JP2020164858A - ポリオレフィン製微多孔膜、電池用セパレータ、及び二次電池 - Google Patents

ポリオレフィン製微多孔膜、電池用セパレータ、及び二次電池 Download PDF

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Takeshi Ishihara
毅 石原
豊田 直樹
Naoki Toyoda
直樹 豊田
寛子 田中
Hiroko Tanaka
寛子 田中
龍太 中嶋
Ryuta Nakajima
龍太 中嶋
聡士 藤原
Satoshi Fujiwara
聡士 藤原
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Abstract

【課題】高い衝撃エネルギーに耐えうる、リチウムイオン電池用微多孔膜として有用なポリオレフィン製微多孔膜を得る。【解決手段】重量平均分子量、分子量分布、融点の制御された超高分子量ポリエチレンを適切な量含んだポリエチレン組成物を用い、溶媒抽出前における延伸について、延伸倍率を20倍以上、45倍以下に制御することにより、高い引張強度と両立が難しい高い引張伸度、低い熱収縮率を同時に達成したポリオレフィン製微多孔膜を用いることで、高い突刺強度と高い耐衝撃性を有するポリオレフィン製微多孔膜を得ることができる。【選択図】なし

Description

本発明はポリオレフィン製微多孔膜、電池用セパレータ、及び二次電池に関する。
微多孔膜は物質の分離膜、選択透過膜、及び隔離膜等として広く用いられている。微多孔膜の具体的な用途は、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ポリマー電池に用いる電池用セパレータや、電気二重層コンデンサ用セパレータ、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料、医療用材料、燃料電池用支持体などである。
特にリチウムイオン二次電池用セパレータとして、ポリエチレン製微多孔膜が広く採用されている。その特徴として電池の安全性、生産性に大きく寄与する機械的強度に優れることに加え、電気絶縁性を担保しつつ、微細孔に浸透した電解液を通じたイオン透過性を併せ持つことが挙げられる。さらにポリエチレン製微多孔膜は、電池の外部または内部での異常反応時には120〜150℃程度において自動的にイオンの透過を遮断することにより、過度の温度上昇を抑制する孔閉塞機能を備えている。
リチウムイオン電池はその利用分野が、従来の携帯電話、PC用電池など、いわゆる小型民生用途の利用分野に加え、電動工具、自動車および自転車用蓄電池、大型蓄電設備など、大型、大容量が求められる利用分野へと広がってきている。これらの要求に応えるべく、電池構造として高容量となるような電極の採用が進められている。電池の大型化を踏まえ、これまで以上に電池の安全性が重要視されている。
このような要望に応えるため、これまでセパレータの開発が進められてきた(特許文献1〜3)。
高強度および高透過性を有する微多孔膜は、超高分子量ポリオレフィン(以下、「UHMWPO」という)を用いて作製されてきた。例えば、特許文献1および特許文献2には、5×10以上の平均分子量を有するUHMWPOと溶媒とを含有する溶液を押し出すことにより作製されるゲル状シートを成形する工程、ゲル状シートから溶媒を除去する工程、次いでゲル状シートを延伸する工程を含むプロセスにより作製されるUHMWPO膜が開示されている。
また、特許文献3には、大孔径を持ちつつ、優れた強度と低熱収縮性のポリオレフィン微多孔膜が開示されている。
国際公開第2000/049073号 国際公開第2000/049074号 国際公開第2008/069216号
特許文献1に開示されている技術では、微多孔膜の幅方向(TD)の熱収縮率が低減され、かつ高い引張伸度を持つ微多孔膜を開示しているが、強度は低いことが開示されている。特許文献2に開示されている技術では、高強度と高空孔率の両立を達成しているが、105℃における熱収縮率が悪化することが示されている。熱収縮率を改善させた場合も例示されているが、突刺強度が低下することが課題となっている。特許文献3では比較的低分子量のポリエチレンを原料に用い、延伸倍率を上げることで、孔径が大きい微多孔膜が得られているが、引張伸度の低い微多孔膜となっている。
微多孔膜に求められる強度は、突刺強度のように電池に使用した場合に電極の表面の突起による短絡を防ぐための強度も重要であると共に、電池に外力が加わった場合にも破膜することなく、絶縁性を保つことが求められている。微多孔膜は、高い伸びを有する場合に衝撃に強いと予想されるが、突刺強度が低くなるために電池製造時に短絡する頻度が上がり、電池の生産性が下がるという欠点が生じる。衝撃性に対して引張強度も重要な役割を果たすと予想され、引張強度を上げるために延伸倍率を上げることが改善手法としてとり得るが、引張伸度の低下を招くために耐衝撃性の改善につながらない。また、延伸倍率の上昇などによる熱収縮率の上昇を招き、電池が異常状態の際、即ち外部からの加熱や、過充電などによる内部発熱時に、絶縁膜として用いられた微多孔膜が収縮しやすくなり、短絡することで電池の事故を引き起こす可能性が上がる懸念がある。
熱収縮率の上昇を防ぎつつ、引張強度と引張伸度を共に向上させることで、より高い耐衝撃性を有する膜が望まれている。
本発明者らは、前記問題点を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、以下の構成によって解決が可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)平均引張強度が150MPa以上であり、平均引張伸度が185%以上であり、105℃で8時間加熱した後に測定した固体熱収縮率から算出した平均固体熱収縮率が10.0%以内であり、熱機械分析によるシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率が14%以下であるポリオレフィン製微多孔膜。
(2)前記平均引張伸度が190%以上である(1)に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
(3)前記平均引張強度が160MPa以上であり、前記平均引張伸度が195%以上である(1)又は(2)に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
(4)前記ポリオレフィン製微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン系樹脂を主成分として含む、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のポリオレフィン製微多孔膜。
(5)突刺強度が6000mN/20μm以上である(1)〜(4)のいずれか1つに記載のポリオレフィン製微多孔膜。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載のポリオレフィン製微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
(7)(6)に記載の電池用セパレータを用いた二次電池。
本発明によれば、従来では困難な、高い引張強度と高い引張伸度を両立させ、同時に低熱収縮率を達成することにより、高い耐衝撃性を有するポリオレフィン製微多孔膜を提供することができる。本発明のポリオレフィン製微多孔膜は、電池生産時に重要となる高い突刺強度と共に、高引張強度、高引張伸度を有することから、電池に用いた場合において安全性が高まり、リチウムイオン二次電池のセパレータとしても好適である。
本発明は、電池生産性と安全性に優れたポリオレフィン製微多孔膜を得るべく本発明者らが鋭意検討した結果、延伸条件を一定の条件で制御することで、超高分子量ポリエチレン由来の非晶成分量と結晶性を制御可能となり、高い突刺強度と高い耐衝撃性を持つポリオレフィン製微多孔膜が得られることを見出し、到達したものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の実施形態にかかるポリオレフィン製微多孔膜は、平均引張強度が150MPa以上であり、平均引張伸度が185%以上であり、105℃で8時間加熱した後に測定した固体熱収縮率から算出した平均固体熱収縮率が10.0%以内であり、熱機械分析によるシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率が14%以下である。
(原料)
(樹脂種)
本発明の実施形態にかかるポリオレフィン製微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂を主成分として含む。ポリオレフィン樹脂はポリオレフィン製微多孔膜全質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む。ポリオレフィン製微多孔膜は特にポリエチレンを主成分とすることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、単一物であってもよいし、2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物であってもよい。2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンから選ばれるポリオレフィン樹脂の混合物が挙げられる。2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物としては、ポリエチレンと他のポリオレフィン樹脂との混合物が好ましい。またポリオレフィン樹脂は、単独重合物に限らず、異なるオレフィンの共重合体でもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が好ましい。
このようなポリオレフィン樹脂のなかでもポリエチレン系樹脂が優れた孔閉塞性能の観点から特に好ましい。そのため、ポリオレフィン製微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂はポリエチレン系樹脂を主成分として含むことが好ましく、かかるポリオレフィン樹脂はポリエチレン系樹脂であることがより好ましい。ポリエチレン系樹脂の融点(軟化点)は孔閉塞性能の観点から70〜150℃が好ましい。
以下、本発明で用いるポリオレフィン樹脂としてポリエチレン系樹脂を例に詳述する。
ポリエチレン系樹脂としては、種々のポリエチレンを用いることができ、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また、ポリエチレン系樹脂の重合触媒には特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒及びメタロセン系触媒などを用いることができる。これらのポリエチレン系樹脂はエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適である。ポリエチレン系樹脂としては、単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなるポリエチレン混合物であることが好ましい。
ポリエチレン混合物としては、重量平均分子量(Mw)が互いに異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンの混合物、高密度ポリエチレンの混合物、中密度ポリエチレンの混合物、又は低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。ポリエチレン混合物としては、Mwが1×10以上の超高分子量ポリエチレンとMwが1×10以上7×10未満のポリエチレンからなる混合物が好ましい。
用いられる超高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量において1.0×10以上、1.0×10以下が好ましい。重量平均分子量の下限は、より好ましくは1.2×10以上、更に好ましくは1.5×10以上、もっと好ましくは2.0×10以上、最も好ましくは3.0×10以上である。また、重量平均分子量の上限は、より好ましくは8.0×10以下、更に好ましくは6.0×10以下、もっと好ましくは5.0×10以下、最も好ましくは4.0×10以下である。重量平均分子量が1.0×10以上であることで、高い突刺強度を達成することができる。更に重量平均分子量が3.0×10以上であることで、非晶部領域の絡み合い密度が上昇し、引張強度と引張伸度の両立に好ましい。
超高分子量ポリエチレンの分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は機械的強度の観点から3.0〜100の範囲内であることが好ましい。分子量分布の下限はより好ましくは4.0以上、更に好ましくは5.0以上、もっと好ましくは6.0以上、最も好ましくは8.0以上である。また分子量分布の上限はより好ましくは80以下、更に好ましくは50以下、もっと好ましくは20以下、最も好ましくは17以下である。超高分子量ポリエチレンはポリエチレンとの混合物として用いられることもあるが、単独で用いた場合において分子量分布が3.0以上であれば加工性に優れ、また分子量分布が100以下であれば低分子量成分の増加により加工時に欠点等を発生する可能性を低減できる。超高分子量ポリエチレンの分子量分布が一定以上であることにより、溶融時に高分子量成分による高い溶融特性が発現されやすいと考えられる。
超高分子量ポリエチレンの融点(Tm)は122℃以上、140℃以下が好ましい。超高分子量ポリエチレンの融点を122℃以上とすることで良好な透過性を有するポリオレフィン製微多孔膜を得やすい。また超高分子量ポリエチレンの融点を140℃以下にすることで、電池使用時に異常状態となった時にポリオレフィン製微多孔膜の孔が閉塞するシャットダウン特性に優れたポリオレフィン製微多孔膜を得ることができる。超高分子量ポリエチレンの融点の下限は、より好ましくは124℃以上、更に好ましくは126℃以上である。また超高分子量ポリエチレンの融点の上限は、より好ましくは138℃以下、更に好ましくは136℃以下、特に好ましくは134℃以下、最も好ましくは132℃以下である。一般にポリエチレン系樹脂の融点は他のα−オレフィンとの共重合により、制御される。超高分子量ポリエチレンにおいても、低分子量のポリエチレンと同様に、共重合により導入される単位ユニットあたりの分岐数と融点とが関連する。さらに超高分子量ポリエチレンは分子量が著しく高いために、超高分子量ポリエチレン一分子あたりの分岐数は、融点のみならず製品としての物性(ポリオレフィン製微多孔膜としての特性)や溶融時の挙動にも大きな違いをもたらす。具体的には本出願で注目している引張変形時の伸度や融解時の溶融特性となって現れる。
なお融点はJIS K7122:2012に従って測定する。すなわち、測定試料(210℃にて溶融プレスされた厚さ0.5mmの成形物)を、周囲温度にて示差走査熱量計(パーキンエルマー社製Pyris Diamond DSC)の試料ホルダーに入れ、窒素雰囲気中にて3分間230℃で熱処理し、10℃/分の速度で30℃に冷却し、30℃で3分間保持し、10℃/分の速度で230℃に加熱する。
超高分子量ポリエチレン以外に、より低分子量であるポリエチレンを用いてもよい。より低分子量であるポリエチレンの融点(Tm)は、例えば131.0℃以上が好ましく、131.0℃〜135℃がより好ましい。また、重量平均分子量は例えば1.0×10未満が好ましく、1.0×10以上1.0×10未満がより好ましく、2×10〜9.5×10がさらに好ましい。Tmは、超高分子量ポリエチレンと同じ方法で測定する。より低分子量であるポリエチレンは、所望により例えば50.0以下、例えば3.0〜20.0の範囲といった、1.0×10以下の分子量分布(MWD)を有する。例えばより低分子量であるポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HPDE)、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、または直鎖状低密度ポリエチレンの1つまたは複数であってもよい。所望により、より低分子量であるポリエチレンとして高密度ポリエチレンが用いられる。
所望により、ポリエチレンは末端不飽和基を有するポリエチレンであってもよい。例えばポリエチレンは、例えば炭素原子10,000個当たり5.0個以上、例えば炭素原子10,000個当たり10.0個以上といった、炭素原子10,000個当たり0.20個以上の末端不飽和基量を有してもよい。末端不飽和基量は、例えば国際公開第1997/023554号に記載の手順に従って測定することができる。別の実施形態においては、ポリエチレンは、炭素原子10,000個当たり0.20個未満の末端不飽和基量を有する。
ポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は引張強度の観点から1〜95質量%が好ましい。ポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、より好ましくは5〜90質量%、更に好ましくは20〜85質量%である。もっと好ましくは30〜80質量%、最も好ましくは40〜75質量%である。超高分子量ポリエチレンがポリエチレン混合物中に1質量%以上存在することで、高い突刺強度を得ることができる。ポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量が95質量%を超えると樹脂押出生産性が低下しやすい。また、好ましくは超高分子量ポリエチレンがポリエチレン混合物中に20質量%以上存在することにより、高い引張強度と引張伸度を両立することができる。
所望によりポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンの量は、それが存在する層の質量を基準として、例えば、99.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%〜99.0質量%であることがより好ましく、30.0質量%〜95.0質量%であることがさらに好ましく、40.0質量%〜85.0質量%であることがよりさらに好ましい。
ポリエチレン混合物の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は機械的強度の観点から3.0〜200の範囲内であることが好ましい。分子量分布の下限はより好ましくは4.0以上、更に好ましくは5.0以上、もっと好ましくは6.0以上、最も好ましくは8.0以上である。また分子量分布の上限はより好ましくは180以下、更に好ましくは150以下、もっと好ましくは120以下、最も好ましくは100以下である。
またポリエチレン混合物は重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン成分を2質量%以上含むことが好ましい。
また製膜後に得られるポリオレフィン製微多孔膜中において、分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))を10質量%以上含むポリエチレン混合物が好ましい。より好ましくは分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))を11質量%以上含むポリエチレン混合物である。製膜後に得られるポリオレフィン製微多孔膜中においてポリエチレン混合物中に分子量233万以上のポリエチレン成分を10質量%以上含むことで、高い突刺強度、引張強度を有しながら、高い引張伸び、低い熱収縮率を達成でき、電池生産性と高い安全性を両立することができる。
分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))を制御する方法として原料面では、1)超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量、2)超高分子量ポリエチレンの分子量分布、3)原料中の超高分子量ポリエチレン比率、4)超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン成分の重量平均分子量、分子量分布、原料中の比率、を調節することが挙げられる。また製膜条件として、酸化防止剤添加量の調整や窒素など不活性ガスを導入した混練技術の適用によっても、分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))を制御することができ、原料、製膜条件をこれらの中から選択することで、調節することができる。
(溶媒種)
希釈剤としては、ポリオレフィン樹脂に混合できる物質またはポリオレフィン樹脂を溶解できる物質であれば特に限定されない。希釈剤としては液体状のものを用いてもよいし、ポリオレフィン樹脂との溶融混練状態では、ポリオレフィンと混和するが室温では固体状態をなす溶剤を希釈剤に混合してもよい。このような固体状の希釈剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。液体状の希釈剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれら脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素の沸点に対応する(同じあるいは同程度の)鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステル、大豆油、ひまし油、ひまわり油、綿油といった植物性油、その他脂肪酸エステルが挙げられる。液体希釈剤の含有量が安定なゲル状シート(ゲル状成形物)を得るために、流動パラフィンのような不揮発性の希釈剤を用いるのが更に好ましい。例えば、液体希釈剤の粘度は40℃において20〜500cStが好ましく、より好ましくは30〜400cSt、更に好ましくは50〜350cStである。液体希釈剤の粘度が20cStより小さい場合には口金からの吐出が不均一であり、混練も困難となりやすい。液体希釈剤の粘度が500cStを超える場合には溶剤(希釈剤)の除去が困難となりやすい。
ポリオレフィン樹脂と希釈剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と希釈剤との合計を100質量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂が1〜60質量%であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂と希釈剤との混合物に対するポリオレフィン樹脂の割合は、より好ましくは10〜55質量%、更に好ましくは15〜50質量%である。ポリオレフィン樹脂と希釈剤との混合物に対するポリオレフィン樹脂の割合を1質量%以上とすることにより、押出し時における口金出口でのスウェルやネックインを抑制することができるので、ゲル状シートの製膜性が向上しやすい。一方でポリオレフィン樹脂と希釈剤との混合物に対するポリオレフィン樹脂の割合を60質量%以下にすることにより、口金部での差圧を小さく保つことができるので、ゲル状シートを安定して生産しやすい。ポリオレフィン樹脂溶液の均一な溶融混練工程は特に限定されないが、カレンダー、各種ミキサーの他、スクリューを伴う押出機などを用いる工程が挙げられる。
(製造方法)
本発明のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法は、例えば下記の(1)〜(5)の工程を含み、さらに(6)や(7)の工程を含んでいてもよい。
(1)上記ポリオレフィン樹脂に成膜用溶剤(希釈剤)を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する工程、
(2)ポリオレフィン樹脂溶液をダイリップより押し出した後、冷却してゲル状成形物を形成する工程、
(3)ゲル状成形物を少なくとも一軸方向に延伸する工程(第一の延伸工程)、
(4)成膜用溶剤を除去する工程、
(5)得られた膜を乾燥する工程、
(6)乾燥した膜を少なくとも一軸方向に再び延伸する工程(第二の延伸工程)、及び
(7)熱処理する工程。
また、必要に応じて、(4)の成膜用溶剤除去工程の前に熱固定処理工程、熱ロール処理工程及び熱溶剤処理工程のいずれかを設けてもよい。
(1)〜(7)の工程の他、乾燥工程、熱処理工程、電離放射による架橋処理工程、親水化処理工程、表面被覆処理工程等を設けることもできる。
(1)ポリオレフィン樹脂溶液の調製工程
ポリオレフィン樹脂に適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。溶融混練方法として、例えば特許第2132327号明細書及び特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。ただしポリオレフィン樹脂溶液のポリオレフィン樹脂濃度は、ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤の合計を100質量%として、ポリオレフィン樹脂が10〜60質量%であり、好ましくは15〜50質量%である。ポリオレフィン樹脂の割合が10質量%以上であれば、生産性に優れるので好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の割合が60質量%以下であれば、ゲル状成形物の成形性が良好となる。
また二軸押出機のスクリューの長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は20〜100の範囲が好ましく、35〜70の範囲がより好ましい。L/Dを20未満にすると、溶融混練が不十分となりやすい。L/Dを100超にすると、ポリオレフィン樹脂溶液の滞留時間が増大し過ぎる。スクリューの形状は特に制限されず、公知のものでよい。二軸押出機のシリンダ内径は40〜200mmであるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂を二軸押出機に入れる際、スクリュー回転数Ns(rpm)に対するポリオレフィン樹脂溶液の投入量Q(kg/h)の比Q/Nsを0.03〜2.0kg/h/rpmにするのが好ましい。Q/Nsが0.03kg/h/rpm以上であれば、ポリオレフィン樹脂が過度にせん断破壊されるのを防ぐことができ、強度やメルトダウン温度の低下を防ぐことができる。また、Q/Nsが2.0kg/h/rpm以下であれば、均一に混練できる。比Q/Nsは0.05〜1.8kg/h/rpmであるのがより好ましい。スクリュー回転数Nsは50rpm以上にするのが好ましい。スクリュー回転数Nsの上限は特に制限されないが、500rpm以下が好ましい。
押出機内のポリオレフィン樹脂溶液の温度の好ましい範囲は樹脂によって異なり、例えば、ポリエチレン組成物は140〜250℃、ポリプロピレンを含む場合は160〜270℃である。押出機内のポリオレフィン樹脂溶液の温度については押出機内部もしくはシリンダ部に温度計を設置することで間接的に把握し、目標温度となるようシリンダ部のヒーター温度や回転数、吐出量を適宜調整する。溶剤は混練開始前に加えてもよく、混練中に途中から添加する事もできる。溶融混練にあたってはポリオレフィン樹脂の酸化を防ぐために酸化防止剤を加えることが好ましい。酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT:分子量220.4)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、BASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えば、BASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等から選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。
(2)ゲル状成形物の形成工程
押出機内で溶融、混練されたポリオレフィン樹脂溶液は冷却されることにより溶剤を含んだ樹脂組成物を形成する。この際、スリット状の開口部を持つ口金(ダイ)から押出し、シート状の樹脂組成物を作ることが好ましいが、円形の開口部を持つブロウフィルム用口金からの押出しにより固化させる、いわゆるインフレーション法も用いることができる。
押出し温度は140〜250℃が好ましく、より好ましくは160〜240℃、更に好ましくは180〜230℃である。押し出し温度を140℃以上とすることにより口金部での圧力が上昇しすぎることを抑制でき、一方250℃以下とすることにより材料の劣化を抑制できる。押出速度は0.2〜20m/分が好ましい。シート状に押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却することによりゲル状シート(ゲル状成形物)が形成される。
冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができ、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。例えば、冷媒で表面温度20℃から40℃に設定した回転する冷却ロールにシート状に押し出されたポリエチレン樹脂溶液を接触させることにより未延伸ゲル状シートを形成できる。押出されたポリエチレン樹脂溶液は25℃以下まで冷却するのが好ましい。この時の冷却速度は50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。このように冷却することでポリオレフィン相が溶媒からミクロ相分離することができる。このことにより未延伸ゲル状シートが密な構造を取りやすくなり、また結晶化度が過度に上昇しすぎることを抑制でき、未延伸ゲル状シートが延伸に適した構造になる。
また冷却する方法として、シートの冷却効率向上、シート平面性向上を目的に、2種以上のロールを近接させ、一つのロール上に吐出した樹脂溶液を一つ以上のロールで押さえて、ポリオレフィン樹脂溶液を冷却する方法を用いても良い。また高速製膜でのゲル状シート形成を行うために、シートをロールに密着させるチャンバーを用いても良い。ポリオレフィン樹脂溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば、特公平06−104736号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
(3)第一の延伸工程
得られたシート状のゲル状成形物を少なくとも一軸方向に延伸する。第一の延伸によりポリオレフィン(ポリエチレン)結晶ラメラ層間の開裂が起こり、ポリオレフィン(ポリエチレン)相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。得られるフィブリルは三次元網目構造(三次元的に不規則に連結したネットワーク構造)を形成する。ゲル状成形物は成膜用溶剤を含むので、均一に延伸しやすい。
延伸方法としては、溶剤を含んだ状態での2段階以上の延伸が望ましい。各段階での延伸方法を特に限定しない。一軸延伸/同時二軸延伸、同時二軸延伸/一軸延伸も好ましい。生産性、投下投資コストから考え、一軸延伸/一軸延伸も好ましい。延伸する方向としてシート搬送方向(MD)とシート幅方向(TD)があるが、MD/TD、TD/MDの順序のいずれでもよい。ゲル状シートは、加熱後にテンター方式、ロール法、圧延法やこれらの組み合わせにより延伸することができる。
延伸倍率はゲル状成形物の厚さにより異なるが、一軸延伸では2倍以上にするのが好ましく、3〜30倍にするのがより好ましい。二軸延伸ではいずれの方向でも少なくとも3倍以上、すなわち面積倍率で9倍以上にすることにより、突刺強度が向上するため好ましい。面積倍率が9倍以上であれば延伸が十分であり、高弾性及び高強度のポリオレフィン製微多孔膜が得られる。面積倍率は好ましくは12倍以上、もっと好ましくは16倍以上、更に好ましくは18倍以上、最も好ましくは20倍以上である。一方面積倍率が400倍以下であれば、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じにくい。好ましくは45倍以下、更に好ましくは40倍以下、もっと好ましくは36倍以下、最も好ましくは32倍以下である。
第一の延伸の温度はポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上〜結晶分散温度+30℃の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度+10℃〜結晶分散温度+25℃の範囲内にするのがより好ましく、結晶分散温度+15℃〜結晶分散温度+20℃の範囲内にするのが特に好ましい。この延伸温度が結晶分散温度+30℃以下であれば、延伸後の分子鎖の配向性が良好となる。一方結晶分散温度以上であれば樹脂の軟化が十分で、延伸による破膜を防ぎ、高倍率の延伸ができる。ここで結晶分散温度とは、ASTM D4065に基づいて動的粘弾性の温度特性測定により求められる値を言う。ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン系樹脂を主成分に用いる場合、その結晶分散温度は、一般的に90〜100℃である。よってポリオレフィン樹脂が90質量%以上、ポリエチレン系樹脂からなる場合、延伸温度を通常90〜130℃の範囲内にし、好ましくは100〜125℃の範囲内にし、より好ましくは105〜120℃の範囲内にする。
延伸前にシートを予熱する場合には、後段の延伸温度よりも高温に設定してもよい。シートの実質温度を短時間で上昇させることができ、生産性向上に寄与する。
第一の延伸時に、温度の異なる多段階の延伸を施してもよい。この場合、前段の温度より後段の温度が高い二段階の異なる温度で延伸するのが好ましい。その結果、強度低下や幅方向の物性低下を伴わずに、細孔径が大きく、高透過性を示す高次構造のポリオレフィン製微多孔膜が得られる。限定的ではないが、前段と後段の延伸温度の差は5℃以上にするのが好ましい。前段から後段にかけて膜の温度を上げる際、(a)延伸を継続しながら昇温してもよいし、(b)昇温する間は延伸を止めて所定の温度に到達したのち後段の延伸を開始してもよいが、前者(a)が好ましい。いずれの場合でも、昇温の際に急熱するのが好ましい。具体的には0.1℃/秒以上の昇温速度で加熱するのが好ましく、1〜5℃/秒の昇温速度で加熱するのがより好ましい。言うまでもないが、前段及び後段の延伸温度並びにトータル延伸倍率は各々上記範囲内とすることが好ましい。
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより一層機械的強度に優れたポリオレフィン製微多孔膜が得られる。その方法としては、例えば特許第3347854号公報に開示の方法を用いることができる。
(4)成膜用溶剤除去工程
成膜用溶剤の除去(洗浄)には洗浄溶媒を用いる。ポリオレフィン相は成膜用溶剤と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒及びこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば特許第2132327号明細書や特開2002−256099号公報に開示の方法を利用することができる。
(5)膜の乾燥工程
成膜用溶剤除去により得られたポリオレフィン製微多孔膜は、加熱乾燥法、風乾法等により乾燥する。
(6)第二の延伸工程
乾燥後の膜を再び少なくとも一軸方向に延伸してもよい。第二の延伸は、膜を加熱しながら、第一の延伸と同様にテンター法やロール延伸により行うことができる。第二の延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。延伸する方向としてシート搬送方向(MD)とシート幅方向(TD)があるが、MD/TD、TD/MDの順序のいずれでもよい。
第二の延伸の温度は、ポリオレフィン製微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上〜結晶分散温度+40℃以下の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度+10℃以上〜結晶分散温度+40℃以下の範囲内にするのがより好ましい。第二の延伸の温度を結晶分散温度+40℃超にすると、透過性が低下したり、横方向(幅方向:TD方向)に延伸した場合のシート幅方向の物性のばらつきが大きくなったりする。特に透気度の延伸シート幅方向のばらつきが大きくなる。一方第二の延伸の温度が結晶分散温度未満ではポリオレフィン樹脂の軟化が不十分で、延伸において破膜しやすく、均一に延伸しにくい。ポリオレフィン樹脂がポリエチレン系樹脂からなる場合、延伸温度は例えば90〜140℃の範囲内にすればよく、好ましくは100〜140℃の範囲内にする。
第二の延伸の一軸方向への倍率は1.1〜3.0倍にするのが好ましい。例えば一軸延伸の場合、長手方向(機械方向:MD方向)又はTD方向に1.1〜3.0倍にする。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向に各々1.1〜3.0倍にする。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向の各延伸倍率は1.1〜3.0倍である限り、各方向で互いに異なってもよい。この倍率を1.0倍未満とすると、ポリオレフィン製微多孔膜の時間あたりの生産性が劣る。一方この倍率を3.0倍超とすると、ポリオレフィン製微多孔膜生産時に破膜しやすくなり、また孔径が大きくなり、電池に用いた場合に耐電圧性に課題が生じる場合がある。第二の延伸の倍率は1.2〜2.0倍にするのがより好ましい。
第二の延伸の速度は延伸軸方向に3%/秒以上にするのが好ましい。例えば一軸延伸の場合、MD方向又はTD方向に3%/秒以上にすることが好ましい。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向に各々3%/秒以上にすることが好ましい。延伸軸方向における延伸速度(%/秒)とは、膜(シート)が再延伸される領域において再延伸前の延伸軸方向の長さを100%とし、1秒間当りに伸ばされる長さの割合を表す。この延伸速度を3%/秒未満にすると、透過性が低下したり、TD方向に延伸した場合にシート幅方向における物性のばらつきが大きくなったりする。特に延伸シート幅方向における透気度のばらつきが大きくなりやすい。第二の延伸の速度は5%/秒以上にするのが好ましく、10%/秒以上にするのがより好ましい。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向の各延伸速度は3%/秒以上である限り、MD方向とTD方向で互いに異なってもよいが、同じであるのが好ましい。第二の延伸の速度の上限に特に制限はないが、破断防止の観点から300%/秒以下であるのが好ましい。
(7)熱処理工程
第二の延伸後の膜を熱処理する。熱処理方法としては、熱固定処理及び/又は熱緩和処理を用いればよい。特に熱固定処理により膜の結晶が安定化する。そのため第二の延伸により形成されたフィブリルからなる網状組織が保持され、細孔径が大きく、強度に優れたポリオレフィン製微多孔膜を作製できる。
熱固定処理は、例えば、ポリオレフィン製微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上〜融点以下の温度範囲内で行う。熱固定処理温度は、第二の延伸の温度±5℃の範囲内であるのが好ましく、これにより物性が安定化しやすい。この温度は第二の延伸の温度±3℃の範囲内であるのがより好ましい。熱固定処理温度は、第二の延伸を行わない場合においてもポリオレフィン製微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上〜融点以下の温度範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは、90℃〜135℃がより好ましい。熱固定処理は、テンター方式、ロール方式又は圧延方式により行う。
熱緩和処理方法としては、例えば特開2002−256099号公報に開示の方法を利用できる。
ポリエチレン微多孔膜(ポリオレフィン製微多孔膜)は単層膜であってもよいし、分子量あるいは平均細孔径が互いに異なる二層以上からなる層構成を有してもよい。二層以上からなる層構成の場合、少なくとも一つの最外層のポリエチレン系樹脂(ポリオレフィン樹脂)の分子量、および分子量分布が前記範囲を満足することが好ましい。
二層以上からなる多層ポリエチレン微多孔膜(多層ポリオレフィン製微多孔膜)の製造方法としては、例えば、A層及びB層を構成する各ポリエチレン(ポリオレフィン樹脂)を成形用溶剤と加熱溶融混練し、得られた各樹脂溶液をそれぞれの押出機から1つのダイに供給し、一体化させて共押出する方法や各層を構成するゲル状シートを重ね合わせて熱融着する方法、それぞれ延伸後に熱融着させる方法、溶剤除去後に熱融着させる方法のいずれでも作製できる。共押出法の方が、層間の接着強度を得やすく、層間に連通孔を形成しやすいため高い透過性を維持しやすく、生産性にも優れているため好ましい。
以上のような製造方法により、高い突刺強度、引張強度を達成しつつ、高い引張伸度と低い熱収縮率を両立したポリオレフィン製微多孔膜を得ることができる。
限定的ではないが、第一の延伸、成膜用溶剤除去、乾燥処理、第二の延伸及び熱処理を一連のライン上で連続的に施すインライン方式を採用するのが好ましい。ただし必要に応じて乾燥処理後の膜を一旦巻きフィルムとし、これを巻き戻しながら第二の延伸及び熱処理を施すオフライン方式を採用してもよい。
(8)その他の工程
(a)洗浄前、洗浄後及び第二の延伸工程中の熱固定処理工程、熱ロール処理工程並びに熱溶剤処理工程
第一の延伸を施したゲル状成形物から成膜用溶剤を除去する前に、熱固定処理工程、熱ロール処理工程及び熱溶剤処理工程のいずれかを設けてもよい。また洗浄後や第二の延伸工程中の膜に対して熱固定処理する工程を設けてもよい。
(i)熱固定処理
洗浄前及び/又は後の延伸ゲル状成形物、並びに第二の延伸工程中の膜を熱固定処理する方法は上記と同じでよい。
(ii)熱ロール処理工程
洗浄前の延伸ゲル状成形物の少なくとも一面に熱ロールを接触させる処理(熱ロール処理)を施してもよい。熱ロール処理として、例えば特開2007−106992号公報に記載の方法を利用できる。特開2007−106992号公報に記載の方法を利用すると、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度+10℃以上〜ポリオレフィン樹脂の融点未満に温調した加熱ロールに、延伸ゲル状成形物を接触させる。加熱ロールと延伸ゲル状成形物との接触時間は0.5秒〜1分間が好ましい。ロール表面に加熱オイルを保持した状態で接触させてもよい。加熱ロールとしては、平滑ロール又は吸引機能を有してもよい凹凸ロールのいずれでもよい。
(iii)熱溶剤処理工程
洗浄前の延伸ゲル状成形物を熱溶剤に接触させる処理を施してもよい。熱溶剤処理方法としては、例えば国際公開第2000/020493号に開示の方法を利用できる。
(b)膜の架橋処理工程
熱処理後のポリオレフィン製微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等を用いた電離放射による架橋処理を施してもよく、これによりメルトダウン温度を向上させることができる。この処理は、0.1〜100Mradの電子線量及び100〜300kVの加速電圧により行うことができる。
(c)親水化処理工程
熱処理後のポリオレフィン製微多孔膜を、モノマーグラフト処理、界面活性剤処理、コロナ放電処理、プラズマ処理等により親水化してもよい。
(d)表面被覆処理工程
熱処理後のポリオレフィン製微多孔膜は、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂多孔質体、又はPA(ポリアミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)等の多孔質体を表面に被覆することにより、電池用セパレータとして用いた場合のメルトダウン特性が向上する。第二の延伸後のポリオレフィン製微多孔膜の少なくとも一面にPP(ポリプロピレン)を含む被覆層を形成してもよい。被覆用PPとして、例えば国際公開第2005/054350号に開示のものが挙げられる。
高い耐衝撃性、突刺強度と低熱収縮率を有するポリオレフィン製微多孔膜を製造するためには、融点が133℃未満、重量平均分子量が1.0×10以上かつ分子量分布が18.0未満の超高分子量ポリエチレンを30質量%以上含むことと、ポリオレフィン製微多孔膜全体に占める分子量が233万以上の成分が10質量%以上であることと、溶媒抽出前における延伸総合面積倍率を20倍以上45倍以下とすることと、を同時に満たすことが好ましい。これにより、突刺強度及び引張強度が改善され、高い引張伸度と低い熱収縮率を同時に達成することができる。例えば突刺強度において6000mN(膜厚20μm換算)以上、平均引張強度において150MPa以上、平均引張伸度が185%、平均固体熱収縮率が10%以下、熱機械分析(TMA)により求めるシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率が14%以下となるポリオレフィン製微多孔膜を得ることができることから好ましい。
本発明の好ましい実施態様によるポリオレフィン製微多孔膜は、次の物性を有する。
(1)膜厚(μm)
ポリオレフィン製微多孔膜の膜厚は、近年は電池の高密度高容量化が進んでいるため、3〜25μmが好ましく、より好ましくは3〜22μm、さらに好ましくは5〜20μmである。膜厚を3μm以上とすることにより、絶縁性を担保したセパレータを得ることができる。25μm以下にすることで安全性と高出力、高容量化に適している。
(2)透気度(sec/100cm)及び正規化透気度(sec/100cm/μm)
正規化透気度(ガーレー値)は、100sec/100cm/μm以下が好ましい。正規化透気度が100sec/100cm/μm以下であれば、電池に用いたときに、良好なイオン伝導性を有する。また透気度は20sec/100cm以上が好ましい。ポリオレフィン製微多孔膜が電池内に用いられた場合に、膜厚に依存せずに透気度が低すぎる、即ち透過性が高すぎる場合には、電池製造時に短絡が発生しやすく、電池として使用した場合においても保存時に放電が進行しやすいため、透気度は、20秒/100cm以上が好ましい。透気度及び正規化透気度は、樹脂組成(超高分子量ポリエチレンなどポリエチレン混合物の融点、分子量分布)、溶媒抽出前における延伸温度および延伸倍率、洗浄後の乾式延伸温度および乾式延伸倍率、樹脂組成により調整することが可能である。
(3)空孔率(%)
空孔率は25〜80%が好ましい。空孔率が25%以上であると良好な透気度、正規化透気度が得られる。空孔率が80%以下であると、ポリオレフィン製微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合の強度が十分であり、短絡を抑えることができる。空孔率は、より好ましくは25〜60%、更に好ましくは25〜50%である。このような空孔率にある時、引張強度と引張伸度の両立に適している。
(4)20μm換算突刺強度(mN)
突刺強度は膜厚20μm換算で6000mN(612gf)以上であることが好ましい。膜厚20μm換算の突刺強度が6000mN以上であれば、ポリオレフィン製微多孔膜を電池用セパレータとして電池に組み込んだ場合に、電池製造時の収率の低下や保存安定性を確保する上で好ましい。
(5)引張強度(MPa)、平均引張強度(MPa)
引張強度はMD方向及びTD方向のいずれにおいても80MPa以上であることが好ましい。引張強度がこの範囲であれば、破膜の心配が抑えられる。MD及びTD方向における引張強度は110MPa以上が好ましく、より好ましくは140MPa以上、更に好ましくは160MPa以上である。引張強度が上記好ましい範囲であると、電池に衝撃が加わった場合に破膜しにくい傾向がある。ポリオレフィン製微多孔膜の各方向の引張強度は実施例に記載の測定方法により求めることができる。
平均引張強度は、MD方向の引張強度(TMD)、TD方向の引張強度(TTD)それぞれを用いて下記計算式(1)より算出する。
平均引張強度(MPa)=(TMD×TTD)0.5・・・・・式(1)
平均引張強度は150MPa以上である必要があり、好ましくは155MPa以上、より好ましくは160MPa以上、更に好ましくは165MPa以上である。平均引張強度を、150MPa以上とすることにより外力に対して変形しにくくなる効果が得られる。平均引張強度の上限値に特に制限はないが、500MPa以下が好ましく、400MPa以下がより好ましい。
平均引張強度は、ポリオレフィン製微多孔膜の原料として、1)超高分子量ポリエチレン比率、2)超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量、3)超高分子量ポリエチレンの分子量分布、4)超高分子量ポリエチレンの融点、これらの中から幾つかを適宜組み合わせて調節することにより調整することができる。また延伸倍率を制御することでも調整できる。超高分子量ポリエチレン比率や重量平均分子量も高く、分子量分布も広く、低融点となることで、平均引張強度は高くなりやすい。延伸倍率は高い方が平均引張強度は高くなりやすい。
(6)引張伸度(%)、平均引張伸度(%)
引張伸度はMD方向及びTD方向のいずれにおいても100%以上が好ましい。これにより電池製造時、及び電池に外力が働いた場合にセパレータの破膜の可能性が低くなる。MD方向及びTD方向における引張伸度は好ましくは130%以上、より好ましくは140%以上、更に好ましくは160%以上である。引張伸度が上記好ましい範囲にあると、電池に衝撃が加わった場合にエネルギーを吸収し易い傾向にある。ポリオレフィン製微多孔膜の各方向の引張伸度は実施例に記載の測定方法により求めることができる。
また平均引張伸度は、MD方向の引張伸度(EMD)、TD方向の引張伸度(ETD)を用いて下記計算式より算出することができる。
平均引張伸度(%)=(EMD×ETD)0.5・・・・・式(2)
平均引張伸度は、185%以上である必要があり、好ましくは190%以上、より好ましくは195%以上、更に好ましくは200%以上である。平均引張伸度を、185%以上とすることにより衝撃を吸収する効果が得られる。平均引張伸度の上限値に特に制限はないが、500%以下が好ましく、400%以下がより好ましい。
平均引張伸度は、ポリオレフィン製微多孔膜の原料として、1)超高分子量ポリエチレン比率、2)超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量、3)超高分子量ポリエチレンの分子量分布、4)超高分子量ポリエチレンの融点、これらの中から幾つかを適宜組み合わせて調節することにより調整することができる。また延伸倍率を制御することでも調整できる。超高分子量ポリエチレン比率や重量平均分子量も高く、分子量分布も広く、低融点となることで、平均引張伸度は高くなりやすい。一方、延伸倍率は低い方が平均引張伸度は高くなりやすい。
(7)105℃で8時間加熱した後の熱収縮率(固体熱収縮率)(%)
105℃で8時間加熱した後のMD方向の熱収縮率(HSMD)及びTD方向の熱収縮率(HSTD)は、ともに10%未満であることが好ましい。熱収縮率が10%未満であれば、無機コート処理を施すなどにより、ポリオレフィン製微多孔膜を大型のリチウム電池用セパレータとして用いた場合であっても、電極間の短絡が発生することを抑制できる。電池の発熱時においても電極間の短絡を抑えるためには、熱収縮率はMD方向及びTD方向ともにより好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、もっと好ましくは5%未満である。
熱収縮率は、特にTD方向に5%未満であるのが好ましい。その理由として、捲回式電池(電極とセパレータであるポリオレフィン製微多孔膜を重ねて、巻き取ることで製造する電池の型式)において、MD方向への収縮は抑制可能であるが、ポリオレフィン製微多孔膜の幅方向であるTD方向にはあまり応力が働かず、電池内の温度が上がった場合に収縮し易いためである。ポリオレフィン製微多孔膜の熱収縮率は実施例に記載の測定方法により求めることができる。
MD熱収縮率(HSMD)とTD熱収縮率(HSTD)を下記式(3)にて平均化した(平均固体熱収縮率と表現する)。
平均固体熱収縮率(%)=(HSMD×HSTD)0.5・・・・・式(3)
平均固体熱収縮率は10.0%以内である。より好ましくは6.0%以内、もっと好ましくは5.0%以内である。積層タイプのリチウムイオン電池に用いられる場合には平均化した熱収縮率が安全性に影響する可能性がある。平均固体熱収縮率は、延伸温度や熱処理温度を調整することで、調節することができる。
(8)シャットダウン温度(SDT)(℃)およびメルトダウン温度(MDT)(℃)
シャットダウン(SD)温度は140℃以下が好ましく、より好ましくは138℃以下、更に好ましくは136℃以下である。シャットダウン温度がこの範囲の場合には、より低温で孔が閉塞し、リチウムイオンの移動を遮断することで安全に電池機能を停止することができる。
メルトダウン(MD)温度は145℃以上が好ましく、より好ましくは147℃以上、更に好ましくは149℃以上である。またメルトダウン温度とシャットダウン温度の差が、大きいほど、好ましい。メルトダウン温度とシャットダウン温度の差が大きいほど、電池内の異常発熱時にリチウムイオンの流れが止まった際に、電池内温度の過加熱(オーバーシュート)が発生してもリチウムイオン伝導を再開させることなく、電池機能を止めることができる。メルトダウン温度とシャットダウン温度の差は、好ましくは10℃以上、より好ましくは12℃以上、更に好ましくは13℃以上である。
シャットダウン温度は、原料の融点に強く影響をうける。また延伸倍率、延伸温度を調節することで、調整することができる。一方、メルトダウン温度も原料の融点、超高分子量ポリエチレンの分子量を調節することで調整できる。重量平均分子量が100万を超える超高分子量ポリエチレンを用いている場合には、ポリエチレンの融点を超えた140℃以上のメルトダウン温度を達成できる。超高分子量ポリエチレンの特徴である高い溶融粘度が原因と考えられる。
(9)平均タフネス(MPa%)
平均引張強度、平均引張伸度を用いて下記式(4)より平均タフネスを算出する。
平均タフネス(MPa%)=平均引張強度(MPa)×平均引張伸度(%)・・式(4)
衝撃を受けた際の吸収エネルギーを検証する上で、面でエネルギーを吸収することからMD、TD方向の強度、伸度を平均化することで指標化した。平均タフネスは2×10MPa%以上が好ましく、より好ましくは2.4×10MPa%以上、更に好ましくは2.8×10MPa%以上、もっと好ましくは3.0×10MPa%以上、より更に好ましくは3.2×10MPa%以上である。
(10)補正タフネス(MPa%)
式(4)にて算出される平均タフネスを用いて、下記式(5)より補正タフネスを算出する。
補正タフネス(MPa%)=平均タフネス(MPa%)×(25−MD固体熱収縮率)/25・・・・・・式(5)
(11)耐衝撃強度(kN/m
電池内でポリオレフィン製微多孔膜にかかる衝撃を模擬して、以下のような実験により算出する。紙枠(外枠:75(mm)×80(cm)、内枠:35(mm)×50(cm))に、60(mm)×65(mm)に切り出したポリオレフィン製微多孔膜を同じ方向が長くなるように固定して測定した。ポリオレフィン製微多孔膜の四方を紙枠に固定する際、たるみが生じないように固定する。衝撃を加える手段として、JIS K 5600−5−3 1999に規定する塗膜の機械的性質を評価する「耐おもり落下性試験(デュポン衝撃試験)」に用いる機器を使用することができる。上記機器に限定するわけではなく、ポリオレフィン製微多孔膜を紙枠に固定した後に上部より所定のおもりを落下させ、破膜しない上限の高さを求めればよい。
耐おもり落下性試験機では、試験片の耐衝撃強度にあわせて、押し子の半径とおもりの質量を調整する。上記機械は5cm刻みで高さを定めている場合が多く、最小の5cmで破膜しないように条件を設定する。破膜しない場合に、おもり高さを一段階高く(5cm上げる)した後、再度試験を行い、破膜した場合には高さを一段階下げて、試験を繰り返す。破膜しない最大高さ(H(m))を算出する。最も軽いおもりにて最小の高さでも破膜する場合には、用いる押し子の半径を大きくすることで最低高さでも破膜しない条件に調整する。
通常の耐おもり落下性試験においては、50%破壊高さとして、破膜しない最大高さと破膜する最小高さの平均を用いるが、ポリオレフィン製微多孔膜の破壊挙動を評価する上で、100%破膜しない高さ、即ち破膜しない最大高さを測定する。破壊されないことが電池の安全を確保する上で重要なためである。おもり質量(W(kg))及び押し子と受け台の接触面積(S)を用いることで、耐衝撃強度を算出することができる(式(6))。
耐衝撃強度(kN/m)=W×H/S・・・・・式(6)
接触面積は押し子半径、受け台深さから計算で算出することも可能であり、また試験後の破膜しなかった試験片を用いて、接触面積をもとめてもよい。
一例として、解析方法を示す。押し子半径をd、受け台深さをL、押し子先端を半径rの球とし、押し子先端と受け台の接触する部分の角度をθとすると、
L=r×(1−cosθ)
2d=2×r×sinθ
となる。C=d/Lとすると、
sinθ=2/C×(C/(C+1))
と表すことができる。これより、r、θを求めることができ、受け台の接触面積Sは
S=2×π×r×(1−cosθ)
となり、受け台の深さと押し子半径から受け台接触面積を計算することができ、式(6)より耐衝撃強度を求めることができる。
耐衝撃強度は、引張強度、引張伸度に影響を受けやすく、一般には式(4)で計算した平均タフネスで整理できるように考えられる。しかし耐衝撃性の改良を進める中で、驚くべきことにタフネスでは耐衝撃性を説明することができず、MD固体熱収縮率(MD方向の固体熱収縮率)を用いて補正した補正タフネスとの間に強い相関があることを見出した。このような物性が発現するメカニズムは検討中であるが、衝撃が加わった際にポリオレフィン製微多孔膜面内に収縮する力が働き、面内収縮力が小さいほど、耐衝撃性に優れると考えられる。耐衝撃試験をポリエチレン結晶の分子運動性の低い温度領域で行っていることから、固体熱収縮率との間と関係性を持ったと考えられる。耐衝撃性に固体熱収縮率が影響することは驚きであり、ポリオレフィン製微多孔膜へ衝撃が加わった際の挙動が複雑であり、引張強度及び引張伸度だけでは制御できないことが明らかとなった。
(12)熱機械分析(TMA法)から求めたシャットダウン(SD)温度におけるTD方向の熱収縮率(%)
熱機械分析(TMA法)から求めたシャットダウン(SD)温度におけるTD方向の熱収縮率(%)は、14%以下である。好ましくは13%以下、より好ましくは12%以下、更に好ましくは11%以下、最も好ましくは10%以下である。SD機能は電池が異常状態におかれたときに電池機能を安全に停止させる機能であり、リチウムイオン2次電池において重要な役割を担っている。この機能が働くとき、ポリオレフィン製微多孔膜は、正極、負極間のリチウムイオンの移動を停止させている。しかしこのとき電極間に用いられるポリオレフィン製微多孔膜が収縮した場合には、電極間で短絡が発生し、電池の異常反応を停止させることができない。特に角型電池に電極とポリオレフィン製微多孔膜が捲回されて用いられる場合には、長手方向(機械方向とも呼ぶ。MD方向と表現する)は捲回されているため、拘束されているが、幅方向(TD方向)にはポリオレフィン製微多孔膜を拘束する力が弱く、ポリオレフィン製微多孔膜付近の温度が上昇した場合に幅方向で収縮し、電極間で短絡する可能性が高まる恐れがある。
シャットダウンするときにはポリオレフィン製微多孔膜の一部の樹脂が融解するため、収縮が起こりやすくなる。このため、シャットダウンする際の収縮率は低い方が好ましい。ポリオレフィン製微多孔膜の他の機能、例えば低い透気度、高い突刺強度を示すポリオレフィン製微多孔膜においては収縮率は高くなる傾向にあり、両立することが難しい。ポリオレフィン製微多孔膜のTMA法から求めたSD温度におけるTD収縮率(%)は実施例に記載の測定方法により求めることができる。
TMA法から求めたSD温度におけるTD方向の熱収縮率は、ポリオレフィン製微多孔膜の原料として、1)超高分子量ポリエチレン比率、2)超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量、3)超高分子量ポリエチレンの分子量分布、4)超高分子量ポリエチレンの融点、これらの中から幾つかを適宜組み合わせて調節することにより調整することができる。また熱処理温度やポリオレフィン製微多孔膜のSDTを制御することでもTMA法から求めたSD温度におけるTD方向の熱収縮率を調整できる。
分子量が233万以上の超高分子量ポリエチレン成分によって構成される絡み合いがポリオレフィン製微多孔膜内で均一に構成されると共に、重量平均分子量、分子量分布、融点を制御することで超高分子量ポリエチレン由来の非晶成分量を制御できる。適切な延伸条件と組み合わせることにより、適切な非晶領域の変形が容易になり、引張強度と引張伸度の両立を達成することができる。超高分子量ポリエチレンを含めたポリエチレン系樹脂の結晶性に影響を受ける突刺強度と熱収縮率、即ち、固体熱収縮率及びシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率の両立も、延伸条件と超高分子量ポリエチレンの構造(融点、分子量分布)を適切に制御することで可能になる。
[電池用セパレータ及び二次電池]
本発明は、上述のポリオレフィン製微多孔膜を用いた電池用セパレータ、及び該電池用セパレータを用いた二次電池にも関する。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
ポリオレフィン製微多孔膜の物性は以下の方法により測定した。
(1)膜厚(μm)
ポリオレフィン製微多孔膜の95mm×95mmの範囲内における5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック、接触圧0.01N、10.5mmφプローブを用いた)により測定し、平均値を膜厚T(μm)とした。
(2)20μm換算透気度(sec/100cm
膜厚T(μm)のポリオレフィン製微多孔膜について、JIS P−8117:2009に準拠して、透気度計(旭精工株式会社製、EGO−1T)を用いて透気度(sec/100cm)を測定した。下記の式により、膜厚を20μmとして換算したときの20μm換算透気度(sec/100cm)を算出した。
式:20μm換算透気度(sec/100cm)=透気度(sec/100cm)×20(μm)/膜厚T(μm)
(3)空孔率(%)
ポリオレフィン製微多孔膜を5cm×5cmの大きさに切り出し、その体積(cm)と重量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
式:空孔率=((体積−重量/膜密度)/体積)×100
ここで、膜密度は0.99とした。また、体積の算出には、前述の(1)で測定した厚み(膜厚)を使用した。
(4)突刺強度(mN)および20μm換算突刺強度(mN/20μm)
突刺強度は、直径1mm(先端は0.5mmR)の針を用い、速度2mm/secで膜厚T(μm)のポリオレフィン製微多孔膜を突刺したときの最大荷重値(P)とした。下記の式により、膜厚を20μmとして換算したときの20μm換算突刺強度を算出した。
式:P=(P×20)/T
(5)引張強度(MPa)および平均引張強度(MPa)
引張強度は、幅10mmの短冊状試験片を用いてASTM D882により測定した。MD方向の引張強度(TMD)、TD方向の引張強度(TTD)を平均化した平均引張強度(MPa)は、式(1)により求めた。
平均引張強度(MPa)=(TMD×TTD)0.5・・・・・式(1)
(6)引張伸度(%)および平均引張伸度(%)
引張伸度は、幅10mmの短冊状試験片をポリオレフィン製微多孔膜の幅方向の中心部分より3点取り、各々についてASTM D882により測定した測定結果の平均値を算出することにより求めた。MD方向の引張伸度(EMD)、TD方向の引張伸度(ETD)を平均化した平均引張伸度(%)は、式(2)により求めた。
平均引張伸度(%)=(EMD×ETD)0.5・・・・・式(2)
(7)105℃熱収縮率(105℃で8時間加熱した後に測定した固体熱収縮率)(%)及び平均105℃熱収縮率(平均固体熱収縮率)(%)
ポリオレフィン製微多孔膜を50mm×50mmの大きさに切り出し、初期長さを測定後、そのサンプルの各辺の中間点に印をつけ、サンプルを紙で挟んだ状態で、105℃のオーブン中に8時間静置した。オーブンからサンプルを取出し冷却した後、MD方向及びTD方向での印間の長さ(mm)を測定した。MD105℃熱収縮率(HSMD)及びTD105℃熱収縮率(HSTD)はサンプル3枚を測定し、下記式にて算出した値の平均値とした。
式:105℃熱収縮率(%)=〔(初期印間の長さ(mm)−加熱後の印間の長さ(mm))/初期印間の長さ(mm)〕×100
MD105℃熱収縮率、TD105℃熱収縮率を平均化した平均105℃熱収縮率(%)は、式(3)により求めた。
平均105℃熱収縮率(平均固体熱収縮率)(%)=(HSMD×HSTD)0.5・・・・・式(3)
(8)シャットダウン温度(SDT)及びメルトダウン温度(MDT)(℃)
シャットダウン温度およびメルトダウン温度は、国際公開第2007/052663号に開示されている方法によって測定した。この方法に従い、ポリオレフィン製微多孔膜を30℃の雰囲気中にさらして、5℃/分の速度で昇温し、その間に膜の透気度を測定する。ポリオレフィン製微多孔膜の透気度が最初に100,000秒/100cmを超える時の温度を、ポリオレフィン製微多孔膜のシャットダウン温度と定義した。メルトダウン温度は、前記シャットダウン温度に到達後さらに昇温を継続しながら測定した透気度が再び100,000秒/100cmとなる温度と定義した。ポリオレフィン製微多孔膜の透気度は、透気度計(旭精工株式会社製、EGO−1T)を用いてJIS P8117:2009に従って測定した。
(9)耐衝撃強度(kN/m
電池内でポリオレフィン製微多孔膜にかかる衝撃を模擬した、以下のような実験により算出した。耐衝撃強度は、紙枠(外枠:75(mm)×80(cm)、内枠:35(mm)×50(cm))に、60(mm)×65(mm)に切り出したサンプルを同じ方向が長くなるように固定して測定した。衝撃試験機として株式会社東洋精機製作所製デュポン衝撃試験機H−50を用いた。押し子として半径12.7mm、6.3mm、4.7mmのものから選び、測定を行った。破膜しない最大高さとおもり質量を記録した。
ポリオレフィン製微多孔膜を紙枠に四方を固定する。この際、たるみが生じないように固定する。衝撃を加える手段として、JIS K 5600−5−3 1999に規定する塗膜の機械的性質を評価する「耐おもり落下性試験(デュポン衝撃試験)」に用いる機器を使用することができる。上記機器に限定するわけではなく、ポリオレフィン製微多孔膜を紙枠に固定した後に上部より所定のおもりを落下させ、破膜しない上限の高さを求めればよい。
耐おもり落下性試験機では、試験片の耐衝撃強度にあわせて、押し子の半径とおもりの質量を調整する。上記機械は5cm刻みで高さを定めている場合が多く、最小の5cmで破膜しないように条件を設定する。破膜しない場合に、おもり高さを一段階高く(5cm上げる)した後、再度試験を行い、破膜した場合には高さを一段階下げて、試験を繰り返す。破膜しない最大高さ(H(m))を算出する。最も軽いおもりにて最小の高さでも破膜する場合には、用いる押し子の半径を大きくすることで最低高さでも破膜しない条件に調整する。
通常の耐おもり落下性試験においては、50%破壊高さとして、破膜しない最大高さと破膜する最小高さの平均を用いるが、ポリオレフィン製微多孔膜の破壊挙動を評価する上で、100%破膜しない高さ、即ち破膜しない最大高さを測定する。破壊されないことが電池の安全を確保する上で重要なためである。おもり質量(W(kg))及び押し子と受け台の接触面積(S)を用いることで、耐衝撃強度を算出することができる(式(6))。
耐衝撃強度(kN/m2)=W×H/S・・・・・式(6)
(10)融点(℃)
原料樹脂を測定パンに封入し、PARKING ELMER製 PYRIS DIAMOND DSCを用いて、230℃まで昇温して完全に溶融させたのち、230℃で3分間保持し、10℃/分の速度で30℃まで降温させた。例えばポリエチレンの場合には30℃から230℃まで10℃/分の速度で昇温させ、230℃で3分間保持し、10℃/分の速度で30℃まで降温させた。これを1回目の昇温として、同じ測定を更に2度繰り返して、2回目の昇温時の吸熱ピークより融点(Tm)を求めた。
(11)ポリエチレン分子量及び分子量分布
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)および、高密度ポリエチレン(HDPE)の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(MWD)は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Agilent製高温GPC装置PL−GPC220
・カラム:Agilent製PL1110−6200(20μm MIXED−A)×2本
・カラム温度:160℃
・溶媒(移動相):1,2,4−トリクロロベンゼン
・溶媒流速:1.0mL/分
・試料濃度:0.1wt%(溶解条件:160℃/3.5H)
・インジェクション量:500μL
・検出器:Agilent製示差屈折率検出器(RI検出器)
・粘度計:Agilent製粘度検出器
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いたユニバーサル検量線法にて作成した。
(12)熱機械分析(TMA法)から求めたSD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)
熱機械的分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製 TMA/SS 6100)を用いて、温度を昇温走査し収縮荷重(mN)の測定を行った。測定条件は、サンプル形状;幅3mm×長さ10mm、荷重:19.6mN、温度走査範囲30〜210℃、昇温速度;10℃/minとした。測定はTD方向が測定方向になるようにサンプリングして実施した。110℃以上、最大収縮温度以下の範囲において、変位の変曲点を求めて、シャットダウン温度とし、その時の変位からシャットダウン時の収縮率として、下記式を用いて算出した。以上の測定をTDについて同じポリオレフィン製微多孔膜中の異なる箇所で、各3点ずつ測定を実施した。
式:SD温度におけるTD方向収縮率(%)=〔(サンプル初期長(mm)−SD温度におけるTMA変位量(mm))/サンプル初期長(mm)〕×100
〔実施例1〕
(ポリオレフィン製微多孔膜の製造)
重量平均分子量(Mw)が3.32×10、分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))が全体の31.6質量%、分子量分布(MWD)が16.8、融点(Tm)が127℃の超高分子量ポリエチレン(PE1)40質量%と重量平均分子量4.97×10、分子量分布が5.7、融点が135℃の高密度ポリエチレン(PE2)60質量%とからなるポリエチレン組成物を調製した。ポリエチレン組成物は分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))が組成物全体の18.2%を占めた。ポリエチレン組成物100質量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン‐3‐(3,5‐ジターシャリーブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロピオネート]メタン0.375質量部をドライブレンドし、ポリエチレン組成物を作製した。
得られたポリエチレン組成物25質量部を二軸押出機に投入した。さらに、流動パラフィン75質量部を二軸押出機のサイドフィーダーから供給し、溶融混練して、押出機中にてポリエチレン樹脂溶液を調製した。続いて、この押出機の先端に設置されたダイから210℃でポリエチレン樹脂溶液を押し出し、内部冷却水温度を25℃に保った冷却ロールで引き取りながら未延伸ゲル状シートを成形した。冷却された押出物に、次いで、同時二軸延伸を行った。同時二軸延伸は、順に予熱処理、延伸を行い、さらに熱固定処理を行った。予熱温度、延伸温度、熱固定温度は115℃に制御し、同時二軸延伸はTD、MDとも延伸倍率5倍でテンターによって行った。延伸されたゲル状シートは20cm×20cmのアルミニウムの枠に固定され、25度の塩化メチレンに浸漬された後、100rpmの振動を3分間与えることで流動パラフィンが取り除かれ、その後、室温の送風にて乾燥した。この間膜のサイズは一定であり、続いて、膜を固定した状態で125℃で10分間熱処理され、最終的なポリオレフィン製微多孔膜が形成された。
〔実施例2〜8、比較例1〜6〕
樹脂組成など表1、2に記載されている条件に変更し、実施例1と同じ手順によりポリオレフィン製微多孔膜を得た。
上記実施例及び比較例について、原料ポリオレフィン樹脂の物性及びプロセス条件を表1に、得られたポリオレフィン製微多孔膜の物性を表2に記載した。
Figure 2020164858
Figure 2020164858
[考察]
以上の結果を記載した表1、2に基づいて分かるように、実施例1から8が示した結果は、比較例が示した結果に比べ、高突刺強度、高引張強度、高引張伸度を達成しつつ、105℃における固体熱収縮率、130℃近辺のシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率を低下させることを達成した。これらの特性を有することにより、電池内にて衝撃が加わった際に電極間の短絡を防ぐことが可能なポリオレフィン製微多孔膜を得ることができた。
実施例1から5、7、8において、融点が133℃未満、重量平均分子量が1.0×10以上の超高分子量ポリエチレンを30質量%以上含むことにより、ポリオレフィン製微多孔膜中に分子量が233万以上の超高分子量成分(f(≧2330k))を10質量%以上含む原料を用いて、溶媒抽出前における延伸総合面積倍率を20倍以上45倍以下とすることで、高い引張強度と高い引張伸度を両立し、また高い突刺強度と低い熱収縮率を同時に達成することができる。融点が133℃未満の超高分子量ポリエチレンは、エチレン以外のモノマーとの共重合体であるため、非晶領域での絡み合いが多くなり、引張強度と引張伸度を共に改善することができたと考えられる。
また、融点が135℃となる超高分子量ポリエチレンを用いる場合においても、重量平均分子量を3.0×10以上、分子量分布を14.0以上とすることにより、絡み合いを増やすことができ、同様な効果が得られることが判明した(実施例6)。このようなポリオレフィン製微多孔膜では、高い引張強度と高い引張伸度が得られ、高いタフネスを達成できるだけでなく、低い熱収縮率を達成できたことから、タフネスだけでは到達できない高い衝撃強度を発揮することができた。
また、シャットダウンの際の熱収縮率である、TMA法から求めたSD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)も同時に12%以下を達成した。シャットダウン時には一部の樹脂が融解して進行するが、絡み合い成分が多い実施例1〜8においては、シャットダウン時の融解に由来する収縮応力に対し、超高分子量ポリエチレン成分の絡み合いが抵抗となり、シャットダウン時の収縮挙動が抑制されたと考えられる。
比較例1、4、5ではポリオレフィン製微多孔膜全体の中の分子量233万以上の成分が10質量%に満たないため、高い引張強度と高い引張伸度を同時に達成することができなかった。比較例2では、ポリオレフィン製微多孔膜中に分子量233万以上の超高分子量成分を10質量%以上含むが、実施例6のように重量平均分子量が3.0×10以上でなく、融点も132℃を超える133℃であるため、ポリエチレン間の絡み合いが不十分となり、高い引張強度と高い引張伸度を達成できなかったと考えられる。先に説明したように超高分子量ポリエチレンにおいても、重合した炭素数あたりの分岐数により融点は影響を受けるが、分子量が著しく大きいため、超高分子量ポリエチレン一分子における分岐数は大きくなり、粘弾性挙動にも大きな違いをもたらし、ポリオレフィン製微多孔膜としての特性に大きな影響をもたらしたと推測される。延伸倍率を上げることで引張強度は改善するが、伸度が低下する(比較例3、6)ため、引張強度と引張伸度を同時に改善することが難しい。
TMA法から求めたSD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)は、実施例1〜8において、比較例1〜6に比べて低い傾向となった。ポリオレフィン製微多孔膜を構成する成分以外に、製膜条件や得られたポリオレフィン製微多孔膜のSD温度(これ自体もポリオレフィン製微多孔膜を構成する成分や製膜条件により変化する)にも影響を受ける。シャットダウン温度(SDT)と超高分子量ポリエチレン(表中ではPE1と表現)の融点(Tm)との温度差(SDT−Tm(PE1))と、超高分子量ポリエチレン(表中ではPE1と表現)の融点(Tm)と熱処理温度との温度差(熱処理温度−Tm(PE1))を表2に記した。
SDT−Tm(PE1)が大きいほど、シャットダウン温度において超高分子量ポリエチレンの融解する量が多くなり、超高分子量ポリエチレンの溶融粘度の影響を強く受ける。一方、熱処理温度−Tm(PE1)が小さいほど、製膜時に超高分子量ポリエチレン成分が十分に緩和され、熱収縮率の低下につながると考えられる。実施例1〜3においては、SDT−Tm(PE1)が大きく、また用いている超高分子量ポリエチレンの融点が低く(絡み合い特性が強まると推測)、分子量分布も広い(より高分子量成分が増加する)ため、SD温度時に超高分子量ポリエチレンが一部融解し、絡み合い効果により収縮を抑制しやすいと考えられる。また熱処理温度−Tm(PE1)が小さいことから、超高分子量ポリエチレンに由来する構造の緩和が進行し、SD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)が小さくなったと考えられる。実施例4、6〜8において、SD温度におけるTD方向の熱収縮率がやや高めとなった理由はこれらのいずれかの効果が小さいためと推測される。
同様な傾向は比較例においても観察され、比較例5、6においてもこれら効果により、SD温度におけるTD方向収縮率(%)が小さくなった。一方、比較例1〜4においては、超高分子量ポリエチレンの分子量分布が狭い、融点が高い、製膜条件が不適である等により、SD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)が劣る結果となった。比較例5にて比較的SD温度におけるTD方向の熱収縮率(%)が小さくなった理由として、用いる超高分子量ポリエチレンの分子量を小さくすることでポリオレフィン製微多孔膜の緩和が進行し、収縮率が低下したと考えられる。しかし比較例5においては、超高分子量ポリエチレンの分子量を下げたため、ポリオレフィン製微多孔膜中の分子量233万以上の成分量が減少し、引張伸度が低下し、耐衝撃強度を十分に改善できていない。
これらの結果から、超高分子量ポリエチレンの分子量、分子量分布、融点を制御し、ポリオレフィン製微多孔膜中に占める分子量が233万以上のポリエチレン量を制御しつつ、適切な延伸倍率、延伸温度および熱処理温度を選択することにより、引張強度と引張伸度とのバランスが改善し、低い熱収縮率を同時に達成しつつ、これにより、これまでに得られなかった高い耐衝撃強度を達成することができた。

Claims (7)

  1. 平均引張強度が150MPa以上であり、平均引張伸度が185%以上であり、105℃で8時間加熱した後に測定した固体熱収縮率から算出した平均固体熱収縮率が10.0%以内であり、熱機械分析によるシャットダウン温度におけるTD方向の熱収縮率が14%以下であるポリオレフィン製微多孔膜。
  2. 前記平均引張伸度が190%以上である請求項1に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
  3. 前記平均引張強度が160MPa以上であり、前記平均引張伸度が195%以上である請求項1又は2に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
  4. 前記ポリオレフィン製微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン系樹脂を主成分として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
  5. 突刺強度が6000mN/20μm以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリオレフィン製微多孔膜を用いた電池用セパレータ。
  7. 請求項6に記載の電池用セパレータを用いた二次電池。
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