覆層を形成するシート表面にコロナ処理や高周波処理等を施すことができる。コロナ処理は、シート表面の水滴接触角が35~45°となるように施すことが好ましく、これにより、被覆層を形成する水性塗布液がシート表面で塗布むら・はじき等となることを防止できる。
また、被覆層を形成した面とは他方の面に、防曇性層、帯電防止性層、離型性層などを同様の方法で形成することもできる。
例えば、離型性層とは、シート賦形成形時の金型からの離型性や成形体同士の剥離性を付与するための層で、例えば、メチル水素ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン(炭素数2~4)変性ジメチルポリシロキサン等のシリコーンオイル等を含む。離型性層の乾燥後の塗布量は、1~100nmが好ましく、3~70nmがより好ましく、5~50nmが更に好ましい。
<耐油性スチレン系樹脂シートの特性>
本発明のシートは、包装体に用いた場合の内容物視認性、商品価値向上の点で、透明性が高いことが好ましく、ヘーズは3.0%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下が更に好ましい。
本発明のシートは、スチレン系樹脂シートに対しサラダ油等よりも特に強い浸食性を示す中鎖脂肪酸(MCT)に対しても耐性を有する。
そのため、本発明のシートを成形加工し、総菜や揚げ物等の蓋材及び容器や、冷蔵・冷凍食品の弁当やパスタ等の蓋材に用い、油分を含む内容物と接しても、白化が起き難い。また、一般に、油の浸食は、冷蔵・冷凍食品を温める等の加熱により増大されるが、本発明のシートではそういった場合の白化も抑制できる。
さらには、本発明のシートを後述の包装体に熱成形加工を施した場合も、MCTに対する耐性を持続でき、白化が起き難い。
また、本発明のシートは、被覆層とスチレン系樹脂シートとの密着性が良好であり、包装体の使用に際し、被覆層の剥離を防止できる。
<包装体>
本発明の耐油性スチレン系樹脂シートの用途は、特に限定されるものではないが、耐油性、透明性等の特性が良好であり、またスチレン系樹脂シートが従来有する機械的特性も兼備することから、公知の熱板圧空真空成形法(直接加熱方式)または圧空成形法、真空圧空成形法(間接加熱方式)によって、所望の容器・蓋形状に二次成形して、上記の食品包装体の他、工業部品等の小分けトレーや運搬容器等の成形包装体として好適に用いることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各実施例、比較例、および参考例に用いた原材料と略号は下記の通りである。
(スチレン系樹脂)
・S1;スチレン単独重合体、ビカット軟化点温度100℃
・S2;スチレン-メタクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合比2質量%、ビカット軟化点温度105℃
・S3;スチレン-メタクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合比3質量%、ビカット軟化点温度109℃
(セルロース)
・セルロース1;セルロースナノクリスタル(固体、幅:5~20nm、長さ:50~200nm、表面官能基:ヒドロキシル基、スルホン酸基)
・セルロース2;メチルセルロース(メトキシ基置換度1.8、20℃における2%水溶液の粘度:4mPa・s)
・セルロース3;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシ基置換度1.5、20℃における2%水溶液の粘度:6mPa・s)
(親水性高分子)
・アクリル1;後述の合成例にて作製した
・アクリル2;後述の合成例にて作製した
・PVA1;ポリビニルアルコール、重合度500、けん化度99モル%、ガラス転移温度76℃
・PVA2:ポリビニルアルコール、重合度500、けん化度80モル%、ガラス転移温度62℃
(アクリル1の合成例)
メタクリル酸メチル29.3質量部、アクリル酸エチル29.3質量部、スチレン29.3質量部、メタクリル酸58.5質量部からなる単量体混合物をn-ブタノール中で溶液重合し、次いでジメチルエタノールアミンにより中和を行い、イオン交換水を加えて水溶化を行い、アクリル1のコート剤を得た。
(アクリル2の合成例)
アクリル酸エチル40質量部、メタクリル酸メチル30質量部、メタクリル酸20質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなる単量体混合物をエチルアルコール中で溶液重合し、重合後にイオン交換水を加えつつ加熱しエチルアルコールを除去した。アンモニア水でpH7.5に調節し、アクリル2のコート剤を得た。
(スチレン系樹脂シートの作製)
表1~5に示すスチレン系樹脂をベント付き単軸押出機に投入し、溶融混練した後、単軸押出機の先端に接続したTダイにて、シート状に押出し、100℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて未延伸シートを得た。その後、得られた未延伸シートを速比の異なるロール間で縦方向に2.5倍延伸し、続いてテンターにて横方向に2.5倍延伸して、厚み250μmのスチレン系樹脂二軸延伸シートを得た。尚、逐次二軸延伸の温度条件は、スチレン系樹脂のビカット軟化点温度を考慮し、適宜設定した。
次いで、得られたスチレン系樹脂二軸延伸シートの片面にコロナ処理を施した。コロナ処理強度は、シート表面の水滴接触角が35~45°になるように高周波電源の出力を調整して行った。
(被覆層の形成)
表1~5に示す固形分組成比および乾燥後の被覆層厚となるように、セルロースと親水性高分子のコート剤と希釈用イオン交換水とを用いて固形分濃度1.5質量%に調合し、超音波処理を出力80W3分間行い、塗布液を得た。
次いで、上記スチレン系樹脂二軸延伸シートのコロナ処理面にバーコート法で塗布液を塗工し、80℃2分乾燥させ、被覆層を形成した。
何れの実施例、比較例、および参考例の場合とも、被覆層は塗布むら・はじき等の不良なく、良好な成膜状態であった。
実施例1~4の被覆層のガラス転移温度は、55℃であった。
被覆層を形成したスチレン系樹脂二軸延伸シートについて、以下の評価を行い、表1~5に結果を纏めた。なお、表中の評価欄の空欄は、未測定を意味する。
(ヘーズ)
ヘーズメーター(日本電色工業製NDH7000II)を用いてヘーズを測定した。ヘーズ1.5%以下を良好と評価した。
(耐油性評価)
10cm角にカットしたスチレン系樹脂二軸延伸シートの被覆層表面に中鎖脂肪酸(日清オイリオグループ株式会社製MCTオイル)約0.3gを塗布し、80℃5分及び15分経過した後の白化の有無を目視観察し、次の基準で評価した。
〇;白化なし
△;わずかに白化あり
×;全体に白化あり
(密着性)
JIS D0202の4.15に記載の碁盤目付着性試験に準じて、密着性の評価を実施した。すなわち、被覆層表面に1mm幅で碁盤目100個(10×10)を作り、碁盤目の上にJIS Z 1522に記載のセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を試験面に直角に保ち、瞬間的に引き離し、剥離するか確認した。
〇;全く剥離しなかった
△:30%以内剥離した
×:30%以上剥離した
<実施例1~13>
ナノセルロースと親水性高分子を含む被覆層を形成した実施例1~13を表1に示す。
Figure 2022090379000001
<比較例1~4>
一般的なセルロースと親水性高分子を含む被覆層を形成した比較例1~4を表2に示す。何れも、ヘーズは1.5%以下、密着性評価「〇」であった。
Figure 2022090379000002
<参考例1~28>
スチレン系樹脂シートS1自体、および、該シートS1に親水性高分子のみで被覆層を形成した参考例1~9を表3に示す。スチレン系樹脂シートS2自体、および、該シートS2に親水性高分子のみで被覆層を形成した参考例10~18を表4に示す。スチレン系樹脂シートS3自体、および、該シートS3に親水性高分子のみで被覆層を形成した参考例19~28を表5に示す。参考例1~28のいずれも、ヘーズ1.5%以下、密着性評価「〇」であった。
Figure 2022090379000003
Figure 2022090379000004
Figure 2022090379000005
表1から、ナノセルロースと親水性高分子を含む被覆層を形成した場合は、被覆層厚30nmの薄さの場合でも、MCT耐油性を示すことが分かった。また、透明性、被覆層密着性も良好であった。
表2から、メチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースと親水性高分子を含む被覆層を形成した場合は、被覆層厚120nmにおいて、80℃下でのMCT耐油性が不十分であることが分かった。
表3~表5から、親水性高分子のみで被覆層を形成した場合は、十分なMCT耐油性を得るには被覆層厚300nm以上の厚みが必要であることが分かった。
本発明のスチレン系樹脂シートにおいては、薄い塗布厚で被覆層を形成してもスチレン系樹脂シートに耐熱耐油性、特に中鎖脂肪酸に対する良好な耐油性を付与できる。そのため、食用油や中鎖脂肪酸油を含む食品を包装する蓋や容器の包装材などに好適に用いることができる。

Claims (7)

  1. スチレン系樹脂シートの少なくとも片面にナノセルロースと親水性高分子とを含む被覆層を有することを特徴とする耐油性スチレン系樹脂シート。
  2. 前記被覆層の厚みが20~200nmである、請求項1に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
  3. 前記ナノセルロースがセルロースナノクリスタルである、請求項1または2に記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
  4. 前記被覆層のガラス転移温度が50~150℃である請求項1~3の何れかに記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
  5. 前記親水性高分子がアクリル系樹脂、及び/又は、ポリビニルアルコールである請求項1~4の何れかに記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
  6. 前記スチレン系樹脂シートが二軸延伸シートである請求項1~5の何れかに記載の耐油性スチレン系樹脂シート。
  7. 請求項1~6の何れかの耐油性スチレン系樹脂シートを用いた包装体。
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