JP2021100425A - アッカーマンシアの培養方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】アッカーマンシア・ムシニフィラを費用対効果よく、かつ効率的に培養する方法を提供する。【解決手段】単糖、単糖の窒素含有誘導体およびアミノ酸源を含む組成物を用意する工程と、前記組成物にアッカーマンシア属の細菌を接種する工程と、前記アッカーマンシア属の細菌を増殖させる工程とを含む、アッカーマンシア属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の細菌の培養方法である。前記単糖の窒素含有誘導体は、N−アセチル−グルコサミン(Glc−NAc)およびN−アセチル−ガラクトサミン(Gal−Nac)から選択される。【選択図】なし

Description

本発明は細菌、特にアッカーマンシア(Akkermansia)属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)種の細菌の培養の分野におけるものである。
アッカーマンシア属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の細菌は、例えば肥満症関連疾患などの代謝異常の予防および/または治療において重要な役割を担っていると考えられている(国際公開第2014/075745号、国際公開第2014/077246号)。対照飼料または高脂肪(HF)飼料を与えたマウスにアッカーマンシア・ムシニフィラ(A. muciniphila)を経口投与すると、食物摂取量を全く変更しなくても食餌誘発性代謝性エンドトキシン血症(metabolic endotoxemia)、脂肪症および脂肪組織CD11cマーカーが正常化されることが分かった(国際公開第2014/075745号)。さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療により体重が減少し、かつ体組成(すなわち脂肪量/筋肉量の比)が改善した。HF飼料条件下では、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療は脂質生成に影響を与えることなく脂肪細胞分化および脂質酸化のマーカーのmRNA発現を増加させることが分かった。また、アッカーマンシア・ムシニフィラによるコロニー形成により食餌誘発性空腹時高血糖が完全に好転し、かつ治療後にインスリン抵抗指数が同様に低下することも分かった。最後に、アッカーマンシア・ムシニフィラにより腸のバリア機能も高まることが分かった(J Reunanenら 2015, Appl Environ Microbiol. 81:3655-62)。そこで、食品または医薬品用途でアッカーマンシア属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の細菌を使用することが提案された。そのため、アッカーマンシアの高バイオマス収量が所望されている。
Derrienら(2004, Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 54: 1469-76)は、アッカーマンシア・ムシニフィラの菌株MucTを単離して唯一の炭素および窒素源としてブタ胃ムチンを含有する基本嫌気性培地で増殖させることができることを教示している。この著者らは、ムチン培地で得ることができる最終光学濃度の半分の最終光学濃度ではあるが、アッカーマンシア・ムシニフィラをコロンビアブロス(CB)およびブレインハートインフュージョン(BHI)ブロスなどの富栄養培地で増殖させることができることも教示している。これまで知られているアッカーマンシアの培養に適した全ての培地は動物成分を含有している。動物組織由来のBHIおよびCBは、ウシカゼイン、動物組織および心筋の酵素消化物を含有している。富栄養ウィルキンス・チャルグレンブロス(WCB)で増殖が認められなかったという観察によって示されているように(Derrienら、2004)、アッカーマンシア・ムシニフィラは容易には培養されない。WCBは特に嫌気性細菌を増殖するように設計されており、特にウシカゼインおよび動物ゼラチンの酵素消化物を含有している。
さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラは、以下の化合物(特に定めがない限り、それぞれ10mM):グルコース、セロビオース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、フコース、ラムノース、マルトース、コハク酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、酪酸塩、乳酸塩、カジトン(0.5%)、カザミノ酸(0.5%)、トリプトン(0.5%)、ペプトン(0.5%)、酵母抽出物(0.5%)、プロリン、グリシン、アスパラギン酸、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アラニン、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミンのうちの1種を含む基本塩培地では増殖することができないと記載されている(Derrienら、2004)。
但し、それぞれ2g/l(0.2%)のペプトン、酵母抽出物、トリプトンおよびカジトンを基本培地に添加した場合にのみ、糖であるN−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミンまたはグルコース(それぞれ10mM)のいずれかが増殖を支持するが、増殖はムチン培地の4分の1よりも少なかった(Derrienら、2004)。
その原記載から10年後に公開された最近の研究では、アッカーマンシア・ムシニフィラを10g/lのカジトン(1%に等しい)、5mMのグルコースおよび5mMのフコースおよび1mMのトレオニンを含む基本培地で増殖させた(Lukovacら, 2014, MBio. 12;5(4). pii: e01438-14. (doi: 10.1128/mBio.01438-14))。また、ここでは増殖収率が低く、アッカーマンシア・ムシニフィラを粘液含有培地で増殖させた場合に得られた収率よりも約4倍低かった。さらに、この培地は牛乳タンパク質カゼインのタンパク質分解産物である高濃度のカジトンを含有しており、従って動物由来である。最後に、この培地は安価な糖であるグルコースだけでなく、動物由来の産物において主に見られ、かつグルコースよりも100倍以上高価な糖であるフコースも含有していた。
故に、アッカーマンシア・ムシニフィラは容易に培養することができず、かつこれまで記載された全ての培地および増殖条件は動物由来の化合物の使用を含むことは明らかである。動物由来の産物は、ウイルス、プリオンまたは細菌性由来の夾雑物を含有していたり、アレルゲン、抗原性ペプチドまたは他の望ましくない生成物を含有していたりする可能性があり、あるいはそれ以外に、例えばユダヤ教またはイスラム教の戒律に則っていない食物由来であるという理由でヒトにおける食品または医薬品用途のためにアッカーマンシアを培養するのに適していないとみなされる場合がある。今までのところ、粘液含有培地は最大量のバイオマスを産生することが分かっている。粘液は動物のみに存在するため、これはアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を制限させるものであり、かつ本科学的特許文献で提案されているように、ヒトまたは動物の健康を増進させることを目的としたこの細菌の応用に挑戦するものである。さらに、菌株MucT以外のアッカーマンシア・ムシニフィラの分離株は記載されていない。相当な努力にも関わらず増菌のみが得られ、アッカーマンシア・ムシニフィラの純粋な培養物は得られなかった研究で最近示されたように(Caputoら 2015, Biol Direct 10: 5 (doi:10.1186/s13062-015-0041-1))、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖および単離は難題であることが分かっており、これはその増殖が主要なボトルネックであることを示している。
本発明の目的はアッカーマンシア属の細菌を高い最終光学濃度(高いバイオマス収率)まで培養させるために使用することができ、かつ/またはアッカーマンシア属の細菌を培養するために現在知られている組成物と比較して複雑性が低下し、かつ好ましくは動物由来の産物を含まない組成物を提供することであった。そのような培地は、ヒトでの使用、例えば、食品、飼料または医薬品用途に適したアッカーマンシアの大量生産を可能にする。
本発明は、アッカーマンシア属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の細菌の培養方法であって、単糖、単糖の窒素含有誘導体およびアミノ酸源を含む組成物を用意する工程と、前記組成物にアッカーマンシア属の細菌を接種する工程と、アッカーマンシア属の前記細菌を増殖させる工程とを含む方法を提供する。
単糖の窒素含有誘導体は、N−アセチル−グルコサミン(Glc−NAc)およびN−アセチル−ガラクトサミン(Gal−Nac)から選択されてもよい。それは好ましくはGlc−NAcである。Glc−NAcは、約0.001mM〜約1M、例えば、約0.1mM〜約500mM、約0.5mM〜約100mM、約1mM〜約75mMまたは約5mM〜約50mMの範囲の量で存在してもよい。
単糖は好ましくはグルコースである。グルコースは、約0.001M〜約1M、例えば、約0.1mM〜約500mM、約0.5mM〜約100mM、約1mM〜約75mMまたは約5mM〜約50mMの範囲の量で存在してもよい。
本組成物は、例えば約0.01mM〜約100mMの範囲の量でトレオニンをさらに含んでいてもよい。
本組成物中のアミノ酸源は、植物系アミノ酸源、微生物系アミノ酸源またはアラニン、グルタミン酸、プロリンおよびセリンの組み合わせから選択されてもよい。好適な実施形態では、アミノ酸源は、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ豆タンパク質加水分解物、小麦タンパク質加水分解物、米タンパク質加水分解物、綿タンパク質加水分解物などの植物タンパク質加水分解物である。
植物タンパク質加水分解物は、約0.01g/l〜約1kg/l、例えば、約0.05〜約500g/l、約0.1〜約250g/l、約0.5〜約150g/l、約1〜約100g/lまたは約2〜約80g/lの範囲の量で存在してもよい。
本発明者らは、アッカーマンシア・ムシニフィラをグルコース、N−アセチル−グルコサミンおよびアミノ酸源を含む組成物中で非常に高い光学濃度まで培養することができることを発見した。アミノ酸源は理想的には完全に植物系であるか微生物系であってもよい。
従って、本開示は、単糖、単糖の窒素含有誘導体およびアミノ酸源を含む、細菌、特にアッカーマンシア属、具体的にはアッカーマンシア・ムシニフィラを培養するための組成物にも関する。
単糖は、任意の単糖、特に細菌を費用対効果よく培養するために一般に使用されるものであってもよく、好ましくはグルコースである。
単糖の窒素含有誘導体は、N−アセチル−グルコサミン(Glc−NAc)およびN−アセチル−ガラクトサミン(Gal−Nac)から選択されてもよく、好ましくはN−アセチル−グルコサミンである。
本組成物は、約0.001mM〜約1M、例えば、約0.1mM〜約500mM、約0.5mM〜約100mM、約1mM〜約75mMまたは約5mM〜約50mMの範囲の濃度でグルコースなどの単糖を含んでいてもよい。
本組成物は、約0.001mM〜約1M、例えば、約0.1mM〜約500mM、約0.5mM〜約100mM、約1mM〜約75mMまたは約5mM〜約50mMの範囲の濃度でGlc−NAcなどの単糖の窒素含有誘導体を含んでいてもよい。
本開示の組成物は動物由来の産物を含んでいなくてもよい。
アミノ酸源は当業者に知られている任意のアミノ酸源であってもよく、限定されるものではないが動物由来、植物由来または微生物由来のアミノ酸源が挙げられる。アミノ酸源は、例えば植物由来タンパク質加水分解物などのタンパク質加水分解物であってもよい。タンパク質加水分解物は、(部分)加水分解を用いてタンパク質源から製造され、典型的にはペプチド、アミノ酸、炭水化物および脂質の混合物と、不確定の生物活性を有する多数の未同定成分とからなる。それらは、限定されるものではないが、植物源、例えば、大豆、小麦、エンドウ豆、ひよこ豆または綿などの各種供給源からの所与の原料の酵素によるアルカリもしくは酸消化によって製造されることが多い。
アミノ酸源は、酵母抽出物、例えば、限外濾過されたHyPep(商標)YEまたはUltraPep(商標)YEまたはHy−Yest(商標)、乳製品加水分解物(例えば、カゼイン、ラクトアルブミンおよび乳固形分加水分解物由来)、例えば、Amicase(商標)、Hy−Case(商標)Amino、Hy−Case(商標)SF、N−Z−Amine(商標)A,N−Z−Amine(商標)AS、N−Z−Amine(商標)EKC、N−Z−Case(商標)Plus、N−Z−Case(商標)TT、Edamin Fまたはトリプトン(プロテアーゼトリプシンによるカゼインの消化によって形成されるペプチドの混合物)、植物タンパク質加水分解物、例えば、HyPep1510(商標)(大豆の酵素加水分解物)、HyPep1511(商標)(大豆の限外濾過された酵素消化物)、HyPep1512(商標)(大豆の酵素消化物)、HyPep4601N(商標)(小麦グルテンの限外濾過された酵素消化物)、HyPep5603(商標)(米タンパク質および小麦グルテンの限外濾過された酵素消化物)、HyPep7504(商標)(綿タンパク質の限外濾過された酵素消化物)、UltraPep Cotton(商標)、Amisoy(アミノ酸(但し、トリプトファンを含まない)および小ペプチドの混合物が得られる大豆単離物の酸消化物)、フィトンペプトンまたはソイトンペプトン(Soytone Peptone)(Difco(商標)およびBBLブランドのペプトン)またはUltraPep Soy(商標)などの市販のアミノ酸源を含んでもよい。また、アミノ酸源は個々のアミノ酸または個々のアミノ酸の組み合わせを含むアミノ酸組成物であってもよい。好適な実施形態では、アミノ酸源は植物系アミノ酸源である。
アミノ酸源は、約0.01g/l〜約1kg/l、例えば、約0.05〜約500g/l、約0.1〜約250g/l、約0.5〜約150g/l、約1〜約100g/lまたは約2〜約80g/lの範囲の量で本発明の組成物中に含まれていてもよい。例えば、HySoyまたはAmisoyは、本明細書で教示されている組成物中に約0.01g/l〜約1kg/l、例えば、約0.05〜約500g/l、約0.1〜約250g/l、約0.5〜約150g/l、約1〜約100g/lまたは約2〜約80g/lの範囲の量で組み込まれていてもよい。
好ましくは、本発明の組成物は、約0.01〜約100mM、好ましくは約0.05〜約50mM、さらにより好ましくは約0.1〜約25mM、さらにより好ましくは約0.5〜約15mM、より好ましくは約1〜約10mM、例えば約1〜約8mMの量でトレオニンを含む。トレオニンは、L−トレオニンまたはD,L−トレオニンの形態で存在してもよい。
また、本発明の組成物は、好ましくはそれぞれが約0.01〜約100mM、好ましくは約0.05〜約50mM、さらにより好ましくは約0.1〜約25mM、さらにより好ましくは約0.5〜約15mM、より好ましくは約1〜約10mM、例えば約1〜約8mMの量でアラニン、グルタミン酸、プロリンおよびセリンを含んでいてもよい。
一実施形態では、本明細書で教示されている組成物は、5.5〜8.0、好ましくは6.0〜7.0の範囲のpH、より好ましくは約pH6.6を維持するための緩衝系をさらに含む。当業者はこの目的に適した緩衝系を選択することができる。
一実施形態では、本明細書で教示されている組成物は、約0.1〜約2%、例えば、約0.3〜約1.5%または約0.5〜約1.3%または約1.0%のシステインをさらに含む。
必須ではないが、本明細書で教示されている組成物にビタミンを添加してもよい。含めることができる好適なビタミンは、限定されるものではないが、ビオチン、コバラミン、PABA、葉酸、ピリドキサミンなどを包含する。例えば、コハク酸塩の代わりにコバラミン依存性メチルマロニルCoAムターゼによる最終代謝産物としてプロピオン酸塩が必要とされる場合に、コバラミンを用いることができる。
本発明は、アッカーマンシア属の細菌、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の培養方法であって、
本明細書で教示されている組成物を用意する工程と、
前記組成物にアッカーマンシア属の細菌を接種する工程と、
アッカーマンシア属の前記細菌を増殖させる工程と
を含む方法も提供する。
アッカーマンシア・ムシニフィラのための好適な培養条件としては、限定されるものではないが、20〜40℃の範囲の温度および5.5〜8.0の範囲のpHが挙げられ、最適な増殖は約36〜38℃の温度および6.0〜7.0、好ましくは約pH6.5のpHで生じる。アッカーマンシア・ムシニフィラは絶対嫌気性細菌であり(Derrienら 2004. Int J System Evol Microbiol 54:1469-1476)、従って、理想的には嫌気性条件を可能な程度まで適用すべきであり、空気との接触は可能な程度まで回避すべきである。当業者は嫌気性培養方法に精通している。
本発明を以下の実施例によってさらに例示するが、それらに限定されない。
上記考察および以下の実施例から、当業者は本発明の不可欠な特性を確認することができ、その教示および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な使用および条件に対応させるためにその様々な変更および修正を行うことができる。従って、本明細書に図示および記載されているものだけでなく、上記説明から本発明の様々な修正が当業者には明らかであろう。そのような修正も添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
実施例1:アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖はグルコースおよびN−アセチルグルコサミンによって刺激される
アッカーマンシア・ムシニフィラMucT(ATTC BAA-835)を先に記載したように基本嫌気性培地で増殖させた(Derrienら、2004、上記)。この培地に精製したブタ粘液(III型、Sigma社、0.5%)のみ、単独もしくは添加糖を含む粘液(0.25%)、あるいは添加糖を含むトリプトン(Difco社、1%)を添加した。使用した糖には、単独では20mMまたは組み合わせではそれぞれ10mMの最終濃度でD−グルコース(グルコース)、D−フコース(フコース)またはN−アセチルグルコサミン(GlcNac)が含まれていた。糖との培養物は1mMのD,L−トレオニン(トレオニン)も含有していた。全ての培養を、ブチルゴム栓で密閉された血清瓶の中で、182kPa(1.8atm)のN2/CO2の気相によって得られる嫌気性条件下37℃で行った。増殖を600nm(OD600)の光学濃度において分光光度計で測定し、その結果を表Aに示す。また、先に記載したようにHPLC分析を使用して(Derrienら、2004、上記;Luzovacら、2014、上記)、指示されている糖ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、1,2−プロパンジオールなどの生成物の濃度を測定した。
Figure 2021100425
この結果から、5g/lの粘液が比較的高い増殖率(約2時間の世代時間)および1ml当たり約5.109個の細胞を表す2.5の高い最終OD600を有するアッカーマンシア・ムシニフィラの良好な増殖を維持するという初期の観察(Derrienら、2004、上記)を確認した。但し、粘液濃度の減少はアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖に劇的に影響を与える。グルコースと他の糖との組み合わせを試験してアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を調査した。興味深いことに、グルコースまたはN−アセチルグルコサミンは、粘液濃度の2倍の減少を補償してアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を2.0超のOD600まで維持することができるが、フコースはそれほどではなかった。さらに、単糖のうち特にN−アセチルグルコサミンおよびそれよりも少ない程度でグルコースは、さらなる窒素源、この場合トリプトン(カゼインのトリプシン消化物)の存在下でアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を維持することができたが、フコースは維持することができなかった。カジトン(カゼインの膵酵素消化物)を用いた場合に同様の結果が得られた。但し、増殖は以前に報告されたもの(Derrienら、2004、上記)と同様に、0.5%の粘液を含有する基本培地での増殖と比較して数倍減少した。
記載されている結果から、N−アセチルグルコサミンはアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を維持する最良の糖であると結論づけることができるが、この糖の稀少性および費用から判断して、グルコースを使用する方が有利であろう。驚くべきことに、グルコースとN−アセチルグルコサミンとを組み合わせることによって、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖はグルコース単独よりも非常に良好であることが分かった(表A)。
実施例2:アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖はトレオニンによって刺激される
グルコース上でのアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖の場合、N−アセチルグルコサミンを使用して最終光学濃度を増加させることができるが、外部タンパク質源は良好な増殖を維持するのに不可欠であることが分かった。注目すべきことに、トリプトンの濃度の増加は、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を粘液含有培地で得ることができる増殖のレベルを上回るレベルまで有意に刺激した(表B)。32g/lの量のトリプトンは適しており、通常の牛乳と同様のタンパク質濃度であった。
この実験を本質的に実施例1に記載されているように行った。
さらに、グルコースおよびN−アセチルグルコサミンによる基本培地におけるトレオニン濃度の増加の効果を試験した。驚くべきことに、2mM超および好ましくは4mM超のトレオニン濃度で相当な効果が観察され、工業規模レベルに到達する7.0超のアッカーマンシア・ムシニフィラの非常に高いOD600が得られた。
興味深いことに、L−トレオニンおよびD,L−トレオニンの両方を使用することができた。D,L−トレオニンはより容易に入手可能であり、かつ費用的にも低いため、D,L−トレオニンの本発明の培地への添加が好ましい。
Figure 2021100425
実施例3:非動物由来の合成培地におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖
カゼインは動物由来のタンパク質源であるため、植物系または微生物系タンパク質源を使用してアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支持することができるか否かについて試験した。大豆は最も豊富かつ完全なタンパク質源のうちの1種であるため、多くの市販の加水分解された大豆調製物を試験した。以前に病原菌の増殖を維持することが見出されたどちらもQuest International社から得られるHySoyおよびAmiSoyと共にグルコースおよびN−アセチルグルコサミンを含む基本培地においてアッカーマンシア・ムシニフィラの良好な増殖が観察された(米国特許第6558926号および国際公開第1998054296号を参照)。但し、表Cに示されているように全ての場合においてトレオニンの添加は増殖を支持した。16g/lのHySoyの存在下で、2mMのトレオニンを用いた場合に非常に効率的なアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖が得られ、4mMのトレオニンを用いた場合にさらに良好な増殖が得られた。
HySoyおよびトレオニンの存在下でのグルコースおよびN−アセチルグルコサミンの比の変更はアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖に影響を与え、かつこの大豆系培地において両方の糖が必要とされるが、その比は異なってもよいこととも分かった(表C)。これはカゼイン由来のトリプトンでも観察され、これはグルコースおよびN−アセチルグルコサミンの比を窒素源とは無関係に最適化することができることも示している。
微生物のタンパク質源がアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支持することができるか否かについて試験するために、酵母抽出物(Difco社)を添加した。酵母抽出物は通常は大豆系培地よりも高価であり(Kwonら, Enzyme Microb Technol. 2000 Feb 1;26(2-4):209-215.)、故に、比較的少量の酵母抽出物を4.4のOD600までアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支持する培地に添加し、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を6.5のOD600までさらに増加させることが分かった(表C)。これは増殖を支持するために酵母抽出物を使用することができることを示し、かつタンパク質源の増加により非動物由来の培地においてアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖をさらに増殖させることができることも示している。
明らかに、細菌細胞を増殖させるための最も費用対効果の高い方法は合成培地上であり、故に大豆加水分解物中のどのアミノ酸が増殖を支持することができるかを試験した。グルコースおよびN−アセチルグルコサミンの存在下でトレオニンは別として他のアミノ酸を必要とすることなく、4種類のアミノ酸、すなわちアラニン、グルタミン酸、プロリンおよびセリン(それぞれ4mM)の混合物がアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を維持することができることが分かった(表C)。観察された増殖は粘液単独のみでの増殖を上回り(上記参照)、故に、これはアッカーマンシア・ムシニフィラの費用対効果の高い増殖をさらに最適化するための方法を切り開くものである。実際に、セリンをトレオニンで置き換えることもでき、トレオニンおよびプロリンのみの組み合わせがアッカーマンシア・ムシニフィラのための窒素源として働かせるのに非常に効率的であることが分かった。
Figure 2021100425
実施例4:アッカーマンシア・ムシニフィラの工業規模の発酵
大規模にアッカーマンシア・ムシニフィラを生産する能力を示すために、pH7.0の600リットルの発酵槽において1kg当たり32グラムのHySoy、25グラムのグルコース、4.4グラムのN−アセチルグルコサミン、4グラムのトレオニン、0.5グラムのシステインおよびビタミン溶液を含む上記のような基本培地でそれを増殖させた(Derrientら、2004、下記参照)。その発酵後に、当該培養物のOD600は7.2であり、これはグルコース、N−アセチル−グルコサミンおよび非動物タンパク質源を含む培地は工業規模レベルでアッカーマンシア・ムシニフィラの優れた増殖を維持することができることを示している。

Claims (11)

  1. 単糖、単糖の窒素含有誘導体およびアミノ酸源を含む組成物を用意する工程と、
    前記組成物にアッカーマンシア属の細菌を接種する工程と、
    前記アッカーマンシア属の細菌を増殖させる工程と
    を含む、アッカーマンシア属、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ種の細菌の培養方法。
  2. 前記単糖の窒素含有誘導体は、N−アセチル−グルコサミン(Glc−NAc)およびN−アセチル−ガラクトサミン(Gal−Nac)から選択され、かつ好ましくはN−アセチル−グルコサミンである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記単糖の窒素含有誘導体はGlc−NAcである、請求項2に記載の方法。
  4. 前記Glc−NAcは約0.001mM〜約1Mの範囲の量で存在する、請求項3に記載の方法。
  5. 前記単糖はグルコースである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
  6. 前記グルコースは約0.001M〜約1Mの範囲の量で存在する、請求項5に記載の方法。
  7. 前記組成物はトレオニンをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
  8. 前記トレオニンは約0.01mM〜約100mMの範囲の量で存在する、請求項7に記載の方法。
  9. 前記アミノ酸源は、植物系アミノ酸源、微生物系アミノ酸源またはアラニン、グルタミン酸、プロリンおよびセリンの組み合わせから選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
  10. 前記アミノ酸源は植物タンパク質加水分解物である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
  11. 前記植物タンパク質加水分解物は、約0.01g/l〜約1kg/l、例えば、約0.05〜約500g/l、約0.1〜約250g/l、約0.5〜約150g/l、約1〜約100g/lまたは約2〜約80g/lの範囲の量で存在する、請求項10に記載の方法。

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