JP4069358B2 - 第3級水酸基を有するビニル重合性モノマー - Google Patents
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Description
【発明の属する利用分野】
本発明は、第3級水酸基とビニル重合性官能基を有する新規なビニル重合性モノマー及びその製造方法に関する。また本発明は、該モノマーを単独重合又は種々のビニルコモノマーと共重合した第3級水酸基を有する、適度の反応性と親水性を併せ持つ新規機能性重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、水酸基を有するビニル重合性モノマーを重合すると、ポリマー側鎖に水酸基を導入することができ、ポリマーの親水性が向上することが知られている。また、その反応性を利用すると、さらに、多様な機能性官能基を導入することができる。例えば、第1級水酸基を有するメタクリル酸2−ヒドロキシエチルや第2級水酸基を有するメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルの共重合体は、塗料や医療用材料として広く用いられており、その第1級又は第2級水酸基に由来する親水性や反応性が利用されている。
【0003】
しかし第1級又は第2級水酸基を有するポリマーは、その水酸基の反応性が高いため不都合を生じる場合もある。例えば、ポリウレタン塗料は、塗料用樹脂を含む主剤とポリイソシアネートを含む硬化剤を使用直前に混合する二液型が広く用いられているが、硬化剤のイソシアネート基の反応性が非常に大きいため、主剤と硬化剤を混合後、イソシアネート基と塗料用樹脂の第1級又は第2級の水酸基との反応が速やかに進行してしまい、塗料としてのポットライフ(可使時間)が短いという欠点がある。
【0004】
また、親水性の高い単独重合体は、水に溶解したり、膨潤したりする性質を有しており、水系での利用に際しては、疎水性単量体との共重合が実用上必須である。親水性を向上させるためには、親水性官能基を数多く含むことが必要であるが、第1級又は第2級の水酸基数が増大するにしたがって溶解や膨潤を起こし、接触する水系へのポリマー溶出、塗膜表面外観の悪化、塗膜の機械強度の低下など、水系での利用の際に十分な性能が得られないことが問題となっている。
【0005】
一方、第3級水酸基を有するビニル重合性化合物としては、ヒドロキシアダマンタンのモノエステル誘導体が特公平7−061980公報などに開示されている。しかしこれらは高価な上に、分子内に第3級水酸基由来のエステル結合を有しているため、その熱安定性、耐加水分解性が悪く、大きく用途が限定されていた。また現状では、この重合体は、アダマンタン構造に由来する高耐熱性、高屈折率という特性は知られているものの、第3級水酸基に注目した特性は見いだされていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明では、上記課題を解決するために、適度な反応性と親水性をポリマーに付与することのできる新規ビニル重合性単量体、及びその重合体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第3級水酸基を有する新規ビニル重合性モノマーを重合したビニルポリマーが適度な反応性と親水性を有していることを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を特徴とするものである。
(1)下記一般式(I)で表される、ビニル重合性基と第3級水酸基を有する新規ビニル重合性モノマー。
【0009】
【化4】
(式中、Xは下記一般式( II )で示されるビニル重合性官能基を示し、R 1 、R 2 はそれぞれ同一又は異なる炭素数1から4のアルキル基である。)
【0010】
【化5】
(式中、R 3 は、メチル基又は水素原子、R 4 は繰り返し単位毎に独立にメチル基又は水素原子を示し、nは2から6の整数である。)
【0011】
(2)下記式( III )で表されるエチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレートである(1)に記載のビニル重合性モノマー。
【0012】
【化6】
【0013】
(3)第3級水酸基原料(B)として、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸エステルを用いることを特徴とする請求項(1)又は(2)に記載のビニル重合性モノマーの製造方法。
【0017】
(4)生体や血液と直接接触する表面部分が、全モノマー成分に対して5〜100モル%の、(1)〜(3)に記載のビニル重合性モノマーの少なくとも一種を含む第一のモノマー成分と、全モノマー成分に対して0〜95モル%の前記ビニル重合性モノマー以外のビニルコモノマーを少なくとも一種含む第二のモノマー成分とを重合することによって得られる、第3級水酸基を有する重合体で構成されていることを特徴とする医療用材料。
【0018】
(5)前記重合体の、繰り返し単位の5〜100モル%が第一のモノマー成分由来の単位であり、0〜95モル%が第二のモノマー成分由来の単位である(4)に記載の医療用材料。
【0019】
(6)前記重合体が、180℃において、第3級水酸基を有する多価アルコール化合物が重合体から脱離しないものである(4)又は(5)に記載の医療用材料。
【0020】
(7)前記重合体が、ポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜100000の範囲で、水酸基価が50〜300mgKOH/g、全水酸基中の第3級水酸基の割合が5モル%以上100モル%以下のものである(4)〜(6)のいずれかに記載の医療用材料。
【0021】
(8)前記重合体がヒドロゲルである(4)又は(5)に記載の医療用材料。
【0022】
(9)前記重合体の、含水平衡時の重量をW0とし、乾燥時の重量をW1としたときの下記式で示す含水率が10〜90重量%である(8)に記載の医療用材料。
含水率(重量%)={(W0−W1)/W0}×100
【0023】
(10)表面部分の25℃における純水との静的接触角が30度〜80度であることを特徴とする(4)に記載の医療用材料。
【0024】
本発明の一般式(I)で表されるビニル重合性モノマーは、(1)分子内に1つ以上の第3級水酸基を有し、かつ(2)ビニル重合性官能基を分子内に1つ以上有しており、(3)分子内に第3級炭素に隣接したエステル結合が存在しないという構造上の特徴を有しており、ビニル重合性官能基の由来となる原料Aと第3級水酸基の由来となる原料Bとの反応により合成される。
上記原料Aと原料Bの結合の形態は、エステル結合、エーテル結合又は酸無水物結合などが考えられるが、反応の容易さからエステル結合が特に好ましい。
【0025】
本発明のモノマー製造の原料Aとなる一般式(II)で表されるビニル重合性モノマーには、不飽和カルボン酸誘導体やスチレン誘導体、ビニルエーテル類、アリル化合物など様々な種類があり、いずれも水酸基やエステル基、カルボキシル基などの反応性官能基を有していれば、第3級水酸基を有するモノマーへと誘導することができるが、その重合性や入手の容易さ、合成の容易さを考えると、第1級水酸基又は第2級水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルやヒドロキシスチレン類、ヒドロキシアルキルビニルエーテル類、カルボン酸ビニル化合物が好ましい。
【0026】
原料Aとなる第1級水酸基又は第2級水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルとしては特に限定されるものではないが、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、モノ(メタ)アクリル酸グリセロール、ジ(メタ)アクリル酸グリセロール、2−(メタ)アクリロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリコールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物類又はカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。入手の容易さから、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。
【0027】
その他の原料Aとしては、ヒドロキシスチレン類やヒドロキシアルキルビニルエーテル類、カルボン酸ビニル化合物を用いることができる。一般的に入手が容易な化合物としてはビニルベンジルアルコールや4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、酢酸ビニルがなど挙げられる。
【0028】
本発明のモノマー製造時における他方の原料である、原料Bとなる化合物には、第3級水酸基を有するオキシ酸又は第3級水酸基を有するオキシ酸エステル、オキシ酸ハライドがあり、第3級水酸基を与えるオキシ酸として2―ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル吉草酸、3−ヒドロキシ−3−メチル吉草酸、2−ヒドロキシ−2−メチル吉草酸、3−ヒドロキシ−3−メチル吉草酸又は4−ヒドロキシ−4−メチル吉草酸などが挙げられる。
光学異性体の存在するものは、何れを用いてもよく、混合物を用いてもよい。また、これらのハライド化合物も用いることができる。入手の容易さから、好ましくは2−ヒドロキシイソ酪酸である。
好ましい第3級水酸基を有するビニル重合性モノマーとして、化学式(III)で表されるエチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレートが挙げられる。
【0029】
さらに、第3級水酸基を与えるオキシ酸エステルとしては、例えば2―ヒドロキシイソ酪酸メチル、2―ヒドロキシイソ酪酸エチル、2―ヒドロキシイソ酪酸アリル、2―ヒドロキシイソ酪酸ブチル、2―ヒドロキシイソ酪酸ヘキシル、2―ヒドロキシイソ酪酸−2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸メチル、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチル吉草酸メチル、3−ヒドロキシ−3−メチル吉草酸メチル又は4−ヒドロキシ−4−吉草酸メチルなどが挙げられる。
光学異性体の存在するものは何れを用いてもよく、また混合物を用いてもよい。入手の容易さから、好ましくは2−ヒドロキシイソ酪酸メチルである。好ましい第3級水酸基を有するビニル重合性モノマーとして、化学式(III)で表されるエチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレートが挙げられる。
【0030】
ビニル重合性基原料(A)と第3級水酸基原料(B)との特に好ましい組み合わせは、以下の通りである。
(1)第3級水酸基原料(B)として第3級水酸基を有するオキシ酸又はオキシ酸エステルを、ビニル重合性基原料(A)としてヒドロキシスチレン類又はヒドロキシアルキルスチレン類を用いエステル化反応又はエステル交換反応するスチレン系ビニル重合性モノマーの製造方法。
(2)第3級水酸基原料(B)として、第3級水酸基を有するオキシ酸又はオキシ酸エステルを、ビニル重合性基原料(A)としてヒドロキシアルキルビニルエーテルを用い、エステル化反応又はエステル交換反応するビニルエーテル系ビニル重合性モノマーの製造方法。
(3)第3級水酸基原料(B)として、第3級水酸基を有するオキシ酸又はオキシ酸エステルを、ビニル重合性基原料(A)としてカルボン酸ビニル類を用い、エステル交換反応するビニルエステル系ビニル重合性モノマーの製造方法。
【0031】
本発明における原料Aの第3級水酸基を有するビニル重合性原料と、第3級水酸基の由来となる原料Bとの結合を形成する反応は、原料100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜1重量部の触媒の存在下に実施される。触媒は、特に限定されるものでないが、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、錫、亜鉛、鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、コバルト、クロム、鉄、銅等の金属及び有機金属化合物、有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、ヒドロキシドなどの金属化合物、有機スルホン酸、あるいはナトリウムメトキシド、リチウムメトキシド、アルミン酸ナトリウム、カチオン型イオン交換樹脂、ゼオライト類、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、ベントナイト、モンモリロナイト又は活性白土などの固体酸などが挙げられる。
【0032】
反応は、上記触媒の存在下、温度40〜250℃、好ましくは50〜150℃で生成するアルコール、水などを除去して行う。圧力は、大気圧以上でも大気圧以下でも行えるが、反応が進行するに従って大気圧以下で行うのが好ましく、特に好ましくは300mmHg以下で行う。また、生成するアルコール、水などを除去容易にするため、アルコールや水と共沸する溶媒を共存させてもよい。
本発明の分子内に第3級水酸基を有するビニル重合性モノマーの製造方法では、環状エステルやオキシ酸の環状2量体を開環させる工程を含んでよい。開環反応は、上記の触媒を用いてもよく、40〜250℃、好ましくは80〜150℃で行う。
【0033】
本発明で得られる第3級水酸基を有するビニル重合性モノマーは、ラジカル重合、アニオン重合、配位アニオン重合など公知の重合法を用いて単独重合、又は種々のビニルコモノマー類と容易に共重合することが出来る。
【0034】
一般式(I)で表される第一のモノマー成分と共重合可能な第二のモノマー成分であるビニル重合性コモノマーとしては不飽和カルボン酸又はそのエステル化合物、スチレン、スチレン誘導体、共役ビニル化合物又はα―オレフィンから1種類以上が選択されるが、使用の目的に応じてその種類や含量を選択することができ、数種を組み合わせて用いても良い。例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、また2−(メタ)アクロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのリン脂質類似官能基を有する(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、スチレン、α―メチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクロレイン、メタクロレインなどのビニル化合物、エチレンやプロピレンなどのα−オレフィン類、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−置換マレイミド類、アクリルアミド類、ビニルピロリドン類、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。また多官能性単量体として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートやポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類やジビニルベンゼンなどの多官能性オレフィンなどが挙げられる。
【0035】
またその重合体の形態は、ランダム重合体、グラフト重合体、ブロック共重合体、ヒドロゲルなどが例示できるがこれらに限定されるものではなく、またどんな形態であっても第3級水酸基に由来する適度な反応性と親水性という特徴が失われるものではない。モノマー組成の割合は使用する目的によって適宜調整すればよいが、第3級水酸基の特徴を発揮するため、一般式(I)の第一のモノマー成分は、全モノマー成分に対して5モル%以上100モル%以下用いるのが好ましい。これら重合体自体を成形加工して用いることもできるし、溶剤に溶解して塗布し、表面のみを改質することもできる。またこれら重合体を既存の樹脂にブレンドして用いることもできる。
【0036】
本発明における重合体の製造時には、上記モノマー成分と開始剤のみを用いて塊状重合することもできるし、適当な溶媒を用いて溶液重合したり、懸濁重合や乳化重合を適用することもできる。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類やTHF、DMF、ジメチルスルホキシド、トルエン、アセトンなどの有機溶媒又は水などを単独で、またそれらを組み合わせて任意の割合で混合して用いることができる。必要ならば、連鎖移動剤を用いることもできる。さらに、要求に応じて抗酸化剤、紫外線吸収剤、滑剤、流動性調節剤、離型剤、耐電防止剤、光拡散剤などの添加剤やガラス繊維や炭素繊維又は粘土化合物などの無機フィラーを、適宜、添加することもできる。
【0037】
本発明により提供される重合体は、第3級水酸基を有するために適度な反応性と親水性を兼ね備えた重合体であるという特徴を有するほかに、第3級水酸基由来のエステル結合を分子内に有しないことも大きな特徴である。すなわち現在までに知られている第3級水酸基を有する重合体は、ピナコール誘導体、もしくはヒドロキシアダマンタン誘導体から合成されるものであり、多価アルコール類が第3級水酸基に由来するエステル結合によって結合した構造を持つ。このことにより加熱時に多価アルコール類が脱離する特徴があった。この脱離反応はおおよそ180℃から顕著になる傾向があるが、樹脂成型時においては180℃を上回る温度で成形される場合がほとんどであり、多価アルコールの脱離は、樹脂の機械強度の低下、色調の悪化、成形不良を引き起こす原因となるので好ましくない場合があった。本発明により提供されるモノマーからなる重合体は、第3級水酸基に由来するエステル結合を有しないため、上記問題点を回避することが可能となる。
【0038】
本発明の重合体は、適度な反応性と親水性を有した機能性樹脂であることから、得られるポリマーは、各種成形体、フィルム、シート、繊維、粘着剤、接着剤、塗料、人工大理石、導光板、光ファィバー、緩衝材や食品トレイなどの発泡体、コンタクトレンズや人工血管、カテーテル、血液浄化膜、歯科材料などの医療材料、微生物や菌体、薬理活性物質などの担体、マイクロカプセル、化粧品基材、インキ、繊維処理剤、紙処理剤、木材処理剤、逆浸透膜材料、各種バインダー用樹脂など種々の用途に用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、成形時に、その用途に応じて各種の成形助剤、例えばフィラー、着色剤、補強剤、ワックス類、熱可塑性ポリマー、オリゴマーなどを併用することもできる。
【0039】
さらに、本発明によって提供される重合体は、既存のポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)と同様、重合体内に水を含有する、ヒドロゲルとしての用途に適する。ヒドロゲルの製法については公知の技術を用いることができる。その含水率は共重合種とその組成割合にも大きく影響され、任意に調整することが可能であるが、10%〜90%であるものが一般的に最もよく用いられており、コンタクトレンズ、菌体や微生物、薬理物質などの担体、金属捕集剤、化粧品基材などの幅広い用途に用いることができる。
【0040】
本発明によって提供される重合体は、適度な親水性を示すことから、生体や血液と直接接触する表面部分を本発明の重合体で構成すると優れた生体適合性を示す。特に血液適合性については、元来シリコーンなどの疎水性材料が血栓を生じにくく、疎水性が高いほど抗血栓性を示すと考えられていたが、親水性ポリマー鎖をグラフトした表面は血液との界面エネルギーが小さくなり、タンパク質あるいは細胞との相互作用が小さくなることわかり、親水性表面も血栓の付着を抑制することがわかっている。しかし親水性表面は、微少な血栓が塞栓を引き起こしたり、循環血小板に損傷を与えたり、カルシウムイオンの沈着を引き起こし、血栓形成の引き金となりうる場合がある。
よって材料の親水性、疎水性と生体適合性については、そのバランスが重要であり、一般的に表面部分の25℃における純水との静的接触角が30°以上70°以下であると生体適合性に優れると言われている。本発明により提供されるモノマーを用いた重合体は25℃における純水との静的接触角が30°以上80°以下であるため有用であり、さらに既存の代表的な親水性モノマーである2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの重合体に比べて水溶性が低いため、接触する水系へのポリマー溶出、表面外観の悪化、機械強度の低下などを引き起こしにくい利点がある。
【0041】
また本発明によって提供される重合体は、適度な反応性を示すことから、各種塗料のポリオール成分として、特にイソシアネート硬化型塗料のポリオールとして用いたときに、第3級水酸基の含量を調節することによりポットライフを任意の長さの調節が可能である。また硬化反応の速度を抑制することでき、表面に平滑性の付与が可能となる。塗料用のポリオール成分として使用するポリマーは特に限定されないが、ポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜100000の範囲で、水酸基価が50〜300mgKOH/gであるものが最も一般的であり、全水酸基中の第3級水酸基の割合が5モル%以上100モル%以下であるものを用いると、第3級水酸基の反応性に起因するポットライフ延長効果、または表面平滑効果の特徴が発現する。
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
実施例1
撹拌機、分留コンデンサー、温度計、ガス導入管を備えた1000mL反応器に2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)130g(1.0モル)、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル(HBM)130g(1.1モル)、テトライソプロピルチタネート(TPT)1.3g(0.5%)、重合禁止剤としてアンテージW−400(2、2−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール、川口化学工業(株)製)0.25gを仕込み、空気を8mL/minの速度で吹き込みながら反応させた。3.5時間かけて、反応温度を80℃から除々に上げていき、反応液温度が138℃になってメタノールが留去し始め、その後、1時間半で反応を終了とし、橙色の反応液250gと留出液7.9gを得た。反応液をガスクロマトグラフの内標法で定量したところ、2−HEMA基準での転化率は72モル%で、収率56モル%であった。反応液250gに蒸留水250mLとクロロホルム500mLを加え、分液ロートで抽出操作を4回行い、クロロホルム層をエバポレータ−で留去し、淡黄色の液体109gを得た。全収率は、50重量%であった。GC−MAS(ガスクロマトグラフ付き質量分析法)、1H−NMR及び13C−NMRで分析した結果、生成物がエチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレートであることを確認した(純度98重量%)。1H−NMRおよび13C−NMRのスペクトルと帰属を図1および図2に示す。
【0043】
実施例2
実施例1と同じ反応器にパラビニルベンジルアルコール134g(1.0モル)、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル130g(1.1モル)、テトライソプロピルチタネート1.3g(0.5%)、重合禁止剤としてアンテージW−400(川口化学工業(株)製)0.25gを仕込み、空気を20mL/minの速度で吹き込みながら80〜100℃で4時間反応しメタノールを留出させた。つづいて200〜150mmHgで8時間脱メタノール反応を進行させ、徐々に減圧度を増して、さらにメタノールと未反応原料を留出させた。反応液をガスクロマトグラフの内標法で定量したところ、転化率は70%モル、収率45モル%であった。反応液250gに蒸留水250mLとヘキサン/トルエン混合溶媒500mLを加え、分液ロートで抽出操作を4回行い、有機層を精留して目的とする淡黄色液体85g(純度95重量%)を得た。
生成物がパラビニルベンジルアルコール2−ヒドロキシイソブチレートであることをGC−MASで確認した。
【0044】
実施例3
実施例1と同じ反応器に4−ヒドロキシブチルビニルエーテル116g(1.0モル)、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル130g(1.1モル)、テトライソプロピルチタネート1.3g(0.5%)を仕込み、80〜100℃で4時間反応しメタノールを留出させた。つづいて200〜150mmHgで8時間脱メタノール反応を進行させ、徐々に減圧度を増して、さらにメタノールと未反応原料を留出させた。反応液をガスクロマトグラフの内標法で定量したところ、転化率は79モル%、収率59モル%であった。反応液250gに蒸留水250mLとクロロホルム500mLを加え、分液ロートで抽出操作を4回行い、クロロホルム層を精留して目的とする淡黄色液体88g(純度90重量%)を得た。
生成物が4−ヒドロキシブチルビニルエーテル2−ヒドロキシイソブチレートであることをGC−MASで確認した。
【0045】
実施例4
実施例1と同じ反応器に酢酸ビニル116g(1.0モル)、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル130g(1.1モル)、テトライソプロピルチタネート1.3g(0.5%)を仕込み、60℃から80℃で6時間反応させ酢酸メチルを留出させた。つづいて200〜150mmHgで8時間反応を進行させ、酢酸メチルと未反応原料を留出させた。反応液をガスクロマトグラフの内標法で定量したところ、転化率は60%、収率49モル%であった。反応液250gを精留して目的とする淡黄色液体65g(純度88重量%)を得た。
生成物が2−ヒドロキシイソ酪酸ビニルであることをGC−MASで確認した。
【0046】
分子内に第3級水酸基を有するビニル重合性単量体を重合して得られる重合体
実施例5
撹拌機、冷却管、温度計を備えた200mLガラス製反応容器にモノマーとしてエチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレート(HBHEMA)を81g、連鎖移動剤としてドデカンチオール(DSH)を0.12g、重合開始剤として2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(ABN−E)を0.3g、溶媒としてメタノールを60g混合し、65℃にて3時間重合した。重合液をジイソプロピルエーテルに滴下してポリマーを沈殿させ、減圧乾燥した。重合は均一に進行し、得られたポリマーはメタノール、アセトン、THFなどの有機溶剤に完全に溶解した。
ポリマーの収率を重量法によって求め、分子量はTHFを展開溶媒としてGPCによりポリスチレン換算で求めた。重合体の親水性の指標となる静的接触角は、得られた重合体をエタノール/テトラヒドロフラン混合溶媒に溶解し、ガラス基板上にキャストし乾燥したサンプルを用いて協和界面科学製接触角計CA−X型で測定した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例6
HBHEMAを54g、MMAを25g混合しモノマーとして用いた以外は実施例5と同様にして合成した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例7
HBHEMAを12g、MMAを5.6g混合しモノマーとして用いた以外は実施例5と同様にして合成した。結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
MMA50gをモノマーとして用い、溶媒としてトルエンを用いた以外は実施例5と同様にして合成した。 結果を表2に示す。
【0050】
比較例2
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)50gをモノマーとして用いた以外は実施例5と同様にして合成した。結果を表2に示す。
【0051】
比較例3
HEMAを32.5g、MMAを25g混合しモノマーとして用いた以外は実施例5と同様にして合成した。結果を表2に示す。
【0052】
比較例4
HEMAを7.5g、MMAを52g混合しモノマーとして用いた以外は実施例5と同様にして合成した。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
ヒドロゲルの合成
実施例8
HBHEMA11.3g、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.1gを秤量し、これらを均一に混合したのち、これにABN−E0.01gを加えて内径が20mmのポリプロピレン製管状容器内に入れた。
ついで容器内を減圧下脱気した後、40℃の恒温水槽中で4時間重合させ、さらに50℃で4時間、60℃で4時間加熱したのち、乾燥機中で60〜130℃まで12時間かけて徐々に昇温して直径約20mmの重合体を得た。
得られた重合体を切削加工して試験片を作製、含水平衡時の試験片の重量(W0(g))と、これを乾燥させた試験片の重量(W1(g))とを測定し、次式にしたがって含水率(重量%)を求めた。結果を表3に示す。
含水率(重量%)={(W0−W1)/W0}×100
【0056】
実施例9〜11、および比較例5〜8
メタクリレート組成を表3および表4に示すように変更したほかは、実施例8と同様にして重合を行なって棒状の重合体をえた。同様に作製した試験片の含水量について表3および表4に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
第3級水酸基含有塗料用樹脂の合成
実施例12
撹拌機、冷却管、温度計を備えた5000mLの反応器にキシレン1600g、酢酸ブチル400gを仕込み、85℃に昇温し、そこへスチレン500g、メタクリル酸メチル500g、アクリル酸−n−ブチル280g、メタクリル酸−n−ブチル420g、エチレングリコールモノ(2−ヒドロキシイソブチレート)モノメタクリレート118g、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル168g、アクリル酸14g、α、α’−アゾビスイソブチロニトリル24gの混合物を3時間にわたって連続滴下し、重合反応を行った。
滴下終了後、2時間加熱撹拌し、α、α’−アゾビスイソブチロニトリル10gを添加して更に3時間加熱撹拌した。エバポレーターを用いて溶媒を除き、塗料用樹脂Aを1812g得た。得られた樹脂Aの性状は水酸基価50mgKOH/g、酸価6mgKOH/gであった。樹脂A75重量部に対してトルエン25重量部を加えてワニスAを得た。
【0060】
比較例9
実施例12の滴下するモノマーと開始剤の混合物をスチレン500g、メタクリル酸メチル400g、アクリル酸−n−ブチル380g、メタクリル酸−n−ブチル420g、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル240g、アクリル酸14g、α、α’−アゾビスイソブチロニトリル24gの混合物に替えたこと以外は実施例4と同様の反応を行い、塗料用樹脂Bを1770g得た。
得られた樹脂Bの性状は水酸基価52mgKOH/g、酸価5mgKOH/gであった。樹脂B75重量部にトルエン25重量部を加え、ワニスBを得た。
【0061】
表5に示すような割合で、ワニスAあるいはワニスBに、ルチル型二酸化チタン顔料(「CR−90」石原産業(株)製)を混合し二酸化チタンを分散させた後、硬化剤(「DN−980」大日本インキ化学工業(株)製)とレベリング剤(「BYK−301」ビックケミー・ジャパン社製)を加えてエナメル塗料を調合した。得られた塗料はドクターブレードを用いて化成処理鋼板に上に膜厚15〜20μmとなるように塗装した。塗膜の評価結果を表5に示す。
【0062】
【0063】
上記評価は以下の試験条件で測定した。
(1)水酸基価:JIS K−0070に準じて測定した。
(2)酸価:JIS K−8400に準じて測定した。
(3)ポットライフ:塗料用樹脂含有溶液と硬化剤とを混合後、初期粘度の2倍の粘度になるまでの時間を測定した。
(4)60度鏡面反射率:JIS K−5400に準じて測定した。
(5)エリクセン値:JIS K−5400に準じて測定した。
(6)鉛筆硬度試験:JIS K−5400に準じて測定した。
(7)ラビング試験:トルエンをしみ込ませたガーゼで塗膜面を100回払拭した後、目視で塗膜の状態を観察した。(○;変化無し、×;一部溶解)
上記テストの結果、本発明で得られる第3級水酸基含有モノマーをワニス原料の一成分として用いることにより塗膜性能を維持したまま、ポットライフを3倍以上に延長できることがわかった。
【0064】
【発明の効果】
本発明においては、先のビニル重合性基(X)の由来となる化合物と第3級水酸基の由来となる化合物との反応によって、ビニル重合性基(X)と第3級水酸基を有する一般式(I)の新規ビニル重合性モノマーを得る。該モノマーは親水性や適度な反応性を有するので、各種ビニルモノマーとの共重合することによって得られるポリマーは、各種成形体、フィルム、シート、繊維、粘着剤、接着剤、塗料、人工大理石、導光板、光ファイバー、緩衝剤や食品トレイなどの発砲体、コンタクトレンズや人工血管、カテーテル、血液浄化膜、歯科材料などの医療材料、微生物や菌体、薬理活性物質などの担体、マイクロカプセル、化粧品基材、インキ、繊維処理剤、紙処理剤、木材処理剤、逆浸透膜材料、各種バインダー用樹脂など種々の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は実施例1で得られたビニル重合性モノマーの1H―NMRスペクトルを表すチャートである。
【図2】 図2は実施例1で得られたビニル重合性モノマーの13C―NMRスペクトルを表すチャートである。
Claims (10)
- 第3級水酸基原料(B)として、2−ヒドロキシイソ酪酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸エステルを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のビニル重合性モノマーの製造方法。
- 生体や血液と直接接触する表面部分が、全モノマー成分に対して5〜100モル%の、請求項1〜3に記載のビニル重合性モノマーの少なくとも一種を含む第一のモノマー成分と、全モノマー成分に対して0〜95モル%の前記ビニル重合性モノマー以外のビニルコモノマーを少なくとも一種含む第二のモノマー成分とを重合することによって得られる、第3級水酸基を有する重合体で構成されていることを特徴とする医療用材料。
- 前記重合体の、繰り返し単位の5〜100モル%が第一のモノマー成分由来の単位であり、0〜95モル%が第二のモノマー成分由来の単位である請求項4に記載の医療用材料。
- 前記重合体が、180℃において、第3級水酸基を有する多価アルコール化合物が重合体から脱離しないものである請求項4又は5に記載の医療用材料。
- 前記重合体が、ポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜100000の範囲で、水酸基価が50〜300mgKOH/g、全水酸基中の第3級水酸基の割合が5モル%以上100モル%以下のものである請求項4〜6のいずれかに記載の医療用材料。
- 前記重合体がヒドロゲルである請求項4又は5に記載の医療用材料。
- 前記重合体の、含水平衡時の重量をW0とし、乾燥時の重量をW1としたときの下記式で示す含水率が10〜90重量%である請求項8に記載の医療用材料。
含水率(重量%)={(W0−W1)/W0}×100 - 表面部分の25℃における純水との静的接触角が30度〜80度であることを特徴とする請求項4に記載の医療用材料。
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