JP2020096563A - 赤色酢の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】色素等の添加物を使用することなく、しかもシンプルな工程で、鮮やかな色調を有し且つその色調が長期間にわたって持続する赤色酢を提供する。【解決手段】赤色清酒酵母(サッカロマイセス・セレビシエ KOY 3株:Saccharomyces cerevisiae KOY 3)を用いて赤色清酒を製造し、得られた清酒及び/又は該清酒の製造工程中に酢酸菌(例えば、きょうかい酢酸菌No.6等)を添加して酢酸発酵を行い、赤色酢を製造する。【選択図】なし

Description

本発明は、食酢、特に赤色を呈する赤色酢の製造方法等に関するものである。
赤色酢としては、例えば紅麹菌(モナスカス属菌)の麹を利用して製造することが知られているが(特許文献1、2)、紅麹菌は増殖が遅いため製麹が長いだけでなく、紅麹製造用の設備や複雑な工程が更に必要である。また、色素を添加する方法として、例えばアントシアンを含有する甘藷を添加する方法も知られている(特許文献3)が、甘藷を添加物として使用することが必須であるし、甘藷を充分に加熱したりする前処理及び使用後の甘藷の分離及びその処理といった後処理が必要である。
このように、赤色酢については、アルコール発酵した酵母をそのまま使用して、シンプルな方法で、しかも鮮やかな色調を有する赤色酢を製造する方法は知られていないのが現状である。
特開昭50−111292号公報 特開2002−315564号公報 特開平10−248551号公報
調理の面からも、そしてまた機能性の面からも、食酢に関する関心が昨今非常に高まってきている。関心の高まりとともに、新しいタイプの食酢の開発も期待されている。このような現状に鑑み、本発明者らは、着色酢に着目し、新規着色酢を開発することとした。したがって、本発明は、新規着色酢の提供を目的とするものである。
本発明者らは、新規着色酢を開発するにあたり、従来技術における問題点にも配慮して、着色物質の添加といった添加物処理は行わない、及びコスト面からして、なるべく既存の装置を利用することにより、シンプルな方法で、着色酢を製造することとした。
上記目的を達成するため、本発明者らは各方面から検討した結果、赤色に着色した清酒を酢酸発酵せしめたところ、赤色酢が得られ、しかも、酢酸発酵によって赤色が退色したり消失したりすることが予想されたにもかかわらず、予想とは全く逆に、生成した赤色は鮮やかであるのみでなく長期間にわたって持続する、という予想をはるかに超えた新規にして有用な知見を得た。
更に、本発明者らは、清酒のほか清酒の製造工程において生成する生成物(酒母、もろみ等)及び副生する副生物(清酒粕)といった各種アルコール含有物からも赤色酢が効率的に製造できることを確認し、これらの有用新知見に基づき更に研究の結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明の実施形態を例示すると次のとおりである。
(1)赤色色素を生成する清酒酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ KOY 3 株(Saccharomyces cerevisiae KOY 3)を用いてアルコール発酵を行って清酒を製造し、得られた清酒に及び/又は該清酒の製造工程中に、酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする赤色酢の製造方法。
(2)アルコール発酵を行った上記清酒酵母をそのまま利用すること、を特徴とする(1)に記載の赤色酢の製造方法。
(3)蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに食酢を添加して熟成し、清酒粕を分離して清酒を製造する工程において、分離して得られた清酒粕に酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の赤色酢の製造方法。
(4)蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに食酢を添加して熟成し、清酒粕を分離して清酒を製造する工程において、得られた清酒に酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
(5)蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、これに酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
(6)蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする(1)〜(5)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
(7)色調が高く、鮮やかな赤色を呈し、且つ色度の退色率も抑制された赤色酢を製造すること、を特徴とする(1)〜(6)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
(8)赤色清酒粕に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、酢酸濃度が5.1〜5.9%、OD500nmの色度が0.148〜0.298の赤色酢を得ること、を特徴とする(1)、(2)、(3)、(7)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
(9)赤色清酒に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、30℃で25日間貯蔵した後においても、酢酸濃度が3.7〜5.6%、OD500nmの色度が0.041〜0.058の赤色酢を得ること、を特徴とする(1)、(2)、(4)、(7)のいずれかひとつに記載の赤色酢の製造方法。
本発明によれば、赤色色素を生成する清酒酵母を用いて赤色清酒等の赤色を呈するアルコール性物質やアルコール含有物を製造し、これを酢酸発酵又はこれに食酢等を添加することによって赤色酢を製造することができる。通常はアルコール発酵と色素生産手段が異なるのに対して、本発明ではアルコール発酵を行った酵母をそのまま利用することができる。また、新規な装置や器具は必要がなく、既存の装置や器具を利用することができ、また、着色物質の添加といった添加物処理も必要でなく、昨今の消費者ニーズにも充分応えることができる。
また、一旦生成した赤色色素が酢酸発酵によって消失したりすること、換言すれば、赤色酢が得られないことも充分に危惧されたところであるが、本発明によれば、これとは全く逆に、鮮やかな赤色色素が得られ、しかもその赤色が長期間維持される、という著効が奏される。このような効果は、新規であることはもちろんのこと、予想できない顕著なものである。
そして、外観の面においても、例えば、きれいな赤色に染まった酢の物、すし、すし飯等を提供することが可能となり、消費者の嗜好に訴え、商業的成功も期待できるものである。
本発明に係る赤色酢を製造する工程を示した図面である。 赤色清酒粕に加水して再発酵させて得た再発酵醪について、酢酸発酵する前の状態を示した図面代用写真である。 赤色清酒粕の再発酵醪の酢酸発酵経過を示したグラフである。 赤色清酒粕の再発酵醪の酢酸発酵後の状態を示した図面代用写真である。図中、左側が醪1を示し、右側が醪2を示す。 赤色清酒粕の再発酵醪1を酢酸発酵させ、上槽して得た赤酢1の状態を示した図面代用写真である。図中、左から2番目及び3番目が本発明に係る赤酢1を示す。 同じく上槽後の赤酢2の状態を示した図面代用写真である。図中、左から2番目及び3番目が本発明に係る赤酢2を示す。
本発明においては、赤色色素を生成する清酒酵母を使用する。このような酵母としては、例えば、赤色色素を生成する清酒酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ KOY 3 株(Saccharomyces cerevisiae KOY 3 :以下、赤色清酒酵母ということもある)を使用することができる。
この酵母は、優良清酒酵母 KO 株(協会10号株として公益財団法人 日本醸造協会より販売)を突然変異処理して得られたアデニン要求性突然変異株 KOY 3 株であって、「赤色清酒酵母(桃色濁り酒用)」の名称で、同じく公益財団法人 日本醸造協会より販売されており、容易に入手することができる。赤色清酒酵母は、赤色色素を生成し、一部は菌体外に分泌するが、大部分は菌体内に蓄積する。赤色清酒酵母を用いるアルコール発酵及び清酒の製造は、常法にしたがって行えばよく、得られる清酒は、淡紅色〜紅色を呈し、アルコール濃度は低いが糖濃度は高く、まろやかな風味を有する赤色清酒である。
本発明においては、上記した赤色清酒酵母を用いて製造した赤色清酒といった赤色清酒酵母由来の各種アルコール性物質を食酢の製造原料として用い、赤色食酢を製造する。
その製造工程の1例を図1に示す。図1は、玄米を出発物質とし、赤色清酒酵母を用いて赤色清酒を製造する工程を示すとともに、その工程中及び最終的に生成する各種アルコール性物質(例えば、酒母、もろみ、清酒等)及び同じく副生する各種アルコール性物質(例えば、清酒粕)を示し、そして更に、これらの各種アルコール性物質に酢酸菌を投入して酢酸発酵を行い、必要あれば上槽して、赤色を呈する食酢(醸造酢)を製造する一連の工程を図示したものである。
図1を参照しながら本発明を更に説明する。
先ず、蒸米、麹、水及び赤色清酒酵母を用いて酒母を製造し、得られた酒母をアルコール性物質とし、これに酢酸菌を加えて酢酸発酵を行い、上槽して、赤色酢を製造する(製造方法(3))。
このようにして得た酒母及び更に蒸米、麹、水を用い、必要あれば更に醸造用アルコールを用いてもろみを製造し、得られたもろみをアルコール性物質とし、これに酢酸菌を加えて酢酸発酵を行い、上槽して、赤色酢を製造する。なお、醸造用アルコールは、食酢生産量を増加させ、風味を整えるため等に添加するものであって、焼酎、泡盛、スピリッツ類、清酒、醸造アルコール等が使用される(製造方法(4))。
このようにして得たもろみは、必要あれば酢酸発酵を促進するために食酢を添加し、熟成せしめた後に上槽して粕を除去し、赤色清酒を製造する。得られた赤色清酒をアルコール性物質とし、これに酢酸菌を加えて酢酸発酵を行い、上槽して、赤色酢を製造する(製造方法(2))。なお、粕の除去率をコントロールすることにより赤色清酒の赤色をコントロールすることができ、結果として、赤色酢の赤色の強度をコントロールすることができる。
上記赤色清酒の製造工程中に副生した清酒粕を分離し、分離して得られた赤色清酒粕(必要あれば加水して再度発酵させ)をアルコール性物質とし、これに酢酸菌を加えて酢酸発酵を行い、上槽して、赤色酢(つまり、赤色の粕酢)を製造する(製造方法(1))。
本発明においては、赤色清酒酵母を用いて赤色清酒又はその関連物質であるアルコール性物質を製造し、これらを酢酸発酵の原料として使用するほか、清酒としての飲用には必ずしも好適とはいえないアルコール含有物も酢酸発酵の原料として使用できる。また、破砕米、屑米、その他酒造不適米を含む各種穀類、芋類、果実類等の澱粉質原料又は糖質原料を必要に応じて加熱し、麹法、アミロ法、酵素法等によって適宜麹、酵素、赤色清酒酵母等を加え、糖化及びアルコール発酵を行い、アルコール含有物を得、これを赤色酢製造の原料として使用することもできる。
本発明における赤色酢の製造方法は、上記したアルコール性及び/又はアルコール含有赤色素原料を使用して酢酸発酵を行って赤色を呈する食酢(醸造酢)、である赤色酢を得るものである。酢酸発酵は、上記したアルコール性及び/又はアルコール含有原料に酢酸菌を添加して酢酸発酵をすればよく、例えば、表面発酵法、速醸法、静置培養法、深部培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法によって酢酸発酵を行い、酢酸を得る。酢酸発酵終了後、上槽、殺菌して赤色の醸造酢(赤色酢)とする。
なお、本発明においては、酢酸発酵することなく、アルコール性物質及び/又はアルコール含有物(以下、単に「該アルコール性物質」ということもある)に、酢酸発酵で得られる酢酸量と同程度の量の酢酸及び/又は食酢を、直接ブレンドして、赤色酢とすることもできる。
酢酸発酵に使用する酢酸菌としては、格別の限定はなく、通常用いられる酢酸菌が適宜使用可能であり、各種酢酸菌が広く使用可能であることも本発明の特徴のひとつである。
酢酸菌としては、酢酸発酵を行う細菌が適宜用いられ、例えば、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・アセトサム(Acetobacter acetosum)等が非限定的に例示される。
酢酸菌としては、具体的には、例えば酢酸発酵を行う細菌が適宜用いられ、例えば、アセトバクター・パスツリアヌス NBRC 3284(Acetobacter pasteurianus NBRC 3284)やアセトバクター・アセチ NBRC 3281(Acetobacter aceti NBRC 3281)等が例示される。なお、NBRC株は、NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)の生物資源カルチャー カタログからNBRC番号を指定して分譲を受けることができ、入手に格別の困難性はない。さらに、酢酸菌としては、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)に属する優良菌株が「きょうかい酢酸菌No.6」として公益財団法人 日本醸造協会から販売されるようになったので、これを使用してもよい。
また、本発明においては、もろみ又はもろみから精製した精製アルコールに酢酸菌を添加、発酵して得た発酵液、いわゆる種酢を酢酸菌として使用してもよい。
本発明においては、酢酸菌を用いて酢酸発酵を行うが、酢酸菌を添加する該アルコール性物質において、そのアルコール濃度は、4〜7%、好ましくは4.5〜5.5%程度に調整し、これに酢酸菌や種酢を加えて酢酸発酵を行えばよい。酢酸発酵は常法によればよく、酢酸菌の量は0.1〜20%程度、好ましくは1〜10%程度とし、発酵温度は25〜40℃程度、好ましくは30〜35℃程度とすればよい。
発酵期間は、5〜30日間が一応の目安になるが、7〜25日間程度で充分に酢酸発酵が行われ、5〜10日間程度でも充分であることが立証されており(例えば図3)、本発明による発酵期間短縮という顕著な効果が確認されている。本発明によれば、発酵期間が短縮されるという著効の他に、後記するところからも明らかなように、鮮やかな紅色の赤色酢が得られ、しかも退色率が低いという著効も奏される。
なお、これらの条件は静置発酵の場合の条件の1例を示したものであるので、他の発酵法の場合はこれに準じて条件を適宜設定すればよい。
本発明によれば、顕著な効果が奏される。先ず第1に、通常、着色酢の製造においては、アルコール発酵と色素生産手段が異なるのに対して、本発明では、アルコール発酵を行った酵母をそのまま利用することができるため、装置や工程を別途追加する必要がなく、省力化が達成され、製造時間も短縮される。すなわち、本発明によれば、鮮やかな色調を有する赤色酢が短期間で製造できるという著効が奏されるのである。
例えば図3に示したように、清酒粕に加水して再発酵させて得た再発酵醪(低エキス醪:アルコール濃度10〜12%、エキス分1〜2.5%、及び、高エキス醪:アルコール濃度4〜6%、エキス分4〜7%)に酢酸菌を加えて酢酸発酵させることにより、わずか5〜10日間で酢酸濃度4.5〜5%に達し、低エキス醪においても10日後から急激に酢酸発酵が進行し、15日頃には酢酸濃度が4.5〜5%に達し、本発明によって、赤色清酒粕醪という新規にして特異的なアルコール性物質を原料として使用しているにもかかわらず、全く予期せざることに、酢酸発酵が妨害されることなく、円滑に進行するという新規にして顕著な効果が奏される。それどころか、酢酸発酵の速度が上昇し、酢酸発酵が短期間で終結するという積極的な効果も奏される。
本発明によれば、酢酸発酵期間が大幅に短縮されるだけでなく、色調、特に赤色色調が大幅に増加する。換言すれば、強い赤色を呈する食酢が短期間の酢酸発酵で得られる。色素量の測定は、サンプルを10mmのガラスセルに取り、分光光度計により500nmにおける吸光度(OD500nm)を測定し、赤色色素量とした。
酢酸発酵終了後、酢酸濃度4.9〜6.1%の赤色酢が得られ、そのOD500nm値は、0.135〜0.310であった。
赤色清酒酵母が存在するアルコール性物質としては、上記した赤色清酒粕のほかに、酒母や醪があるが、これら酒母及び醪の場合でもアルコール濃度を調整(5%前後)し、酢酸発酵することにより、上記と同様にすぐれた結果が得られ、高いOD500測定値が確認された(製造方法(3)及び(4))。
更に本発明によれば、鮮やかな赤色が長期間にわたって維持される。例えば、赤色清酒を酢酸発酵させて得た酢酸濃度3.5〜5.7%の赤色酢において、これを30℃で25日間保存した場合であっても、OD500nmの色調が0.036〜0.060という強い色調が継続し、退色率も40〜57%に抑制された(製造方法(2)、表5、表6等)。
これらの結果から、本発明によれば、鮮やかな赤色(紅色)を呈し、しかもそれが退色することなく長期間持続するという著効を奏する新規な赤色酢を製造することができる。また、各アルコール性物質のアルコール濃度を変えて酢酸発酵したり、アルコール性物質を酢酸発酵して得た各種赤色酢をブレンドしたりすることによって、所望する酢酸濃度、所望する色調の赤色酢を適宜製造することができる。
本発明によれば、きれいな赤色を呈する赤色酢が得られるが、特に粕酢は強い赤色を呈する。したがって、本発明は、赤色清酒の製造時に副生する清酒粕に有用な新規用途を提供するという著効も奏する。
また、本発明によれば、後記するパネルテストの結果からも明らかなように、色、味、香りのいずれについても非常に優れたマイルドな赤色が得られることが官能的にも確認された。
本発明によれば、上記した著効のほか、次のような全く予期することのできない新規な効果が併せ奏される。
そもそも赤色清酒は、長期貯蔵により雑味が出やすい傾向にあるが、酢酸発酵により雑味が緩和される。
本来、清酒醪は発酵が長期化することで、アミノ酸が増加し雑味として感じられるようになるが、酢酸発酵することで雑味が緩和されるとともに、アミノ酸の旨味成分としての機能性が期待出来る。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
(赤色清酒及び赤色酢の製造)
赤色清酒及び赤色酢の製造は、下記により行った。その1例を図1に示した。
赤色清酒は、酵母として赤色清酒酵母を使用する点を除き、常法によって製造した。すなわち、玄米を精米して得た白米を蒸米とし、これに麹と赤色清酒酵母を加えて酒母を調製し、これに更に、蒸米、麹、水を加えてもろみを調製し、熟成させた後、清酒粕を除去して、赤色清酒を得た。
赤色酢は、次のようにして製造した。すなわち、赤色清酒の製造工程で得られる清酒粕、清酒自体、酒母、もろみ、等のアルコール性物質に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、必要あれば上槽して、赤色酢をそれぞれ得た(製造方法1〜4)。酢酸菌としては、既述のように通常の酢酸菌が適宜使用できるが、本実施例では、アセトバクター・パスツリアヌスに属する「きょうかい酢酸菌No.6」を菌株No.6として用い、同じくアセトバクター・アセチ NBRC 3281を菌株IN No.2として用いた。
なお、赤色清酒酵母としては、既述したようにサッカロマイセス・セレビシエ KOY 3を使用した。本菌株は、「赤色清酒酵母(桃色濁り酒用)」という菌株名にて、公益財団法人 日本醸造協会より市販されており、入手に格別の困難性はない。
(赤色粕酢の製造)
上記した赤色清酒の製造工程において分離した赤色清酒粕を酢酸発酵させて赤色酢(赤色粕酢)を製造した(製造方法1)。
1)粕再発酵醪の発酵
粕に水を加え、再度発酵試験を行った。その結果(1)を下記表1に示す。


発酵液の特徴
(イ)発酵1
発酵日数を長めにとることで、アルコール分が高く、日本酒度もプラスのエキス分の少ない辛口タイプであり、酵母から赤色色素が抽出され色度も高い醪が得られた(醪1)。
(ロ)発酵2及び3
発酵日数を短くとることで、アルコール分は低く、日本酒度もマイナスのエキス分の多い甘口タイプであり、色度もやや高い醪が得られた。
尚、2+3は2及び3の醪を混合したものである(醪2)。
このタイプの醪を酢酸発酵に使用することとした。
2)酢酸発酵用再発酵醪の調製
酢酸発酵に用いるアルコール分を5%に調整した再発酵醪の分析結果(2)を下記表2に示した。

1の醪は、アルコール分が高い醪を用いたために、色度は低い値を示したが、2+3の醪は、アルコール分が低かったため、色度は1の醪より色度の高いものとなった。このように色度の異なる再発酵醪を調製し、酢酸発酵に用いた。
酢酸発酵前のガラス容器内の状態を図2に示した(図面代用写真)。
図中、右側の2本は醪1、左側の2本は醪2を示す。
なお、菌株No.6はアセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)と同定された「きょうかい酢酸菌No.6」、菌株IN No.2はアセトバクター・アセチ NBRC 3281(Acetobacter aceti NBRC 3281)をそれぞれ示す。
3)酢酸発酵経過
酢酸発酵経過をグラフに示した(図3)。醪1は、エキス分が少なかったことで酢酸発酵に必要な栄養分が不足しがちであり、最初は酢酸発酵が緩慢となったが、発酵経過とともに酵母からの栄養分によって、その後は順調に酢酸発酵が推移した。醪2(2+3)は、栄養分を十分に含んだ醪であり、最初から順調に酢酸発酵が推移した。
酢酸発酵後のガラス容器内の状態を図4に示した(図面代用写真)。
図中、左側の図(写真)は、醪1について、酢酸発酵23日目(発酵終了)の、そして 右側の図(写真)は、醪2について、酢酸発酵16日目のガラス容器内の状態を示したものである。
図面から明らかなように、いずれの醪においても、発酵後は発酵前と比較して、色調が大幅に増加し、赤色色素が十分に抽出された。
4)酢酸発酵結果
醪1を酢酸発酵して得た赤色酢(赤酢1)、及び醪2を酢酸発酵して得た赤色酢(赤酢2)についての、酢酸発酵結果を下記表3及び表4に示した。


上記表で示した酢酸発酵結果のように、明らかに、酢酸菌添加なし(Blank)で貯蔵中に赤色色素は抽出される(酵母の死滅)が酢酸菌添加による酢酸発酵でさらに赤色色素が抽出された。
また、上記した赤色清酒粕のほか、同じく赤色清酒酵母が存在する酒母及び醪でもアルコール濃度を調整(5%前後)し、酢酸発酵することにより、同様の結果が得られた(製造方法(3)及び(4))。
4)酢酸発酵液の色調
図5は、醪1を酢酸発酵して得た酢酸発酵醪1である赤色酢(赤酢1)の色調を示す図面代用写真である。図中、左から2番目のサンプルは、上槽後の赤酢1であって、酵母発酵醪を酢酸菌(IN No.2株)で酢酸発酵させて得たものである。同じく左から3番目のサンプルは酢酸菌(No.6株)で酢酸発酵させて得たものである。なお、1番左のサンプル及び1番右のサンプルは、それぞれ参考として示したものであって、市販米酢及び酵母発酵醪を貯蔵したものの色調を示したものである。
図6は、醪2を酢酸発酵して得た酢酸発酵醪2である赤色酢(赤酢2)の色調を示す図面代用写真である。図中、左から2番目のサンプルは、上槽後の赤酢2であって、酵母発酵醪を酢酸菌(IN No.2株)で酢酸発酵させて得たものである。同じく左から3番目のサンプルは酢酸菌(No.6株)で酢酸発酵させて得たものである。なお、1番左のサンプル及び左から3番目及び4番目のサンプルは、それぞれ参考として示したものであって、市販米酢、酵母発酵醪を貯蔵したもの及び酵母発酵のみのサンプルの色調を示したものである。
さらに、発酵醪及び酢酸発酵をコントロールすることにより、表及び写真で示したように赤色色素の色調もコントロール出来る。
赤色色素は光等により退色しやすいが、酢酸発酵、または酢酸を併用することで色調の優れた色素の抽出と抽出の効率化及び安定化が可能となる。
(赤色清酒酢の製造及び貯蔵(1))
上記した赤色清酒の製造工程(製造方法2)によって製造した赤色清酒に酢酸菌(No.6株)を添加して酢酸発酵を行い、赤色清酒酢(赤色酢)を製造した。これを30℃で25日間貯蔵して貯蔵試験を行った。得られた結果(1)を下記表5に示す。


上記と同様にして、但し酢酸菌としてNo.6株及びIN No.2株を使用して、赤色酢1及び赤色酢2をそれぞれ製造した。これらを30℃で25日間貯蔵して貯蔵試験を行った。得られた結果(2)を下記表6に示した。


表5、6の結果から明らかなように、製造条件と菌株を変えることで多様な製品が製造でき、それらを30℃で25日間貯蔵しても、酢酸濃度3.7〜5.6%が維持され、OD500nmの色調も0.041〜0.058が維持された。赤色色素は貯蔵中に退色することが知られているが、上記実験結果からわかるように酢酸添加で退色率が減少する。さらに酢酸菌を用いた赤色酢(酢酸濃度3.7〜5.6%)を製造することによりOD500nmの色調が高く、より鮮やかで退色率も抑えられる。
このようにして製造した赤色酢(赤色清酒粕酢、赤色清酒酢)について、その味、香り及び色について、官能試験を6名のパネルにより行った。評価は、最も良好なものをA、良好なものをB、いずれにもあたらないものをCとし、評価した人数を下記表7及び表8にそれぞれ示した。
以上から明らかなように、本発明によれば、色、味、香りのいずれについても非常にすぐれたマイルドな赤色酢が得られることが官能的にも立証された。本発明に係る赤色酢は食酢特有の鼻につく刺激臭がないことも、併せて確認された。また、本発明に係る赤色酢は、その色を特徴のひとつとするものであって、その由来を問わずいずれもきれいな赤色を呈するが、特に赤色清酒粕由来の赤色酢(粕酢)は強い赤色を呈して大変きれいな外観を呈した。したがって、本発明は、赤色清酒の製造時に副生する清酒粕に新規にして有用な用途を提供するものである。
本発明を要約すれば、以下のとおりである。
色素等の添加物を使用することなく、しかもシンプルな工程で、鮮やかな色調を有し且つその色調が長期間にわたって持続する赤色酢を新たに提供することを目的とする。
そして、赤色清酒酵母(サッカロマイセス・セレビシエ KOY 3株:Saccharomyces cerevisiae KOY 3)を用いて赤色清酒を製造し、得られた清酒及び/又は該清酒の製造工程中の生成物に酢酸菌(例えば、きょうかい酢酸菌No.6株等)を添加して酢酸発酵を行うことで、新規赤色酢を効率的に製造することができる。

Claims (9)

  1. 赤色色素を生成する清酒酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ KOY 3 株(Saccharomyces cerevisiae KOY 3)を用いてアルコール発酵を行って清酒を製造し、得られた清酒に及び/又は該清酒の製造工程中に、酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする赤色酢の製造方法。
  2. アルコール発酵を行った上記清酒酵母をそのまま利用すること、を特徴とする請求項1に記載の赤色酢の製造方法。
  3. 蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに食酢を添加して熟成し、清酒粕を分離して清酒を製造する工程において、分離して得られた清酒粕に酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする請求項1又は2に記載の赤色酢の製造方法。
  4. 蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに食酢を添加して熟成し、清酒粕を分離して清酒を製造する工程において、得られた清酒に酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。
  5. 蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、これに酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。
  6. 蒸米、麹、上記清酒酵母及び水を用いて酒母を製造し、更に蒸米、麹、水を添加し、醸造用アルコールを添加し又は添加することなく、醪を製造し、これに酢酸菌、酢酸、食酢の少なくともひとつを添加して、赤色を呈する食酢を製造すること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。
  7. 色調が高く、鮮やかな赤色を呈し、且つ色度の退色率も抑制された赤色酢を製造すること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。
  8. 赤色清酒粕に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、酢酸濃度が5.1〜5.9%、OD500nmの色度が0.148〜0.298の赤色酢を得ること、を特徴とする請求項1、2、3、7のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。
  9. 赤色清酒に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、30℃で25日間貯蔵した後においても、酢酸濃度が3.7〜5.6%、OD500nmの色度が0.041〜0.058の赤色酢を得ること、を特徴とする請求項1、2、4、7のいずれか1項に記載の赤色酢の製造方法。


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