本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1〜図7を参照しつつ、車両用ストッパ装置50を用いた車両用ステアリング装置10を説明する。図1に示されるように、車両用ステアリング装置10は、車両のステアリングホイール11の操舵入力が生じる操舵部12と、左右の転舵車輪13,13を転舵する転舵部14と、操舵部12と転舵部14との間に介在しているクラッチ15と、制御部16とを含む。クラッチ15が開放状態となる通常時には、操舵部12と転舵部14との間が機械的に分離されている。このように、車両用ステアリング装置10は、通常時において、ステアリングホイール11の操舵量に応じて転舵用アクチュエータ39を作動させることにより、左右の転舵車輪13,13を転舵する方式、いわゆるステアバイワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)を採用している。
操舵部12は、運転手が操作するステアリングホイール11と、このステアリングホイール11に連結されているステアリング軸21と、ステアリングホイール11に対して操舵反力(反力トルク)を付加する反力付加アクチュエータ22と、を含む。この反力付加アクチュエータ22は、運転者がステアリングホイール11の操舵力に抵抗する操舵反力を発生することによって、運転者に操舵感を与える。
反力付加アクチュエータ22は、操舵反力を発生する反力モータ23と、操舵反力をステアリング軸21に伝達する反力伝達機構24と、を含む。反力モータ23は、例えば電動モータによって構成される。反力伝達機構24は、例えばウォームギア機構によって構成される。このウォームギア機構24(反力伝達機構24)は、反力モータ23のモータ軸23aに設けられたウォーム24aと、ステアリング軸21に設けられたウォームホイール24bとからなる。反力モータ23が発生した操舵反力は、反力伝達機構24を介して、ステアリング軸21に付加される。
転舵部14は、ステアリング軸21に自在軸継手31,31及び連結軸32とによって連結されている入力軸33と、この入力軸33にクラッチ15を介して連結されている出力軸34と、この出力軸34に操作力伝達機構35によって連結されている転舵軸36と、この転舵軸36の両端にタイロッド37,37及びナックル38,38を介して連結されている左右の転舵車輪13,13と、転舵軸36に転舵用動力を付加する転舵用アクチュエータ39と、を含む。
操作力伝達機構35は、例えばラックアンドピニオン機構によって構成される。このラックアンドピニオン機構35(操作力伝達機構35)は、出力軸34に設けられたピニオン35aと、転舵軸36に設けられたラック35bとからなる。転舵軸36は、軸方向(車幅方向)へ移動可能である。
転舵用アクチュエータ39は、転舵用動力を発生する転舵動力モータ41と、転舵用動力を転舵軸36に伝達する転舵動力伝達機構42とからなる。転舵動力モータ41が発生した転舵用動力は、転舵動力伝達機構42によって転舵軸36に伝達される。この結果、転舵軸36は車幅方向にスライドする。転舵動力モータ41は、例えば電動モータによって構成される。
転舵動力伝達機構42は、例えばベルト伝動機構43とボールねじ44とからなる。ベルト伝動機構43は、転舵動力モータ41のモータ軸41aに設けられた駆動プーリ45と、ボールねじ44のナットに設けられた従動プーリ46と、駆動プーリ45と従動プーリ46とに掛けられたベルト47とからなる。ボールねじ44は、回転運動を直線運動に変換する変換機構の一種であって、転舵動力モータ41が発生した駆動力を前記転舵軸36に伝達する。なお、転舵動力伝達機構42は、ベルト伝動機構43とボールねじ44の構成に限定されるものではなく、例えばウォームギヤ機構やラックアンドピニオン機構であってもよい。
ここで、運転者がステアリングホイール11を操舵角の増大方向へ操舵することを、「切り増し操作」という。運転者が、切り増し操作の後に、ステアリングホイール11を操舵角の減少方向(中立方向)へ操舵することを、「切り戻し操作」という。
本発明の車両用ステアリング装置10は、車両用ストッパ装置50を備えている。この車両用ストッパ装置50は、ステアリングホイール11の操舵範囲を規制可能な「操作位置規制装置」として用いられる。つまり、車両用ストッパ装置50は、ステアリングホイール11の操舵範囲を規制するための、ストッパの役割を果たす。以下、車両用ストッパ装置50のことを、適宜「操作位置規制装置50」と言い換えることにする。この操作位置規制装置50は、操舵部12のなかの反力付加アクチュエータ22とクラッチ15との間に介在している。
この操作位置規制装置50について、詳しく説明する。操作位置規制装置50は、車両の走行状態や操舵装置の状況に応じて、ステアリングホイール11の操舵範囲を任意に変更することが可能である。例えば、転舵部14の負荷が予め設定された所定以上(過負荷)となった場合や、転舵部14が過負荷状態であり且つ転舵軸36の位置が規定値以上である場合に、操作位置規制装置50はステアリングホイール11の操舵範囲を規制する。
この過負荷は、例えば次の状況のときに発生し得る。第1に、転舵車輪13が縁石等の障害物に当たっている場合には、転舵部14の負荷が大きくなる。第2に、転舵軸36が軸方向へ移動可能な限界点(ラックエンド)まで移動したときには、転舵部14の負荷が大きくなる。この状況下において、ステアリングホイール11の切り増し操作を続けたのでは、クラッチ15や反力付加アクチュエータ22に大きい負担がかかる。このときに、制御部16から制御信号を受けた操作位置規制装置50は、ステアリングホイール11の切り増し操作を阻止するように、操舵範囲を規制する。これらの状況に限定されず、負荷が大きくなった場合に規制する。この結果、クラッチ15や反力付加アクチュエータ22には、大きい負担がかからない。クラッチ15や反力付加アクチュエータ22の小型化を図ることができる。
図2に示されるように、操作位置規制装置50は、1つの可動部51(被係合部51)と、この1つの可動部51に対応する1つのスイングレバー61(係合部61)と、1つの付勢部材66と、1つのソレノイド71とを含む。可動部51とスイングレバー61と付勢部材66とソレノイド71は、ハウジング18に収納されている。
前記可動部51は、図1に示されるステアリングホイール11と共に回転可能であり、例えばステアリング軸21に取り付けられている。つまり、この可動部51は、ステアリング軸21と共に回転可能な円盤状の部材である。この可動部51は、複数の歯52を有した円盤状のロック用ホイール(ロックギヤ)によって、構成されている。複数の歯52は、可動部51の外周面または盤面に対し、回転方向に一定のピッチで配列されている。以下、可動部51のことを、適宜「ロック用ホイール51」と言い換える。
複数の歯52は、例えば円盤状のロック用ホイール51の外周面から放射状に延びている。ロック用ホイール51の回転中心線54(ステアリング軸21の中心軸54)に沿って見たときに、複数の歯52の形状は、例えば回転中心線54に交差して放射状に延びる各直線55に対して左右対称形の方形である。
前記スイングレバー61は、ロック用ホイール51(可動部51)に係合することによって、このロック用ホイール51の回転範囲を規制することが可能、つまり、ロック用ホイール51をロックする方向にスイング可能である。
スイングレバー61は、中央部をハウジング18に支持軸62によってスイング可能に支持された概ねバー状の部材である。このスイングレバー61は、一端(第1端)にストッパ部63を有し、他端(第2端)に被駆動レバー64を有している。スイングレバー61のスイング中心65は、支持軸62の軸心である。以下、スイング中心65のことを、適宜「支持軸62の軸心65」という。
ストッパ部63は、ロック用ホイール51の各歯52に係合するフック状の部分であって、複数の歯溝53(各歯52,52の間)に対して出没することが可能である。ストッパ部63は、第1係合面63aと第2係合面63bとを有する。第1係合面63aに対し、第2係合面63bはスイングレバー61のスイング中心65寄りに位置している。
付勢部材66は、ロック用ホイール51に対してスイングレバー61をアンロック方向R1へ付勢しており、例えば「ねじりコイルばね」によって構成される。より詳しく述べると、スイングレバー61は、ストッパ部63がロック用ホイール51の複数の歯52から外れるアンロック方向R1(外れ方向R1)へ、付勢部材66によって付勢されている。なお、付勢部材66は、ねじりコイルばねに限定されるものではなく、例えば圧縮コイルばねによって構成することができる。以下、この付勢部材66のことを、適宜「第1付勢部材66」という。
上述のように、第1付勢部材66は、ロック用ホイール51に対してスイングレバー61をアンロック方向R1へ付勢している。このため、仮に被駆動レバー64が破損した場合や、被駆動レバー64がピン72bから外れた場合に、ロック用ホイール51に対してスイングレバー61がロックすることはない。
被駆動レバー64は、ソレノイド71によってスイング駆動される。このソレノイド71は、ハウジング18に取り付けられた電磁ソレノイドによって構成されている。
図3に示されるように、このソレノイド71は、プランジャ72を励磁用コイル73の励磁によって後退させるプル型ソレノイドによって構成されている。プランジャ72と励磁用コイル73とは、ハウジング74に収納されている。このハウジング74は、例えば、磁性材料によって構成された有底円筒状の本体74aと、この本体74aの後端の開口を塞ぐ磁性材料によって構成された平板状のリッド74bとからなる。本体74aの底板74cは、プランジャ72を進退可能に貫通した貫通孔74dを有している。
プランジャ72は、磁性材料によって構成された軸であって、ハウジング74に進退可能(つまりスライド可能)に支持されている。プランジャ72の先端部72aは、貫通孔74dからハウジング74の外部へ延びており、スイングレバー61の被駆動レバー64に連結されている。例えば、プランジャ72の先端部72aに設けられている連結ピン72bと、被駆動レバー64の先端部に設けられている長孔64a(溝を含む)との嵌合構造によって、スイングレバー61にプランジャ72が連結される。
このプランジャ72は、ハウジング74に内蔵している付勢部材75によって、前進方向Fr(ハウジング74から外方へ伸びる方向Fr)へ常に付勢されている。例えば、この付勢部材75は、リッド74bとプランジャ72の後端部との間に位置した圧縮コイルばねによって、構成されている。より具体的には、プランジャ72は後端部に、筒状のばね受け部72cを有している。このばね受け部72cが、圧縮コイルばね75(付勢部材75)の一端部を受けている。以下、この付勢部材75のことを、適宜「第2付勢部材75」という。
プランジャ72を駆動する励磁用コイル73は、プランジャ72を挿通可能なフランジ付き円筒状のボビン76に巻かれている。励磁用コイル73を囲む磁性材料部品(プランジャ72とハウジング74)によって構成された磁気回路に磁束が流れることにより、磁気吸引力によってプランジャ72を後退方向Rrへ移動(つまり後退)させることができる。
さらに、操作位置規制装置50は位置検出部77を有している。この位置検出部77は、ハウジング74に対するプランジャ72のスライド位置(長手方向の位置)を検出する。ハウジング74に対して、プランジャ72の先端が最も前進した前進位置Pmaxと、プランジャ72の先端が最も後退した後退位置Pminの、少なくとも一方を位置検出部77によって検出することができる。この位置検出部77は、例えばハウジング74に内蔵、または図3の想像線によって示されるようにハウジング74の外部に設けられる。
この位置検出部77の構成の一例を説明すると、次の通りである。図3及び図4に示されるように、位置検出部77は、プランジャ72のばね受け部72cに設けられた1つのスライド接点77aと、基盤77bに設けられた3つの固定接点77c,77d,77eとから成る、位置検出スイッチの構成である。スライド接点77aは、弾性を有したフォーク状の導電板によって構成されており、プランジャ72と共に移動可能である。基盤77bは、ハウジング74に移動を規制されて収納されている。3つの固定接点77c,77d,77eは、第1固定接点77cと第2固定接点77dと第3固定接点77eとから成る。第1固定接点77cは、スライド接点77aが常に接触可能な共通接点であり、アースしている。
第2固定接点77dは、プランジャ72が前進位置Pmaxに位置している場合にのみ、接触可能である。プランジャ72が前進位置Pmaxに位置しているときには、位置検出部77は最大前進位置信号(検出信号)を制御部16に発する。
第3固定接点77eは、プランジャ72が後退位置Pminに位置している場合にのみ、接触可能である。プランジャ72が後退位置Pminに位置しているときには、位置検出部77は最大後退位置信号(検出信号)を制御部16に発する。
次に、制御部16(図1参照)によるソレノイド71の制御構成について、図3及び図4を参照しつつ説明する。制御部16は、励磁用コイル73を制御系統81によって制御している。この制御系統81は、制御部16とソレノイド駆動回路82と励磁用コイル73と電流検出器83とから成る電気系統である。ソレノイド駆動回路82は、制御部16の制御信号に従って、励磁用コイル73へ流す駆動電流を制御する。電流検出器83は、励磁用コイル73に流れている電流を検出し、検出信号を制御部16に発する。
制御部16は、ソレノイド駆動回路82によって励磁用コイル73に駆動電流を流すことにより、励磁用コイル73を励磁する(ソレノイド71をオンする)。この結果、プランジャ72は第2付勢部材75の付勢力に抗して後退し、スイングレバー61をロック方向R2にスイングさせる。また、制御部16は、ソレノイド駆動回路82から励磁用コイル73へ流れる駆動電流を停止させることにより、励磁用コイル73を非励磁にする(ソレノイド71を開放状態とする)。この結果、プランジャ72は第2付勢部材75の付勢力によって前進し、スイングレバー61をアンロック方向R1にスイングさせる。
図1に示されるように、上記制御部16は操舵角センサ91、操舵トルクセンサ92、モータ回転角センサ93、出力軸回転角センサ94、転舵軸位置センサ95、車速センサ96、ヨーレートセンサ97、加速度センサ98、その他の各種センサ99からそれぞれ検出信号を受けて、クラッチ15、反力モータ23、転舵動力モータ41及びソレノイド71に制御信号を発する。
操舵角センサ91は、ステアリングホイール11の操舵角を検出する。操舵トルクセンサ92は、ステアリング軸21に発生する操舵トルクを検出する。この操舵トルクセンサ92は、ステアリング軸21のなかの、反力伝達機構24よりもステアリングホイール11側に配置してもよい。この配置にすることにより、操舵トルクセンサ92によって操舵トルク(操舵負荷)を検出することができる。モータ回転角センサ93は、反力モータ23の回転角を検出する。出力軸回転角センサ94は、ピニオン35aを有した出力軸34の回転角を検出する。転舵軸位置センサ95は、ラック35bを有した転舵軸36の移動位置を検出する。車速センサ96は、車両の車輪速度を検出する。ヨーレートセンサ97は、車両のヨー角速度(ヨー運動の角速度)を検出する。加速度センサ98は、車両の加速度を検出する。その他の各種センサ99には、転舵動力モータ41の回転角を検出する回転角センサを含む。この回転角センサは、例えば、転舵動力モータ41に備えたレゾルバによって構成される。
次に、上記構成の操作位置規制装置50の作用について、図1及び図2を参照しつつ説明する。今、図2に示されるように、ソレノイド71のプランジャ72は前進した状態(伸びた状態)に保持されている。このため、スイングレバー61のストッパ部63はロック用ホイール51の歯溝53から外れている。
その後、ステアリングホイール11を右へ操舵、つまり切り増し操作したときに、ロック用ホイール51は時計回り方向R3(右方向R3)に回転する。ステアリングホイール11を操舵範囲の限界点まで切り増し操作したときに、制御部16は操舵角センサ91の検出値に基づいて限界点に達したと判断し、ソレノイド71の励磁用コイル73(図3参照)を励磁させる。励磁用コイル73は励磁することにより、プランジャ72を後退させて、その後退状態を保持する。つまりソレノイド71はオン(on)状態となる。この結果、スイングレバー61は、ストッパ部63をロック用ホイール51の歯溝53に入るようにスイングする。
ロック用ホイール51が更に時計回り方向R3へ回転すると、歯52の第1歯面52aはストッパ部63の係合面63aに当たる。この結果、ロック用ホイール51は時計回り方向R3への回転を、スイングレバー61によって規制される。
従って、ステアリングホイール11を操舵範囲の限界点まで切り増し操作したときに、転舵軸36を軸方向へ移動可能な限界点(ラックエンド)まで移動させる前に、規制することができる。このため、転舵軸36が移動規制用のストッパに当たらなくてすむ。転舵軸36の軸端の部分を保護することができるとともに、衝突音の発生を防止することができる。
その後に、ステアリングホイール11を左へ操舵、つまり切り戻し操作を開始すると、制御部16は操舵角センサ91の検出値に基づいて切り戻し操作を開始したと判断し、ソレノイド71の励磁用コイル73(図3参照)を非励磁にする。この結果、ソレノイド71は開放状態となる。励磁用コイル73が非励磁になるので、プランジャ72は付勢部材75(図3参照)の付勢力によって前進し、その前進状態を維持する。このため、スイングレバー61は、ストッパ部63をロック用ホイール51の歯溝53から離脱するようにスイングする。ロック用ホイール51の回転が許容されるので、ステアリングホイール11の切り戻し操作が許容される。
上記の作用は、ステアリングホイール11を左へ操舵、つまり切り増し操作をすることによって、ロック用ホイール51が反時計回り方向R4(左方向R4)へ回転したときにも、同様である。
次に、上記制御部16の、より特徴的な制御内容について説明する。図3及び図4に示されるように、この制御部16は、位置検出部77の検出信号と、電流検出器83の検出信号に基づいて、ソレノイド71や制御系統81の状態や、スイングレバー61の状態を判断する。
例えば、次の(1)又は(2)の場合には、制御部16は第1制御系統81に故障が発生したと判断する。
(1)励磁用コイル73を励磁するように、制御部16が制御信号を発したときに、プランジャ72が前進位置Pmaxから後退位置Pminへ到達するまでの時間が過大である。
(2)電流検出器83によって検出された電流値が過大または過小である。
制御部16の具体的な制御の一例を説明すると、次の通りである。図5及び図6は、制御部16の制御フローチャートである。図1〜図4を参照しつつ、図5及び図6に基づいて制御部16の制御について説明する。この制御部16は、例えば車両の図示せぬイグニションスイッチ(メインスイッチ)がオンになることによって制御を開始するとともに、イグニションスイッチがオフになることによって制御を終了する。
制御部16は制御を開始すると、先ずステップS01では初期設定をすることにより、ソレノイド71を駆動する駆動電流Isの初期値を、所定の基準指示電流IAに設定する(Is=IA)。この基準指示電流IAは、ソレノイド71を通常に駆動することが可能な値に設定される。
次に、ソレノイド71を駆動するか否かを判定する(ステップS02)。例えば、ステアリングホイール11を切り増し操作したときに、制御部16は操舵範囲の限界点まで切り増し操作されたと判断した場合には、停止状態のソレノイド71を後退方向Rrへ駆動すると判定する。但し、図3に示されるように、プランジャ72が前進位置Pmaxまで延びているとき、つまりソレノイド71が停止状態であることを条件とする。例えば、ソレノイド71が停止状態でないときには、励磁用コイル73を一旦非励磁にすることによって、ソレノイド71を停止状態にする。
このステップS02で、ソレノイド71を駆動すると判定したときには、ソレノイド駆動回路82によってソレノイド71の励磁用コイル73に駆動電流Isを流す(ステップS03)。この結果、励磁用コイル73は励磁して、プランジャ72を後退方向Rrへ移動させる。スイングレバー61はロック方向R2にスイングして、ロック用ホイール51の回転を停止させる。ステップS03では、同時に、ソレノイド71に駆動電流Isを流し始めてからの駆動時間tc(経過時間tc)のカウントを開始する。
次に、ソレノイド71の駆動に伴う実際の電流値を確認するとともに、この電流値を記憶する(ステップS04)。実際の電流値は電流検出器83によって検出される。
次に、プランジャ72が後退方向Rrへ移動中であるか否かを判断する(ステップS05)。移動中であるか否かは、位置検出部77によって検出するか、または、電流検出器83によって検出された実際の電流値を比較することによって、判断することができる。ここで、移動中であると判断した場合には、次に、ソレノイド71に所定の駆動電流Isを流し始めてからの実際の駆動時間tcが、予め設定されている一定時間ts(一定の基準駆動時間ts)を経過したか否かを判断する(ステップS06)。この一定時間tsは、プランジャ72が最大前進位置Pmaxから最大後退位置Pminまで、適切に移動を完了するのに要する時間を勘案して、設定されている。
ここで、一定時間tsを経過していない(ts>tc)と判断した場合には、経過するまでステップS03〜S06を繰り返す。そして、ステップS03〜S06を繰り返す毎に、ステップS04では、ソレノイド71の駆動に伴う実際の電流値を確認するとともに、この電流値を記憶する。また、ステップS05では、今回の新たな電流値を、先に記憶してあった前回の電流値と比較する。
これらのステップS03〜S06を繰り返しているときに、ステップS05において、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了して停止したと判断した場合には、ステップS07に進む。このステップS07では、そのまま、励磁コイル73の通電状態を維持することにより、プランジャ72の後退状態を保持して、ステップS02に戻る。このステップS02では、ステアリングホイール11の切り戻し操作に従って、励磁用コイル73を非励磁にする。この結果、ソレノイド71は停止状態になる。
その後、ステアリングホイール11が再び切り増し操作されたときに、ステップS02では、操舵範囲の限界点まで切り増し操作されたと判断した場合に、停止状態のソレノイド71を、再び後退方向Rrへ駆動すると判定する。つまり、次回以降にも、励磁用コイル73に駆動電流Isを流すことになる。
一方、上記ステップS06において、ソレノイド71に駆動電流Isを流し始めてからの実際の駆動時間tcが、予め設定されている一定時間tsを経過した(ts≦tc)と判断した場合には、ソレノイド71の動作が適切ではないと判断する。例えば、プランジャ72の摺動部分に錆の発生や堆積物の付着があった場合には、プランジャ72の移動時間が長くなるので、ソレノイド71の動作は適切ではない。
その場合には、プランジャ72の作動状態を再確認する(ステップS08)。ここでは、実際の電流値が、制御部16のメモリに予め記憶してある電流値(ソレノイド71の駆動完了電流)に合致した場合に、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了したと判断する。ここで、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を、まだ完了していない、つまり移動中であると判断した場合には、ソレノイド71の動作の不適切な状態が「重度」であると判断し、表示や報知音などによって運転者に知らせる報知器(図示せず)を駆動する(ステップS09)。このステップS09は、少なくともイグニションスイッチがオフになるまで保持されることが好ましい。
上記ステップS08において、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了したと判断した場合には、ソレノイド71の動作の不適切な状態が「軽微」であると判断する。つまり、一定時間tsを経過した(ts≦tc)後ではあるものの、直後に移動を完了した軽微な状態なので、次のステップS11(図6参照)に進む。
次のステップS11では、次回以降にソレノイド71へ流す駆動電流Isを、予め設定されている一定値ΔIだけ増加させるように制御する。つまり、駆動電流Isを、上記基準指示電流IAよりも一定値ΔIだけ増加した基準指示電流IBに設定する(Is=IB)。なお、この一定値ΔIは、ソレノイド71の内部の発熱などによる、特性の低下を考慮した値を上限とする。ステップS11の役割は、ソレノイド71の動作の不適切な状態が軽微なので、駆動電流Isを増すことにより、励磁用コイル73の磁力を増大させ、その結果、プランジャ72の移動速度を早めることにある。
次に、ステップS12において、ソレノイド71を駆動するか否かを判定し、ステップS13に進む。このステップS12の制御内容は、上記ステップS02と同じ制御である。
以下、ステップS13〜17は、上記ステップS03〜07と同様である。つまり、ステップS13は、ステップS03と同じ制御をした後に、ステップS14に進む。ステップS14は、ステップS04と同じ制御をした後に、ステップS15に進む。ステップS15は、ステップS05と同じ判断をして、ステップS16またはステップS17に進む。ステップS16は、ステップS06と同じ判断をして、ステップS13に戻るか、またはステップS18に進む。ステップS17は、ステップS07と同じ制御をした後に、ステップS12に戻る。
上記ステップS16において、実際の駆動時間tcが一定時間tsを経過した(ts≦tc)と判断した場合には、ソレノイド71の動作の不適切な状態が「重度」であると判断して、次のステップS18に進む。つまり、上記ステップS11において、駆動電流Isの値を基準指示電流IBまで増大させたにもかかわらず、一定時間tsを経過しても、プランジャ72が移動中なので、ソレノイド71の動作が適切ではないと判断する。
ステップS18は、上記ステップS09と同じ制御をする。つまり、表示や報知音などによって運転者に知らせる報知器を駆動する。このステップS18は、少なくともイグニションスイッチがオフになるまで保持されることが好ましい。
次に、上記図5及び図6に示される制御内容によるソレノイド71の作動を、図7の作動説明図に基づいて、図2〜図4を参照しつつ説明する。
図7(a)は、図5に示されるステップS01において、ソレノイド71を駆動する駆動電流Isの初期値を、所定の基準指示電流IAに設定した(Is=IA)場合の、作動曲線を表している。この図7(a)では、縦軸を電流Iとし、横軸を時間tとして、励磁用コイル73に実際に流れる電流Iと、励磁用コイル73に駆動電流Is(基準指示電流IA)を流し始めてからの駆動時間tc(経過時間tc)との関係の作動特性を表している。
細い実線によって表されている「適正時の曲線Q1」は、ソレノイド71が適正な状態のときの作動特性曲線を表している。破線によって表されている「不適正時の曲線Q2」は、ソレノイド71が適正ではない状態のときの作動特性曲線を表している。
適正時の曲線Q1に示されるように、ソレノイド71が適正な状態のときの、実際の電流値は、次のように変化する。ソレノイド71に駆動電流IAを流し始めてから、駆動時間tcがt11を経過したときには、大きい移動開始時電流I1が励磁用コイル73に流れることによって、プランジャ72は後退方向Rrへ移動を開始する。その後、駆動時間tcがt12のとき(但し、t12<ts)、つまり、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了したときに、移動開始時電流I1よりも小さい移動完了時電流I11が励磁用コイル73に流れる。その後、プランジャ72が移動を完了した状態を保持しているときに、基準指示電流IAが励磁用コイル73に流れる。
一方、不適正時の曲線Q2に示されるように、ソレノイド71の動作の不適切な状態が軽微である状態のときの、実際の電流値は、次のように変化する。ソレノイド71に駆動電流IAを流し始めてから、駆動時間tcがt21を経過したときには、大きい移動開始時電流I2が励磁用コイル73に流れることによって、プランジャ72は後退方向Rrへ移動を開始する。このときのプランジャ72が移動を開始するタイミングt21は、適正時の曲線Q1に比べて遅い。また、移動開始時電流I2は適正時の曲線Q1に比べて大きい。
その後、駆動時間tcがt22のとき(但し、t22>ts)、つまり、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了したときに、移動開始時電流I2よりも小さい移動完了時電流I12が励磁用コイル73に流れる。このときのプランジャ72が移動を完了するタイミングt22は、適正時の曲線Q1に比べて、時間Δt1だけ遅い。また、移動完了時電流I12は適正時の曲線Q1に比べて大きい。その後、プランジャ72が移動を完了した状態を保持しているときに、基準指示電流IAが励磁用コイル73に流れる。
図7(b)は、図6に示されるステップS11において、ソレノイド71を駆動する駆動電流Isの初期値を、所定の基準指示電流IBに設定した(Is=IB)場合の、作動曲線を表している。この図7(b)では、上記図7(a)と同様に、縦軸を電流Iとし、横軸を時間tとして、励磁用コイル73に実際に流れる電流Iと、励磁用コイル73に駆動電流Is(基準指示電流IB)を流し始めてからの駆動時間tcとの関係の作動特性を表している。上述のように、基準指示電流IBは、基準指示電流IAよりも一定値ΔIだけ大きい。
細い実線によって表されている適正時の曲線Q1と、破線によって表されている不適正時の曲線Q2は、上記図7(a)に表されているものと同じである。太い実線によって表されている「駆動電流を増大した適正時の曲線Q3」は、ソレノイド71が適正な状態で、励磁用コイル73に駆動電流Is(基準指示電流IB)を流したときの作動特性曲線を表している。
駆動電流Isを増大した適正時の曲線Q3に示されるように、ソレノイド71が適正な状態のときの、実際の電流値は、次のように変化する。ソレノイド71に駆動電流IBを流し始めてから、駆動時間tcがt31を経過したときには、大きい移動開始時電流I3が励磁用コイル73に流れることによって、プランジャ72は後退方向Rrへ移動を開始する。このときのプランジャ72が移動を開始するタイミングt31は、適正時の曲線Q1に比べて遅いものの、不適正時の曲線Q2に比べて早い。また、移動開始時電流I3は適正時の曲線Q1や不適正時の曲線Q2に比べて大きい。
その後、駆動時間tcがt32のとき(但し、t32<ts)、つまり、プランジャ72が後退方向Rrへの移動を完了したときに、移動開始時電流I3よりも小さい移動完了時電流I13が励磁用コイル73に流れる。このときのプランジャ72が移動を完了するタイミングt32は、適正時の曲線Q1に比べて、時間Δt2だけ遅いものの、不適正時の曲線Q2に比べて早い。また、移動完了時電流I13は適正時の曲線Q1や不適正時の曲線Q2に比べて大きい。その後、プランジャ72が移動を完了した状態を保持しているときに、基準指示電流IBが励磁用コイル73に流れる。
上記説明をまとめると、次の通りである。
一般に、ソレノイド71は、外的要因や経年変化などの何らかの要因によって、動作に変化が発生し得る。例えば、ソレノイド71のプランジャ72の摺動部分に、錆の発生や堆積物の付着があった場合には、プランジャ72の移動時間が長くなる要因と、なり得る。つまり、制御部16がソレノイド71に基準指示電流IAを流し始めてから、プランジャ72が移動を完了するまでの駆動時間tc(移動時間tc)が長くなってしまう。これでは、可動部51を所望の回転角または時間内に規制しにくい。車両用ストッパ装置50を車両用ステアリング装置10に用いた場合に、ステアリングホイール11を所望の回転角、または時間内に規制できることが好ましい。
これに対して、本発明の車両用ストッパ装置50は、
可動部51と、
前記可動部51をロックする方向に移動可能なプランジャ72と、前記プランジャ72を駆動する励磁用コイル73と、を有しているソレノイド71と、
前記ソレノイド71を駆動制御するとともに、前記ソレノイド71に所定の基準指示電流IAを流し始めてから前記プランジャ72が移動を完了するまでの駆動時間tcが、予め設定されている一定時間tsを経過したと判断した場合(図5のステップS06、S08)には、次回以降に前記ソレノイド71へ流す前記基準指示電流IAを、予め設定されている一定値ΔIだけ増加させるように制御する(図6のステップS11)制御部16と、を含む。
このため、ソレノイド71に所定の基準指示電流IAを流し始めてからプランジャ72が移動を完了するまでの駆動時間tcが、予め設定されている一定時間tsを経過したと判断した場合には、制御部16は、ソレノイド71の動作が適切ではないと判断する。その場合に制御部16は、次回以降にソレノイド71へ流す基準指示電流IAを、予め設定されている一定値ΔIだけ増加させる。励磁用コイル73の磁力が増大するので、プランジャ72の移動速度が増す。この結果、プランジャ72が移動を完了するまでの駆動時間tcを、予め設定されている一定時間ts以内又は一定時間tsに近づけることができる。つまり、プランジャ72の移動遅れを解消又は抑制することができる。従って、ソレノイド71がどのような状況下に至った場合でも、車両用ストッパ装置50の本来の適切な動作を極力維持できることが可能である。
車両用ストッパ装置50を車両用ステアリング装置10に用いた場合には、可動部51及びステアリングホイール11を、所望の回転角または時間内に規制できるので、運転者が操舵感に違和感を感じないようにすることができる。
なお、本発明による車両用ストッパ装置50を用いた車両用ステアリング装置10は、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、実施例に限定されるものではない。例えば、図1に示されるクラッチ15、自在軸継手31,31、連結軸32、入力軸33、出力軸34、操作力伝達機構35を廃止することによって、操舵部12と転舵部14との間を機械的に完全に分離した、ステアバイワイヤ式車両用ステアリング装置の構成でもよい。
また、ソレノイド71は、可動部51をスイングレバー61(係合部61)を介して間接的に係合する構成に限定されるものではなく、可動部51を直接に係合する構成であってもよい。