JP5261334B2 - 改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素及びその利用 - Google Patents
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Description
[1]野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列中の少なくとも1つの位置のアミノ酸の欠失、置換、付加或いは挿入による改変により得られる改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素であって、前記改変が、前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列における第70位−第150位で生じており、前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて安定性が向上している改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[2]前記改変が、前記アミノ酸配列の第128位に対応する位置で生じている上記[1]に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[3]前記改変が、前記アミノ酸配列の第128位に対応する位置におけるアスパラギン酸のグリシンへの置換である上記[2]に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[4]前記改変が、前記アミノ酸配列の第110位に対応する位置で生じている上記[1]に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[5]前記改変が、前記アミノ酸配列の第110位に対応する位置におけるグリシンのアスパラギン酸への置換である上記[4]に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[6]前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する上記[1]〜[5]の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
[7]上記[1]〜[6]の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素をコードする単離核酸分子。
[8]上記[7]に記載の単離核酸分子を含有する組換えベクター。
[9]上記[8]に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
[10]上記[9]に記載の形質転換体を培養する工程、及び得られた培養物からホルムアルデヒドの脱水素反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する工程を含む、野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて熱安定性が向上している改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素の製造方法。
この位置は、酵素の補欠分子であるZnの結合部位に近接しており、酵素サブユニット間の界面付近とは離れている。タンパク質の構造安定化には、Znなど補欠分子の結合安定性が大きく影響することが知られていて、一般的にはアミノ酸変異の導入を避けたほうがよいと考えられている。しかし、本願のようにZnの結合部位に近接した位置でアミノ酸に改変を施すことで、熱安定性を向上させた新規なホルムアルデヒド脱水素酵素の提供が可能となる。
好ましくは、前記改変が、前記アミノ酸配列の第128位に対応する位置におけるアスパラギン酸のグリシンへの置換、或いは、第110位に対応する位置におけるグリシンのアスパラギン酸への置換とすれば、野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて顕著な熱安定性および長期安定性を有するようになる。
従って、本発明によって提供されるホルムアルデヒド脱水素酵素は、医療・食品・環境分野等の様々な産業分野におけるホルムアルデヒドの脱水素反応を要する技術に適用できる。更に、熱安定性が向上した実用性の高い本発明の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列、並びに塩基配列が明確になったことから、遺伝子工学的手法を利用して組換え体として当該酵素を低コストかつ工業的に大量生産することが可能となった。
近年、クリーンエネルギー技術として、アルコールなどのバイオマスを燃料とした酵素燃料電池が考案されており、そこでは本発明のホルムアルデヒド脱水素酵素のような酸化・還元を触媒する酵素が電池の電極触媒として利用されている。一例として、メタノールを燃料とした酵素燃料電池の場合、触媒としてメタノールに作用してホルムアルデヒドに酸化するアルコールデヒドロゲナーゼと、ホルムアルデヒドに作用して蟻酸に酸化するホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼと、蟻酸に作用してCO2に酸化する蟻酸デヒドロゲナーゼとを用いることができる。これにより、メタノールはCO2まで分解され、メタノール1分子につき3段階の酸化反応により合計6電子が生成される。
ホルムアルデヒド+NAD+(酸化型) → ギ酸+NADH(還元型)+H+
例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有するが、これら以外のアミノ酸への置換はタンパク質機能へ影響を与えることが考えられる。
非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。
酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
塩基性アミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。
これらの各グループ内の以外へのアミノ酸置換は、タンパク質の機能が改変されることが特に予想されるが、これに制限されるものではない。
また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にHisタグペプチド、FLAGタグペプチド等を付加したものも好適に例示される。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、本発明の酵素活性の喪失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
本発明の改変型FDHをコードする核酸分子は、前述の理化学的性質を有するすべての改変型FDHをコードするものを包含する。例えば、配列番号4,6に記載されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする全てのポリヌクレオチドであり、一具体例としては、配列番号3,5に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられるが、これに限定するものではない。ここで、本発明におけるポリヌクレオチドにはDNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、1本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
そして、本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の改変型FDHをコードする核酸分子を組み込むことによって構築することができる。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。従って、ベクターは、本発明の改変型FDHをコードする核酸分子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
本発明の形質転換体は、適当な細胞を本発明の改変型FDHをコードする核酸分子を含む組換えベクターで形質転換することによって構築することができる。ここで、宿主となる細胞としては、本発明の改変型FDHを効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌E.coli(DH5α、BL21、JM109等)を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS−7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
本発明の改変型FDHの製造方法は、前述の本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物からアルデヒド化合物の脱水素反応を触媒する活性を有するタンパク質を採取することにより行なう。即ち、前述の本発明の形質転換体を培養する培養工程と、前記培養工程で発現した前記タンパク質を回収する回収工程とを備える。このように、適当な宿主で発現させることによって、低コストで本発明の改変型FDHの大量生産が可能となる。
培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。これに対して、本発明の酵素は、改変型を有するため変性を生じないことから、遠心分離等により宿主由来の夾雑タンパク質と容易に分離できる。また、培養液をそのまま、若しくは粗抽出液を使用する場合においても、熱処理を行なうことにより、他のタンパク質が失活することから、実質的に本発明の改変型FDHのみの酵素液として使用することができる。従って、本発明の改変型FDHを遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。従って、精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
本発明の改変型FDHは、試料中のアルデヒド化合物の検出のために利用することができる。アルデヒド化合物の検出は、例えば、基質であるアルデヒド化合物に対してNAD+依存的に脱水素反応をする酵素活性を測定することにより行うことができる。酵素の活性は、NAD+依存的にアルデヒド化合物の脱水素反応を触媒する酵素の活性測定法として知られる方法をいずれをも利用して行うことができる。例えば、NAD+の存在下で、本発明の酵素を測定対象となる試料と反応させ、当該酵素の触媒反応で生成するNADH量の変化を340nmの吸光度変化もって検出する。かかる吸光度変化をもって当該酵素の活性とすることができ、ひいてはNADH量の変化によりアルデヒド化合物の存在を検出することができる。したがって、FDH活性は、その触媒反応において、生成したNADHを直接定量することによって測定できる。
反応液としては、例えば、ホルムアルデヒド等のアルデヒド基質、2mMのNAD+、25mMのMgCl2、1MのNaCl及び本発明の酵素溶液を、50mMリン酸緩衝液(pH8.8)中にて混合して200μLとすることにより調製することができる。しかしながら、これは標準条件であり、適宜変更することができる。この反応液を、37℃で波長340nmにおける吸光度を測定し、吸光度の増加を求めることにより活性評価試験を行うことができ、吸光度の測定は、既知のマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社製)を用いることができる。
そして、適当な試験条件が選択されていれば、この変化は、測定しようとする酵素活性に直線的に比例する。このとき、あらかじめ目的濃度範囲内における標準濃度のアルデヒド化合物溶液により標準曲線を作成することにより、得られた吸光度変化値に基づいてアルデヒド化合物濃度を求めることができる。
本発明は、本発明の改変型FDHを利用するアルデヒド化合物検出用のバイオセンサーを提供する。当該検出センサーは、電極材上に本発明の改変型FDHが固定化した作用電極、及びその対極を設けて構成される。必要に応じて、参照電極を設けて三電極方式として構成してもよい。電極としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。電極材上への酵素の固定化は既知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多アルデヒド化合物、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。そして、本発明のFDHの酵素活性に際して要求される補酵素NAD+、NAD+の還元体であるNADHを酸化する能力を有する酸化酵素(ジアホラーゼ等)、電子メディエーター(フェロセン、ジクロロインドフェノール等)も、必要に応じて電極材上に固定化して構成される。
本発明は、本発明の改変型FDHを利用する燃料電池を提供する。本発明の燃料電池は、例えば、酸化反応を行うアノード極と、還元反応を行うカソード極から構成され、必要に応じてアソードとカソードを隔離する電解質層を含んで構成される。
アノード電極側では、本発明の改変型FDHがアルデヒド化合物を酸化することによって生じた電子を電極に取り出すと共に、プロトンを発生する。一方、カソード側では、アノード側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。電極としては、カーボン、金、白金等を用いることができる。アノード極側には本発明の改変型FDHが供給され、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給してもよいが、電極上に固定化されることが好ましい。このとき、改変型FDHは、好ましくはNADと共に固定化されることが好ましく、特にはNADと結合したホロ酵素の形態で固定化されることが好ましい。また、アポ酵素の形態で固定化し、NADを適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。
カソード極側には、酸素に電子を伝達することのできる触媒および酵素を必要に応じて供給してよい。電極材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ試薬で架橋固定する架橋法をも利用でき、更には、アルギン酸,カラギーナン等の多アルデヒド化合物、ポリアクリルアミド等の網目構造をもつゲルや、半透性膜の中に閉じて固定化する包括法等をも利用することができる。
分子進化工学的手法と称される酵素改変手法を利用して、本発明の改変型FDH遺伝子のクローニングを行った。
熱安定性向上効果が見込める部位を鋭意検討した結果、第70位−第150位のアミノ酸領域(Thr70−Leu150)が4量体酵素のサブユニットの界面のドメイン間の構造安定化に寄与するホットスポットである可能性が高いと考え、このホットスポット周辺へランダム変異を導入したライブラリーを作製し、スクリーニングを行うことより、構造が最適化し熱安定性が向上した変異体を取得できると考えた。なお、これら検討のための一連の酵素の立体構造解析は、アクセリス社製のInsight-II(酵素の分子構造を表示し、かつ構造エネルギー計算が可能なソフトウェア)を用いて行った。分子進化工学的手法を用いた酵素改変の具体的な手順を次に示す。
バクテリアPseudomonas putida株は、NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)から入手した(受託番号 NBRC No. NBRC3738)。そのゲノムDNAは、添付資料に記載の培養液を使って菌体を培養し、ゲノムDNA抽出キット(プロメガ社製)を使って抽出と精製を行った。このゲノムDNAを鋳型にして以下のプライマー1,2(配列番号7,8)を用いてPCR反応を行なった。PCR反応は、ポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、鋳型として50ngゲノムDNAおよび各0.2μMのプライマーのそれぞれを混合して滅菌蒸留水で50μLにメスアップすることにより反応液を調製し、製造業者の指示に従って行った。PCR反応は、98℃で10秒、68℃で60秒のサイクルを30回繰り返した。増幅産物の精製はDNA精製キット(GEヘルスケア社製)を用いた。その結果、予想されるDNA増幅産物(約1.2kbp)を得ることができた。
5'-CTAAA GCTTA GGCCG CGCTG AGGTC T-3'(プライマー2:配列番号8)
PCR増幅で得られたDNA断片(約1.2kbp)を、制限酵素NdeIとHindIIIで切断し、アガロースゲル電気流動で分離しゲルから精製した。DNA断片を、タンパク質発現用プラスミドのpET23bベクター(ノバジェン社製)の制限酵素部位NdeIとHindIIIにライゲーション反応より組み込んで酵素の発現ベクターを構築した。
また無細胞システムを使った酵素合成用の鋳型とする直鎖状DNAを調製するために、酵素遺伝子を組み込んだベクターを鋳型にして、T7プロモーターとT7ターミネーター配列間をPCRにより増幅した。PCR反応は、ポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を使用し、鋳型DNA(50ng)、プライマー3,4(配列番号9,10、各0.2μM)を滅菌蒸留水で50μLにメスアップすることにより反応液を調製し、製造業者の指示に従って行った。PCR反応は、98℃で10秒、68℃で60秒のサイクルを30回繰り返した。PCR産物の精製には、DNA精製キット(GEヘルスケア社製)を用いた。
5'- TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG -3' (プライマー4:配列番号10)
ランダム変異を導入した変異遺伝子ライブラリーの作製は、変異導入のための手法にエラープローンPCRを用いた。ライブラリー作成を行うために、酵素FDH分子内に1〜2箇所の変異導入が得られる条件(エラー率0.5%前後となるエラープローンPCR条件)を検討した。ポリメラーゼの塩基取り込み間違いを促進させるために、マグネシウム濃度とマンガン濃度を[Mg,Mn]=[5,0.5]mMとした。
エラープローンPCR反応は、2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、各0.5μMのプライマー5,6(配列番号11,12)、10mM Tris-HCl(pH8.3)緩衝液、50mM KCl、5.0mM MgCl2、0.5mM MnCl2のそれぞれを混合して滅菌蒸留水で50μLにメスアップすることにより反応液を調製し、製造業者の指示に従って行った。
5'-TGGCCTTGTCGCGCTCAGGCAGCTT-3'(プライマー6:配列番号12)
まず変異を導入しないDNA断片を得るために、ステップ2で作製した発現ベクターを鋳型にして、プライマー7,8(配列番号13,14)およびプライマー9,10(配列番号15,16)をそれぞれ用いてPCR増幅を行った。PCR反応は、ポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、鋳型DNA(50ng)、プライマー(各0.2μM)のそれぞれを混合して滅菌蒸留水で50μLにメスアップすることにより反応液を調製し、製造業者の指示に従って行った。PCR反応は98℃で10秒、68℃で60秒のサイクルを30回繰り返した。増幅産物の精製はDNA精製キット(GEヘルスケア社製)を用いた。
5'- GATTTCGTGGCCCAGGACCAGGCCG -3' (プライマー8:配列番号14)
5'- TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG -3' (プライマー9:配列番号15)
5'- AAGCTGCCTGAGCGCGACAAGGCCA -3' (プライマー10:配列番号16)
次に、得られた酵素遺伝子をコードするDNA断片に、1分子PCR用プライマー配列を付加するために、プライマー13(配列番号19)を用いたPCR増幅を行った。PCR反応は、ポリメラーゼとしてPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、プライマー(各0.3μM)のそれぞれを混合して滅菌蒸留水で50μLにメスアップすることにより反応液を調製し、製造業者の指示に従って行った。PCR反応は94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で60秒のサイクルを20回繰り返した。PCR産物の精製には、DNA精製キット(GEヘルスケア社製)を用いた。以上の実施した内容の模式図を図1,2に示す。
5'-GGAGCTAGGGTTTACGAGTGGAATG-TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG-3'(プライマー12,配列番号18)
5'-GGAGCTAGGGTTTACGAGTGGAATG-3' (プライマー13,配列番号19)
分子量:0.924×106
1μg DNA:1.08×10-6μmol=1.08×10-12mol
1μg DNA:6.02×1023×1.08×10-12=6.5×1011分子に相当
ラビットトランスレーションシステムRTS100,E.coli HYキット(ロシュ社製)を使って取扱説明書に従い、反応時間は4時間、反応温度は30℃を基本条件として改変FDHを合成した。
変異遺伝子ライブラリーを鋳型にして、大腸菌の無細胞タンパク質合成系でタンパク質を合成し、上述の条件を用いてホルムアルデヒドに対する酵素活性についてスクリーニングし、熱処理後の残存活性が野生型FDHより向上した酵素活性を発現する改変FDHの候補遺伝子を選択した。
熱処理後も残存する酵素活性が認められた酵素の合成に使用した変異遺伝子ライブラリーについて、塩基配列を解析してアミノ酸変異を同定し、それらのタンパク質合成と酵素活性の有無も確認した。
タンパク質合成は、無細胞タンパク質合成系ラビットトランスレーションシステムRTS100,E.coli HYキット(ロシュ社製)を用いて、その取り扱い説明書に従って行なった。酵素の有無は、FluoroTect(登録商標) GreenLys in vitro Translation Labeling System(プロメガ社製)を用いて、その取り扱い説明書に従って合成酵素を蛍光標識して確認した。
本実施例でアミノ酸変異が認められた部位は、クローンP16では第76位、第81位、第219位であり、クローンF12では第127位、第142位であり、クローンK11では第97位、第148位であり、クローンN20では第129位であり、クローンP13では第149位であり、クローンO6,P4では第128位であり、クローンH1では第110位であり、クローンK3では第94位であった。尚、本明細書においては、アミノ酸の位置は、開始コドンであるメチオニンを1として番号付けしている。
その中でも特に、V127DはD128Gの隣のアミノ酸変異であるが、当該V127Dでは酵素活性がなくなるのに対してD128Gでは酵素活性を有していることから、D128GがPseudomonas putida由来のFDHの安定性に重要であると推察されると同時に、従来法での酵素改変は非常に困難であることが推測できる。
D128GおよびG110Dの立体構造モデルの構築を行なった。モデリングは、アクセルリス社製Discovery Studio21を用いて、X線結晶解析データ(PDB;1KOL)を参照構造として、ホモロジーモデリングにより実施した。
触媒ドメインとコファクター結合ドメインは、Zn1近傍で上下に分かれる。NADとZn1の相互作用は、両ドメインの位置・構造の安定性に関係していると考えられる。D128(第128位のアスパラギン酸)およびG110(第110位のグリシン)は、両ドメインの界面に位置する。特に、G110はZn2保持ループの根元付近に位置する。Zn2保持ループ周辺は両ドメインの分岐から遠く、パッキングが不十分もしくは安定性が低い可能性が考えられる。
図4(a)には野生型FDH、図4(b)にはD128Gの構造モデルを示した。モデルは分子内の原子に接触する溶媒の接触点によってトレースされるサーフェイス形状で表示した。図4(a)(ii),図4(b)(ii)は、それぞれ図4(a)(i),図4(b)(i)のモデルを90℃回転させたモデルを示した。
野生型FDHではD128とR119(第119位のアルギニン)は静電作用で側鎖が並ぶように位置し、その内側のアミノ酸残基Y126(第126位のチロシン)およびM129(第129位のメチオニン)の間には空間が存在していた。D128G変異体では、D128とR119の側鎖は野生型とは反対方向を向いており、その内側のアミノ酸残基(Y126とM129)の側鎖が内部に向いたことにより、D128とR119も内側にコンパクトにパッキングされたと推測される。余分なキャビティが無くなったことが安定性向上に寄与しているのではないかと推測された。
野生型FDHとG110Dの主鎖の重ね合わせを行った。
G337(第337位のグリシン),Q338(第338位のグルタミン),T339(第339位のトレオニン),P340(第340位のプロリン)は、NADと相互作用するアミノ酸残基、N93(第93位のアスパラギン)はNADと相互作用するアミノ酸残基の隣の残基、C112(第112位のシステイン)はZn2保持アミノ酸残基であったことから、側鎖の向きの変化により、酵素の安定性に何らかの寄与をしたと推測された。
タンパク質発現は、野生型または改変型FDHをコードする遺伝子を、大腸菌用の発現ベクターであるpET22b DNAのマルチクローニングサイトにC末端Hisタグ融合タンパク質として発現するように挿入し、構築されたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。大腸菌の培養は、アンピシリン(50mg/L)入りのLuria−Bertani(LB)培地中を使って37℃で行なった。形質転換した大腸菌は、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で培養し、培養液の吸光度OD600=0.6で0.5mM IPTG(isopropyl-s-D-thiogalactopyranoside)を添加してタンパク質の合成誘導を行ない、さらに4時間の培養を行なった。
得られた酵素溶液を、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)にて透析した。タンパク質の確認は、20μLの酵素溶液に20μLの可溶化液を加えて3分間95℃で熱処理したサンプルを、12.5%アクリルアミドゲルで電気泳動し、CBB染色法で酵素を可視化することにより行った。その結果を図6に示す。レーン1は精製した改変型FDH D128G、レーン2は精製した野生型FDHである。
酵素活性をpH5.0〜10.0の範囲で測定した。50mM緩衝液、1mM NAD+、2mM HCHOを含む活性測定液中に等量の酵素液(0.5mg/mL)を加え、25℃でpH8.0の酵素活性の反応速度を1とし、各pHにおける相対活性の変化を比較した結果を図7に示す。
この結果から、D128Gおよび野生型FDHは、pH5.0からpH8.0までは同じpH特性を示し、至適pHはpH8.0付近であることが判明した。一方、pH8.0〜pH10.0では、D128Gより野生型FDHの方が、活性低下が小さいことが判明した。また、G110Dについても、D128Gと同様のpH依存性を示すことが判明した(結果は示さない)。尚、図7においてpH領域A(8以下)についてはリン酸緩衝液を使用し、pH領域B(8以上)についてはTris緩衝液を使用した。
酵素活性を45〜60℃の温度範囲で測定した。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、1mM NAD+、2mM HCHOを含む活性測定液中に等量の酵素液(0.5mg/mL)を加え、45℃での酵素活性の反応速度を1とし、各温度における相対活性の変化を比較した結果を図8に示す。
図8(a)はD128Gおよび野生型FDHの比較を、また、図8(b)はG110Dおよび野生型FDHの比較を示す。この結果から、50〜55℃の温度域において、野生型FDHより改変型FDHの方が2倍程度高い活性を有することが判明した。また、G110DとD128Gは同様の温度依存性を示すことが判明した。
酵素の温度安定性を調べるために、55〜65℃の温度範囲で熱処理後の残存活性を調べた。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)中に等量の酵素を加え、55℃、60℃、65℃の各温度で0分〜10分間熱処理し、氷中に30分間置いた後の残存活性を測定した。
50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、1mM NAD+、2mM HCHOを含む活性測定液中に熱処理した酵素液(0.5mg/mL)を加え、各熱処理0分時の結果を1とし、各温度と各熱処理時間における相対活性の変化の比較を図9,10に示す。図9はD128Gおよび野生型FDHの比較を、図10はG110Dおよび野生型FDHの比較を示す。
一方、60℃以上の熱処理では、改変型FDHおよび野生型FDHの何れにおいても残存活性が5分程度で20%以下になり(図9(b),(c)、図10(b),(c))、熱変性により酵素活性を殆ど失うものと認められた。
これより、本発明の改変型FDHは、野生型FDHに比べて熱によって失活し難いものと認められた。
酵素の安定性を調べるために、50℃と45℃の温度下で300分間までの残存活性を調べた。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)中に等量の酵素液を加え、0分から300分間置いた後、氷中に30分間置いた後の残存活性を確認した。
50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、1mM NAD+、2mM HCHOを含む活性測定液中に熱処理した酵素液(0.5mg/mL)を加え、0分時の酵素活性の反応速度を1としたときの各時間(分)における相対活性の変化の比較を図11に示す。図11(a)は50℃の温度下におけるD128Gおよび野生型FDHの比較を、また、図11(b)は45℃の温度下におけるG110Dおよび野生型FDHの比較を示す。
この結果、50℃での酵素活性の半減期は、野生型FDHでは30分間以内であるのに対し、D128Gでは300分以上であった。また、45℃での酵素活性の半減期は、野生型FDHでは約200分であるのに対し、D128Gでは300分以上であった。
これより、本発明の改変型FDHは、野生型FDHに比べて熱安定性に優れているものと認められた。
50mM P1P2PO4、1mM HCHO、0.5mM NADの組成を有する反応液を、D128Gを担持したNi-NTA His・Bind Resinカラム(タカラバイオ社製)、および、野生型FDHを担持したNi-NTA His・Bind Resinカラムにそれぞれ通液した。反応温度は25℃とし、通液速度は0.1mM/分(線流速7.9cm/h)とした。当該カラムを通過した反応済液の340nmの吸光度変化を測定し、通液前の酵素活性の反応速度を1としたときの相対活性の変化の比較を図12に示す。反応温度を30℃とした場合も同様の実験を行なった。
この結果、反応温度を25℃とした場合、野生型FDHの酵素活性の半減期は約500時間程度であるのに対して、D128Gでは約800時間程度であった(図12)。また、反応温度を30℃とした場合、野生型FDHの酵素活性が80%になるのは約175時間程度であるのに対して、D128Gでは約450時間程度であった(図13)。
これより、本発明の改変型FDHは、野生型FDHに比べて長期に亘って安定性に優れているものと認められた。
変異型酵素と野生型酵素について酵素反応速度論的な解析を行った。
50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、1mM NAD+、0〜4mM HCHOを含む活性測定液中に酵素液(0.5mg/mL)を加え、酵素反応の初期速度のラインウェーバーバークプロットにより、酵素反応の速度定数(Kcat値及びKm値)を求めた。その結果を表2に示す。
以上より、G110DのKm値が小さく基質親和性が高いこと以外は、本発明の改変型FDHは野生型FDHとほぼ同様であることが判明した。
基質としてアルデヒド類とアルコール類の選択性について調べた。
50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.6)、1mM NAD+、2mM各基質を含む活性測定液中に等量の酵素液(0.5mg/mL)を加え、各アルデヒド類とアルコール類を基質としたときの酵素活性の反応速度を1としたときの相対活性について、野生型FDHおよびD128Gを比較したものを表3に示す。
Claims (10)
- 野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列中の以下の(1)及び(2)の少なくとも1つの置換によって得られる改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素であって、前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて安定性が向上している改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
(1)前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の第110位に対応する位置におけるグリシンのアスパラギン酸への置換
(2)前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の第128位に対応する位置におけるアスパラギン酸のグリシンへの置換 - 野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列中の以下の(1)又は(2)の置換によって得られる改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素であって、前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて安定性が向上している請求項1に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
(1)前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の第110位に対応する位置におけるグリシンのアスパラギン酸への置換
(2)前記野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の第128位に対応する位置におけるアスパラギン酸のグリシンへの置換 - 野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する請求項1又は2に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素。
- 請求項1〜3の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素をコードする単離核酸分子。
- 請求項4に記載の単離核酸分子を含有する組換えベクター。
- 請求項5に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
- 請求項6に記載の形質転換体を培養する工程、及び得られた培養物からホルムアルデヒドの脱水素反応を触媒する能力を有するタンパク質を採取する工程を含む、野生型ホルムアルデヒド脱水素酵素に比べて安定性が向上している改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素の製造方法。
- 請求項1〜3の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素の触媒活性を利用してアルデヒド化合物を検出する、アルデヒド化合物の検出方法。
- 請求項1〜3の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素を電極上に固定化した酵素センサー。
- 請求項1〜3の何れか一項に記載の改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素を含み、前記改変型ホルムアルデヒド脱水素酵素のアルデヒド化合物の酸化反応に伴って生成する電子を受け取るアノード極、酸素に電子を伝達することのできる触媒および酵素のいずれかを保持するカソード極を備え、前記アノード極と前記カソード極とが電気的に結合されている燃料電池。
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