JP5698956B2 - 繊維強化樹脂シートの製造方法 - Google Patents

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本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法に関するものである。
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分がひび割れたり、剥落したり、また、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、ひび割れた部分や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修又は補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図ることができる工法として提案されている(特許文献1参照)。
一方、その劣化したコンクリートのひび割れ部分を補修したのち、その後当該補修部位のひび割れ等の欠陥の進展の有無を目視観察することも、コンクリート構造物の管理上重要である。しかし、従来の一般的な補修方法では、表面が繊維基材などの被覆材で覆われているため、それらの目視観察が困難であった。
この解決方法として、特許文献2には、コンクリート表面に、補強ネットを全光線透過率が30%以上の可視光硬化型ビニルエステル樹脂により直貼りするコンクリート補強層の形成方法が提案されている(特許文献2参照)。
また、海島型の複合有機繊維のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体と、該メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂とを備える、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シートが提案されている(特許文献3参照)。
特開2002−256707号公報 特開2007−2514号公報 特開2009−61718号公報
しかしながら、特許文献1に記載の補修・補強用シートは施工後のコンクリート表面の目視観察についての考慮はされておらず、ひび割れの発生の有無やその程度、経時変化等を観察することができない。
また、特許文献2に記載の方法は、施工現場において、補強ネット及び補強シートを固着するための可視光硬化型ビニルエステル樹脂を塗布する作業は避けられず、不安定な足場での現場における補修又は補強作業の簡略化、短縮化が要請されていた。
一方、特許文献3に記載の繊維強化樹脂シートは、コンクリート面の目視観察は可能であるが、繊維強化樹脂シートにピンホール状の多数の貫通した穴を完全に無くすことは困難であると考えられる。その貫通した穴が存在すると未硬化の接着剤が漏出しやすく、施工の貼り付け作業で表面をローラー等でしごく場合に、接着剤が漏洩した表面ではその接着剤が塗り広げてられてしまうため、その接着剤の拭取りなどの施工上の手間が発生することがあり、さらに接着剤を完全に拭き取りきれないと表面に汚れが付着しやすいので外観を重要視する施工現場等では問題となることがあった。
そこで、本出願人は、特願2009−68817(平成21年3月19日出願)によって、貫通穴を防ぐ方法としてバリア層を設けて、貫通を遮断したコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートを提供した。しかしながらこの繊維強化樹脂シートにおいても、貫通穴は遮断されたものの透明樹脂層に、気泡が発生することは避けられず、外観上の問題(貫通穴があるかもしれないという誤解が生じることも含む)などの課題があった。さらに、透明樹脂層を構成するアクリル樹脂又はビニルエステル樹脂の硬化を加熱硬化により行うと、加熱によって樹脂粘度が低下した樹脂が、メッシュに含まれる気体と置換し、気泡の発生に繋がっていた。
つまり、メッシュ体を内包するシート状物でありながら、透明層に気泡が少ないためコンクリート構造物表面の観察が容易であり、かつ低コストの補強又は補修用の透明性繊維強化樹脂シートが求められていた。
そこで、本発明では、上記の問題が解決できる、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法について鋭意検討した結果、メッシュ体に所定の透明硬化性樹脂組成物を含浸して硬化するに際して、所定の光源で光硬化した後、熱硬化することで気泡の無いメッシュ状補強繊維入り樹脂シートを得ることができ、かつ、硬化時間の短縮も図ることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕を提供する。
〔1〕メッシュ体に透明硬化性樹脂を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、該製造方法は下記の工程(1)〜(4)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
(1)キャリアフィルム上又はキャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、ウレタンアクリレート樹脂(a)、ビニルエステル樹脂(b)、重合性単量体(c)、光重合開始剤(d)、及び熱重合開始剤(e)を含む、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、(2)メッシュ体を、前記液層形成工程により形成された液層と接触させ、その上部を第1のカバーフィルムで覆い、加圧含浸ローラーにより前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する工程、(3)消費電力が10〜100Wである非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することにより前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を光硬化する工程、及び(4)さらに、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を熱硬化する工程。
〔2〕前記非白色蛍光灯がブラックライト蛍光灯であり、該ブラックライト蛍光灯により光硬化する前記〔1〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔3〕前記重合性単量体(c)が、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、及びスチレンから選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔4〕前記(1)の液層形成工程の前に、キャリアフィルムの上部にバリア層を形成するための、下記のバリア層の形成工程(5)を含む前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法、
(5)キャリアフィルム上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布し第2のカバーフィルムで挟み込んで硬化してバリア層を形成した後、第2のカバーフィルムを剥離除去して、形成された該バリア層を前記(1)の工程に供するバリア層形成工程。
〔5〕前記バリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)が前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と同一であり、非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することにより硬化されてなる前記〔4〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔6〕前記(2)のメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する工程において、前記メッシュ体は、以下に記載する(6)の予備含浸工程を経て湿潤状態にある前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法、
(6)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)をメッシュ体に付与し、含浸ローラー間に通して、ローラー線圧3〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程。
〔7〕前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である前記1〜6のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔8〕前記メッシュ体が親水化処理されている前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
〔9〕前記第1のカバーフィルムが(5)のバリア層形成工程に用いた第2のカバーフィルムを剥離したフィルムを連続的に再利用したものである前記〔4〕に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法によれば、メッシュ体に含浸された本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を、所定の光源から光を照射することにより光硬化し、しかる後に熱硬化しているので、メッシュ体に内包する気泡が未硬化状の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の昇温に伴う粘度低下により凝集して2mm以上の気泡を多数出現させる現象が緩和され、メッシュ体の開口部に気泡の少ない繊維強化樹脂シートを得ることができる。
本発明の繊維強化樹脂シートは、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法により得られる気泡の少ない繊維強化樹脂シートなので、コンクリート構造物表面の観察が可能な補強又は補修用繊維強化樹脂シートとして有効に提供できる。
(A)本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図、(B)A−A線断面図である。 (A)本発明の実施例1で得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大模式図、(B)比較例2の製造方法で得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大模式図である。 比較例2で得られた繊維強化樹脂シートにおいて発生したピンホール(貫通気泡)を示す拡大写真である。 (A)補強繊維の一例としての海島型複合糸を構成する芯鞘型複合繊維説明図、(B)鞘成分を融合させた海島型複合糸の説明図である。 本発明の製造方法の一例の工程説明図である。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法は、(1)ャリアフィルム上又はキャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、ウレタンアクリレート樹脂(a)、ビニルエステル樹脂(b)、重合性単量体(c)、光重合開始剤(d)、及び熱重合開始剤(e)を含む、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、
(2)メッシュ体を、前記液層形成工程により形成された液層と接触させ、その上部を第1のカバーフィルムで覆い、加圧含浸ローラーにより前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する工程、
(3)非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することにより前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を光硬化する工程、及び
(4)さらに、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を熱硬化する工程、
を含むことに特徴を有する。
本発明において、メッシュ体としては、織布、網、編布、および積層布からなる1種又は2種以上の組み合わせから選択できる。
メッシュ体は補強繊維によって所定の開口部が形成されており、メッシュ体の全投影面積に対して、開口部は開口率が30%以上であることが好ましく、開口率が30%未満では、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)がメッシュ体に侵入しにくく補強効果が期待できず、またコンクリート表面層の観察もし難い。
積層布は、組布とも称されるもので、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層した3軸のものを一般的に使用できる。積層布は、メッシュ体としての低コスト性を有しているので、経済的なメリットもある。積層布の製造は、例えば特開平11−20059号公報に記載の方法により製造できる。
メッシュ体は、補強繊維を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布とすることができる。
図1(A)は、本発明のコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの一例の上面図であり、メッシュ体10は透明樹脂層を介して見えている状態を示している。同図に示すメッシュ体10は、補強繊維1を構成糸として、下経糸層11上に、斜交層13及び逆斜交糸層14、上経糸層12を積層し、各層の交点を加熱により熱融着したものである。
メッシュ体10を形成した後、さらに加熱加圧してメッシュ体10全体を薄肉化してもよい。これによりメッシュ体10の柔軟性や可撓性を更に向上させることができる。その際の加熱温度は、海部を構成する熱可塑性樹脂の融点近傍がよい。加圧はローラー押圧などの方法で行うことができる。
メッシュ体10に用いられる補強繊維は、繊維強度、伸度等の物性が、メッシュ体10の構成糸として補強効果を有するものであれば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維等その種類を問わない。
なかでも、メッシュ体10は、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)該芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分と、からなる芯鞘型複合繊維の鞘成分を融合させた海島型複合糸を用い、該複合糸の交点を熱融着してなるメッシュ体、特に3軸積層布とすることが好適である。
本発明の海島型複合糸に使用できるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、又は3元共重合体等が挙げられる。
芯成分と鞘成分の好適な組み合わせとしては、例えば、芯成分としてアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分として直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を用いる組み合わせが挙げられる。
かかる、海島型複合糸は、例えばスピンドロー方式により、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用い、所定の鞘/芯断面比となるように紡糸し、直結する延伸装置に導いて、飽和水蒸気圧下で延伸し、延伸と共に鞘成分で複数数の繊維間を融合して得ることができる。また、特開2003−326609号公報に記載の方法により製造することができる。
海島型複合糸において、島部と海部との質量比は20:80〜80:20であることが好ましい。島部及び海部の合計質量に対する島部の質量比が20質量%未満であると、メッシュ体10による補強効果が小さくなる傾向があり、80質量%を超えると熱接着強度が低下する傾向がある。同様の観点から、島部と海部との質量比は40:60〜70:30であることがより好ましい。
海島型複合糸の繊度は100〜5000dtexが好ましい。100dtex未満であると、目的とする物性が得られ難くなる傾向があり、5000dtexを超えると柔軟性や追随性が損なわれ易くなる傾向がある。500〜3000dtexの繊度がより好ましい。
図4は、モノフィラメントを製造する方法の一実施形態を示す斜視図である。
図4の実施形態は、単一の芯部(島部)3及びこれの外周面を覆う鞘部5aから構成される芯鞘構造を有する芯鞘型複合単繊維9を複数本集束して芯鞘型複合単繊維束15を準備する工程(図4の(a))と、芯鞘型複合単繊維束15を延伸しつつ鞘部5aを溶融し、鞘部5a同士を融合して複数の島部3を内包する海部5を形成させる工程(図4の(b))とを備える。なお、この工程は、後述するメッシュ体10の製造工程に先立って行ってもよく、メッシュ体10の製造工程における加熱処理によって行ってもよい。
キャリアフィルム上に形成されたバリア層上に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する場合には、当該バリア層も本体層と接着し、かつ透明である必要があることから、キャリアフィルム上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有する透明硬化性樹脂を塗布し、これを硬化してバリア層を形成すればよい。
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)は、ウレタンアクリレート樹脂(a)、ビニルエステル樹脂(b)、重合性単量体(c)、光重合開始剤(d)、及び熱重合開始剤(e)を含むものから構成される。
ウレタンアクリレート樹脂(a)及びビニルエステル樹脂(b)は、透明硬化性樹脂の本体を構成するものであり、ウレタンアクリレート樹脂(a)とビニルエステル樹脂(b)との質量比は、ウレタンアクリレート樹脂(a)/ビニルエステル樹脂(b)で概ね9/1〜5/5であり、質量比が9/1未満では硬化後の繊維強化樹脂シートの剛性が不足し、5/5を超えてビニルエステル樹脂(b)の比が高くなると柔軟性が低下する。
本発明において前記ウレタンアクリレート樹脂(a)とは、不飽和ポリエステル製造時に使用される多価アルコール類、または不飽和ポリエステル製造時に使用される飽和2塩基酸またはその無水物と該多価アルコールとのエステル化反応で得られる飽和のポリエステルポリオールと、トリレンジイソシアナート(一般にTDIと呼ばれている)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート(一般にMDIと呼ばれている)または3−イソシアナートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシル−イソシアナート(一般にIPDIと呼ばれている)とを、付加反応させて分子の末端にイソシアナート基を有するウレタン化合物を合成し、次に2−ヒドロキシエチルメタクリレートまたは2−ヒドロキシエチルアクリレートを付加反応させるか、または先ず2−ヒドロキシエチルメタクリレートまたは2−ヒドロキシエチルアクリレートとTDI,MDIまたはIPDIとを付加反応させて分子の片方の端にイソシアナート基を有する化合物を合成し、次にこれと該多価アルコールまたは該飽和のポリエステルポリオールとを付加反応させて得られるウレタンアクリレートを、架橋剤として使用される重合性単量体に溶解した液状の樹脂である。
本発明に使用できるビニルエステル樹脂(b)としては、例えばエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応によって製造されるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂、末端カルボキシル基を有するポリブタジエンとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応によって製造されるポリブタジエンタイプのビニルエステル樹脂などが挙げられ、耐食性及び機械的強度が優れるものである。
かかるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂としては、ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂と(メタ)アクリロリル基を有するカルボン酸とを反応させたもの、ノボラックタイプのエポキシ樹脂と(メタ)アクリロリル基を有するカルボン酸とを反応させたものを挙げることができる。
上記ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールA若しくはビスフェノールFとの反応により得られる実質的に1分子中に2個以上のエポキシ基を有するグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、メチルエピクロルヒドリンとビスフェノールA若しくはビスフェノールFとの反応により得られるジメチルグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、あるいはビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリン若しくはメチルエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂などが挙げられる。
また上記ノボラックタイプのエポキシ樹脂としては、例えばノボラック型フェノール樹脂又はノボラック型クレゾール樹脂とエピクロルヒドリン又はメチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂などが挙げられる。
本発明に使用できる重合性単量体(c)としては、前記のウレタンアクリレート樹脂(a)及びビニルエステル樹脂(b)と重合可能な液状重合性単量体であって、例えばスチレン;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、及びヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等挙げられる。これらのうち、低温で反応させる観点から、メチルメタクリレート、あるいは高沸点である観点からスチレンが好ましく、これらは単独又は2種以上を併用して用いることができる。
本発明の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)は、光重合開始剤(d)を含有する。
使用できる光重合開始剤(d)としては、光の作用または増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸、および塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物である。本発明において光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、またはイオンビーム等に感度を有するものを適宜選択して使用することができる。ただし、カバーフィルム22(23)を透過することが条件として挙げられる。
光重合開始剤(d)としては、例えば、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物等を挙げることができる。
より具体的には、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、などの光重合開始剤が特に好ましい。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤(d)は、ウレタンアクリレート樹脂(a)とビニルエステル樹脂(b)との合計100質量部に対して、0.1〜2質量部の範囲で使用するのが好適である。光重合開始剤(d)が0.1〜2質量部の範囲であれば、硬化速度と生産速度のバランスが取れ、気泡の発生も抑止でき、繊維強化樹脂シートが硬化不足となることもなく、多すぎて不経済となることもない。
本発明の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)は、熱重合開始剤(e)を含有する。
使用できる熱重合開始剤としては、50〜100℃程度で硬化可能な中温硬化型の有機過酸化物及びそのエステル類、有機アゾ化合物などを挙げることができる。
有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−2,2,5−トリメチルシクロヘキサン(日本油脂社製パーヘキサ3M−95)、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン(日本油脂社製パーヘキサCD)、1,1,3,3−テトラメチルヒドロペルオキシド(日本油脂社製パーオクタH)、1,1−ジメチルブチルペルオキシド(日本油脂社製パーヘキシルH)、ビス(1−t−ブチルペルオキシ−1−メチルエチル)ベンゼン(日本油脂社製パーブチルP)、ジクミルペルオキシド(日本油脂社製パークミルD)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂社製パーヘキサ25B)、t−ブチルクミルペルオキシド(日本油脂社製パーブチルC)、ジ−t−ブチルペルオキシド(日本油脂社製パーブチルD)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン(日本油脂社製パーヘキシン25B)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル(日本油脂社製パーロイルL)、過酸化デカノイル(三建化工社製サンペロックス−DPO)、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート(三建化工社製サンペロックス−CD)、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(日本油脂社製パーロイルTCP)、t−ブチル2−エチルペルヘキサノエート(日本油脂社製パーブチルO)、(1,1−ジメチルプロピル)2−エチルペルヘキサノエート(化薬アクゾ社製トリゴノックス121)、(1,1−ジメチルブチル)2−エチルペルヘキサノエート(化薬アクゾ社製カヤエステルHO)、t−ブチル3,5,5−トリメチルペルヘキサノエート(日本油脂社製パーブチル355)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂社製パーヘキシルI)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂社製パーブチルI)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(日本油脂社製パーブチルE)、過マレイン酸t−ブチル(日本油脂社製パーブチルMA)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製パーオクタO)、過ラウリン酸t−ブチル(日本油脂社製パーブチルL)、過安息香酸t−ブチル(日本油脂社製パーブチルZ)などを例示することができる。これらの熱重合開始剤は単独でも、複数混合して用いてもよい。
熱重合開始剤は、ウレタンアクリレート樹脂(a)とビニルエステル樹脂(b)との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲で使用するのが好適である。熱重合開始剤が0.1〜5質量部の範囲であれば、繊維強化樹脂シートが硬化不足となることもなく、多すぎて不経済となることもない。
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)には、さらに熱重合開始剤の反応性を制御するために、重合禁止剤や促進剤を加えることができる。重合禁止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、p−ベンゾキノン、2−エチルアントラキノン、ジラウリルチオジプロピオネート、クペロンなどを例示することができる。
促進剤としては、遷移金属の塩、例えばナフテン酸コバルトなどを用いることができる。
また、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)には、所望の透明性が得られる範囲内で、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを更に含有していてもよい。本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の粘度は100〜15000cPであることが好ましく、800〜1000cPであることがより好ましい。
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の粘度が低いと液垂れが発生し易くなる傾向があり、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の粘度が高いと含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
また、紫外線吸収剤は、屋外での直射日光による繊維強化樹脂シートの劣化を防ぐのに有用である。かかる紫外線吸収剤の具体例としては、上記の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)に溶解するものであれば特に限定されず、各種紫外線吸収剤を使用することができる。具体的には、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、トリアゾール系、ヒドロキシベンゾエート系、シアノアクリレート系などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は複数を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ウレタンアクリレート系化合物との相溶性の点で、ベンゾフェノン系またはトリアゾール系、具体的には、(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシ−フェニル)−フェニル−メタノン、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4−tert−オクチル−フェノール等の紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤の含有割合は、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)100質量部に対して、通常0.1〜3質量部であることが好ましく、特に好ましくは1〜2質量部である。かかる紫外線吸収剤が少なすぎると耐光性が低下する傾向があり、多すぎると本体樹脂の光硬化時に紫外線照射エネルギーを消費して硬化がし難くなる傾向がある。
本発明に使用できるキャリアフィルム21及びカバーフィルム22(23)としては、300nm以上の光を70%以上透過できる透明なフィルム、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルムを用いることができる。
これらのキャリアフィルム21及びカバーフィルム22(23)を保護フィルムとしてそのまま用いてもよい。保護フィルムは繊維強化樹脂シートが製造された後、検査、保管、輸送、切断などの作業等において繊維強化樹脂シートの表面を保護するもので、施工時には除去されるものである。
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法において、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)は、非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することによって光硬化される。
本発明に用いられる非白色蛍光灯は、波長253.7nmの紫外線を吸収して別の特定波長に変換され、そのエネルギーが増幅された非白色蛍光灯であり、例えば、ブラック蛍光灯、カラー蛍光灯、または光化学用蛍光灯などを挙げることができる。ブラック蛍光灯は、可視光を殆ど放射せずに蛍光作用の強い近紫外線(ピーク波長352nm)を効率よく放射する光源であり、例えば東芝ライテック社製の「FL20SBLB」、「FL40SBLB」等を好ましく用いることができる。
カラー蛍光灯としては、青色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製の「FL20SB」、「FL40SB」)等、青白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製の「FL20SBW」、「FL40SBW」)等を好ましく用いることができる。
また、光化学用蛍光灯は、光化学反応を促進させるのに有効な360nm付近の近紫外放射を発生する光源であり、例えば、三菱電機オスラム株式会社製の「FL20SBL−360」、「FL40SBL−360」等を好ましく用いることができる。
すなわち、本願発明における非白色蛍光灯には、紫外線発光を波長変換せずにそのまま用いる殺菌ランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタハライドランプは含まれない。これらは、点灯するまでに時間(15分程度)を要し、さらに出力が安定するまでに時間(5〜10分程度)を要するのに対して、非白色蛍光灯は即時点灯し、オンデマンド化が可能である。非白色蛍光灯の消費電力は、好ましくは10〜100Wであり、より好ましくは20〜60Wである。蛍光灯が上記の範囲であり克つ、照射強度6W/cm2以上であれば、上記の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を2〜6分で硬化させることができ、さらに低エネルギーの光であるため、重合性単量体を沸騰させて気泡を発生させたり、基材にダメージを与えたりすることもない。
特に、上記の低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプは、消費エネルギーの50%以上が赤外線や熱損失となり、照射により基材に対して熱ダメージを与えてしまう場合があり、そのため、冷却装置を設置する必要があり、装置が大型化してしまうという問題があった。一方、非白色蛍光灯を用いた場合、冷却装置を設置する必要がなく、設備を小型化することが可能となる。
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法において、熱硬化工程は、光硬化された本体用透明硬化性樹脂組成物(A)をさらに熱硬化する工程である。この熱硬化は、硬化性樹脂の強度を発現させ、かつ、残存する重合性単量体(モノマー)を低下させるために行うものである。
図5は、本発明の製造方法の一例の工程説明図である。図5に係る製造方法においては、キャリアフィルム21上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布し第2のカバーフィルム23で挟み込んで硬化してバリア層101を形成した後、第2のカバーフィルム23を剥離するバリア層形成工程(5)を経て、当該バリア層上にポンプ43からノズル48を経て本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を供給している。
バリア層形成工程(5)は、先ず、キャリアフィルム21上に、所定厚みのバリア層を形成するための重合性単量体を含むバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)〔本態様ではバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)と本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を同一としている。〕20bを調合槽40aで調合してリザーブタンク40に投入しポンプ41により、ノズル42からキャリアフィルム21上に塗布しスクイズロール50で所定の塗布厚みに調整し、硬化炉70に挿通して、硬化したバリア層用透明硬化樹脂からなるバリア層101を形成する。
キャリアフィルム21上へのバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)又は本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の塗布には、一般的な塗工装置が使用でき、例えばグラビアリバース、グラビアダイレクト、三本リバース、ダイコートなどの中から選んで使用できる。
次いでバリア層101の上に所定厚みの繊維強化樹脂本体層を形成するための本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを供給(塗布)した後、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)が含浸された予備含浸メッシュ体10aを供給して、スクイズロール55で予備含浸メッシュ体10aに、さらに本体用透明硬化性樹脂組成物(A)20aを含浸し、次いで第1のカバーフィルム22との間に予備含浸メッシュ体10aを挟み込んで、スクイズロール56で含浸・脱泡、及び厚み調整をし、硬化炉71での非白色蛍光灯による光を照射して光硬化された後、さらに熱硬化炉72で未硬化状モノマー等のアフターキュアと繊維強化樹脂シートの熱的安定性を向上させるための処理が施され、巻き取られる。
なお、この実施態様では、第1のカバーフィルム22は、バリア層の形成に用いた第2のカバーフィルム23を、バリア層の硬化後にロール53aの部分で剥離し、ガイドロール53b〜53cを経てスクイズロール56の部分で第1のカバーアフィルム22として再利用している。なお、ガイドロール53b〜53c間には、テンションロール(図示省略)を設けて、カバーフィルム22(23)の張力を調整し、キャリアフィルム21側との速度バランスを調整している。
次に、メッシュ体10へ予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)を含浸・脱泡する(6)の予備含浸工程について説明する。
予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)としては、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、粘度50〜15000cPの組成ものから選択される。
予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)は、スチレンモノマーなどの溶剤(粘度50cP以下、25℃)とビニルエステルや不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂(粘度100〜6000cP、25℃)を混合した組成であって、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)に相溶するものであればよい。予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)の粘度が低ければ低いほど脱気効果が高いので、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を加温し粘度を下げて利用しても良い。ただし、熱硬化性樹脂は、硬化反応が起きないような温度にする必要がある。本体用透明硬化性樹脂組成物(A)による液層20a'に予備含浸メッシュ体10aを導き含浸する本含浸工程に送るまでに、予備含浸メッシュ体10aは予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)で濡れていることが重要なので、溶剤を使用した際は揮発する前に速やかに本含浸工程に送る必要がある。
メッシュ体10への含浸性とメッシュ体10に内包する気泡を脱離させる観点から、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)の粘度は50〜15000cP、スクイズローラー47の線圧は3〜30N/cmとすることが好ましい。ここにおいて、ローラー線圧とは、ローラーを押さえる加重(N)をローラーの長さ(cm)で除したものである。
粘度が50cP未満では、液垂れが発生し易くなる傾向がありメッシュ体10による樹脂の保持量が不十分となり、15000cPを超えると含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
また、線圧が3N/cm未満では、メッシュ体10が保持する樹脂に気泡が多量に含んだ状態で本含浸工程に移行することになり、硬化した繊維強化樹脂シートに気泡が出現する。一方、線圧が30N/cmを超えると、予備含浸ローラー47により、メッシュ本体が変形し、皺が発生するなど外観不良を来す。
予備含浸された予備含浸メッシュ本体10aは、キャリアフィルム21上又はキャリアフィルム21上に形成されたバリア層上に、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して形成した液層20a'に導かれスクイズローラー55にて続いて、第1のカバーフィルム22に挟持されてスクイズローラー56で本含浸される。
次いで、硬化炉71、熱硬化炉72を経て、ローラー60を介して引き取られ、巻き取られる。
キャリアフィルム21、第1のカバーフィルム22及び第2のカバーフィルム23としては、前述の如く、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルムを用いることができる。なお、図5では、第1のカバーフィルム22は、バリア層の形成に用いた第2のカバーフィルム23を硬化後に剥離し、これをスクイズロール56の部位から再度導入して、本含浸、硬化工程以降で使用している。これらのキャリアフィルム21は、引取り以降において保護フィルム21及び22(23)としてそのまま用いてもよい。保護フィルムは繊維強化樹脂シートが製造された後、検査、保管、輸送、切断などの作業等において繊維強化樹脂シートの表面を保護するもので、施工時には除去されるものである。
さらに、本体用硬化性樹脂組成物(A)及び/又はバリア層用硬化性樹脂組成物(B)には粘着剤成分を含有してもよい。粘着剤成分(例えば粘着性付与剤)を含むことによって、施工時にコンクリート構造物側の接着剤層と接着し易くなって、施工がはかどるなどの効果が期待できる。また、保護フィルムとの粘着により、繊維強化樹脂シートを有効に保護できる。
本体用透明硬化性樹脂組成物(A)及び予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)は、続いて、硬化炉71内で、紫外線を照射することにより硬化する。この紫外線を照射により硬化性樹脂組成物20a及び20cにおいて重合性単量体の重合が進行する。繊維強化樹脂本体層として透明樹脂層が形成された繊維強化樹脂シート100は、硬化炉71から出てきた後、さらに熱硬化炉72にてアフターキュアと寸法安定化の熱処理を受け、ローラー60により引取られて、巻き取られる。なお、硬化炉71および熱硬化炉72を通過させる際は、繊維強化樹脂シート100の両端はクリップで挟持して、繊維強化樹脂シートを緊張状で処理することが、皺が無く、一定幅の繊維強化樹脂シートを得る点で好ましい。
本発明の製造方法により得られた繊維強化樹脂シートの断面拡大図を図2(A)に示す。同図においてメッシュ体10の構成繊維1がバリア層101側にも埋設した状態になっているが、これは一旦硬化したバリア層101の表面が、未硬化状の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)との接触によって相互の相溶性により膨潤するので、予備含浸メッシュ体10aが含浸ローラー55、56等による作用を受けて、バリア層側にもその一部が埋設される。バリア層とのかかる界面状態は、繊維強化樹脂シートとして、界面剥離が発生し難いので好ましい。なお、同図において、保護フィルム21及び22(23)は、製造時にはキャリアフィルム21及びカバーフィルム22(23)も兼ねたものであり、繊維強化樹脂シートとしての施工時には剥離される。
本発明の製造方法では、キャリアフィルム21及び/又は第1のカバーフィルム22を透明な(メタ)アクリル系樹脂フィルムとすることができる。
この場合は、キャリアフィルム21としての(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に透明硬化性樹脂として、本体形成用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布して液層20a'を形成し、予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)が含浸された予備含浸メッシュ体10aと共に第1のカバーフィルム22の間に挟み込んで、以下順次、本含浸し、硬化、熱処理する工程を経て繊維強化樹脂シートを製造することができる。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムを用いると、当該(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、キャリアフィルム21とバリア層、さらには保護層を兼ねる機能をもたせることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<海島型複合糸の製造>
芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が35/65となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1,850dtex、フィラメント数240本の、芯のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸を得た(スピンドロー方式)。
この海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dtex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dtex、140℃で測定した熱収縮率は、6.8%であった。
<メッシュ体の作製及び親水化処理>
得られた海島型複合糸を、積層布製造装置に配置し、経方向、斜方向及び逆方向の3方向に、経糸、斜交糸及び逆斜交糸を10mmピッチで積層し、次いで表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融し各層の複合糸が接着した3軸のメッシュ体10を得た。目合いは10mm、単位面積当たりの質量は65g/m2であった。
得られた3軸積層布のメッシュ体10をコロナ放電処理装置(春日電機社製、機種名:発振器AGI−023、電極アルミ製6山)に通して、電圧、処理速度等を変更して、メッシュ体10の改質度合いを濡れ指数56mN/mに調製した。なお、表面改質度(濡れ指数)の評価方法は、JIS K6768による濡れ性試験方法を用いた。
実施例1
(バリア層の形成工程)
キャリアフィルム21としてポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)を繰り出し、該フィルム上にバリア層(バリア層)101を形成するためにバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)の液状物20bを塗布した。
バリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)は、重合性単量体(c)として共にメチルメタクリレートを20質量%含む、ウレタンアクリレート樹脂(a)とビニルエステル樹脂(b)の質量比(a)/(b)が80/20の混合液(日本ユピカ製:ネオポール8136)100質量部(粘度1000cP、25℃)に、光硬化開始剤(d)として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(商品名イルガキュア184:チバ・スペシャルティ−・ケミカルズ(株)製)2質量部と、熱硬化開始剤(e)として、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製:パーオクタO)2質量部添加して、調合槽40aで撹拌し、リザーブタンク40に注入した。リザーブタンク40からポンプ41によりキャリアフィルム21上にノズル42から供給し、これをスクイズローラー50により、硬化後の厚みが50μmとなるように調整した後、第2のカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み25μm))23により挟んで、全体のフィルム厚さを125μmに調整した。これを硬化炉70に導き、ブラックライトで両面を1分間照射(最大波長352nm、照射エネルギー400mJ/cm2)して光硬化させた後、ローラー53aの部位で、第2のカバーフィルム23を剥がして、キャリアフィルム21に支持された厚さ50μmのバリア層を有するフィルム101を得た。
(メッシュ体への樹脂含浸、硬化)
次いで、キャリアフィルム21とその上層に形成されたバリア層を有するフィルム101を連続的に供給し、前記の透明硬化性樹脂組成物(B)と同一の樹脂組成物20aを本体用透明硬化性樹脂組成物(A)として、ポンプ43によりノズル48から供給する一方、メッシュ体10とを供給し、第1のカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm))22の間に挟みこみ、全体のフィルム厚さが400μmとなるように加圧ローラー56にて調整し、メッシュ体10に液状組成物を含浸させた。
その後、硬化炉71内にてブラックライトで両面を5分間照射し(照射エネルギー2400mJ/cm2)光硬化させた後、熱硬化炉72内にて100℃で10分間加熱により熱硬化を行って繊維強化樹脂シートを得た。
得られたシートの気泡は1ミリ以下と小さく、数も少なく、コンクリート構造物の補修又は補強用シートとして用いた場合には、コンクリート表面の視認性にほとんど支障はないものであった。
実施例2
バリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)及び本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の組成を同一として実施例1の組成物に、さらに光硬化促進剤として、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1(チバガイギー社製:商品名イルガキュア907)を1質量部加えた以外は、実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シートを得た。
得られたシートの気泡の外径は1ミリ以下と小さく、且つ数も少なく、コンクリート構造物の補修又は補強用シートとして用いた場合には、コンクリート表面の視認性にほとんど支障はないものであった。
比較例1
キャリアフィルム21にバリア層が形成されたフィルム101を実施例1と同様に供給し、実施例1と同一組成の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を、ポンプ43によりノズル48から供給する一方、メッシュ体10を供給し、第1のカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm))22の間に挟みこみ、全体のフィルム厚さが400μmとなるように加圧ローラー56にて調整し、メッシュ体10に液状組成物を含浸させた。
その後、硬化炉71内にて高圧水銀灯で片面を5秒間照射(照射エネルギー2500mJ/cm2)したところ、樹脂が発熱し燃えた。
比較例2
キャリアフィルム21にバリア層が形成されたフィルム101を実施例1と同様に供給し、実施例1と同一組成の本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を、ポンプ43によりノズル48から供給する一方、メッシュ体10を供給し、第1のカバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm))22の間に挟みこみ、全体のフィルム厚さが400μmとなるように加圧ローラー56にて調整し、メッシュ体10に液状組成物を含浸させた。
その後、硬化炉71内にて硬化することなく、熱硬化炉72において100℃で10分間加熱により熱硬化を行って繊維強化樹脂シートを得た。
得られたシートに気泡が多数存在し、気泡の外径はほとんど2mm以上であり、コンクリート構造物の補修又は補強用シートとして用いた場合には、コンクリート表面の視認性に支障があるものであった。
比較例3、比較例4
比較例2において熱硬化条件を熱硬化炉72中で、110℃で10分間(比較例3)、90℃で15分間(比較例4)に変更して繊維強化樹脂シートを得た。いずれの繊維強化樹脂シートにも気泡が多数存在し、殆どの気泡が外径2mm以上であり、コンクリート構造物の補修又は補強用シートとして用いた場合には、コンクリート表面の視認性に支障があるものであった。
以上の実施例、比較例について構成、組成及び硬化条件、気泡の発生による視認性への影響度についてまとめて表1に示す。
紫外線照射による硬化は与えるエネルギー量と、硬化開始剤の量及び種類に依存する。エネルギー量は波長と照度と照射時間で決まるため、照射時間を短くするためには短波長で高輝度の光源にする必要がある。しかし、高圧水銀灯(オーク製作所製、出力30W/cm2)を用いた比較例1では、ランプ自体の発熱量も相当多くなるため、距離を1mに離してもアクリル樹脂が燃えてしまった。なお、高輝度の光源を使用する場合には、間に水を流すなどの対策もできるが、硬化発熱がコントロール出来ず、また装置が複雑で大型になり装置費用も高価となることが避けられない。
実施例2において、光硬化促進剤を添加したが、やや硬化が早いが、気泡等において最終的に目立った変化はなかった。光硬化だけでは重合が不完全なので後で必ずアフターキュアを行う必要があることが確認された。
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法は、メッシュ体の開口部に気泡の少ない、コンクリート構造物表面の観察が可能な補強又は補修用繊維強化樹脂シートの製造方法として有効に利用できる。
1 補強繊維(海島型複合糸)
3 芯部(島部)
5a 鞘部
5 海部
10 メッシュ体
10a 予備含浸メッシュ体
11 下経糸(層)
12 上経糸(層)
13 斜交糸(層)
14 逆斜交糸(層)
15 芯鞘型複合単繊維束
20a 本体用透明硬化性樹脂組成物(A)
20b バリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)
20c 予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)
20a' 本体用透明硬化性樹脂組成物(A)の液層
20b' バリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)の液層
20c' 予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)の液層
21 キャリアフィルム
22 第1のカバーフィルム
23 第2のカバーフィルム
25 気泡
40、44 リザーブタンク
40a 調合槽
41、43、45 ポンプ(樹脂供給ポンプ)
42、48 ノズル
46 予備含浸槽
47 予備含浸ローラー
52 第1スクイズローラー
53a、53b、53c ガイドローラー
55 含浸ローラー
56 第2スクイズローラー
60 引取りローラー
61 巻取機
70、71 硬化炉
72 熱硬化炉
100 繊維強化樹脂シート
101 バリア層
102 繊維強化樹脂本体層

Claims (9)

  1. メッシュ体に透明硬化性樹脂を含浸・硬化してなるコンクリート構造物の補修又は補強用繊維強化樹脂シートの製造方法であって、該製造方法は下記の工程(1)〜(4)を含むことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
    (1)キャリアフィルム上又はキャリアフィルム上に形成されたバリア層上に、ウレタンアクリレート樹脂(a)、ビニルエステル樹脂(b)、重合性単量体(c)、光重合開始
    剤(d)、及び熱重合開始剤(e)を含む、本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を塗布する液層形成工程、
    (2)メッシュ体を前記液層形成工程により形成された液層中に侵入させ、さらにその上面に第1のカバーフィルムを載置して、キャリアフィルム上又は該キャリアフィルム上に形成されたバリア層との間に挟み込んだメッシュ体に前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する工程、
    (3)消費電力が10〜100Wである非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することにより前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を光硬化する工程、及び
    (4)さらに、前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を熱硬化する工程。
  2. 前記非白色蛍光灯がブラックライト蛍光灯であり、該ブラックライト蛍光灯により光硬化する請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
  3. 前記重合性単量体(c)が、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、及びスチレンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
  4. 前記(1)の液層形成工程の前に、キャリアフィルムの上部にバリア層を形成するための、下記のバリア層の形成工程(5)を含む請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
    (5)キャリアフィルム上にバリア層用透明硬化性樹脂組成物(B)を塗布し第2のカバーフィルムで挟み込んで硬化してバリア層を形成した後、第2のカバーフィルムを剥離除去して、形成された該バリア層を前記(1)の工程に供するバリア層形成工程。
  5. 前記透明硬化性樹脂組成物(B)が前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と同一であり、非白色蛍光灯から選択される少なくとも1種の光源から光を照射することにより硬化されてなる請求項4に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
  6. 前記(2)のメッシュ体に本体用透明硬化性樹脂組成物(A)を含浸する工程において、前記メッシュ体は、以下に記載する(6)の予備含浸工程を経て湿潤状態にある請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
    (6)前記本体用透明硬化性樹脂組成物(A)と相溶性を有し、かつ粘度50〜15000cPの予備含浸用透明硬化性樹脂組成物(C)をメッシュ体に付与し、含浸ローラー間に通して、ローラー線圧3〜30N/cmで含浸・脱泡する予備含浸工程。
  7. 前記メッシュ体が積層布であって、海島型複合糸を、経方向、斜方向、逆斜方向の少なくとも3方向に積層し、積層した海島型複合糸同士を熱融着してなる経一層又は経二層の3軸積層布である請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
  8. 前記メッシュ体が親水化処理されている請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
  9. 前記第1のカバーフィルムが(5)のバリア層形成工程に用いた第2のカバーフィルムを剥離したフィルムを連続的に再利用したものである請求項4に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
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