JP2020100028A - 透明性繊維強化樹脂シート - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献2には、コンクリート表面に、補強ネットを全光線透過率が30%以上の可視硬化型ビニルエステル樹脂により直貼りするコンクリート補強層の形成方法が提案されている(特許文献2参照)。
繊維強化樹脂シートが重く、作業時の取り扱い性が悪い、厚みがほぼ均一で、剛性が高い(硬い)ため、繊維強化樹脂シートが構築部に追従し難い、接着性をより向上させたい、施工時に間違ってバリア層側をコンクリート構築物側に貼付し補強効果が発現し得ない危惧がある。
上記先行発明により、軽量化による作業性の向上、施工対象物表面への追従性能はある程度向上することができた。しかしながら、補強繊維の透明性が不足する場合やメッシュ体を構成する補強繊維の幅が広い場合は、当該メッシュ体で構成された繊維強化樹脂シートによる補修又は補強の施工後において、その後のひび割れ発生や修復した欠陥の進展の有無を経時的により正確に目視観察することができない場合もあることが判明した。
そこで、本発明者らは、(i)施工対象物表面への追従性能のさらなる向上、及び(ii)コンクリート構造体における約0.3mm以下のヘアラインクラックなどを視認できる、透明性繊維強化樹脂シートについて鋭意検討して、本発明を完成するに至った。
〔1〕透明性樹脂からなる非通気性のバリア層と、補強繊維からなる所定の開口部が形成されたメッシュ体に該バリア層と接着性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸、硬化させた繊維強化樹脂本体層とを、積層一体化させてなる透明性繊維強化樹脂シートであって、以下の(a)〜(c)の要件を全て満たす透明性繊維強化樹脂シート。
(a)前記補強繊維がポリオレフィン系繊維であり結晶化度が60%以下、
(b)前記繊維強化樹脂本体層に用いられるメッシュ体の経(長手)方向の引張伸度が15%以上、
(c)シートの総厚みが0.4mm以下。
〔2〕前記バリア層の透明性樹脂及び前記透明硬化性樹脂組成物の透明硬化性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である、前記〔1〕に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
〔3〕前記メッシュ体が織布、網、編布、又は積層布である前記〔1〕または〔2〕に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
〔4〕前記メッシュ体が織布である前記〔3〕に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
〔5〕前記補強繊維のポリオレフィン系繊維が、低融点成分と高融点成分を含むポリオレフィン系複合繊維からなり、前記メッシュ体が織布、網、編布、又は積層布である請求項1または2に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
〔6〕前記メッシュ体がロールプレス加工されてなり、補強繊維における繊維の幅/厚みの比(扁平度)が1.5超であり、かつ前記繊維強化樹脂シートの総厚みが0.3mm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の透明性繊維強化樹脂シート。
従来品と比較して軽量で、施工作業時の取扱性に優れ、施工工事の能率が向上でき、柔軟性を有するので施工対象物表面への追従性能が向上し、施工後のコンクリート構造体における約0.3mm以下のヘアラインクラックなども視認することができ、コンクリート構造物の保守、管理に有効に寄与できる。
(a)前記補強繊維がポリオレフィン系繊維であり結晶化度が60%以下、
(b)前記繊維強化樹脂本体層に用いられるメッシュ体の経(長手)方向の引張伸度が15%以上、
(c)シートの総厚みが0.4mm以下。
本発明において、非通気性のバリア層(以下、単に「バリア層」と称する。)とは、施工時にコンクリート構造物に繊維強化樹脂シートを接着剤により貼り付ける際に、ピンホール等がなく、接着剤が浸透漏出することのない程度の非通気性を有する層を意味する。すなわち、本発明において非通気性とは、必ずしもガス等の気体の非通気性を意味するものではない。バリア層は、透明性樹脂からなり、補強繊維によって所定の開口が形成されたメッシュ体に含浸される透明硬化性樹脂組成物と接着性を有する透明性樹脂によって形成することが好ましい。
また、透明硬化性樹脂組成物を構成する透明硬化性樹脂としては、機械的物性において透明性繊維強化樹脂シートの構成材料としての機能を有する透明硬化性樹脂から選択することが好ましい。この種の樹脂として、(メタ)アクリル樹脂又はビニルエステル樹脂が好ましい。なお、(メタ)アクリル樹脂は、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーの重合により形成される重合体を主成分とする樹脂である。
バリア層1は、図4に示すように本願の透明性繊維強化樹脂シートの製造方法の一例において、第1のキャリアフィルム31上に透明硬化性樹脂組成物50を塗布し、これを硬化することにより形成することができる。
また、バリア層1は、施工時に未硬化状の接着剤等の液体を通さないという機能の点から、コンクリート構造物の補強又は補修に使用する場合において外表面側となる面に形成される。
第1のキャリアフィルム31上への透明硬化性樹脂組成物50の塗布には、一般的な塗工装置が使用でき、例えばグラビアリバース、グラビアダイレクト、三本リバース、ダイコートなどの中から選んで使用できる。
メッシュ体4は、図1(A)、(B)に示すように補強繊維2によって所定の開口部3が形成された補強基材であり、織布、網、編布、および積層布からなる1種又は2種以上の組み合わせから選択できる。
メッシュ体4は、経、緯、斜などの複数の補強繊維2が二方向以上に配向した状態で互いに交差しており、当該交差点において、交絡、融着及び接着の1以上の手段によって繊維間を結合させることができる。メッシュ体4は、コンクリート構造体を好適に補強する観点から、二軸織物又は三軸織物であることが好ましい。二軸織物又は三軸織物の織り方は、例えば平織、綾織、朱子織、からみ織、模紗織であってよい。図1(A)及び(B)に示した透明性繊維強化樹脂シート1においては、メッシュ体4として、複数の補強繊維2が二方向(略直交方向)に配列した状態で互いに織り込まれている二軸織物を採用している。
メッシュ体4の開口部3は、開口率が35%以上であることが好ましく、40%以上であることが特に好ましい。開口率の上限は90%以下が好ましい。開口率が35%未満では、透明硬化性樹脂組成物がメッシュ体に浸入しにくく補強効果が期待し難い。開口率が90%を超えると、メッシュ体を構成する補強繊維2が少なくなって、補強効果が低減する。本発明において、開口率は、メッシュ体の構成と、使用する補強繊維の幅から算出される。
また、積層布は、組布とも称されるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。積層布は、メッシュ体としての低コスト性を有しているので、経済的なメリットもある。積層布の製造は、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
本発明のメッシュ体に用いる補強繊維は、ポリオレフィン系繊維であり結晶化度が60%以下であることを要する。ポリオレフィン系繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、又は3元共重合体等が挙げられ、これらの単一成分からなる繊維、または、これらの複数の成分が芯鞘型あるいはサイド・バイ・サイド型に配置された複合繊維であってもよい。
本発明において補強繊維として、ポリオレフィン系繊維を選択するのは、透明性、接着剤等に対する耐溶剤性、コンクリートからの滲出水に対する耐性、耐侯性、耐寒性に優れ、またメッシュ体材料として、保管性、取扱性、軽量性、低コスト性などの点で優位であるからである。
補強繊維の形態としては、目合いの形成性などの観点からモノフィラメントであることが好ましい。モノフィラメントの場合、直径は、ロールプレス加工前のメッシュ体を構成する補強繊維において、0.15〜0.35mmΦであることが好ましい。扁平糸を用いた二軸、又は三軸積層布からなるメッシュ体の場合は、その最大幅が3mm程度であることが望ましい。
前記補強繊維としてのポリオレフィン系繊維の結晶化度は、60%以下であることを要し、50%以下であることがより好ましく、45%以下であることが、さらに好ましい。結晶化度の下限は、繊維強度の確保の観点から20%以上であることが好ましい。ポリオレフィン系繊維の結晶化度が60%以下であれば、繊維自体が透明性を有するため、透明性繊維強化樹脂シートをコンクリート構築物の表面に施工した後に、開口部3の透明性と相俟って、ヘアクラックなどの存在を目視確認できる。補強繊維の結晶化度が60%超になると、繊維の配向が進みすぎているため、繊維の透明性が低くなるため、コンクリートに貼り付けた際に、表面に発生するクラック等の視認性が低くなる。
本発明において、ポリオレフィン系繊維の結晶化度は、以下の方法で測定される。
ポリオレフィン系繊維により構成されたメッシュ体を8.0mg秤量し、示差走査熱量計((株)島津製作所、DSC−60)を用いて融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入する。窒素雰囲気下にて、昇温速度を10℃/分にて30℃から300℃まで昇温し、得られたDSC曲線から算出される融解熱量と、ポリオレフィン系繊維の主原料である結晶性プロピレン系重合体の1種であるアイソタクチックポリプロピレンの完全結晶における融解熱量文献値(209J/g)を結晶化度100%とし、それらの比からアイソタクチックポリプロピレン換算値として結晶化度を算出した。
本発明の透明性繊維強化樹脂シートにおいて、繊維強化樹脂本体層に用いられるメッシュ体の経(長手)方向の引張伸度が15%以上であることを要する。
コンクリート構造体のはく落防止材料は、変位10mm以上50mm以下で最大耐力を発揮しなければならないため、押抜試験において変位が10mm以上50mm以下の時に最大荷重が0.5kN以上を支持しなければならない。縦方向の引張伸度が15%未満のメッシュ体を用いると、繊維が十分に伸びないため、変位が10mm以上で最大耐力を発揮することができなくなる。変位10mm以上で最大耐力を発揮するために、縦方向の引張伸度が15%以上のメッシュ体を用いる必要がある。また、引張伸度が50%超のメッシュ体を用いると、繊維が伸びすぎるため、変位が50mm以下で最大耐力を発揮することができなくなる。変位50mm以下で最大耐力を発揮するために、縦方向の引張伸度が50%以下のメッシュ体を用いる必要がある。
メッシュ体より幅 25mm、長さ250mmの試験片を経糸に対して平行に切り出す。それぞれの検体中央に150mm離れた平行な二本の標線をつける。検体の標線に合わせて引張試験機(ミネベアミツミ(株)製、TCM−5000)のつかみ具に取り付け、試験速度200mm/minで負荷を行い、荷重伸長曲線得る。荷重伸長曲線からメッシュ体破断時の強力を測定し、破断時の伸長から引張伸度を算出する。
本発明の透明性繊維強化樹脂シートは、総厚みが0.4mm以下であることを要する。総厚みは0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がさらに好ましい。0.4mmを超えると、シート自体の総重量が増えて、作業性の低下や、柔軟性の低下による施工対象角部等への追随施工性が低下する。
シートの総厚みの下限は、メッシュ体に要求される引張強度とそれを構成する補強繊維の強度(繊維径)との関連から概ね0.18mmである。
なお、本発明において透明性繊維強化樹脂シートの厚みはシックネスゲージ((株)テクロック製、SM−112)にて測定した。
また、本発明の透明性繊維強化樹脂シートの単位質量は、前記シートの総厚みと相俟って400g/m2以下であることが好ましい。単位質量が400g/m2以下であれば、軽量性、柔軟性(低剛性)、及び低目付化による優位な効果を達成することができる。単位質量の下限は、コンクリート構造物の補修又は補強における機械的強度の観点から、130g/m2以上、好ましくは150g/m2以上、さらに好ましくは160g/m2以上である。透明性繊維強化樹脂シートの単位質量は、メッシュ体の単位重量及び透明硬化性樹脂の単位重量、メッシュ体の開口率等と相関がある。本発明の透明性繊維強化樹脂シートにおいて、単位質量を400g/m2以下とするのは、コンクリート構築物に対する補修又は補強の施工作業における作業員の取り扱い性に基づくものである。すなわち、施工作業は、通常2.5〜5m2の大きさの補強シートを作業員2人が持ちながら構築物への貼り付け作業を行うが、透明性繊維強化樹脂シートの両面には、表面保護のため保護フィルムを有しており、保護フィルムとして、厚み25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いると両面で70g/m2となる。これらを合計すると5m2の大きさの補強シートの場合では、2.07kgである。この質量であれば、施工時の作業者への質量負荷が従来に比べて軽減され、作業性が向上できる。
以下に本発明の透明性繊維強化樹脂シートの実施態様について更に詳細に説明する。
本発明の透明性繊維強化樹脂シートの非通気性バリア層の透明性樹脂及びメッシュ体との繊維強化樹脂本体層を形成する透明硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。以下に好適な組成を例示する。
非通気性のバリア層に用いられる透明硬化性樹脂組成物(B)としては、透明本体樹脂層に用いられる透明硬化性樹脂組成物(A)と接着性を有し、かつ、機械的物性において透明性繊維強化樹脂シートの構成材料としての機能を有する透明硬化性樹脂から選択される。この種の透明硬化性樹脂組成物(A)及び(B)〔以下、透明硬化性樹脂組成物(A)及び(B)を区分することなく「透明硬化性樹脂(組成物)」ということがある。〕として、具体的には、ウレタンアクリレート樹脂(a)、ビニルエステル樹脂(b)、重合性単量体(c)、光重合開始剤(d)、及び熱重合開始剤(e)を含むものから構成されるものを挙げることができる。
さらに、本発明に用いられる透明硬化性樹脂(組成物)は、ウレタンアクリレート樹脂を主成分とするものが好ましい。
具体的には、ウレタンアクリレート樹脂(a)及びビニルエステル樹脂(b)は、透明硬化性樹脂の本体を構成するものであり、ウレタンアクリレート樹脂(a)とビニルエステル樹脂(b)との質量比は、ウレタンアクリレート樹脂(a)/ビニルエステル樹脂(b)で概ね10/0〜5/5とするのが好ましい。質量比が5/5を超えてビニルエステル樹脂(b)の比が高くなると柔軟性が低下する。
なお、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する表記である。
使用できる光重合開始剤(d)としては、光の作用または増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸、および塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物である。本発明において光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、またはイオンビーム等に感度を有するものを適宜選択して使用することができる。ただし、カバーフィルムを透過することが条件として挙げられる。
より具体的には、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、などの光重合開始剤が特に好ましい。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−2,2,5−トリメチルシクロヘキサン(日油社製パーヘキサ3M−95)、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン(日油社製パーヘキサCD)、1,1,3,3−テトラメチルヒドロペルオキシド(日油社製パーオクタH)、1,1−ジメチルブチルペルオキシド(日油社製パーヘキシルH)、ビス(1−t−ブチルペルオキシ−1−メチルエチル)ベンゼン(日油社製パーブチルP)、ジクミルペルオキシド(日油社製パークミルD)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油社製パーヘキサ25
B)、t−ブチルクミルペルオキシド(日油社製パーブチルC)、ジ−t−ブチルペルオキシド(日油社製パーブチルD)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン(日油社製パーヘキシン25B)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル(日油社製パーロイルL)、過酸化デカノイル(三建化工社製サンペロックス−DPO)、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート(三建化工社製サンペロックス−CD)、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(日油社製パーロイルTCP)、t−ブチル2−エチルペルヘキサノエート(日油社製パーブチルO)、(1,1−ジメチルプロピル)2−エチルペルヘキサノエート(化薬アクゾ社製トリゴノックス121)、(1,1−ジメチルブチル)2−エチルペルヘキサノエート(化薬アクゾ社製カヤエステルHO)、t−ブチル3,5,5−トリメチルペルヘキサノエート(日油社製パーブチル355)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油社製パーヘキシルI)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油社製パーブチルI)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(日油社製パーブチルE)、過マレイン酸t−ブチル(日油社製パーブチルMA)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製パーオクタO)、過ラウリン酸t−ブチル(日油社製パーブチルL)、過安息香酸t−ブチル(日油社製パーブチルZ)などを例示することができる。これらの熱重合開始剤は単独でも、複数混合して用いてもよい。
促進剤としては、遷移金属の塩、例えばナフテン酸コバルトなどを用いることができる。
紫外線吸収剤の含有割合は、透明硬化性樹脂組成物100質量部に対して、通常0.1〜3質量部であることが好ましく、特に好ましくは1〜2質量部である。かかる紫外線吸収剤が少なすぎると耐光性が低下する傾向があり、多すぎると透明硬化性樹脂組成物を光硬化する場合には紫外線照射エネルギーを消費して硬化がし難くなる傾向がある。
本発明の透明性繊維強化樹脂シートに用いられるメッシュ体としては、ポリオレフィン系繊維よりなる補強繊維を経糸及び緯糸として、公知の方法で織ることにより開口部が形成された二軸メッシュ、あるいは、ポリオレフィン系繊維よりなる補強繊維を縦、斜め(縦糸に対し60°)、斜め(縦糸に対し-60°)、縦の三軸方向に重ね合わせた三軸メッシュが用いられる。
二軸メッシュにおける織密度は、経糸、緯糸の密度が78本〜2.5本/25mmの範囲で、目合いが、0.19〜10mm程度であれば、コンクリート構造物の補修または補強シートとしての機能を発現できる。
二軸メッシュは、図1(A)に示すような平織り、或は経糸2本で緯糸1本を絡む図1(B)のような絡み織組織で構成され、この場合目合いが変形し難い(目ずれし難い)という特徴を有する。補強シートとしての効果をより高めるという観点から、織物の経糸、緯糸の交差点は交絡、融着、接着の1以上の手段で繊維間を結合することできる。
繊維の交差点を融着させるには、図3に示すように、二軸メッシュの原反4sを複数のローラー群が配置されたガイドローラー群によって展張されたメッシュ体4sを3個の加熱ローラー11a、11b、11cを備える予備融着装置11に導いて、表面温度100〜120℃のローラー11a,11bに接触させて、メッシュ体4sの経糸、緯糸の交点を予備融着し、更に本プレスローラー装置の表面温度60〜80℃の加熱・加圧ローラー12a及び12bで挟圧して、メッシュ体の厚み減じつつ、交点を本融着させる。次いで、スリッター13で、耳部の切り落としと所定のメッシュ幅にカットして、巻取機14によって巻き取られる。
上記のメッシュ体のロールプレス処理により、メッシュ体を構成する補強繊維は、加熱下で挟圧されて、扁平化される。その際、補強繊維の単繊維の最大幅寸法Wbと厚みWtの比(これを扁平度ともいう。):(Wb/Wt)が1.5を超えることが、得られる透明性繊維強化樹脂シートの透明性、柔軟性の観点から好ましく、1.7以上がさらに好ましく、その上限は7.0以下が好ましい。
以下に本発明の透明性繊維強化樹脂シートの製造方法について説明する。図2には、本発明の透明性繊維強化樹脂シートの一例として、図1(A)の経糸2a、緯糸2bからなる平織りメッシュ体4より得られた透明性繊維強化樹脂シート100のX−X’線模式断面図を示す。同図に示すように、透明性繊維強化樹脂シート100は、バリア層1と、メッシュ体4に該バリア層1と接着性を有する透明硬化性樹脂組成物5を含浸、硬化させた繊維強化樹脂本体層6とからなっている。
図4は、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法の一例を示す説明図である。同図に示す製造方法は、第1のキャリアフィルム31上に、所定厚みのバリア層1を形成するため、重合性モノマーを含む光硬化性透明樹脂組成物(B)50を塗布し、これを第2のキャリアフィルム(カバーフィルムともいう)32間に挟んで、2本の金属ローラー33,34からなる第1スクイズローラーにより厚みを調整し、次いで紫外線硬化炉35に挿通して、プレ硬化し、ローラー36を介して第2のキャリアフィルム32を剥離し、プレ硬化状のバリア層1’の表面を露出する。
露出したバリア層1’上に上記のメッシュ体4と本体用透明硬化性樹脂組成物(A)51を供給し、再度前記の第2のキャリアフィルム32で挟持し、下部ローラー37が金属ローラー、上部ローラー38がゴムローラー又は金属ローラーからなる一対の第2スクイズローラー間で樹脂導入量を調整する。連続して紫外線硬化炉39及び熱硬化炉40に通して、プレ硬化状態のバリア層1’及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を硬化して、繊維強化樹脂本体層6を形成する。
さらに、硬化性樹脂組成物(A)及び/又は硬化性樹脂組成物(B)には粘着剤成分を含有してもよい。粘着剤成分(例えば粘着性付与剤)を含むことによって、施工時にコンクリート構造物側の接着剤層と接着し易くなって、施工がはかどるなどの効果が期待できる。また、保護フィルムとの粘着により、繊維強化樹脂シートを有効に保護できる。
(i)メッシュ体A1:直径が0.19mmのアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)からなるモノフィラメントによって、織密度、経緯30本/25mmで平織りされた、目合0.67mm、開口度が43%のメッシュ体を準備した。このメッシュ体の結晶化度は58.4%であった。
(ii)メッシュ体A2:上記メッシュ体を図3に示す各装置に通し、ローラー11a、11bの表面温度113℃で予備融着し、次いで本プレスローラー12a、12bの表面温度70℃で、ローラー間を4.5MPaで挟圧して、扁平度が0.25/0.14=1.79のメッシュ体A2を得た。
(iii)メッシュ体B1:直径が0.28mmのアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)からなるモノフィラメントによって、経糸2本で緯糸に絡める絡み織で、経緯糸の密度が経糸:2×5本/25mm、緯糸5本/25mmで目合いが3.5mm、開口度が86%のメッシュ体B1を準備した。このメッシュ体の結晶化度は、32.8%であった。
(iv)メッシュ体B2:上記メッシュ体B1を図3に示す各装置に通し、ローラー11a、11bの表面温度113℃で予備融着し、次いで本プレスローラー12a、12bの表面温度70℃で、ローラー間を4.5MPaで挟圧して、扁平度が0.83/0.13=6.38のメッシュ体B2を得た。
(v)メッシュ体C:直径が0.32mmのアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)からなるモノフィラメントによって、経緯糸の密度が経糸:9本/25mm、緯糸9本/25mmで目合いが3.0mm、開口度が73%のメッシュ体Cを準備した。このメッシュ体の結晶化度は、72.7%であった。扁平度は1であった。
(vi)メッシュ体D:直径が0.13mmのアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)からなるモノフィラメントによって、経緯糸の密度が経糸:22本/25mm、緯糸22本/25mmで目合いが1.0mm、開口度が88%のメッシュ体Dを準備した。このメッシュ体の結晶化度は40.4%であり、扁平度は1であった。
(vii)メッシュ体E:直径が0.25mmのアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)からなるモノフィラメントによって、経緯糸の密度が経糸:24本/25mm、緯糸24本/25mmで24メッシュ、開口度が65%のメッシュ体Eを準備した。このメッシュ体の結晶化度は、58.4%であった。扁平度は1であった。
本発明の透明性繊維強化樹脂シートの製造に用いた素材(キャリアーカバー、保護フィルムを含む)を表1に示す。なお、透明樹脂層に用いたウレタンアクリレートメタクリル酸エステル重合体は、調合槽において、15min攪拌後、真空度−100KPa以下になるように容器内を真空にして脱泡処理を行った。また、液温を25℃、40℃程度に調整することで、液粘度を300mPa・s〜800mPa・sとした。
バリア層形成用の透明硬化性樹脂(B)及び本体層形成用の透明硬化性樹脂組成物(A)に同一組成物を使用することとして、エポキシアクリレート8.0質量%、ウレタンアクリレート72質量%、及びメタクリル酸メチル20質量%の透明硬化性樹脂(日本ユピカ(株)製、製品名:ネオポール8136)100質量部(粘度1Pa・s、25℃)に、光重合開始剤(ダブルボンドケミカル社製、製品名:DOUBLECURE 200)2質量部、熱重合開始剤(日油(株)製、商品名:パーオクタO−70S)を2質量部、消泡剤(ビックケミー・ジャパン社製、商品名:BYK−A515)0.5質量部、紫外線吸収剤(BASF社製、商品名:TINUVIN 400)4質量部、光安定剤(ダブルボンドケミカル社製、商品名:Chisorb 292)1質量部を添加して、透明硬化性樹脂組成物(B)及び(A)を調製した。
上記の透明硬化性樹脂組成物の調製は、透明硬化性樹脂を34kgとして、50Lの調合槽で、15分間攪拌後、真空度−100kPa以下になるように調合槽を真空にして、脱泡を行った。また、本体層形成用の樹脂組成物として使用する場合は、液温を25℃又は40℃として粘度の調整を行った。
第1のキャリアフィルムとしての厚さ25μmのPETフィルムに、この透明硬化性樹脂組成物(B)を所定量塗布し、その上部を同じ厚み、材質の第2のキャリアフィルムで覆い、これをローラー間のギャップの調整が可能な2本の金属ローラー間に挿通し、次いで、紫外線硬化炉内に通してブラックライト(BLB)による紫外線を照射して、モノマー(メタクリル酸メチル)を重合させてプレ硬化したバリア層を形成した。ローラー間ギャップの調整により、最終の繊維強化樹脂シートにおいて、厚み45〜150μmのバリア層を形成するように、各実施例、比較例において調整した。
なお、引取(走行)速度は、0.8m/min、紫外線(UV)照射強度は300mJ/cm2、照射時間は1minとした。
<繊維強化樹脂本体層を含む透明性繊維強化樹脂シートの作製>
上記のプレ硬化したバリア層から第2のキャリアフィルムのみを剥離して、当該プレ硬化したバリア層上に、上述のメッシュ体A1(実施例1)、メッシュ体A2(実施例2)、メッシュ体B1(実施例3)、メッシュ体B2(実施例4)、及びメッシュ体C(比較例1)、メッシュ体D(比較例2)、メッシュ体E(比較例3)と、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を供給し、剥離後に回遊させた第2のキャリアフィルムで再度覆い、2本のローラーからなる第2スクイズローラー間に挟み込むようにして、ローラーの材質、ローラー間のギャップ(間隙)、速度を適宜調整して未硬化状の樹脂を扱きつつ、3軸メッシュ体に含浸した。次いで、ブラックライト(BLB)による紫外線を照射してBステージ状に硬化させた後、110℃の熱硬化炉で、本硬化させ、繊維強化樹脂本体層を含む透明性繊維強化樹脂シートを得た。
メッシュ体の構成、得られた透明性繊維強化樹脂シート性状、試験結果及び総合判定について、表2にまとめて示す。
本体シートより幅 50mm、長さ200mmの試験片を切り出した。試験体端部に2gの重りを取り付けて、図5に示すように逆側10cmを下方に直角の壁面を有する測定台上に固定し、台から先端までの鉛直方向距離(Lv)と壁面からの水平方向距離(Lh)を測定した。水平方向距離(Lh)が60mm以下かつ鉛直方向距離(Lv)が70mm以上のものを「○」とし、そのほかを「×」とした。
NEXCO試験法 JSCE K533−2013:「トンネルはく落防止用繊維シート接着工の押し抜き試験方法」に準じて、コンクリートU字溝蓋板(600mm×400mm×60mm厚の中央部にΦ100mm、深さ55mmの形状でコア抜き加工をしたもの)に接着剤(日米レジン製:アルプロンXL−1902、0.6kg/m2の塗布量)で透明性繊維強化樹脂シートの繊維強化樹脂本体層を溝蓋板の全面に貼り付け、1週間以上常温で養生した。
まず、コア部を1mm/minの速度で載荷し、コア部コンクリートが破壊するまで載荷し、その後5mm/minで載荷し最大荷重を測定した。荷重曲線より、変位が10mm以上50mmの範囲で最大荷重が0.5kN以上得られるものを「○」、その他を「×」とした。
図6に示すように50mm×50mmを25等分した10mm×10mmの枠内に、クラックを想定した太さ0.25mm、長さ3mmの黒色のマーキングをした検定用シートに、本体シートを固定した。
20ルクスの電灯光の中で目視による確認を行った。目視は3人で行い、3人全員が認識できたマーキングの数が20個以上(80%)を「〇」、20個未満を「×」とした。
以上の結果をまとめて表2に示す。
従来品と比較して軽量で、施工作業時の取扱性に優れ、施工工事の能率が向上でき、柔軟性を有するので施工対象物表面への追従性能が向上し、施工後のコンクリート構造体における約0.3mm以下のヘアラインクラックなども視認することができるコンクリート構造物の補修又は補強用透明性繊維強化樹脂シートとして有効に利用できる。
2 補強繊維
2a、2a1、2a2、2b、 メッシュ体対応の補強繊維の経糸、緯糸
3 開口部
4 メッシュ体
4s メッシュ体原反
5 透明硬化性樹脂(硬化物)層
6 繊維強化樹脂本体層
10 案内ローラー群
11 予備融着装置
11a、11b、11c 加熱ローラー
12 本プレスローラー
12a、12b 加熱・加圧ローラー
13 スリッター
14 巻取機
21,22 保護フィルム
31 第1のキャリアフィルム
32 第2のキャリアフィルム
33,34 第1スクイズローラー
35 紫外線硬化炉
36 第2のキャリアフィルムの分離ローラー
37,38 第2スクイズローラー
39 紫外線硬化炉
40 熱硬化炉
41 耳部カッター
42 引取機
43 定尺カッター
44 巻取機
50 透明硬化性樹脂(B)
51 透明硬化性樹脂(A)
100 繊維強化樹脂シート
Claims (6)
- 透明性樹脂からなる非通気性のバリア層と、補強繊維からなる所定の開口部が形成されたメッシュ体に該バリア層と接着性を有する透明硬化性樹脂組成物を含浸、硬化させた繊維強化樹脂本体層とを、積層一体化させてなる透明性繊維強化樹脂シートであって、以下の(a)〜(c)の要件を全て満たす透明性繊維強化樹脂シート。
(a)前記補強繊維がポリオレフィン系繊維であり結晶化度が60%以下、
(b)前記繊維強化樹脂本体層に用いられるメッシュ体の経(長手)方向の引張伸度が15%以上、
(c)シートの総厚みが0.4mm以下。 - 前記バリア層の透明性樹脂及び前記透明硬化性樹脂組成物の透明硬化性樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である、請求項1に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
- 前記メッシュ体が織布、網、編布、又は積層布である、請求項1または2に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
- 前記メッシュ体が織布である、請求項3に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
- 前記補強繊維が、低融点成分と高融点成分を含むポリオレフィン系複合繊維からなり、前記メッシュ体が織布、網、編布、又は積層布である請求項1または2に記載の透明性繊維強化樹脂シート。
- 前記メッシュ体がロールプレス加工されてなり、補強繊維における繊維の幅/厚みの比(扁平度)が1.5超であり、かつ前記繊維強化樹脂シートの総厚みが0.3mm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の透明性繊維強化樹脂シート。
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