JP2021112127A - 膵β細胞の傷害検査方法 - Google Patents
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Abstract
Description
糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病に大別され、1型糖尿病は膵β細胞が死滅するため、インスリンが産生されなくなる疾患である。2型糖尿病は、インスリンの効果が減弱したり、分泌のタイミングが遅れ、患者に膵β細胞傷害が進行する疾患であって、肥満・運動不足・ストレスなど環境因子の増悪を契機に発症し、疾患感受性遺伝子変異の集積した人に起こりやすい。
特に、1型糖尿病は、主に自己免疫応答によって、膵β細胞特異的に細胞死が誘導され、80%以上の膵β細胞が傷害をうけた結果、高血糖に至り診断される。そこで、1型糖尿病の早期診断、早期治療を行い、β細胞機能を少しでも保護することが求められている。その早期発見のために、膵島関連自己抗体であるGAD抗体やIA−2抗体等の検出が行われている。しかし、これらの抗体はその抗体価による重症度分類はできず、膵β細胞傷害の程度を反映するものでないことが課題であった。このため、膵β細胞の死滅の状況を的確に検出する方法が不可欠となっている。
また、1型糖尿病の根治医療として膵臓移植あるいは膵島移植が行われているが、移植された膵臓や膵島は拒絶反応を起こしやすく、また自己免疫応答の再燃が生じる危険もある。現在は血清アミラーゼの上昇や血糖値の上昇など間接的指標によりグラフト傷害を診断しているため、適切な免疫抑制治療の強化が行えずグラフト喪失に至る場合が多い。このことからも、直接的な膵β細胞傷害の臨床的指標が望まれている。
そこで、血液中を循環するゲノムDNAの中に含まれる膵β細胞由来の遊離DNA(cfDNA:cell−free DNA)の検出を検討した。β細胞が死滅すれば、β細胞由来のDNAが体内に放出され、血液に流入して、血液中を循環することになるからである。
現在、膵β細胞由来のcfDNAを効率的に検出するために、DNAのメチル化の有無に着目した研究が進められている(非特許文献1、2)。膵β細胞がインスリンを選択的に分泌していることから、インスリンの産生に係るDNA領域は、他の体細胞と比べてCpGのメチル化が少ないことが報告されている。特に、図1に示されるように、インスリンのプロモーター領域のメチル化の割合は、膵β細胞特異的にきわめて低いと報告されている(非特許文献3)。
しかし、非特許文献1−5の方法はCpG配列のメチル化状態を検討する部位が少ないため特異性が低く、非特許文献6の方法の検査費用は高額であり、臨床検査で汎用することは困難である。それ故、臨床検査に使用するために、より簡便で安価かつ特異性の高い方法が強く求められている。
しかし、これらの方法では、所望の位置のメチル化と非メチル化のデータの識別が困難であり、その識別操作に時間が掛かり、高額の機器を使用する等のことがあり、汎用と言えないものである。また、既知の膵β細胞由来のcfDNA検出方法(非特許文献1〜5)でも方向性は示されているが、実際にその方法を追試しても偽陽性を排除することが困難であり、臨床検査方法として、簡易で安価に使用できるものではなかった。
従来、健常人と患者(1型糖尿病患者や膵島移植患者など)の識別が困難であり、PCR法の更なる改良が必要であった。本発明者らは、種々検討の結果、色々なPCR法の中でも膵β細胞由来の非メチル化DNAの定量性を向上させるためには、ARMS(amplification refractory mutation system)−PCR法を適用し、2段階で遺伝子増幅することが好ましいことを見出した。
ARMS法のプライマーとして、更に種々検討の結果、多くのプライマーの組合せの中から、第一段階のプライマーとしては、次の表1のプライマーセットが最も適切であることを見出した。
(1)被験者の血中cfDNAの中の膵β細胞由来のインスリン遺伝子の検出方法であって、
a)2段階のARMS−PCR法でインスリン遺伝子エクソン2領域の遺伝子増幅を行い、
b)第一段階で次のプライマーセットを使用し、
Forward側:5‘−TAGTTTTTGTGAATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号1)、
Reverse側:5‘−CCTACAAATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号2)、
c)第二段階で次のプライマーセットを使用する
Forward側:5‘−TTTGGTGGAAGTTTTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号3)、
Reverse側:5‘−AATCTTAAATATATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号4)、
ことを特徴とする、膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。
(2)上記2段階のARMS−PCR法に先立ち、インスリン遺伝子cfDNAのエクソン2領域(+301〜+429部分)の遺伝子増幅を次のプライマーセットで行う
Forward側:5‘−AGTTGTAGTTTTTGTGAATTAATATTTG−3’(配列番号5)、
Reverse側:5‘−TCACCCTACAAATCCTCTACC−3’(配列番号6)、
ことを特徴とする、上記(1)に記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。
(3)第一段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−AATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号7)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号8)の塩基配列である、
第二段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−TTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号9)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号10)の塩基配列である
ことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。
(4)2段階のARMS−PCR法において、第一段階のPCRを15サイクルで行い、第二段階のPCRを40回で行うことを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。
(5)血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するための2段階ARMS−PCR法のプライマーセットであって、
a)第一段階のプライマーセットとして、
Forward側が、5‘−TAGTTTTTGTGAATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号1)の塩基配列であり、
Reverse側が、5‘−CCTACAAATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号2)の塩基配列である、
b)第二段階のプライマーセットとして、
Forward側が、5‘−TTTGGTGGAAGTTTTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号3)の塩基配列であり、
Reverse側が、5‘−AATCTTAAATATATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号4)の塩基配列である
ことを特徴とする、プライマーセット。
(6)血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するための2段階ARMS−PCR法のプライマーセットであって、
a)第一段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−AATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号7)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号8)の塩基配列である、
b)第二段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−TTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号9)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号10)の塩基配列である
ことを特徴とする、上記(5)に記載のプライマーセット。
(7)血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するために、ヒトインスリン遺伝子のエクソン2領域の遺伝子配列(+301〜+429)を増幅するためのプローブであって、
Forward側:5‘−AGTTGTAGTTTTTGTGAATTAATATTTG−3’(配列番号5)、
Reverse側:5‘−TCACCCTACAAATCCTCTACC−3’(配列番号6)、
であることを特徴とする、プライマーセット。
(8)以下のa)、b)から、少なくともa)を含む、血中の膵β細胞インスリン遺伝子由来のcfDNAを検出方法するための試薬又はキット。
1)上記(5)又は(6)に記載のプライマーセット
2)上記(7)に記載のプライマーセット
本発明のプライマーセットを用いた検出方法で、膵β細胞インスリン遺伝子に由来するcfDNAが検出できることは、膵β細胞が損傷を受け、膵β細胞に由来する遺伝子がcfDNAとして血液中に流出していることを表している。従って、本発明の検出方法を用いることにより、膵β細胞の損傷の様子をモニターすることができる。また、本発明の検出方法は、これまでの公知の次世代シークエンサー法と比較し、技術的に汎用されているPCR法を使用するものであり、そのため安価な検出方法となっている。
本発明では常法により、血清中のcfDNAを採取し、バイスルファイト処理を行って非メチル化シトシンをウラシルに変換する。そのことにより、膵β細胞インスリン遺伝子由来のDNAの非メチル化シトシンはチミン(T)に変換され増幅されているので、CとTの相違の識別が容易になる。その後、検体に含まれるDNAコピー数が大変少量であるためバイスルファイト処理を行ったDNAのPCRによる遺伝子増幅をARMS−PCRの前に行っている。
本発明の「ARMS−PCR法」とは、常法のARMS(Amplification Refractory Mutation system)法のことをいう。ARMS−PCR法では、3’末端をミスマッチのない塩基として設定し、3’末端から2塩基目にメチル化が入っているシトシン(C)と非メチル化シトシン由来のチミン(T)が来るように設定する。また、プライマーがミスマッチを起こして、PCRが起こらなくなるように、更に5’側にもう1塩基のミスマッチを作る。このことにより、塩基1個のミスマッチである場合には、PCRの増幅が起こるが、塩基2個のミスマッチがあれば、PCRが増幅しない。このような遺伝子増幅システムがARMS−PCR法というものである。
本発明のエクソン2領域を遺伝子増幅する「プライマーセット」とは、本発明の場合、+301〜+429部分のDNA領域を増幅するものであるが、これを含む領域を増幅するためのプライマーであれば使用可能である。それ故、本発明で記載したプライマーセットに限定されるものではない。
血中にエクソソーム等の形で微小量循環する膵β細胞のインスリン遺伝子を検出するため、まず、被験者の血液から、膵β細胞のインスリン遺伝子のエクソン2部分の遺伝子を増幅して採取することを行った。
(1)方法
a)cfDNAの採取とバイスルファイト処理:
被験者から採血し、血清分離のために30分以上室温で保存する。血清を4℃ 1350Gで12分遠心し、上清を新たな15mLチューブに移す。さらに血清を4℃ 3000Gで12分遠心して上清(約3mL)を1mLずつ分注した。血清1mLより、BIOO SCIENTIFIC CORRPORATION社のNextPrep―Mag cfDNA Isolation Kitを用いてcfDNAを精製、12μLで溶出した。溶出液10μLを用いてinnuCONVERT Bisulfite Basic Kit(Analytik Jena社)を用いてバイスルファイト処理を行い、50μLにて溶出した。
b)膵β細胞のインスリン遺伝子のエクソン2部分の増幅:
上記溶出液を用いて、cfDNAのインスリン遺伝子のエクソン2部分をCpGのメチル化の有無にかかわらず、遺伝子増幅した。PCRの機材はBIO−RAD社のT100TMThermal Cyclerを使用した。
QIAGEN推奨プロトコール (cat.Nos.203643)に基づき、表3のプライマーを用いて、上記バイスルファイト処理液(1本差DNA)5μL、PCRマスターミックス(Qiagen社HotStar Taq polymerase)10μL、表1のプライマーミックス(5μMea.)1μL、Cara I Load 2μL、無菌蒸留水2μLを使用し、95℃で5分間した後、94℃で30秒、50℃で30秒、72℃で30秒の反応処理を15サイクル行った。その後、72℃で10分間の反応を行った。
増幅されたエクソン2部分のDNAの中には、膵β細胞のインスリン遺伝子由来のDNAが含まれると、図2に示されるように、+331位、+367位、+374位、+401位、+404位の5カ所がチミン(T)に変化した二本鎖DNAが存在する。
(1)プライマーの作成
実施例1で得られたエクソン2部分の増幅二本鎖DNAを用いて、+331、+404bpのCpGの脱メチル化の有無を確認することを行った。脱メチル化されていれば、遺伝子増幅が可能であり、膵β細胞のインスリン遺伝子由来のDNAが選択的に遺伝子増幅されることになる。
PCR処理を行うために、図3に示すようなプライマーを作製した。まず、Foward側及びReverse側のプライマーとして、3‘末端から3つ目の塩基をミスマッチさせた各3種類のプライマーを作製した。そして、各プライマーの特異度(ミスマッチに関するプライマーの特異性)と組合せを検討した。なお、逆側のプライマーは膵β細胞でも非膵β細胞でも増幅するプライマーを用いて、それぞれのプライマーの検出精度の高いものを選択した。
PCRのプライマーの最適化を目指して、以下のモデル反応を行った。使用するインスリン遺伝子のDNAは次のものである。
a)膵β細胞をバイスルファイト処理したときのインスリン遺伝子のCpG配列が同じ(TG)であるETプラスミド
b)非膵β細胞をバイスルファイト処理したときのインスリン遺伝子のCpG配列が同じ(CG)であるECプラスミド
これらプラスミドのPCRを行うことで、プライマーのミスマッチの特異度が、どれだけETで増幅されやすく、ECで増幅されにくいかで評価できると考えた。
PCRの方法としては、Roche Lightcycler 96推奨プロトコールに基づき行った。第1段階のARMS法としては、ETプラスミドとECプラスミドの0.018ng/mLを1μL、PCRマスターミックス(FastStart Taq DNA polymerase)10μL、図3のプライマーミックス(5μMea.)1μL、無菌蒸留水8μLを使用し、95℃で10分間処理した後、95℃で10秒、56℃で10秒、72℃で10秒の反応処理を15サイクル行った。第2段階のARMS法としては、上記の第1段階の方法と同様に35サイクル行った。
(3)結果
図4で示されるように、第1段階のARMS法で使用するプライマーでは、Forward側でF2, F3、Reverse側でR1, R2で良好な分離が得られた。一方、図5で示されるように、第2段階のARMS法で使用するプライマーでは、Forward側ではF1が最もCqの分離が良好であり、Reverse側ではR1のみがPCRで増幅することが示された。従って、第2段階のARMS法で使用するプライマーはF1とR1の組み合わせとなった。
実施例2の第1段階のARMS法で使用されるプライマーの中で、どの組み合わせが実際の患者および健常者の血清から取り出した陽性および陰性のcfDNAで差が出るかについて検討した。
(1)方法
次の試料を用いて、プライマーの組合せ(F3R1、F3R2、F2R2、F2R1、F1R2)の効果を確認した。
a)1型糖尿病患者血清から実施例1に準じて得られたcfDNA溶液
b)健常人血清から実施例1に準じて得られたcfDNA溶液
c)実施例2で用いたETプラスミドとECプラスミドの溶液
d)血液のゲノムDNA(Blood Genome DNA)の溶液
なお、PancreasゲノムDNAは、Bio Chain社のヒト成人の正常組織(膵臓)由来のゲノムDNAを用い、BloodゲノムDNAはPromega社 のヒト ゲノムDNAを用いた。各5μgを上記の方法でバイスルファイト処理を行い、50μLで溶出した。Promega社のQuantusTMFluorometerで一本鎖DNA量の濃度測定を行い、1ngを用いた。
第1段階のARMS法を行った後、第2段階のARMS法をF1R1のプライマーの組み合わせで行った。
図6〜7に示されるように、膵β細胞由来のインスリン遺伝子の増幅が高いプライマーの組合せは、F3R1であり、次にF3R2、F2R2であった。
また、F1R2、F2R1のプライマーの組合せについても、遺伝子増幅が高いものであったが、F1R2の場合、陰性となるべきECプラスミドで陽性の電気泳動が示されたことから不適と判断した。図8に示されるように、F2R2、F3R2のプライマーの組み合わせでは陽性検体であるT1Dの検体で陽性を示さなかった。また、図9に示されるように、F2R1、F3R1の場合には、1型糖尿病患者サンプル(39番)で陽性であったが、健常人(7番)でも陽性となった。更に検討の結果、電気泳動では陽性であったが、融解温度曲線の結果から、いずれも異なるものが増幅されていることが確認された。
なお、陽性サンプルと陰性サンプルのCq値の差は、F3R1がF2R1よりも小さいことから、PCRの特異度はF3R1の方が優れていると考えられた。
(1)患者および健常者のcfDNAサンプル
a)健常人のcfDNA溶液
健常人21名の血清から実施例1に準じてcfDNA溶液を作製した。
b)成人1型糖尿病患者血清のcfDNA溶液
成人1型糖尿病患者54名の血清から実施例1に準じてcfDNA溶液を作製した。
患者背景は男性/女性:14/40例、平均年齢:46.9±15.2才、罹病期間:11.9±9.9年、HbA1c: 8.1±1.8%、血清Cペプチド0.52±1.33ng/mL、GAD抗体:2643±13910U/mL
c)小児1型糖尿病患者のcfDNA溶液
徳島大学病院に通院中の小児1型糖尿病患者10名の血清から実施例1に準じてcfDNA溶液を作製した。患者背景は男児/女児:7/3例、平均年齢:12.5±6.0才、罹病期間:5.0±3.6年、HbA1c: 7.8±1.0%、血清Cペプチド1.45±0.32ng/mL、GAD抗体:226±426U/mL
(2)方法
上記の各cfDNAを使用し、実施例2に準じて、ARMS法のPCR処理を行った。
まず、上記cfDNA溶液(精製処理済み)1μLと、PCRマスターミックス(FastStart Taq DNA polymerase)10μL、表1のプライマーミックス(5μMea.)1μL、無菌蒸留水8μLを使用し、95℃で10分間処理した後、95℃で10秒、56℃で10秒、72℃で10秒の反応処理を15回サイクル行った。
図10に示されるように、1型糖尿病患者の血清では、健常人の血清と比較すると、膵β細胞由来のインスリン遺伝子に基づくcfDNAが血中に認められた。
最終的なPCRを40サイクル増幅していることから、PCRの元の溶液に1コピー陽性サンプルが存在すると理論上28サイクルで陽性になる。従って、PCR溶解波形解析で膵β細胞、CpGが膵β細胞と同じ配列をしたプラスミドと同じパターンを呈しているものを陽性とした。
成人1型糖尿病患者のサンプルでは、54検体中4検体で強陽性、17例で弱陽性で、シークエンス解析でこれら21例の陽性のサンプル中19例で陽性となった。これらシークエンス解析の結果から2回目のPCRでは35サイクル以下で陽性となることが示された。
小児1型糖尿病患者のサンプルでは10検体中9検体で強陽性、1例で弱陽性となった。
一方、健常人のサンプルでは21検体中1検体で強陽性、6検体で弱陽性となった。
以上の結果から、平均罹病期間の短く、残存インスリン分泌を表すとされる血中Cペプチド濃度の保たれている小児1型糖尿病検体で強陽性が多く、平均罹病期間の長く、血中Cペプチド濃度の低下した成人1型糖尿病検体で陽性例が少ないのは病態と反映していると考えられた。健常人でも陽性になるのは健常な膵β細胞のリニューアルに伴うもの、あるいは1型糖尿病前段階であることも否定できないが、循環血中に膵β細胞に由来するインスリン遺伝子を検出できるということは、高血糖に先行して膵β細胞が破壊されることを示すと考えられた。従って、本発明の検出方法により、全体の約80%以上の膵β細胞の破壊による高血糖前段階から膵β細胞傷害を検出できるということを示している。
以上のように、本発明のARMS法(第1段階でF3R1を使用し、第2段階でF1R1のプライマーの組合せを使用する方法)により、患者および健常者のcfDNAから膵β細胞に由来するインスリン遺伝子を的確に検出し評価できることが明らかとなった。
Claims (8)
- 被験者の血中cfDNAの中の膵β細胞由来のインスリン遺伝子の検出方法であって、
a)2段階のARMS−PCR法でインスリン遺伝子エクソン2領域の遺伝子増幅を行い、
b)第一段階で次のプライマーセットを使用し、
Forward側:5‘−TAGTTTTTGTGAATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号1)、
Reverse側:5‘−CCTACAAATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号2)、
c)第二段階で次のプライマーセットを使用する
Forward側:5‘−TTTGGTGGAAGTTTTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号3)、
Reverse側:5‘−AATCTTAAATATATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号4)、
ことを特徴とする、膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。 - 上記2段階のARMS−PCR法に先立ち、インスリン遺伝子cfDNAのエクソン2領域(+301〜+429部分)の遺伝子増幅を次のプライマーセットで行う
Forward側:5‘−AGTTGTAGTTTTTGTGAATTAATATTTG−3’(配列番号5)、
Reverse側:5‘−TCACCCTACAAATCCTCTACC−3’(配列番号6)、
ことを特徴とする、請求項1に記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。 - 第一段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−AATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号7)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号8)の塩基配列である、
第二段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−TTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号9)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号10)の塩基配列である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。 - 2段階のARMS−PCR法において、第一段階のPCRを15サイクルで行い、第二段階のPCRを40回で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の膵β細胞由来インスリン遺伝子の血中cfDNAの検出方法。
- 血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するための2段階ARMS−PCR法のプライマーセットであって、
a)第一段階のプライマーセットとして、
Forward側が、5‘−TAGTTTTTGTGAATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号1)の塩基配列であり、
Reverse側が、5‘−CCTACAAATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号2)の塩基配列である、
b)第二段階のプライマーセットとして、
Forward側が、5‘−TTTGGTGGAAGTTTTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号3)の塩基配列であり、
Reverse側が、5‘−AATCTTAAATATATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号4)の塩基配列である
ことを特徴とする、プライマーセット。 - 血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するための2段階ARMS−PCR法のプライマーセットであって、
a)第一段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−AATTAATATTTGTTTG−3’(配列番号7)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATCCTCTACCTCCGAA−3’(配列番号8)の塩基配列である、
b)第二段階のプライマーセットが、
Forward側が少なくとも、5‘−TTTTATTTAGTGTCTG−3’(配列番号9)の塩基配列であり、
Reverse側が少なくとも、5‘−ATAAAAAAAACCTGAT−3’(配列番号10)の塩基配列である
ことを特徴とする、プライマーセット。 - 血中の膵β細胞由来のcfDNAを検出するために、ヒトインスリン遺伝子のエクソン2領域の遺伝子配列(+301〜+429)を増幅するためのプローブであって、
Forward側:5‘−AGTTGTAGTTTTTGTGAATTAATATTTG−3’(配列番号5)、
Reverse側:5‘−TCACCCTACAAATCCTCTACC−3’(配列番号6)、
であることを特徴とする、プライマーセット。 - 以下のa)、b)から、少なくともa)を含む、血中の膵β細胞インスリン遺伝子由来のcfDNAを検出方法するための試薬又はキット。
1)請求項5又は6に記載のプライマーセット
2)請求項7に記載のプライマーセット
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