JP2021078427A - D−乳酸脱水素酵素変異体、d−乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサ - Google Patents

D−乳酸脱水素酵素変異体、d−乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサ Download PDF

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Abstract

【課題】バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等において、従来よりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示すD-LDH、及び、D-LDHを電極触媒として備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサの提供。更には、バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等において、従来よりも高い熱安定性を示すD-LDHの提供。また、D-LDHを電極触媒として備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサの提供。【解決手段】特定の配列からなるアミノ酸配列を含む野生型のD-乳酸脱水素酵素よりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を有し、特定の配列からなるアミノ酸配列において、特定アミノ酸残基の置換を含むアミノ酸配列を含むD-乳酸脱水素酵素変異体、及び、特定の配列からなるアミノ酸配列を含む野生型のD-乳酸脱水素酵素より高い熱安定性を有するD-乳酸脱水素酵素変異体、並びに、D-乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサ。【選択図】図3

Description

本発明は、D-乳酸脱水素酵素変異体、及び、当該D-乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサに関する。特には、D-乳酸脱水素酵素活性が向上するように改変されたD-乳酸脱水素酵素変異体に関する。また、熱安定性が向上するように改変されたD-乳酸脱水素酵素変異体に関する。更には、当該D-乳酸脱水素酵素変異体を備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサに関する。
乳酸の酸化還元反応に関与する酵素としては、乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase)及び乳酸酸化酵素(Lactate oxidase)等が挙げられる。乳酸脱水素酵素等の乳酸の酸化還元反応に関与する酵素は、乳酸からピルビン酸に変換する際に生じる電子を取り出すことで、乳酸の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。近年、バイオエネルギー関連物質を利用したバイオ燃料電池(非特許文献1等を参照のこと)やバイオセンサ(非特許文献2等を参照のこと)が開発されており、例えば、乳酸をエネルギー源とするバイオ燃料電池、乳酸を検出対象とするバイオセンサ等において、乳酸脱水素酵素等の乳酸の酸化還元反応に関与する酵素が中心的な役割を果たす。
例えば、非特許文献1には、皮膚等の生体表面に装着することにより生体情報等を取得できるウェアラブルセンサの電源として、汗中のL-乳酸をエネルギー源として発電するバイオ燃料電池の開発が報告され、L-乳酸酸化酵素が負極側の電極触媒として利用されている。また、非特許文献2には、糖尿病診断や食品検査用のD-乳酸測定用のバイオセンサが報告され、電極触媒としてD-乳酸脱水素酵素が利用されている。そこで、バイオ燃料電池の出力及び安定性の向上、並びに、バイオセンサにおける高精度及び高感度な測定等を達成するためには、電極触媒として酵素には高い酵素活性や熱安定性等が求められている。特に、酵素活性が低い酵素の利用は、電極触媒として十分に機能するために大量の酵素を必要とし、バイオ燃料電池やバイオセンサのコストが増大し経済的観点からも好ましくない。
ここで、乳酸の酸化還元反応を触媒する酵素であるD-乳酸脱水素酵素(以下、「D-LDH」と略する場合がある)は、D-乳酸とピルビン酸との間の酸化還元反応を可逆的に触媒する酵素である。かかるD-LDHは、細菌、酵母から哺乳類に至るまで広く存在しており、多様な生物由来のものが報告されている。例えば、特許文献1には、ラクトバチルス属細菌(Lactobacillus sp.;NBRC14511)由来の野生型D-LDHのアミノ酸配列において、特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより溶液における保存安定性が向上したD-LDH変異体が報告されている。かかるD-LDH変異体は、溶液中での長期保存が難しかった野生型D-LDHに比べて溶液中で保存安定性に優れ、臨床検査用試薬等に好適に利用できるものとして開発されたものである。また、かかるD-LDH変異体は、野生型D-LDHに比べて熱安定性にも優れ、野生型D-LDHでは残存活性が75%保たれる温度が30℃であったのに対して、D-LDH変異体では最大55℃まで向上したことが報告されている。しかしながら、バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等に要求される熱安定性を十分に満たすものではないとの問題がある。
また、非特許文献3には、好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)からD-LDHが単離され、かかるD-LDHは80℃で10分間、また、pH6.5〜10で30分間での50℃の保温によっても100%近くの残存活性を示すことが報告されている。バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等の電極触媒として利用するためには、遺伝子組み換え技術等を利用して酵素を大量生産する必要があるが、非特許文献3には大腸菌発現系を利用して組み換えD-LDHを大量生産したことが報告されている。しかしながら、得られた組み換えD-LDHは、pH安定性が低下する等、天然由来のD-LDHに比べて活性が低いという問題がある。
上記した非特許文献2のバイオセンサの電極触媒としてもD-LDHが利用され、かかるD-LDHは、好熱性古細菌カルディアルカエウム・スプテッラーネウム(Candidatus Caldiarchaeum subterraneum)由来であり、大腸菌発現系を利用して組み換えD-LDHを大量生産したことが報告されている。得られた組み換えD-LDHは、70℃で10分間の保温によっても100%近くの残存活性を示すことが報告されている。しかしながら、80℃で10分間の保温では、酵素活性が失活することが確認されている。
したがって、依然として、バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等に要求される酵素活性や熱安定性を十分に満たすD-LDHの構築が求められていた。
そこで、本発明は、バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等において、従来よりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示すD-LDH、及び、当該D-LDHを電極触媒として備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサの提供を目的とする。更には、バイオ燃料電池及びバイオセンサの電極触媒等において、従来よりも高い熱安定性を示すD-LDHの提供を目的とする。また、当該D-LDHを電極触媒として備えたバイオ燃料電池、及び、バイオセンサの提供を目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)由来のD-LDHにおいて、特定アミノ酸に置換変異を導入したD-LDH変異体が、野生型D-LDHに比べて高いD-乳酸脱水素酵素活性を示すことを見出した。また、当該D-LDH変異体は、野生型D-LDHよりも熱安定性が優れていることを見出した。更に、当該D-LDH変異体を利用することにより、より実用面、例えば、耐久性やコスト、発電特性等において有利なバイオ燃料電池、及び、バイオセンサを構築できることを見出した。本発明者は、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[5]に示す発明を提供する。
[1]下記(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列を含むD-乳酸脱水素酵素変異体。
(a)好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来の野生型のD-乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列(配列番号1)において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換を含むアミノ酸配列
(b)(a)のアミノ酸配列において、第51位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第51位に対応する位置以外の位置、第52位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第52位以外の位置、第72位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第72位以外の位置、及び、第93位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第93位以外の位置、及び、第131位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第131位以外の位置、に1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、及び、挿入から選択される少なくとも1つの改変を含むアミノ酸配列
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を含むアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位に対応する位置のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位に対応する位置のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位に対応する位置のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換を含むアミノ酸配列
[2]下記(d)〜(f)の何れかのアミノ酸配列を含む上記[1]のD-乳酸脱水素酵素変異体。
(d)配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換のうち、任意の異なる2つの位置でのアミノ酸置換変異を含むアミノ酸配列
(e)(d)のアミノ酸配列において、第51位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第51位以外の位置、第52位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第52位以外の位置、第72位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第72位以外の位置、及び、第93位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第93位以外の位置、及び、第131位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第131位以外の位置、に1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、及び、挿入から選択される少なくとも1つの改変を含むアミノ酸配列
(f)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を含むアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位に対応する位置のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位に対応する位置のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位に対応する位置のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換のうち、任意の異なる2つの位置でのアミノ酸置換変異を含むアミノ酸配列
[3]配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、
配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換を含むアミノ酸配列、
配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、又は、
配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、を含む上記[2]のD-乳酸脱水素酵素変異体。
上記[1]〜[3]の構成によれば、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を有するD-LDH変異体を提供することができる。したがって、本発明のD-LDH変異体は、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるD-乳酸脱水素酵素反応を要する技術に適用できる。ここで、酵素の触媒活性を利用するバイオ燃料電池やバイオセンサの作製等において、酵素の必要量は一般的に酵素の活性値に基づいて規定されることから、D-乳酸脱水素酵素活性の高い本発明のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利である。更に、本発明のD-LDH変異体は、好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来のD-LDHを基礎として構築されたものであるから、熱安定性にも優れている。このような上記した優れた特性を有する本発明のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池の高出力化、並びに、バイオセンサの安定化及び高感度化等に貢献することができる。また、本発明のD-LDH変異体は、FAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化できる。これにより、本発明のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池及びバイオセンサ等の作製の簡略化及び低コスト化を更に図ることができる。
特に、上記[2]及び[3]の構成によれば、更に高いD-乳酸脱水素酵素活性を有するD-LDH変異体を提供することができ、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるD-乳酸脱水素酵素反応を要する技術へ更に好適に利用することができる。
また、上記[1]〜[3]の構成によるD-乳酸脱水素酵素変異体は、好適には野生型のD-乳酸脱水素酵素より高い熱安定性を有し、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるD-乳酸脱水素酵素反応を要する技術へ更に好適に利用することができる。例えば、酵素の触媒活性を利用するバイオ燃料電池やバイオセンサにおいて、熱安定性の高い酵素を利用することで当該バイオ燃料電池及びバイオセンサの安定性及び耐久性を向上させることができ、酵素使用量をも低減できる。これにより、更にコストを削減でき経済的に有利となる。
[4]上記[1]〜[3]の何れかのD-乳酸脱水素酵素変異体を電極基材上に固定した酵素電極を負極として備えたバイオ燃料電池。
上記[4]の構成によれば、負極側の電極触媒として本発明のD-LDH変異体を利用するバイオ燃料電池を提供することができる。上記した通り、D-乳酸脱水素酵素活性の高い本発明のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利なバイオ燃料電池を提供することができる。更に、高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する本発明のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池の高出力化に貢献することができ、バイオ燃料電池の実用化を図ることができる。また、本発明のD-LDH変異体はFAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化でき、本構成のバイオ燃料電池の作製の簡略化及び低コスト化に貢献することができる。したがって、本構成のバイオ燃料電池は、医療や福祉、情報通信、移動型や携帯型電子機器等、種々の産業分野において利用可能である。
[5]上記[1]〜[3]の何れかのD-乳酸脱水素酵素変異体を電極基材上に固定した酵素電極を作用電極として備えたバイオセンサ。
上記[5]の構成によれば、電極触媒として本発明のD-LDH変異体を利用するバイオセンサを提供することができる。上記した通り、D-乳酸脱水素酵素活性の高い本発明のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利なバイオセンサを提供することができる。更に、高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する本発明のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオセンサの安定化及び高感度化等に貢献することができ、これにより、本構成のバイオセンサは、測定対象物質である乳酸を安定的かつ高感度に検出及び測定することができる。また、本発明のD-LDH変異体はFAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化でき、本構成のバイオセンサの作製の簡略化及び低コスト化に貢献することができる。したがって、本構成のバイオセンサは、D-乳酸の検出及び測定を要する全ての分野で利用可能であり、特に、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。
バイオ燃料電池の一例を示す概略模式図。 バイオセンサの一例を示す概略模式図。 D-LDH単一変異体の酵素活性評価を行った実施例4の結果を示し、各変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を比較評価した結果を示すグラフであり、各変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を野生型D-LDHのD-乳酸脱水素酵素活性を1とした比活性で示す。 D-LDH二重変異体の酵素活性評価を行った実施例5の結果を示し、各変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を比較評価した結果を示すグラフであり、各変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を野生型D-LDHのD-乳酸脱水素酵素活性を1とした比活性で示す。 D-LDH単一変異体及び二重変異体の熱安定性評価を行った実施例6の結果を示し、単一変異体及び二重変異体の熱安定性を比較評価した結果を示すグラフであり、各変異体の所定の温度で所定の時間保温後の残存活性を、野生型D-LDHのD-乳酸脱水素酵素活性を1として比活性で示す。 D-LDH単一変異体及び二重変異体の熱安定性評価を行った実施例6の結果を示し、単一変異体及び二重変異体の熱安定性を比較評価した結果を示すグラフであり、各変異体及び野生型D-LDHの所定の温度で所定の時間保温後の残存活性を、反応速度で示す。 電気化学的測定による評価を行った実施例7の結果を示し、(A)はD-LDH二重変異体のD-乳酸脱水素酵素活性をクロノアンペロメトリー測定結果により示す電流時間曲線であり、(B)は測定開始から30秒後の電流値を示すグラフである。
以下、具体的な本発明の実施形態について説明するが、これはあくまでも本発明を例示するに留まり、本発明を限定するものではない。
(D-LDH変異体)
本実施形態のD-LDH変異体は、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を有し、特に好ましくは、野生型D-LDHよりも高い熱安定性を有する。
ここで、D-乳酸脱水素酵素活性とは、D-乳酸に作用してピルビン酸を生成する可逆反応を触媒する活性を意味する。本実施形態のD-LDH変異体は、補酵素としてフラビンアデニンジヌクレオチド(以下、「FAD」と略する場合がある)を要求するFAD依存型のD-乳酸脱水素酵素活性を示し、FADを補酵素として、D-乳酸をピルビン酸へ変換する反応を触媒し、この反応に伴いFADは還元されFADH2を生成する。このとき、フェリシアン化物や2, 6-ジクロロフェノールインドフェノール(以下、「DCPIP」と略する場合がある)、p-ベンゾキノン等の電子受容体の存在下でFADH2は再酸化されFADに戻り、電子受容体は還元される。つまり、以下のように、FAD依存型のD-乳酸脱水素酵素活性は、D-乳酸から取り出した電子を酸化型電子受容体に供与し、ピルビン酸と還元型電子受容体を生成する反応を可逆的に触媒する活性を意味する。
D-乳酸 + 電子受容体(酸化型) → ピルビン酸 + 電子受容体(還元型)
本実施形態のD-LDH変異体は、上記した通り、野生型D-LDHより高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する。ここで、「野生型D-LDHより高いD-乳酸脱水素酵素活性」とは、適当な条件下、例えば、適当な緩衝液(リン酸緩衝液(pH7.0))中での室温下での野生型D-LDHのD-乳酸脱水素酵素活性を1としたときに、1.1〜1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは1.8倍以上、2.0〜3.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上のD-乳酸脱水素酵素活性を示すことが挙げられる。
更に、本実施形態のD-LDH変異体は、野生型D-LDHより高い熱安定性を有することが好ましい。ここで、「野生型D-LDHより高い熱安定性」とは、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(pH7.0))中で、50℃での20分間保温後のD-乳酸脱水素酵素活性を100%としたときに、50〜80℃での20分間保温後のD-乳酸脱水素酵素活性の残存活性が80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上を示すことが挙げられる。また、90℃での20分間の保温後のD-乳酸脱水素酵素活性の残存活性が40%以上、好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上を示すことが挙げられる。したがって、本実施形態のD-LDH変異体は、90℃にも耐え得る熱安定性を示す。
また、本実施形態のD-LDH変異体は、野生型D-LDHより、高い補酵素FADに対する結合力を有するものであり、これにより、D-乳酸脱水素酵素活性、更には、熱安定性の点で、上記した優れた特性を発揮するものであると推定される。
野生型D-LDHとは、本実施形態のD-LDH変異体の改変の基礎となるD-LDHのことを意味する。詳細には、自然界より分離される標準的なD-LDHのアミノ酸配列において、意図的若しくは非意図的に変異が生じていないものを意味する。したがって、変異部位を有しない限り、天然由来だけでなく、遺伝子組換え体のように人為的手段により生じたものを含めることができる。
野生型のD-LDHとしては、D-乳酸に対して作用するD-乳酸脱水素酵素活性を示す限り何れの生物体由来のものであってもよい。しかしながら、好熱好酸性古細菌、例えば、スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)由来のD-LDHが好ましい。ここで、本実施形態のD-LDH変異体構築の基礎として特に好適な野生型のD-LDHの配列情報として、上記の好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来のD-LDHのアミノ酸配列を、配列表の配列番号1に示す。したがって、本実施形態のD-LDH変異体は、好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来のD-LDHを基礎として構築されたものであるから、熱安定性にも優れていることが理解できる。
本実施形態のD-LDH変異体として、野生型D-LDHの一例である好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)由来の野生型のD-LDHの配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニン(T)のアラニン(A)への置換(以下、「T51A」と略する場合がある)、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位のアミノ酸残基スレオニン(T)のプロリン(P)への置換(以下、「T51P」と略する場合がある)、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位のアミノ酸残基トリプトファン(W)のアラニン(A)への置換(以下、「W52A」と略する場合がある)、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位のアミノ酸残基メチオニン(M)のロイシン(L)への置換(以下、「M72L」と略する場合がある)、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位のアミノ酸残基メチオニン(M)のスレオニン(T)への置換(以下、「M72T」と略する場合がある)、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位のアミノ酸残基プロリン(P)のアラニン(A)への置換(以下、「P93A」と略する場合がある)、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位のアミノ酸残基セリン(S)のアラニン(A)への置換(以下、「S131A」と略する)から選択される単一置換を含むことにより改変されたアミノ酸配列を含むものを好ましく例示することができる。かかる改変により、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示し、特に好ましくは、野生型D-LDHよりも高い熱安定性を有する。
本実施形態のD-LDH変異体は、上記したアミノ酸置換変異が任意の位置で複数生じている多重アミノ酸置換変異を含むもの、好ましくは、上記したアミノ酸置換変異のうち任意の2つの位置での変異を組み合わせた二重アミノ酸置換変異を含むものが好ましく例示される。具体的には、スルフォロブス・トコダイ7株由来の野生型のD-LDHの配列番号1に示すアミノ酸配列において、T51A+W52A、T51A+M72L、T51A+M72T、T51A+P93A、T51A+S131A、T51P+W52A、T51P+M72L、T51P+M72T、T51P+P93A、T51P+S131A、W52A+M72L、W52A+M72T、W52A+P93A、W52A+S131A、M72+P93A、M72L+S131A、M72T+P93A、M72T+S131A、及び、P93A+S131Aから選択される二重アミノ酸置換変異を含むことにより改変されたアミノ酸配列を含むものを好ましく例示することができる。かかる改変により、野生型D-LDHよりも更に高いD-乳酸脱水素酵素活性を示し、特に好ましくは、野生型D-LDHよりも更に高い熱安定性を有する。
更に、上記した配列番号1に示すアミノ酸配列からなる野生型D-LDHを産生する好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)株以外のスルフォロブス・トコダイの他の菌株、スルフォロブス属の他の細菌、他属に属する細菌や他の生物体由来の野生型のD-LDHのアミノ酸配列のうち、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニン(T)のアラニン(A)への置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニン(T)のプロリン(P)への置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位に対応する位置のアミノ酸残基トリプトファン(W)のアラニン(A)への置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニン(M)のロイシン(L)への置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニン(M)のスレオニン(T)への置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位に対応する位置のアミノ酸残基プロリン(P)のアラニン(A)への置換、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位に対応する位置のアミノ酸残基セリン(S)のアラニン(A)への置換から選択される単一アミノ酸置換変異、又は、任意の2つの位置での二重アミノ酸置換変異等の多重アミノ酸置換変異を含むものも、上記の本実施形態のD-LDH変異体の理化学的特性を有している限り、本実施形態のD-LDH変異体に含まれる。このような置換位置は、改変の対象となる野生型D-LDHのアミノ酸配列と、配列番号1に示すアミノ酸配列をアラインメントさせ、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位のスレオニン(T)、第52位のトリプトファン(W)、第72位のメチオニン(M)、第93位のプロリン、及び、第131位のセリン(S)に対応する位置を検索することにより決定することができる。なお、上記した配列番号1に示すアミノ酸配列からなる野生型D-LDHを産生する好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)株以外のスルフォロブス・トコダイの他の菌株、スルフォロブス属の他の細菌、他属に属する細菌や他の生物体由来の野生型のD-LDHのアミノ酸配列は、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列とアミノ酸レベルで、好ましくは60%、70%、80%、又は、85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%、96%、97%、98%、又は、99%以上の同一性を保持するものとできる。
本実施形態のD-LDH変異体は、上記のD-LDH変異体の理化学的特性を保持している限り、配列番号1に示すアミノ酸配列における上記した単一アミノ酸置換変異、及び、二重アミノ酸置換変異等に加えて、アミノ酸置換変異が生じている位置以外の位置のアミノ酸残基に改変が生じている改変部位を含むものであってもよい。改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数のアミノ酸残基が欠失、置換、付加、及び、挿入の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。「1又は複数のアミノ酸残基が欠失、置換、付加、及び、挿入の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする核酸分子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、付加、又は、挿入することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、付加、又は、挿入されることを意味する。また、これらの組み合わせをも含む。ここで、1又は複数とは、好ましくは50、30、20、又は10以下を意味し、特に好ましくは1〜9の数個を意味する。例えば、このような変異体は、改変の基礎としたアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで、好ましくは60%、70%、80%、又は、85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%、96%、97%、98%、又は、99%以上の同一性を保持するものとできる。
アミノ酸配列の改変に際しては、当業者は、D-LDH変異体の上記した理化学的特性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸残基の置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を含むアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。具体例を挙げると、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を含む。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、及び、グルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸残基の置換は、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にヒスチジンタグ(His-tag)、FLAGタグ(FLAG-tag)等を付加したものも好適に例示される。例えば、配列番号3に示すアミノ酸配列において、上記した単一アミノ酸置換変異、及び、二重アミノ酸置換変異を含むことにより改変されたアミノ酸配列が挙げられる。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、酵素活性の消失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
本実施形態のD-LDH変異体は当該技術分野で公知の方法によって取得することができる。例えば、改変の基礎となる野生型のD-LDHをコードする核酸分子に対して改変を施しD-LDH変異体をコードする核酸分子を得る。得られた核酸分子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から上記の本実施形態のD-LDH変異体の理化学的特性を含むタンパク質を採取することによって取得することができる。詳細には、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示し、特に好ましくは、野生型D-LDHよりも高い耐熱性を有する、との特性を示すタンパク質を採取する。
本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子は、上記の本実施形態のD-LDH変異体の理化学的特性を含むすべてのD-LDH変異体をコードする核酸分子を包含する。好ましくは、野生型のD-LDHの一例であるスルフォロブス・トコダイ7株由来の野生型のD-LDHの配列番号1に示すアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列における上記した単一アミノ酸置換変異、及び、二重アミノ酸置換変異等を含むことにより改変されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする全てのポリヌクレオチドが例示できる。
また、上記した配列番号1に示すアミノ酸配列からなる野生型D-LDHを産生するスルフォロブス・トコダイ7株以外のスルフォロブス・トコダイの他の菌株、スルフォロブス属の他の細菌、他属に属する細菌や他の生物体由来の野生型のD-LDHのアミノ酸配列のうち、上記した配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位、第52位、第72位、第93位、及び、第131位に対応する位置で、上記した単一アミノ酸置換変異、及び、二重アミノ酸置換変異等を含むことにより改変されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする全てのポリヌクレオチドをも含むことができる。
得られた本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子を用いた適当な宿主細胞の形質転換は、適当なベクターを利用することにより行うことができる。詳細には、適当なベクターに本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子を組み込むことによって組み換えベクターを構築し、かかる組み換えベクターを用いて形質転換することによって行う。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、D-LDH変異体をコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pET系、pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
本実施形態の組み換えベクターは、D-LDH変異体をコードする核酸分子がその機能を発現できるように組み込まれている。したがって、核酸分子の機能発現に必要な他の当該技術分野で公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく当該技術分野で公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本実施形態の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性等の遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で当該核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができる。しかしながらこれらに限定されず、当該技術分野で公知の方法を利用することができる。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子を含む組換えベクターで適当な細胞を宿主として形質転換することによって形質転換体を構築することができる。ここで、宿主となる細胞としては、本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli BL21、E.coli DH5α、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームトランスフェクション法、マイクロインジェクション法等の当該技術分野で公知の方法を利用することができる。
得られた形質転換体の培養物からの本実施形態のD-LDH変異体の取得は、上記の形質転換体を培養し、得られた培養物から上記の本実施形態のD-LDH変異体の理化学的特性を含むタンパク質を採取することにより行なう。
形質転換体の培養は、形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。宿主細胞の栄養生理化学的特性を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子が組み込まれた組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
上記の形質転換体の培養において得られた培養物からの本実施形態のD-LDH変異体を取得、即ち、単離精製する。このとき、本実施形態のD-LDH変異体の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、本実施形態のD-LDH変異体が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本実施形態のD-LDH変異体を単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の単離精製方法を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィを利用する場合、本実施形態の酵素をHis Tag等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、本実施形態のD-LDH変異体が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理等の酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、上記の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
得られたタンパク質が本実施形態のD-LDH変異体特有の理化学的特性を含むか否かの確認は、D-乳酸脱水素酵素活性を測定することにより、また、熱安定性を測定することにより行うことができる。D-乳酸脱水素酵素活性の測定は当該技術分野で公知の何れの方法を用いて測定することができ、酸化還元試薬等を利用することができる。例えば、D-乳酸脱水素酵素活性は、下記の実施例3のようにフェリシアン化カリウムを利用することができる。詳細には、D-乳酸にD-LDHが作用してピルビン酸に変換する際に同時にFADの還元により生成したFADH2によりフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])が還元されてフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])に変換されることによる、フェリシアン化カリウムに由来する420 nmにおける吸光度の減少度をもってD-乳酸脱水素酵素活性とすることができる。吸光度の測定は、当該技術分野において公知の方法で行うことができ、例えば、マイクロプレートリーダー等を利用することができる。また、2,6-ジクロロインドフェノール(以下、「DCIP」と略する場合がある)等を利用してもよい。
熱安定性の測定は当該技術分野で公知の何れの方法を用いて測定することができる。例えば、熱安定性は、下記の実施例6のように、D-LDHを所定の温度で所定の時間にわたって保温した後の残存するD-乳酸脱水素酵素活性を測定することにより行うことができる。
また、配列分析によっても所望の本実施形態のD-LDH変異体を取得できているか否かの確認を行うことができ、例えば、エドマン分解に基づく自動アミノ酸決定法等を利用することができる。
このように、本実施形態のD-LDH変異体をコードする核酸分子を取得し、適当な宿主で発現させることによって、低コストに本実施形態のD-LDH変異体を大量生産することが可能となる。
本実施形態のD-LDH変異体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から、上記の本実施形態のD-LDH変異体の理化学的特性を含むか否かを確認することによっても取得できる。理化学的特性の確認については上記した。更には、本実施形態のD-LDH変異体は、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することができる。
以上の通り、本実施形態のD-LDH変異体は、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する。本実施形態のD-LDH変異体構築の基礎とした、上記〔背景技術〕の項で説明した非特許文献3にて報告された好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来の野生型D-LDHは、大腸菌での組み換え体ではその多くが補酵素FADを保持しておらず、そのために活性が低いことが推定される。一方、本実施形態のD-LDH変異体は、アミノ酸置換変異の導入によりFADへの結合力が高められており、野生型D-LDHよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示す。
したがって、本実施形態のD-LDH変異体は、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるD-乳酸脱水素酵素反応を要する技術に適用できる。ここで、酵素の触媒活性を利用するバイオ燃料電池1やバイオセンサ2の作製等において、酵素の必要量は一般的に酵素の活性値に基づいて規定されることから、D-乳酸脱水素酵素活性の高い本実施形態のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利である。更に、本実施形態のD-LDH変異体は、好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来のD-LDHを基礎として構築されたものであるから、熱安定性にも優れている。このような上記した優れた特性を有する本実施形態のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池1の高出力化、並びに、バイオセンサ2の安定化及び高感度化等に貢献することができる。また、本実施形態のD-LDH変異体は、FAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化できる。これにより、本実施形態のD-LDH変異体を電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池1及びバイオセンサ2等の作製の簡略化及び低コスト化をも図ることができる。
本実施形態のD-LDH変異体は、野生型のD-乳酸脱水素酵素より高い熱安定性を有し、医療、食品、環境分野等の様々な産業分野におけるD-乳酸脱水素酵素反応を要する技術へ更に好適に利用することができる。例えば、酵素の触媒活性を利用するバイオ燃料電池1やバイオセンサ2において、熱安定性の高い酵素を利用することで当該バイオ燃料電池1及びバイオセンサ2の安定性及び耐久性を向上させることができ、酵素使用量をも低減できる。これにより、更にコストを削減でき経済的に有利となる。
(本実施形態のバイオ燃料電池1)
本実施形態のD-LDH変異体は、バイオ燃料電池1の構築に利用することができ、かかるバイオ燃料電池1も本実施形態の一部を構成する。本実施形態のバイオ燃料電池1の一例の概略模式図を図1に示す。本実施形態のバイオ燃料電池1は、例えば、酸化反応を行う負極(アノード)11と、還元反応を行う正極(カソード)12を含んで構成される。負極11と正極12が隔膜を挟んで対向するように配置され、負極11と正極12は外部回路13によって接続される。負極11では、本実施形態のD-LDH変異体が燃料であるD-乳酸を酸化することによって生じた電子を電極に取り出すと共に、プロトンを発生する。一方、正極12側では、負極11側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。
負極11及び正極12に使用する電極基材としては、外部回路13に接続可能で電子を伝達できる導電性の基材であれば特に制限はなく利用することできる。導電性の基材としては、カーボンクロス、カーボンペーパー、グラファイト、及びグラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等が例示できる。しかしながら、これらに限定するものではなく、当該技術分野で公知の材質の導電性の基材を使用することができる。また、これを単層又は2種類以上の層の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。その際に、PVDF等のバインダーを使用してもよい。電極基材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。したがって、マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。
負極11側の電極には、電極触媒として本実施形態のD-LDH変異体が供給される。このとき、本実施形態のD-LDH変異体は、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極基材上に固定した酵素電極として構成することが好ましい。電極基材上への本実施形態のD-LDH変異体の固定は、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定する担体結合法等の当該技術分野で公知の方法によって行うことができる。また、グルタルアルデヒド等の二価性官能基をもつ架橋試薬で架橋固定する架橋法をも利用できる。更には、アルギン酸、カラギーナン等の多糖類、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、光架橋性ポリマー等の網目構造をもつポリマー、透析膜等の半透性膜内に封入して固定する包括法等をも利用することができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。例えば、物理的吸着により電極基材に固定する場合には、本実施形態のD-LDH変異体を含む溶液に電極基材を接触させ、これを乾燥させることによって簡便に固定できる。電極基材上に固定する本実施形態のD-LDH変異体の固定量は、燃料であるD-乳酸の形態や容量、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。
正極12側の電極には、酸素に電子を伝達することのできる酵素等の触媒を必要に応じて供給される。例えば、ラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ等のマルチ銅オキシダーゼ等の酵素触媒や白金等の金属触媒を利用することができる。酵素触媒を利用する場合には、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極基材上に固定した酵素電極として構成することが好ましく、上記した負極11を酵素電極とする場合と同様にして構成することができる。
電極には、酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質を供給することができ、電極触媒である酵素と共に固定してもよい。酵素と共に固定する場合には、酵素と同一又は別の層として固定してもよい。例えば、補因子や補酵素等の酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質を電極基材上に酵素と共に固定することができる。また、酵素と電極基材間の電子の伝達に必要な物質を電極に供給することができる。例えば、電子メディエータ等の酵素と電極基材間の電子の伝達に必要な物質を電極基材上に酵素と共に固定することができ、あるいは、電極基材上にこれらの物質を供給するための部材を別途設けることができる。
電子メディエータは、電極触媒として用いた酵素と電極との間の電子伝達を媒介することができる限り、特に制限はない。例えば、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセン、及び、その誘導体等が例示される。ここで、負極11側の電子メディエータとしては、本実施形態のD-LDH変異体と電極との間の電子伝達を媒介することができる限り、特に制限はないが、例えば、フェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物、DCIP、2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、ベンゾキノン誘導体、オスミウム錯体類、ルテニウム錯体類等が例示される。しかしながら、これらに限定されるものではなく、電極の電極基材の種類等に応じて最適な物質を選択すればよい。
隔膜は、プロトン等を透過できるイオン伝導性を含むと共に、プロトン等のイオン以外の負極11側の構成成分及び正極12側の構成成分を透過させないという性質を含む限り、その素材及び形状等に制限はない。例えば、セルロース膜等を利用することができ、また、固体電解質膜を利用することができる。固体電解質膜としては、スルホン基、リン酸基、ホスホン基、及びホスフィン基等の強酸基、カルボキシル基等の弱酸基、及び極性基を含む有機高分子等のイオン交換機能を含む固体膜等が例示されるが、これらに限定するものではない。具体的にはセルロース膜、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロ〔2−(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル〕:tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]の共重合体であるナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜を利用することができる。
燃料であるD-乳酸は、好ましくは、適当な溶媒に溶解させた燃料溶液として供給されるが、ゲル等の形態で供給してもよい。溶媒は、水性媒体であり、蒸留水の他、適当な緩衝液であってもよい。緩衝液に含まれる緩衝液成分としては、例えば、リン酸カリウム等のリン酸塩、イミダゾール、炭酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4-(2-ヒドロキシエチル)−ピペラジン-1-エタン スルホン酸(HEPES)、3-モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用することができる。燃料溶液中のD-乳酸量については、燃料の形態、電極系の種類や容量、発電方式等に応じて適宜変更することができる。
燃料溶液には、上記の補因子等の酵素がその触媒活性を発揮するのに必要な物質、及び電子メディエータ等の酵素の触媒反応と電極反応と共役させるために必要な物質を含めてもよい。
燃料溶液は、バイオ燃料電池1内部に配置された負極11上の本実施形態のD-LDH変異体に供給される。その限りにおいては、燃料溶液の供給形態に制限はない。
以上のように構成することにより、負極11側でD-LDH変異体が燃料であるD-乳酸を酸化し、その際に生じた電子は酵素反応と電極間の電子伝達を仲介するための電子メディエータを通して負極11に受け渡される。そして、負極11に渡された電子は、外部回路13を経て正極12に到達することで電流が発生する。一方、負極11側で発生したプロトンが隔膜を経て正極12側に移動し、外部回路13を通して負極11側から移動してきた電子と反応し水を生成する。
また、本実施形態のバイオ燃料電池1は、本実施形態のD-LDH変異体を利用した多段階酸化系のバイオ燃料電池1として構成することもできる。好ましくは、D-乳酸を経由して最終的に二酸化炭素にまで酸化することができる物質を燃料として、D-乳酸酸化の前段階の酸化反応系を触媒する酵素や本実施形態のD-LDH変異体によるD-乳酸酸化により生じるピルビン酸を酸化する酵素と、本実施形態のD-LDH変異体とを組み合わせて負極11側の電極触媒とすることができる。このような多段階酸化系の構築により、各酸化段階において電子を取り出すことでバイオ燃料電池1の出力を向上させることができる。
本実施形態のバイオ燃料電池1は、負極11側の電極触媒として本実施形態のD-LDH変異体を利用するものである。酵素の触媒活性を利用するバイオ燃料電池1の作製等において、酵素の必要量は一般的に酵素の活性値に基づいて規定されることから、D-乳酸脱水素酵素活性の高い本実施形態のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利なバイオ燃料電池1を提供することができる。更に、高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する本実施形態のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオ燃料電池1の高出力化に貢献することができ、バイオ燃料電池1の実用化を図ることができる。また、本実施形態のD-LDH変異体はFAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化でき、本実施形態のバイオ燃料電池1の作製の簡略化及び低コスト化に貢献することができる。したがって、本実施形態のバイオ燃料電池1は、医療や福祉、情報通信、移動型や携帯型電子機器等、種々の産業分野において利用可能である。
(バイオセンサ2)
本実施形態のD-LDH変異体は、D-乳酸を検出するためのD-乳酸センサー等のバイオセンサ2の構築に利用することができ、かかるバイオセンサ2も本実施形態の一部を構成する。本実施形態のバイオセンサ2の一例の概略模式図を図2に示す。本実施形態のバイオセンサ2は、電極基材にD-LDH変異体を固定した酵素電極として構成される作用電極21、及びその対極を設けて構成される。酵素電極は、上記した(バイオ燃料電池1)の項の負極11側の電極を酵素電極とする場合と同様にして構成することができる。必要に応じて、測定精度の信頼性を高める観点から、参照極を設けた三電極方式として構成してもよい。
本実施形態のバイオセンサ2による測定は、測定試料を当該バイオセンサ2と接触させることにより行われる。接触により、電極上に固定された本実施形態のD-LDH変異体とその基質である測定対象物質(D-乳酸)との間で酸化還元反応が生じ、これにより発生した電流を検知することで行われる。かかる応答電流値をもって、試料中の基質の存在の有無若しくは濃度を測定することができる。具体的には、例えば、測定対象となる試料を接触させると、試料中に含まれるD-乳酸が作用電極21上に固定された本実施形態のD-LDH変異体と反応し、続いて電子メディエータが還元される。そして、電極系に電圧を印加して電子受容体の還元型を酸化し、得られる酸化電流値の変化により試料中のD-乳酸を検出することができる。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のD-乳酸溶液により標準曲線を作成することにより、得られた酸化電流値に基づいてD-乳酸濃度を求めることができる。
ここで、試料としては、D-乳酸の存在が予想されるすべての試料を対象とすることができる。例えば、汗、血液(血漿や血清、全血等)、尿、唾液、涙液等の生物体由来の生体試料、食品試料、環境試料等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じてこれらの試料に適当な処理を行った試料をも含み得る。
本実施形態のバイオセンサ2を用いた測定法としては、酸化電流もしくは還元電流を測定するクロノアンペロメトリー、又は、クーロメトリー、サイクリックボルタンメトリー法等、当該技術分野で公知の方法を利用することができる。
本実施形態のD-LDH変異体は、バイオセンサ2の形態ではなく、検出試薬としてD-乳酸の検出のために利用することもできる。D-乳酸の検出は、FAD依存的にD-乳酸の脱水素酵素反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法を何れも利用して行うことができる。詳細については上記した。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のD-乳酸溶液を用いて作成した標準曲線に基づいて、測定により得られた酵素活性値に基づいてD-乳酸濃度を求めることができる。
本実施形態のバイオセンサ2は、電極触媒として本実施形態のD-LDH変異体を利用するものである。酵素の触媒活性を利用するバイオセンサ2の作製等において、酵素の必要量は一般的に酵素の活性値に基づいて規定されることから、高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する本実施形態のD-LDH変異体を利用することで酵素の使用量を低減できる。これにより、コストを削減でき経済的に有利なバイオセンサ2を提供することができる。更に、高いD-乳酸脱水素酵素活性を有する本実施形態のD-LDHを電極触媒として用いることにより、バイオセンサ2の安定化及び高感度化等に貢献することができ、これにより、本実施形態のバイオセンサ2は、測定対象物質であるD-乳酸を安定的かつ高感度に検出及び測定することができる。また、本実施形態のD-LDH変異体はFAD依存性であることから、酵素と電極間の電子の伝達に必要とされる電極構成要素が少なく電極構成を単純化でき、本実施形態のバイオセンサ2の作製の簡略化及び低コスト化に貢献することができる。したがって、本実施形態のバイオセンサ2は、D-乳酸の検出及び測定を要する全ての分野で利用可能であり、特に、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。
以下、実施例において、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1.変異体設計
本実施例では、D-乳酸脱水素酵素活性が向上したD-LDH変異体を構築するため、野生型D-LDHに基づいて、変異導入個所及び変異導入方法の選定の検討を行った。
(方法)
上記〔背景技術〕の項で説明した非特許文献3にて報告された好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株(Sulfolobus tokodaii strain 7;JCM 10545)由来のD-LDH(以下、「StLDH」と略する)は、大腸菌発現系を用いて生産した組み換えStLDHが、天然由来のD-LDHに比べて活性が低いという問題があった。StLDHは、補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(以下「FAD」と略する)依存性であるが、組み換えStLDHの多くはFADを保持しておらず、そのためD-乳酸脱水素酵素が低下していると推定された。そこで、StLDHのFAD結合力を向上させるため、FADを保持している既知のタンパク質の構造を参考に変異導入箇所及び変異導入方法の検討を行った。
詳細には、既知のFADを保持しているタンパク質の構造から、StLDHのFAD結合に関与する領域を推定し、以下の表1に示すアミノ酸置換変異を導入した20種の変異体を設計した。なお、ここで改変の基礎としたStLDHは、配列番号1に示すアミノ酸配列を含み、以下において野生型StLDH又はStLDH-WTと称する。
導入したアミノ酸置換変異(配列番号1に示すアミノ酸配列へのアミノ酸置換変異)
Figure 2021078427
実施例2.StLDH変異体の作製
本実施例では、StLDH-WTをコードする核酸分子を取得する共に、かかるStLDH-WTをコードする核酸分子に基づいて部位特異的変異導入により上記実施例1で設計したアミノ酸置換変異を導入したStLDH変異体を作製した。
(作製方法)
StLDH-WTをコードする核酸分子(配列番号2に示す塩基配列、His-tagを付加するためのリンカーをコードする塩基配列を含む)を人工合成により作製(Genscript社)し、酵素のC末端側にHis-tagが付加する(配列番号3に示すアミノ酸配列)ようにpET-22b(+)(Novagen社製)ベクターに挿入した。所望の改変を含むStLDH変異体をコードする核酸分子は、部位特異的変異導入(Genscript社)により作製した。発現宿主にはBL21(DE3)株を用い、上記で得られた核酸分子で形質転換した。形質転換したBL21(DE3)株をLB培地にて37 ℃で振とう培養し、培養液のO.D.600がおよそ0.6となった時に、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(isopropyl-s-D-thiogalactopyranoside:IPTG)を終濃度0.4 mMで添加し発現誘導を行った。発現誘導後、28℃で一晩培養し菌体を回収した。回収した菌体をPBSに懸濁後、超音波によって菌体を破砕した。続いて、遠心分離を行い、上清を水溶性画分として回収した。回収した水溶性画分から、TALON樹脂(CLONTECH社製)を用いたメタルイオンアフィニティークロマトグラフィーにてStLDH-WT及び各StLDH変異体を精製し、脱塩処理を行った。続いて得られたサンプルのタンパク質濃度を測定し、タンパク質と同モルのFADを添加して酵素サンプルとした。これを以下の実施例で用いた。
実施例3.酵素活性測定方法
本実施例では、以下の実施例で用いたD-乳酸脱水素酵素活性の測定方法を説明する。
(測定方法)
上記で得られた酵素サンプルのD-乳酸脱水素酵素活性の測定は、フェリシアン化カリウムの還元による吸光度変化を指標として行った。酵素サンプルがD-乳酸脱水素酵素活性を有する場合には、酵素によりD-乳酸が酸化され、同時に還元されたFADによりフェリシアン化カリウムが還元される。フェリシアン化カリウムは、還元されると420 nmをピークとする吸光を失うことを利用してD-乳酸脱水素酵素活性を測定した。
具体的には、2 mM D-乳酸、4 mM フェリシアン化カリウムを含む100 mM リン酸(pH 7.0)緩衝液中、適当量の各酵素サンプルを加えて室温で酵素反応を行った。一定時間反応後、420 nmの吸光度を測定することによりD-乳酸脱水素酵素活性を測定した。酵素活性は、StLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性を1として比活性で評価した。
実施例4.単一変異体の酵素活性評価
本実施例では、単一箇所にアミノ酸置換変異を含む変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を測定した。
(方法)
実施例2の表1に示すアミノ酸置換変異の何れか1つの置換変異を有する20種のStLDH単一変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を実施例3に記載の方法に基づいて測定し、同様にStLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性をも測定して比較評価した。
(結果)
結果を図3に示す。図3は、各単一変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を比較評価した結果を示すグラフであり、縦軸はStLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性を1とした比活性を示し、横軸において、WTはStLDH-WTを示し、各単一変異体の変異個所による表示により各単一変異体の結果を示している。その結果、T51A、T51P、W52A、M72L、M72T、P93A、A116G、S131Aのアミノ酸置換変異を有するStLDH変異体(以下、それぞれ「StLDH-T51A」、「StLDH-T51P」、「StLDH-W52A」、「StLDH-M72L」、「StLDH-M72T」、「StLDH-P93A」、「StLDH-S131A」と略する場合がある)の7種が、StLDH-WTよりも高いD-乳酸脱水素酵素活性を示した。なかでも、StLDH-T51Pが最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示した。詳細には、StLDH-WTに対して、StLDH-T51Aは1.3倍以上、StLDH-T51Pは1.8倍以上、StLDH-W52Aは1.5倍以上、StLDH-M72Lは1.1倍以上、StLDH-M72Tは1.2倍以上、StLDH-P93Aは1.5倍以上、StLDH-S131Aは1.2倍以上の比活性を示した。
実施例5.二重変異体の酵素活性評価
本実施例では、実施例4においてStLDH-T51Pが最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示したため、T51Pにその他のアミノ酸置換変異を組み合わせたStLDH二重変異体を作製し、かかるStLDH二重変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を測定した。
(方法)
実施例2に記載の方法に基づいて、T51Pにその他のアミノ酸置換変異を組み合わせた二重変異を含むStLDH二重変異体を作製した。ここで作製したStLDH二重変異体は、実施例1で設計したT51P及びW52Aのアミノ酸置換変異を含む二重変異体、T51P及びM72Tのアミノ酸置換変異を含む二重変異体、T51P及びP93Aのアミノ酸置換変異を含む二重変異体、T51P及びS131Aのアミノ酸置換変異を含む二重変異体(以下、それぞれ「StLDH-T51P-W52A」、「StLDH-T51P-M72T」、「StLDH-T51P-P93A」、「StLDH-T51P-S131A」と略する場合がある)の4種である。かかる4種のStLDH二重変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を実施例3に記載の方法に基づいて測定し、同様にStLDH単一変異体であるStLDH-T51P及び野生型であるStLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性をも測定して比較評価した。
(結果)
結果を図4に示す。図4は、各二重変異体のD-乳酸脱水素酵素活性を比較評価した結果を示すグラフであり、縦軸はStLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性を1とした比活性を示し、横軸において、WTはStLDH-WTを示し、各二重変異体及び単一変異体の変異個所による表示により各二重変異体及び単一変異体の結果を示している。その結果、ここで検討した何れの二重変異体もD-乳酸脱水素酵素活性が向上し、特にStLDH-T51P-P93Aは最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示した。詳細には、StLDH-WTに対して、StLDH-T51P-W52Aは2.7倍以上、StLDH-T51P-M72Tは2.4倍以上、StLDH-T51P-P93Aは4.5倍以上、StLDH-T51P-S131Aは2.3倍以上の比活性を示した。
実施例6.単一変異体及び二重変異体の熱安定性評価
本実施例では、実施例4において最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示した単一変異体StLDH-T51P、及び、実施例5において最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示した二重変異体StLDH-T51P-P93Aの熱安定性を評価した。
先の実施例で検討した単一変異体及び二重変異体の改変の基礎としたStLDH-WTは、上記〔背景技術〕の項で説明した非特許文献3にて、高い熱安定性を示すことが報告されているため、上記実施例で作製した各単一変異体及び各二重変異体も高い熱安定性を示すことが予想される。これを確認するため、単一変異体StLDH-T51P及び二重変異体StLDH-T51P-P93Aを50〜90℃で20分間保温した後のD-乳酸脱水素酵素活性を実施例3に記載の方法に基づいて測定した。同様にStLDH-WTのD-乳酸脱水素酵素活性を実施例3に記載の方法に基づいて測定した。ここで、残存活性は、StLDH-WTの50℃でのD-乳酸脱水素酵素活性の残存活性を1として比活性で評価すると共に、反応速度でも評価した。
結果を図5及び図6に示す。図5及び図6は、何れも単一変異体StLDH-T51P及び二重変異体StLDH-T51P-P93Aの熱安定性を比較評価した結果を示す。図5は、所定の温度で所定の時間保温後の残存活性を、StLDH-WTの50℃でのD-乳酸脱水素酵素活性の残存活性を1として比活性で評価した結果を示すグラフであり、縦軸はStLDH-WTの残存活性を1とした比活性を示し、横軸は保温温度(℃)を示す。図6は反応速度で評価した結果を示すグラフであり、縦軸は反応速度(s-1)を示し、横軸は保温温度(℃)を示す。なお、図5及び図6中、WTはStLDH-WTを示し、各変異体の変異個所による表示により各変異体の結果を示す。その結果、StLDH-WTでは、80℃での保温により60%にまで活性が低下するが、StLDH-T51P及びStLDH-T91P-P93Aでは活性低下が5%未満であった。更に、90℃での保温によっては、StLDH-WTでは活性が20%以下にまで低下したが、StLDH-T51P及びStLDH-T51P-P93Aは50%以上の活性を保持していた。これらの結果から、熱安定性の向上にはT51Pのアミノ酸置換変異が特に有効であり、D-乳酸脱水素酵素活性の向上にはT51P及びP93Aの二重アミノ酸置換変異が有効であることが理解できる。
実施例7.電気化学的測定による評価
本実施例では、実施例5において最も高いD-乳酸脱水素酵素活性を示し、実施例6において高い熱安定性を示した二重変異体StLDH-T51P-P93Aを電気化学的測定により評価した。
作用電極21としてグラッシーカーボン電極、参照電極として銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極として白金電極を用いて、BAS社製電気化学測定装置により電気化学測定を行った。測定溶液は、40 mM D-乳酸、30 mM フェリシアン化カリウム、適量の二重変異体StLDH-T51P-P93Aを含む0.5 Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)として調製した。このように構成することにより、図2に示す通り、StLDHがD-乳酸を酸化してピルビン酸を生成する反応を触媒し、その過程で補酵素FADは還元されFADH2を生成する。電子メディエータであるフェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物(図中では、[Fe(CN6)]3-)が存在すると、FADH2はフェリシアン化物をフェロシアン化物(図中では、[Fe(CN6)]4-)へと変換し、FADへと戻る。この時、電位を与えるとフェロシアン化物は電極へと電子を渡しフェリシン化物に戻ることとなり、これにより電気化学的なシグナルを測定することができる。電流測定は、0.4 V(vs. Ag/AgCl)に電位を設定したクロノアンペロメトリー法で行い、測定開始から30秒後の電流値を限界電流値として記録した。同様にして、StLDH-WTについても電気化学的測定により評価した。
結果を図7に示す。図7のパネル(A)はクロノアンペロメトリー測定結果を示す電流時間曲線であり、縦軸は電流(mA/cm2)あり、横軸は時間(秒)である。図7のパネル(B)の右上の棒グラフは、測定開始から30秒後の電流値を示すグラフであり、縦軸は電流(mA/cm2)である。パネル(A)の凡例、及び、パネル(B)の横軸において、WTはStLDH-WTを示し、T51-P93Aは変異個所による表示によりStLDH-T51-P93Aの結果を示している。結果、StLDH-T51P-P93Aは、StLDH-WTに比べ2倍以上の高い電流値を示した。このことから、本実施例で作製したStLDH変異体は、電極触媒として十分に機能し得ることが理解できる。
以上の結果より、今回導入したアミノ酸置換変異によって、D-乳酸脱水素酵素活性を向上でき、更には、熱安定性が向上でき、バイオ燃料電池1やバイオセンサ2等の電極触媒への応用が可能なD-LDH変異体を構築することができた。
本発明は、D-LDH変異体、並びに、当該変異体を利用するバイオ燃料電池1及びバイオセンサ2に関し、D-乳酸脱水素酵素反応の利用が要求される全ての分野で利用可能である。特に、医療、食品、環境分野等、種々の産業分野において利用可能である。

Claims (5)

  1. 下記(a)〜(c)の何れかのアミノ酸配列を含むD-乳酸脱水素酵素変異体。
    (a)好熱好酸性古細菌スルフォロブス・トコダイ7株由来の野生型のD-乳酸脱水素酵素のアミノ酸配列(配列番号1)において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換を含むアミノ酸配列
    (b)(a)のアミノ酸配列において、第51位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第51位に対応する位置以外の位置、第52位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第52位以外の位置、第72位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第72位以外の位置、及び、第93位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第93位以外の位置、及び、第131位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第131位以外の位置、に1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、及び、挿入から選択される少なくとも1つの改変を含むアミノ酸配列
    (c)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を含むアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位に対応する位置のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位に対応する位置のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位に対応する位置のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換を含むアミノ酸配列
  2. 下記(d)〜(f)の何れかのアミノ酸配列を含む請求項1に記載のD-乳酸脱水素酵素変異体。
    (d)配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換のうち、任意の異なる2つの位置でのアミノ酸置換変異を含むアミノ酸配列
    (e)(d)のアミノ酸配列において、第51位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第51位以外の位置、第52位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第52位以外の位置、第72位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第72位以外の位置、及び、第93位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第93位以外の位置、及び、第131位の前記アミノ酸残基が置換されている場合には第131位以外の位置、に1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加、及び、挿入から選択される少なくとも1つの改変を含むアミノ酸配列
    (f)配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%以上の同一性を含むアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第51位に対応する位置のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第52位に対応する位置のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのロイシンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第72位に対応する位置のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換、配列番号1に示すアミノ酸配列の第93位に対応する位置のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換、及び、配列番号1に示すアミノ酸配列の第131位に対応する位置のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換から選択されるアミノ酸残基の置換のうち、任意の異なる2つの位置でのアミノ酸置換変異を含むアミノ酸配列
  3. 配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第52位のアミノ酸残基トリプトファンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、
    配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第72位のアミノ酸残基メチオニンのスレオニンへの置換を含むアミノ酸配列、
    配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第93位のアミノ酸残基プロリンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、又は、
    配列番号1に示すアミノ酸配列において、第51位のアミノ酸残基スレオニンのプロリンへの置換及び第131位のアミノ酸残基セリンのアラニンへの置換を含むアミノ酸配列、を含む請求項2に記載のD-乳酸脱水素酵素変異体。
  4. 請求項1〜3の何れか一項に記載のD-乳酸脱水素酵素変異体を電極基材上に固定した酵素電極を負極として備えたバイオ燃料電池。
  5. 請求項1〜3の何れか一項に記載のD-乳酸脱水素酵素変異体を電極基材上に固定した酵素電極を作用電極として備えたバイオセンサ。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023013498A1 (ja) * 2021-08-03 2023-02-09 キッコーマン株式会社 新規フラビン依存性乳酸デヒドロゲナーゼ及び乳酸デヒドロゲナーゼの安定性を向上させる方法

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