JP2020036544A - 新規なピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素、バイオセンサー、及び、バイオ電池 - Google Patents

新規なピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素、バイオセンサー、及び、バイオ電池 Download PDF

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Abstract

【課題】アルデヒドに対して高い親和性を有し、酵素反応がミカエリス・メンテン式に従った定量分析に適した新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の提供。PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を利用したバイオセンサー、及び、バイオ電池の提供。【解決手段】牧場堆肥及び海洋水から抽出したゲノムDNAの塩基配列を解析したメタゲノム遺伝子情報ライブラリーから見出された、特定のアミノ酸配列を有するPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であって、酵素反応がミカエリス・メンテン式に従うPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素。前記PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を利用したバイオセンサー、及び、バイオ電池。【選択図】図14

Description

本発明は、新規なピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素、並びに、当該酵素を利用するバイオセンサー及びバイオ電池に関する。
アルデヒドは、接着剤や塗料等として建材、消毒剤等として医療用薬剤、殺菌剤等として農薬、及び、防腐剤や防カビ剤、香料等として食品添加物等に使用されている。また、アルデヒドは、ヒトや高等植物におけるアルコール代謝の中間体であり、例えば、飲酒等により体内に取り込まれたアルコールはアルコール脱水素酵素の作用によりアルデヒドとなり、アルデヒドはアルデヒド脱水素酵素の作用により対応のカルボン酸となる。更に、化学物質の合成原料として人為的に製造される他、様々な有機物の燃焼や有機性廃棄物の分解等によってもアルデヒドは発生する。
一方で、アルデヒドには刺激性があり、人体に対して健康被害をもたらすことが知られている。例えば、皮膚や粘膜等に対する刺激性、呼吸器系や循環器系等における急性症状の誘発、上部消化管や大腸、上気道における発がんリスクの上昇等が報告されている。
アルデヒド脱水素酵素は、生体内において、遺伝子型によりその触媒能力に差があるもののアルデヒドはアルコール脱水素酵素により対応のカルボン酸に分解される。また、アルデヒド脱水素酵素は、アルデヒドと特異的に反応することからアルデヒドを検出するために利用することができる。ここで、アルデヒド脱水素酵素には、補因子として、NAD又はNADPを要求するもの(NAD又はNADP依存性)、また、ピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」と略する場合がある)を要求するもの(PQQ依存性)等が存在する。PQQ依存性酵素は、酵素から電極へ直接電子移動が可能であるとされ、バイオセンサーの物質識別素子やバイオ電池の電極触媒等として利用した場合には電極構造の簡素化を図れることからその利用価値は高い。更に、他の補因子依存性の酵素と比較して、反応速度が非常に早く、かつ、溶存酸素の影響を受けにくいという利点をも有している。
PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、その分布は限定的であるが、例えば、Pseudomonas putidaから抽出したPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素が、グリセルアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒドを基質とすることが報告されている(非特許文献1)。かかる酵素の活性は、グリセルアルデヒドとアセトアルデヒドを基質としたとき、それぞれ10.1 U/mgと2.8 U/mgと算出される。
また、Sphingomonas wittichii由来のPQQ依存性のアルデヒド脱水素酵素が報告されており、組換え発現した可溶性酵素がグリセルアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒドを基質とすることが報告されている(非特許文献2)。かかる酵素の活性は、グリセルアルデヒドとアセトアルデヒドを基質としたとき、それぞれ1,060 U/mgと930 U/mgであることが開示されている。
Gluconacetobacter属の酢酸菌から抽出したPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素が、アセトアルデヒドやグリセルアルデヒド等のアルデヒドを基質とできることが記載されている(特許文献1)。詳細には、特許文献1には、Gluconacetobacter属の酢酸菌の細胞膜から産生されたアルデヒド脱水素酵素と、当該アルデヒド脱水素酵素が結合している細胞膜との複合体を酵素活性の有効成分とする酵素剤が記載され、当該酵素剤は炭素数1〜20のアルデヒドを効果的に除去するために利用できることが記載されている。
しかしながら、既存のPQQ依存性アルデヒド酵素は、大腸菌や酵母等の汎用の組換えタンパク質発現系において発現が困難なものもあり、また、発現できたとしても酵素本来の二次構造及び三次構造を再現することが困難である場合や組換えタンパク質を大量生産する能力には限界がある場合も多い。例えば、非特許文献1に記載のPseudomonas putida属由来のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は汎用の組換えタンパク質発現系で発現が困難であり、当該酵素の由来であるPseudomonas属の菌体を用いた組換えタンパク質発現系が必要である。同様に、特許文献1に記載のGluconacetobacter属由来のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素についても汎用の組換えタンパク質発現系で発現が困難であり、当該酵素の由来であるGluconacetobacter属の菌体を用いた組換えタンパク質発現系が必要である。そのため、現時点では当該酵素の大量生産は困難であり、バイオセンサーの物質識別素子等としての産業応用には適していない。
一方、非特許文献2に記載のSphingomonas wittichii由来のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は大腸菌を用いた組換えタンパク質発現系での生産は可能である。しかしながら、アルデヒド、例えば、ブチルアルデヒド、に対するミカエリス・メンテン定数(以下、「Km」と略する)が約12 mMであることから基質親和性が低いという問題がある。更に、下記の実施例で詳述するが、本発明者らによる酵素反応速度論的解析では、当該酵素はミカエリス・メンテン式に従わず、アルデヒドの定量分析には向かないという問題点もある。このような触媒活性等の酵素性能に関する理化学的物性は酵素固有のものであるため、酵素の反応条件の好適化等の外的要因の制御によっては性能向上を図ることは困難である。
国際公開第2015/151216号
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とは異なる新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の提供を目的とする。特には、アルデヒドに対して高い親和性を有すると共に、酵素反応がミカエリス・メンテン式に従ったアルデヒドの定量分析に適した新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の提供を目的とする。また、本発明は、PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を利用した技術の提供をも目的とする。詳細には、本発明は、PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を利用したアルデヒド測定のためのバイオセンサー、及び、アルデヒドを燃料とするバイオ電池の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、堆肥や海洋水等の自然界から採取した試料中に含まれる生物から、培養増殖を経ずに直接的に生物由来のゲノムDNAを単離し、かかるゲノムDNAの塩基配列を網羅的解析しデータベースを構築し、当該塩基配列情報を抽出して人工的に核酸分子を合成した。かかる核酸分子を大腸菌の組換えタンパク質発現系により組換えタンパク質を発現させ、既知の酵素とは異なるアミノ酸配列及び異なる理学的物性を有する新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を見出した。当該PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の塩基配列及びアミノ酸配列を決定すると共に、遺伝子工学的手法を利用した大量生産により産業応用可能であることを見出した。更に、当該PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を利用することにより、より実用面において有利なバイオセンサー及びバイオ電池を提供できることをも見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
上記の課題を解決するため、下記の〔1〕〜〔4〕の構成の発明を提供する。
〔1〕以下の(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列からなり、ピロロキノリンキノンを補因子としてアルデヒドからカルボン酸を生成する酵素反応を触媒し、前記酵素反応がミカエリス・メンテン式に従うピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素。
(a)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列
上記〔1〕の構成によれば、新規なアミノ酸配列を有するピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を提供できる。本構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従うものである。ミカエリス・メンテン式に従う酵素反応の場合、基質濃度が低いときには基質に対して酵素の割合は十分でなく、基質濃度のみに依存して反応速度が比例的に速くなる。基質濃度が高くなるにつれ、基質に対する酵素の割合が小さくなり、反応速度は「酵素が基質を認識する時間」よりも、「酵素が結合した基質を処理する時間」に依存するようになる。したがって、酵素の反応速度が基質濃度のみに依存する基質濃度領域においては、基質濃度と反応速度が比例するため反応速度をもって基質濃度を精度よく解析できる。したがって、ミカエリス・メンテン式に従う本構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素はアルデヒドの定量解析等に好適に利用することができる。一方、例えば、下記配列番号8に示すアミノ酸配列からなる既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、下記実施例で確認されたように、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従わない。詳細には、基質濃度が高くなるにつれ酵素反応速度が速くなるが、途中で反応速度が遅くなり、更に基質濃度が高くなると一転して基質濃度にしたがって反応速度が速くなり、その後、反応速度は飽和する。そのため、既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、特に低濃度側において、反応速度と基質濃度が比例関係にならない領域が存在し、アルデヒドの定量解析には不向きであるといえる。本構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、かかる理化学的物性により多種多様な分野での利用が期待される。例えば、生体や食品、環境中のアルデヒドを精度よく測定することに利用することができ、アルデヒドの測定のための試薬やバイオセンサー等として好適に利用することができる。また、バイオ電池の負極側の電極触媒として利用することができ、電池出力等の電池性能の向上に寄与することができる。したがって、本構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、医療、生物化学、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるアルデヒドの脱水素反応を要する技術に適用できる。
〔2〕アルデヒドに対するKm値が、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素に比べて低下が認められる上記〔1〕のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素。
上記〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、配列番号8に示すアミノ酸配列からなる既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素よりもアルデヒドに対する親和性が向上している。したがって、本構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素よりも高感度かつ高精度にアルデヒドを測定することができ、アルデヒドの測定のための試薬やバイオセンサー等の実用性を向上させることができる。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を電極上に固定化したアルデヒドの測定のためのバイオセンサー。
上記〔3〕の構成によれば、上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素の触媒能力を利用したアルデヒドの測定のためのバイオセンサーが提供でき、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本構成のバイオセンサーは、検知素子として上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するものであり、上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、ミカエリス・メンテン式に従うものであることから、生体や食品、環境中のアルデヒドを精度よく測定することができる。更に、上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、高いアルデヒドへの親和性及びアルデヒドに対する脱水素活性を有していることから、当該酵素を利用する本構成のバイオセンサーは高感度かつ高精度にアルデヒドを測定することができる。特に、生体試料中に含まれるアルデヒドは低濃度であることから既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素では高精度な測定が困難であったが、上記〔1〕又は〔2〕の構成のアルデヒド脱水素酵素の触媒活性を利用した本構成のバイオセンサーにより高精度かつ高感度に測定することができる。したがって、本構成のバイオセンサーは、呼気等の生体ガスや、尿や汗等の非侵襲的に採取できる生体液中に含まれるアルデヒド濃度の測定等にも好適に利用することができる。
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を含み、前記ピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素のアルデヒドの脱水素反応に伴って生成する電子を受け取る負極、酸素に前記電子を伝達することのできる正極を備え、前記負極と前記正極とが電気的に結合されているバイオ電池。
上記〔4〕の構成によれば、上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素の触媒能力を利用したバイオ電池が提供できる。上記構成のバイオ電池は、電極触媒として上記〔1〕又は〔2〕の構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するものであり、ここで、上記〔1〕又は〔2〕の何れかの構成のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素は、高いアルデヒドへの親和性及びアルデヒドに対する脱水素活性を有していることから、当該酵素を利用する本構成のバイオ電池は電池出力の向上が期待でき電池性能の向上を図ることができる。ひいては、酵素使用量を軽減できることからコスト削減効果をも奏することができる。したがって、本構成のバイオ電池は、上記〔3〕の構成のバイオセンサーの自己発電型の電源、卓上電卓等の携帯型機器や心臓ペースメーカー等の体内埋め込み式機器等の小型電子機器の電源等への応用が可能である。
新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を検討した実施例1の結果を示し、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との類似性を指標として、新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補を選抜した結果を示すグラフであり、縦軸はヒット領域のアミノ酸数を、横軸は類似性(%)を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を検討した実施例1の結果を示し、新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補の大腸菌での発現を確認した電気泳動図。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を検討した実施例1の結果を示し、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との類似性を指標として、図1で選抜した新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補を更に詳細に検討した結果を示すグラフであり、縦軸はヒット領域のアミノ酸数を、横軸は類似性(%)を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を検討した実施例1の結果を示し、新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補(No.5)の組換え発現及び精製を確認した電気泳動図。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を検討した実施例1の結果を示し、新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補(No.2、No.3、No.5)の組換え発現及び精製を確認した電気泳動図。 アミノ酸配列の相同性の確認を行った実施例2の結果を示すアライメント図であり、eALDH-No.2と既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との比較を示す。 アミノ酸配列の相同性の確認を行った実施例2の結果を示すアライメント図であり、eALDH-No.3と既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との比較を示す。 アミノ酸配列の相同性の確認を行った実施例2の結果を示すアライメント図であり、eALDH-No.5と既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との比較を示す。 アミノ酸配列の相同性の確認を行った実施例2の結果を示すアライメント図であり、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5との比較を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性を確認した実施例3の結果を示すグラフであり、従来酵素の各種アルデヒドに対する酵素活性による吸光度の変化を示し、横軸は反応時間(秒)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性を確認した実施例3の結果を示すグラフであり、eALDH-No.2の各種アルデヒドに対する酵素活性による吸光度の変化を示し、横軸は反応時間(秒)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性を確認した実施例3の結果を示すグラフであり、eALDH-No.3の各種アルデヒドに対する酵素活性による吸光度の変化を示し、横軸は反応時間(秒)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性を確認した実施例3の結果を示すグラフであり、eALDH-No.5の各種アルデヒドに対する酵素活性による吸光度の変化を示し、横軸は反応時間(秒)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の酵素活性の反応速度論的解析を行った実施例4の結果を示すグラフであり、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5の基質濃度と酵素活性の関係を示し、横軸は基質濃度(mM)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。 新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を酵素電極の電極触媒としたときの電気化学的性能の確認を行った実施例5の結果を示すグラフであり、横軸は電流(mA/cm2)、縦軸は電圧(V)を示す。
以下、具体的な本発明の実施形態について説明するが、本実施形態はあくまでも本発明を例示するに留まり、本発明を限定するものではない。
(ピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素)
本実施形態のピロロキノリンキノン(以下「PQQ」と称する場合がある)依存性アルデヒド脱水素酵素は、アルデヒドを酸化して対応のカルボン酸を生成する反応を触媒する活性を有する酵素である。本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、国際生化学・分子生物学連合による酵素番号(EC番号)においてEC 1.2.5.2に属する酵素である。国際生化学・分子生物学連合による酵素のEC番号と酵素命名システムの構築データであるIntEnz (Integrated relational Enzyme database)によれば、以下の反応式に示す反応を触媒し、当該触媒活性には補因子としてPQQ及びヘムが要求される。
反応式:
アルデヒド + キノン + H2O ⇔ カルボン酸 + キノール
基質となるアルデヒドとしては、炭素数1以上10以下の直鎖又は分岐鎖のアルデヒド、芳香族アルデヒド、グリオキシル酸、グリセルアルデヒド等が挙げられる。及び、炭素数1以上10以下の直鎖のアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド(ノルマルペンタナール)、イソバレルアルデヒド(イソペンタナール)、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール等が挙げられる。芳香族アルデヒドとしてはベンズアルデヒド等が挙げられる。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、自然界の堆肥や海洋水等の環境試料由来である。当該環境試料中に含まれる生物の培養及び増殖を経ずに、直接的に当該生物由来のゲノムDNAを単離し、かかるゲノムDNAの塩基配列を網羅的解析しデータベースを構築するメタゲノム解析を利用して塩基配列情報を抽出し人工的に遺伝子を合成し、複数選抜したPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補群の中から所望の理化学的物性を有する新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を取得したものである。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とは異なるアミノ酸配列を有する新規な酵素である。更に本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とは異なる理化学的物性を有する。理化学的物性としては、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素のKmは、アルデヒドに対して、好ましくは0.5 mM 以下、例えば、0.0001 mM〜0.1 mM、特に好ましくは0.001 mM〜 0.1 mMであり、基質であるアルデヒドに対する親和性が高い。呼気等の生体ガスや、血液や汗等の生体液等の生体試料中に含まれるアルデヒド濃度の測定に際してはKmが1mM以下であることが検出感度の確保には好ましいことから、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素はアルデヒドの定量解析、特には、生体試料中のアルデヒドの定量解析に好適に利用することができる。
また、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従い、基質濃度が低い場合には、基質濃度度が高くなるに従い酵素反応速度が速くなるが、基質濃度が高くなるにしたがって反応速度の加速度合は徐々に小さくなり、一定以上の基質濃度では反応速度が飽和する。つまり、ミカエリス・メンテン式に従う酵素反応の場合、基質濃度が低いと基質に対して酵素の割合は十分でなく、基質濃度のみに依存して反応速度が比例的に速くなる。基質濃度が高くなるにつれ、基質に対する酵素の割合が小さくなり、反応速度は「酵素が基質を認識する時間」よりも、「酵素が結合した基質を処理する時間」に依存する。したがって、酵素の反応速度が基質濃度のみに依存する基質濃度領域においては、基質濃度と反応速度が比例するため反応速度をもって基質濃度を精度よく解析できる。したがって、ミカエリス・メンテン式に従う本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素はアルデヒドの定量解析に好適に利用することができる。一方、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素、例えば、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、下記実施例で確認されたように、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従わない。詳細には、基質濃度が高くなるにつれ酵素反応速度が速くなるが、途中で反応速度が遅くなり、更に基質濃度が高くなると一転して基質濃度にしたがって反応速度が速くなり、その後、反応速度は飽和する。したがって、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素はアロステリック調節による阻害等を受けている可能性がある。そのため、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、特に低濃度側において、反応速度と基質濃度が比例関係にならない領域が存在し、アルデヒドの定量解析には不向きであるといえる。してみると既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、バイオセンサーの物質識別素子等として酵素部材としての使用には不適である。また、バイオセンサーで測定対象とする試料(例えば、含まれる成分等)は測定毎に同じ条件であるとは限らず、アロステリック酵素はその酵素反応の制御が困難であるという点からも、バイオセンサーへの使用は不適である。一方、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、アロステリック酵素としての理化学的物性は認められず、バイオセンサーの物質識別素子等として酵素部材としての使用に適していること等が考えられる。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素、及び、その改変体を包含する。好ましくは、下記(a)、(b)、又は(c)のアミノ酸配列からなり、PQQを補因子としてアルデヒドからカルボン酸を生成する酵素反応を触媒する。
(a)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列と少なくとも一定割合の配列同一性を有するアミノ酸配列。
ここで、「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする核酸分子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入、又は、付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、又は、付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変は、配列番号2、4、又は、6で示すアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで少なくとも一定割合の配列同一性を有するものとできる。
また、「少なくとも一定割合の配列同一性」とは、好ましくは70、75、80、又は85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95、96、97、98、又は99%以上の配列同一性を保持することを意味する。
アミノ酸配列の改変に際しては、当業者は、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の上記した理化学的物性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。具体例を挙げると、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にヒスチジンタグ(His-tag)、FLAGタグ(FLAG-tag)等を付加したものも好適に例示される。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、酵素活性の消失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、そのアミノ酸配列が既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素、例えば、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素と相違する。しかも両者間におけるアミノ酸同一性も50%程度と低いため、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の機能について既知の酵素からは類推できないものといえる。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、そのアミノ酸配列及び理化学的物性が確認されたことから、自然界をスクリーニングすることにより取得することができる。しかしながら、公知の遺伝子工学的技術を用いて、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を取得し、得られた核酸分子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性、つまり、アルデヒドの脱水素する酵素反応を触媒する能力を有し、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従い、好ましくは、アルデヒドに対する親和性が高いとの理化学的物性を有するタンパク質を採取することによって取得することが好ましい。かかる理化学的物性の確認は、アルデヒドに対する脱水素活性を測定し、かかる活性につき反応速度論的解析等を行うことによって行うことができる。アルデヒドに対する脱水素活性の測定方法等については下記で詳述する。
改変体についても、自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から上記理化学的物性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得できる。若しくは、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子に対して公知の方法で改変を施すことによっても取得できる。
例えば、改変の基礎とする配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子、好ましくは、配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子に対して、下記で詳述するように改変を施し、得られた改変型核酸分子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性、つまり、アルデヒドの脱水素する酵素反応を触媒する能力を有し、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従い、好ましくは、アルデヒドに対する親和性が高いとの理化学的物性を有するタンパク質を採取することによって取得することができる。
ここで、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子は、上記の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を有するすべてのアルデヒド脱水素酵素をコードするものを包含する。つまり、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素及びその改変体をコードする全ての核酸分子である。
好ましくは、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子は、配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子、及び、その改変体を包含する。特に好ましくは、以下の(d)〜(f)の何れかの塩基配列からなる核酸分子である。
(d)配列番号1、3、又は5に示す塩基配列
(e)配列番号1、3、又は5に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変を有する塩基配列
(f)配列番号1、3、又は5に示す塩基配列と少なくとも一定割合の配列同一性を有する塩基配列
ここで、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子にはDNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、一本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
ここで、「1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となる核酸分子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数の塩基が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。配列番号1、3、又は5に示す塩基配列の3'、又は5'末端にタグペプチドをコードする塩基配列が付加したものや、エキソヌクレアーゼを作用させることによって塩基配列が欠失したものが好適に例示される。また、このような改変は、配列番号1、3、又は5で示す塩基配列に対して、塩基レベルで少なくとも一定割合の配列同一性を有するものとできる。
また、「少なくとも一定割合の配列同一性」とは、好ましくは70、75、80、又は85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95、96、97、98、又は99%以上の配列同一性を保持することを意味する。
更に、コードされるタンパク質が上記の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性を保持している限り、配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子と相補的な核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子も含まれる。
ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60 %以上、好ましくは70 %、より好ましくは80 %以上、特に好ましくは90 %、95 %以上の同一性を有するDNA同士が優先的にハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションの反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって調製することができる。例えば、Sambrook他著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor、New York等に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
より具体的には、50 %(v/v) ホルムアミド、5×SSC中で、42 ℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。ここで、1×SSCは、0.15 M NaCl、0.015 M クエン酸ナトリウム、pH 7.0である。また、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0 %(v/v)、変性非特異的DNAを0〜200 μl含んでいてよい。そして、洗浄条件としては、2×SSC、0.1 % SDS中の5 ℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1 % SDS中の65 ℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。また、これらと同等の条件も当業者は容易に理解できるであろう。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子は、本明細書において、その塩基配列が明確になったことから、かかる配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法に基づいて調製することができる。
例えば、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列を有するPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子は、公知の遺伝子工学的技術を用いて取得することができる。例えば、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子の塩基配列、好ましくは、配列番号1、3、又は5に示す塩基配列を基にして作製したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。ここで用いられるプローブは、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸分子が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。そして、プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。
また、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列を有する本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子の塩基配列、好ましくは配列番号1、3、又は5に示す塩基配列を基にして作製したDNAをプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸分子が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプライマーの設計を行う。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則にしたがって特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件等多くの因子に依存して決定される。
また、塩基配列情報に基づいて、常法のホスホアミダイト(phosphoramidite)法等の核酸合成法により合成することによっても取得することができる。
また、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の改変体をコードする核酸分子は、公知の変異導入技術を利用して取得することができる。具体的には、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子、好ましくは配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子に変異部位を挿入することによって行うことができる。変異部位を挿入する方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の変異型タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法等の公知の変異導入技術を利用することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。
特には、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子、好ましくは配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子を鋳型として、所望の改変を施した配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことによって取得することが、好ましく例示される。ここで、改変体の調製において、PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子、好ましくは配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子と相補的な配列を含み、かつ所望の変異が挿入できるように設計されたものであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
また、目的とする改変を有するアミノ酸配列が定めれば、それをコードする適当な塩基配列を決定でき、常法のホスホアミダイト法等の核酸合成技術を利用して、改変体を化学的に合成することができる。或いは、配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列からなる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする塩基配列からなる核酸分子、好ましくは配列番号1、3、又は5に示す塩基配列からなる核酸分子に対してエキソヌクレアーゼを作用させることによって取得することができる。
そして、得られた核酸分子用いて、当業者に公知の遺伝子組換え技術により本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を製造することができる。
具体的には、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞内で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
ベクターには、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性等の遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードする核酸分子を含む組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
形質転換体の培養物から、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィーを利用する場合、所望の酵素をヒスチジンタグ(His Tag)等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
また、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、アミノ酸配列が公知であることから、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することもできる。
取得したタンパク質が、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の理化学的物性、つまり、アルデヒドの脱水素反応を触媒する能力を有し、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従い、好ましくは、アルデヒドに対する親和性が高いとの理化学的物性を有することの確認は、アルデヒドに対する脱水素活性を測定し、かかる活性につき反応速度論的解析等を行うことによって行うことができる。例えば、PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性測定法として知られる方法の何れも利用して行うことができる。好ましくは、取得したタンパク質を必要に応じてPQQの存在下でアセトアルデヒド等のアルデヒドに作用させ、アルデヒドの脱水素反応に基づく、電子受容体の還元反応を追跡することにより行うことができる。電子受容体としては、ジクロロインドフェノール(以下、「DCIP」と称する場合がある)及びフェナジンメトサルフェイト(以下、「PMS」と称する場合がある)等を用いることができる。例えば、DCIPの還元反応の追跡は、DCIPの吸収波長である600nmでの吸光度変化を測定することにより行うことができ、吸光度の減少度を指標とすることができる。また、PMSの還元反応の追跡は、還元型PMSによるニトロテトラゾリウムブルー(以下、「NTB」と称する場合がある)の還元により生成するホルマザンの吸収波長である570nmでの吸光度変化を測定することにより行うことができる。吸光度変化の測定は公知の手法により行うことができ、例えば、マイクロプレートリーダー等を利用することができる。酵素の反応速度論的解析は、公知の方法を用いて行うことができ、例えば、基質濃度と反応速度の関係を示す酵素反応の飽和曲線を作成することにより、また、ラインウィーバー=バークプロット等のミカエリス・メンテン式の線形プロット手法等を用いて行うことができる。
取得したタンパク質の確認を配列分析によって行う場合には、公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法等を利用することができる。
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、その酵素反応がミカエリス・メンテン式に従うものである。ミカエリス・メンテン式に従う酵素反応の場合、基質濃度が低いときには基質に対して酵素の割合は十分でなく、基質濃度のみに依存して反応速度が比例的に速くなる。基質濃度が高くなるにつれ、基質に対する酵素の割合が小さくなり、反応速度は「酵素が基質を認識する時間」よりも、「酵素が結合した基質を処理する時間」に依存するようになる。したがって、酵素の反応速度が基質濃度のみに依存する基質濃度領域においては、基質濃度と反応速度が比例するため反応速度をもって基質濃度を精度よく解析できる。したがって、ミカエリス・メンテン式に従う本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素はアルデヒドの定量解析等に好適に利用することができる。このように、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、かかる理化学的物性により多種多様な分野での利用が期待される。例えば、生体や食品、環境中のアルデヒドを精度よく測定することに利用することができ、アルデヒドの測定のための試薬やバイオセンサー等として好適に利用することができる。また、バイオ電池の負極側の電極触媒として利用することができ、電池出力等の電池性能の向上に寄与することができる。したがって、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、医療、生物化学、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるアルデヒドの脱水素反応を要する技術に適用できる。
また、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、配列番号8に示すアミノ酸配列からなる既知のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素よりもアルデヒドに対する親和性が向上している。したがって、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素よりも高感度かつ高精度にアルデヒドを測定することができ、アルデヒドの測定のための試薬やバイオセンサー等の実用性を向上させることができる。
更に、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、高いアルデヒドに対する脱水素活性を有している。したがって、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、生体や食品、環境中のアルデヒドを高感度に測定することに利用することができ、アルデヒドの測定のための試薬やバイオセンサーとして好適に利用することができる。更には、バイオ電池の負極側の電極触媒として利用することができ、電池出力等の電池性能の向上に寄与することができる。
(アルデヒドの測定方法)
本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、試料中のアルデヒドの測定のために利用することができる。アルデヒドの測定は、例えば、基質であるアルデヒドに対する脱水素反応を触媒する本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の酵素活性を測定することにより行うことができる。
アルデヒドの測定方法におけるPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性は、PQQ依存性にアルデヒドの脱水素反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法を何れをも利用して行うことができる。詳細については上記した通りである。アルデヒド測定方法で用いられる本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の量は、測定対象である試料の種類や容量、測定原理等に応じて適宜変更することができる。適当な試験条件が選択されていれば、指標値の変化は、測定しようとする酵素の活性に比例する。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のアルデヒド溶液により標準曲線を作成することにより、得られた指標値に基づいて試料中のアルデヒド濃度を求めることができる。
ここで、試料としては、アルデヒド等、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の基質となり得る化合物の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができ、固体、液体、気体の別は問わない。例えば、汗、血液(血漿や血清、全血等)、組織間液、尿、唾液、涙液等の生体液、呼気等の生体ガス、及び、糞便等の生体排出物等の生物体由来の生体試料、加工食品等の食品試料、空気や土壌等の環境試料等が例示されるがこれに限定されるものではない。また、必要に応じて、これらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。
(アルデヒド測定のためのバイオセンサー)
本実施形態において、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するアルデヒドの測定のためのバイオセンサーを提供する。本実施形態のバイオセンサーは、電極材上に本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を固定化した作用電極、及びその対向電極(対極)を設けて構成することができる。必要に応じて、参照電極を設けて三電極方式として構成してもよい。電極材としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。例えば、対極として白金電極、参照電極としてAg/AgCl電極を用いて構成することができる。
電極材上への本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の固定化量は、測定対象である試料の種類や容量、電極系の種類や容量、並びに、測定方式等に応じて適宜変更することができる。また、電極材への本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の固定化は、既知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒド等の二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多糖化合物、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。そして、補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するための物質、及び、下記で詳述するキノン類やフェナジン類をはじめとする電子伝達メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるための物質を必要に応じて電極材上に固定化することができる。電子伝達メディエータ等の固定は、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素と混合して固定してもよいし、酵素の固定前、若しくは、後に固定しても良い。また、測定対象であるアルデヒドが透過でき、その透過量が調節できる各種の透過膜類を含んでもよく、また、生体液等の液体試料とバイオセンサーの検知素子である本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との接触性を向上させるための織布等を含めて構成してもよい。
本実施形態のバイオセンサーによるアルデヒドの測定方式は、クロノアンペロメトリー等の電流応答を利用してもよいし、クロノクーロメトリーや電流積分等の電荷応答を利用してもよいが、バイオセンサーの簡素化や連続測定等の観点から電流応答を利用するものが好ましい。例えば、電極系に一定に電圧を印加し、電流が定常値になった後、バイオドセンサーの反応部と測定対象の試料を接触させる。試料を接触させると試料中のアルデヒドが作用極上に固定された本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素と反応する。この酸化還元反応と電極反応を組み合わせ、得られる電流値の変化により試料中のアルデヒドを測定することができる。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のアルデヒド溶液により標準曲線を作成することにより、得られた電流値に基づいてアルデヒドの濃度を求めることができる。
ここで、試料としては、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の基質となり得るアルデヒドの存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。詳細については上記した。
本実施形態のバイオセンサーは、上記した本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の触媒能力を利用したアルデヒドの測定のためのバイオセンサーであり、医療、生物化学、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。本実施形態のバイオセンサーは、検知素子として本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するものであり、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素依存性アルデヒド脱水素酵素は、ミカエリス・メンテン式に従うものであることから、生体や食品、環境中のアルデヒドを精度よく測定することができる。更に、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、高いアルデヒドへの親和性及びアルデヒドに対する脱水素活性を有していることから、当該酵素を利用する本実施形態のバイオセンサーは高感度かつ高精度にアルデヒドを測定することができる。特に、生体試料中に含まれるアルデヒドは低濃度であることから既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素では高精度な測定が困難であったが、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素のアルデヒド脱水素酵素の触媒活性を利用した本実施形態のバイオセンサーにより高精度かつ高感度に測定することができる。したがって、本実施形態のバイオセンサーは、呼気等の生体ガスや、尿や汗等の非侵襲的に採取できる生体液中に含まれるアルデヒド濃度の測定等にも好適に利用することができる。
(バイオ電池)
本実施形態において、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するバイオ電池を提供する。本実施形態のバイオ電池は、例えば、酸化反応を行う負極(アノード)と、還元反応を行う正極(カソード)を含んで構成される。正極と負極が隔膜を挟んで対向するように配置され、正極と負極は外部回路によって接続される。燃料を負極に供給することにより、負極では、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の触媒活性により燃料を酸化することによって生じた電子を取り出すと共に、プロトンを発生する。そして、この電子は、直接、又は、酵素反応と電極間の電子伝達を仲介するための電子伝達メディエータを通して負極に受け渡たされる。そして、負極から外部回路を通って正極に電子が受け渡されることによって電流が発生する。一方、負極側で発生したプロトンが隔膜を通って、正極側に移動し、外部回路を通して負極側から移動してきた電子と反応し水を生成するように構成される。正極は、酸素や過酸化水素等の酸化剤を還元して電子を伝達することのできる触媒を固定して構成されることが好ましく、負極側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。
電極としては、外部回路に接続可能で電子を伝達できる導電性の基材であれば特に制限はない。カーボンクロス、カーボンペーパー、グラファイト、及びグラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等が例示できるが、これらに限定するものではない。従来公知の材質の導電性の物質を使用することができる。特には、広い電位窓を有し安定した電極性能を発揮し得るカーボン電極材が好ましい。また、カーボン電極材は多孔性材料でもあることから電極表面積も広く、これを有効に利用することにより高効率の酵素電極を構築できる。そして、これらの基材を単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。更に大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。
また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。その際に、PVDF等のバインダーを使用してもよい。電極材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。
負極側の電極材には、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素が供給され、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極材上に固定化されることが好ましい。電極材上に固定化する場合の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の固定化量は、燃料であるアルデヒドの形態や容量、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。正極側の電極材は、酸素に電子を伝達することのできる酵素等の触媒を必要に応じて供給してよい。例えば、ラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ等のマルチ銅オキシダーゼ等の酵素触媒や白金等の金属触媒を利用することができる。
電極材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができ、その詳細については上記した。
電極材には、酵素がその触媒活性を発揮し、電極材と電子の授受を行うのに必要な物質を供給することができ、電極触媒である酵素と共に固定化してもよい。例えば、酵素の触媒活性の発揮に補因子等を要求する酵素の場合には、活性化に必要な物質を電極材上に酵素と共に固定化することができる。一方、電極材上に酵素のみを固定化した場合には、活性化に必要な物質を電極材上に固定化された酵素に供給する手段を設けてもよい。また、補因子を要求する酵素については、固定化される酵素は、アポ形態及びホロ形態の別を問わないが、電極反応に際しては活性を発揮できるように構成する必要がある。したがって、アポ形態として電極材上に保持した場合には、電極材上に固定化された酵素に補因子を供給する手段を設ける等、アポ形態の酵素を活性型のホロ形態に変換するための手段を設けることが必要となる。更に、前記電極材には、触媒反応と電極との間の電子授受を媒介する電子伝達メディエータを酵素と共に固定化してもよい。
電子伝達メディエータは、酵素等の生体触媒と電子を授受することができる共に、電極材とも電子を授受することができる物質である限り何れも使用することができる。そして、電子伝達メディエータは、一重結合と二重結合が交互に並んだπ共役系化合物であることが好ましい。例えば、電子伝達メディエータは、特に限定されるものではないが、例えば、5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンメトスルファート:PMS)、5-エチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンエトスルファート:PES)等、のフェナジン系化合物、フェノチアジン系化合物、フェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物、フェロセンやジメチルフェロセン、フェロセンカルボン酸等のフェロセン系化合物、ナフトキノン、アントラキノン、ハイロドキノン、ピロロキノリンキノン等のキノン系化合物、シトクロム系化合物、ベンジルビオロゲンやメチルビオロゲン等のビオロゲン系化合物、ジクロロフェノールインドフェノール等のインドフェノール系化合物等が挙げられる。フェナジン系化合物の1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(以下、「mPMS」と称する場合がある)が特に好ましく例示できる。
隔膜は、プロトン等を透過できるイオン伝導性を有すると共に、プロトン等のイオン以外の負極側の構成成分及び正極側の構成成分を透過させないという性質を有する限り、その素材及び形状等に制限はない。例えば、セルロース膜等を利用することができ、また、固体電解質膜を利用することができる。固体電解質膜としては、スルホン基、リン酸基、ホスホン基、及びホスフィン基等の強酸基、カルボキシル基等の弱酸基、及び極性基を有する有機高分子等のイオン交換機能を有する固体膜等が例示されるが、これらに限定するものではない。具体的にはセルロース膜、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ〔2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル〕:tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体であるナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜を利用することができる。
燃料であるアルデヒドは、好ましくは、適当な溶媒に溶解させた燃料溶液として供給されるが、ゲル等の形態で供給してもよい。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、適当な緩衝液であってもよい。緩衝液に含まれる緩衝液成分としては、例えば、リン酸カリウム等のリン酸塩、イミダゾール、炭酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-(2-ヒドロキシエチル)−ピペラジン-1-エタン スルホン酸(HEPES)、3-モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用することができる。燃料溶液中のアルデヒドの量については、燃料の形態、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。
燃料溶液は、バイオ電池内部に配置された負極上の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素に供給される。燃料溶液の供給は、燃料溶液を負極上の本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素に供給できる限り、その形態に制限はない。
電極に固定した本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素が補因子PQQを含まないアポ酵素の形態で固定した場合には、PQQを燃料溶液に含める他、PQQを別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒の発現のために必要な物質、例えば、Mgイオン等の金属イオン等を、別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。更に、必要に応じて、電子伝達メディエータを等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるために必要な物質を供給することができる。電子伝達メディエータの供給形態も特に制限はなく、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素がその触媒機能の発現し得るように適宜供給される。
以上のように構成することにより、燃料であるアルデヒドを酸化する際に生じた電子が負極に電子を受け渡す。そして、負極に渡された電子は、外部回路を経て正極に到達することで電流が発生する。
本実施形態のバイオ電池によれば、上記した本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の触媒能力を利用したバイオ電池が提供できる。本実施形態のバイオ電池は、電極触媒として本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を利用するものであり、ここで、本実施形態のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素は、高いアルデヒドへの親和性、及び、アルデヒドに対する脱水素活性を有していることから、当該酵素を利用する本構成のバイオ電池は電池出力の向上が期待でき電池性能の向上を図ることができる。ひいては、酵素使用量を軽減できることからコスト削減効果をも奏することができる。本実施形態のバイオ電池は、上記した本実施形態のバイオセンサーの自己発電型の電源、卓上電卓等の携帯型機器や心臓ペースメーカー等の体内埋め込み式機器等の小型電子機器の電源等への応用が可能である。
以下に実施例を示し、更に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔事前検討例〕既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の酵素活性の測定
本事前検討例では、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素2種類のアルデヒドに対する脱水素活性を測定した。
(方法)
既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素2種類、Sphingomonas wittichii由来アルデヒド脱水素酵素(以下、「SwALDH」と称する。アクセッションNo.:WP_012050571)、及び、Pseudomonas putida由来アルコール脱水素酵素(以下、「PpADHIIG」と称する。アクセッションNo.:A8R3S4)についてアルデヒド脱水素酵素活性を測定した。アルデヒド脱水素酵素活性の測定は、色素(ジクロロインドフェノール(DCIP、和光純薬591-03541))還元を指標とした評価系を用いた。かかる評価系は、基質となるアルデヒドが、アルデヒド脱水素酵素により酸化され、続いて、DCIP色素が還元されることを利用するものである。基質となるアルデヒドとしては、D-グリセルアルデヒドを用い、ネガティブコントロールとしてはD-グリセリン酸を用いた。DCIPの還元は、600 nmの吸光度を測定することにより行った。
(結果)
SwALDHにのみ、DCIPの還元反応が認められ、他の酵素にはDCIPの還元反応は認められなかった。その結果から、SwALDHのみにD-グルタルアルデヒドを基質とする脱水素反応が確認され、以下の実施例には、SwALDHを既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素として使用した。
(実施例1)環境試料中の新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索
本実施例では、環境試料中に存在する新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の探索を行った。
<候補遺伝子の選抜>
(方法)
牧場堆肥及び海洋水から抽出したゲノムDNAの塩基配列を解析したメタゲノム遺伝子情報ライブラリーからオープンリーディングフレーム(ORF)を見出し、アミノ酸配列を推定した後、〔事前検討例〕でアルデヒド脱水素酵素活性が確認された既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHのアミノ酸配列(配列番号8(377アミノ酸):塩基配列を配列番号7に示す)との類似性を指標として、新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の候補を選抜した。ここで、類似性とは、2つのアミノ酸配列を対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながらアラインメントしたときに、その両方の配列で一致したアミノ酸残基数のアミノ酸配列全体のアミノ酸残基数に対する割合(%)をいうものとする。
(結果)
結果を図1のグラフに示す。グラフにおいて、横軸は、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とのアミノ酸配列の類似性を、縦軸は類似性を示す領域のアミノ酸残基数(選抜した配列が酵素の全長をカバーしているか否かの目安となる)を示す。かかる結果に基づき、牧場堆肥由来のメタゲノムからPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードされると推定される候補遺伝子を9種類(黒色の三角印(▲)で示す)、海洋水由来のメタゲノムからの候補遺伝子を1種類(黒色の四角印(◆)で示す)の、合計10種類の遺伝子を選抜した。なお、牧場堆肥由来のメタゲノムからの候補遺伝子(白色の三角印(△)で示す)、海洋水由来のメタゲノムからの候補遺伝子(白色の四角印(◇)で示す)については、今回は以降の解析を行わなかった。
<PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の発現>
(方法)
上記で選抜した10種類の候補遺伝子について、大腸菌タンパク質発現系によりPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の発現を確認した。詳細の手順は以下の通りである。
上記で選抜した10種類の各候補遺伝子にHis tagコード配列を目的とする組換えタンパク質のC末端にHis tagが融合するように融合させ、発現ベクターpET22bにクローニングし、大腸菌BL21DE3pLysSに形質転換した。形質転換体である大腸菌をLB培地(100 ml)中でO.D.600=0.3になるまで37℃で前培養した。続いて、IPTGを終濃度0.2 mMで添加して目的組換えタンパク質の発現誘導を行った後、27℃で本培養を12時間行った。
培養後、培養液の遠心分離処理(5,000×g、15分間)により大腸菌を回収し、緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 7.4、25 ml)を加えて懸濁した。懸濁液に、界面活性剤(0.4 % Brij-58)とPQQサプリメント(2 mg)を添加して溶菌処理(30分間)を行った後、超音波破砕処理を行って大腸菌の破砕物を得た。続いて、大腸菌の破砕物に対して遠心分離処理(10,000×g、40分間)を行って目的タンパク質を含む粗抽出液を分取した。
上記で得られた粗抽出液の一部(2μl)を分取し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した後、ゲルをCBBにより染色した。
(結果)
結果を図2の電気泳動図に示す。電気泳動図において、レーンMは分子量マーカー(kDa)、レーン1〜10は候補遺伝子のタンパク質発現結果を示し、即ち、レーン1〜9は、9種類の牧場堆肥由来のメタゲノムからPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素をコードされると推定される候補遺伝子9種類(以下、「No.1」〜「No.9」と称する)、レーン10は、海洋水由来のメタゲノムからの候補遺伝子1種類(以下、「No.10」と称する)である。かかる結果より、No.2、No.3、及びNo.5において目的タンパク質の発現が認められた。SwALDHについても同様にして組換えタンパク質として発現させた。なお、ここで発現させたタンパク質をコードする塩基配列は、No.2のタンパク質に関しては配列番号1に示す塩基配列の3´末端にpET22bのHind-IIIサイト下流のベクター配列(His-Tag配列とストップコドンを含む):CTTGCGGCCGCACTCGAGCACCACCACCACCACCACTGA(配列番号9)が付加されたものである。No.3のタンパク質に関しても同様に、配列番号3に示す塩基配列の3´末端にCTTGCGGCCGCACTCGAGCACCACCACCACCACCACTGA(配列番号9)が付加されると共に、5´末端にCATが付加されたものであり、No.5のタンパク質に関しても同様に、配列番号5に示す塩基配列の3´末端にCTTGCGGCCGCACTCGAGCACCACCACCACCACCACTGA(配列番号9)が付加されると共に、5´末端にCATが付加されたものである。したがって、組換え発現された目的タンパク質のアミノ酸配列は、No.2のタンパク質に関しては配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端にLeu Ala Ala Ala Leu Glu His His His His His His(配列番号10)が付加されたものである。No.3のタンパク質に関しても同様に、配列番号4に示すアミノ酸配列のC末端にLeu Ala Ala Ala Leu Glu His His His His His His(配列番号10)が付加されると共に、N末端にHisが付加されたものであり、No.5のタンパク質に関しても同様に、配列番号6に示すアミノ酸配列のC末端にLeu Ala Ala Ala Leu Glu His His His His His His(配列番号10)が付加されると共に、N末端にHisが付加されたものである。ここで発現させたSwALDHをコードする塩基配列も同様に、配列番号7に示す塩基配列の3´末端にGGTAGCTCACACCATCATCACCATCATTAA(配列番号11)が付加されたものであり、組換え発現させたSwALDHは、配列番号8に示すアミノ酸配列のC末端にGly Ser Ser His His His His His His(配列番号12)が付加されたものである。
図3において、目的タンパク質の発現が確認された3種類を含めた本実施例で発現確認を検討した10種類の候補遺伝子について、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHのアミノ酸配列との類似性を検討した結果を示す。横軸及び縦軸は、図1と同様であるが、そのスケールのみが相違する。
<PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の精製>
(方法)
上記で大腸菌タンパク質発現系によりPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の発現が確認された組換えタンパク質について精製を行った。詳細の手順は以下の通りである。
上記で得られた粗抽出液にNaClを終濃度0.15 mMで添加した後、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティ担体カラム(2mlのTALONを充填)にアプライした。カラムを50 mMリン酸カリウム pH 7.4、5 mMイミダゾール、0.15 M NaCl溶液で洗浄後、50 mMリン酸カリウム pH 7.4、150 mMイミダゾール、0.15 M NaCl溶液により目的タンパク質を溶出した。溶出液を、限外濾過カラムを用いた希釈法により、緩衝液(50 mM PIPES pH7.4)に置換し、タンパク質を精製し、精製タンパク質を得た(最終液量250μl)。SwALDHについても同様にして発現させた組換えタンパク質を精製した。
発現誘導後の培養物(菌体を含む培養液)の一部、発現させた大腸菌の破砕物の超音波処理後の上澄み液(大腸菌の粗抽出液)、大腸菌の破砕物の超音波処理後の沈殿物の一部、アフィニティ精製後の溶出液の一部を分取し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した後、ゲルをCBBにより染色した。
(結果)
結果を図4及び図5の電気泳動図に示す。図4の電気泳動図はNo.5の発現及び精製の結果を示し、レーン1は発現誘導後の培養物、レーン2は発現させた大腸菌の破砕物の超音波処理後の上澄み液(大腸菌の粗抽出液)、レーン3は大腸菌の破砕物の超音波処理後の沈殿物、レーン4はアフィニティ精製後の溶出液の一部の結果を示し、矢印は目的タンパク質のバンドの位置である。図5の電気泳動図において、レーン1はSwALDH、レーン2はNo.2の精製タンパク質、レーン3はNo.3の精製タンパク質、レーン4はNo.5の精製タンパク質の結果を示し、矢印は目的タンパク質のバンドの位置である。No.2、No.3、及び、No.5の何れも既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHと同等の分子量のバンドが認められた。これにより、No.2、No.3、及び、No.5の3種類は何れも大腸菌タンパク質発現系を用いて大量生産が可能であることが理解できる。
(実施例2)アミノ酸配列の相同性(同一性)の確認
本実施例では、実施例1で取得した新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補である3種類の精製タンパク質のアミノ酸配列について、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHとの相同性を比較した。
(方法)
実施例1で取得した新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補である3種類の精製タンパク質No.2、No.3、及び、No.5を、それぞれeALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5と命名し、そのアミノ酸配列について、SwALDHのアミノ酸配列との相同性を確認した。アミノ酸配列同士の相同性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアにより行うことができる。
(結果)
結果を図6〜図9のアライメント図に示す。図6は、eALDH-No.2とSwALDHとの比較を示し、図7は、eALDH-No.3と既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との比較を示し、図8は、eALDH-No.5と既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素との比較を示し、図9は、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5との比較を示す。アライメント図において、eALDH-No.2のアミノ酸配列の377アミノ酸残基のうち、190アミノ酸残基がSwALDHのアミノ酸配列と一致し約50%の相同性を示した。eALDH-No.3のアミノ酸配列の377アミノ酸残基のうち、195アミノ酸残基がSwALDHのアミノ酸配列と一致し約52%の相同性を示した。eALDH-No.5のアミノ酸配列の377アミノ酸残基のうち、194アミノ酸残基がSwALDHのアミノ酸配列と一致し約51%の相同性を示した。かかる結果より、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5は、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とは異なるアミノ酸配列を有する新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補であることが確認された。次に、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5のアミノ酸配列の相同性を比較したところ、eALDH-No.2を基準としたときに386アミノ酸残基中で218アミノ酸残基が一致し約56%の相同性を示した。かかる結果より、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5は、互いに異なる新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補であることが確認された。
更に、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5のシグナル配列の予測を、SignalP 4.1 server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて行った。その結果、eALDH-No.2のアミノ酸配列では1〜37位、eALDH-No.3のアミノ酸配列では1〜25位、及び、eALDH-No.5のアミノ酸配列では1〜23位がシグナル配列であると予測された。なお、大腸菌を用いた組換えタンパク質発現系でのタンパク質の生産では、シグナル配列を含む遺伝子を発現させると可溶性タンパク質として発現し、シグナル配列を欠損させた遺伝子では不溶性タンパク質となることが知られている。
(実施例3)新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の活性確認
本実施例では、実施例1で取得した新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素候補である3種類の精製タンパク質の酵素活性を確認した。
(方法)
実施例1で取得したeALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5について、アセトアルデヒド及びグリセルアルデヒド、ブチルアルデヒド、プロピオンアルデヒドの4種類のアルデヒドを基質として反応するか否かを検討した。3種類の酵素は実施例1に記載の方法で作製したものを使用し、詳細には、培養液40 mlを使用して得られた酵素発現菌体をスタート材料とし、菌体から酵素画分を抽出及び精製を行い、精製後の酵素溶液は0.2 mlとした。各酵素溶液の酵素濃度は、eALDH-No.2が0.9 mg/ml、eALDH-No.3が3.5 mg/ml、及び、eALDH-No.5が0.5 mg/mlであった。酵素活性の測定は、測定液80μl(50 mM PIPES pH 7.4、1 mM CaCl2、0.4 mM WST-1、0.01 mM mPMS、3 mM基質(アセトアルデヒド、グリセルアルデヒド、ブチルアルデヒド、又は、ペンチルアルデヒド))に対して、各酵素溶液を5μl添加し分光光度計で438 nmの波長での吸光度を測定した。また、同様にして、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHの基質への反応性を検討した。酵素濃度は、0.5 mg/mlとした。
(結果)
結果を図10〜図13のグラフに示す。図10のグラフは従来酵素、図11のグラフはeALDH-No.2、図12のグラフはeALDH-No.3、及び、図13のグラフはeALDH-No.5の吸光度の測定結果を示し、それぞれ、横軸は反応時間(秒)、縦軸は438 nmでの吸光度を示す。また、アセトアルデヒドに対する酵素反応速度を1.0としたときの各種アルデヒドに対する相対反応速度を表1に要約する。かかる結果から、今回検討を行ったeALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5は何れも、各種アルデヒドを基質として反応するPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素活性を示し、電子伝達を伴う酵素反応が確認できた。したがって、eALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5は新規PQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であることが理解できる。
(実施例4)新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素の酵素活性の反応速度論的解析
本実施例では、実施例1で取得され、実施例3でアルデヒド脱水素酵素活性が確認された3種類の精製タンパク質について、反応速度論的に解析を行った。
(方法)
実施例1で取得したeALDH-No.2、eALDH-No.3、及び、eALDH-No.5について、実施例3で調製した酵素反応溶液中の基質濃度を変化させたときの酵素反応速度の変化を検討した。酵素反応速度は、実施例3の記載に準じて、濃度変化させたアセトアルデヒドを基質とした酵素反応に基づく吸光度変化を測定することにより行った。また、同様にして既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHの酵素反応速度の変化をも検討した。
(結果)
結果を図14のグラフに示す。図14のグラフは、eALDH-No.2、eALDH-No.3、eALDH-No.5、及び、SwALDHの酵素反応速度の基質濃度依存性を比較したものであり、横軸は基質であるアセトアルデヒド濃度、縦軸は単位時間当たりの438 nmでの吸光度変化を示す。かかる結果より、eALDH-No.2、eALDH-No.3、eALDH-No.5は、ミカエリス・メンテン式にしたがい、基質濃度に対して酵素反応速度が飽和曲線を描く理化学的物性を有していることが確認できた。また、eALDH-No.2、eALDH-No.3、eALDH-No.5のアセトアルデヒドに対するKmが0.5mM以下であり、Kmが12mMであるSwALDHよりも、高い基質親和性を示すことが確認された。一方、既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素であるSwALDHはミカエリス・メンテン式に従わない。
(実施例5)新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を酵素電極の電極触媒としたときの電気化学的性能の確認
本実施例では、実施例1で取得され、実施例2〜4で既知のPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素とは異なるアミノ酸構造及び理化学的物性が確認された精製タンパク質について、バイオセンサーの物質識別素子として用い、アセトアルデヒド等を電流蓄電型のバイオセンサーデバイスで検出するための検討を行った。
(方法)
実施例1で取得したeALDH-No.2を負極用触媒として用いたバイオ電池を構築した。ここで、構築したバイオ電池は、電極材、メディエータ、酵素の各部材から構成される負極に緩衝液を含む燃料溶液(アセトアルデヒド又はグリセルアルデヒド溶液)を供給して、正極反応と組み合わせることで、発電させるものである。
(1)電池セルの作製
本実施例で作製したバイオ電池の電池セルの各構成部材及びその作製手順について詳細に説明する。
a.電極材
a−1.負極材の作製
炭素微粒子(0.4 g)、20%PVDF溶液(0.8 g、KFポリマー、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン)、N-メチル-2-ピロリドン(8 mL)を混合し、超音波処理をして炭素インクを作製した。電極材(日本カーボンBF-20、4 cm × 4 cm)を炭素インクに浸して引き揚げ、乾熱乾燥(60℃)させたものを負極材とした。
a−2.正極材の作製
炭素微粒子(0.4 g)、PTFE(0.4g、PTFE 6J、三井・デュポンフロロケミカル)、イソプロパノール(8 mL)を混合し、超音波処理をして炭素インクを作製した。電極材(日本カーボンBF-20、4 cm × 4 cm)を炭素インクに浸して引き揚げ、乾熱乾燥(60℃)させたものを正極材とした。
b.メディエータ
b−1.負極側
1,4-ナフトキノンを使用した。1,4-ナフトキノン 8 mgをアセトニトリル0.5 mLに溶解した溶液を、上記で作成した負極材に滴下して減圧下で乾燥固定化した。
b−2.正極側
2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(以下、「ABTS」と称する)を使用した。ABTS 5 mgをMilli-Q 水0.5 mLに溶解した溶液を、上記で作製した正極材に滴下して、乾燥固定化した。
c.電池セルの組み立て
上記で作製したメディエータを固定化した負極材に、実施例1で調製したeALDH-No.2溶液(0.02 mg/cm2 eALDH-No.2、1 M リン酸カリウム pH 7.0)を含浸させたものを負極とした。上記で作製したメディエータを固定化した正極材にビリルビンオキシダーゼ溶液(1.0 mg/cm2ビリルビンオキシダーゼ、1Mリン酸カリウム pH 7.0)を含浸させたものを正極とした。負極と正極の間にセルロース膜を挟み込んで負極/セルロース膜/負極の順に積層し、電池セルの筐体の電極部に入れた。
(2)性能評価
電子負荷装置を使用して、組み立てた電池の、アセトアルデヒドを添加しない場合の発電性能を測定した。次に、同じ電池の負極に、任意量のアセトアルデヒドを添加した場合ついても、同様にして発電性能を測定した。
(結果)
結果を図15に示す。図15中、横軸は電流(mA/ cm2)、縦軸は電圧(V)を示す。アセトアルデヒドを負極に添加した場合には、最大電力5 mW /cm2(0.44 Vにおいて)、最大電流5 mW /cm2の酵素触媒電流が確認できた(波形)。一方、アルデヒドを何ら添加しなかった場合には、電池出力は0であった。これらの結果から、本発明者が取得したeLact-No.2等は、適当なメディエータと組み合わせた場合に、アルデヒドを燃料にしたバイオ電池の電極触媒として機能することが理解できる。
医療分野、生物化学分野、環境分野、食品分野等において実用価値が高く、既知酵素とは異なるアミノ酸配列及び理化学的物性を有する新規なPQQ依存性アルデヒド脱水素酵素を提供する。

Claims (4)

  1. 以下の(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列からなり、ピロロキノリンキノンを補因子としてアルデヒドからカルボン酸を生成する酵素反応を触媒し、前記酵素反応がミカエリス・メンテン式に従うピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素。
    (a)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列
    (b)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び、付加の少なくとも1つからなる改変を有するアミノ酸配列
    (c)配列番号2、4、又は、6に示すアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列
  2. アルデヒドに対するKm値が、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素に比べて低下が認められる請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素。
  3. 請求項1又は2に記載のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を電極上に固定化したアルデヒドの測定のためのバイオセンサー。
  4. 請求項1又は2に記載のピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素を含み、前記ピロロキノリンキノン依存性アルデヒド脱水素酵素のアルデヒドの脱水素反応に伴って生成する電子を受け取る負極、酸素に前記電子を伝達することのできる正極を備え、前記負極と前記正極とが電気的に結合されているバイオ電池。
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