JP2022018541A - 乳たんぱく質分散用組成物、乳性アルコール飲料用濃縮液、及び乳性アルコール飲料 - Google Patents

乳たんぱく質分散用組成物、乳性アルコール飲料用濃縮液、及び乳性アルコール飲料 Download PDF

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Abstract

【課題】 高度数アルコール条件下において、乳たんぱく質の分散安定性を保つ乳たんぱく質分散用組成物の提供を目的とする。【解決手段】 乳性アルコール飲料の液体状原料であって、大豆多糖類、ホエイペプチド、酸性乳、及び前記酸性乳由来の乳たんぱく質を含有し、高度数アルコール条件下において、乳たんぱく質の安定した分散安定性を実現することができる乳たんぱく質分散用組成物を提供する。【選択図】 図6

Description

本発明は、乳性アルコール飲料用濃縮液、及びこれに用いられる乳たんぱく質分散用組成物及び、これを用いたアルコール度数の高い乳性アルコール飲料に関する。なお、以下においてアルコールとは、飲用可能なエタノールをいう。
現在、清酒、ワインなどの醸造酒、ウィスキーやブランデー、焼酎などの蒸留酒がアルコール飲料として飲用されているが、最近では嗜好がさらに多様化しており、爽やかな風味が特徴の果汁・果実や炭酸水で割った、手軽に飲用できる酸性アルコール飲料が人気である。また少量で強いアルコール感を得られるアルコール度数9%程度のアルコール度数の高いアルコール飲料も人気である。ここで、アルコール度数の高いアルコール飲料のアルコール度数とは、8%~10%程度のものをいう。
一方、発酵乳若しくは殺菌乳酸菌飲料からなる酸性乳、及び当該酸性乳から作製される酸性乳性飲料は、栄養価が優れているのみならず優れた風味を有するため多くの飲料に利用されている。ここで、酸性乳性飲料において酸性乳の優れた風味を維持するためには、乳たんぱく質が白く均一に分散して白濁していることが重要であり、乳たんぱく質が凝集して飲料の底に沈殿を生じると、風味を損なうこととなる。
ここで、酎ハイなどのアルコール飲料製品を乳性アルコール飲料として製造する際には、製品を完成させる前工程において、酸性乳を含む液体原料である乳たんぱく質分散用組成物に、度数80%~90%程度のアルコールを加えて、製品である乳性アルコール飲料よりもアルコール度数が高い濃縮液(以下、乳性アルコール飲料用濃縮液という。)を調製する。濃縮液の調製は、乳性アルコール飲料に限らず飲料を製造するにあたり、輸送コストの低減や、最終工程に至るまで品質をコントロールするために必要な工程であり、濃縮液は調製されてから数日間(3日程度)の保管も必要とされる。従来のアルコール度数4%~5%程度のアルコール度数の低い乳性アルコール飲料であれば、乳性アルコール飲料用濃縮液はアルコール度数が10%~20%程度であり、好ましくはアルコール度数15%程度に調製されていた。
特許第3409719号公報
しかし、通常乳タンパク質(主としてカゼイン)は、通常ミセルを形成しマイナスチャージを帯びた分子構成コンポーネント表面の電気的反発性により水系溶媒中に分散して存在する。特に酸性飲料中においては、分子表面電荷が0になることによって乳たんぱく分子間における互いの電気的反発力が無くなり、結果凝集沈殿を生じやすくなる。さらに、エタノールは、たんぱく質の沈殿剤としても知られており、特に、一定濃度以上のエタノールを含む飲料に対して乳タンパク質を混合すると、前記凝集沈殿を生じ易くなることが知られている。経験上、乳性アルコール飲料において、20%を超えるアルコール度数を有する飲料中において、乳たんぱく質が均一に分散して白濁した状態を安定に維持することは困難であった。
そして、9%程度のアルコール度数の高い乳性アルコール飲料を製造する場合にも、前述のアルコール度数の低い乳性アルコール飲料の場合と同じく乳性アルコール飲料用濃縮液を調製する必要がある。ところが、9%程度のアルコール度数の高い乳性アルコール飲料を製造する場合には、アルコール度数が30%~55%、好ましくは40%~50%程度の乳性アルコール飲料用濃縮液を調製する必要があり、調製された乳性アルコール飲料用濃縮液もまた数日間(3日程度)保管する必要がある。しかし、乳性アルコール飲料用濃縮液のアルコール度数を30%~55%とすると、従来のアルコール度数の低い乳性アルコール飲料用の乳性アルコール飲料用濃縮液が15%程度であることに比べてアルコール度数が非常に高いものとなる。そして、乳性アルコール飲料用濃縮液のアルコール度数が20%よりも高くなれば、前述の乳たんぱく質の凝集沈殿が容易に生じるため、安定した白濁状態を数日間も保つことは困難である。そうすると、最終消費者に提供される工業製品として安定な白濁状態を有するアルコール度数の高い乳性アルコール飲料を実現することも困難であった。
なお、以下において高度数アルコール条件とは、アルコール度数が30%~55%の液体を構成することをいう。本発明に係る乳性アルコール飲料用濃縮液のさらに好ましいアルコール度数は40%~50%である。以下においては、高度数アルコール条件として、乳性アルコール飲料用濃縮液のアルコール度数50%の場合を例として検証をおこなった。また、「%」は特に説明を付す場合を除き重量%を示す。
[アルコール濃度による安定性検証]
下記の表1に記載の配合量で調合したアルコール度数の低い乳性アルコール飲料向け乳たんぱく質分散用組成物を、アルコール濃度が異なるようスピリッツと混合して容器に充填し、表2に示す配合割合で乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:約15%、約50%)を調製した。以下、アルコール濃度の異なる乳性アルコール飲料用濃縮液を、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:15%)又は乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)と表記して区別することがある。
Figure 2022018541000002
調製された乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:15%、50%)について、常温(室温約25℃ 以下同じ。)下で3日間静置し凝集の有無を目視で確認した。次にこれらの飲料を、遠心分離機を用いて遠心分離し、沈殿量を測定、飲料の全容量に対する沈殿容量の割合を算出し、「遠心分離率」として分散安定性を評価した。遠心分離率算定方法の詳細は次の通りである。
(a)10ml遠心管にサンプル10.0gを量り入れ、遠心分離機(株式会社コクサン製H-108)を使い、2500rpm(約700G)にて10分間遠心分離を行う。
(b)上澄みを捨て遠心管を20分間倒立させた後、遠心管の口を拭き取って計量する。
(c)管内に残った沈殿物の重量を測定する。
(d)同一サンプルを4本作製して沈殿物の重量を測定し中央平均値を沈澱量とする。
分散安定性の評価基準は下記の通りとした。
[分散安定性の評価基準]
◎:遠心沈殿率1%未満
沈殿物や凝集物が少なく、静置後でも沈殿が生じない状態
○:遠心沈殿率1%以上1.5%未満
沈殿物や凝集物がやや多く、静置保存中わずかに沈殿が生じるが、乳たんぱく質の分散状態を維持できている状態
×:遠心沈殿率1.5%以上
沈殿物・凝集物が共に多く、乳たんぱく質が完全に分離しており、乳たんぱく質の分散状態が維持できていない状態
◎、若しくは〇判定のものを合格と判定する。
Figure 2022018541000003
表2の結果において、従来のアルコール度数の低い乳性アルコール飲料向けの乳たんぱく質分散用組成物では、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:15%)においては、乳たんぱく質による凝集は見られず安定した状態を維持しているが、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)においては、乳たんぱく質による粗大な沈殿凝集が生じたことから、高度数アルコール条件下においては乳たんぱく質の分散安定性が維持できないことが示された。表2に係る乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:15%)及び乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を3日静置後に前記遠心分離した後の外観写真を図1に示す。したがって、酸性かつ高度数アルコール条件下で安定した分散安定性を備える乳たんぱく質含有乳たんぱく質分散用組成物を提供するためには、乳たんぱく質に高度数アルコール条件下における分散安定性を向上させる必要性があることが確認できた。
そこで、上記課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 乳性アルコール飲料の液体状原料であって、大豆多糖類、ホエイペプチド、乳を発酵処理させた酸性乳、及び前記酸性乳由来の乳たんぱく質を含有することを特徴とする乳たんぱく質分散用組成物。
〔2〕 前記ホエイペプチドの含有量が0.5~1.5重量%である、ことを特徴とする〔1〕に記載の乳たんぱく質分散用組成物。
〔3〕 前記大豆多糖類の含有量が0.1~2.0重量%である、ことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の乳たんぱく質分散用組成物。
〔4〕 前記酸性乳が、殺菌乳酸菌飲料、または、乳酸菌若しくは酵母菌にて乳が発酵処理された発酵乳であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物。
〔5〕 乳性アルコール飲料調製前の濃縮液であって、
〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物及びエタノールを含む、乳性アルコール飲料用濃縮液。
〔6〕 〔5〕に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液のアルコール濃度が30%以上である乳性アルコール飲料用濃縮液。
〔7〕 〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物を含む、アルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料。
〔8〕 〔5〕、または〔6〕に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液が希釈されてなるアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料。
〔9〕 〔5〕、または〔6〕に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液を希釈してアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料を製造する方法。
ここで、乳性飲料とは、3%よりも少ない乳固形分を含有する飲料をいい、乳性アルコール飲料とは、乳性飲料であってアルコールを含有する飲料をいう。
また、特許請求の範囲に係る請求項8及び請求項9において、本発明に係る乳性アルコール飲料を製造方法で表すが、これは、乳性アルコール飲料に含まれる乳たんぱく質そのものの成分分析又は、形状の顕微鏡観察が理論上可能であり、これにより乳たんぱく質の存在を証明することができたとしても、例えば、個々の乳蛋白の成分・大きさ・形状がどのようなものであれば、その乳たんぱく質が、乳性アルコール飲料用濃縮液が希釈されてなるものであることを証明することは不可能か、又はおよそ実際的ではないという事情があることに基づく。なお、希釈された乳性アルコール飲料は、乳性アルコール飲料用濃縮液を、水、炭酸水、または、水若しくは炭酸水に甘味料、香料、着色料、酸味料、及びpH調整剤等から適宜選択されたものが配合された飲料水によって希釈されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物は、通常乳製品を含む食品については、微生物増殖防止のために厳格な殺菌条件が定められており、乳及び乳製品の成分規格に関する省令において、製品pH域により殺菌条件が異なるため、pH域が4.0以上であれば過酷な条件での殺菌が必要となる。そうすると、風味のみならず安定性、色調等に大きな懸念を生じることとなる。このような風味等の低下を防ぐため、本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物についてもpHを4.0より低いことが好ましく、より好ましくは、3.8以下である。
本発明によれば、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液において、乳たんぱく質の安定した分散安定性を実現することができる乳たんぱく質分散用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定に分散してなる乳性アルコール飲料用濃縮液を提供することができる。特に、高度数アルコール条件下においても乳たんぱく質が安定に分散してなる乳性アルコール飲料用濃縮液を提供することができる。
さらに、本発明によれば、乳たんぱく質が安定に分散してなるアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料を提供することができる。
表2に係る乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:15%)及び乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を3日静置後に前記遠心分離した後の外観写真である。 検証例1~検証例5に係る乳性アルコール飲料用濃縮液調製後1時間後の白濁の様子を示す外観写真である。 検証例6-2~検証例10-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 比較例1-2、及び比較例1-2~比較例3-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 比較例4-2、及び実施例1-2~実施例3-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 実施例4-2、及び実施例5-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 実施例6-2、実施例7-2、及び実施例8-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 実施例9-2、実施例10-2、及び実施例11-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 実施例12-2、実施例13-2、及び実施例14-2の調製直後及び3日静置後の白濁の様子を示す外観写真である。 乳たんぱく質分散用組成物(実施例9-1)、実施例9-1から調製した乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例9-2)、及び実施例9-2から調製した最終乳性アルコール飲料(実施例9-3)の外観を示す。
通常乳たんぱく質(主としてカゼイン)は、水系溶媒中においてミセルを形成し、マイナスチャージを帯びた分子構成コンポーネント表面の電気的反発性により分散して存在するが、溶媒の状態によって乳たんぱく質分子間における互いの電気的反発力が無くなると、凝集沈殿を生じることとなる。また、乳たんぱく質は、アルコールに対しても水系溶媒と同様に不溶性でありミセルを形成するが、アルコール濃度が高くなると、凝集沈殿を生じやすくなる。
(安定剤)
通常、乳たんぱく質の酸性飲料中における分散状態は、大豆多糖類を配合する事で状態を安定化させることができる場合があるが、酸性飲料中にアルコールが混合されてなる場合、アルコール濃度が高くなると乳タンパク質の分散状態の安定化が困難となる。その理由としては、アルコール濃度が高いことにより、配合されている安定剤自体が変性劣化を生じ安定剤としての効果を発揮する事が困難になっていると推測される。
(酸性乳)
本発明は、発酵乳若しくは殺菌乳酸菌飲料からなる酸性乳を含有する乳たんぱく質分散用組成物であるが、酸性乳由来の乳たんぱく質の乳性飲料中での分散安定性は、脱脂粉乳などの中性乳製品と比較すると劣る傾向にある。これは、下記原料乳を発酵処理して酸性乳とすることで、カゼインたんぱく質の凝集が生じる事が要因と考えられる。なお、本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物に配合される酸性乳は、酸性乳をさらに水で希釈し、香料等を添加してなる酸性乳性飲料を含む。
また、乳たんぱく質分散用組成物には、脱脂粉乳、脱脂加糖練乳、脱脂濃縮乳、ホエイパウダー、及びカゼインペプチドなどの無脂肪乳製品や乳素材などから選択される1以上の素材を酸性乳と共に配合することとしてもよい。
酸性乳とは、次に示す原料乳を発酵処理することにより、酸性条件下にある乳のことをいう。具体的には、そのpHは約2.0~6.0の範囲にあることが好ましい。
酸性乳のうち、殺菌乳酸菌飲料の性状としては、ショ糖や果糖、ぶどう糖等の糖類を配合し糖安定させたもので、無脂乳固形分として3~7重量%程度含有するものが望ましい。また酸性乳のうち、発酵乳の性状に関しては、無脂乳固形分として8~20重量%程度含有するものが望ましい。
酸性乳の原料(以下、酸性乳原料という。)としては主として下記が挙げられる。
(1)牛乳、山羊乳、羊乳等の動物由来の液状乳、脱脂粉乳、全粉乳、粉乳、ホエイ、または濃縮乳から還元した乳から選択される1または2以上の原料乳に、乳酸菌やビフィズス菌等の微生物を作用させて発酵処理して得られる生菌タイプの酸性乳原料。
(2)上記酸性乳原料(1)を殺菌して得られる死菌タイプの酸性乳原料。
(3)上記(1)の原料乳に酸味料を添加して得られる酸性乳原料。
上記酸性乳原料のうち、(1)を製造する場合に、原料乳に作用させる乳酸菌やビフィズス菌等の微生物としては、特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・ヘルベティカス等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストク属細菌、エンテロコッカス・フェカリス等のエンテロコッカス属細菌、あるいは、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム等のビフィドバクテリウム属細菌、バチルス属、アセトバクター属等の細菌類、サッカロミセス属、ピキア属等の酵母類等を挙げることができ、いずれも使用することが出来る。これら微生物は単独使用もしくは2種以上を併用してもよい。なお、前記酸性乳原料自体を酸性乳としてもよい。
(糖類)
本発明の乳たんぱく質分散用組成物には糖類が含まれてもよい。糖類を含有することにより、乳たんぱく質の分散安定性の向上を図ることができる。糖類の種類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類の小糖類やそれらを還元した糖アルコールを好ましい態様として用いることができる。乳タンパク含有量が多い程、より多くの糖類が含まれることが好ましい。
(pH)
本発明の乳たんぱく質分散用組成物のpHは酸性を示す値であることが好ましい。このとき、乳たんぱく質分散用組成物の酸味の度合い、及び風味のバランス等を考慮することが好ましい。乳等電点となるpH4.6よりも酸性領域下では比較的安定化した乳たんぱく質分散用組成物の実現可能性が高まるが、pHが極端に低下すると酸味強度が極端となり、本来の乳風味が損なわれてしまうこととなる。よって乳たんぱく質分散用組成物における安定性・風味面を考慮すると、好ましいpH域は、pH3.0~3.8である。使用する酸味料及びpH調整剤については、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、等の有機酸及び有機酸塩や無機酸類が使用できる。
(他の原料)
本発明の乳たんぱく質分散用組成物には、本発明の本質を逸脱しない範囲で、上記原料又は成分以外の甘味料、香料、着色料等を含有させることが可能である。
(乳たんぱく質分散用組成物)
本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物によれば、高度数アルコール条件下で沈殿を生じやすい酸性乳に由来の乳たんぱく質を含むにもかかわらず、アルコール度数の高い乳性アルコール飲料の製造工程において、数日間の静置工程中に乳性アルコール飲料用濃縮液での沈殿が少なく安定な分散安定性を維持することができ、乳酸菌由来の好ましい風味を提供できる乳性アルコール飲料の液体状原料を実現することができる。
本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物を調製することで、好みの酒類と混合することにより、乳たんぱく質の凝集が発生せず、風味も良好な酸性のアルコール度数の高い乳性アルコール飲料を製造することが可能となる。
以下、実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。なお「%」は重量%を示す。なお、一部の乳性アルコール飲料用濃縮液の成分割合を表示する表において、合計の配合量を1000重量%としたものがある。
[配合乳たんぱく質の安定剤検証]
下記の表3に示すように、異なる安定剤(大豆多糖類、セルロース、ペクチン、安定増粘剤製剤)と高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で1時間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で評価した。
Figure 2022018541000004
表3の結果において、検証例1~5の全てで凝集がみられたが、使用安定剤成分中では検証例3の大豆多糖類(三栄源FFI株式会社製 SM-900)のみ、比較的全体的に乳成分が分散している状態であった。乳性アルコール飲料用濃縮液用の安定剤成分としては、大豆多糖類を配合した検証例3が最も良い結果が得られると推測される。検証例1~検証例5に係る乳性アルコール飲料用濃縮液調製後1時間後の外観写真を図2に示す。しかし、表3の分散安定性の結果からも明らかなとおり、大豆多糖類が他の安定剤成分と比較して相対的に良好であったにすぎず、明らかな沈殿があったため、さらなる改善が必要であることも明らかとなった。
通常、殺菌乳酸菌飲料や発酵乳などを配合している乳性飲料では、大豆多糖類又はHMペクチンなどの安定剤を配合しない場合、飲料のpHにより白濁度や風味に大きな影響を受ける。pHが3.0以下となると透明化を生じ酸味強度が強くなりすぎ、本来の乳酸菌飲料が有する乳風味が損なわれてしまう可能性が高くなる。
[安定剤(大豆多糖類)配合量検証]
上記表3において効果が認められた大豆多糖類について、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)においても乳たんぱく質の分散安定性が維持できるかどうかについて検証を行った。
下記の表4(a)に示すように、大豆多糖類を異なる配合量で配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表4(b)に示すように、表4(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。なお、表4(a)中の使用した乳酸菌発酵乳は、脱脂粉乳に乳酸菌を接種培養したものであり、生菌タイプである。なお、この乳酸菌発酵乳の乳固形分は18%以上を含む発酵乳に属するものであり、以下の乳酸菌発酵乳も同一成分によるものを用いた。
Figure 2022018541000005
表4の結果において、大豆多糖類0.1%配合乳たんぱく質分散用組成物(検証例6-1)を用いて調製した乳性アルコール飲料用濃縮液(検証例6-2)では凝集がみられず安定した分散安定性を維持していた。しかし、アルコール濃度が50%となる高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液においては、検証例7-2~10-2に示すように、大豆多糖類が0.2%以上含まれる乳たんぱく質分散用組成物(検証例7-1~10-1)を用いて調製すると沈殿が発生し、分散安定性の評価も×となった。検証例6-2~検証例10-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図3に示す。また、分散安定性が×の評価となった乳性アルコール飲料用濃縮液を用いて乳性アルコール飲料を製造すると、タンパク質の凝集が生じることもわかった。
このことより、乳たんぱく質分散用組成物に配合する安定剤として大豆多糖類のみを用いた場合は、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液に対して大豆多糖類の配合量の許容範囲が極端に狭く、実用には不十分な結果となった。従って、アルコール度数の高い乳性アルコール飲料を工業的に製造するためには、乳たんぱく質分散用組成物に大豆多糖類が配合されているだけでは、乳性アルコール飲料用濃縮液における乳たんぱく質を安定的に分散させることは困難であった。
[配合乳製品別検証]
表4の結果をうけて、乳たんぱく質の分散安定の維持に対して、大豆多糖類の配合割合を拡大できる成分の検討を行った。下記の表5(a)に示すように、大豆多糖類と共に、ホエイペプチド、ホエイパウダー、脱脂加糖練乳、カゼインペプチドのいずれかを配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表5(b)に示すように、表5(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。
Figure 2022018541000006
表5の結果において、大豆多糖類0.2%と共にホエイペプチドを配合したたんぱく質分散用組成物(実施例1-1)を用いた乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例1-2)においては凝集がみられず、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定な分散安定性を示したのに対して、ホエイパウダー(比較例1-2)、脱脂加糖練乳(比較例2-2)、及びカゼインペプチド(比較例3-2)では分散安定性の評価が×であった。このことにより、乳たんぱく質分散用組成物に大豆多糖類と共にホエイペプチドを配合すると、大豆多糖類の配合できる割合の許容範囲の拡大が図れることが分かった。大豆多糖類の配合割合が拡大できることで、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液の設計が従来と比較して格段に容易となり、アルコール度数の高い乳性アルコール飲料の製造コストを下げることができる。なお、ホエイパウダーは乳清を乾燥させて粉状としたものであり、ホエイペプチドは、牛乳中に含まれるホエイ蛋白質のみを酵素でアミノ酸が数個結合したペプチド状態にまで分解処理したものである。一方、カゼインペプチドは、牛乳中に含まれるカゼイン蛋白質のみを酵素で分解処理したものである。比較例1-2、及び比較例1-2~比較例3-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図4に示す。
[ホエイペプチド配合量検証]
下記の表6(a)に示すように、ホエイペプチドを異なる配合量で配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表6(b)に示すように、表6(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。
Figure 2022018541000007
表6の結果において、比較例4-2においては、ホエイペプチドを配合せずに大豆多糖類を配合した乳たんぱく質分散用組成物(比較例4-1)を用いた乳性アルコール飲料用濃縮液では、乳たんぱく質の凝集が生じた。一方、ホエイペプチドを0.5%~1.5%の範囲で配合した実施例1-1~3-1を用いた実施例1-2~3-2においては、乳性アルコール飲料用濃縮液調製後3日が経過しても凝集がみられず、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定した沈殿のない白濁状態を維持した。ホエイペプチド配合量については、実施例1-1から3-1の順に多くなる。ホエイペプチドに関しては、多量に配合することで特有の呈味が顕在化することから、当該呈味を低減しながらも分散安定性が安定である範囲と合わせ考慮すると、乳たんぱく質分散用組成物中のホエイペプチド配合量は0.5%~1.5%とすることが良いと考えられる。比較例4-2、及び実施例1-2~実施例3-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図5に示す。
以上の結果から、乳たんぱく質分散用組成物に大豆多糖類とホエイペプチドを合わせて配合することで、高度数アルコール条件下にある乳性アルコール飲料用濃縮液を調製した場合にも乳たんぱく質の沈殿を防止することができた。また、大豆多糖類とホエイペプチドとの組み合わせによって、乳たんぱく質分散用組成物に、有効成分である大豆多糖類を配合できる許容範囲を広げることができ、結果として乳性アルコール飲料の設計が容易となる。さらに、乳性アルコール飲料の設計の容易化によって、製造コスト低減を図ることもできる。
[配合発酵素材別検証]
下記の表7(a)に示すように、異なる酸性乳(乳酸菌発酵乳、乳酸菌酵母発酵乳)を用いて、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表7(b)に示すように、表7(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。なお、表7中の乳酸菌酵母発酵乳は、本実施例で使用の乳酸菌発酵乳と少量のレモン果汁とを混合し酵母菌を接種培養の後に65℃5分間で殺菌処理を行い、砂糖を混合した死菌タイプの殺菌乳酸菌飲料を用いた。この乳酸菌酵母発酵乳は、華やかな酵母発酵の香りを呈し、乳固形分6%以上、糖度55度以上である。
Figure 2022018541000008
表7の結果によれば、乳酸菌発酵乳を用いた実施例4-1、及び乳酸菌酵母発酵乳を用いた実施例5-1で構成した乳たんぱく質分散用組成物のいずれによっても、乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例4-2、実施例5-2)において3日の静置後であっても凝集は見られず、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持することができた。実施例4-2、及び実施例5-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図6に示す。
[乳固形分配合量検証]
下記の表8(a)に示すように、乳固形分を異なる配合量で配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表8(b)に示すように、表8(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。
Figure 2022018541000009
表8の結果によれば、無脂乳固形分(solids-not-fat、SNF)の配合量を変化させて乳たんぱく質分散用組成物(実施例6-1~8-1)を構成し、SNFを3.0~5.0%とした場合であっても、これらの乳たんぱく質分散用組成物で調製された乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例6-2~8-2)において3日の静置後に凝集は見られず、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持するために無脂乳固形分の配合量は影響されなかった。実施例6-2、実施例7-2、及び実施例8-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図7に示す。
[乳酸菌発酵乳を配合した状態での大豆多糖類配合量検証]
ホエイペプチドを配合した状態での大豆多糖類の配合量に対する検証を行った。酸性乳として、乳酸菌発酵乳を用いて下記の表9(a)に示すように、大豆多糖類を異なる配合量で配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表9(b)に示すように、表9(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。
Figure 2022018541000010
表9の結果によれば、大豆多糖類の配合量を0.1~2.0%の範囲で乳たんぱく質分散用組成物(実施例9-1~11-1)を構成した場合であっても、これらの乳たんぱく質分散用組成物で調製された乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例9-2~11-2)において3日の静置後であっても凝集は見られず、広い範囲における大豆多糖類配合量において、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持することができた。実施例9-2、実施例10-2、及び実施例11-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図8に示す。
[大豆多糖類他品種検証]
ホエイペプチドを配合した状態での大豆多糖類の品種の違いによる検証を行った。酸性乳として乳酸菌発酵乳を用いて、下記の表10(a)に示すように、大豆多糖類の異なる品種である大豆多糖類(SM-900)若しくは大豆多糖類(三栄源FFI株式会社製 SM-1200)を配合し、乳たんぱく質分散用組成物を調製した。その後、表10(b)に示すように、表10(a)で調製した乳たんぱく質分散用組成物に高濃度のアルコール飲料(スピリッツ)等を混合して、乳性アルコール飲料用濃縮液(アルコール濃度:50%)を調製した。調製した乳性アルコール飲料用濃縮液を常温下で3日間静置し、静置後の状態における凝集の有無を目視で確認したのち、これらの乳性アルコール飲料用濃縮液における沈殿物量を遠心分離率として測量し、分散安定性を前記[分散安定性の評価基準]に従って評価した。
Figure 2022018541000011
表10によれば、大豆多糖類(SM-900)が配合されてなる乳たんぱく質分散用組成物(実施例12-1、実施例13-1)によって構成される乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例12-2、実施例13-2)でも遠心沈殿率は1.0%よりも少なく、3日間静置保存後でも凝集は生じなかった。さらに、大豆多糖類(SM-1200)が配合されてなる乳たんぱく質分散用組成物(実施例14-1)によって構成されてなる乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例14-2)においても遠心沈殿率は1.0%よりも少なく、3日間静置保存後でも凝集は生じなかった。以上より、特定の大豆多糖類によらず、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液において、酸性乳に由来するタンパク質が乳化した状態で安定した分散安定性を実現することができる乳たんぱく質分散用組成物が実現できた。実施例12-2、実施例13-2、及び実施例14-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図9に示す。
図10には、乳たんぱく質分散用組成物(実施例9-1)、実施例9-1から調製した乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例9-2)、及び実施例9-2から調製した最終乳性アルコール飲料(実施例9-3)の外観を示す。ここで、実施例9-3は、表9(b)に係る乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例9-2)20重量%に対して、甘味料、pH調整剤、及び香料等を合わせて約0.3重量%と、炭酸水を残量混合することで100重量%となるように調製しアルコール度数9.0%の乳性アルコール飲料としたものである。
図10より、乳たんぱく質分散用組成物(実施例9-1)は乳白色の白濁した液体であり、実施例9-2も調製後3日間静置したあとでも均一に白濁した液体であった。そして、実施例9-2を用いて調製したアルコール度数9.0%の最終乳性アルコール飲料も均一な白濁状態であった。また、本発明における他の条件によっても、図10に示すような均一な白濁状態を示す乳たんぱく質分散用組成物、乳性アルコール飲料用濃縮液、及び最終の乳性アルコール飲料を実現することができる。
本発明に係る乳たんぱく質分散用組成物によれば、アルコール濃度30%以上の乳性アルコール飲料用濃縮液を数日間安定に保持することができ、最終消費者に提供される工業製品として、乳たんぱく質が白濁状態で均一に分散したアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料の実現に寄与することができる。また、乳性アルコール飲料用濃縮液において乳たんぱく質の凝集の発生がなく均質な白濁状態を維持できることにより、乳性アルコール飲料に乳性飲料特有の豊かな乳の風味を具備させることができる。
しかし、通常乳たんぱく質(主としてカゼイン)は、通常ミセルを形成しマイナスチャージを帯びた分子構成コンポーネント表面の電気的反発性により水系溶媒中に分散して存在する。特に酸性飲料中においては、分子表面電荷が0になることによって乳たんぱく分子間における互いの電気的反発力が無くなり、結果凝集沈殿を生じやすくなる。さらに、エタノールは、たんぱく質の沈殿剤としても知られており、特に、一定濃度以上のエタノールを含む飲料に対して乳たんぱく質を混合すると、前記凝集沈殿を生じ易くなることが知られている。経験上、乳性アルコール飲料において、20%を超えるアルコール度数を有する飲料中において、乳たんぱく質が均一に分散して白濁した状態を安定に維持することは困難であった。
また、特許請求の範囲に係る請求項8及び請求項9において、本発明に係る乳性アルコール飲料を製造方法で表すが、これは、乳性アルコール飲料に含まれる乳たんぱく質そのものの成分分析又は、形状の顕微鏡観察が理論上可能であり、これにより乳たんぱく質の存在を証明することができたとしても、例えば、個々の乳たんぱくの成分・大きさ・形状がどのようなものであれば、その乳たんぱく質が、乳性アルコール飲料用濃縮液が希釈されてなるものであることを証明することは不可能か、又はおよそ実際的ではないという事情があることに基づく。なお、希釈された乳性アルコール飲料は、乳性アルコール飲料用濃縮液を、水、炭酸水、または、水若しくは炭酸水に甘味料、香料、着色料、酸味料、及びpH調整剤等から適宜選択されたものが配合された飲料水によって希釈されたものであることが好ましい。
また、本発明によれば、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定に分散してなる乳性アルコール飲料用濃縮液を提供することができる。特に、高度数アルコール条件下においても乳たんぱく質が安定に分散してなる乳性アルコール飲料用濃縮液を提供することができる。
(安定剤)
通常、乳たんぱく質の酸性飲料中における分散状態は、大豆多糖類を配合する事で状態を安定化させることができる場合があるが、酸性飲料中にアルコールが混合されてなる場合、アルコール濃度が高くなると乳たんぱく質の分散状態の安定化が困難となる。その理由としては、アルコール濃度が高いことにより、配合されている安定剤自体が変性劣化を生じ安定剤としての効果を発揮する事が困難になっていると推測される。
(糖類)
本発明の乳たんぱく質分散用組成物には糖類が含まれてもよい。糖類を含有することにより、乳たんぱく質の分散安定性の向上を図ることができる。糖類の種類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類の小糖類やそれらを還元した糖アルコールを好ましい態様として用いることができる。乳たんぱく含有量が多い程、より多くの糖類が含まれることが好ましい。
表4の結果において、大豆多糖類0.1%配合乳たんぱく質分散用組成物(検証例6-1)を用いて調製した乳性アルコール飲料用濃縮液(検証例6-2)では凝集がみられず安定した分散安定性を維持していた。しかし、アルコール濃度が50%となる高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液においては、検証例7-2~10-2に示すように、大豆多糖類が0.2%以上含まれる乳たんぱく質分散用組成物(検証例7-1~10-1)を用いて調製すると沈殿が発生し、分散安定性の評価も×となった。検証例6-2~検証例10-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図3に示す。また、分散安定性が×の評価となった乳性アルコール飲料用濃縮液を用いて乳性アルコール飲料を製造すると、たんぱく質の凝集が生じることもわかった。
表5の結果において、大豆多糖類0.2%と共にホエイペプチドを配合したたんぱく質分散用組成物(実施例1-1)を用いた乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例1-2)においては凝集がみられず、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定な分散安定性を示したのに対して、ホエイパウダー(比較例1-2)、脱脂加糖練乳(比較例2-2)、及びカゼインペプチド(比較例3-2)では分散安定性の評価が×であった。このことにより、乳たんぱく質分散用組成物に大豆多糖類と共にホエイペプチドを配合すると、大豆多糖類の配合できる割合の許容範囲の拡大が図れることが分かった。大豆多糖類の配合割合が拡大できることで、高度数条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液の設計が従来と比較して格段に容易となり、アルコール度数の高い乳性アルコール飲料の製造コストを下げることができる。なお、ホエイパウダーは乳清を乾燥させて粉状としたものであり、ホエイペプチドは、牛乳中に含まれるホエイたんぱく質のみを酵素でアミノ酸が数個結合したペプチド状態にまで分解処理したものである。一方、カゼインペプチドは、牛乳中に含まれるカゼインたんぱく質のみを酵素で分解処理したものである。比較例1-2、及び比較例1-2~比較例3-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図4に示す。
表6の結果において、比較例4-2においては、ホエイペプチドを配合せずに大豆多糖類を配合した乳たんぱく質分散用組成物(比較例4-1)を用いた乳性アルコール飲料用濃縮液では、乳たんぱく質の凝集が生じた。一方、ホエイペプチドを0.5%~1.5%の範囲で配合した実施例1-1~3-1を用いた実施例1-2~3-2においては、乳性アルコール飲料用濃縮液調製後3日が経過しても凝集がみられず、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定した沈殿のない白濁状態を維持した。ホエイペプチド配合量については、実施例1-1から3-1の順に多くなる。ホエイペプチドに関しては、多量に配合することで特有の呈味が顕在化することから、当該呈味を低減しながらも分散安定性が安定である範囲と合わせ考慮すると、乳たんぱく質分散用組成物中のホエイペプチド配合量は0.5%~1.5%とすることが良いと考えられる。比較例4-2、及び実施例1-2~実施例3-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図5に示す。
表7の結果によれば、乳酸菌発酵乳を用いた実施例4-1、及び乳酸菌酵母発酵乳を用いた実施例5-1で構成した乳たんぱく質分散用組成物のいずれによっても、乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例4-2、実施例5-2)において3日の静置後であっても凝集は見られず、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持することができた。実施例4-2、及び実施例5-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図6に示す。
表8の結果によれば、無脂乳固形分(solids-not-fat、SNF)の配合量を変化させて乳たんぱく質分散用組成物(実施例6-1~8-1)を構成し、SNF(%)を3.0~5.0とした場合であっても、これらの乳たんぱく質分散用組成物で調製された乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例6-2~8-2)において3日の静置後に凝集は見られず、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持するために無脂乳固形分の配合量は影響されなかった。実施例6-2、実施例7-2、及び実施例8-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図7に示す。
表9の結果によれば、大豆多糖類の配合量を0.1~2.0%の範囲で乳たんぱく質分散用組成物(実施例9-1~11-1)を構成した場合であっても、これらの乳たんぱく質分散用組成物で調製された乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例9-2~11-2)において3日の静置後であっても凝集は見られず、広い範囲における大豆多糖類配合量において、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定な白濁状態を維持することができた。実施例9-2、実施例10-2、及び実施例11-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図8に示す。
表10によれば、大豆多糖類(SM-900)が配合されてなる乳たんぱく質分散用組成物(実施例12-1、実施例13-1)によって構成される乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例12-2,実施例13-2)でも遠心沈殿率は1.0%よりも少なく、3日間静置保存後でも凝集は生じなかった。さらに、大豆多糖類(SM-1200)が配合されてなる乳たんぱく質分散用組成物(実施例14-1)によって構成されてなる乳性アルコール飲料用濃縮液(実施例14-2)においても遠心沈殿率は1.0%よりも少なく、3日間静置保存後でも凝集は生じなかった。以上より、特定の大豆多糖類によらず、高度数アルコール条件下の乳性アルコール飲料用濃縮液において、酸性乳に由来するたんぱく質が乳化した状態で安定した分散安定性を実現することができる乳たんぱく質分散用組成物が実現できた。実施例12-2,実施例13-2、及び実施例14-2の調製直後及び3日静置後の外観写真を図9に示す。

Claims (9)

  1. 乳性アルコール飲料の液体状原料であって、
    大豆多糖類、ホエイペプチド、乳を発酵処理させた酸性乳、及び前記酸性乳由来のたんぱく質を含有することを特徴とする乳たんぱく質分散用組成物。
  2. 前記ホエイペプチドの含有量が0.5~1.5重量%である、ことを特徴とする請求項1に記載の乳たんぱく質分散用組成物。
  3. 前記大豆多糖類の含有量が0.1~2.0重量%である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の乳たんぱく質分散用組成物。
  4. 前記酸性乳が、殺菌乳酸菌飲料、または、乳酸菌若しくは酵母菌にて乳が発酵処理された発酵乳であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物。
  5. 乳性アルコール飲料調製前の濃縮液であって、
    請求項1~4のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物及びエタノールを含む、乳性アルコール飲料用濃縮液。
  6. 請求項5に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液のアルコール濃度が30%以上である乳性アルコール飲料用濃縮液。
  7. 請求項1~4のいずれか1つに記載の乳たんぱく質分散用組成物を含む、アルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料。
  8. 請求項5、または6に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液が希釈されてなるアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料。
  9. 請求項5、または6に記載の乳性アルコール飲料用濃縮液を希釈してアルコール度数8%~10%の乳性アルコール飲料を製造する方法。
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