JP2021138876A - グリセロールデンドロン共重合体 - Google Patents

グリセロールデンドロン共重合体 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、疎水性表面を有する基材でさえ親水性コーティング可能なグリセロールデンドロン共重合体、当該グリセロールデンドロン共重合体を用いたコーティング方法、および当該グリセロールデンドロン共重合体を合成するためのグリセロールデンドロン単量体を提供することを目的とする。【解決手段】本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体は、特定の親水性構造単位と疎水性構造単位を有することを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、疎水性表面を有する基材でさえ親水性コーティング可能なグリセロールデンドロン共重合体、当該グリセロールデンドロン共重合体を用いたコーティング方法、および当該グリセロールデンドロン共重合体を合成するためのグリセロールデンドロン単量体に関するものである。
デンドリティック分子は枝分かれした化学構造を持つ分子であり、近年、多くの研究が為されている。デンドリティック分子を同様の分子量と構造式を持つ直鎖状高分子と比較した際の特徴としては、結晶性が低く溶解性が高いことや、溶液粘度、溶融粘度ともに小さいこと、末端官能基数が多いこと等が挙げられる。これらの特徴を活かして、生体機能材料や、光機能材料として様々な応用展開が図られている。
デンドリティック分子の中で、ポリグリセロールデンドリマーやハイパーブランチポリグリセロールが持つデンドリティックグリセロール構造は、生体適合性が高い親水性高分子として知られるポリエチレングリコール(PEG)と同様の脂肪族ポリエーテル構造を有し、高い生体適合性を示す。
各種材料の物性として、機械的性質や熱的性質、電気的性質などの性質に加えて重要になるのが表面特性である。特に医療器具など生体に用いられる材料の表面には、親水性や防汚性、生体適合性などの特性が求められる。従って、材料表面に求める機能を付加する研究が現在多く為されている。
材料表面を機能化する方法には、表面グラフト化やポリマーコーティング等がある。表面グラフト化は、材料表面のみに目的に応じたモノマーをグラフト重合することで表面の物性を変化させる方法である。表面グラフト化は、ポリマーを材料表面に共有結合で固定化するため高い安定性が得られるという長所を持つ一方で、材料表面に反応点となる官能基やラジカルを生成する前処理が必要なために時間やエネルギーを大量に消費するという問題点がある。
ポリマーコーティングは、材料の表面に目的の物性を持つポリマーを相互作用などによって固定することでコーティングし、表面を機能化する方法である。コーティングを施す方法には、高分子溶液を材料表面に吹きかけて溶媒を蒸発させるスプレー法や、材料表面に高分子溶液を乗せ回転の遠心力により薄膜を形成するスピンコート法、材料を高分子溶液に浸漬して引き上げるディップコート法などがある。中でもディップコート法は特別な機器を必要としない簡便な操作でありながら、材料両面の同時コーティングや複雑な形状の材料のコーティングが可能であることから広く用いられている。
デンドリティックグリセロール構造をガラス基板や金基板などの基板上にグラフト重合またはコーティング法によって固定化することで、防汚性を付与する試みが為されている。例えば非特許文献1には、ガラス表面にヒドロキシポリ−p−キシリレンを蒸着重合し、そのヒドロキシ基を基点としたグリシドールの開環重合によりデンドリティックグリセロール(ハイパーブランチポリグリセロール)を生長させることで血小板などの細胞の吸着を抑制することが記載されている。非特許文献2には、金基板上に原子移動ラジカル重合(ATRP)開始剤を金とチオールのAu−S結合により固定化し、そこからデンドリティックグリセロール構造を持つモノマーを重合することでポリマーブラシを作製することが記載されている。この表面ではヒト血清やヒト血漿中のタンパク質の吸着抑制が観察され、タンパク質が吸着するために必要な、デンドリティックグリセロールによる水和層を破壊するエネルギー障壁が高いことが示唆された。非特許文献3には、モノチオール化したデンドリティックグリセロール(グリセロールデンドロン)をAu−S結合により金基板上に固定化し自己組織化単分子層(SAM)を形成することで、フィブリノーゲンやリゾチーム、アルブミン、ペプシン等のタンパク質の吸着が抑制されることが報告されている。この研究では、最も世代数の大きいデンドロンが高い吸着抑制効果を示したことから、世代数の多いデンドリティックグリセロールの単分子層を形成することが吸着抑制に重要であることが示唆された。特許文献1には、デンドリティックグリセロール構造単位を有する共重合体でシリコン表面をコーティングすることが記載されている。
国際公開第2016/142466号パンフレット
Chenら,Langmuir,2017,33(51),pp.14657−14662 Gunkel,Gら,Biomacromolecules,2011,12(11),pp.4169−4172 Wyszogrodzka,Mら,Biomacromolecules,2009,10(5),pp.1043−1054
上述したように、デンドリティックグリセロールにより表面改質する技術はあったが、デンドリティックグリセロールを導入するための反応性基を元々有している親水性基材を表面改質するものであったり、疎水性表面を有する基材には反応性基を導入するための表面処理や反応性基を有する重合体での被覆処理が必要であるなど、疎水性表面を有する基材をディップコート法などの簡便な方法のみで表面改質できる技術は無かった。
そこで本発明は、疎水性表面を有する基材でさえ親水性コーティング可能なグリセロールデンドロン共重合体、当該グリセロールデンドロン共重合体を用いたコーティング方法、および当該グリセロールデンドロン共重合体を合成するためのグリセロールデンドロン単量体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、デンドリティックグリセロールのモノマー化に初めて成功し、得られた単量体と疎水性単量体を共重合させることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
[1] 下記式(I)で表される親水性構造単位、および、下記式(II)で表される疎水性構造単位を有することを特徴とするグリセロールデンドロン共重合体。
Figure 2021138876

[式中、
1とR6は、独立して、HまたはC1-6アルキル基を示し、
2〜R5は、独立して、H、または下記式(III)で表される基を示し、
Figure 2021138876

(式中、R8とR9は、独立して、H、または式(IV)で表される基を示す。)を示し、
7は、C2-12アルキル基を示し、
1は単結合またはカルボニル基を示し、
2は単結合、カルボニル基、またはエステル基を示す。]
[2] X1がカルボニル基であり、且つX2がエステル基である上記[1]に記載のグリセロールデンドロン共重合体。
[3] R2〜R5が上記式(III)で表される基である上記[1]または[2]に記載のグリセロールデンドロン共重合体。
[4] R8とR9がHである上記[1]〜[3]のいずれかに記載のグリセロールデンドロン共重合体。
[5] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のグリセロールデンドロン共重合体の溶液を用いて基材をコーティングする工程を含むことを特徴とするコーティング方法。
[6] 上記溶液に上記基材を浸漬する上記[5]に記載のコーティング方法。
[7] 上記基材の少なくとも表面が疎水性高分子で構成されている上記[5]または[6]に記載のコーティング方法。
[8] 下記式(V)で表されることを特徴とするグリセロールデンドロン単量体。
Figure 2021138876

[式中、
1はHまたはC1-6アルキル基を示し、
10〜R13は、独立して、H、下記式(VI)で表される基、または水酸基の保護基を示し、
Figure 2021138876

(式中、R14とR15は、独立して、H、式(VII)で表される基(式中、R16とR17は、独立して、H、または水酸基の保護基を示す。)、または水酸基の保護基を示す。)を示し、
1は単結合またはカルボニル基を示す。]
本開示において「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどである。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。
「C2-12アルキル基」は、炭素数2以上、12以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシルなどである。適度な疎水性の観点から、好ましくはC3-6アルキル基であり、より好ましくはブチルである。また、細胞膜や自己組織膜への応用の観点からは、C6-12アルキル基が好ましく、C8-10アルキル基がより好ましい。
2の定義における「エステル基」は、−C(=O)−O−基を示す。
本発明に係るグリセロールデンドロン単量体は、デンドリティックグリセロール基を有する単量体の初めての合成例であり、当該グリセロールデンドロン単量体と疎水性単量体とを共重合させることにより合成される共重合体は、両親媒性のものとなる。よって、親水性構造単位と疎水性構造単位を有する本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体は、反応性基を有さない疎水性表面を有する基材でさえディップコート法などの簡便な方法でコーティング可能であり、基材に親水性を付与することができ、生体適合性を高め、タンパク質の吸着を抑制することができる。
従って、本発明は、新たなバイオマテリアルの創製に寄与できるものとして、産業上きわめて有用である。
図1は、未コーティングポリウレタンシートとコーティングポリウレタンシートのSEM画像である。 図2は、未コーティングポリウレタンシートとコーティングポリウレタンシートの水の接触角を示すグラフである。 図3は、コーティングポリウレタンシートにおける親水性モノマー成分の質量分率(共重合体単位質量あたりの親水性モノマー成分の質量[g/g])に対してそれぞれの接触角をプロットしたグラフである。 図4は、コーティングポリウレタンシートにおける共重合体の単位重量あたりの水酸基数[mmol/g]に対して接触角をプロットしたグラフである。 図5は、未コーティングポリウレタンシートとコーティングポリウレタンシートに対するフィブリノーゲンの吸着量を示すグラフである。 図6は、未コーティングポリウレタンシートとコーティングポリウレタンシートに対するフィブリノーゲン吸着量を縦軸に、接触角を横軸にプロットしたグラフである。 図7は、コーティングポリウレタンシートの膨潤平衡含水率を示すグラフである。 図8は、共重合体単位質量当たりの親水性モノマー成分の質量[g/g]に対して膨潤平衡含水率をプロットしたグラフである。 図9は、膨潤平衡時の共重合体フィルム単位重量当たりの全ての水和水と、DSC測定により求めた水和水の状態の内訳を示すグラフである。 図10(1)は、共重合体フィルムの単位重量あたりの全ての水和水の重量に対してタンパク質吸着試験におけるFib吸着量をプロットしたグラフであり、図10(2)は、共重合体フィルムの単位重量あたりの不凍水のみの重量に対してFib吸着量をプロットしたグラフである。
本発明に係る式(V)で表されるグリセロールデンドロン単量体は、特に制限されないが、例えば、以下の経路により合成することができる。以下、式(Y)で表されるZは、Z(Y)と略記する。例えば、式(V)で表されるグリセロールデンドロン単量体は、「グリセロールデンドロン単量体(V)」と略記する。
Figure 2021138876
[式中、
1とX1は前述したものと同義を示し、
20は水酸基の保護基を示し、
21〜R24は、R10〜R13の定義のうち、水酸基が保護されている基(VI)、または水酸基の保護基を示し、
Xは、クロロ、ブロモ、およびヨードから選択されるハロゲノ基を示す。]
上記合成スキームでは、先ず、アリルアルコールの水酸基を適切な保護基で保護する。保護基としては特に制限されないが、例えば、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、t−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)等のシリルエーテル系保護基;メトキシメチル基(MOM)、2−テトラヒドロピラニル基(THP)、エトキシエチル基(EE)等のアセタール系保護基;ベンジル基(Bn)、p−メトキシベンジル基などのベンジル系保護基などが挙げられる。
次に、水酸基が保護されたアリルアルコールのエテニル基を酸化オスミウムにより酸化し、1,2−ジオール化合物を得る。かかる酸化反応においては、N−メチルモルホリン−N−オキシド(NMO)、過酸化水素、フェリシアン化カリウム等の再酸化剤を併用することにより、本来、アルケンに対して等モル必要な酸化オスミウムの使用量を触媒量に低減することが可能である。
得られた1,2−ジオール化合物に、塩基の存在下、ハロゲン化アリルを反応させ、水酸基をアリル化する。
以上のエテニル基の1,2−ジオール化、水酸基のアリルエーテル化、1,2−ジオール化を繰り返すことにより、所望の世代数のデンドリティックグリセロール構造を形成することができる。同世代中のグリセリン単位の2つの水酸基の置換基は、水酸基の選択的な保護とアリルエーテル化を組み合わせることにより互いに違えることも可能であるが、親水性の向上や合成の容易さ、対称性などから、同一であることが好ましい。R21〜R24が水酸基の保護基である場合、R20の水酸基の保護基が選択的に脱保護できるように、R21〜R24の水酸基の保護基とR20の水酸基の保護基は互いに異なるものであることが好ましい。また、R21〜R24の水酸基の保護基としては、上記例示の保護基の他、アセトニドやベンジリデンアセタール等のアセタール系1,2−ジオール保護基;環状炭酸エステル;ジt−ブチルシリレン、1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン等のシリルエーテル系1,2−ジオール保護基など、1,2−ジオール用の保護基を用いてもよい。
デンドリティックグリセロール構造の「世代数」とは、デンドリティックグリセロール構造の中心のグリセリン単位を第1世代、第1世代のグリセリン単位の水酸基に結合しているグリセリン単位を第2世代、第2世代のグリセリン単位の水酸基に結合しているグリセリン単位を第3世代というように、デンドリティックグリセロール構造の中心からの同心円上のグリセリン単位を意味する。
次に、R20を選択的に除去する。R21〜R24が水酸基の保護基である場合、R20を選択的に除去できるよう、R20の保護基はR21〜R24が水酸基の保護基と違えることが好ましい。また、これら保護基が酸性条件下で除去されるものであっても、用いる酸の種類やpHによって、R20のみ選択的に除去することも可能である。
次に、脱保護された第1世代のグリセリン単位の第一級水酸基にX1を結合させる。X1が単結合である場合は、ハロゲン化アルケンを反応させることによりエチレンやプロピレン等のビニル系単量体が得られ、X1がカルボニル基である場合は、アクリル酸やメタクリル酸などを反応させることにより、水酸基が保護されたグリセロールデンドロン単量体(V)が得られる。
最後に、必要であればR21〜R24を除去して脱保護することにより、脱保護されたグリセロールデンドロン単量体(V)が得られる。また、水酸基が保護されたグリセロールデンドロン単量体(V)を用いて重合体を製造し、その後R21〜R24を除去して脱保護してもよい。
本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体は、グリセロールデンドロン単量体(V)と、式(VIII)で表される疎水性単量体を共重合させることにより製造できる。
Figure 2021138876

[式中、R6、R7およびX2は前述したものと同義を示す。]
重合方法は特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、グリセロールデンドロン単量体(V)と疎水性単量体(VIII)の溶液に重合開始剤を添加すればよい。グリセロールデンドロン単量体(V)と疎水性単量体(VIII)との割合は特に制限されないが、グリセロールデンドロン単量体(V)の割合が大きいほど得られる共重合体の親水性は高くなり、疎水性単量体(VIII)の割合が大きいほど共重合体と疎水性表面を有する基材との親和性は高まるため、共重合体の所望の特性に応じて上記割合を調整すればよい。但し、本発明に係るグリセロールデンドロン単量体(V)は多数の水酸基を有し、その割合が比較的小さくても得られる共重合体の親水性は高いものとなるため、グリセロールデンドロン単量体(V)と疎水性単量体(VIII)との合計に対するグリセロールデンドロン単量体(V)の割合としては、例えば、1モル%以上、90モル%以下とすることができる。当該割合が1モル%以上であれば、共重合体の親水性をより確実に高めることが可能になり、90モル%以下であれば、共重合反応が阻害されず、且つ共重合体と疎水性基材との親和性もより確実に確保することができる。上記割合としては、2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、また、70モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましい。
重合反応の溶媒は、グリセロールデンドロン単量体(V)と疎水性単量体(VIII)を適度に溶解することができ、且つ重合反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、p−キシレン、ニトロベンゼン、アニリン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;水;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;これら2以上の混合溶媒が挙げられる。
重合開始剤は適宜選択すればよく、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(V−40)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(VAm−110)等の油溶性アゾ重合開始剤;2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩(VA−044)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V−50)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(V−501)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA−086)等の水溶性アゾ重合開始剤などから、使用する溶媒などに応じて選択すればよい。
反応液における単量体の濃度は適宜調整すればよく特に制限されないが、例えば、合計濃度として0.1M以上、5M以下とすることができる。重合開始剤の濃度も適宜調整すればよく特に制限されないが、例えば、0.5mM以上、100mM以下とすることができる。
反応系の気相は、ラジカル重合反応を阻害する酸素を除去するために、不活性ガスで置換することが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。反応温度と反応時間も適宜調整すればよく、予備実験で決定したり、薄層クロマトグラフィ等で単量体が消費されるまでとすればよいが、例えば、10℃以上、120℃以下で、1時間以上、100時間以下とすることができる。反応は、加熱還流下で行ってもよい。
反応終了後は、通常の後処理により共重合体を精製してもよい。例えば、反応終了後の反応液に、水や、水酸基が保護されている場合にはアルコール系溶媒など、共重合体に対する貧溶媒を加えて共重合体を析出させ、濾取し、貧溶媒で洗浄した後に乾燥すればよい。また、グリセロールデンドロン単量体(V)として水酸基が保護されているものを用いた場合には、この段階で保護基に応じた脱保護条件により脱保護してもよい。
なお、上記方法で製造されたグリセロールデンドロン共重合体は、ランダム共重合体であり、共重合体におけるグリセロールデンドロン単位と疎水性単位の割合は、重合反応に使用したグリセロールデンドロン単量体(V)と疎水性単量体(VIII)の割合がほぼ反映されていると考えられる。
本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体は、溶解性に優れる上に、デンドリティックグリセロール構造により親水性を示し、且つアルキル基により疎水性表面にも親和性を示すため、疎水性表面を有する基材に親水性を付与するコーティング成分として利用することができる。
共重合体を溶解するための溶媒は、予備実験などにより適宜決定すればよいが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;水;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒などが挙げられる。
共重合体溶液の濃度は適宜調整すればよく特に制限されないが、例えば、0.01質量%以上、10質量%以下とすることができる。
本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体によりコーティングすべき基材の素材は特に制限されないが、例えば、ポリスチレン、液晶ポリマー、ポリイミド、環状オレフィンコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリジアルキルシロキサン、エポキシ樹脂、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(ブタジエン)等の疎水性高分子;鉄、銅、アルミニウム、合金などの金属が挙げられる。基材は、製品や部品などであってもよいし、鉄鋼材など材料自体であってもよい。
コーティング方法としては、例えば、高分子溶液を基材表面に吹きかけて溶媒を蒸発させるスプレー法、基材表面に高分子溶液を乗せ回転の遠心力により薄膜を形成するスピンコート法、基材を高分子溶液に浸漬して引き上げるディップコート法などがある。中でもディップコート法は特別な機器を必要としない簡便な操作でありながら、材料両面の同時コーティングや複雑な形状の材料のコーティングが可能であることから好ましい。本発明に係るグリセロールデンドロン共重合体は、簡便なディップコート法によっても基材をコーティングすることが可能である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1: デンドリティックグリセロールメタクリレート保護体(ADGMA)、および、グリセロールメタクリレート保護体(AGMA)の合成
(1)アリルオキシ−t−ブチルジフェニルシラン(化合物2)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に脱水ジメチルホルムアミド(30.5mL)とイミダゾール(3.03g,44.5mmol)を加え、フラスコ内を窒素置換し、アリルアルコール(化合物1)(2.44mL,35.8mmol)をシリンジで加え攪拌し、TBDPSCl(10.0mL,36.4mmol)を滴下し、室温で5時間反応させた。純水(150mL)を加えた後、ジエチルエーテル(150mL)を加えて3回抽出し、有機相を純水(450mL)で2回、食塩水(450mL)で1回洗浄した。洗浄した有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧留去し、残渣を真空乾燥した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=5/95)にて精製した。その後、TLC(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=5/95)上にてRf値=0.10,0.65のスポットを確認し、Rf値=0.65のスポットの回収と溶媒の減圧留去、室温下にて真空乾燥を行い、無色透明液体を得た(収量:10.6g(35.7mmol),収率:99.6%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(2)3−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)プロパン−1,2−ジオール(化合物3)の合成
Figure 2021138876
アリルオキシ−t−ブチルジフェニルシラン(化合物2)(5.02g,16.9mmol)にアセトン(10mL)、純水(10mL)、t−ブチルアルコール(2.0mL)、およびNMO(2.26g,19.3mmol)を加え、氷冷下、酸化オスミウム固定化触媒(197mg)を加えた。反応液を室温で50時間攪拌し、ろ過した後、ろ液から溶媒を減圧留去した。残渣に純水(100mL)を加えた後、酢酸エチル(100mL)を加えて3回抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水した。その後、溶媒の留去、室温下にて真空乾燥を行い、白色固体を得た(収量:5.26g(15.9mmol),収率:93.8%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(3)(2,3−ビスアリルオキシプロポキシ)−t−ブチルジフェニルシラン(化合物4)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、3−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)プロパン−1,2−ジオール(化合物3)(61g,0.18mol)、脱水THF(384mL)、アリルブロミド(220mL,2.54mol)、およびTBAI(0.269g,0.728mmol)を加えた後、氷冷下において攪拌しながら水素化ナトリウム(13.2g,0.329mol)を10回に分けて加えた。室温で36時間反応させた後、純水(400mL)を加え、THFを減圧留去した後、ヘキサン/酢酸エチル=2/1の混合溶媒(400mL)を加え、純水(100mL)で3回洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン→ヘキサン/酢酸エチル=80/20)にて精製を行った。その後、TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)上にてRf値=0.5、0.7、0.9のスポットを確認し、Rf値=0.5の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行い、無色透明液体を得た(収量:75g(0.18mol),収率:99%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(4)3−[2−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)−1−(2,3−ジヒドロキシプロポキシメチル)エトキシ]プロパン−1,2−ジオール(化合物5)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、(2,3−ビスアリルオキシプロポキシ)−t−ブチルジフェニルシラン(化合物4)(48.1g,0.117mol)、アセトン(67mL)、純水(25mL)、t−ブチルアルコール(13mL)、および50%NMO水溶液(74.3mL,0.362mol)を加え、氷冷下において攪拌しながら4%四酸化オスミウム水溶液(2.22mL,0.349mmol)を加えた後、室温で22時間攪拌した。溶媒を留去し、純水を加え、酢酸エチルで3回抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過および溶媒の減圧留去を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:メタノール/酢酸エチル=10/90)にて精製を行った。TLC(展開溶媒:メタノール/酢酸エチル=10/90)上でRf値=0.40,0.77,0.88のスポットを確認した後、Rf値=0.40のスポットの回収および溶媒の減圧留去、室温下にて真空乾燥を行い、淡黄色透明液体を得た(収量:36.6g(76.5mmol),収率:65.3%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(5)[2,3−ビス(2,3−ビスアリルオキシプロポキシ)プロポキシ]−t−ブチルジフェニルシラン(化合物6)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、3−[2−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)−1−(2,3−ジヒドロキシプロポキシメチル)エトキシ]プロパン−1,2−ジオール(化合物5)(8.51g,17.8mmol)、脱水THF(74mL)、アリルブロミド(60.2mL,0.711mol)、およびTBAI(32.8mg,88.9μmol)を加えた後、氷冷下において攪拌しながら水素化ナトリウム(5.71g,0.142mol)を12回に分けて加え、室温で40時間反応させた。純水(50mL)を加え、THFを減圧留去した後、純水(150mL)を加えて酢酸エチル(150mL)で3回抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン→ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にて精製を行った。その後、TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=8/2)上にてRf値=0.5、0.9のスポットを確認し、Rf値=0.5の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行うことにより無色透明液体を得た(収量:11.1g(17.4mmol),収率:98.0%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(6)3−[3−[2−[2,3−ビス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]−3−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)プロポキシ]−2−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]プロパン−1,2−ジオール(化合物7)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、[2,3−ビス(2,3−ビスアリルオキシプロポキシ)プロポキシ]−t−ブチルジフェニルシラン(化合物6)(59.5g,93.1mmol)、アセトン(128mL)、純水(62mL)、t−ブチルアルコール(73mL)、および50%NMO水溶液(117mL,0.569mol)を加え、氷冷下、攪拌しながら4%四酸化オスミウム水溶液(3.7mL,0.58mmol)を加え、室温で69時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、トルエンを加えて共沸により水を除去した。その後、精製を行わずに次の反応に用いた(収量:135g)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(7){2,3−ビス[2,3−ビス(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメトキシ)プロポキシ]プロポキシ}−t−ブチルジフェニルシラン(化合物8)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、未精製の3−[3−[2−[2,3−ビス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]−3−(t−ブチルジフェニルシラニルオキシ)プロポキシ]−2−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]プロパン−1,2−ジオール(化合物7)(135g)とアセトンジメチルアセタール(571mL,4.66mol)を加えた。攪拌しながらp−トルエンスルホン酸一水和物(38.9g,0.205mol)をpHが2になるまで少しずつ加えた。反応液を室温で24時間攪拌し、純水を加えて酢酸エチルで3回抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒::ヘキサン/酢酸エチル=5/5→酢酸エチル)にて精製を行い、TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/5)上にてRf値=0.4、0.9のスポットを確認し、Rf値=0.4の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行い、黄色透明液体を得た(収量:76.8g(82.1mmol),化合物6から化合物8への全体の収率:88.2%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(8)2,3−ビス[2,3−ビス(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメトキシ)プロポキシ]プロパン−1−オール(化合物9)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、{2,3−ビス[2,3−ビス(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメトキシ)プロポキシ]プロポキシ}−t−ブチルジフェニルシラン(化合物8)(17.4g,18.6mmol)、脱水THF(190mL)、および1mol/L TBAF,THF溶液(83.6mL,83.6mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。純水を加えてTHFを減圧留去した後、純水を加え、酢酸エチルで3回抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル→酢酸エチル/メタノール=8/2)にて精製を行った。その後、TLC(展開溶媒:酢酸エチル)上にてRf値=0.4、0.8のスポットを確認し、Rf値=0.4の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行い、無色透明液体を得た(収量:11.6g(16.7mmol),収率:89.5%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)にて目的物であることを確認した。
(9)2,3−ビス[2,3−ビス(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメトキシ)プロポキシ]プロピル メタクリレート = デンドリティックグリセロールメタクリレート保護体(ADGMA)(化合物10)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、2,3−ビス[2,3−ビス(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメトキシ)プロポキシ]プロパン−1−オール(化合物9)(2.42g,3.47mmol)を加え、系内を窒素置換した後、脱水ジクロロメタン(38mL)とトリエチルアミン(4.8mL,35mmol)を加え、氷冷下で攪拌した。脱水ジクロロメタン(14mL)に溶解したメタクリロイルクロリド(0.66mL,6.9mmol)を4時間かけて滴下し、次いで室温に戻して17時間攪拌した。反応後、純水(100mL)を加えて攪拌した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/1の混合溶媒(100mL)を加えて抽出し、抽出液を純水(100mL)で2回洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/6→酢酸エチル/メタノール=9/1)にて精製を行い、TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/6)上にてRf値=0.4、0.8、0.9のスポットを確認し、Rf値=0.4の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行い、黄色透明液体を得た(収量:2.01g(2.63mmol),収率:75.7%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)、13C NMR(101MHz,CDCl3)、およびESI−TOF−MSにて、目的物であることを確認した。
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=6.11(s,1H,CH2=C),5.59(m,1H,CH2=C),4.33−3.44(m,35H,glycerol),1.95(s,3H,C=C−CH3),1.41−1.35(m,24H,O−C(CH32−O)
13C−NMR(101MHz,CDCl3):δ=167.10,136.18,125.88,109.44,109.36,78.85,78.65,77.37,74.84,74.69,72.57,71.71,71.55,71.48,70.97,70.38,70.12,66.94,66.80,64.11,26.88,26.84,25.47,25.44,18.43
MS(ESI): m/z=787.41 [M+Na]+
(10)2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメチル メタクリレート = グリセロールメタクリレート保護体(AGMA)(化合物11)の合成
Figure 2021138876
フラスコ内に、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(8.24g,62.3mmol)を加え、系内を窒素置換した後、脱水ジクロロメタン(27mL)とトリエチルアミン(26.5mL,191mmol)を加え、氷冷下で攪拌した。脱水ジクロロメタン(14mL)に溶解したメタクリロイルクロリド(5.90mL,61.0mmol)を4時間かけて滴下し、次いで室温に戻して20時間攪拌した。純水(3mL)を加えて攪拌した後、ヘキサン/酢酸エチル=1/1の混合溶媒(200mL)を加えて、純水(100mL)で3回洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=9/1 → ヘキサン/酢酸エチル=3/7)にて精製を行い、TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)上にてRf値=0.2の留分を回収し、溶媒の減圧留去および真空乾燥を行い、無色透明液体を得た(収量:11.0g(54.8mmol),収率:88.0%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)、13C NMR(101MHz,CDCl3)、およびESI−TOF−MSにて、目的物であることを確認した。
実施例2: p(DGMA−ran−BMA)の合成
(1)共重合反応
Figure 2021138876
メタクリル酸 n−ブチル(BMA)は、0.1M NaOH水溶液で洗浄してから用いた。試験管内に、[ADGMA]=0.05M、[BMA]=0.95M、[AIBN]=5mMとなるように表1に示す量のADGMAとBMAとAIBNを加え、酢酸エチルに溶解させた。試験管を密閉した後、系内を凍結脱気して窒素を充填し、65℃で12時間攪拌した。反応溶液を大量のメタノールに滴下し、生じた沈殿を回収し、真空乾燥した。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。1H NMRスペクトルにおいて、5.5〜6.1ppm付近のメタクリレート二重結合由来のピークが消失していることから、重合反応が進行していることが確認された。
なお、表1中の「回収率」は、以下の式より算出した。
回収率(%)=[(回収された共重合体の質量(g))/(モノマーの質量(g))]×100
(2)脱保護反応
Figure 2021138876
表2に示す量の保護基のついた各共重合体を1,4−ジオキサンに溶解させた。70℃で攪拌しながら、表2に示す濃度と体積の塩酸をゆっくりと滴下した。24時間反応させた後、反応溶液を大量の純水に滴下し、生じた不溶物を回収し、真空乾燥した。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。1H NMRスペクトルにおいて、1.3〜1.4ppm付近のアセトニド保護基由来のピークが消失していることから、脱保護反応が進行していることが確認された。
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=4.15−3.82(br,OCH2CH2CH2CH3),3.81−3.45(br,glycerol unit),2.15−1.72(br,CH2 in backbone),1.70−1.50(br,OCH2CH2CH2CH3),1.48−1.33(br,OCH2CH2CH2CH3),1.16−0.60(br,CH3 in backbone),1.00−0.90(br,OCH2CH2CH2CH3
実施例3: p(DGMA−ran−BMA)の合成
ADGMAの濃度を0.1M、BMAの濃度を0.9Mに変更し、沈殿を生じさせるための貧溶媒をメタノールからヘキサンに変更した以外は実施例2と同様にして、p(ADGMA−ran−BMA)を合成し、更に脱保護することによりp(DGMA−ran−BMA)を得た。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=4.15−3.82(br,OCH2CH2CH2CH3),3.81−3.45(br,glycerol unit),2.15−1.72(br,CH2 in backbone),1.70−1.50(br,OCH2CH2CH2CH3),1.48−1.33(br,OCH2CH2CH2CH3),1.16−0.60(br,CH3 in backbone),1.00−0.90(br,OCH2CH2CH2CH3
比較例1: ポリメタクリル酸 n−ブチル(PBMA)の合成
Figure 2021138876
モノマーとして1MのBMAのみを用い、AIBNの濃度を10mMに変更した以外は実施例2と同様にして、p(ADGMA−ran−BMA)を合成した。
Figure 2021138876
Figure 2021138876
比較例2〜4: p(GMA−ran−BMA)の合成
(1)共重合反応
Figure 2021138876
メタクリル酸 n−ブチル(BMA)は、0.1M NaOH水溶液で洗浄してから用いた。試験管内に、[モノマー]=1M、[AIBN]=5mMとなるように表3に示した量のAGMAとBMAとAIBNを加え、酢酸エチルに溶解させた。試験管を密閉した後、系内を凍結脱気して窒素を充填し、65℃で6時間攪拌した。反応溶液を大量のヘキサンに滴下して生じた沈殿を回収し、真空乾燥した。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。
Figure 2021138876
(2)脱保護反応
Figure 2021138876
表4に示す量の保護基のついた各共重合体を1,4−ジオキサンに溶解させた。70℃で攪拌しながら、表4に示す濃度と体積の塩酸をゆっくりと滴下した。18時間反応させた後、反応溶液を、GMA30−BMA70とGMA50−BMA50の場合は大量の純水に、GMA70−BMA30の場合は大量のヘキサン/エタノール=1/1混合溶媒に滴下し、生じた不溶物を回収し、真空乾燥した。GMA50−BMA50とGMA70−BMA30については脱保護が不完全であったので、追加で上記と同様の条件で23時間反応させた後、上記と同様の再沈殿を行い、目的物を回収した。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。
Figure 2021138876
比較例5〜7: p(PEGMA−ran−BMA)の合成
Figure 2021138876
メタクリル酸 n−ブチル(BMA)は、0.1M NaOH水溶液で洗浄してから用いた。また、PEGMAは、カラムに詰めたinhibitor removersを通過させてから用いた。試験管内に、[モノマー]=1M、[AIBN]=5mMとなるように表5に示した量のPEGMAとBMAとAIBNを加え、エタノールに溶解させた。試験管を密閉した後、系内を凍結脱気して窒素を充填し、65℃で15時間攪拌した。反応溶液を、PEGMA5−BMA95とPEGMA10−BMA90の場合は大量のメタノールに、PEGMA20−BMA80の場合は大量のヘキサンに滴下し、生じた沈殿を回収し、真空乾燥した。1H NMRにより、得られた化合物を同定した。
Figure 2021138876
試験例1: GPC測定
GPC装置のポンプとしては日本分光社製の「PU−980」を、脱気装置としては日本分光社製の「DG−980−50」を、カラムとしては昭和電工社製の「Asahipak GF−510HQ(7.5mm I.D.×300mm)」を、カラムオーブンとしては日本分光社製の「CO−965」を、RI検出器としては昭和電工社製の「RI−101」を用いた。溶離液としては、PBMA、PEGMA5−BMA95、およびPEGMA10−BMA90用にはアセトン(ナカライテスク社製,GR特級)を用い、その他の共重合体用にはメタノール(ナカライテスク社製,GR特級)を用いた。流速は0.6mL/minに、温度は35℃に設定した。標準試料としては、ポリエチレンオキシド(「TSK標準ポリエチレンオキシド」東ソー社製)を用いた。結果を表6に示す。
また、得られた共重合体中の親水性モノマー成分のモル分率を1H NMRスペクトルより算出し、使用した親水性モノマー成分のモル分率と比較した結果を表6に示す。
Figure 2021138876
表6に示された結果の通り、いずれの重合体における親水性モノマーも、若干の差異があるものの、概ね同程度のモル分率値を示したことから、DGMA保護体、GMA保護体、およびPEGMAとBMAのそれぞれの組み合わせが、表6に示した組成の範囲において仕込み比により成分比を制御できる共重合系であることが示された。
また、GPCにより各共重合体とPBMAの分子量を算出したところ、いずれの重合体も105オーダーの分子量であることから、コーティングを行うのに十分な分子量を有するものあることが確認された。
試験例2: 溶解性試験
マイクロチューブ内に数mgの各共重合体を取り、各溶媒を1mL加えて超音波処理に付し、且つボルテックスミキサーを用いて攪拌し、目視で状態を確認し、以下の基準で溶解性を評価した。結果を表7に示す。
〇: 不溶物がなくなった
×: 不溶物がなくならなかった
Figure 2021138876
表7に示された結果の通り、いずれの共重合体も水には溶解しなかったことから、コーティング後に水中で共重合体が溶け出すということがないことが確認された。
親水性モノマーとしてPEGMAを用いた場合は、メタノールに対する高い溶解性を得るのに10%より多い添加量を要したのに対して、DGMAでは5%の添加量でメタノールに対して高い溶解性を示したことから、DGMAが少量で高い極性を付与する性質を持つことが示された。
アセトン及びクロロホルムに対しても、DGMAが5%および10%の共重合体(DGMA5−BMA95とDGMA10−BMA90)のいずれもが高い溶解性を示したことから、幅広い極性の溶媒に溶解することが示唆された。
試験例3: コーティング特性評価
(1)コーティング
ペレット状のポリウレタン(「Tecoflex(R)」Lubrizol社製)を70℃で3時間減圧することで予備乾燥し、10gをAl板で挟み、ゴンノ油圧機製作所社製の「メルトプレス」を用い、170℃、0MPaにて3分間加熱し、4MPaにて1分間加圧した後、室温に冷却することでシート状に加工した。このポリウレタンシートを1cm×1cmに切断し、エタノール中で30秒間超音波処理をしてからコーティングに用いた。
表7に示した各重合体のうち、PBMA、PEGMA5−BMA95、およびPEGMA10−BMA90はアセトンに、その他の共重合体はエタノールに溶解して0.5質量%溶液とした。この共重合体溶液に上記ポリウレタンシートを3秒間浸漬し、1秒で引き上げる操作を2回繰り返した後、40℃で2時間真空乾燥することでディップコーティングを行った。また、ポリウレタンシートをエタノールに対して同様の浸漬、引き上げ、真空乾燥を行い、対照試料(未コーティングポリウレタンシート)とした。
各ポリウレタンシートをATR−IR測定により分析したところ、未コーティングのポリウレタンシートでは1684cm-1付近にウレタン結合由来のC=O伸縮のみが観察されるのに対して、共重合体によるコーティングを施したポリウレタンシートでは1725cm-1付近に共重合体のメタクリル酸エステル部位由来のC=O伸縮のショルダーピークが観察されたことと、未コーティングでは1095cm-1付近にウレタン結合由来のC−O伸縮ピークが観察されるのに対して、コーティングを施したものでは1147cm-1付近に共重合体のC−O伸縮が観察されることから、ポリウレタンシート表面に共重合体がコーティングされたことが確認された。
(2)表面観察
未コーティングポリウレタンシート、並びに、PBMA、DGMA10−BMA90、GMA70−BMA30、およびPEGMA20−BMA80によってコーティングを施したポリウレタンシートに白金を蒸着し、20keVにてSEMによりシート表面を観察した。結果を図1に示す。
バイオマテリアルにおける表面の粗さは、表面が粗いほど生体との接触面積が大きくなり、タンパク質や細胞の吸着、それに続く生体反応が起こる場が増大してしまうという点で重要な性質である。共重合体によるコーティングを施したポリウレタンシート表面をSEMにより観察したところ、図1の通り、いずれの共重合体によるコーティングも、未コーティングのポリウレタンシートと比較して平滑になる傾向が見られた。
従って、本発明に係る共重合体のコーティングは、表面の粗さという点で基板となるバイオマテリアルの機能を損なうことはないことが示唆された。
(3)親水性評価
未コーティングポリウレタンシートおよびコーティングポリウレタンシート上に100μLの純水を乗せ、そのうち96μLを吸い取ることで4μLを残し、水滴とポリウレタンシートの接触面の水平方向から写真を撮影した。この水滴の接触角をθ/2法によって算出した。同様の測定を、ポリウレタンシート上の3点で行った。結果を図2に示す。
図2に示される結果の通り、いずれの共重合体によるコーティングもPBMAのみによるコーティングより小さな接触角を示し、親水性モノマーの組成比が増加するに従って接触角が減少した。更にDGMAを10mol%、GMAを50mol%以上、およびPEGMAを20mol%含む共重合体コーティングシートでは、未コーティングシート(bare)よりも有意に小さな接触角であったことから、DGMA、GMAおよびPEGMAが表面に親水性を付与する性質を持つことが示された。特にDGMAは10mol%の組成でGMAが30mol%の共重合体と、PEGMAが20mol%の共重合体よりも接触角が有意に小さかったことから、デンドリティックグリセロールが少量で高い表面親水性を付与することが示された。
共重合体中に親水性モノマー成分が物質量において同量含まれていても、モノマーの分子量が大きいほど共重合体中の親水的な化学構造の割合が増加する。そこで、モノマーの分子量の違いを考慮して比較するために、親水性モノマー成分の質量分率(共重合体単位質量当たりの親水性モノマー成分の質量[g/g])に対してそれぞれの接触角をプロットしたグラフを図3に示す。
図3のグラフにおいて、DGMAのプロットがGMAとPEGMAに対してグラフの左下に存在することから、モノマーの質量分率で比較してもデンドリティックグリセロールが少量で高い表面親水性を付与することが示された。デンドリティックグリセロールとポリエチレングリコールは同様のポリエーテル構造を有するが、デンドリティックグリセロールは枝分かれ構造によって同じ分子量でも末端に多数の水酸基を持つ。従って高い水酸基密度を達成できるので、直鎖のポリエチレングリコールと比較して質量分率に対する親水性が高いと考えられる。
次に、水酸基数について考察した。1分子中の水酸基数を比較するとDGMAは8つ、GMAは2つであり両者に差がある。そこで水酸基数を考慮して比較するために、共重合体の単位重量あたりの水酸基数[mmol/g]に対して接触角をプロットしたグラフを図4に示す。DGMAのプロットがGMAに対してグラフの左下に存在することから、同量の水酸基数でもDGMAが高い表面親水性を付与することが明らかになった。
この理由としては、DGMAのデンドリティックグリセロール構造に存在するエーテル構造の極性も表面の親水性に寄与しているということと、デンドリティックグリセロール構造がGMAと比較して主鎖から長距離まで広がっており柔軟な構造を持つことで、よりコーティング表面に露出しやすいということが考えられる。
(4)Micro BCA法によるタンパク質吸着特性評価
未コーティングポリウレタンシートおよびコーティングポリウレタンシートをPBS(12mM,pH7.4)中に1週間浸漬した後、1mg/mLのフィブリノーゲン(Fib)を含むPBS溶液1mL中に37℃で2時間浸漬した。各ポリウレタンシートを取り出し、両面をそれぞれ1mLのPBSで洗浄し、次いで1質量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液0.2mLに浸漬して10分間超音波処理した。この溶液から0.15mLずつをビオラモ96ウェルプレート(アズワン社製)に取り、Thermo Scientific Micro BCATM Protein Assay Kitの蛍光試薬0.15mLを加えて30秒間振とうし、37℃で2時間静置した後、マイクロプレートリーダーを用いて562nmの吸光を測定した。測定は1種類の重合体と未コーティングに対して3回行った。Fibの2.5,5.0,10,20,40,および200μg/mL PBS溶液を用いた較正曲線によって、各ポリウレタンシートに吸着したフィブリノーゲン量を定量した。結果を図5に示す。
図5に示される結果の通り、Fibの吸着量について、PBMAによるコーティングが未コーティングと有意差が見られないのに対し、各親水性モノマー共重合体によるコーティングではいずれも吸着量が有意に減少しており、親水性モノマーの組成比が増加するに従って吸着量が減少していることから、親水性モノマーがFib吸着抑制効果を持つことが示された。特にDGMAが10mol%の共重合体が、GMAが30mol%の共重合体、およびPEGMAが10mol%の共重合体よりも有意に低い吸着量を示した。タンパク質吸着の高い抑制効果が報告されているポリエチレングリコールよりも低い吸着量であったことから、デンドリティックグリセロールが少量で高いFib吸着抑制効果を発現することが明らかになった。
一般に表面のタンパク質吸着抑制をもたらす因子としては、表面の親水性、表面に導入された高分子鎖による排除体積効果、両性イオンによる電荷、生体分子を利用した生理活性などが挙げられるが、今回用いた共重合体では、親水性と排除体積効果の2つが主な因子として考えられる。そこでFib吸着の結果と親水性の指標となる接触角測定の結果との関係を考察するため、各コーティングのFib吸着量を縦軸に接触角を横軸にプロットしたグラフを図6に示す。
図6に示される結果の通り、PEGMA共重合体はGMA共重合体に比べてグラフの右下にプロットがあり、表面の親水性がそれほど高くない割りにFib吸着が抑制されているといえる。GMAは低分子であるため排除体積効果を無視でき、親水性がFib吸着抑制の主な要素だと仮定すると、GMA共重合体とPEGMA共重合体のこの差異がPEGMAの排除体積効果の因子だと考えることができる。この前提でDGMA共重合体に着目すると、DGMAを5mol%含む共重合体(接触角:47°)はGMAとPEGMAの間のPEGMAに近いところに存在することから、デンドリティックグリセロールが接触角測定で観察された高い親水性だけでなく、ポリエチレングリコールと同様の排除体積効果によってもタンパク吸着を抑制している可能性が示唆された。
一方で、DGMAを10mol%含む共重合体(接触角:15°)はGMAの各共重合体と同じ領域に存在し、排除体積効果によると考えられる差異は観察されなかった。この理由としては、DGMAの組成が多くなるとデンドリティックグリセロール同士の距離が近くなり互いの立体反発で運動性が低下したことが考えられる。
試験例4: コーティング特性評価
表6に示す各重合体を溶媒に溶解して0.5質量%溶液とした。溶媒として、PBMA、PEGMA5−BMA95、およびPEGMA10−BMA90にはアセトン、その他の共重合体にはエタノールを用いた。得られた共重合体溶液に、2cm×2cmに切断したAl板を3秒間浸漬し1秒で引き上げる操作を2回繰り返した後、40℃で2時間真空乾燥することでディップコーティングを行った。重合体がAl板表面にコーティングされたことをRAS−IR測定により確認した。
いずれの共重合体も1700cm-1付近にC=O伸縮のピークが、1150cm-1付近にC−O伸縮のピークが観察されたことから、Al基板に対してもコーティングを施すことができることが示された。
従って、本発明に係る共重合体が様々な基板に対するコーティング材料として利用できる可能性が示された。
実施例4: キャスト法による共重合体フィルムの作製
表6に示す各重合体を溶媒に溶解して10質量%溶液とした。PBMA、PEGMA5−BMA95、およびPEGMA10−BMA90にはアセトン、その他の共重合体にはエタノールを用いた。得られた共重合体溶液をポリエチレンフィルム上に流して室温で静置して乾燥し、流動性がなくなった後に40℃で2時間真空乾燥することで各重合体のフィルムを作製した。いずれの重合体からも、無色透明のフィルムが得られた。
試験例5: 共重合体フィルムの膨潤試験
実施例4で作製した各共重合体フィルムを数mg切り取り、重量を測定した。次いで、25℃で純水に浸漬し、各時間経過後にフィルムを取り出して表面の水を拭き取った後、重量を測定した。重量の有意な増加が見られなくなった状態を膨潤平衡とした。含水率を以下の式で算出した。各共重合体につき4つ以上のサンプルで含水率を測定した。結果を図7に示す。
c = (m1−m0)/m1
[式中、Wcは含水率を示し、m0は乾燥したフィルムの重量を示し、m1は膨潤したフィルムの重量を示す。]
各共重合体フィルムの膨潤平衡含水率を測定したところ、図7に示される結果の通り、いずれの共重合体も親水性モノマーの組成比が増加するにしたがって膨潤平衡含水率が増加した。
また、モノマーの分子量の違いを考慮して比較するために、共重合体単位質量当たりの親水性モノマー成分の質量[g/g]に対してそれぞれの膨潤平衡含水率をプロットしたグラフを図8として示す。DGMAとPEGMAがグラフの同じ領域に存在しGMAが右下に存在することから、接触角評価の際の傾向とは異なり、DGMAとPEGMAが共にGMAと比較して高い水和能力を持つことが示された。
係る結果より、ポリエーテル構造が水和に大きく寄与していることが示唆された。
試験例6: 示差走査熱量測定による共重合体フィルムの水和状態の評価
純水に浸漬し膨潤平衡に達した各共重合体フィルムを、DSC用アルミパンに入れて密閉した。各フィルムを30℃から−100℃まで5℃/minの速度で冷却し、−100℃で5分間保持した後、30℃まで5℃/minの速度で昇温した。中間水の低温結晶化のピークが全てのフィルムにおいて観察されなかったことから、以下の2式によってWfとWnfを求めた。
total = Wf + Wnf
f = (ΔHm/ΔHwater)/m0
[式中、Wtotalは乾燥したフィルム単位重量当たりの全ての水和水の重量を示し、Wfは自由水の重量を示し、Wnfは不凍水の重量を示し、m0は乾燥したフィルムの重量を示し、ΔHmは昇温曲線における吸熱ピークの面積から求めた融解エンタルピーを示し、ΔHwaterは水の融解エンタルピーを示す。]
DSC曲線のピークの面積から水を定量する際には、3回測定を行った平均値を用いた。
膨潤平衡時のフィルム単位重量当たりの全ての水和水と、DSC測定により求めた水和水の状態の内訳を図9のグラフに示す。いずれの共重合体フィルムも中間水が存在すると観察される低温結晶化ピークは観察されず、自由水と不凍水のみで構成されることが分かった。中間水を持つことが報告されているポリ(2−メトキシエチル アクリレート)と類似の構造であり水酸基を有する点が異なるポリ(2−ヒドロキシエチル メタクリレート)や、メトキシエチル基がエチル基である点が異なるポリ(エチル アクリレート)や、主鎖がアクリレートではなくメタクリレートであるポリ(2−メトキシエチル メタクリレート)がいずれも中間水を持たないことから、中間水はメトキシ基、水酸基、エチル基といった親水性の違いによる水和状況の違いや、少しの主鎖の違いによっても大きく左右されるものであることが考えられる。本発明に係る共重合体においては、疎水性の高いブチル基をベースとすることやメタクリレートモノマーを用いていること等が、中間水が観察されない理由として考えられる。
また、図9の通り、共重合体フィルム単位重量当たり不凍水量は、グリセロールを30mol%加えたGMA30−BMA70では0.06g/g、ポリエチレングリコールを20mol%加えたPEGMA20−BMA80で0.12g/gあるのに対して、デンドリティックグリセロールを10mol%加えたDGMA10−BMA90で0.14g/gであり、不凍水量が多いことが分かる。かかる結果の通り、含水したフィルムという系においても、デンドリティックグリセロール構造を持つ共重合体物質であるポリグリセロールデンドリマーは、大量の不凍水を有するという性質を有することが示された。
更に、共重合体フィルムの単位重量あたりの全ての水和水の重量に対して共重合体コーティングのタンパク質吸着試験におけるFib吸着量をプロットしたグラフを図10(1)に、フィルムの単位重量あたりの不凍水のみの重量に対してFib吸着量をプロットしたグラフを図10(2)に示す。
Fib吸着量と全ての水和水量との相関係数が−0.44であるのに対して、Fib吸着量と不凍水量との相関係数が−0.90であることから、本発明に係る共重合体が示したFib吸着抑制効果は、水和水全体ではなく不凍水の量が大きく寄与したものだと考えられる。この実験結果は、表面に水和した水が存在することでタンパク質が表面に吸着するためのエネルギーが大きくなり吸着抑制効果を生み出すという過去の報告と一致している。
従って、DGMA−BMAが同じ又はそれ以上の組成のGMA−BMAやPEGMA−BMAよりも高いFib吸着抑制効果を示したのは、デンドリティックグリセロールが多くの強固に水和した水である不凍水を持ち、Fibが吸着するためのエネルギー障壁を大きくしたことが寄与しているということがこの実験結果から示唆された。
また、本実験で得られたDSC昇温曲線上の吸熱ピークとして自由水の融解が観測されたDGMA10−BMA90、GMA70−BMA30、PEGMA5−BMA95、PEGMA10−BMA90、およびPEGMA20−BMA80を比較すると、GMA70−BMA30、およびPEGMA20−BMA80は、降温曲線上においても、水のみの測定のときと同様に−15℃から−20℃付近に自由水の凝固である放熱ピークが観測されたのに対して、PEGMA5−BMA95ではピークが観測されるものの−40℃まで低温にシフトしており、DGMA10−BMA90とPEGMA10−BMA90では放熱ピークは観測されなかった。PEGMA5−BMA95におけるピークの低温側へのシフトは、ポリエチレングリコール鎖と水分子との相互作用によって水分子が配列して結晶化することの安定性が低下したために結晶化する温度が低下したと理解できる。
従って、上に述べた水和状態の解析においてPEGMA5−BMA95に水和した水の89.1%というほとんどの水が自由水ではあったが、その自由水として計算された水和水は、他の共重合体の自由水と比べると高分子と強い相互作用をしていると考えられる。しかし、図5に示したようにFib吸着試験の結果では大きな吸着抑制効果は見られず、図10(2)に示したFib吸着量と不凍水との関係において大きく外れた挙動を示していないことから、Fib吸着量との相関性という点ではあくまで不凍水の量が重要であると考えられる。
またDGMA10−BMA90とPEGMA10−BMA90において吸熱ピークが観察されなかった理由としては、ピークがブロード化した可能性が考えられる。高分子鎖と水分子との相互作用が強く、水分子がうまく配列できず結晶化が長時間にわたった場合はピークがブロード化すると考えられ、DGMA10−BMA90とPEGMA10−BMA90に水和した水の中の自由水についても、他の共重合体と比較して高分子と強く相互作用している可能性が示唆された。
更にDGMA10−BMA90については、自由水として計算した昇温曲線上の吸熱ピークの低温側に伸びるブロードなショルダーピークが観測された。このショルダーピークは、中間水が存在する系において−40℃付近で低温結晶化した中間水が低温で融解を始めることで観測されると報告されているピークと類似している。一般的には、−40℃付近で低温結晶化する挙動が見られ、これが融解する挙動がショルダーピークとして現れるが、DGMA10−BMA90については低温結晶化に伴う発熱ピークが明確には見られなかったことから、中間水の存在は認められたものの、その量はDSC測定において測定可能な量ではなかったものと考えられる。
以上の結果から、DGMA10−BMA90に水和した水は、僅かな中間水であり、デンドリティックグリセロールと強く相互作用をしているということが示唆された。

Claims (8)

  1. 下記式(I)で表される親水性構造単位、および、下記式(II)で表される疎水性構造単位を有することを特徴とするグリセロールデンドロン共重合体。
    Figure 2021138876

    [式中、
    1とR6は、独立して、HまたはC1-6アルキル基を示し、
    2〜R5は、独立して、H、または下記式(III)で表される基を示し、
    Figure 2021138876

    (式中、R8とR9は、独立して、H、または式(IV)で表される基を示す。)を示し、
    7は、C2-12アルキル基を示し、
    1は単結合またはカルボニル基を示し、
    2は単結合、カルボニル基、またはエステル基を示す。]
  2. 1がカルボニル基であり、且つX2がエステル基である請求項1に記載のグリセロールデンドロン共重合体。
  3. 2〜R5が上記式(III)で表される基である請求項1または2に記載のグリセロールデンドロン共重合体。
  4. 8とR9がHである請求項1〜3のいずれかに記載のグリセロールデンドロン共重合体。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載のグリセロールデンドロン共重合体の溶液を用いて基材をコーティングする工程を含むことを特徴とするコーティング方法。
  6. 上記溶液に上記基材を浸漬する請求項5に記載のコーティング方法。
  7. 上記基材の少なくとも表面が疎水性高分子で構成されている請求項5または6に記載のコーティング方法。
  8. 下記式(V)で表されることを特徴とするグリセロールデンドロン単量体。
    Figure 2021138876

    [式中、
    1はHまたはC1-6アルキル基を示し、
    10〜R13は、独立して、H、下記式(VI)で表される基、または水酸基の保護基を示し、
    Figure 2021138876

    (式中、R14とR15は、独立して、H、式(VII)で表される基(式中、R16とR17は、独立して、H、または水酸基の保護基を示す。)、または水酸基の保護基を示す。)を示し、
    1は単結合またはカルボニル基を示す。]
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